根絶少女   作:栗山飛鳥

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5月「隠れていても無駄になる」

 ――時は5月より少し遡る。

鬼塚(おにづか)オウガっす! 本日よりカードファイト部に入部させて頂くことになりました! よろしくお願いしゃーす!!」

 目つきが悪く髪は脱色までしている、一見して近寄りがたい雰囲気のオウガに、アリサは平然と微笑みながら歩み寄った。

「ミオちゃんから話は聞いてるよ。あたしは部長で3年の天道(てんどう)アリサ。よろしくね、鬼塚君」

「うっす!」

 そう言って、アリサとオウガが堅く握手を交わす。

「ミオちゃんもお手柄ね」

「どうということはありません。

 ですが、これで部員は3人。響星(きょうせい)では部員が3名いれば部活動として認められるので、廃部の危機は回避されましたね」

 謙遜している割には仰け反るほど胸を張っているミオだったが、アリサは「そういうわけにはいかないんだよね」と水を差した。

「どういうことでしょうか?」

「あたしはユキのように推薦なんて取れないもの。9月には受験で引退することになると思う。そうなると……」

「部員が2人に戻りますね。廃部の危機です」

「そういうこと。部員探しは未だ急務よ。タイムリミットは9月だけど、5月までに新入部員が入らなければ、都合のいい転校生でも現れない限り、部員が増えることは無いと思いなさい」

「フラグですか?」

「だといいけどね! 今日の部活も、どうすれば新入部員が入ってくるかの会議に充てようと思うけど、何か案のある人!」

 少しの間を置いて、オウガがゆっくり手を挙げる。

「はい、鬼塚君!」

「ありきたりっすけど、ポスターとか貼ったらどうっすか? 正門前とかで配ることもできますし、あれば便利かと」

「なるほどね。いい案だけど、鬼塚君、絵は描けるの? あたしは無理よ」

「俺も下手くそですよ。人任せになっちまうから、あんまり出したい案では無かったんすけど」

 オウガが申しわけなさそうに頭をかいた。明朗快活なオウガが挙手を渋った理由がそれなのだろう。

「パソコン使って、それっぽいものは作れる? あたしは無理よ」

「パソコンとか超苦手分野っす」

「マジか。機械音痴がまたひとり」

 不毛なやり取りを黙って眺めていたミオが、静かに手を挙げる。

「要するに目立つイラストを描ければいいんですよね? 私、できると思いますけど」

「マジで!? ミオちゃん、イラストまで描けるの? 2年目にして、まだ隠し持っている特技があっただなんて」

「この音無(おとなし)ミオにできないことは、基本的には無いと思っていてくださって結構です」

「料理はできなかったけどね」

「昔の事は忘れました。アリサさん、カラフルなマーカーか色鉛筆は持っていませんか? 私、筆記具はシャープペンシルしか無いんです」

「いっぱいあるよー」

 アリサが筆箱を開くと、10本以上はある色とりどりのペンが机にばら撒かれる。

「……クラスメイトの机を見ていてもたまに思うのですが、これだけのペンをどこで使うのですか?」

「え? 授業でノート取る時に使うじゃん。ノートが綺麗な方が絶対にテンション上がるでしょ」

「絶対授業に集中できてませんよ、それ。チョークだって、多くて3、4色でしょう?」

 そんな雑談を交わしながら、ミオは鞄から適当なプリントを取り出し、その裏にイラストを描いていく。

 真ん中には、カードを手にしたお兄さんとお姉さんが「楽しいよ!」と言いながら優しく微笑んでおり、その横ではデフォルメされた男の子と女の子が楽しそうにカードファイトをしていた。

 みるみるうちにポスターらしく仕上がっていくプリントを見て、オウガとアリサから「おおおお」と感嘆の声があがった。

「こんなところでしょうか。これで問題なければ、家で清書して100枚ほど刷ってきますが」

「うん! うんうんうん! いいと思う!」

 一も二も無いアリサの同意を得て。

 ミオは無表情の仮面の裏で、ニタリと不気味な笑みを浮かべた。

 

 

 ――時は5月に戻る。

「何がいけなかったのでしょうか……」

 依然として3人しかいない部室で。ミオは腕組みをして、こてんと首を傾げた。彼女の前にある机には、大量に余ったポスターが無造作に置かれている。

 オウガが嘆息しながら口を開いた。

「……キャラ選としか思えねーっすけど」

「そんなバカな」

 ミオはポスターを1枚手に取って、改めて確認した。

 ポスターの真ん中には、カードを手にしたギヲとガタリヲが「楽しいよ!」と言いながら優しく微笑んでおり、その横ではデフォルメされたアルバとエルロが楽しそうにカードファイトをしていた。

「この人選のどこにミスが」

「全部、根絶者じゃないすか!!」

 オウガがポスターごと机を思い切り叩いた。

「下書きの段階では、全員人間でしたよね!? どうしてこうなったんすか!?」

「彼らは根絶者にデリートされました」

「怖っ!!」

 オウガは思わずポスターから飛び退いた。入れ替わりに、アリサが諭すように語り掛ける。

「正直に言いなさい。下書きの段階で根絶者のイラストを描いても反対されるだけと思ったんでしょ?」

「はい」

 悪びれもせず認める。

「ミオちゃんが感情の機微に聡くなったのは素直に嬉しいんだけど、それを悪用する日がくるなんて……」

 アリサは諦めたように息をついた。

「やっぱりミオちゃんには甘くなっちゃうなあ。清書を確認した段階でストップかけてもよかったんだけど、ミオちゃんの貴重な笑顔とともに見せられたら、もう何も言えなくなっちゃって」

