根絶少女   作:栗山飛鳥

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10月「これは、終わりに向かう過程に過ぎない」

 それはまるで神の生贄に捧げられたかのような少女だった。

 血の気を感じさせない白い肌。ぴったりと閉じられたまま微動だにしないまぶた。色素の抜け落ちた髪はシーツの上にまっすぐ均一にひろがっており、小さな掌は染みひとつない布がかけられた腹の上に重ね合わされている。

 とその時、白いカーテンの隙間から光が差し込み、少女の顔に重なると。

 死んだように眠っていた少女は、ぱっちりと瞳を開き、上体を直角になるまで起こした。

 時計が7時ちょうどを指していることを僅かに首を動かして確認すると、少女はまだ心地よい暖かさの残るベッドから躊躇無く抜けだし、大きく伸びをする。

 そして――

「おはようございます」

 だれもいない空間に挨拶をした。

 いや。視線の先には、シンプルな木製の勉強机があり、その上にはカードの束が置かれている。それは彼女が昨日の夜中まで調整を続けていたヴァンガード――この世界で最も流行しているカードゲームである――に使うデッキであった。

「今日もがんばりましょう」

 少女はデッキにもう一声かけると、丁寧にケースに収納し、通学カバンにしまい込んだ。

 誰に起こされるでもなく、目覚まし時計をかけるでもなく、予定していた時刻に目を覚まし、根絶者と朝の挨拶を交わす。

 それが少女――音無(おとなし)ミオの日常の始まりであった。

 

 

 ジャージはこの世界において完璧な衣類だと思う。

 冬は暖かく、吸水性が抜群なため夏でも着心地がよい。全身をくまなく覆っている割には生地がよく伸びるため動きやすい。

 これひとつで一日を過ごすのに、何の問題もためらいも無い。

 というのがミオの主張なのだが、アパレル会社に勤める母が泣いて止めるので、ミオはジャージを着て外に出たことはほとんど無かった。

 大学生か社会人にでもなってひとり暮らしをするようになったら、自由時間はずっとジャージでいようとミオは固く心に誓っている。

 ちなみに、ミオの私服はすべてその母が見立てて用意したものである。

 とは言え、今日は平日なのでジャージも私服も関係無い。

 ミオは寝巻代わりにしていた愛用の白いジャージを脱衣所の洗濯かごへ放り込むと、浴室に入り、きゅっと蛇口を大きく捻った。

 シャワーヘッドから勢いよく水が吐きだされ――それは結構な冷たさだっが、ミオは小さな悲鳴ひとつあげなかった――、一糸まとわぬミオの全身を濡らしていく。

 白磁のような肌が水を弾き、いくつもの水滴が手足に浮かんでは、滑らかな曲線をつたって肘や足先からこぼれていった。

 そうして寝起きの汗を流した後は、シャンプーを小量手に取り、髪に馴染ませ、泡立てていく。

 朝からここまでする必要があるのかミオは疑問だったが、これも母からの指令である。養ってもらっている立場上、彼女はそれに逆らうことはできなかった。

 丁寧に髪についた汚れを落としたところで、ようやく温かくなってきたシャワーの水を頭から被ってシャンプーを洗い流す。

 いい香りのする白い泡が排水溝へと流れていき、ごぼごぼと音をたてた。

 ミオは適当に髪の水を切って浴室を出ると、用意されていたふわふわのタオルで体を拭き、次いで髪の湿気を存分に吸わせる。あとはドライヤーをさっとかけると、ミオの白くて細い髪の1本1本が、さらさらと音をたてて流れていった。

 仕上げとして髪に櫛を軽く通すと、脱衣所にあらかじめかけてあった制服を手に取り、手早く身につけていく。

 一切の無駄を排した手際の良さで身だしなみを整えると、ミオは脱衣所を出てリビングに入り、口を開いた。

「おはようございます」

 そこには父も母もいなかった。

 ふたりともミオより早い時間に仕事に出かけることがほとんどである。だが、テーブルの上には食パン一斤を贅沢に使用した6枚重ねのフレンチトーストが用意されており、上にはアイスが乗っかっていた。

「いただきます」

 席につき、両親と大地の恵みに感謝の祈りを捧げると、ミオはナイフとフォークを手に取り、朝食とするには重たそうなそれを僅か2分で平らげた。

 両親が共働きで、なおかつ高給取りだからいいものの、そうでなければ、間違い無くミオは餓死しているか、一家がミオの食費で破綻しているだろう。

「ごちそうさまでした」

 ミオは両手を合わせて再びこの場にいない両親に感謝を告げると、食器を洗って、既に稼働している乾燥機に放りこむ。

 ここで一度時計を確認。

 7時30分ジャスト。

 計算通り。

 ミオは当然のように頷くと、椅子の隣に置いていた通学カバンを手に取り、肩にかける。

「いってきます」

 学校指定のローファーを履き、誰もいない家の中へと律義に告げると、ミオは朝日眩しい外の世界へと飛び出した。

 

