ドラゴニック・オーバーロード。
惑星クレイ最強の戦士は誰かという話題において真っ先に名前が挙がるであろう、「黙示録の風」とも讃えられる
強襲爆撃部隊「かげろう」は彼の名を以って語られることが多いが、それは誤りだ。
彼に認められた者しか入隊することは許されないかげろうは、詰まるところ精兵の集まりであり、その一兵卒ですら並の軍隊なら単騎で殲滅することができる戦闘力を誇る。
最強の将に率いられし、最強の軍。
それこそが帝国が誇る第一柱軍かげろうの実態である。
「《ドラゴニック・オーバーロード》でアタック!!」
真紅の竜が炎を纏った大剣を振り下ろす。その先にいるのは、自身と全く同じ姿をした竜であった。
だが、同じなのは見た目だけで、今まさに襲いかかられんとしている紅竜はおよび腰になり、戦場を後ずさっていた。
「ゴッ、ゴジョーとターでガードっ!」
「甘えよ! ゲット、
雑兵を剣の一振りで吹き飛ばし、オーバーロードは自らの偽物に、その刃を突き立てる。
「《ドラゴニック・オーバーロード》のスキル発動! エターナル・フレイム!!
手札を2枚捨て、《ドラゴニック・オーバーロード》をスタンドする!!
再び、オーバーロードでアタック!!」
大君主の名を騙った不届き者に、オーバーロードは幾度も粛清の刃を振り下ろした。
真の王者は我をおいて他に無し。それを知らしめんがため、偽物には見せしめになってもらわねばならぬ。
「ドライブチェック! ゲット、★トリガー!」
敵を完膚無きまでに八つ裂きにして焼き尽くし、ただひとり残った孤高の王者は紅蓮に染まる空へと咆哮をあげた。
カードショップ『ジャスティス』は、年始となる今日も休まず営業していた。玩具店にとっては書き入れ時であるため、この時期に休む店などほとんど無いが。
客層としては、お年玉を手にした買い物客がやはり多く、対してフリーファイトスペースは空いており、そこにいる客はまだ1つのペアしか見当たらない。
「負けました……やっぱりリュウジ君は強いね」
そのうちの1人。かげろうを使っていた少年が6枚目のカードをダメージゾーンに置き、力無く笑った。
その声はまだ声変わりもしていない。小柄で背も低く、実際には中学1年生なのだが、それよりもなお幼く見えた。
「…………」
一方、リュウジと呼ばれた先のファイトに勝利した少年は、むっつりと口元を引き結び黙っている。
目の前の少年とは対照的に、小太りで大柄。いかにもなガキ大将といった風貌の少年が、やがてゆっくりと口を開いた。
「なあ、タツミ。お前、もうかげろう使うのやめないか?」
「え?」
タツミと呼ばれた小柄な少年は、その提案に肩をビクッと震わせ、視線を彷徨わせた。
それに乗じて、リュウジは厳しい声音で畳みかける。
「いや。かげろうはまだいいよ。だけどもう金輪際《ドラゴニック・オーバーロード》は使うな。オーバーロードは惑星クレイ最強の戦士でなければならないんだ。お前みたいな弱いやつが使ったら、オーバーロードの名が汚れるんだよ」
内容はともかく、その声の響きにタツミ少年を侮辱する意図は一切なく、オーバーロードは最強でなければならないと本気で信じているかのようだった。
「う、うん……そう、だね……」
少なくともそれは伝わったのだろう。同意はするものの、了承までする気にはどうしてもなれず、タツミは曖昧に俯いたまま言葉を無くしてしまった。
「じゃあ……」
はっきりしないタツミの態度に業を煮やしたリュウジは、彼からデッキを取り上げようと手を伸ばす。
が、別方向から現れた小さな手が、先にタツミのデッキをひょいと奪い取ってしまった。
「聞き捨てなりませんね」
手の中でデッキを広げて確認しながら、闖入者が言う。それは小柄な少女だった。
(僕と同じ年頃の子かな……?)
今、店に来たばかりなのだろう。タツミと同じくらいの背丈を、暖かそうなファーコートで包んでいる。目鼻立ちは整っており、冷たさを感じさせるほどに無表情だったが、それ以上に幼さが勝っており、とても可愛らしい。何よりも印象的なのはその髪で、まるで雪のように真っ白であった。
「ヴァンガードはなりたい自分をイメージするカードゲームのはずです。誰が何を使おうと、口出しされる謂れはありませんよね」
そう言って、白髪の少女はタツミの手元にデッキを置き直した。
「…………」
てっきりリュウジが即座に反論するかと思いきや、彼は少女を凝視したまま固まっている。その表情からは強い驚きが見てとれた。
(たしかにきれいな女の子だけど……リュウジ君がこうもはっきり言われて黙ってるのも珍しいな)
仕方無く、タツミは彼に代わって尋ねることにした。
「あの……君は?」
「名乗るほどのものではありません」
「あ、そう……」
少なくとも、変わった子であることは確かなようだ。
「提案です。今から4日間、私がこちらの彼を一人前のヴァンガードファイターに鍛えてみせましょう。ですので、今週の日曜日。もう一度、彼とファイトしていただけませんか?」
少女はタツミの肩に手を置きながら、リュウジにそんなことを言った。
リュウジは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに少女から目を逸らすと「俺は別に構わねーけど」とぶっきらぼうに告げた。
「あなたはいかがですか?」
肩に手を置いたまま、少女がタツミの顔を覗きこむようにして尋ねてくる。
この少女が何者なのかは分かりかねた。その言によるとタツミを鍛えてくれるらしいが、年の近い少女に教えを請うことに抵抗もあった。
けど。それでも。
強くなるためなら、悪魔に魂を売っても構わない。
