IS×DX~二番目は「背教者」の業を背負う者~ 作:風森斗真
一夏がグラウンドにクレーターを作り、一人でそれを処理し、へとへとになって教室に戻ると、クラスメイトたちは間近に迫ってきているクラス対抗試合の話題で持ちきりになっていた。
「頑張ってね、織斑くん!!」
「期待してるよ!!」
『学食スイーツ半年無料パスのために!!』
「……あぁ、うん……頑張るよ」
クラスメイトのほとんどが一夏の優勝を望んでいる理由。
それは、優勝クラスに渡される学食スイーツを半年間無料で楽しめるフリーパスにあった。
女子は甘いもの好きが多いからこれを賞品にすれば、学校行事も面倒くさがることはないだろう、という思惑が見え隠れしているが、女子にとってそんな思惑は些細なものだ。
三ツ星級のスイーツを無料で、一年間食べ放題。
それこそがいまの彼女たちにとっての正義であるのだから。
「最善は尽くすけど、負けても文句言わないでくれよ?」
「大丈夫大丈夫!専用機持ってるの、一組のほかは四組だけだし!」
「四組の子も、今は事情があるとかで出場できないみたいだし、楽勝だよ!!」
何も知らないから言えることなのだが、クラスメイトのその言葉に勇人の額にうっすらと青筋が浮かんできた。
同時に、何がなんでもクラス対抗戦に間に合わせてやる、という意気込みも生まれたわけなのだが。
そんな話をしていると、突然、教室のドアが開き、その向こうから活発な声が響いてきた。
「その情報、古いわよ!!」
声がした方へ視線を向けると、小柄なツインテールの女子が仁王立ちしていた。
「そう簡単に勝てるとは思わないことね?なんせ、二組にも専用機持ちが転入してきたんだからね!!」
その少女を見た瞬間、一夏は目を丸くした。
「鈴?お前、鈴か?!」
「そうよ!久しぶりね、一夏」
どうやら、二人は知り合いらしい。
それも、名前で呼び合っていることからそれなりに親しい間柄のようだ。
「聞いたわよ、一夏。あんた、一組のクラス代表になったんだってね?」
「あ、あぁ……まぁ、成り行きでな。けど、それがどうかしたか?」
「別に?これから対戦する相手に宣戦布告をしておこうかと思っただけよ」
――ほぉ?ということは、こいつが二組の専用機持ち、というわけか
二人の会話を聞きながら、勇人はちらりと時計を見た。
間もなく授業開始五分前。
もうそろそろ、千冬がやってくる時刻だ。
となれば、最初に千冬の出席簿が振り下ろされる対象は、いつまでもほかのクラスの教室にいる人間であろうことは、簡単に予測できた。
久方ぶりの友人同士の再会に水を差すような無粋なことは、勇人もしたくはないのだが、
「……元気娘、そろそろ自分の教室に戻った方がいいぞ」
「ん?……あぁ、あんたが二人目ね」
「それはどうでもいいから、さっさと戻った方がいいぞ。ここの担任、
その単語に、鈴と呼ばれた少女は全身の毛を逆立て、またあとで来るから、と言い残し、そそくさと自分の教室へ戻っていった。
それと入れ替わるように、出席簿を手にした千冬が廊下から姿を現したことは言うまでもない。
------------
授業を終えて昼休みに入ったが、勇人は食堂へ行かず、整備室にいた。
当然のように、隣には簪がいて、一緒になってキーボードをたたいていた。
だが、その音もしばらくすると止まった。
「これで、いけるかな?」
「あとはテストあるのみ、か……アリーナの予約、確かめてみる」
「ありがとう」
どうやら、ひとまず満足いくところまではできたらしい。
学校支給の端末を操作し、勇人は放課後に空いているアリーナがないか、検索した。
「よし、残ってた残ってた」
「クラス対抗戦前なのに?」
「あぁ。まぁだから一枠だけしか残ってなかったんだろ」
簪は首を傾げながらの問いかけに、勇人は苦笑を浮かべながら返し、予約を入れた。
「予約完了だ」
「ありがとう。それじゃ、放課後にテストするけど……手伝って、くれる?」
「はっ、ここで投げ出すようなことはしねぇって。どうせなら本音も呼んで徹底的にやってやろうぜ」
もともと、更識姉妹と布仏姉妹以外の人間とあまり関わらないようにするための緊急処置のようなところもあったのだが、倉持技研に苛立ちを覚えてしまい、自分たちが後回しにした操縦者がどれほどの逸材であったか、そのISを完全に作り上げることができなかったことを技術者として後悔させてやりたい、と思ったから、こうして力を貸すことにしたのだ。
ついでに一夏も完成された簪の専用機と対戦してフルボッコにされてしまえばいいと思っているのは秘密である。
だが、そんな勇人の個人的な思惑はともかく、簪は勇人が刀奈に言われたわけでもなく手伝ってくれたことと何より好きな人を独占できることが嬉しかった。
時々、本音が一緒に手伝いに来るので正確には独占とは言いがいたのだが、そこはご愛嬌というものだろう。
「んじゃ、放課後な」
「うん!」
珍しく元気のいい返事をした簪に少し驚きながら、勇人は立ち上がり、教室へと戻っていった。