 

 ミオの家から駅は近く、1分ほど歩けば駅に着く。そこから電車に揺られて約15分。さらに通学路を15分歩けば、ミオの通う「響星(きょうせい)学園」に辿りつく。

「む」

 その通学路で、見知った後ろ姿を見かけて、小さく声をあげる。

 ミオより頭ひとつ高い上背に、制服越しにでも分かる、細身に見えてがっしりとした肩幅。脱色に失敗して白くなった髪はツンツンに逆立っており、遠目からでもすぐにそれと分かる。

「おはようございます。オウガさん」

 ミオは小走りになってその背中に追いつくと、上半身から覗きこむようにして、その男子生徒に声をかけた。

「ちぃーっす、ミオ先輩!」

 それに威勢よく答えたのは、ミオの1学年後輩にあたる鬼塚(おにづか)オウガだった。

 ミオと同じ響星学園カードファイト部の一員で、色々あってグレかけていたところをミオに救われ、それ以来、彼女に忠誠を抱いていると言っても過言ではないほど慕っている男子生徒だ。

 通学ルートも通学時間も近いらしく、以前から登校時に会うことが多く、互いに驚きは無い。

 思えば、初めて出会ったのもこの通学路――正確には、そこから少し離れた裏路地――であった。

 歩幅の大きいオウガが歩くペースを少し落として、ふたりは並んで秋色の並木道を歩く。

「アリサさんのことは部長と呼んでいたのに、私のことは先輩のままなんですね」

 ミオがカードファイト部の部長になって2カ月、問い質しておきたかったことを、いい機会なので尋ねてみた。いつも無表情な彼女だが、その時はやや憮然とした表情をしているようにも見えた。

「ああ。やっぱり部長って言うと、アリサ先輩の顔が浮かんできてしまって違和感があるんすよ。……まさか、部長って呼ばれたかったんすか?」

「いいえ。むしろ、いつまで私のことを先輩だの何だの他人行儀な呼び方をしているのかが気になっていました。他の方のように、『ミオさん』なり『ミオちゃん』なり好きに呼んでください。

 何なら、私とオウガさんの仲ですし、呼び捨てにしてくださっても構いませんよ」

「それは……」

 オウガは苦笑して口ごもった。

 彼はただでさえ、美人で可愛いミオ(せんぱい)と同じ部活で共に過ごし、たまに登下校までしていると友人からはイジられているのだ。これ以上、誤解されるような行動は慎まねばならなかった。

 あと、後輩にも敬語で接するミオの方がよっぽど他人行儀な気がしたが、そこは触れないことにした。

「俺は中学時代のアメフト部で、あそこは上下関係が厳しかったんで、どうしても先輩呼びが慣れてるんすよ。好きに呼んでいいと言うなら、このまま先輩と呼ばせてほしいっす」

 結局、オウガは一番の本音を素直に口にした。

「そうですか。そういうことなら、しかたありませんね」

 しかたないと言う割には、ミオはふふんと偉そうに鼻息をついてあっさりとそれを了承した。

「そんなことより、デッキを新しく組み直したんすよ! また部活で手合わせお願いしまっす!」

 軽く頷いて感謝の意を示したオウガが、それよりヴァンガードの話をしたくてしかたがなかったという風に声を弾ませながら言った。

「ほう。いいでしょう。具体的にはどんな感じにですか?」

 ミオも同じように興味津々な様子で尋ねる。

「それはっすね……まずライジング・ノヴァがようやく4枚揃ったのと、G3の配分も変えてみました。先輩のアドバイス通りジギスヴァルトを1枚入れて、あとはG1に……って、話したらファイト前に戦略がバレるじゃないすか!!」