タツミの脳裏に、何故かそのようなイメージが湧いて出た。
「きまりですね」
タツミは知らぬうちに頷いてしまっていたらしい。
不思議な少女との契約が、いつの間にか結ばれてしまっていた。
「あ、あの、僕、
リュウジが去り、ふたりきりになった『ジャスティス』のファイトスペースで、タツミはしどろもどろになりながら自己紹介をした。
「はい。よろしくお願いします」
白髪の少女はコートを脱いで椅子にかけながら、それに応じる。
タツミは改めて目の前の少女を観察した。
淡い色のセーターに包まれた小柄な体躯。赤子のようにきめ細やかな肌に、透き通るように艶めく白い髪。彼女を構成するパーツのひとつひとつが幼さにも似た若々しさを感じさせる。
(やっぱり同い年くらい……だよね。敬語使われてるし、ひょっとしたら僕が年上に思われているのかも)
だが、何故だろう。たまに彼女から大人でも発しないような途轍もない圧を感じるのだ。
「さて。それでは特訓をはじめましょうか。
まず、勢いで決めてしまいましたので確認しておきたいのですが、今日から4日間、毎日このショップに来れますか? 無理な日があれば教えてください」
「あ、大丈夫だよ。特に予定は無かったから……本当は、リュウジ君と毎日ヴァンガードをするつもりだったんだけど」
「リュウジさん。さっきの失礼なファイターですね」
「あ、うん。で、でも、乱暴なところもあるけれど、悪い人じゃないんだよ。僕のクラスではいつも中心人物だし、運動神経も抜群で……僕に無いものをたくさん持ってる」
「……あの人を尊敬しているんですね」
「うん。ヴァンガードもリュウジ君に憧れて始めたんだ。ルールを覚えて、今日、はじめて対戦できたのに……負けてばっかりで。僕が弱いから、リュウジ君を怒らせちゃった」
「ヴァンガードを楽しむのに強いも弱いも関係ありませんが……仲良くなりたい相手が、それを求めてくるのなら仕方ありませんね。これを機に強くなってしまいましょう。
強くなること……それはとても簡単です」
急に話が本題へと斬り込んできたため、タツミは思わず唾を呑んだ。
少女はどこからともなく飾り気の無いデッキケースを取り出すと、その中身をファイトテーブルに広げて置いた。
「根絶者を使うことです。デリートしてしまえば、オーバーロードと言えども恐れるに足りません。
……む、どうしました? 椅子からずり落ちて」
「いや……僕はかげろうで勝ちたい、かな」
「むむ。そうでしたか。それは失礼しました」
広げた根絶者デッキを丁寧に片付けながら、少女がさして残念でも無さそうに言う。
こうなることは分かっていたようだが、ダメ元で提案してきたようだった。
「根絶者が使いたくなったら、いつでも言ってください」
「う、うん。そうさせてもらうよ……」
そのくせ、諦めは悪かった。
「では、まずはあなたのかげろうデッキを強化しましょうか。お金はありますか?」
「う、うん。お年玉を持ってきてるよ」
「では、そのお金でパックを買えますか? さすがにそれを強制はできませんが。
安心してください。タツミさんがお金を出すつもりが無くても、強くなれるプランは考えてありますので」
「い、いや。もともとパックを買うつもりで持ってきたお金だから大丈夫だよ。
けど、どのパックを買ったらいいのかな?」
「『最凶! 根絶者』を」
「……それ、かげろう入ってないよね?」
「失礼。間違えました。
先ほどタツミさんのデッキを見せて頂いたところ、エースユニットよりも、まずはデッキの基盤となるカードを揃えた方がいいように見受けられました。
まずは第1弾のカードを揃えるのがいいのではないでしょうか。狙い目は、完全ガードの《ワイバーンガード バリィ》や、デッキの主軸となる《バーサーク・ドラゴン》あたりですね」
「わ、わかった! 買ってくるから待ってて」
たまに話が根絶者に逸れるものの、アドバイス自体は的確で、納得もできるものだった。
タツミは目的のパックを2箱買うと、少女の待つテーブルの上に優しく置いた。
「おや。奮発しましたね」
「うん。けど、まだ1箱を買えるくらいのお小遣いは余ってるよ」
「そうですか。それの使い道は、そのパックを空けてから考えましょう」
そうして、タツミは購入したパックを開封していく。人の少ない店内に、インクのツンとした香りが広がった。
「やった! いきなり《バーサーク・ドラゴン》だ!」
「ええ。幸先がいいですね」
目当てのレアカードというのは、宝石のように輝いて見えるものだ。
大切なカードをスリーブに入れて選り分けながら、タツミは次のパックを開封していく。
「あ、
「え。根絶者は……」
「あはは。機会があったらね」
そんな他愛の無いやり取りも交えながら、タツミは2つ目の箱に手をかけた。
「……楽しいね。パックを空けるのって」
「そうですね。次はリュウジさんと一緒にできるといいですね」
その一瞬、これまで無表情にタツミを見守っていた少女の表情が微笑みの形に変化した。
「!? う、うん。そうだね……」
タツミが驚いて目をしばたたかせた時にはもう、少女はいつも通りに戻っていたが。
「ふむ。元々持っていたものを合わせて《ワイバーンガード バリィ》が3枚。《バーサーク・ドラゴン》が2枚。《希望の火 エルモ》が1枚。他のRRも2~3枚は揃いましたし、VRの《ドラゴニック・ウォーターフォウル》こそ当たりませんでしたが、上々の成果と言えるでしょう」
かげろうのカードをテーブルに並べ、少女が満足そうに頷く。
「次はデッキ構築です。エルモの枚数が少ないので、
