元人工フラクトライト達と二人の死神物語   作:り け ん

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二話連続更新となっております。
前話の見逃しにご注意ください。


第五十一.五話 Observation from the Soul Society

 

「フン…なんとも良い時に見学に来たものだネ。何か蟲の知らせでも受け取ったのかネ?」

 

「いやいや…ちょっと般若になっちゃった七緒ちゃんから逃げててね。ちょっと休憩がてら、寄っていくつもりなだけだったんだけど…」

 

 

 

「…驚いたね。いやあ、何から驚いていいか分からないくらいだよ。これは…」

 

 

護廷十三隊総隊長 京楽春水は被ってる笠を手で動かしながら、改めて画面を注視する。

その画面とは、精巧 正確に現世の空を映したもの。無数の監視霊蟲を用いた技術開発局(このばしょ)における数多の機能の一つではあるが…その空には…白い雲以外にも、特に目を引く”人物”がいた。

 

 

四人の人物。

そのうち二人は、京楽にとっても知った顔の霊術院生。京楽が送り出したも同然の二人だが…どうやら、見る限りでは気絶しているようだった。

 

そして、その気絶した二人をそれぞれ抱えて空に浮いている青年二人。

京楽には見覚えのない姿。だが…その顔は、見覚えのある顔にあまりにもそっくり…いや、同じだった。

 

 

 

「…中々に信じ難いけど、あれは…”斬魄刀の具象化”……」

 

「オヤ、映像越しでもよく分かるものだネ。流石、総隊長殿というワケだ」

 

「総隊長、っていうのは関係ないと思うけど…いや、ちょっと色々と思うところがあってね」

 

 

技術開発局(このばしょ)の主 十二番隊隊長 涅マユリの軽口を平然と受け流しつつも、頭に思い浮かぶのは…霊術院生 ユージオが放ったあの言葉。

 

 

 

───僕らは……”具象化” “屈服”…そして、”卍解”までの習得を、既に見据えている段階にいます。

 

 

 

「疑ってた訳じゃないけど…やっぱり、驚くね。斬魄刀が具象化していることも…具象化した斬魄刀が持ち主を助けているのも……」

 

「ちなみに言っておくが、”卍解”に至っている様子はないヨ。()()()()における霊圧計測は抜かりなく行なっていたが、それらしい霊圧変化は一切見られなかったからネ」

 

「…”屈服”していない斬魄刀が、あそこまで表立って持ち主を助ける……か。それもまた、驚きだし…ちょっぴり、嫉妬しちゃうね、全く」

 

 

一瞬、自らの斬魄刀のことが脳裏をよぎったのちに、京楽は頭を切り替えた。

 

 

「…さて。次の驚きに行こうか。涅隊長。この映像、少し巻き戻せるかな?」

 

「ヤレヤレ…軽薄な総隊長殿の好奇心を満たすのも苦労するネ。猫のように、その好奇心に殺されないようにすることだネ」

 

 

 

呆れたように首を振りつつも、涅隊長は手元のツマミを右側に回す。

それに伴い、リアルタイムのように流れていた画面の映像が早回しとなって戻っていく。

 

 

その手の動きが止まった時、映像には…さらに姿が増えていた。

 

 

火炎に身を焼かれながらも、咆哮を止めない虚の姿。

そして…映像で背のみ映る、人間の姿。

 

 

 

「あの人間の姿が現れたのは、およそ4.6秒。その微かな時間の間に、その人間はあの奇妙な虚を”回収”し、そして…消えた」

 

「消えた…か。その言い回しだと、技術開発局の霊圧感知網すらすり抜けられたってことだね」

 

「そうじゃなければ、あんな存在はとうに我々技術開発局の認識下にあって然るべきだヨ」

 

 

 

 

 

「あのような……()()()()()()()()()()()なんて…ネ」

 

 

 

 

 

その観測事実を語る涅隊長の顔は…奇妙なほどに大きな笑みが浮かんでいた。

対して、京楽総隊長の表情はあまり晴れない。

 

 

「技術開発局の監視を常にすり抜ける隠蔽能力。虚のような魂魄までも改造する能力。数秒で魂魄を回収、監視網にもかからず逃走する力…。断片的に見ただけでも、随分の厄介な力の持ち主のようだね。ただ、敵や味方という括りにはいなさそうでもある、か」

 

「大方、手に入れた能力を弄くり回して遊ぶ童と言ったところだろうネ。しかし、単なる無知という訳でもなさそうだ。我々のような上位的存在を具体的に、もしくは抽象的にでも認識していなければ、ああしてコソコソ隠れながら遊びに興じてはいないだろうからネ…面白い」

 

 

ますます口角が上がり、笑みを深める涅隊長はまるで後ろで映像を注視する京楽総隊長に流し目を送る。

 

 

「我々のように、特殊な許可を得ていない者が魂魄に手を加えて改造することは極刑に値する重罪…その法文には、死神や人間の区別もなかった…そうだネ? 総隊長殿」

 

「…確かに。涅隊長の言う通りだよ。まあ、仮にその”罪人”が自分のやっていることに自覚性がなかったとしたら、酌量の余地もあったかもしれないけど……件の完現術者は、ちょっとその可能性は薄そうに見えるね」

 

