IS×DX~二番目は「背教者」の業を背負う者~ 作:風森斗真
S.H.Rが終了し、二組と合同で模擬戦闘があるため、すぐに着替えてグラウンドに集合するよう、千冬から指示が出ると、勇人は再びイアーマフを耳につけ、一人そそくさと教室を出ようとした。
だが、教室を出る前に、金髪の転校生シャルルが声をかけてきた。
「えっと、君が月影くん、だよね?よろしく」
「……あんまりよろしくしたくないな、俺は」
「え?!」
同性だからという理由で友好を深めようと思ったのだろうが、基本的に人間が嫌いな勇人は悪気もなくそう返してきた。
当然、シャルルは驚き、おろおろとし始めた。
それに助け舟を出したのは一夏だった。
「おい、勇人、シャルル。早く行こうぜ?」
「……だな。ほれ、行くぞ。
「えっ?!ちょ??!!」
勇人はシャルルの腕をつかみ、足早に廊下に出て更衣室へと向かっていった。
その背中には三人目の男性操縦者を一目見ようと追いかけてくる女子の群れがあった。
むろん、一夏もそれに巻き込まれて遅刻するのはごめんなので、二人と並ぶ速さで歩いていた。
どうにか追ってくる女子たちを振り切った三人は更衣室に入った。
突然、女子たちに追いかけられたことに驚くシャルルと、普段はこの比ではないことを話している一夏をよそに、勇人は手早く着替えを終わらせて、グラウンドへとむかった。
更衣室までの道中もそうだが、更衣室に入ってからも一言も話さなかったし、話しかけてもことごとく無視されたことに対し、何か疑問を覚えたのか、シャルルは一夏に問いかけた。
「ね、ねぇ一夏……僕、彼に何かしたかな?」
「勇人のことか?」
「うん……なんか、すごく警戒されてるような気がして……あいさつしたときも、よろしくしたくない、って言われちゃったし……」
「あ~……うん、たぶんそのうち打ち解けると思うぞ?何があったか知らないけど、あいつ、人と話すのがあんまり好きじゃないみたいだし」
「そ、そうなんだ?」
「あぁ。だから、逆に打ち解ければけっこう話してくれるぞ?って言っても、俺、あいつの人生狂わせちゃったからすっげぇ辛辣みたいだけど」
一応、他人の人生を狂わせた自覚はあるらしく、苦笑を浮かべながら一夏はシャルルにそう話した。
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着替えを済ませた一夏とシャルルがグラウンドに向かうと、千冬が点呼を始めようとしているところだった。
慌てて列に並ぶ二人だったが、案の定、千冬からお叱りが飛んできた。
「遅い!!」
「す、すみません!!」
「ご、ごめんなさい!!」
あまりに威圧に反射的に謝罪した一夏とシャルルだったが、出席簿が頭に振り下ろされることはなかった。
恐る恐る、といった様子で千冬のほうを見てみると、仕方がない、と言いたそうなため息をついていた。
「月影から大体の事情は聞いているから、今回は大目に見てやる。だが、そうなる事態を予測して行動しろ。次は許さん。さっさと列に並べ」
「「は、はい!」」
勇人が弁明してくれていたことに感謝しつつ、一夏とシャルルは列に並んだ。
その瞬間、鈴音が近くまで寄ってきて、話しかけてきた。
「聞いたわよ、一夏。あんた、転校生にひっぱたかれたんだって?何したのよ?」
「何もしてねぇよ、いきなり殴られたんだって」
「はーっ?!あんたが何かしでかしたに決まってんじゃない!相変わらず馬鹿なんだから……」
「相変わらずの馬鹿だな、そこの二人」
いつまでも静かにならないことにいい加減、千冬も苛立っていたらしく、背後から殺気とも思えるほどの威圧感を漂わせ、鈴音と一夏の頭に出席簿を振り下ろした。
相当な威力であることを知っている一組の面々は同情の視線を叩かれた二人に向けていた。
一方、初めて出席簿で殴られた鈴音は頭を抑えながら、人の頭をぽんぽんよく殴る千冬に小声で文句を言っていた。
