IS×DX~二番目は「背教者」の業を背負う者~ 作:風森斗真
簪と刀奈の仲直りを見届け、その代償として刀奈がさぼった仕事を片付けて、ようやく寮に戻ってきた勇人はセシリアとともに自販機の前にいた。
あのあと、その場にいたセシリアも生徒会室までついていき、勇人と本音の仕事を手伝ったのだ。
本来、生徒会に所属していないセシリアがそんなことをする必要はなかったのだが、あの場に一人だけでとどまることに抵抗があったらしい。
何より、本人が。
『困っているものに手を差し伸べること、それは貴族として当然の義務ですわ!』
と言って譲らなかったので、諦めて手伝ってもらうことにした。
"
「ほい。ミルクティーでよかったか?」
「えぇ。ありがとうございます」
差し出されたミルクティーの缶を受け取り、セシリアはお礼を言って近くにあったベンチに腰掛けた。
勇人も何か買おうと自販機の前に立った時、自販機の影から何かがすすり泣く声が聞こえてきた。
無視しようかとも思ったが、さすがに耳障りになってきたので、文句の一つも言ってやろうと思い、自販機の影を覗き込んでみると、見覚えのあるツインテールのちび……。
「誰がドチビよっ!!」
「俺は何も言ってないぞ」
……あの、
何かの声が聞こえたらしく、叫ぶ少女に、勇人はため息をつきながら言い返した。
その声に、先ほどまで泣いていたツインテールの少女は勇人の存在に気づいたらしく、じとっとした目を向けてきた。
それにひるむことなく、勇人は睨み返していた。
だが、いつまでもにらみ合っていては埒が明かないので、勇人のほうが折れることにした。
「はぁ……ったく、いつまでもそこにいるつもりだ、
「むっ……なによ、文句あんの?」
「あるから言ってる」
少女の言葉に言い返し、勇人はウーロン茶を選び、少女に差し出した。
さすがに面食らったのか、少女は目を丸くして勇人のほうを見ていた。
「いらねぇなら俺がもらうが、なんか飲んだ方が落ち着くだろ」
「……ありがと……」
「よければ、何があったのか聞かせていただけません?
鈴音というのが彼女の名前らしい。
その名前に聞き覚えがあった勇人は、転入してきた中国人の情報を思い出した。
「あぁ、なるほど。中国の代表候補か」
「えぇ……そういえば初めましてだったわね。二人目の、月影勇人だったかしら?」
「あぁ」
ぶっきらぼうに返し、勇人は本来の目当てである炭酸水を購入し、鈴音の隣に座った。
一方の鈴音は、勇人から受け取ったウーロン茶を手の中でいじりながら、沈黙を保っていた。
勇人はそもそもあまり他人と関わる気がないため、話しかけるようなことはしなかったし、セシリアはセシリアで、どう切り出したらいいのかわからず、おろおろとしていた。
その沈黙に耐えられなかったのは、見た目の通り活発な鈴音だった。
「だぁぁぁぁぁぁっ!!もう!!なんであんたらだんまり決め込んでんのよ??!!」
「決め込んでいるといわれましても、何を聞けというのです?」
「面倒だから話したくない」
「って、イギリスのあんたはともかく、二番目のあんたは何なのよ!!」
どうやら、積もる話のせいで一夏から勇人のことを聞いていなかったらしい。
自分で説明するのも億劫だが、気に入った人間以外はどうでもいいと考えていても、礼節を欠くような愚行はしないのが月影勇人という男だ。
そっとため息をついてから、鈴音の言葉に返した。
「俺はできる限り他人と関わり合いたくないからな。さっきお前さんに話しかけたのはすすり泣きがうっとおしかったからだ」
「なっ?!」
さすがに絶句した。
一応、中学に上がってからの数か月までは日本に滞在していた鈴音は、その間に一夏だけでなく、一夏の二人の親友とも友好関係を築いていたし、友人とまでは行かなくとも、交流を持った男子はいる。
だが、その中で勇人のような人間は少なくとも見たことがない。
「あ、あ、あんたね!女の子が泣いてんだから、もうちょっと気に掛けるとか……」
「……悪いが、俺はこれが精いっぱいだ」
「……まぁ、いいわ。あんたも色々あったんだろうし……で、そっちのあんたはイギリス代表候補だっけ?」
「えぇ。改めて、セシリア・オルコットですわ」
「そ。よろしく……ねぇ、そういえば二人とも、一夏と同じクラスだったわよね?」
勇人のぶっきらぼうさに納得し、セシリアと改めて自己紹介をすると、唐突に一夏のことを聞いてきた。
「えぇ……もしかして、一夏さんのことでなにか?」
「……まぁ、そんなとこね……ねぇ、月影。もし女の子に『わたしが毎日、お味噌汁作ってあげる』って言ったらどうとらえる?」
「……唐突だな、おい。何の意味がある?」
「いいから」
「……そりゃプロポーズだろ、普通に考えりゃ」
普通なら、男のほうから「毎日味噌汁を作ってほしい」と頼むところを、女の口から、ということは、鈴音のほうから切り出したのだろう。
その相手も、大方検討はついていた。
「……まさか、イチの奴、味噌汁おごってくれる、とか勘違いしたのか?」
「味噌汁じゃなくて酢豚だけどね……ほんと、あいつの思考回路、どうなってんのよ……」
「そうですわね……日本人は奥ゆかしいとは聞いていますが、一夏さんのそれは奥ゆかしいというよりも……」
鈍感。朴念仁。
三人の意見が一致した瞬間、誰からとなく笑みがこぼれていた。
と同時に、その笑みは時代劇の一幕でも見ているかのような悪いものへと変わっていき。
「ねぇ、あいつもうぼこぼこにしてもいいかしら?」
「えぇ。わたくしは特に何も思いませんわ」
「同意。むしろぼこぼこにしたほうが頭の回線がつながってちょうどよくなるんじゃないか?」
「それは同感ね……ふっふっふ、覚悟してなさいよ、一夏……乙女の心を踏みにじった罰は重いんだからね!!」
どうやら今度のクラス代表対抗戦で一夏を打ち倒すことでうっぷんを晴らすことにしたらしい。
もともと一夏がどうでもいいセシリアと、むしろ彼に巻き込まれてストレスを抱えている勇人は全面的にそれを応援するのだった。
なお、その後、鈴音は二人に自分を「鈴」と呼ぶことを許したそうな。