元人工フラクトライト達と二人の死神物語   作:り け ん

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本日は二話連続更新です。
前話の見逃しにご注意下さい。

戦闘描写はやはり難産になってしまいました…。


第六十二話 Out of time

ガチャリと、ベルクーリの手元で刀が…いや、”剣”が鳴る。

少し黒ずんだ肉厚の刀身を持つ両刃剣。華美な装飾も派手な形状もなく、ただただ愚直なまでに大きく真っ直ぐな剣。

 

それは紛れもなく”始解”。更木剣八が見抜いた、ベルクーリが隠していた力…奥の手。

 

しかし、流魂街の住人が死神の斬魄刀を奪い我が物とするならまだしも、それを用いて始解をするなど全くもってあり得ない事象と言わざるを得ない。自己化に数年、そこから対話と同調を何年、場合によっては何十年も経ることでようやく成すと言われる始解を…。

 

だが、今の更木剣八にとって、そのようなことはどうでもいい。

ベルクーリが解放した瞬間に、剣八の霊圧の奔流が歪み始める。そう、ベルクーリからブワリと溢れ出る霊圧が拮抗を始めていたのだ。それは、量というよりも鋭く硬い…それこそ”鋼の刃”と形容できるほどの霊圧が、暴力的な霊圧量に対抗しているのだ。

 

いかに剣八が本気を出していない(眼帯を外していない)状態とはいえ、仮にも十一番隊隊長と張り合いができるほどの霊圧。初見で測った限りでは、そこらの住人と変わらないくらいでしかなかったはずなのだが。

 

剣八の口が笑みで歪む。この男はもしかすると、まだ出し切っていない可能性すら…

 

 

 

ふぅ──と口から長い息を吐いたベルクーリが剣をその場でまっすぐに振り上げるのと、剣八が体勢を低くして地を蹴ったのが、ほぼ同時だった。

急接近による下からの斬り上げと、大きく振りかぶってからの斬り下ろし。このまま、二人の剣が衝突する……前に。

 

ベルクーリの剣が、”(くう)を斬った”。

 

更木剣八の隻眼が、微かに見開かれる。

てっきり自身の剣に合わせて振るってくるのかと思いきや、その剣は剣八の剣が届くより前に、なにもない空間を切り裂いたのみ。これでは、無防備なベルクーリの喉元へ剣八の剣が届く。

 

解せねえ。操り損ねた? これで斬って終わりか? つまんねえ。だが…

 

一瞬で剣八の脳裏に思考が渦巻くが、どちらにせよ自らの振るう刀の力や速度などは、今更変えようがない。剣を振り下ろしきって、無防備になったベルクーリへ斬撃が…

 

 

ガ キィイン!!

 

 

「!!?」

 

 

高鳴る金属音。のけぞり、倒れかける”更木剣八の体”。

その無防備になった体に向けて、一歩踏み出したベルクーリの斬撃が、入った!

 

 

鮮血が舞う。

腹のサラシが赤く滲み、微かな血溜まりが地にできあがる。剣八は倒れかけた体のまま咄嗟に下がって体勢を戻すと、腹から胸にかけてついた斬り傷を、無意識に指でなぞる。そんな様子を見て、ベルクーリは自らの剣を構え直し、呟く。

 

 

「結構、強く入ったかと思ったがな…その程度とは、驚きだ」

 

「ハッ! 驚いてんのはこっちだぜ! こいつァ、どういうこった?」

 

 

空振りしたと思った斬撃が、剣八の刀を弾いた。それにより体勢が崩れた剣八の体に、べルクーリの一撃が叩き込まれたのだ。剣八はその不可解な現象に顔を顰め、ベルクーリは手応えの割に傷が浅いことに少なからず驚きを感じていた。

 

 

「実際に”この世界で”使ってみるのは初めてだったが……今のは、俺の奥の手ってヤツだ。さっきの一振り…ありゃ、ただ空振りしただけじゃねえ。言わば…」

 

「ま、どうでもいいこった!! そら、続きを闘ろうじゃねえか!!」

 

 

ベルクーリの言葉を遮るように、剣八は地を蹴った。どうやら、闘いへの期待と興奮が、疑問を全て棚に上げてしまったようだ。

急接近した剣八は、今度は跳躍してからの叩きおろしの斬撃。それに対し、ベルクーリは横薙ぎの斬撃…それはまた、空を斬ったのみ。だが、また剣八の刀がベルクーリに到達する前に──()()()()()()()()()()()()()()()──大きな金属音と共に弾かれる。