「うん! まずG3は……《ドラゴニック・オーバーロード》を4枚は確定として、残りは《クルーエル・ドラゴン》と《クレステッド・ドラゴン》を2枚ずつでいいのかな」
「いい選択ですね。《ボーテックス・ドラゴン》を狙っている余裕は無さそうですし。オーバーロードにライドできない可能性も考慮すると、ギフトを持っているその2枚が無難でしょう」
「G2は《バーサーク・ドラゴン》に《ベリコウスティドラゴン》に《ドラゴンナイト ネハーレン》かな。
G1は《希望の火 エルモ》に《リザードソルジャー ラオピア》に《鎧の化身 バー》に……」
「《ガード・グリフォン》も忘れないでください」
「そっか。バリィは3枚しか無いもんね。
……《ドラゴニック・ガイアース》はどうしようか」
「ふむ。強力なカードではありますが、仮想敵がかげろうであることを考えると、除去が飛び交う消耗戦になりそうです。こちらからユニットを減らすのは得策では無いかも知れませんね」
「うーん。じゃあ、とりあえず《ドラゴンモンク ゴジョー》と《ダマナンス・ドラゴン》を入れておくよ。
あとはトリガーだけど、★8枚、
「……トリガーに正解は無いので、口を挟むつもりはありませんでしたが。意見を求められたのなら答えましょう。
先ほども言ったように、かげろう対かげろうで予想されるのは消耗戦です。減った戦力を先に補充できた方が優位に立つと言えます。かげろうはもともとアドバンテージ獲得能力に長けているわけでもありませんし、引トリガーを増やした方が安定するかも知れませんね」
「そ、そうか。なら引トリガーを6枚に……」
「もっとも。★トリガーを増やして、消耗戦に陥る前に敵を倒すのも作戦です。そこは好みで選んでいいかと思いますよ」
「うーん……じゃあ、★7枚、引5枚で試してみるよ」
「ええ。これからテストする時間はいっぱいありますし、それがいいでしょう。
そんなわけで実戦です。さっそくそのデッキを回してみましょう」
早く対戦をしたくて仕方が無かったのか、少女がいつの間にか取り出した自分のデッキをシャッフルし始めている。
「ちょっ、ちょっと待ってよ」
「ええ。新しく組んだデッキなので、よく混ぜてください」
タツミもデッキのシャッフルを終え、ファーストヴァンガードをテーブルの中央に置く。
「では、はじめましょう」
「う、うん……」
「スタンドアップ」
「ヴァンガード!」
「パワー27000のギヴンでアタック。さらにギヴンのスキルでヴァンガードのグレイヲンをスタンドします。パワー23000のグレイヲンで、デリートされたヴァンガードにアタック」
「ノ、ノーガード……」
タツミのダメージゾーンに6枚目のダメージが置かれる。
ダメージ3対6。少女の圧勝だった。
「…………」
「…………」
どこか気まずい沈黙が、2人の間に流れる。
「すみません。手加減するのもされるのも慣れていなくて本気を出してしまいました」
少女が小さく頭を下げる。
「この負けは気にしないでください。こう見えても私は……」
「すごいよっ!」
少女の言い訳を遮り、タツミが瞳を輝かせてテーブル越しに少女へと詰め寄った。
「君、本当に強かったんだね!」
「ええ、まあ。……というか、疑っていたんですか?」
少女の目が僅かに細められ、少し非難がましく見えた。
「えへへ。ごめんね。けど、君に特訓してもらえるなら、僕だってリュウジ君に勝てるくらい強くなれるかも」
「私は最初からそのつもりでしたよ。
さあ、もういちどファイトしましょう。……とは言え、タツミさんがオーバーロードを使いこなせるようにするための特訓なのに、デリートしてしまっては都合が悪いですね。対戦相手をデリートしないやさしい根絶者は後日持ってくるとして、今日はかげろうのトライアルデッキで相手をしましょう」
いつの間に買っていたのだろうか。トライアルデッキの封を開けながら、少女が言う。
「さ、さすがにトライアルデッキには負けないよ」
「さて、どうでしょう」
安堵するタツミに、少女の鋭い視線が突き刺さる。
「デッキはともかくとして、私自身は一切手を抜くつもりはありませんよ?」
「……え?」
「《ドラゴニック・オーバーロード》でアタック。アタックがヒットしたので手札を2枚捨ててオーバーロードをスタンドします。パワー43000、★2のオーバーロードで、タツミさんのオーバーロードにアタック」
「ノ、ノーガード……」
タツミのダメージゾーンに6枚目のダメージが置かれる。
ダメージ4対6。やはり少女の圧勝だった。
「な、何で……」
「今のファイトは何故負けたかわかりますか?」
「……君が強いから?」
「それもあります」
「あるんだ」
「ですが、それを言い訳にしていては、いつまでたっても強くなれませんよ? 強いとはまずミスをしないということです。少なくとも先ほどのファイト、タツミさんはひとつ大きなミスを犯していました」
「えっ?」
「ミスに気付いて是正できるかが、強くなるための第一歩です。ファイトの経過をしっかり記憶して、ファイトが終われば振り返られるようにしておくといいでしょう」
「う、うん!」
「では、先ほどのミスの話ですが……………………
おや、もうこんな時間ですか」
タツミに一通りのフィードバックを終えた後、少女は壁にかけられた時計を仰いだ。短針は2時を過ぎている。2人とも朝早くから店にいたので、お腹もかなり空いていた。
「今日はここでおしまいにしましょうか。明日からは、午後1時に、この店で待ち合わせましょう」
「うん。わかった」
「では、お疲れ様です」
少女はトライアルデッキを元のケースにしまってコートのポケットに入れると、会釈をして店から去って行った。