「おや、気付かれましたか」

 ミオが悪びれもせずに言った。

「ファイトの前から戦いは始まっているんですよ。大会でも対戦前にデッキを知られないように注意してください」

「……うっす」

 オウガが小さくなって項垂れていると、その背に自転車のベルの音と、少女の声がかかった。

「オウガ君!? ミオさんも!」

 オウガとミオが同時に振り向くと、折り畳み式のマウンテンバイクに跨り――今はそれを足で止めている――ミオほどではないが小柄な少女がそこにいた。

 艶のある黒髪を肩口でまっすぐ切り揃え、よく磨かれたメガネをかけた少女だ。

「サキさん、おはようございます」

「ちぃーっす!」

 ミオとオウガが同時にメガネの少女へと挨拶する。

「あ、お、おはようございます! オウガ君もおはよう!」

 メガネの少女が慌てて2回頭を下げた。

 彼女の名は藤村(ふじむら)サキ。ミオ達と同じく、響星学園カードファイト部の一員だ。

 サキは自転車から降り、それを押しながらミオ達と並行して歩き出す。

「珍しいですね。サキさんと一緒に登校するのは」

「はい。いつもはもう少し早く登校しているんですけど、昨日は夜遅くまで新しいデッキを組んでいて、そしたら寝坊しちゃいました」

「新しいデッキ!? どんなデッキなんだ?」

 オウガが話題に食いついた……ように見せかけて底意地の悪い笑みを浮かべながら尋ねた。

「え? 言えるわけないじゃない。また部活でファイトするのに手の内は明かせないでしょ」

「あ、ああ、そうだな……悪い」

 オウガはしどろもどろになって謝りながら、ちらりとミオの顔をみた。白髪の少女は「そら見たことか」と言いたげに、小さく胸を逸らせていた。

 この3名が、現在の響星学園カードファイト部の全部員である。

 部員数こそ、公式のチーム戦に出場できる定数ギリギリで、ファイト歴も約1年半のミオが最長だが、個々の実力は高く、部員仲も良好。

 それこそが響星学園カードファイト部であった。

 

 

 ミオは基本的に、授業はまじめに受けている。

 とは言え、1を聞いて10を知るを地でいくミオは、はじめの10分を受けただけであらかた概要を理解してしまうことがほとんどで、基本的には退屈な時間であった。

 ノートを取るフリをして、根絶者の落書きをしていることも多い。

 今日は化学の授業にちなんで、白衣姿のグレイヲンが「水兵リーベ 僕の船!」などとのたまっていた。

 昼休み。

 4限目終了のチャイムが鳴ると、ミオの姿は忽然と教室から消えている。

「響星ラーメン特盛り。トッピング全部乗せでお願いします」

 その姿は学食にあった。

 通常の倍以上はある椀の上に、卵、唐揚げ、チャーシュー、ありとあらゆる具材が盛りつけられ、肝心の麺が外から見えないラーメンが提供され、ミオはそれにお金を払う。

 忙しい両親はお弁当まで作る余裕が無いため、ミオはしばらくお小遣いをもらって購買や学食で昼食を買っていたが、アルバイトを始めてからは昼食は自分で買うようにしていた。

「いただきます」

 ミオは席につくと、いつもの祈りを学食のおばちゃんに捧げ、ラーメンを食べはじめた。

 昼食時のミオはいつもひとりである。

 入学当初は数人の女子に囲まれて一緒に食事したこともあったが、ミオがあまりにも話に入ってこれず、また話も続かないため、いつしか誰にも誘われなくなった。

 ミオとしても、誰々がイケメンだの、何とかのアイドルがカワイイだの、どこぞの彼が好きだの、そんな話題にはまったく興味が無いため清々している。

(バヲンがイケメンだの、ファルヲンがかわいいだの、ヲクシズが好きだのといった会話であれば、喜んで参加するのですが)

 麺をすすりながら、ミオはそんなことを考えていた。

(ひとりでいることが、そんなに寂しいことや、悪いことであるとは思えないのですが)

 むしろ、食事くらいひとりでゆっくりとらせてほしいと思う。

 そう主張する割には、僅か3分で特盛りラーメンを完食し、「ごちそうさまでした」と添えて食器を返却口に戻す。

 教室にある自分の席に戻ったミオは、しばらくボーッとしていた。正確には頭の中は常にヴァンガード(もしくは根絶者)のことでいっぱいなのだが、傍から見るとやることがないようにしか見えない。

「おーい、音無! バスケしよーぜ」

 そんなミオに数人の男子生徒が声をかけてきた。

 ミオはちらりと上目づかいになって男子生徒達を見上げた。そして、即答する。

「いいでしょう」

 女子からおしゃべりのお誘いにはまったく呼ばれなくなったミオだったが、男子からはよく勝負を挑まれるようになっていた。

 ミオとしても、おしゃべりよりもよっぽど気が楽なので、他の用事が無い限りは受けるようにしている。

 他人の顔色を伺いながら興味の無い話をするのは難易度は高いが、スポーツならば単純明快で、大抵の場合、玉をゴールに多く入れた者が偉いのである。実に簡単だ。

「着替えてくるので、先に体育館で待っていてください」

 急な状況においてもすぐに着替えられる。やはりジャージは素晴らしい衣類だと女子トイレで着替えながら再認識し、ミオは体育館に向かった。

 はてさて、小柄で可憐な容姿とは裏腹に、ミオの運動能力は非常に高い。

 筋力こそ見た目相応だが、ひと回り大きい男子が相手でも物怖じしない精神力。軟体動物に匹敵する体の柔軟性。未経験のスポーツにもすぐ対応する適応力に技術力。どこで培われたのかはまったく不明だが、驚異的な反射神経まで兼ね備えており、同年代の女子では相手にならない。

 そのため、たまに体育の時間も男子に交じってプレイさせてもらえることがあった。

 男子生徒達が休み時間にミオを気兼ねなく誘うようになったのも、そんなことがあってからである。

 そして今もミオは、身長の低さを最大限に生かした超低空ドリブルでライン際を駆け抜け、キュッと足音をたてた鋭いターンで2人の男子生徒を抜き去ると、シュートブロックに入った最後のひとりを鮮やかなフェイントで手玉に取り、機械の如く正確無比な3ポイントシュートでネットだけを静かに揺らした。