「それは俺も同じっす」

 アリサの呟きに、オウガは心から同意した。

 普段は無表情なミオに「ふふん」と反り返りながら微笑まれると、大抵の事は許せてしまうのだ。初孫を前にした祖父母のような心境である。たぶん。

「やっぱり、《デスワーデン・アントリオン》も描かせるべきだったわ」

「部長も大概ズレてた!!」

 アリサのどうでもいい後悔にズッコケながら、次からは心を鬼にしようとオウガは固く誓うのであった。

「どうしたー? 何かあったかー?」

 そこに部室の扉が開き、白衣を羽織ったメガネの教師が入ってくる。

 顧問の春日(かすが)マナブ教師である。

 科学部の顧問を兼任しているため、滅多にカードファイト部には姿を現さない彼だったが、新学期に入ってからは1、2週間に1度くらいの頻度で部室を覗きに来ていた。

 理由としては、ユキがいなくなったのが大きいのだろう。

 アリサが部長として不足があると言うよりも、全てを委任されていたユキが特別だったのだ。

「何だお前ら。まだ3人しかいないのか?」

 マナブは部室を見渡すと呆れたように言った。

「ここ2、3週間、その味のあるポスターを抱えた女子生徒が部室の前をウロウロしてたから、てっきり入部してるものと思っていたんだがなあ」

 マナブの何気ない言葉を聞いて、部員達は揃って顔を見合わせた。

 

 

「鬼塚君は4階と5階! ミオちゃんは2階と1階! あたしは部室周辺をくまなく探す! それじゃあ、散開っ!」

「はい」

「うす!」

 アリサの号令の下、部員が校舎中に散らばっていく。顧問は、その間だけ部室を見ていてくれることになった。

(あのポスターを抱えた女子生徒か。ミオ先輩には悪いけど、あのポスターを一般人が欲しがるとは思えねーし、少なくともヴァンガードファイターである可能性は高いわな)

 廊下を見回るように歩きながら、オウガは頭の中で状況を整理していく。

(この時期の新入部員なんて、1年生がほとんどだろ。まずは5階を見てみるか)

 オウガは1年生の教室が集まる5階に上がり、改めて周囲を見渡した。放課後なだけあって、もう生徒の姿はほとんど見られない。この時間に残っている可能性があるとするなら、日直担当くらいだろうか。

 今もメガネをかけた小柄でおとなしそうな少女が教室から現れ、鞄からA3サイズの紙を取り出すと、ふうと小さい溜息をついて、またそれをすぐに鞄へとしまった。その拍子に見えたのは「楽しいよ!」とのたまうガタリヲ。

「って、いきなりかよっ!!」

 思わずオウガは叫んでしまい、すれ違いかけていたメガネの女子生徒が「ひっ」と悲鳴をあげた。

「おい、お前!」

 オウガは女子生徒に声をかけようとするが、女子生徒は踵を返して一目散に逃げ出した。

「あっ、待ちやがれ!!」

 本能的にオウガは女子生徒を追いかける。

「たっ、助けてええええ!!」

「お、おい! 誤解されそうなこと言うな!」

 身体能力的にはすぐオウガが追いつけそうなものだが、オウガは後遺症の残る脚を庇いながら走っているので、なかなか距離が縮まらない。加えて、女子生徒は本気になって逃げていた。追いつかれたら何をされるとでも思っているのだろう。

(そんなに俺って怖いか?)

 オウガは何だか傷ついた。

「ちくしょう! 逃がさねえぞっ!!」

「ひいいいいいっ!!」

 そうして、自分から誤解を大きくしていく。もはや世紀末に大量発生すると言われているモヒカンと言動が大差無かった。

 女子生徒は階段を駆け下りていく。

「ヒャッハー!!」

 オウガは意を決して階段を飛び降りた。脚に負担こそかかるが、これなら衝撃は一瞬で済む。

 4階、3階、2階と降りていくにつれて、二人の距離が縮まってきた。

 そしてついに1階の下駄箱前で――

「追いついたぜっ!!」

 オウガの手が女子生徒の肩にかかる寸前、オウガは自分の体がフワリと浮かび上がるのを感じた。オウガと女子生徒の間に、別の女子生徒が割り込み、オウガの腕を掴んでいる。

(投げられた!?)