タツミ少年のちょっと不思議で夢のような冬休みの1日目は、こうして過ぎていった。
――2日目
「お待たせしました。それでははじめましょうか」
5分前にデュエルスペースに着席していたタツミに対し、少女は1時きっかりに姿を現した。
「ふう。今日は冷えますね」
少女が昨日には無かった首元のマフラーを解くと、白い髪がふわりと宙を舞い、柔らかないい香りがタツミの鼻孔をくすぐった。
「どうしました?」
その可憐な所作に見蕩れて硬直してしまっていたタツミだったが、少女に怪訝な声をかけられて、慌てて「な、なんでもないよ!」と取り繕った。
「? そうですか。では、まずはトライアルデッキとの対戦から再開しましょう」
タツミの言動は明らかに挙動不審ではあったが、少女はさして気にするでもなく、てきぱきと対戦準備を整えていく。
「スタンドアップ」
「ヴァンガード!」
「パワー51000の《ドラゴニック・オーバーロード》でアタックします」
「う……ノーガード。
負けました……」
そしてまた、一切の容赦無くタツミを打ち負かすのだ。
「なるほど。タツミさんはオーバーロードの攻撃への対処を考えた方がいいかも知れませんね」
「え、どういう意味?」
「先ほどファイトで、私のオーバーロードのアタックを防ぐのに、エルモ、ラオピア、ネハーレンを使って、ベリコウスティでインターセプトまでしましたよね?」
「う、うん。そうでもしないと防ぎきれなかったから」
「ですがいずれもあなたのデッキでは攻めの要だったはずです。結果的に展開ができなくなってしまい、あとは蹂躙されるがままになってしまいました。
オーバーロードのスキルは確かに強力ですが、使う側にとっても最終的には手札1枚のディスアドバンテージを負う諸刃の剣です。
受けきれないと判断したら、あえて受けてしまうのも作戦ですよ」
「な、なるほど」
「それはオーバーロードを使う立場になっても言えることです。攻撃が通ったからと言って、考えなしにスキルを使っていては、手札が少なくなって、返しのターンで敵の攻撃を防ぎきれなくなるかも知れません。
オーバーロードをスタンドしても戦果が上げられそうにない場合は、スキルの発動を我慢するのも戦略です」
「…………」
「どうしました?」
これまでは少女のアドバイスに、真面目に耳を傾けていたタツミだったが、この時は肩を落として俯いてしまっていた。
「いや。オーバーロードって思っていたよりも弱いんだなって」
「そんなことありません。ドライブチェック次第では、ダメージ2からでもゲームエンドまで持っていける、強力極まりないユニットです。
ですが、そうですね。あなたやリュウジさんが求めているような最強とは、少し違うのかも知れません」
「……そうだよね」
「そもそも最強のユニットなんていないと私は思いますよ。いたら、みんなそれを使うでしょうし」
「……意外だよ。君のことだから、てっきり根絶者が最強ですとか言いだすと思ったけど」
「そんなことを思っていた時期もありました。
ですが今の私から言わせてもらえば、グレイヲンもグレイドールも隙だらけですよ。グレイヲンは息切れも早いですし、CBを縛られたら何もできません。グレイドールだって、デリートできるのは一度きりですし、G2からライドしたらそれすらもできません。
ですが、この2体は同じデッキに投入することで弱点を補い合うことができます。グレイドールの苦手な序盤をグレイヲンが担い、コストの重いグレイヲンに代わってグレイドールにライドし直すことで長期戦にも対応できる。
どうです? 少し最強に近づいたと思いませんか?」
「……うん」
「ユニットにライドして力を借りるだけでなく、ライドするユニットを最強へと導いてあげるのが、先導者である私達の務めなのではないでしょうか。
ヴァンガードを始めて10か月。私はようやくそれに気付きました」
(10か月なんだ……)
始めて半年にも満たないタツミよりかはキャリアは長いが、ヴァンガードの歴史を考えれば短すぎるようにも思える。
よくぞここまで自信満々に、そして実際、的確にティーチングできるものだと、タツミは改めて目の前の少女を尊敬の眼差しで見つめた。
「そのためには、私達がユニットのことを理解してあげる必要があります。オーバーロードのことをよく知って、あなたの手で最強にしてあげましょう」
少女がオーバーロードのカードを手に取り、タツミの手に優しく置いた。
タツミはそれを受け取ると、「うん!」と力強く頷いた。
そんなやり取りのあとは、トライアルデッキとの対戦をひたすら続けて2日目は終わった。
――3日目
「パワー33000の《ドラゴニック・オーバーロード》でアタック!」
「ノーガード……私の負けですね」
「よしっ! また勝てた」
タツミが両拳を握りしめて喜びを露わにする。
「トライアルデッキには安定して勝てるようになってきましたね」
少女もどこか嬉しそうに頷きながら、かげろうのトライアルデッキを片付ける。
「では。次は私のヰギー軸根絶者が相手をしましょう」
「さすがにデリートもできない根絶者には負けないよ!」
「さて、どうでしょう」
少女の瞳が妖しく輝く。
タツミの体を外の冷気よりも冷たい悪寒が突き抜け、タツミは肌が激しく泡立つのを感じた。
「リアガードのヰギーでアタック。アルバを退却させ、パワー23000。さらに、ベリコウスティを
「う……ゴジョーでガード。ネハーレンでインターセプト」
「2体目のヰギーでアタック。エルロを退却させ、パワー23000。そして、ラオピアを
「ターでガード!