 男子と共にスポーツに興じ、男子を圧倒する少女の姿は、ミオが所属するクラスのみならず、全学年の男子にもはや戦乙女の如く崇拝されていた。

(さて、そろそろトドメを刺しましょうか)

 昼休みのレクリエーションであるが故、誰も正確な点数はカウントしていなかったが、ミオの頭の中は別である。体内時計が正しければ、そろそろ予鈴のチャイムも鳴るはずだ。

(現在の点数は18対2……最後に2点を奪って20倍の点差をつければ、勝ちと言えるでしょう)

 20倍どころか、2倍だろうと、1点差だろうと、リードさえしていれば勝ちは勝ちなのだが。

 彼女は勝負事になると一切の手は抜かず、理想も高くなる。

「山田さん。少し屈んでください」

 ミオは自陣に侵攻してきた敵からあっさりボールを取り返すと、相手ゴール前に手持無沙汰でいた――ミオが大抵のことはひとりでしてしまうからだ――チームメイトに指示を与えた。

「……え?」

 バスケらしからぬ不可解な指示だったが、ミオのどこか有無を言わさぬ静かな声音に、山田少年は素直に体を屈めた。

「失礼します」

 ミオはその背に足をかけると、小柄な体躯がふわりと宙を舞った。

 次の瞬間、鮮やかなダンクシュートがミオの手によってゴールに叩きこまれ、リングが大きく揺れた。

 バスケの参加者のみならず、体育館にいた誰もが唖然として、リングにぶら下がったミオを見上げたまま。

 キンコンカンコンと予鈴の音が鳴り、ミオは「いい腹ごなしになりました」と言って床に降り立つと、先に教室へと帰っていった。

 その後、山田少年は音無ミオに踏み台にされた男として、一部の男子生徒に羨望と嫉妬の眼差しを向けられることになるのだが、それはまた別のどうでもいいお話である。

 

 

 放課後は多くの生徒が待ちわびていた時間だが、ミオももちろん例外ではなかった。

 小走り気味に廊下を歩き、奥まった場所にある部室の扉を勢いよく開ける。

「全員揃っていますね。お待たせしました。それでは今日の部活をはじめましょう」

 談笑していたふたりの部員を見渡しながら――見渡すほどの数がいないのはさておき――ミオが宣言した。

「おふたりともデッキを新しくしたそうなので、今日は私達でデッキを回してみましょうか」

 部長に任命されて2カ月。ミオは慣れた様子で部員に今日の方針を提案する。

 とはいえ、このくらいの指示はアリサがいた頃からやらされていたが。

 ミオが部長になった時のため練習をさせてくれていたのか、単にアリサが楽をしたかったのか。真相は闇の中である。

「それでいいっすよ」

「はい。よろしくお願いします」

 部員の了承を得たので、ミオは通学カバンからデッキを取り出した。

 ちなみに、部員以外のファイターと戦いたい場合は、カードショップに移動し、ショップ大会に出場することもあった。

 学校の近所にある、部員にとってのホームとも言える『エンペラー』の他にも、とにかく数多くのファイターが集まる『タワー』や、実力者の巣窟である『ストレングス』など、この地域には多種多様なカードショップがあるため、選択肢には困らない。

「では、まずはサキさんから。私とファイトしましょうか」

「はいっ!」

 呼ばれたサキがデッキを抱えて前へと進み出る。

 学校で使われている机を向かい合わせにしてシーツを敷いただけの簡素なファイトテーブルを挟んで、ふたりは向かい合った。

 互いに手なれた様子で準備を整えると、一瞬だけ視線を交わらせて目礼する。

 そして、ふたりは同時にカードをめくった。

「「スタンドアップ ヴァンガード」」

 

 

 ファイトが動いたのは、後攻のサキがG2にライドした場面であった。

「ライド! 《真古代竜 ヘフトスティラコ》!」

「おおっ!?」

「ふむ。古代竜、ですか」

 オウガが驚きの声をあげ、ミオはどこか楽しそうに思案しながら顎に指をあてる。

「けど、サキがギガレックス以外のユニットを使うなんて……」

「うん。でも、私もたちかぜ使いとして色んなたちかぜを使わなくちゃって。ううん。色んなたちかぜも使ってみたいって思ったの。

 たちかぜの理解を深めることが、きっとギガレックスを強くすることにも繋がると思うから!」

「なるほど。では、サキさんの新しいたちかぜを見せてもらうとしましょうか」

「はい!

 コール! 《真古代竜 アロネロス》! アロネロスのスキル発動! 山札の上から3枚見て……《真古代竜 バレルトプス》をスペリオルコール!

 さらにバレルトプスのスキル発動で、1枚引いて、パワー+5000です」

「おお! 古代竜になってもたちかぜのアドバンテージ獲得能力は健在か!」

「あとは《真古代竜 プテラフィード》をコールしてバトルです!

