前話の見逃しにご注意ください。
今年はまともに更新できず申し訳ありません。
生存報告を兼ねた投稿になります。
「………ということで、私たちは尸魂界に戻ってきて…今に至るわけです」
「確かに、僕たちは現世でキリトさんとアリスさんと出会いました。ですが、話すことはできなかったので…アンダーワールドのことは、こうしてベルクーリさんのお話を聞くまで何も知らず…」
「ううむ……そうか」
説明は、主に雄次郎と愛梨が行った。
かつて二人がユージオとアリスに教えたような*1”三界”という世界の存在。
そして、雄次郎とユージオは…そのうちの一つ、”現世”という世界でキリトとアリス・シンセシス・サーティに出会ったこと。
「ベルクーリさんの…もとい、アスナさんの話に出てきた”リアルワールド”というのは…”現世”でほぼ間違いはないかと」
「そうか…嬢ちゃんも……少年も、無事に…リアルワールドに、か」
腕を組み、顔を難しくしていたベルクーリの瞳が優しく緩み……少し潤んだような、気がした。
「そうだな…なら、大丈夫だろう。人界の…アンダーワールドのことは…きっと、な」
ふぅーと大きな息を吐き、ベルクーリがどっしりとソファーに座り直し……しばらく、無音の空間が続いた。雄次郎は、ベルクーリは彼なりに気持ちの整理をしているのだろうと思う。おそらくは…彼がずっと、心残りとして抱え続けていたであろうことなのだから。
だが、心の整理と同時に…彼は自分を”納得”させようとしているようにも…見えた。
「……だが、まだ分かんねえことがある。そもそも、なせ俺たちがこの世界にいるか、だ」
その問題提起に、四人はピクッと体を震わせた。そう…その問題は、いくら考えても答えが出ない……身も蓋もない言い方をすれば、今まで目を逸らしていた問題でもある。
「ここは、現世……リアルワールドの人間が死んだ際に行き着く世界だろう? 俺たちのような存在がここにいる事自体が異常…そうだろ?」
「…はい。僕とアリスは、奇跡的に再会できましたが…僕らと同じ人界──アンダーワールドから来たと思える人は、今日ベルクーリさんに会うまで、他に一人も…」
「あっ、でも流魂街は広いので…他に、その、アンダーワールドで亡くなった人が来ている可能性はあると思います! ただ、出会えてないだけで…」
ベルクーリの確認の問いに、ユージオは悩ましげに答え、雄次郎が慌てたようにフォローの言葉を差し込む。だが、仮に雄次郎の言う通り他にこの世界に来ているアンダーワールドの人間がいたとして、「それがなぜなのか?」という疑問は晴れないままだ。
「そうか…確かに、総隊長さんに聞いた感じでは、”アンダーワールド”や”リアルワールド”の言葉どころか、俺たちの世界のことを知っている人間自体がいないように思えた。となると…可能性があるとすれば…だな」
可能性。
そう、尸魂界の人間で分からないのであれば……やはり。
その時、雄次郎に一つの考えが思い浮かんだ。
考えついた瞬間、自然と口に出てしまう。
「あの、ベル…」
「そうだわ! ねえベルクーリさん! 私達と一緒に現世へ行かない!?」
「…?」
しかし、なんということだろうか。
まさか愛梨に言葉を先越されるどころか…それが自分が言おうとしたことと全く一緒だったとは。
「私達、もう一度現世へ行く予定なんです! ベルクーリさんがいてくれれば心強いですし…現世でもう一度調べれば…分かるかもしれないです! アンダーワールドのことも…!」
「…ほう」
その提案まで、細部こそ違えと雄次郎が言おうとしていたこととほぼ一緒。
四頭の虚の脅威がある以上、自分たちより強いであろうベルクーリは心強い味方である。それに、二つの世界の事を知るほぼ唯一の人物であり、アンダーワールドに来たというリアルワールドの使者…アスナの事を知るのも彼だけだ。
共にアンダーワールドの調査…決して嘘は言ってないが、それだけではない。雄次郎と愛梨は、現世の人間…つまり、キリトさんとの直の接触を計画していた。いざという時は、ベルクーリの知る”アスナ”という人物のことも手かがりとしようとも。
そのことは、ユージオとアリスには内緒に。十三隊の人にも同じく。現世の人間と接触しようなどという試みは、最終的にバレることがあったとしても、今バレるわけにはいかない。
なので、あたかもこっそり調査するだけという風にこの場では濁したが、ユージオとアリスのいない場所で、「ユージオとアリスの元いた世界を探すプロジェクト」から派生した「キリトさん接触計画」をベルクーリに話すこともいずれは…と院生たちは(偶然にも同じように)考えた。
「それは…無論、俺は構わねえが…お嬢ちゃん達の方で許可は出せるのか?」
「………………なんとかします!」