だが、剣八はそれをある程度は見込んでいたのか、衝撃で空中に浮いた一瞬で体を傾け体勢を修正する。追撃のために大剣を構えていたベルクーリと剣八の視線が交錯する。

 

二人の刀と剣が、振るわれる。だが、二人の刃がぶつかることはなかった。

ベルクーリは直前になって体を突如引きつつ、剣を振るうその軌道は剣八には合わせずあえてズラし…それよりも”下”へ。

その振るわれた剣の軌道が剣八の腹部に触れた瞬間に……またしても、その体に切り傷が刻まれ、血飛沫が飛ぶ。

 

だが…

 

 

「ははァ!!!」

 

「っ…!?」

 

 

腹部に二度目の斬り傷を受けても、剣八の勢いは全く留まることはない。

剣八の刀がそのまま叩きつけるように振り下ろされる。まるで血飛沫をかき消すように、二人の間に舞う砂埃。ベルクーリが体を引いていたため、刀は微かにその体に届かず、地面を穿つだけになった。

 

さらにベルクーリは地を蹴って距離を取る。すかさず剣八も刀を地から引き抜き、距離をとったベルクーリに向けて駆ける。対し、ベルクーリはドンッと大きく足を地につけ踏み止まると、一閃。何もない空間を、斬る。

 

そこへ向かってくる剣八は、またしてもその軌道に体が触れる…より前に、剣八もまた刀を振るい、”何もない空間を、斬った”。

 

 

グギィン!!

 

 

剣八の刀に、大きな衝撃が響く…が、今までと違いその衝撃に剣八がのけぞることも弾かれることもなかった。

そのまま刀を振り抜き、剣八の体は一切揺るがなかった。

 

 

(こいつ…! ”空斬(カラギリ)”を、力づくで打ち消しやがったのか!)

 

 

ベルクーリの瞳に、微かな驚愕の色が浮かぶ。

下から滑り込むような斬り上げに、今度ばかりはベルクーリも空中を斬る間もなく、その刀を直接剣で受け止める他ない。

 

甲高い金属音。刃同士が鈍い音を立てて拮抗する鍔迫り合いの中、剣八の口角が上がる。

 

 

「はッ…!()()()()()斬魄刀とはなあ!なかなか面白えじゃねえか!」

 

「…まあ、間違いじゃねえが……お気に召したようなら、何よりだぜ…!」

 

 

半ば冗談も混ぜながら剣八の言葉に応えるベルクーリだが、その額には脂汗が滲んでいた。

 

 

ベルクーリの大剣…”時穿剣”は、”未来を斬る剣”だと称されていた。

本来、剣で相手を斬るためには、狙う相手の”場所”に、”時間”を…タイミングを合わせて剣を振るわなければ、相手は斬れない。これは言うまでもない、当たり前の話ではある。しかし、ベルクーリの”時穿剣”は、その当たり前を覆す。

 

彼が振るう斬撃の軌道には、その斬撃の威力が”残留する”。

例え空中で空振りしたとしても、その軌跡に何かが触れようものなら、それは残留した斬撃に斬り裂かれる。つまり、”時間”をあわせる必要がなくなるのだ。それが、”未来を斬る一撃…空斬(カラギリ)

 

剣八は過去、”空気と同化する相手”に対して”空気をぶった斬る”ことで戦ったこともあるため、空気を斬る斬魄刀として連想して称したが、斬撃が空中に滞留するという意味では間違ってはないと言える。だが…自らの剣を”ザンパクトウ”と称してきたことには、ベルクーリは違和感を覚えたが。

 

この力を解放してから、剣八の刀を二度弾き、また二度の斬り傷を刻み込んだ。だが…今のは。明らかに、ベルクーリの空斬(カラギリ)が、相手の振るう斬撃に完全に打ち消された。弾くことも防ぐことすらままならなかったのだ。

そして、今この鍔迫り合いでも…!

 

 

「ぐ……おおおお!!!」

 

 

気合の咆哮が、ベルクーリの口から放たれる。それによる力づくで、剣八の刀を押し返す。一歩、剣八の体が後退する。

 

 

ここだ。

 

 

相手が一歩下がった分、ベルクーリは渾身の力を込めて一歩踏み出し、距離を詰める。下から構えた時穿剣に熱が宿り、空気が灼ける。

この世界に来てからは、正直()()()()()()()()()()()()()()全力が出せているとはいい難い。意図して力を調整していると思しき眼の前の男…剣八とは真逆に感じる。

だが…それでも。ここにしかない機会を前に、全力を振るわない理由はない。奴が更なる力を出そうものなら、それが自分の最期となるかもしれない。

 

その前に、この一撃を叩き込む。

 

今まで二撃は叩き込んだが、大きなキズにはなっていない。人体というより、岩壁を斬っているかのようだった。ならば…岩壁を叩き割るつもりで、振るうのみ!