 オウガはとっさに受け身を取った。廊下に叩きつけられる瞬間、体を持ち上げられる感覚があったので、無防備に叩きつけられても擦り傷ひとつ負わなかっただろうが。

 学校の授業では絶対に習わないような、見事な一本背負いを自分に決められる女子生徒など、オウガにはひとりしか思い当たるフシが無い。

「ミオ……先輩」

「はい。何でもできるミオ先輩です」

 もうもうと立ち込める砂埃が少しずつ晴れてゆき、ミオの冷たい瞳が自分を見下ろしているのが見えた。

「白昼堂々女子生徒を追い回すとは。ヤンキーは卒業したのではなかったのですか? 自分の中の荒ぶる獣が抑えられませんでしたか?」

 どっと周囲から歓声があがる。放課後とは言え、下駄箱近くにはまだ多くの生徒が残っていた。

「どうしたどうした?」

「鬼塚が女の子を追い回していたらしいぜ?」

「それを2年の音無さんが投げ飛ばしたって」

 勝手な噂が生徒達に伝播し、飛び交っていく。その中からおずおずと、オウガに追われていた女子生徒が進み出た。

 オウガはここでようやく彼女の容姿を正面に捉えることができた。

 染髪など考えたことも無いのだろう艶のある黒髪を、几帳面に肩口でまっすぐ切り揃えている。

 黒縁のメガネをかけているが、それがよく似合っており、地味な印象はあまり無い。

 ここまでなら生真面目な委員長タイプにも見えるが、凛としたイメージからは程遠く、ポスターを抱えて震えている様子はどこか小動物的であった。

「た、助けて頂きまして、ありがとうございました

 あ、あの、カードファイト部の方ですよね?」

「はい。どうかしましたか?」

 機械的に応対するミオに、少女は一瞬ひるみかけたが、意を決したように大きく息を吸うと、

「あっ、あの、そのっ! し、新入部員募集の件でお話を伺いたくっ!!」

 手にしたポスターを差し出し、というよりはポスターを盾にしながら、噛み噛みになって言った。

「……ここは騒がしくなってきましたし、続きは部室で話しましょうか」

 おどおどして今にも逃げ出しそうな少女を怖がらせないよう、ミオは全身全霊の優しい声音で(あまり変化は無かったが)少女を手招くのであった。

 

 

「まずはお名前をお伺いしましょうか。私はカードファイト部に所属している、2年の音無ミオと言います」

 教室の机に布をかけただけの簡素なファイトテーブルを挟んで、メガネの女子生徒と向かい合ったミオは簡単に自己紹介をした。

 ちなみに顧問は、ミオ達が戻るなり退室し、アリサはまだ帰ってきていない。

「隣にいるヤンキーぽい人は、1年の鬼塚オウガさんです。ヤンキーぽいですが、実はいい人ですよ」

 そして、隣に座っているオウガを肘で小突く。オウガは軽く頭を下げて謝罪を口にした。

「さっきは悪かったな。怖がらせちまって」

「い、いえ。私の方こそ、大げさに驚いてしまって……騒ぎにまでしてしまって、申しわけありませんでした」

 メガネがずり落ちんばかりに頭を下げる少女に、オウガは軽く肩をすくめた。

「気にすんなよ。一度はグレて、こんなナリになった自分にも責任が無いわけじゃねーから」

 そう言って、脱色に失敗して白くなった髪をいじる。

「いえ。私も小心者で。直したいとは思っているのですが……」

「あの、お名前を」

 放っておけば、いつまでも頭を下げていそうだったので、ミオは改めて少女に問うた。

「あっ、失礼致しました! 私、1年の藤村(ふじむら)サキと申します」

 そう言いながらメガネの位置を直して、サキと名乗った少女はまた頭を下げた。

「ここしばらく部室の周りをウロウロしていたようですが、何か理由があったのでしょうか?」

「す、すみません」

「いえ、怒ってはいないですけど」

「すみません。あの、私、カードファイトには昔から興味があって、2年前から自分でデッキも組んでいたのですが。一緒に遊んでくれるきょうだいもおらず、ヴァンガードをしている友達もおらず、対戦相手が見つからなくて……」

「ショップに行けば、ファイトに飢えた獣が腐るほどいますよ?」

「そうかも知れませんが、私の近所にあるショップは男の子ばっかりで、対戦を申し込む勇気が無くて……」

「?」

 本気で意味が分からないと言いたげに、ミオが首をひねる。

「世の中、先輩みたいに図太い女の子ばかりじゃないんすよ」

 オウガが茶々を入れたのか、助け船を出したのか、微妙なラインで口を挟む。あるいは、女子に囲まれてファイトをしているオウガは(そのことでクラスメイトにからかわれることもある)、サキに共感を覚えたのかも知れない。

「はあ」

 あまり納得はしていない様子だったが、とりあえずミオの首の位置が元に戻った。それを合図に、サキが話を続ける。

「けど、ここのカードファイト部は女性ばかりみたいで、ここならファイトを始められるかも知れないと思ったのですが、入学式の日には誰もいなくて……」

「そう言えば、その日はすぐに解散しましたね」

「次の日には怖そうな男子生徒が入部していて……」

「俺じゃねーか!!」

「ポスターは何だか不気味だし……」

「かわいい系を目指したのですが」

「やっていける自信がなくて。けどファイトはしてみたくて。気が付けば1か月もの間、部室の様子をうかがってました……すみません」

 サキが今までより深々と頭を下げた刹那――

「話は聞かせてもらったわ!!」

 バァンと勢いよく音をたてて扉が開かれ、アリサが部室に飛び込んできた。そして、サキを熱烈に抱きしめる。

「わかる! わかるわよ、サキちゃん! はじめは誰だって緊張するわよね! あたしだって昔はファイトスペースの隅で他人のファイトをじっと見ているだけだったもの! けど、もう大丈夫よ! 今日からあたし達が対戦相手になってあげるからね!」

「あ、あの、この人は……」

 アリサに抱擁という名のヘッドロックをかけられながら、サキが目線でミオに助けを求める。

「彼女はカードファイト部の部長で、3年の天道(てんどう)アリサさんです」

 ミオの説明を聞いて、サキが目を丸くした。言外に「この人が?」と言いたげに。

「サキちゃん、ファイトしましょう!