 プテラフィードのブースト! ヘフトスティラコでヴァンガードのギアリにアタックします!」

「ノーガードです」

「ドライブチェック……やった! (フロント)トリガー! 前列ユニットにパワー+10000して、古代竜すべての(クリティカル)が+1されます!」

「ダメージチェック。1枚目、トリガー無し。2枚目、(ドロー)トリガー。1枚引いて、パワーはギアリに」

「ブーストしたアタックがヒットしたので、プテラフィードのスキル発動! デッキの上から7枚見て……《真古代竜 アルバートテイル》をスペリオルコールします!」

 残り2体のアタックは、ミオがソツ無く防いでサキはターンエンドを宣言する。

 この時点で、サキのダメージ2に対し、ミオのダメージは3。

「私のターンですね。スタンド&ドロー。

 ライド。《絆の根絶者 グレイヲン》。イマジナリーギフトはフォースⅠを選択し、右前列に置きます。そこに《慢心する根絶者 ギヲ》をコール。左前列には《突貫する根絶者 ヰギー》、その後列に《模作の根絶者 バヲン》をコール。

 そして、グレイヲンのスキル発動。ヘフトスティラコをデリートします。

 ヴァンガードがデリートされたので、ドロップゾーンから《招き入れる根絶者 ファルヲン》もスペリオルコールします。

 バトルフェイズです。ファルヲンのブースト。グレイヲンでヴァンガードにアタック」

「う……ノーガードです」

「ツインドライブ。

 1枚目、★トリガー。パワーはギヲに。★はグレイヲンに。

 2枚目は、トリガー無しです」

「ダメージチェック……。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、前トリガー! 前列ユニットすべてにパワー+10000します!」

「グレイヲンのアタックがヒットしたので、アルバートテイルを裏でバインド(バニッシュデリート)します。

 続けてギヲでヴァンガードにアタック時、スキル発動。後列のバヲンを退却させ、パワー+12000。さらに、アロネロスを裏でバインド(バニッシュデリート)。」

「つっ。展開した古代竜達が消されていく……。《群竜 タイニィレックス》と《真古代竜 ヘフトスティラコ》でガード!」

「ギヲでヴァンガードにアタックします」

「《草食竜 ブルートザウルス》! 《サベイジ・ラウディー》でガード!」

「4点の維持を選びましたか。ターンエンドです」

「わ、私のターンです! スタンド&ドロー!

 ライド! 《真古代竜 ブレドロメウス》!!」

 その背に長大な2本の刃を背負った二足の古代竜が大地を踏みしめ、岩山の陰から姿を現した。

 より巨大な存在であるグレイヲンをその眼に捉えると、威嚇するように咆哮する。

「イマジナリーギフトはアクセルⅡを選択! 1枚引きます!

《烈爪竜 ラサレイトレックス》をコール! このユニットに武装ゲージを置きます。

 そして、ブレドロメウスのスキル発動! ラサレイトレックスを退却させて、ミオさんのギヲも退却! 《真古代竜 バレルトプス》をスペリオルコールして+5000!

 バレルトプスのスキルも発動して1枚ドロー! さらに+5000!」

 ブレドロメウスが牙を剥き、敵味方問わず無差別に喰らう。さらにその呼び声に応えて、新たなる古代竜も地底から姿を現した。

「ラサレイトレックスの犠牲も無駄にはしません! SB(ソウルブラスト)で、武装ゲージだったカードを手札に加えます!

 あとは《真古代竜 ヘフトスティラコ》、《真古代竜 アルバートテイル》、《翼竜 スカイプテラ》をコールしてバトルです!

 ブレドロメウスでヴァンガードにアタック!!」

「ふむ。ノーガードです」

 僅かな思案の後、ミオはそう宣言した。

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し!

 2枚目、前トリガーです! 前列ユニット+10000! さらに、★+1!」

 ブレドロメウスが背中の刃を水平に広げると大きく跳躍し、電磁を纏った刃で縦横無尽にグレイヲンの巨体を斬り裂いていく。そのたびに電光が青白く瞬いた。

「ダメージチェック。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、★トリガー。パワーはヴァンガードに」

「すげえ! もうダメージ6まで射程内だぜ!」

「アクセルサークルのヘフトスティラコでヴァンガードにアタック!」

「《招き入れる根絶者 ファルヲン》でガードします」

「アルバートテイルのブースト、バレルトプスでアタック!」

「★トリガーでガードします」

「スカイプテラのブースト、バレルトプスでアタック!」

「完全ガードです」

「タ、ターンエンドです」

「私のターン。スタンド&ドロー。

《波動する根絶者 グレイドール》にライドします。フォースⅠはヴァンガードへ」

「うっ……」

「グレイドールのスキル発動。ヘフトスティラコを裏でバインド(バニッシュデリート)します。そして、ヴァンガードをデリート。ドロップゾーンからファルヲンもスペリオルコール。

