IS×DX~二番目は「背教者」の業を背負う者~ 作:風森斗真
試合開始のサイレンが鳴り響くと、一夏がいの一番に突っ込んできた。
勇人は一夏の攻撃を受け止め、切り結んだ。
だが、二人のISから同時に警報が鳴り響いた。
いち早くそれを察知した勇人は回避行動をとったが、一夏は一瞬、反応が遅れてしまい、背後からの攻撃を受けてしまった。
その攻撃を放った人物は言わずもがな、ラウラである。
もともと、一夏のことをよく思っていなかったことに加え、IS学園に通っている生徒たちを「腑抜け」と称していたことから、最初から一人で戦うつもりだったらしい。
「フレンドリィファイアか、感心しないな、女軍人」
「はっ!私は最初から一人で戦うつもりだ!」
「だそうだ、残念だな、イチ。振られたぞ、お前」
「うぇっ??!!……がはっ?!」
勇人が冗談めかして言った言葉に、一夏は思わず顔を赤くなり、動揺した。
その結果生まれた隙を見逃すほど、勇人が組んでいる
いつの間にか一夏の横に回っていたシャルルが手にした機関銃で一夏を銃撃したのだ。
「僕のことも忘れないでよ?一夏!」
「くっそ!!これじゃ一対三じゃないか!!」
「いや、一対一対二だ。間違えてやるなそこんとこ」
一夏が口にした文句に対して、勇人は呆れ顔で冷静に返した。
確かに、一夏からすれば一対三の構図になっているが、実際にはラウラがスタンドプレイをする上で一夏が邪魔であると判断しているいうだけだ。
ラウラにとって勇人とシャルルは倒すべき相手であることに変わりはない。
現に、同じチームであるはずの一夏が巻き込まれることなどおかまいなしにワイヤーブレードやレールカノンで勇人とシャルルを執拗に攻撃していた。
「ちっ……さすがに厄介だな。シャル!ロングだ!!」
「了解!」
勇人の指示に、シャルルが応えると、シャルルは距離を置き、遠距離用に用意していたライフルに武装を持ち替えた。
むろん、遠距離戦が苦手な一夏はシャルルとの距離を詰めようとするが、急所をいくつか打ち抜かれたこともそうだが、ラウラの攻撃に巻き込まれたこともあり、SEが底を尽きてしまい、リタイアとなった。
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一方、その試合の様子をモニタールームで観戦していた二人の影があった。
四人の担任教師である千冬と副担任の真耶だ。
「え、えっと……お、おしかったですね、織斑くん」
「ふん、おしくもなんともない。単なる訓練不足だ」
もう少しもつかと思った一夏が一番最初にリタイアしてしまったことで、真耶は千冬を気遣うようにそんなことを言ってきたが、千冬はそれを冷たく一蹴した。
訓練が足りない、ということもそうだが、実質的に、一人で三人を相手にしている状況はさすがに不利に働いたということがわからないでもない。
だが、数の不利をはねのけるほどの力を身につけなければ、これから先、一夏を中心に起きるであろう波乱に立ち向かうなど、できるはずもないと考えていた。
だからこそ、いままで千冬はとにかく厳しく一夏に接してきたのだ。
もっとも、なぜ自分を頼らないのか、と思わないでもなかったのだが。
そんな千冬の想いを知ってか知らずか、真耶は無理やり話題をラウラに変えた。
「それにしても、ボーデヴィッヒさん、強いですね。ニ対一なのに互角に渡り合ってますよ」
「ふん、変わらんな、あいつは……強さを攻撃力と勘違いしている。このままでは……」
そう口にした瞬間、戦況が動いた。
勇人の十八番ともいえる超高速移動による連続攻撃と、シャルルの遠距離攻撃に翻弄され、得意の
「すごい……シャルルくん、ほんの二週間程度しか一緒に練習してないはずなのに」
「自分の立ち位置を見極め、その状況に応じて戦略を変えているのだろう。そうでなければボーデヴィッヒのように一人で戦うことを好む月影に合わせることなどそうそうできるものではない」
「やっぱり織斑先生でも難しいですか?」
「奴の性格が気難しいからな……まぁ、一応、心を許しているよう生徒はいるだがな」
入学当初の勇人は、本音以外のクラスメイトにはまったくなじもうとする素振りすらなかった。
が、この数か月でようやく、セシリア、鈴音、一夏、箒を筆頭にあいさつを交わす程度には心を開き始めていた。
とはいえ、その四人と更識姉妹、布仏姉妹の六人以外、千冬と人当たりがよく面倒見もいい真耶でさえも、それ以上の関係になってはいない。
「あいつの心を開かせることは、容易ではないな……」
そうつぶやきながら千冬は、自分もまだまだだな、と心中でため息をついた。
そんな様子を知ってか知らずか、真耶は、あ、と何かに気づいたように悲鳴を上げた。
画面を見ると、二振りの刀を振るいラウラを奔走する勇人と、ラウラの死角で「盾殺し」と呼ばれる六十口径のパイルバンカーを装備したシャルルが映っていた。
勇人がこのままラウラの動きを止めれば、シャルルが至近距離でパイルバンカーを発射。
たとえ、SEに余裕があっても、あの攻撃を耐えることができようはずがない。
勝負あった。
モニタールームにいた二人がそう確信した瞬間、二人は驚愕で目を見開いた。
画面には、コールタールのような黒い粘膜に包まれた装甲をまとい、一振りの刀を構えているラウラの姿があった。
その姿は、かつての織斑千冬の姿そのものだった。