神星物語 -Masking Load who kill?- 作:陽下 ノクト
『死ぬ覚悟をした人間は強い。』
オーディンと名乗るこの輩との会話の中で、一番気にかかった文章がそれだった。曰く、生に固執しないために、全力で戦うことができるから、と。
確かに自分は、炎に囲まれた時に死を確信した。だが、それだけだ。それ以外に、こいつの興味に触れるようなことをしただろうか。
…思い当たる節はない。あの二人に関してならば、わざわざ仲のよい友人であるだけの俺を利用する必要はないだろう。
歩みを進めながら、そいつが口を開いた。
「自分がなぜこいつに選ばれたのか、そう考えてるね、マスキロクン。」
「勝手に人の思考を口に出すな。分かっているのなら教えろ。」
「だから、さっき言ったじゃないか。ボクはキミを気に入ったんだ。」
予想通りの回答。
「はぐらかすな。何を気に入った。」
「怒んないでよ。このあとゆっくり話すからさ。」
そう言って、そいつは扉を開け放った。
豪勢な装飾が至るところにされており、目がいたくなるような景色。それは書物に記されていた、『宮殿』と言われるものの特徴に酷似していた。
「ようこそ、ヴァルハラへ。どうぞ、好きなところに座って。」
その名前からうっすらと思い起こされるのは、『神話』と呼ばれる外界の書物に記されていた場所。確かそれは死者が集う所であったはずだ。
「ハハッ!オーディンさん、また新しい子つれ来たんスか?飽きないっスね~!」
「また騒がしくなっちゃうね。フフッ!私嫌いじゃないよ!」
声をあげたのは双子とおぼしき、頬の痩けたやせ体型の男と女。俺は自分に向けられたものではないと判断し、席に座る。
「なぁなぁなぁ、君!名前なんて言うんだ…って違う違う!こういうときは自分が先に名乗らなくちゃいけないんだった!」
騒がしい男だ。
「オレっちの名はフロル!フロル・リーシンってんだ!よろしくな!」
「私はキーラ・リーシナ。お兄様ともどもよろしくね。」
「マスキローフカだ。マスキロでいい。」
取り敢えず一段落したころ、そういえば、とオーディンへの用事を思い出した。
「さっきの話の続きだ。忘れたとは言わせない。」
「ハイハイ、ボクがキミを気に入った理由ね。一つはキミの能力だ。他者に変身する力。見たところ、まだうまく使いこなせていないようだけど、それは練習すればなんとかなるだろう。二つ目はボクへの反応だ。最初、キミの目に写らない姿で話しかけた。驚くかな?って思ったんだ。だけど反応は以外と冷静。逆にこっちがビックリしちゃったよ。」
「何が言いたい。」
「急かすね。じゃあ端的に言おう。ボクは暗殺者が欲しかった。キミの能力、素質はそれにぴったりだったんだ。」
「俺に人を殺せと言うのか!?冗談じゃない!」
「それしか無いんだよ。忌むべき存在から人々を救うには。」
シリウスたちのことが一瞬頭をよぎる。そういえばこいつは、「あの子によくないモノが憑いている」と言った。
「よりによって俺にあいつらを手にかけろと言うのか!?ふざけるな!」
「察しがいいね。そうだよ。なぜなら、ボクじゃ彼に近づけない。回りにいるやつらのせいでね。だからキミにしかできない。」
「ならばあの二人にやらせればいいだろう!」
「彼らだって同じさ。なにせ面識がないからね。ボクたちのなかで一番最適任なのはキミだ。」
「…いかなる理由があろうが、俺は殺せない。万一、俺に殺ることを強制するなら、ここで死んでやる。その方がましだ。」
「ダメか。じゃあ仕方ないね、"強行手段"だ。」
そう言うなり、オーディンは立ち上がり理解の出来ない言語を発し始める。俺は見に危機を感じ、咄嗟に防御しようとする。
「無駄だよ、じゃあね。マスキローフカ君。」
その瞬間に、何か重いもので全身を殴られるような痛みを感じて、視界が暗転した。