《呼応する根絶者 アルバ》をコール。ドロップゾーンから《呼応する根絶者 エルロ》もスペリオルコールします」

「あ……あ……」

 どうやらサキは悟ってしまったようだ。

 これはいつもの負けパターンだと。

「グレイドールでヴァンガードにアタックします」

「タイニィレックス! プテラフィードでガード! クイックシールドも加えて、1枚貫通です!」

「では、ツインドライブ。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、治トリガー。ダメージ回復し、パワーはグレイドールに」

「ダ、ダメージチェック!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目……治トリガーではありません。負けました」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置いて、サキがしょんぼりと項垂れる。

「なるほど。攻めっ気は強いですが、守りはいま一つですね。もちろん完全ガードを引けていなかったのもありますが、そもそもそれを引いてくる引トリガーも多くは入れられないわけですし」

「そうなんですよね。さっきのターンを生き残れたとしても、前トリガーを引けなければノーガードで抜けられた可能性もありますし、ムラもありそうです。

 けど、使っていてワクワクしますし、気に入りました。私、しばらく古代竜を使います!」

「ええ。それがいいと思いますよ」

 デッキを胸に抱いて表情を輝かせるサキに、ミオが優しく頷いた。

「それじゃ、次は俺の番だな!」

 肩をぐるぐる回しながら、今度はオウガがミオの前にデッキをドンと力強く置いた。

「よろしくお願いしゃーす! 今日こそ負けませんよ!」

「はい。今日も返り討ちにしてあげましょう」

 オウガは豪快に、ミオは静かに笑い合いながら、ファイトの準備を整える。

「スタンドアップ!」

「ヴァンガード」

「《メカ・トレーナー》!」

「《発芽する根絶者 ルチ》」

 

 

 ここはダークゾーンの中心部にある、スパイクブラザーズのホームスタジアム。

 惑星クレイを強くイメージするふたりには、実際にその光景が見えていた。

 漆黒に塗りつぶされた空より来たる侵略者。それを新興チームの乱入と勘違いして迎え撃つ選手達に、異常事態にも関わらず誰ひとりとして逃げようとしない命知らずの観客達。

「ライド! 《バッドエンド・ドラッガー》!! フォースⅠをヴァンガードサークルに。

 メインフェイズ開始時に《前線司令 ジギスヴァルト》のスキル発動! ドロップゾーンの《ワンダー・ボーイ》を山札に戻し、このカードをソウルインして1枚ドロー! さらに、CC!

《ワンダー・ボーイ》もスキル発動! このカードをソウルインして新たな《ワンダー・ボーイ》をスペリオルコール! 登場時、★トリガーをデッキに戻して+5000!」

 2点のダメージを受けた先行のオウガが、まずはG3にライドする。

「《パワーバック・レナルド》をコール! CB1と、手札1枚をソウルに置いてスキル発動! デッキの上から3枚見て……それらをすべてスペリオルコール! 《スパイキング・サイクロン》! 《アクロバット・ベルディ》! 《ソニック・ブレイカー》!

 バトルだぜ! 《ソニック・ブレイカー》のブースト! レナルドでリアガードのギヲにアタック!」

「ノーガード。ギヲは退却します」

「俺の本気はここからだぜ! 《ワンダー・ボーイ》のブースト! 《バッドエンド・ドラッガー》でヴァンガードにアタック!

 アタック時、バッドエンドのスキル発動! 《ソニック・ブレイカー》をデッキに戻し、パワー+5000、★+1! 合計パワーは41000!」

「治トリガーと★トリガーでガードします」

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し!

 2枚目、トリガー無し!

 続けて、ベルディでブーストしたサイクロンでアタック!」

「これはノーガードです。

 ダメージチェック、引トリガー。カードを1枚引いて、パワーはヴァンガードに」

「これで3ダメージか……ターンエンドだぜ!」

「それでは私のターンですね。スタンド&ドロー。

 ライド。《模作の根絶者 バヲン》」

 それは無数の足を持つ骨の牡牛。血の如く染まりし赤と、毒の如く煙る紫の瘴気を纏いて、亡者の悲鳴にも似た雄叫びをあげる。

「《呼応する根絶者 エルロ》をコール。ドロップゾーンから《呼応する根絶者 アルバ》もスペリオルコールします。

《速攻する根絶者 ガタリヲ》もコールして、バトルフェイズへ。

 バトルフェイズ開始時、バヲンは《バッドエンド・ドラッガー》の姿(パワー)を模倣します」

 ミオの声に応え、バヲンの姿が瘴気とともに変貌していく。

 はじめは子どもが粘土をこねるかのように、潰れては起きあがりを繰り返し、その中で少しずつ人の姿を成していく。牡牛の頭骨はそのまま、《バッドエンド・ドラッガー》の姿へと。

「アルバでレナルドにアタックします」

「ノーガード。レナルドは退却だぜ」

「では、ガヰアンのブースト、バヲンでヴァンガードにアタックします」

「ノーガード!」

「ツインドライブ。

 1枚目、★トリガー。★はバヲンへ。パワーはエルロに。

 2枚目、引トリガー。1枚引いて、パワーはエルロへ」

「ダメージチェック。2枚ともトリガー無し……」

「おや。今日も私が勝ってしまいそうですね。ガタリヲのブースト、エルロでヴァンガードにアタックします」

「ノーガード。引トリガー。1枚引いて……きたぜ!!」

「ほう? とりあえず、エルロのスキルで《スパイキング・サイクロン》を裏でバインド(バニッシュデリート)。私はこれでターンエンドです」

「俺のターン。スタンド&ドロー!!