 そうね……カードファイト部に入りたければ、あたしを倒してみなさい!」

「え、私、まだ入部するとは……」

「こういうセリフを言ってみたかっただけと思うので、気にしないで結構です」

 ひとりで盛り上がるアリサに、ミオが補足した。

「ですが、アリサさんとはファイトをしてみるといいですよ。こんな人ですけど、ヴァンガードには誰よりも誠実な人ですから」

 さらに付け加えるミオは、どこか昔を懐かしむように遠い目をしていた。

 

 

「2年前からデッキは組んでいたって言ってたけど、ルールは大丈夫?」

「は、はいっ! ヴァンガード甲子園や、プロリーグの試合もよくテレビで見るので、大丈夫……と思います」

 ファイトの準備を進めるアリサとサキのやり取りを眺めながら、ミオとオウガも囁き合う。

「アリサさん、どこから聞き耳をたてていたのでしょうか?」

「藤村の名前まで知ってましたしね」

 そうこうしているうちに、ファイトの準備は完了したようだ。

「それじゃ、はじめましょ。スタンドアップ!」

「ヴァ、ヴァンガードっ!」

「《マシニング・ワーカーアント》!」

「《ドラゴンエッグ》です!」

 サキのファーストヴァンガードを見たアリサが軽く目を見張った。

「へえー。サキちゃんのクランはたちかぜなんだ」

「うおっ! カッケェ! 恐竜じゃねーか!! こんなクランもあるんだな!」

 サキの手札を覗き込んだオウガが歓声をあげ、アリサが「こら、手札がバレるでしょ」とたしなめた。

「根絶者もカッコいいですよ?」

 ミオが対抗して何か言っていたが、誰も聞いていなかった。

「私、弱い自分を変えたくて。恐竜さんのように強くなりたくて。それでたちかぜを選んだのですが、やっぱり似合わないでしょうか……?」

 サキが俯きがちになって、誰とはなしに尋ねる。アリサはそれを全力で否定した。

「そんなことない。ヴァンガードってなりたい自分をイメージするゲームでしょ? なら、あなたの使いたいクランが、一番似合ってるクランだよ」

「そ、そうですか! ありがとうございます……少し勇気が湧いてきたかも知れません。

 ライド! 《ソニックノア》!

 私はこれでターンエンドですっ」

「私のターンね。

 ライド! 《フラワリィ・ティアラー》!

 ワーカーアントの効果で1枚引いて……さらに、『クイックシールド』チケットをゲット!」

「あ、4月から実装された新しいシステムですね」

 サキがメガネ越しに目を輝かせながら言った。

「そうだよー。それじゃこのターン、あたしはユニットはコールせず……ヴァンガードのティアラーでアタック!」

「ノ、ノーガードです」

「ドライブチェック!

 トリガーは……残念、トリガーなし」

「ダ、ダメージチェックです……(ドロー)トリガー! え、えっと……」

「順番はどちらでもいいけど、1枚引いて、+10000するユニットを選んでね」

「は、はい! カードを引いて、+10000はもちろんヴァンガードの《ソニックノア》に」

「それでオッケー。じゃ、あたしはターンエンド」

「私のターンです。ドロー。

 ライド。《餓竜 メガレックス》! そして、コール。《烈爪竜 ラサレイトレックス》!」

「お。さっそくやる気ね」

「はい! まずはラサレイトレックスの登場時スキルを使います。山札の上から1枚、ラサレイトレックスに武装ゲージとして置きます」

「武装ゲージ?」

 聴きなれない単語を耳にし、オウガが首を傾げる。その視線の先にはミオがいた。

「はい。主に山札の上にあるカードを武装する、たちかぜ固有の能力です。それだけでは何の意味も成しませんが、たちかぜはその武装ゲージを利用する術に長けています。

 まあ、後は見ていれば分かりますよ」

 ミオが解説をしている間に、サキはバトルフェイズに突入していた。

 ラサレイトレックスのアタックはクイックシールドで防がれる。

「メガレックスのアタック時にスキル発動します! ラサレイトレックスを退却させて、1枚引きます!

 さらに、退却したラサレイトレックスのスキルも発動! SB(ソウルブラスト)1で……武装ゲージを1枚手札に戻します!」

「お、おおお? ラサレイトレックスは退却したけど1枚引いているから1:1交換ってやつで……?」

 オウガが指折り数えながら、今の状況を確認していく。そこにミオも助け舟を出した。

「武装ゲージだったカードも手札に加えているので2:1交換ですね。それも、ラサレイトレックスはアタックしてから退却しているので、実質的なアドバンテージはそれ以上と言えるでしょう」

「と、とにかく、スゴいんすね!」

 わかっているような、いないような調子でオウガが頷いた。

「じゃ、今度はメガコロニーのスゴさを見せちゃおうかな」

 ダメージを受けて、ターンの回ってきたアリサが、カードを引きながら言う。

「ライド! 《ブラッディ・ヘラクレス》!