 

 

「ぬぅん!!!」

 

 

大地が、唸る。

大気が、膨張する。

 

 

下段からの斬り上げ。今までで一番の熱と心意、そして”霊圧”が籠もった一撃。

()()()()()出せる、全力を。

 

それはまともに喰らえば更木剣八と言えども、今まで通り平然とはしていられないほどの傷を負うものだった。だが…剣八は、無防備にその渾身の一撃を受けることはなかった。

刀を弾かれた際に、咄嗟に手首を無理やりに曲げることで、ベルクーリの斬撃の間に自らの刀を挟んで咄嗟の防御を行っていた。

 

とはいえ、咄嗟の防御行動である。ベルクーリの空斬(カラギリ)を打ち消せる剣八の力を存分に発揮したわけではない。間に割り込んだ刀は胸部への致命的な一撃を防ぐに留まり、防ぎきれなかった斬撃は追い打ちのように彼の腹部に更なる傷を叩き込むのと同時に……

 

 

剣から放たれた勢い余る斬撃は剣八の顔に…右目の眼帯を、切り裂いた。

晒された右目は…無傷。

 

いや、それどころか……!

 

 

真っ二つになった眼帯が、ゆっくりと舞う。

しかし、次の瞬間に落ち葉のように落下していた眼帯が吹き飛ばされた。

 

今までの、()()()()霊圧の嵐によって。

悪魔にも例えられそうな、更木剣八の笑みと、全てを巻き上げるような膨大な霊圧。

 

 

ベルクーリの瞳に、”死”のイメージが刻み込まれる。

そう…眼帯が外れた途端に、今までの加減や手抜きなど灰燼に帰すほどの、この威圧感。

 

この男からの次の一撃は、”死”だ。

 

 

 

 

 

 

 

絶望的な”死”を前にした時。

“心意”を持つ者に訪れる未来は、二つ。

 

 

”死”の絶望に心を犯され、”負”の心意によって自らの力も底まで落ち込むか。

そうでなければ……

 

 

 

 

”死”の絶望を跳ね除けんと、()()()()”正”の心意が覚醒するか。

そして、ベルクーリの場合は……当然、後者。

ただし……

 

 

「 ”星咬(ホシガミ)”!!」

 

 

 

窮地に覚醒したのは、ベルクーリだけではなかった。

時穿剣とは違う名で呼ばれた大剣に、青白い光が宿る。

 

 

次の瞬間、ベルクーリの剣からこの一帯を覆い尽くすほどの、巨大な青白い炎が放たれた。

 

 

その膨大な炎に飲み込まれる直前、更木剣八は幻視した。

こちらを飲み込まんとするほど巨大な口蓋を晒して睨みつける、大龍の頭部を。

 

 

*

*

*

 

 

「っく……! ぐ……ハァ………ハァ……」

 

 

燃え盛る火炎に更木剣八が飲み込まれた後、後退して一応の距離を取った途端に膝をつき、荒い息を吐いた。

大剣も地に突き刺し、額には脂汗が浮かぶ。

 

 

「……く…ここまで、勝手が違うとはな……。もうちっと、余裕もっていけるとは思ったんだがな……」

 

 

 

 

 

(だーから言ったじゃない。私の言うことも無視するし、星咬も簡単に力貸しちゃうし、自業自得よ)

 

 

ベルクーリが独りごちていると、頭の内に女性の声が反響する。

艶めかしさを感じられる、ベルクーリにとっては…幾年もの思い出を経た声。

 

 

(この世界じゃ、”天命”の概念は存在しない。物理的な損傷はともかく、技を使うことによる剣の消耗のほとんどは全て貴方に返ってくる…ただでさえ、この世界の貴方は()()()()()()()()の体には全く追いつけてないっていうのに、武装完全支配術に星咬まで呼んじゃって…無様に倒れてないのが不思議なくらいね)

 

「ハッ…そりゃ、済まなかったな…だが、済まないついでといっちゃなんだが……」

 

 

──最期まで、付き合っちゃくれねえか。

 

 