 ここからが俺の本気だぜ!!」

「前のターンも同じこと言っていたような気がしますが」

「なら、ここからが本気の本気だ!!

 ライドッ!! 《逸材 ライジング・ノヴァ》!!」

 それは長い白髪を逆立てた何の変哲も無いオーガであった。

 だが、彼の立っている場所がギャロウズボールのスタジアムであることを考慮すると、それは異常な光景であった。

 ドーピングや武装、肉体改造(そのままの意味で)が当たり前のギャロウズボールにおいて、例え身体能力に優れたオーガであっても生身でのプレイは自殺行為に等しい。

 弛まぬ鍛錬で天性の肉体を鍛え上げ、その不可能を可能にした数少ない男こそが、このライジング・ノヴァなのだ。

『へっ。今日の対戦相手は、ずいぶん個性的な連中だな。構うことはねぇ。いつも通りブッ潰すぜ、野郎ども!!』 

 彼の号令に、無頼の荒くれ達が一丸となって鬨の声をあげる。

 スパイクブラザーズを制するのは正義でも悪でもなければ、もちろん反則の技術などであるはずもない。

 ただ圧倒的な力こそがチームを率いる最たる資格となるのである。

「ライジングノヴァはイマジナリー・ギフトをフォースⅠ・Ⅱ、両方得ることができる! こいつを《アクロバット・ベルディ》に預けるぜ!」

「懸命な判断です。フォースⅠをヴァンガードに渡せば、バヲンも強化させてしまいますからね」

「バッドエンドのスキル発動! ライドされたこのユニットをスペリオルコール! さらに、同列の相手リアガードをすべて退却させるぜ!!

 吹き飛べ、ガタリヲ! エルロ!」

 ミオが2枚のカードを静かにドロップゾーンに置く。

「メインフェイズ開始時、《ワンダー・ボーイ》のスキルも発動するぜ!

 手札から《アドルブスパーム・ローナ》をコールして、山札から《デッドヒート・ブルスパイク》をスペリオルコール!

 そして、ライジング・ノヴァのスキル発動!! フィールドにいるG3の能力を得る!!

 俺に力を貸せっ!! ブルスパイクッ! バッドエンドッ!」

 3人の、たった3人の男達の怒号が、スタジアムを埋め尽くす数万の観客の歓声をかき消し、フィールドを震わせる。

「これで準備完了だぜ! バトルフェイズ!!」

「バトルフェイズ開始時、私のバヲンもスキルが発動します。ライジング・ノヴァと同じ、パワー23000に」

 オウガの前に立ちはだかるように、小さな掌を突き出してミオも宣言する。

「まずはベルディでブーストしたブルスパイクで、アルバにアタックするぜ!」

「ノーガード。アルバは退却します」

「《ワンダー・ボーイ》のブースト! 《逸材 ライジング・ノヴァ》でヴァンガードにアタック! ライジング・ノヴァのスキルで、すべてのフォース・マーカーをヴァンガードに移動させる! さらに、ブルスパイクをデッキに戻し、パワー+5000、★+1!」

「《真空に咲く花 コスモリース》で完全ガードです」

 ライジング・ノヴァが跳躍し、手にしたボールをバヲンに叩きつける。その刹那、何もなかったはずの空間から鋼鉄の花がバヲンを守るように咲き、それを受け止めた。

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、引トリガー! 1枚引いて、パワーはすべてバッドエンドに!!

 アタックがヒットしなかったので、ライジング・ノヴァのスキルでガヰアンを退却! 1枚ドロー!

 続けて、ローナのブースト! バッドエンドでヴァンガードにアタック!! ベルディをデッキに戻し、パワー+5000、★+1!