 コール! 《マシニング・マンティス》! マンティスのスキル! CB(カウンターブラスト)1で山札から6枚見て……《無双剣鬼 サイクロマトゥース》を手札に加えるよ! さらにパワーも+6000!

 続けて、《スパイトフル・ホッパー》もコール! この子はSB1することで、ヴァンガードのヘラクレスに+6000! さらにCC(カウンターチャージ)してくれるの。

 おまけに、《ハイディング・キラーリーフ》もコール!

 さあ、バトルよ!」

「は、はい!」

 気合の入ったアリサのバトル宣言に、サキが身構える。

「キラーリーフでアタック! アタック時にスキル発動! CB1&SB1でパワー+10000!

 さらに、サキちゃんの山札の上から1枚、ドロップゾーンに置いてもらおうかな」

「え? は、はい……」

「ドロップしたカードがノーマルユニットだった場合、カードを引かせてもらうわ。

 サキちゃんがドロップしたカードは《掃討竜 スイーパーアクロカント》! 1枚ドローして、アタック続行!」

「ノ、ノーガードです。ダメージチェック……トリガー無し、です」

「続けて、ホッパーでブースト、ヴァンガードのヘラクレスでアタックよ! 合計パワーは23000!

 このアタックはヒットすると、他のユニットに+6000して、CCまでするから注意してね」

 ヒット時のスキルも、よほど慣れた相手で無い限り、アリサは丁寧に伝えてくれる。

「け、けどそんなパワー、防ぎきれませんよ。ノーガードです……」

 アリサのドライブチェックでトリガーは無し。続くサキのダメージチェックでは……

「フ、(フロント)トリガー! これで《マシニング・マンティス》のアタックは……」

「甘いわね。言ったでしょ。

 ヘラクレスのスキル発動! CC1して、マンティスに+6000! これでマンティスの合計パワーは21000! パワー19000のメガレックスに、まだアタックは通る!

 マンティスでアタックよ!」

「防ぐには……5000ガードが必要ですか? うう……」

(手札で5000ガードできるのは《突撃竜 ブライトプス》しかいないけど、たちかぜのキーカードだし。もったいないけど15000ガードを使っちゃっていいのかな……)

「ゆっくり考えていいからね」

 ぐるぐると頭を悩ませているサキに、アリサが優しく声をかける。

「はっ、はいっ! けど、決めました! (クリティカル)トリガー、《小角竜 ベビートプス》でガードします!」

「ん。オッケー。それじゃ、ターンエンドね」

 アリサが手を差し出して、ターンを渡す。

「や、やべー。このターン、ダメージゾーンに1枚しかカードは無かったのに、部長は手札を2枚増やして、それも最終的にダメージは表のままって……」

「アタックはしっかり3回届かせてますし、さすがはアリサさんです。

 オウガさんも、これがすごいと分かるのなら、成長していると言えるでしょう。

 ほら、そろそろサキさんがG3にライドするようですよ」

 ミオが盤面を指さす。

 サキがカードを引き、手札から大切そうに1枚のカードを抜きだした。

「ライドっ! 《餓竜 ギガレックス》!!」

 地響きが鳴り、あらゆる生命が呼吸を止めた。

 その瞳に映る全ては餌。

 食物連鎖の頂点に立つ、生きとし生ける者の天敵。

 野生が生んだ山の如き巨体に、科学が生んだ超兵器を満載した、傲岸不遜の暴君――ギガレックスが木々を薙ぎ倒しながら、その姿を現した。

「か、かっけええええええっ!!!」

 そのカードイラストを見たオウガが、雄叫びのような感想をあげた。その瞳は少年のように輝いている。

「そうですよね!? 私、このカードをずっと使ってみたくて……。その夢が、ようやく叶いました」

 サキの細い指が、愛おしそうにギガレックスのカードを撫でた。

「ふふ。まだライドしただけでしょ。実際に使ってみると、もっと好きになれるよ。その子も、ヴァンガードも、ね」

「は、はいっ!」

 アリサの言葉を受けて、サキは力強く頷くと、手札を一気に放出する。

「コール! 《突撃竜 ブライトプス》! その後列に《ソニックノア》! ヴァンガードの後列に《サベイジ・アカデミアン》です!

 そして、《烈光竜 オプティカルケラト》をコール! アカデミアンに武装ゲージを置きます。アカデミアンをレストさせて、武装ゲージのカードをスペリオルコール……」

 シャーマンの女性が、手にした卵に(まじな)いをかける。すると、みるみるうちに卵にヒビが走り、赤い翼の翼竜が勢いよく誕生した。

「《翼竜 スカイプテラ》!

 あとは、アクセルⅡサークルに《暴君 デスレックス》をコール!」

「やるわね。ヴァンガードを今日はじめたとは思えないくらい」

 ユニットで埋まったサキの盤面を見渡し、アリサが称賛した。

「ありがとうございます! たちかぜの戦い方は、テレビを見たり、本で読んだり、色々と研究してましたから!」

「けど、《サベイジ・アカデミアン》はレストしたままじゃねーすか? それもG2だし、ブーストできないんじゃ……」

 疑問の声をあげたのはオウガだ。

「たちかぜのパワーを甘く見てはいけません」

 ミオは意味深に、それだけを告げた。

「行きます!

