IS×DX~二番目は「背教者」の業を背負う者~ 作:風森斗真
全ての試合が終了し、セシリアは自室でシャワーを浴びていた。
だが、その心中は穏やかではなかった。
ずっと、試合中のことが引っかかっていた。
今まで、自分の周囲にいる男は、女の顔を見てこびへつらう、弱いものしかいなかった。
特に、父親がそうだった。
むろん、母親がかなり気が強い上に、父親は婿養子。気を使っていた、ということが大きいのだろうということは、最近になって推測できるようになっていた。
だが、それでも父は母を愛していたし、自分にも愛情を注いでくれていた。
そんな両親が列車事故で亡くなってから、自分の育った屋敷を、両親が遺してくれたものを守るために必死に戦ってきた。
特に、力のない小娘、と思っていたのか、これ見よがしに男たちは自分の気持ちも知らずに、自分の聖域に土足で踏み込んできていた。
そんな彼らも、自分がイギリスの代表となることで手のひらを返すようにこびへつらってきた。
男なんてそんなもの。卑怯で汚くて、取るに足らないほど弱いもの。
そのころから、セシリアは男に対してそんな印象を抱くようになっていた。
だが、それはこの試合で覆された。
――月影、勇人……私が錯乱したことが原因とはいえ、勝利を捨ててまで私を落ち着かせることを選んだ人……なぜ、彼はそんなことを……
今まで、セシリアが接したきた男性は、すべて、自分の利益を優先し、大きな力に媚びを売り、自分の脅威になりえるものや、自分よりも力のないものを徹底的に蹴落とすことだけに執着している低俗な連中だけだった。
だが、今日の試合で戦った勇人は相手の実力を認めた上で戦っていたし、一夏はかなわないとわかっていても諦めない根性を見せていた。
だが、セシリアの心に強く残っていたのは、勇人のほうだった。
「……月影勇人、勇人さん……」
シャワーを浴びながら、壁によりかかるセシリアは、ぽつりと勇人の名を呟いた。
その顔が、恋する乙女のそれになっていることなど、セシリア本人はまったく気づいていなかった。
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一方、一夏と箒は寮までの通路を並んで歩いていた。
箒はどこか納得のいかないような表情だったが、一夏はどこか少しばかり悔しそうな表情を浮かべていた。
「あぁ~……わかってたけど、やっぱ負けたなぁ……」
「……悔しい、のか?」
「そりゃな。俺だって男だし、勝負には負けたくないさ」
そこは本音の部分だ。
だからこそ、一夏は次こそ負けたくはない、という想いが強く出ていた。
「だから箒、これからもよろしくな」
「……は?」
「あ、いや……箒が良ければ、これからもISとか剣道の練習に付き合ってほしいなぁ、と」
若干、顔を赤くしながら一夏は箒にそう頼んできた。
「……それは、わたしでいいのか?千冬さ……織斑先生に頼るとか、方法があると思うが」
「千冬姉ぇには頼れない。いや、頼りたくない、かな……だから、箒を頼ろうかなって」
だめか、と困り顔で一夏は箒に問いかけた。
これは、言ってみれば一夏の個人的な意地なのだろう。
姉の名を守ると誓った手前、姉を頼るようなことはしたくないようだ。
逆を言えば、それだけ自分は頼りにされている、ということでもある。
そして、好意を寄せている異性に頼られて、悪い気になる人間はほとんどいない。
必然的に。
「そ、そうか!それなら仕方ないな!!」
と、箒はどこか嬉しそうに一夏の頼みを承諾していた。
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そして一方、こちらはIS学園の整備室。
その一角を陣取って二人の生徒が作業をしていた。
一人は、本日の試合を総なめした
「機体のベースだけでも完成していたのは幸いだな」
「うん……けど、未完成もいいとこ。
「まったく、これで日本を代表する企業だってんだから、笑える」
キーボードをたたきながら、勇人と簪はそんな会話を繰り広げていた。
二人の目の前には、簪の専用機となる予定のIS『打鉄弐式』があった。
簪の専用機は倉持技研が開発を担当しているのだが、急きょ、開発が打ち切りとなってしまった。
その原因は一夏にあった。
男性がなぜISを動かせるのか、その謎を解明するための測定機代わりとして、一夏の専用機を与えることにした。
その専用機の製作を倉持技研が行うことになり、それまで携わっていた打鉄弐式の開発を中断、凍結。白式の開発へと移行したのだ。
「なぁ、なんだったら、会社に頼んでみるか?」
「……できれば、自分の手で作りたい」
「……そっか。なら、参考になりそうなものを借りてくるだけにしとく」
「……うん」
専用機を自分の手で、というこだわりがなぜ出てくるのか。
それを知っているからこそ、あえてそれ以上は何も言わなかった。
そうこうしているうちに、寮の門限が近づいてしまったため、勇人と簪はこの日の作業を打ち切り、急いで寮へと戻っていった。