IS×DX~二番目は「背教者」の業を背負う者~ 作:風森斗真
てか、楯無さんの"あれ"ってデフォルトなのかはともかくとして、かなりきわどいことしてるって自覚……あるんだよな、たぶん
そうでなかったら薄い本が厚くなりそうな気がするんだけど……
鈴音とセシリア、そして勇人の三人が密かに友情を育んだその日の夜。
三人はそれぞれの部屋に戻っていったのだが、勇人だけはドアの前で動きを止めていた。
なんとなく、嫌な予感がしたのだ。
もっと言えば、このドアを開けたら一夏がやらかしそうな展開が待っている、そんな予感が。
――どうすっかな……開けなかったら野宿ってことになりそうだし、開けたら開けたで精神的に疲れるような気がする……
こういう時に感じる予感というものは、だいたい、楯無、もとい刀奈が自分に悪戯を仕掛けてくる時だということは経験的に知っている。
だが、いまは慣れないことをしたために精神的に疲弊しているため、普段なら笑って流せるのだが、そんな余裕はない。
最悪、苛立ちのあまり異能を使ってしまう可能性もある。
――まぁ、そうなったらそん時はそん時か……むしろそうさせたあいつが悪い。うん、俺は悪くねぇ
自分の中でそう結論付けて、勇人はドアを開いた。
すると、案の定。
「おかえりなさい!ごはんにする?お風呂にする?それとも……わ・た・し?」
「ご……ごはんにする?お風呂に、する?そ、それとも……わ、わた、しに……」
「……」
羞恥心で頬を赤く染めながら、裸エプロンでそんなことを言う簪の姿があった。
最後まで聞かずに、勇人は静かにドアを閉めた。
目頭を押さえ、長くため息をつき、爆発しそうになる怒りを抑えながら、再びドアノブに手をかけ、ドアを開けた。
だが、やはり。
「ご、ごはんにする?お風呂にする?そ、それとも……わ、わ、わたし?」
「ここは簪ちゃん一択よね?」
「……簪、楯無、とりあえず正座」
「え?」
「あぅぅ……」
「い、い、か、ら、せ、い、ざ、し、ろ!!」
背後に青白い火花をばちばちと鳴らし、さながら風神雷神図屏風に描かれる鬼神のような顔で二人をしかりつけた。
比喩でもなんでもなく、実際に勇人の周囲には青白く細い光がまるで蛇のように踊っていた。
この状態になった時の勇人は、いくら言い訳をしたところで聞く耳を持たない。
それを経験的に知っている刀奈と簪は、静かに従うことにした。
「お前ら馬鹿なの?特に刀奈!仲直り出来て舞い上がってんのはわかってるが、ちっとは節度を持て。つか痴女か?痴女なんだな?お前のことだからその下は水着なんだろうが、よく男がいる部屋で裸エプロンなんぞやろうと思うな?襲われたいのか?襲われたいんだな?だったら今すぐその格好のままどっかの国のスラム街に放り込んでやるか?」
「え、ちょ、ま、待って待って!!」
「……うん、お姉ちゃんはやっぱり一度痛い目を見た方がいいと思う」
「簪ちゃんまでひどい!!」
「てか、簪、お前もお前だ。なんでこいつの馬鹿に付き合う?」
「え、えと……ごめんなさい」
と、いつもならばしないはずの説教が数分間続いた。
もっとも、簪に対しては巻き込まれたというよりも、刀奈に押し負けたという側面のほうが強いということは、長い付き合いでわかっていたため、あまり長くはならなかったが。
それはともかくとして、忠告程度に収まった簪に対し、みっちり絞られてしまった刀奈は口や耳から靄を出しながら呆けていた。
が、そんなことは自業自得であり、自分の知ったことではないと言いたそうな態度で、勇人は簪の方へ視線を向けた。
「で?なんで刀奈がここにいんだ?」
「え?……あぁ、さっき簪ちゃんが言ってたけど、仲直りできたからお礼を言いに……」
「……で、お礼ついでに男なら喜ぶだろうとはだ――もとい水着エプロンでお出迎え、と?」
「新婚さんみたいでドキッとしたでしょ?」
その一言と悪戯に成功した子供のような笑みに、勇人は再び背後に電流を流し、小規模な帯電現象を引き起こした。
それを見た刀奈は慌てふためきながら謝罪した。
「まぁ、用事の半分はそれなんだけど」
「半分ってことはまだあるのか?」
「えぇ……ちょっと簪ちゃんにも協力して欲しいことがね……まぁ、ダメ元なんだけど」
ダメ元、という単語で、勇人と簪はだいたい予想が出来た。
「織斑くんにIS操作の練習……」
「ごめんこうむる」
「やだ」
「……だと思ったわぁ」
まだ途中までしか言っていないというのに、即座に返ってきた答えに刀奈は苦笑を浮かべた。
最初にダメ元と言っていたように、実のところ、刀奈は二人から色よい返事が来ることなど期待していなかった。
勇人は元々、一夏に対してあまりいい感情を抱いていないし、言ってみれば人生設計を狂わせた張本人だ。
簪も、一夏が悪いわけではないことはわかっていても、専用機の開発にストップがかかった一番大きな理由が彼であることに変わりないため、割り切ることが出来ず、やはりいい感情を抱いていない。
そんなわけで、たとえ、千冬から命じられたとしても、絶対に一夏の練習に付き合うことはないと刀奈は予想していた。
だが、まさか、練習の単語が出てきただけで、事態を察するとは思わなかったらしく、どれだけ一夏はこの二人に嫌われているのやら、と苦笑を禁じえなかった。
「ま、いまはまだいいわ。けど、忘れないでね?彼と勇人、二人が置かれている環境の中で一番危険なのは彼の方だってこと」
「
「俺とあいつじゃ、どっちに手出ししたら深刻なやけどすっかは目に見えると思うが?」
「政治的には、ね?けど、政治を度外視したら」
「……なるほどな」
「お姉ちゃんが言いたいのって、もしかして女権団がらみのこと?」
簪の問いかけに、刀奈は神妙な面持ちでうなずいた。
女権団、正式には女性権力団体。
ISが開発され、その有用性が証明されてから台頭した権利団体ではあるが、女尊男卑の風潮を生み出した、いわば張本人である。
勇人がISを使えるようになってからしばらくの間、謎の集団からの襲撃を受けたことがあったが、そのほとんどが彼女たちだった。
「なるほど……そのうち亡国機業にイチを排除するよう依頼してもおかしくない、か」
「えぇ。もちろん、あなたも危険であることに変わりはないわ。けれど、戦闘能力からいけばあなたは確実にわたしとタメを張れるから、むしろ織斑くんのほうが危ないのよね」
試合、という枠組みからいけば、たしかに一夏は目を見張る成長力を持っている。
だが、試合ではなく実戦となれば、おそらく、いやほぼ確実に大怪我では済まなくなるだろう。
これはIS学園に通う一般生徒にも言えることだ。
だからこそ、いざという時のために実戦慣れをしておいてもらいたい、というのが刀奈の思惑なのだろう。
それを察した勇人は、そっとため息をつきつつ。
「……必要な時が来たら、な」
と、しぶしぶといった具合に了承した。
もっとも、その必要な時、というのがすぐそこまで近づいていることなど、ここにいる三人はまったく知ることはなかった。