 ギガレックスでアタック!!」

 餓竜が咆哮すると、全身の武装を全方位に展開した。狙いもつけず、敵も味方もお構い無しとばかりに。

『穿て! ニードル・エクスプロージョン!』

 そして文字通り、全身の武装が爆発した。

 戦場の全域に雨あられと降り注ぐ鉄片は、ギガレックスの巨体にとっては確かに針のようなものかも知れない。

 だが、それ以外の生物にとっては、掠めるだけで全身が砕け散ることは想像に難くない、死と破滅を凝縮した巨塊以外の何物でもなかった。

「ギガレックスはアタックした時、すべてのリアガードに武装ゲージを置くことができます。さらに、私のリアガードの数だけ、パワー+5000!」

「マジか!? ということは……?」

「サキさんのリアガードは6体。パワー+30000ですね。合計パワーは42000になります」

 オウガが指折り数えて計算するより早く、ミオがさっさと答えを言ってしまった。

「うーん。これはさすがにノーガードかな」

 アリサが苦笑しながら宣言する。

「ツインドライブです!!

 1枚目……前トリガー! 前列にパワー+10000します。

 2枚目……トリガーではありません」

「ダメージチェック……引トリガー! 1枚引いて、パワーは《ブラッディ・ヘラクレス》に!」

 戦場を蹂躙したギガレックスの「針」を、たちかぜの戦士達は思い思いに拾い集める。

 デスレックスは巨大な鉄片をそのまま背負い、オプティカルケラトは熱線で鉄板を加工して、即席の鎧とするなど、それぞれが武装を強化したのだ。

 そして、その進軍は留まることを知らず、悪の結社を追い詰めていく。

「ソニックノアのブースト! そのスキルでブライトプスに武装ゲージを乗せて……ブライトプスでヴァンガードにアタックです!」

「マンティスと、キラーリーフでインターセプト!」

「スカイプテラのブースト! オプティカルケラトでアタック! アタック時、武装ゲージをアカデミアンに置きます」

「《シャープネル・スコルピオ》でガード!」

「デスレックスでアタック! アタック時、ブライトプスを退却させます」

 鋼鉄でできた顎を開き、デスレックスが手始めに跳びかかったのは、味方のブライトプスだった。強靭な脚で押さえつけ、貪り食い、命を己の血肉とする。

「これでデスレックスのパワー+20000です!

 さらに、ブライトプス退却時のスキル。置かれていた武装ゲージ2枚を手札に加え、アタック続行です」

 血に塗れた牙で、デスレックスが今度こそ怪人に襲いかかる。

「これはノーガードよ」

 アリサのダメージチェックはノートリガー。

 これでダメージも3対3と並んだ。

「あたしのターンね。スタンド&ドロー。

 ライド! 《無双剣鬼 サイクロマトゥース》!!」

 漆黒にして古傷だらけの甲殻。

 一目で歴戦と分かる昆虫剣士が、血と硝煙の匂いに誘われるようにしてふらりと現れた。

 組織を抜け、強敵との死合いを求めて彷徨う怪人は、今宵、絶好の獲物を見つけたとばかりに、ガチガチと大顎を鳴らした。

 対するギガレックスは――いや、本人に対峙しているという自覚すらあるまい。

 新たに現れた一息に踏み潰せそうな虫けらを、無関心に見下ろしていた。

「イマジナリーギフト、プロテクトⅠ!

 コール! 《ブローニィ・ジャーク》! 登場時のスキル! パワー+6000して、またサキちゃんの山札の上から1枚、ドロップゾーンに置いて……G1以上だったので、SC(ソウルチャージ)

 コール! 《マシニング・マンティス》! パワー+6000、山札の上から6枚を見て……《デスワーデン・アントリオン》を手札に加えるよ。

 そのアントリオンもジャークの前列にコールして……バトル開始!

 サイクロマトゥースのアタック時、スキル発動! サキちゃんの山札の上から1枚……」

「ドロップに置けばいいんですね? ……あ、治トリガーが落とされちゃいました」

「その代わり、サイクロマトゥースも+10000されるだけね。ホッパーのブースト込みで、合計パワーは30000! ガードはどうする?」

「……ノーガードです」

「ツインドライブ!!

 1枚目……★トリガー! ★はマトゥースに。+10000は、アントリオンに。

 2枚目は……トリガー無し」

 サイクロマトゥースの手にした、反り返った刀が閃く。その一瞬後に、ギガレックスの纏う武装が2つに割れ、地響きと土煙を猛烈に巻き起こしながら地面に落ちた。そればかりか、ギガレックスの赤みがかった黄金色の甲殻にも一筋の傷が走り、そこから鮮血が噴き出した。

「ダ、ダメージチェック!