今一瞬の逡巡とその答えからして、その懸念を考えてはなかったようだ。心配性な雄次郎はむしろそこが第二に気になっていたのだが、流石にそこの優先度までは二人で違ったみたいである。
「見てて! さっそく今のうち京楽総隊長に許可取ってくるから!」
「えちょっと愛梨」
別に見る必要はないと思うが、思い立ったが即実の愛梨は雄次郎が止めるまもなく、部屋を飛び出していった。
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結論から言うと、愛梨の「なんとか」は「なんとか」ならなかった。
ただ、京楽総隊長に断られたわけではなく、話すらできなかったという形だった。
「急な案件処理が複数入ったため、今日はもう総隊長に会うことはできないそうだ」
どことなく残念そうな雨涵と明らかに残念そうに首をガックリ項垂れた愛梨が、約四分後に部屋に戻ってきた。そんな彼女を慰めるように、ベルクーリは言う。
「ま、何も今日じゃなきゃいけないこともあるまい。お前さんら、ちょっと疲れてるんだろ? 今日は休んで、明日仕切り直しってことでいいんじゃないのか?」
そう言われた瞬間、急展開の興奮で忘れていた疲労感が雄次郎と愛梨にどっと襲いかかった。座っていた雄次郎はともかく、愛梨は両膝までついてしまった。
考えてみれば、二人は午前中から現世で土産を霊子変換するために午後三時過ぎまでを費やし、その大量の荷物を抱えて尸魂界に戻ってきて、今に至るのだ。ベルクーリさんとの出会いという衝撃的な事実を前に疲労を忘れていたところに一区切りついたのだから、こうなるのも致し方ないと言える。
お言葉に甘えて、ユージオとアリスは斬魄刀の中に戻り、四人は共に部屋を出た。雄次郎と愛梨は少しふらつきそうなところもあったため雨涵やベルクーリが支えようとした場面もあったが、意固地なところが少しある二人は気丈に断った。
ベルクーリとは、途中で別れた。彼の一時的な居住場所はこの一番隊舎に用意されているとのことだった。おそらくはまた会うだろうことを予感しながらも、残り三人は家に到着。
まだ時間は夕方だし、本当は現世から持ってきた荷物の荷ほどき等の作業もあったのだが、雨涵が迅速に布団を敷いた結果、二人は早めに床につくことになった。
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その日の夜。
大半の死神たちすら床につく時間帯。
「散歩がてら…とも思っていたが、思いの外早く会えたな」
「「…!」」
その言葉が発せられたのは、崩壊しているものの再建作業が始まりつつある真央霊術院。その場所で、ベルクーリ・ハーレンツは上を見上げながら呟いた。
距離も遠いため、”話しかけた”とはいえない言葉だったが、彼の視線の先にいた二人は…ハッとしたようにそちらを向いた。
ベルクーリは、三階相当の高さにいるその二人の位置まで、積み上がった瓦礫を足場に数回のジャンプで到達すると二人と隣に座り込み…夜空を見上げた。
「……月が、綺麗な場所だな」
「でしょう? 私もお気に入りなんです、ここ」
ベルクーリの言葉に、傍らに座っていたアリスが胸を張る。
そして、更にその隣にいたユージオが、体を前に倒してベルクーリの方を向く。
「雄次郎達…ではなく、僕たちに……?」
「おう。もっとゆっくり、話したいと思ってな。…例えば……村のこととかな」
村。
それは、ユージオとアリスの故郷であり……ベルクーリの故郷でもある、ルーリッドの村。
ただ、二人と一人の間の故郷には…とても大きな隔たりがある。
「今、考えると……私達、おとぎ話の英雄と…こうして話ができてるなんて、夢みたいだわ。ま、この世界に来てから、夢のようなことばかり起きちゃってるけど」
うっとりしたような口調でいうアリスにベルクーリは苦笑い。
「全くだな。だが……俺は”英雄”なんて呼ばれるほどのもんじゃねえさ。俺は……取り返しのつかないことにまで手を染めちまった」
「…え?」
「……」
ベルクーリの言う、「取り返しのつかないこと」
アリスは、聞いてもおらず知らなかったことだが…ユージオは、それが何を示しているのか、分かっていた。かつてセントラル・カセドラルで戦ったときには、本人すら分かっていなかった。だが、今のベルクーリには記憶がある。”元”整合騎士長 ベルクーリ・シンセシス・ワンのものだけではなく、ベルクーリ・ハーレンツとしての記憶まで。
「叶うことなら…弔いに、墓の一つでも建てたいところだが……な」
「………」
分かっている。
本人は、記憶がなかった。だから、最高司祭の命令に従った。
仕方のないことだと分かっている。それでも…彼は苦悩しているのだろう。おそらく、記憶をこの世界で取り戻してから、ずっと。
一方でまだ真実を知らないながらも、落ち込んだ空気になりそうなことを予感したアリスは、手を上げてベルクーリに問いかけを始める。
