神星物語 -Masking Load who kill?- 作:陽下 ノクト
真っ暗な部屋の寝台で俺は目覚めた。天井に下がる照明は自分の記憶になく、ここはリンガートではないことを考え付くには時間はかからなかった。
「目覚めたようだね」
「お前は……オーディンか」
満足そうに頷く青年。何かを企んでいそうなその表情は、ただ発する言葉すら意味深長にする魔力が宿っていた。
「申し訳ないけど、ボクはキミの面倒はみれないんだ。忙しくてね。その代わり、世話を頼まれてくれた子がいるから紹介しておくよ」
入っておいでと彼が言うと、奥の扉が開いて黒い服に身を包んだ少女が現れた。歳は自分と同じくらいか少し上に見えるが、こちらに来る歩き方は大人のそれで、どこか無理をしているようにも見える。
「彼女の名は……自分で言った方がいいか。」
「……はい。私の名前はアンベス・シーテといいます。どうか好きなようにお呼びくださいませ」
深々と頭を下げる彼女につられ、自分も会釈を返す。
「まぁ、ここの詳しい話は彼女に聞いてくれ。ボクはこれから下界に降りなきゃならないんだ」
じゃあ任せたよ、と少女の肩に手を置き青年は去る。暫しの沈黙のあと、口を開いたのは彼女の方だった。
「あの……覚えてないんですか……?」
「何を?」
「昨日の……あ、いえ何でもありません……」
しどろもどろになりながら口を閉ざす。彼女の言いかけた昨日で忘れていること……。
たしか昨日はオーディンにここへ連れてこられた。
……何のため?
「一つ質問しても?」
「どうぞ。」
「俺は何でここに連れてこられた?」
「それは……オーディン様の計画の完遂のためです」
彼女は用意していたように淡々と言葉を並べる。曰く、計画を阻止せんとする者を討て、と。
「貴方はあの地から…」
「そこは覚えてる。いきなり出てきたあいつの話に乗ったんだ。」
「いえ、それは……」
「当事者の記憶を疑うのか?」
いいえ。と引き下がる彼女を見てそれ以上の口論を諦める。というか、喧嘩している場合ではない。自分が頼まれた仕事を完遂するにはより多くの鍛練が必要だ。
「どこか、格闘の練習ができる場所はないか?」
それでしたらと、彼女が示したのは館の外の広場。そこでは奴の配下の兵士たちがいつも演習を行っているらしく、昨日いたフロルとキーラとかいう双子もそこにいるらしい。
じゃあ俺もそこに、と言いかけると、彼女は服を指摘した。その服のままだと動きづらいからこれを着ろと出してきたのは、ジーンズとタートルネックのインナーとパーカー……初めて見るものではあるが、着方はだいたいわかる。
衣服を整えた後、俺は少女の案内のもとで彼らのもとへと向かった。