僕のターン! ……あああ、リアガードも手札もカラッポだ」
タツミはヴァンガードのオーバーロードだけで攻撃し、ターンエンド。
「このデッキには、デリートでコストを使わない分、
言いながら少女はエルロをコールし、アルバをドロップゾーンから蘇らせると、3体のヰギーで連続攻撃を仕掛けた。手札3枚のタツミが耐えきれるわけもなく、そこでゲームエンド。
「うーん……消耗戦になると言っていた意味が、やっと分かったよ」
「そうですね。リュウジさんがショップ大会で優勝できるクラスのかげろうと仮定するなら、この根絶者デッキにも安定して勝てないと、勝つのは厳しいでしょう」
「うん! 大丈夫。今のはオーバーロードに再ライドせず、ユニットを除去された時のため、手札に温存しておくべきだった。次は勝てるよ」
「……ええ。そうですね」
その日、少女はほとんどアドバイスを口に出すことはなく、3日目を終えた。
――4日目
「《ドラゴニック・オーバーロード》でヰギーにアタック!」
「ノーガードです」
「ゲット! ★トリガー! 効果は全てオーバーロードに! さらに手札を2枚捨てて、スタンドしたオーバーロードでアタック!!」
「ノーガード。ダメージチェック……負けました」
「よしっ! 5連勝!」
タツミが席から立ち上がり、拳を突き上げる。
「ふう」
少女は小さく吐息をつき、壁掛け時計を見る。
「どうにか仕上がりました。ギリギリでしたね」
時計の針は5時を回っていた。タツミの家の門限は6時らしく、この時間帯には、もうタツミは家に帰らなくてはならない。
「私から伝えられることはすべて伝えたつもりです。タツミさん、あとはあなた次第ですよ」
「う、うん! ありがと……」
タツミが礼を言おうとした瞬間、その瞳からぽろりと涙がこぼれ落ちた。
「あ、あれっ」
タツミが慌てて涙をぬぐい、力無く笑う。
「恥ずかしいところ見せちゃったな。はは……」
「……恥ずかしくなんかありませんよ。あなたがそれだけ真剣だったということです。4日間、お疲れ様でした」
「…………うん」
「あなたは見事、私の根絶流かげろう術を究めました」
「そんな流派だったの?」
「皆伝の証として、このカードをあなたに託します」
そう言って、少女はデッキケースから2枚のカードを取り出し、タツミに差し出した。
どうせまた根絶者なんだろうと適当に受け取ったタツミは、それを見て驚愕した。
「……受け取れないよ。こんな高いカード」
タツミがそれを丁寧に少女へ返却する。
「そうなのですか? 私、根絶者以外のレートには疎くて」
本気なのか、とぼけているのか。少女の表情からは判断がつかない。
そして、少女は突き出された2枚のカードをゆっくりと押し返した。
「根絶者しか使わない私にとって、そのカードは何の価値もありません。価値を知るあなたが使ってこそ、カードのためにもなる。そう思いませんか?」
「でも……」
なおも渋るタツミの手を取り、少女は真っ直ぐに少年を見つめて言った。
「そのカードを使うあなたを、私が見たいんです」
「……わかった。使わせてもらうよ」
タツミは2枚のカードを大切にデッキケースへとしまった。
「この2枚はデッキに入れておくよ。新しくなったデッキを一度も回さないままリュウジ君との対戦になるけど、大丈夫かな?」
「ええ」
少女は無表情のまま、自信たっぷりに頷いた。
「そのカードの使い方は、あなたならもう分かるはずです」
店を出てすぐ、2人は別れた。帰り道は別方向なのだ。
タツミの頬を、涙の雫が再び伝う。
タツミが泣きたくなったのは、特訓を終えた達成感だけではなかった。
あの白髪の少女に特訓をしてもらえることは、もう二度と無いのだ。
それを思うと、途端に自分ではどうしようもない感情が溢れてきた。
今もこうして涙を止められずにいる。
(そんな理由で僕は泣いたんだ。これは、恥ずかしいだろう……)
あの少女も、それを知れば呆れるに違いない。
泣き顔のまま家に帰るわけにもいかず、少年はしばらく店の前でうずくまり、小さな嗚咽を何度も漏らした。
4日目の終わりは、少し塩辛かった。
そして、1月5日――
「ありがとう。来てくれて」
「……約束だからな」
タツミとリュウジは『ジャスティス』のファイトスペースで再び向かい合った。
「ただし! ファイトするには条件がある。俺が勝ったら、お前は二度とかげろうを使うな。
……いや。だが、少なくとも俺とファイトする時にかげろうを使うのは止めてくれ。俺もかげろうを使うお前とはファイトしない。
弱いオーバーロードなんて見たくないんだ、俺は」
タツミの後ろに寄り添うように立つ白髪の少女を気にしてか、リュウジは慎重に言い直した。
「うん。それでいいよ」
タツミが即座に頷く。
「僕だって、不甲斐ないかげろうを見るのは、もうたくさんだから」
タツミの堂々とした態度に、普段とは違うものを感じたのだろう。リュウジはその原因と目される少女を見やるが、彼女がリュウジの方へと振り向くと、慌てて視線を逸らした。
「あ、あと、もう一つ確認だ。まさかファイト中にアドバイスをもらうわけじゃないよな」
「安心してください。ファイトに口出しするほど、私も野暮ではありません。何なら離れていましょうか?」
少女は肩をすくめながら即答する。
「……いや。ファイトの邪魔をしないのなら」
少女の立ち合いはリュウジも認め、2人のファイトの準備は整った。
「行くよ、リュウジ君」
「ああ。終わらせてやるよ、タツミ」
「スタンドアップ!」
「ヴァンガード!」
「《リザードランナー アンドゥー》!」
「《リザードソルジャー コンロー》!」
「ライド! 《バーサーク・ドラゴン》!」
先行を取ったリュウジが先にG2へとライドする。
「ちっ。ユニットは展開してねえか。少しは賢くなったようだが、ドローだけはさせてもらうぞ」
《バーサーク・ドラゴン》のスキルで、リュウジがカードを1枚引く。本来ならユニットを退却させつつドローまで行う強力なスキルなのだが、ユニットがコールされていなければ退却の部分は不発になる。
もちろんリュウジもユニットはコールせず、そのままヴァンガードで攻撃してターンを終えた。
「ライド! 《バーサーク・ドラゴン》!」
タツミも《バーサーク・ドラゴン》にライドし、カードを引く。その後のアタックも終え、オーバーロード使いにとって、ファイトはここからが本番となる。
「ライド! 《ドラゴニック・オーバーロード》!!」
黙示録の剣と呼ばれる大剣を携えた真紅の竜が戦場に立つと、炎は逆巻き、舞い踊る。主の降臨を祝福するかのように。
「イマジナリーギフト・フォースⅠはヴァンガードへ!
