IS×DX~二番目は「背教者」の業を背負う者~ 作:風森斗真
試合開始のブザーが鳴り響いた瞬間、一夏から仕掛けてきた。
「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「ただ突っ込むだけが戦闘じゃないぞ」
そう言いながら、勇人は突っ込んでくる一夏の攻撃をいなし続けた。
実際、一夏の攻撃は実に単調でまっすぐだ。
もっとも、それは一夏の人柄が剣に表れているということでもあるのだが。
しかし、まっすぐなだけでは、単調なだけでは、勝つことはできない。なにより、これは模擬とはいえ、ISでの試合だ。
特定の既定の範囲内であれば、ルール無用の喧嘩と同じ。
ゆえに。
「ほらよっと!」
「くっ!」
一夏の手首に打撃を与え、武器を落とさせるようにしたり。
「そこっ!」
「がっ?!」
柄頭で一夏の顎を殴ることも、許される。
もっとも、印象がいいか悪いかと言われれば、悪いとしか言えないため。
「あいつ……剣士としての誇りはないのかっ?!」
「落ち着け、篠ノ之。これは剣道の試合じゃないんだぞ」
「ですが、織斑先生!!」
「気持ちはわからんでもない……月影の動きは試合のそれというよりも、実戦のものに近いからな」
当然、箒をはじめとする女子数名からは非難の声が上がっていた。
だが、多少でも試合を経験した、あるいは実際に見たことがある生徒たちは、勇人の戦い方には文句を言わなかった。
むしろ、先ほどのセシリアとの試合もあって、どうしてそこまでISを動かすことが出来るのか、疑問の声すら上がってきているほどだ。
だが、問題はそこではない。
「心配なのはわかるし、月影が気に入らないという理由もわからんでもない。だがな、篠ノ之。惚れた男を信じて待つ、というのも女の甲斐性だと思うが?」
「……………っ??!!」
そこまで言われると、箒は黙るしかなかった。
一方で、千冬の目は冷ややかだった。
目で追っているのは、弟である一夏ではない。対戦相手である勇人のほうだった。
彼の経歴はある程度まで知っているが、裏社会に身を投じたり、軍部に身を置いていたという記録はなかった。
まして、あの性格からして自分から面倒ごとに首を突っ込むようなことはしないし、荒事を起こすことも巻き込まれることもないだろうことは、容易に想像できる。
そんな彼が、なぜあそこまで実戦的な動きをすることができるのか。
――まさか、あいつにもお前が絡んでいるのか?束
ISの開発者であり、稀代の
「ちっくしょぉ、全然当たらねぇ……」
「お前の攻撃はまっすぐすぎて単調、はっきり言って大味だからな。回避できない方がおかしい」
「くっ……」
「まぁ、剣は心の鏡、だったか?それがお前の心ってことなんだろうが……そんなんじゃ戦場じゃ生きていけないぞ?」
ざわり、とアリーナに寒気が広がった。
それが勇人の殺気が原因であることは、すぐに理解できた。
が、一夏は一つだけわからないことがあった。
戦場では生き残れない。
なぜ、勇人はその言葉を使ったのか。
ISはアラスカ条約で兵器としての利用を禁止されているし、そもそもスポーツ競技だ。
試合ならばわからないでもないが、戦場という言葉には程遠い。
一夏だけではない。千冬と真耶、そして国家代表候補生であるセシリアを除くこの場にいる全員がそう思っているはずだ。
だが、それは裏側を知らないがゆえのこと。
「というか、こんな超兵器、軍事目的で利用しないなんて考えるのはよほどの戦争嫌いか、あるいは能無し国家がすることだ……いや、日本は例外か?一応、軍事力じゃなくて自衛力だし。まぁ、兵器であることに変わりはないな」
「な……」
「てか、お前はそのことを一番よく知ってるはずだがな?……
勇人のどの言葉に、一夏は過去の記憶が呼び起された。
第二回モンドグロッソ大会で、一夏は謎の組織に拉致された。その目的は、第一回モンドグロッソで優勝した千冬の連覇を防ぐため。
組織のもくろみ通り、千冬は大会を棄権し、連覇という栄光を逃した。
さらには、拉致された一夏の発見に貢献したから、という理由でドイツ軍が抱えるIS部隊の教官として赴任することとなってしまった。
と、そこまでは更識でなくとも、日本政府に関係する人間ならば誰でも掴んでいる情報だ。
だが、そこには隠された事実が存在する。
犯行グループにIS操縦者が存在していた、という、事実が。
確かに、アラスカ条約で「表立って」兵器利用することは禁じられている。だが、ばれなければ犯罪ではないし、条約の規定を破ったことにはならない。
つまり、政府にばれなければISを兵器として利用してもまったく問題ないということだ。
そしてそれは、平和主義を掲げる日本でも同じことだ。
ゆえに。
「さぁ、示して見せろ、世界最強の弟……お前が戦場に立つ覚悟のある人間か、それとも戦場を知らずに文句を言うだけの愚か者か」
ざわり、と再び全身の毛が泡立つ感覚がアリーナを覆った。
先ほどよりも濃厚な殺気。もし、その場に千冬か刀奈がいれば、これ以上、勇人に戦闘を続行させることは危険だという判断を下すことができただろう。
だが、この場には勇人を止めることができる人間は存在しない。
ゆえに、そう呼ばれることを覚悟しているかのように、勇人は一夏にむかって叫んだ。
「お前に巻き込まれて、このくだらない世界の表舞台に立たなければならなくなった化け物によぉ!!」