聞こえているのだろうが、そんなものにいちいち付き合っていられないため、千冬は腕を組んで指示を出した。
「それでは、本日より射撃及び格闘を含む実戦訓練を開始する!ちょうど、活力があふれんばかりの十代女子もいることだしな……鳳!オルコット!!」
最初の見本を二人にやらせるつもりだったのか、千冬が突然、二人を呼び出した。
当然、二人は疑問をぶつけてきたが、専用機持ちならすぐに授業に入れることと、それぞれの相手にいいところを見せるチャンス、と言われて急にやる気を見せた。
「それで、お相手はどちらで?わたくしは鈴さんでも構いませんが」
「こっちのセリフ!返り討ちにしてやるわよ」
「ふっ……やる気十分なのはいいが、慌てるな。お前たちの相手は――」
と、千冬が対戦相手を呼び出そうとした瞬間、上空から何かが飛んでくる音が聞こえてきた。
勇人と一夏は自然と音がする方へ視線を向けていた。
そこには、ISをまとった状態の真耶が突っ込んでくる姿があった。
「ど、どいてくださーーーーーいっ!!!」
男二人に見られていたことに気付いたためか、年齢の割に男慣れしていない真耶は涙目になりながらそう叫び、突進してきた。
その進行方向に一夏がいることに気付いた勇人は、蒼穹の腕を展開し、飛んできた真耶の腕をつかみ、後ろに倒れこみながら、つかんだ腕をひねりあげ、抑え込むように地面にたたきつけた。
その鮮やかな手際に、周囲からは拍手が飛んできたのは言うまでもない。
が、やられた本人は涙目になりながら。
「あ、ありがとうございます、月影くん……ですが、もうちょっとやり方があったと思いますがぁ……」
とお礼と文句を言ってきた。
だが、そんなことは知らん、とばかりに勇人は冷たい態度で反論した。
「知りません、操縦不能になって生徒に突っ込んでくる先生がいけない。交通事故も真っ青な大惨事を引き起こすつもりですか、そうですか」
抑えていた手を離し、真耶を開放しながらそう話す勇人に、真耶は反論できず、うなってしまった。
その様子を見ながら、千冬はため息をついていた。
「……まったく、山田先生の言う通り、もう少しやり方があっただろうが、月影……山田先生、あなたもだ。いくら男慣れしていないくてあがり症だからと言っても、生徒に激突することはないのではないか?」
「す、すみませぇん……」
謝罪しながら真耶はずれてしまったメガネをかけ直した。
その瞬間、自然と勇人はその視線を明後日のほうへとむけていた。
理由は言わずもがな、真耶に取り付けられた分厚い胸部装甲にある。
体形がわかるほど密着するISスーツを着ているせいか、普段着よりもさらに強調されているように思われるそれに、一夏もそれにあわせて顔を若干、赤らめながら顔をそらした。
その態度が気に入らないのか、鈴音は突然、ISを展開し、一夏に斬りかかってきた。
「一夏!あんた、どこ見てんのよ!!」
「お、おいおい!!いくらなんでもまずいだろ!!」
生身の人間にISで斬りかかるということがどういうことか。
頭に血が上っている鈴音は忘れていたようだ。
だが、一夏はおろか、他の生徒たちが傷つくことはなかった。
「……え?」
「なっ……?」
ISを展開していた真耶が、鈴音が振り下ろした青龍刀に向けて発砲。
その軌道を一夏からそらし、空振りさせたのだ。
あまりの早業、そして正確な射撃に勇人以外の生徒たちはぽかんとしていた。
「山田先生はあぁ見えて元代表候補だからな。これくらいは造作もない」
「む、昔のことですよ。それに、候補止まりでしたし……」
さも当然だ、と言わんばかりに千冬がそう語ると、真耶は謙遜したように返した。
だが、謙遜はしているが真耶の実力は確かなものだ、と勇人とセシリアは感じていた。
そしてセシリアは同時に、気を引き締めてかからなければ、と警戒もした。