コール! 《ドラゴンフルアーマード・バスター》! その後列に《魔竜導師 キンナラ》!
そして、オーバーロードのスキル! オーバーロードにパワー10000だ!
行くぜ。オーバーロードでヴァンガードにアタック!!」
タツミは手札とダメージを交互に見比べると、リュウジを真っ直ぐに見据えて力強く宣言する。
「ノーガード!」
炎を纏った大剣で斬りつけられ、《バーサーク・ドラゴン》は苦悶の呻きをあげる。
ドライブチェックによるトリガーは無し。ダメージにもトリガーは無く、タツミのダメージは3点になった。
「エターナルフレイム!!
手札を2枚捨て、オーバーロードをスタンドする!
再び、オーバーロードでアタック!」
「ノーガード!」
再度オーバーロードの剣戟に晒された双頭竜の巨体が、いくつかの建物を巻き込みながら倒れ込む。
「ダメージチェック……ゲット、引トリガー! カードを1枚引いて、パワーは《バーサーク・ドラゴン》へ!」
「まだ攻撃は通るぜ。相手のリアガードがいないなら、フルアーマードのパワーは+3000! キンナラのブーストでアタックだ!」
「《レッドジェム・カーバンクル》でガード!」
タツミはダメージを4に抑え、彼にターンが回ってくる。
「ライド! 《ドラゴニック・オーバーロード》!!」
そして、帝国に2体目のオーバーロードが降臨した。
――ガアアアアアアッ!!
――ゴオオオオオオッ!!
2体のオーバーロードが互いに吠え猛る。
真の大君主は自分だと主張するかのように。
「イマジナリーギフト・フォースⅠをヴァンガードに。
《ベリコウスティ・ドラゴン》をコール。《ドラゴンナイト ネハーレン》もコールして、キンナラを退却させるよ。これでネハーレンとベリコウスティのパワーは+5000!
そして! ネハーレンの後列に《鎧の化身 バー》をコールしてフルアーマード・ナイトも退却! バーとベリコウスティに+5000!
ベリコウスティの後列には《ダマナンス・ドラゴン》をコール!」
「ちっ。かげろうでぞろぞろ展開してきやがって……」
リュウジが毒づくが、それは気に掛けずタツミは泰然とターンを進める。まだ未熟ながらも、その所作には王者の風格が備わりつつあった。
「《ドラゴニック・オーバーロード》のスキルでパワー+10000!
行くよ! パワー33000のオーバーロードでアタック!」
「ガード! 《アングリーホーン・ドラゴン》、《レッドジェム・カーバンクル》、《バーニングホーン・ドラゴン》、《ドラゴニック・バーンアウト》、《メルトストリーム・ドラゴン》!」
二振りの黙示録の剣がぶつかり合う。そこから灼熱の炎が火花となって散り、両者の闘気は火柱となって天を衝いた。
「ツインドライブ!!
1枚目、トリガー無し。
2枚目、引トリガー! 1枚引いて、パワーはネハーレンに!
続けて、ベリコウスティでアタック!」
「ノーガード!」
「ネハーレンが行く!」
「ノーガード!」
リアガードの攻撃はすべてヒットし、ダメージは4対4で並んだ。
「……ターンエンドだよ」
「……つっ、やるじゃねえか。してやったりって顔してるぜ?」
荒い息を吐きながら、リュウジが言う。
「そうかな?」
「リアガードはすべて焼かれ、俺の手札はこのドローを含めて3枚。だが、お前を倒すのに、この3枚があれば十分なんだよ! 見せてやる、これが俺のオーバーロードだ!!
ライド!! 《ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド》!!!」
その呼び声と共に、帝国の空は暗雲に包まれた。
白く輝く4枚の翼。強靭な肉体は、金と紅蓮で飾られた鎧で武装され、屈強な4本の腕には、それぞれ2振りの大剣と、2丁の重火器が握られている。
邪法によって、自らの命と引き換えに禁断の力を得た。
完成された強さを誇った暴竜が至りし更なる到達点。
その名は終焉の称号を以って、惑星クレイの歴史書と、人々の記憶に残されている。
「イマジナリーギフトは当然ヴァンガードに!
コール! 《カラミティタワー・ワイバーン》のスキル発動! カラミティタワーを退却! ジ・エンドのパワーに+15000!
さらに2体目のカラミティタワー! こいつもスキル発動してジ・エンドにパワーを与える!」
災厄の名を冠する竜の力を得たジ・エンドが、全身に炎を纏わせ、狂ったように吼え猛る。
「くらえ……パワー63000の《ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド》でアタック!!」
「2体の《ドラゴンモンク ゲンジョウ》、《槍の化身 ター》でガード! ネハーレンとベリコウスティでインターセプト! 2枚貫通だよ!」
「ツインドライブ!!
1枚目、★トリガー!! 効果は全てジ・エンドに!」
タツミの肩がビクッと大きく震える。リュウジは間髪いれず、次のカードを引く。
「2枚目! …………トリガーじゃねぇ」
ジ・エンドが2刀を同時に振り下ろす。そのうちの1刀はオーバーロードが両手で構えた大剣で受け止め、もう一刀は彼の忠実な部下達が身を呈して防いだ。
「だが、まだ終わりじゃねえ! エターナル・アポカリプス!!