ベルクーリが頭の中の女性の声にそう応えた瞬間……

 

 

前方で燃え盛っていた青い炎が縦に真っ二つに分断された。

まるで両開きの扉のように炎が分かたれ、その中央よりゆったりと歩み寄ってくる巨影。

 

 

 

「ハ……ハハァッ……いいじゃねえか…! もうちっと体を暖めておきてえと思っていたところだったからなァ!!」

 

 

 

焼けた皮膚と腹部から微かに流れる血が混ざり合い、所々に黒ずみが身に浮かんでいる状態だ。決して今の炎を受けて無傷とは言えないが…本人は意に介さないように、刀を肩にかけて一歩一歩を踏みしめるように、ゆったりと歩いてくる。

 

対してベルクーリは、膝をついていた体勢から一気に起き上がり、地に突き刺さった時穿剣を抜き放った。

 

 

(…最期、ねえ。せっかく面白そうな世界にまで来たっていうのに、ここで死んで終わりじゃ、つまらないじゃないのよ)

 

「ああ…俺も、そう思うぜ。同じ気持ちなら……”アンタが持ってった力”、返しちゃくれねえか」

 

(んーん……どうしようかしらねえ……)

 

 

はぐらかすような、もったいぶらせるような言い方の声。

そんな会話を繰り返してる間にも、少しずつ剣八との距離が詰まっていく。

 

 

三度も斬撃をくらい、強大な火炎を浴びた剣八に対し、傷の一つも負っていないベルクーリ。しかし、追い詰められているのはベルクーリの方であった。

一度も斬られなかったなどと、何の気休めにもならない。なぜなら、剣八に一度でも斬られていたならばそこで勝負はついていただろうからだ。

そして、それだけの傷を負いながら意気軒昂、未だ興奮の笑みを浮かべる剣八に対し、ベルクーリの消耗は激しかった。剣八を前に毅然と剣を構えていたが…肩で息をしつつ、体全体に鉛のような重みがのしかかっている。

 

決して、自らの技や剣が通じていない訳ではない。だが、この世界における自分の地力と相手との差が、歴然。まだ相手が底を出していない段階で、自分に限界が近づいている。

 

残りの体力で放つ空斬で、この相手を沈められるとは思えない。

この闘いに勝つためには……ベルクーリに残された最後の奥の手。

可能性があるとすれば、その一発だけ。

 

だが、その空斬とも違う奥の手を放つために必要な要素…”時間”と”許可”が、この上ない難点であった。

“時間”はともかく、”許可”は…。

 

本来ベルクーリの力であった奥の手を、艶めかしい頭の中の女性の声がはぐらかすようにして”許可”を出さないのは単なるイジワル──だけではないだろう。それはその力を奮った後に、ベルクーリのこの体が迎える”末路”を考えてのこと…。

 

 

対して、更木剣八は。

”時間”も”許可”も必要ない……自らの全力を出さんと、斬魄刀を構える。

熱い火炎で興奮が呼び起こされた剣八に、もはや力を調整しようという神経は残っていなかった。

 

 

「ハハァッ!! 楽しいなあ、ベルクーリ!! 俺もやっと……本気でやれそうだ…!!」

 

「…………!」

 

 

 

 

 

 

 

「──────呑め」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「縛道の八十九! 『九曜縛』!!!」

 

 

この場に、凛とした女性の声が響いた瞬間。

更木剣八とベルクーリ。二人の体に異変が起こる。

 

 

「「!!??」」

 

 

二人の体にそれぞれ、黒の球体が九つずつ。周囲を覆うように浮かび上がった。その途端、二人とも金縛りにあったかのように動きが止まる。

これは鬼道。それも、一度の詠唱で二つ分の効力を発揮する擬似重唱。

この闘いに水をさしてきた何者かを、剣八は目を動かして睨めつけんとする…が。

 

パンパンと、軽薄な拍手の音が響く。

 

 

「はいはーい。お二人さん。そこらへんで、そろそろお開きにしてくれないかな?」

 

「てめえ……何の真似だ?」

 

 

剣八が睨めつけたのは、自身を縛る鬼道を放った者ではなかった。

高度な擬似重唱で二人を縛った女性…伊勢七緒を副官として従え、二人の前に歩み出したのは、尸魂界を護る戦闘部隊、その長。

派手な着物を背に揺らし、この場の熱き闘いの霊圧の中へ平然と歩んでいった。

 

 

護廷十三隊 一番隊 総隊長

京楽 次郎 総蔵佐 春水

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