 1枚目……トリガー無し。

 2枚目……★トリガー! 効果は全てギガレックスに」

 ただ剣の一振りで、武装の半数を破壊し、手傷まで負わせたその妙技に、ギガレックスは感心するでもなく、目の前の怪人を敵として認めるでもなく、ただ虫けらに傷つけられた怒りのまま唸り声をあげた。

「ジャークのブースト、アントリオンでアタック! ブースト時にスキル発動! 手札から《無双剣鬼 サイクロマトゥース》を捨てて、サキちゃんも手札を1枚捨ててもらおうかしら」

「う……私が捨てるのは、《怒号竜 ロアーバリオ》です。そのアタックは《群竜 タイニィレックス》でガードします」

「マンティスはデスレックスにアタックよ!」

「デ、デスレックスをやらせるわけにはいきません。手札のメガレックスでガードです」

「あたしはこれでターンエンド。サキちゃんのターンよ」

「はいっ! スタンド&ドロー!

 ライド! 《餓竜 ギガレックス》! イマジナリーギフト・アクセルⅡ! 1枚引きます!

 アカデミアンをレストして2枚の武装ゲージの中から……《破壊竜 ダークレックス》をアクセルⅡサークルにスペリオルコール! 手札から《掃討竜 スイーパー・アクロカント》もコール!

 そして……ギガレックスのスキル発動! 武装ゲージを5つドロップゾーンに置くことで、デスレックス、ダークレックス、オプティカルケラトに+5000! さらに、先輩に1ダメージを与えますっ!!」

 ギガレックスがサイクロマトゥースに向かってあぎとを開いた。

 そこから放たれたのは、何よりも原始的で、現存するいかなる兵器よりも破壊力のある――単なる咆哮だった。

 ギガレックス渾身の雄叫びが、空気を爆発させるように振るわせ、形あるものを粉々に打ち砕いていく。

「スキルでダメージ!? マジかよ!?」

 驚愕のスキルを前に、オウガは悲鳴をあげるが、当のアリサは涼しい顔で4枚目のダメージをダメージゾーンに置く。トリガーは無し。

「いきますっ! ギガレックスでヴァンガードにアタック! 前列全てのリアガードとアカデミアンに武装ゲージを置いて、パワーは47000ですっ!」

「プロテクトで完全ガード!」

 ギガレックスがとどめとばかりに放った砲撃を、サイクロマトゥースの前面に展開した翠緑の盾が防いだ。

「ドライブチェックです! 1枚目……トリガー無し。2枚目……治トリガー! ダメージ1点回復して、効果はすべてデスレックスに!

 続けて、スカイプテラのブースト! オプティカルケラトでアタックします! アタック時、武装ゲージをアクロカントに」

「《ジュエル・フラッシャー》でガード!」

「デスレックスでアタック! パワー32000です!」

「《治療戦闘員 ランプリ》、《幼生怪人 ラバドラフ》でガード!」

「ソニックノアのブースト、アクロカントでアタック! ソニックノアとアクロカントのスキルで、アクロカントに武装ゲージを乗せて……そのパワーは自身に装備されている武装ゲージの数につき+5000されます。その合計値は……37000です!」

「ノーガードよ」

 アリサが5枚目のカードをダメージゾーンに置く。トリガーは無し。

「ダークレックスでヴァンガードにアタックします。ダークレックスのパワーは、武装ゲージ1枚につきパワー+2000され、私の場には武装ゲージが8枚。よって、パワー+16000。アクセルⅡサークルの強化と、ギガレックスの強化も合わせて、合計値は38000です」

「《強酸怪人 ゲルドスラッグ》でガード! レストしているサキちゃんの後列ユニットは3体なのでガード値は25000! そして、マンティスでインターセプト!」

「!?」

 予想外のカードの登場に、サキが鋭く息を呑んだ。

「あれで倒しきれないなんて…………あっ、すみません。ターンエンドです」

 先程の展開によっぽど自信があったのだろう。宣言を終えたサキは、がっくりと肩を落としてしまった。

「諦めるのは早いぜーっ!!」

 そこにオウガの声援がとんだ。サキがはっと顔を上げ、目を丸くしてオウガを見上げる。

「まだ手札も残ってる! このターンを凌いだら勝てるぜっ!!」

「……あなたはどっちの味方なんですか?」

 ミオが手で耳を押さえながら、呆れたように言った。

「どっちの味方も無いっすよ。頑張ってるやつの応援をするのは当然っす。それに……」

 スポーツマンらしい爽やかな笑みを浮かべて、オウガはサキに向かって親指を立てた。

「驚かせちまった詫びもあるしな」

 サキは少し目を潤ませると、力強くオウガに頷き返す。

「うんっ! 私、頑張ります!