手札が4枚以下の時、ジ・エンドはドライブ-1でスタンドする!!」
そう。どちらかの命が燃え尽きるその時まで、もはやジ・エンドが闘いを止めることはない。
「パワー73000の《ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド》でアタック!!」
ジ・エンドは重火器を構えると、弾丸を一斉に発射した。城壁すら一瞬で穴だらけにして粉砕する弾幕に晒され、オーバーロードは大剣を盾代わりにして耐え凌ぐ。
「《ワイバーンガード バリィ》で完全ガード!」
さらにワイバーンによる護衛部隊も到着し、次々とオーバーロードを守護するように取り囲む。が、装甲を纏ったワイバーンですら、ジ・エンドの猛射の前に、次々と撃ち落とされていく。
「ドライブチェック! ゲット! ★トリガー! 効果はすべてジ・エンドに!」
だが、多大な犠牲を払いながらも、ワイバーン達はオーバーロードを守りきった。
『ご武運を』
護衛部隊の隊長であるバリィは、傷だらけになりながらも主君へと敬礼する。
『大義であった』
オーバーロードもそれに礼を以って応えた。
「まだだ!!」
リュウジの叫びがイメージを断ち切る。
「エターナル・アポカリプス!!
手札を3枚ドロップすることで、ジ・エンドはパワー+10000、ドライブ-1してさらにスタンド!!
コストとしてバーニングホーンをドロップしたので、お前の《ダマナンス・ドラゴン》を退却!」
敵を完膚無きまでに滅ぼすまで、ジ・エンドは何度でも立ち上がる。自らをも含めた数多の命と引き換えに。
「見たか! 個にして、万の軍勢にも匹敵する!
これが俺のオーバーロード! 孤高の大君主だ!!」
リュウジが悲鳴にも似た声で叫ぶ。タツミのイメージを塗り替えんと吠え叫ぶ。
「終わりだ!! パワー93000の《ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド》でアタック!!!」
ジ・エンドが4つの武器全てに炎熱を纏わせ、同時に解き放つ!!
「《ガード・グリフォン》で完全ガード!」
黄金の羽根が舞い散った。
ジ・エンド渾身の一撃を受け止めた《ガード・グリフォン》が崩れ落ちる。
だが、オーバーロードは立っていた。
ゆらめく炎の如く悠然と。
「リュウジ君」
呆然とするリュウジに、タツミは静かに声をかけた。
リュウジは答えない。もしくは、答えられなかったか。
構わず、タツミは言葉を続ける。
「やっぱり格好いいね、オーバーロードは」
「あ?」
「孤高の大君主。リュウジ君がオーバーロードに抱いているイメージがはっきりと伝わったよ。
だから次は、僕のイメージを君に見せたい」
「……バカが。手札0枚で何を見せられるんだよ」
「今の僕なら引けそうな気がするんだ。あの切り札を」
言いながら、タツミがデッキに触れる。その一瞬、少女の方へと振り向いた。彼女はこくんと小さく頷いた。
「スタンド&ドロー……。
行くよ、リュウジ君! これが僕の理想の大君主!
ライド!! 《ドラゴニック・オーバーロード・ザ・グレート》!!!」
その呼び声と共に、帝国を再び太陽が照らしだした。
巨大だった翼はさらに雄大に。強靭だった肉体はさらに分厚く。
邪法に魅入られることなく、己が肉体をさらなる高みへと昇華させた。
それは、ありえたかもしれない未来が紡いだ、暴竜の新たなる姿。
偉大なる名を名乗り、異聞の果てにある帝国に君臨す。
「イマジナリーギフトはリアガードサークルに。
そしてそこに蘇れ! 《ドラゴニック・ネオフレイム》!」
タツミの声に応えて、煉獄の底から炎を纏いし竜が顕現し、伴星のようにグレートの側へと寄り添った。
「ネオフレイム? ……そうか。完全ガードのコストにして仕込んでいたか。タツミ、お前がこんな……」
リュウジが低い声で唸る。
「うん。僕ひとりでは、ここまで強くなれなかった。きっと、グレートもネオフレイムも使いこなせなかった。
けど、僕にはヴァンガードを教えてくれる親切な女の子が傍にいてくれた。
僕は独りじゃない。それと同じように、オーバーロードだってきっと独りじゃない。
だって、そうだろ! オーバーロードはかげろうを指揮する司令官なんだから!
信頼する仲間と肩を並べて戦う! それが僕のイメージする大君主だ!!」
タツミはそう宣言すると、まずは頼れる相棒に指で触れた。
「ネオフレイムでアタック!」
手札の無いリュウジにそれを防ぐ術は無い。
ネオフレイムの放った火球が、ジ・エンドに次々と着弾していく。
5枚目のカードがリュウジのダメージゾーンに置かれた。
「《ドラゴニック・オーバーロード・ザ・グレート》でアタック!!
ドライブチェック! ……トリガーは2枚とも無し」
グレートの両拳が固く握り絞められ、次の瞬間、ジ・エンドへと叩きつけられた。
ジ・エンドの鎧が粉砕され、邪法で形作られていた肉体が崩れていく。
「ダ、ダメージチェック……治トリガー!!」
だが、ジ・エンドは生き残った。
全てを投げ打ったからこそ、彼に敗北だけは許されない。
されど、グレートとネオフレイムも止まらない。
「エターナル・エクスプロージョン!!
手札を2枚捨てて、グレートとネオフレイムをスタンドさせるよ。
グレートよ。誇り高き大君主に、終焉の安らぎを!!