「その通り。良心も持たず、魂を弄くり回して遊びに耽る”罪人”には、今すぐにでも然るべき部隊を発見して拘束するべきだと、私は是非総隊長殿に進言したいものだネ」

 

「………」

 

 

涅隊長の意見は、確かに的を射ていた。今まで尸魂界が感知していなかった完現術者(フルブリンガー)は、重大な法を犯している。今すぐにでも捕縛部隊を編成すべしと言う進言は一理ある。

無論、涅隊長の真の意図は別にあることは京楽も大体察している。仮に捕縛に成功したら、おそらくその完現術者が向かう先は死刑台ではなく、技術開発局の解剖室だろう。完現術者の罪をダシにして、解剖 解析を行いたいというのが涅隊長の本音と言える。

 

死刑になるのが楽か。それとも実験体になる方が楽か。京楽には判断のつくことではない。それに…今彼が考えているのは、捕縛部隊の派遣ではなかった。

 

 

「涅隊長。しばらくの間、現世の監視を強化しつつ、その完現術者の足跡を追っていってくれないかい?」

 

「…つまりそれは、『現状維持』という判断かネ?」

 

「正直ね、あまり人手は割けないんだ。霊術院の工事も始まったし、各地の復興も進んでいる中だとどうしても…ね。ただでさえ、現世駐在任務は担当が複数地区を回らなきゃいけないくらい、切羽詰まってるんだ」

 

 

 

「それに、部隊を派遣しなくたって…あの地区には、担当の死神見習い達が、いるじゃないの」

 

 

 

今度は、京楽が優しい笑みを浮かべる番だった。

一方の涅マユリは、少し怪訝そうな表情。

 

 

 

「今まさに、無様に虚にやられていったあの死神見習い達に、完現術者の捕縛を任せるというのかネ?」

 

「もちろん…今のままでは難しいかもね。だけど、ちょうど良い頃合いなんだ。ここに寄る前に、現世の浦原店長に様子を見に行って欲しいと、個人的に頼んでおいたからね。まあ…そういう業務外のことしてたから、七緒ちゃんがちょっと般若になっちゃった訳だけど」

 

 

軽口のように話す京楽。その言葉のある一語を聞いた瞬間、涅隊長の眉が一瞬、不機嫌そうに蠢いた。敏感にもそれを察した京楽は、慌てたように言葉を取り繕う。

 

 

「まあまあ…あくまで店長は一時の助けだよ。彼だって色々忙しいだろうし。それに…僕は霊術院生(あのこたち)の力、結構信頼していてね。…涅隊長は、どうか分からないけど」

 

「……フン」

 

 

不服そうに鼻を鳴らした涅隊長は、徐に操作板を弄って映像を消した……と、思いきや、代わりに別のものが新たな映像として映し出される。

 

 

「まあ良いだろう。総隊長殿のご判断ならば、いざという時の責任も全部そちらに差し上げるとして……現世の件とは”別件”を、ご報告させていただくとするかネ」

 

「…別件、かい?」

 

 

コテン、と首を傾げる京楽に対しマユリは背を向けたまま淡々と語る。

 

 

「時に、総隊長殿。本日、十一番隊の隊長格は何やら瀞霊廷外での任務を与えられたと小耳に挟んだんだがネ」

 

「ああ。流魂街の比較的奥の地区の警邏に行ってたはずだけど…珍しいね。涅隊長のことだから、『更木隊長のことなんぞ小耳にも挟みたくないネ』なんて感じかと思ってたんだけど」

 

「…随分と的確な読心術をお持ちのようだ。もちろん、総隊長殿の言う通りだとも。しかし…あの粗野な獣のお陰で技術開発局に備えつけられた警告システムが喧しくて仕方ないのだヨ。スイッチはもう切ってしまったが、再起動のために是非とも総隊長殿にはこの事態の収拾を要請したいネ」

 

「…警告システムが作動するほどの事態……それに、更木隊長が関わってるって?」

 

「そんな険しい顔しなくても、事態の内容は至極単純に過ぎんヨ」

 

 

涅マユリが指し示す画面。網目状の解析レーダーを示す中で、二つの波紋の反応が激しく波打っている様子が如実に示されていた。

 

 

「『更木隊長が何者かと戦っている』…それだけだ」

 

「戦っている……!? しかも、その言い方…虚の群れとか、そういう意味合いじゃなさそうだね」

 

「もちろん。そもそも、並の虚がどれだけ集ったとしても、更木の前では『戦い』としての体を成すまい。…そうだネ。より正確に言い直すならば、『更木隊長と、一対一で戦っている何者かがいる』……これで、多少は動いてくれる気になったかネ?」

 

 

 

「…報告感謝するよ、涅隊長。これは…七緒ちゃんを般若にさせっぱなしにさせてる場合じゃないみたいだね」

 

 

 

微かに険しい表情に変わった京楽は傘を被り直すと、即座に足先を変えて瞬歩で技術開発局から立ち去った。背後から京楽総隊長の霊圧が消えたことを確認した涅マユリは、モニターの電源を静かに落とした。

 

 

それと同時に、無言で手元のパネルを操作することで、現世を巡回する一部の監視霊虫に司令電波を送信する。現世の西東京市の一区画を、集中的に巡回するようにという司令を。

 

 

 

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