IS×DX~二番目は「背教者」の業を背負う者~ 作:風森斗真
作者に一夏アンチの意図は、「あまり」ありません
「まったくない」とも言いませんが
四組の教室から戻ってきた勇人と本音は、そのまま授業の準備に入り、授業を受けていた。
座学担当は真耶だったのだが、彼女の説明はかなりまとめられており、控えめに言わずともわかりやすいものになっていた。
なっていたのだが、一夏が事前配布されたはずの参考書を誤って破棄してしまったため、まったく授業についてこれなず、千冬の拳骨をくらっていた。
「月影、すまないが面倒を見てやってくれ。同性なら多少は気が楽だろう」
「……拒否権は?」
「あると思うか?」
勇人の質問に、千冬が素早く返してきた。とはいえ、予想通りの返答だったため、早々にあきらめはついたのだが。
「なんか、すまない」
「ほんとだよ、阿呆。これ以上ないくらいの大阿呆が」
「うぐ……反論の余地がない……」
勇人の辛辣な言葉に、一夏はあえなく撃沈していた。
なお、一夏のテキストは千冬が再発行の手続きをしておくことになり、一週間で覚えるように、と通告された。
むろん、広辞苑ほどの厚さがある内容を一週間で覚えきれるわけもなく、文句を言おうとした一夏に対し、千冬は容赦ない冷たい瞳を向けて黙らせていた。
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休み時間になり、勇人はさっそく一夏に基本的な部分をまとめたノートを見せて、せめて今まで授業で扱った部分だけは徹底的に叩き込むことにした。
なお、一夏は勇人を名前で呼ぶのだが、勇人は一夏を名前で呼ぶことはしなかった。
単に阿呆、あるいは
現に今も。
「阿呆、なんで概要の一割すらも覚えられない」
「そ、そうはいうけどよ……」
「お前の頭は飾りか?それとも空っぽなのか?だからあんないい音がなるんだな、そうなんだな?」
と、散々な言われようである。
実際問題、勇人はあまり人づきあいが好きな方ではない。むしろ放っておいてくれるなら放っておいてほしい人間だ。
それを抑えてこうして付き合っているのだ。これくらいの口の悪さは許容範囲のうち、ということをわかっている同級生は、簪と本音くらいなのだろうが。
勇人が一夏を
「ちょっとよろしくて?」
「うん?」
「すまんが、いまこの馬鹿に授業しているところだ。あとにしてくれ、オルコット」
どうにか苛立ちを抑えながら、勇人は声をかけてきた女子、セシリア・オルコットにそう話した。
抑えていたとはいえ、やはりそれなりに迫力はあるらしく、セシリアは冷や汗をつたわせながら、そういうことなら、と退散した。
なお、セシリアのその行動が幸いして一夏は、「代表候補生」というものがどういうものなのか、そんな基本的なことすらわからない、という事実を周知されずにすんだのだった。
もっとも、勇人の授業であっさり露見し。
「お前やっぱ馬鹿じゃないの?これからは阿呆じゃなく馬鹿って呼ぶことにしようか?」
とさらに詰られることになるのだった。
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終業前のS.H.Rの時間になると、千冬が一つ決めなければならないことがある、と前置きをして連絡事項を告げた。
「再来週に行われるクラス対抗戦に出場する生徒――まぁ、言ってみればクラス代表だな。それを決めたいと思う。自薦、他薦は問わないぞ」
「それなら、織斑くんを推薦しまーす」
「あ、わたしも!」
「うえぇぇっ??!!」
千冬のその言葉から、いきなりクラスの女子たちが一夏を推薦する意思を口にした。
物珍しさ、というものもそうなのだろうが、やはり男子だから、という点が大きいのだろう。
その証拠に。
「なら、わたしは月影くん!」
「わたしもわたしも!」
勇人にも推薦の声が上がっていた。
なお、辞退しようかと手を挙げた瞬間、千冬から。
「推薦された以上、辞退は許さんぞ」
と一刀両断された。
辞退することが許されないというのだったら、とため息をついて。
「なら、俺はオルコットを推薦する。学年首席なんだ、妥当な判断と思うが?」
と、セシリアに視線を向けながら口にした。いや、しようとした、が正しいだろう。
なにしろ、最初の一言目口にしようとした瞬間、バン、という大きな音が教室に響き、セシリアの席から抗議の声が聞こえてきたのだから。
「納得いきませんわ!そのような選出は断固、認めません!!だいたい、男がクラス代表だなんて、いい恥さらしです!!」
どうやら、物珍しさからクラス代表に一夏と勇人が選ばれることにかなりに不満を持っているようだ。
それだけならまだかわいいのだが、問題はその先のセリフにあった。
「実力から行けば、イギリス代表候補であるわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!!だいたい、文化的にも後進的な国で過ごすこと自体――」
「……イギリスだって大したお国自慢、ないだろう。世界のメシマズ国、何年覇者だよ」
売り言葉に買い言葉。
日本を侮辱された一夏が我慢できずにそう口にした。
その言葉に、先に日本を侮辱したことを忘れてセシリアが反論し、あわや喧嘩へと発展しかねない状況になった、その時だった。
『
教室どころか、廊下や天井を超えて、学園中に響いたのではないか、と思うほどの声が教室に響いた。
必然的に全員の視線はその音源、勇人のほうへむいた。
ゴゴゴゴゴゴ、とか、ドドドドド、という音が聞こえるのではないかとすら思わせるほどの威圧感を垂れ流しながら、勇人は静かに口を開いた。
「おい、代表候補生……一つ問うぞ。目の前にいる
「……に、日本、ですわ……」
「そうだなぁ?お前がいう極東の文化的後進国だよなぁ?お前は間接的に世界の重大人物二名を侮辱したことになるよなぁ??」
「うぐっ……」
「あと、そこの阿呆っ!」
「お、俺かよ?!」
「お前、イギリスの料理が
「え?……い、いや……」
「産業革命の影響で働き手として幼い子供まで都会へどんどん流れてしまったせいで、伝統料理のレシピのほとんどが喪失したことが主な原因なんだよ!イギリスにだって本来、うまい料理はあるんだ!それをわからねぇで知ったようなこと言ってんじゃねぇぞ!この大うつけが!!」
勇人の言う通り、イギリスにもミートパイや英国式カレーなど、まずい、というイメージにそぐわない料理が多数存在している。
だが、産業革命で働き手として多くの若者、特に子供が都会へと流れてしまった影響でレシピが受け継がれることなく喪失してしまったことに加え、衛生面の問題も加わり、火をしっかりと通せば問題ないだろう、という雑な考えに至り、黒焦げになるまで焼いたり揚げたり、原型がわからなくなるまで煮込むようになったことや、基本的な風習として自分好みの味付けにするため、料理そのものにもともとの味が少ないなどの理由もある。
それはともかくとして。
一通り、叫び終わった勇人は肩で大きく息をしながら静かに席に着いた。
だが、それ以降、勇人の逆鱗に触れるのではないか、という恐怖心からか、誰からも推薦の声が上がることはなかった。