《ドラゴニック・オーバーロード・ザ・グレート》で《ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド》にアタック!!」
グレートが黙示録の剣を振り抜き、ジ・エンドの命脈を今度こそ断ち切った。
その死の間際、ジ・エンドは笑った。
それは正しき道を歩んだグレートに対する祝福だったのか。
いずれグレートにも訪れるであろう破滅を嘲笑ったのか。
それはきっと先導者達のイメージに委ねられている。
「俺が悪かった。ごめん!!」
ファイトが終わるやいなや、リュウジは席を立ち、タツミに向かって土下座した。
「ちょっ、ちょっと! リュウジ君!?」
意味がわからず、タツミはとにかくリュウジを立たせようとその腕を引っ張るが、リュウジの額に吸盤でもくっついているのではないかと思うくらい、その頭は床に貼りついていた。
「俺はタツミを侮辱した。タツミがこんな強いことを知らずに」
タツミが慌てている間にも、リュウジの謝罪の言葉は続く。
「弱いのは俺の方だった。俺にはもうかげろうを使う資格なんてない。俺はかげろうを使うのを今日限りで止めにする……」
「それはダメだ!!」
タツミが声を張り上げ、リュウジはそれに驚き、ようやく顔を上げた。
「僕はそんなことのためにファイトしたんじゃないよ。僕はただ、リュウジ君と一緒にヴァンガードがしたかっただけなんだ」
「タツミ……」
「リュウジ君。僕と一緒にかげろうを強くしていこう。きっと、僕にも君にも足りないところはいっぱいあるんだ。
けど、2人でなら、それに気付ける。教え合える。僕達2人の手でかげろうを最強にするんだ」
「……俺に、ネオフレイムになれと言うのか?」
「うーん。どちらか言うと、僕達2人で《ドラゴニック・オーバーロード “The X”》のイメージかな」
「古いカード知ってんな。けど、いいぜ。それなら俺もジ・エンドだからな!」
リュウジはようやく立ちあがると、手を差し出した。
「仲直りの。そして、誓いの握手だ。これなら受けてくれるな?」
「もちろん」
二人の少年は、ガッチリと固く握手を交わした。
「これからどうする? さっきのファイトの問題点を指摘し合うか?
それとも、グレートとジ・エンドの混合デッキでも考えてみるか?」
「いいね、それ!
あっ、けど、ちょっと待って。僕のことをコーチしてくれた女の子にもお礼を言わないと……」
タツミは少女の事を思い出し、慌てて周囲を見渡した。
しかし、タツミを見守ってくれていた少女の姿は、いつの間にか消えていた。
「あ、あれ? あの子、どこに行ったんだろう」
「……前から気になってたんだけどよ」
リュウジが腕組みして、半眼になってタツミを睨みつける。
「お前、何であの人のことを『女の子』とか『あの子』とか呼んでんの?」
「え? だ、だってあの子、僕達と同じくらいか、少し下だろ? 名前は知らないし、間違いは無いんじゃ……」
意味が分からないまま弁解するタツミに、リュウジは大きく溜息をついて尋ねる。
「お前、ヴァンガード高校選手権の中継見てた?」
「い、いや。
「そうか。お前にコーチしてくれていたあの人な。先月のヴァンガード選手権の優勝者だぞ?」
「え、それって……」
「あの人の名前は
それも、天海学園が出てなかったから実際はわかんねーけど、公式には高校ナンバーワンのヴァンガードファイターな」
「…………うそ」
硬直するタツミ。
それを見てリュウジは(ああ、今日のこいつはもう何も考えられないな)と頭を振るのであった。
「ふっふっふ~。見てたわよ、ミオちゃん」
店を出た白髪の少女――音無ミオを、黒髪で片目を隠した女子高生、彼女の先輩にあたる天道アリサが待ち構えていた。
「いつからですか?」
普通の人では分からない程度に目を見開き、ミオは驚きを表現する。
「んー、5日前からかな」
「ほぼ最初からじゃないですか。どんな冬休みの過ごし方してるんですか」
「うん。もっとファイトしたかったとは思ってる!」
アリサは堂々と後悔の言葉を口にした。
「それなら一緒に、特訓に参加すればよかったのではないですか?」
「それはできないでしょ」
アリサは即答した。
「ミオちゃんが初めて人に教える機会を邪魔しちゃ悪いもの」
「はあ。そういうものですか」
「もしもの場合はヘルプに入るつもりだったけど、不要な心配だったみたいね」
「もちろんです。私を誰だと思っているのですか」
そう言って、ミオは薄っぺらい胸を張った。
「その自信がどこから来るのかは分からないけど。
最後はあれでよかったの? 挨拶くらいしていけばよかったのに」
「彼はもう新しい相棒を見つけたようですので。
それに……彼もヴァンガードファイターなら、またいずれどこかで会えるでしょう」
都合よく北風が吹き、少女の白い髪をクールになびかせた。
「ちょっとカッコつけすぎな気もするけどね。いや、ミオちゃんの場合は天然か」
見ていて気恥ずかしくなり、アリサは頬をかいた。
「まあけど、ミオちゃんももうすぐ先輩だもんね。これなら後輩の育成も任せて大丈夫かな」
「あ……」
言われてはじめてその事実に気づいたかのように、ミオは小さく声をあげた。
「そうですね。もうすぐ3学期。それが終われば、私も高校2年生。
そして……」
そこから先は、彼女にしては珍しく口ごもった。
まるでそれを口にすることで、それが現実となってしまうことを恐れてしまうかのような。
「そして……ユキさんは高校を卒業されます」
「…………そうだね」
ようやく言葉として出てきたそれは、冷たいトゲとなって2人の心に突き刺さった。
あけましておめでとうございます!
今年最初の本編をお届けいたします。
今回はかげろう使い、山崎タツミの登場です。
なるかみ使いのOBと同じく、彼も高校生では無いので特別な状況でなければ話には絡ませにくいキャラクターなのですが、その分、今回は気合を入れて書かせて頂きました。
そのため、かなり長くなってしまいましたが、年始の時間を使ってゆっくりと読んで頂ければと思います(あとがきで書いても今更なのですが)。
お楽しみ頂ければ。特に、かげろう使いの方々に満足して頂ければ幸いです。
次回は「竜牙独尊」の「えくすとら」を1月25日前後に予定しております。
それでは、今年も根絶少女をどうかよろしくお願い致します。