 まだ、諦めません!」

 最後は、アリサに向かって堂々と宣言する。

「えー……何だかあたしが悪役みたいじゃない?」

 不満そうに言いながら――それでも表情はどこか嬉しそうな笑みを浮かべていたが――アリサはユニットをスタンドさせて、カードを引く。

「ま、いいか。悪役は悪役らしく……ね。

 ライド! 《真魔銃鬼 ガンニングコレオ》!!」

 漆黒の昆虫剣士と入れ替わるようにして現れたのは、白亜の昆虫銃士だった。

 その全てがサイクロマトゥースと対を成しているかのような怪人は性格も正反対らしく、強敵を前にしても手にした銃を淡々とそれに向けるのみ。

 ただ結社がため……障害を排除する。

「サイクロマトゥースのスキル発動! ライドされた時、サキちゃんの手札を1枚捨てさせるよ! 捨てたカードのグレードに応じてパワーも上がるから、よく考えてね」

「は、はい! 私が捨てるのは、G3のギガレックスです」

「オッケー。じゃ、コレオのパワーに+15000ね。

 続けて、コレオの登場時スキル発動! サキちゃんのデッキの一番上から一枚、ドロップゾーンに置いて……ドライブ+1、パワー+5000よ」

「はい……。あ、山札が……!」

 気がつけばサキのデッキ枚数は残り4枚。

「ふふふ。まだまだいくわよ。コレオの起動スキル発動! ソウルのG3をSBして、さらにサキちゃんのデッキの上から1枚、ドロップゾーンへ!」

「はい……これで3枚……」

「それだけじゃないわよ。このターン、サキちゃんはドロップしたカードと同じグレードのユニットではガードできない!」

「えっ? 私のドロップしたカードは引トリガー……グレード0。このターン、グレード0ではガードできない!?」

「そうよ。悪いけど、勝たせてもらうわ。パワー40000のガンニングコレオで、ギガレックスにアタック!!」

 手札にあった完全ガードは封じられ、仮に生き残れたとしても、山札が残り少ないのでギガレックスで武装ゲージを撒くことはおろか、アタックすることもできない。

 完敗だった。

「……ノーガード、ですっ」

 悔しさを噛みしめるようにして、サキが宣言する。

「トリプルドライブ!!!

 1枚目……トリガー無し。

 2枚目……トリガー無し。

 3枚目……★トリガー! ★はコレオに。パワーはアントリオンに」

 コレオの放った1発の銃弾が、ギガレックスの武装を射抜いた。

 ただそれだけで、任務は成し遂げたと言わんばかりに、コレオは戦場を去っていく。

 一度敵意を向けた者に、ギガレックスはけして容赦しない。その無防備な背中に全武装を向け、引き金を引いた。

 次の瞬間、銃弾を撃ち込まれた武装が赤く赤熱し、大爆発を起こす。その爆風が他の武装を傷つけ、またも爆発。誘爆が誘爆を連鎖させ、ギガレックスは自らの武装が起こす破壊のるつぼに呑み込まれた。

 ――オオオオオオオオオオッ!!

 怒号と爆音が空を裂き、それは燃え盛る火柱となって天にまで届いた。

「ダメージチェック……負けました」

 サキがダメージゾーンに6枚目のカードを置く。

「ナイスファイト!!」

 オウガが健闘を讃えるように手を叩き、ミオもそれに釣られるようにして、小さく拍手した。

「ふう。思ったよりもサキちゃんが強かったから、あたしも本気だしちゃった。

 どうだった? はじめてのヴァンガード」

 アリサが汗をぬぐいながら尋ねる。

「はい。負けちゃったのは悔しいけれど、とても楽しかったです。これがファイトなんですね……」

 晴々とした笑顔で、サキが答えた。

「けど……」

 だがその表情に、すぐ陰りが差す。

「これって、入部試験だったんですよね」

「うん。そうだよ」

「私、もっとヴァンガードがしたいです。今度はギガレックスを……たちかぜを、ちゃんと勝たせてあげたい。

 私はもう、カードファイト部に入部できないのでしょうか?」

「……そうだね」

「部長!」

 オウガが何か言うよりも先に、

「ここで諦めたら、もう入部はできないね」

 アリサが優しく微笑みながら言う。

「……え?」

「入部試験に合格する条件は、あたしを倒すこと。けど、挑戦は1回限りだなんて、一言も言ってないよ?」

 そして、悪い顔をして舌をぺロリと出した。

「さっきのファイトでどこが悪かったか、考え直してみよっか。デッキの改造がしたかったら、カードも貸してあげるよ」

「……は、はいっ!」

「私もお手伝いしますよ。ほら、オウガさんもお勉強です」

「……へーい」

 いつの間にかサキの背後に寄ってきたミオが言い、彼女に手招きされて、オウガも頭をかきながらやってくる。

 それから1時間後。3度の挑戦を経て、カードファイト部に新たな仲間が加わることとなった。




たちかぜ使いのメガネっ娘、藤村サキの登場です。
彼女はユキと並んで早い段階から構想が固まっていたキャラで、根絶少女を書くと決める前から、ヴァンガードで小説書くなら、たちかぜ使いは気弱なメガネっ娘だなと漠然と考えていたほどです。ギャップは正義。
たちかぜ使いの方にも、そうでない方にも、気にいって頂ければ幸いです。

たちかぜは、私が使っていないけど大好きなクランのひとつで、描写するのが特に楽しみなクランの一つでした。
恐竜さん達のド迫力ファイトを完璧に描写できているとは言い難いですが(まだ足りんな……)引き続き精進していきたいと思いますので、お付き合いくださいませ。
正直、DaisukeIzuka先生の描く、ギガレックスの荒々しい格好よさを表現するには、万の言葉を以てしても足りない心境です。

次回の更新は、5月6日までに「スペシャルデッキセット マジェスティ・ロードブラスター」の「えくすとら」を公開予定です。
本来「えくすとら」は発売後に公開ですが、せっかくのゴールデンウィークですし、22日に一斉更新は読むのも書くのも大変だと思うので、振り分けたいと思います。

そんなわけで、次回のえくすとらでまたお会いしましょう!
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