「あ、あの! そういえばなんですけど! 聞いてもいいですか!」
「…おう。なんだ?」
アリスの方を向いたベルクーリ。対して、アリスは顎に手を当てて考えているようだ。
「私達、この世界に来た時には記憶を失ってて…だから愛梨や雄次郎が生まれたんですけど…ベルクーリおじさんは、どうだったんですか?」
「ああ、お嬢ちゃん達はそうだったみたいだな…。だが、俺はそうはならなかったな。それどころか、整合騎士になってから封じられてた記憶まで、戻ってた」
「えーっ? なんでですか?」
『そんなの、私がいたからに決まってるじゃない』
「「!!??」」
突如、この場に凛と響いた女性の声。
そして、その声に二人は…体の芯まで凍るような感覚が走る。
なぜなら…その声には、聞き覚えが、ある。
この世界に来てからの穏やかな日々を過ごしていても、忘れられなかった、声。
「…アンタ、せめて俺以外の人前に出る時くらいは服着てくれ。この世界じゃ服を着ない理由も何もないんだろう?」
「あら。逆に言えば、わざわざ服を着る理由もないのよ? ちょうど、下で羽を伸ばして嬉しそうにしている”星咬”と同じように…ね」
その女性の声は先程の幻に響くような声とは違い、今度はユージオとアリス…座る二人の真後ろからはっきりと聞こえるようになった。ベルクーリの呆れたような声に対しても、平然と答えるような声。
ユージオとアリスは、振り向く気になれなかった。振り向かずとも誰か分かると同時に…正直、信じられない気持ちが強かったからだ。
加えて……二人の眼は、眼下に釘付けになっていた。
彼らのいる三階から見下ろす地上には……この瀞霊廷、いや尸魂界に絶対存在するはずのない生き物。
銀色の大きな体躯。広げた翼。ぐっと伸ばした長い首。微かに開けた口から、青い火が漏れる。
ベルクーリの記憶・思い出から生み出された女性。
自分がベルクーリ・シンセシス・ワンとしてただ一人仕えた、ワガママなお姫様。
その生涯の中で、幾多の戦場を共に駆け抜け、友であり相棒でもある”飛竜”。
ベルクーリと共に流れ着き、今や彼の斬魄刀”時穿剣”に宿る女性と飛竜。
*
*
*
同時刻。
「全く…夜更かしはよくないぞ、二人共」
ゆっくり目を開き、布団の中でごろりと体を動かして横を見る雨涵。そこには、並べた布団の枕元にランプを光らせ、顔を突き合わせて話す雄次郎と愛梨がいた。
「いやあ…早めに寝ちゃったから…つい、こんな時間に目が覚めちゃって」
「それに、あんな話を聞いた後じゃ……寝れないわよね」
お互い、苦笑いな雄次郎と愛梨。小さなため息をついて、雨涵もまた枕ごと体を寄せてきた。
「ベルクーリさんの話…もっとじっくり聞きたいくらい興味深かったけど…」
「重要なのは、『アンダーワールド』と『リアルワールド』…つまり、現世の人間から見た”人界”の情報……よね」
「『リアルワールド』=『現世』だとするならば…ユージオさん達の故郷に、私達が赴くこともできるかもしれない…実際、『アスナ』という人が、やってきたというのだからな」
霊術院生三人による、突発的な布団会議が始まる。
「でも、僕らよりも本当に世界へ行くべきなのは…兄さん達だ」
「無論、そうだな…だが、希望は見えた。あの二人が世界と再会できる希望が」
「そうね…本当なら、明日にでもまた現世に行きたいところだけど…」
少しばかり悩ましげな愛梨は、ちらりと隣に視線を流す。
視線を受けた雄次郎は小さく頷く。
「その前に…僕らは、強くならないといけない」
「二度と、あんなことにならないように。現世を護れるように」
「僕らは…真央霊術院生なんだから」
「なら…現世に行く前に修行しなきゃ」
「京楽総隊長に話して、早速…明日からでも」
「…無理だけは、しないようにな」
今回のように更新まで間が空いてしまった時のため、登場人物やこれまでの話を振り返るためのキャラ紹介ページを作成するか検討中です。読者としてはどうですか?
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助かるので必ずあった方がいい。
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ないよりはあった方がいいと思う。
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どちらでも構わない。
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どちらかといえばない方がいい。
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邪魔なので絶対ない方がいい。