 そして、フォース・マーカーをすべてバッドエンドに移動させるぜっ!! 合計パワー58000、★3だっ!!」

 勝利を確信したような不敵な笑みを浮かべて、ライジング・ノヴァが背後へとボールを放り上げ、それを空中でキャッチしたバッドエンドが雄叫びをあげて畳みかけるようにバヲンへと突貫する。

「……ノーガードです」

 それを阻む者は、もはやいなかった。

 ミオが静かに山札のカードをめくる。

「ダメージチェック。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、治トリガー」

「げ!?」

「……は発動しませんね。

 3枚目……トリガー無しです」

 ボールを叩きつけられたバヲンの面がひび割れ、粉々に砕け散る。その瞬間、ライジング・ノヴァを模倣していた体もドロリと溶け、僅かな瘴気を漂わせる黒い水たまりとなって消えた。

「おめでとうございます。オウガさんの勝ちですよ」

「……勝った、のか? 俺が? ミオ先輩の根絶者に……」

「そうだよ! すごいよ、オウガ君!!」

 呆然としたままのオウガに、サキがまるで自分のことのように喜んで、声をかけた。

 それでようやく実感が湧いたのか、オウガは開いていた拳をじわじわと。最後はぎゅっと握りしめ、雄叫びをあげた。

「っしゃあああああああーーーーっ!!!!」

 それはまさしく獣の咆哮の如く、狭く老朽化した部室を震わせた。

(ついに負けてしまいましたか。悔しいのに、どこか嬉しくもある。複雑で、それでも悪くはない感情ですね、これは)

 椅子の背もたれに体を預けながら、ミオはそんなことを考えていた。

「よく頑張りましたね、オウガさん」

「うす!」

 オウガが落ちついたのを見計らい、ミオが静かな口調でオウガに語りかけた。

「ご褒美に頭をなでなでしてあげましょう」

「ぶっ!!」

 そして、藪から棒に言い放った言葉に、オウガが噴き出し、サキが目を見開いて両者を交互に見やった。

「な、なでなでって……この歳になって、さすがにそれは」

 しどろもどろになって、オウガが断ろうとする。

「ほう? 現役女子高生の先輩に頭をなでてもらえる機会など、今後一生あるかないかですよ?」

 すかさず、働いているメイド喫茶の常連である御厨ムドウの物言いを真似てみてミオが言う。

 さすがシャドウパラディンと萌えに造詣の深いムドウの言葉なだけはあり、効果は覿面だった。オウガが「う……」と悩ましげに小さく唸る。

「断言しましょう。ここでなでなでを断れば、あなたは一生後悔をします」

 ミオがすかさず追い打ちをかけると、オウガは観念したように、素直に頭を差し出してきた。

 ミオは小さな手を差し出し、それに優しく触れる。オウガの逆立った白い髪は、ミオのものとは比べ物にならないほど固く、ごわごわしていた。

(負けた腹いせに、ちょっぴりからかいたかったのもありますが……)

 わしわしと遠慮無く撫でながら、ミオは心の中で語りかける。

(あなたを褒めてあげたかったのも本心なんですよ)

 その様子はどこまでも無垢で、慈愛に満ちており、1枚の絵画を思わせる光景であった。

 

 

 午後8時。

「ただいま」

 ミオが帰宅すると、父親が夕飯を作って待ってくれていた。母親は帰宅時間が不安定なので、夕飯を作るのは基本的に父親の仕事だ。今もまだ母親は帰っていないらしい。

 ミオはパンケーキサイズのハンバーグを3分で平らげると、湯船に浸かり、寝巻(ジャージ)に着替えた。

 脱衣所から出ると母親が帰宅していたので、「おかえりなさい」と声をかけ、2階にある自分の部屋に上がる。

 最近は冷えるので毛糸のカーディガンを肩がけにしてから、PCの電源をつけ、ヴァンガードと根絶者の情報を収集。その後は、通学カバンからデッキを取り出し、今日の部活動の結果を踏まえて調整する。

(思えば、オウガさんがはじめにフォースをヴァンガードに置いたのは、私にバヲンへのライドを誘導するためだったんですね。グレイヲンにデリートされては、バッドエンドをスペリオルコールできなくなってしまいますから。バヲンのパワーが上がっても、それを貫けるだけの自信もあった。

 ふふ、今回はしてやられました)

 悔しいはずなのに、また笑みがこぼれる。

(ですが、あの要求値のアタックを防ぎきれなかった私の構築にも不備があったのも事実でしょう。手札にG3が多かったのと、そもそも手札の枚数が少なかった。となると、G3を減らすか、引トリガーを増やすかですが。戦い方も、G1のコールは控えたほうがよかったのかも知れません……)

 反省点を洗い出し、デッキを微調整していく。だからと言って、それが確実に強化に繋がるか分からないのがカードゲームの難しいところであり面白いところだ。

 新しく入れたカードが思い通りに引けないこともあるし、そもそも今日負けたことが、たまたま運が悪かっただけの可能性もある。実際、あの後オウガと4戦ファイトし、それらはすべてミオの勝利で終わっていた。偶然の敗北を意識しすぎて、デッキを弱くさせてしまったのでは笑えない。

(……む。もうこんな時間ですか)

 ふと時計を見ると、時計は午前の1時を指していた。

 ヴァンガードの事を考えていると、時が経つのを忘れてしまう。ミオの優秀な体内時計も、この時ばかりは機能不全だ。

(ヴァンガードのためなら、まだまだ起きていられるのですが……)

 そんなことを思っていると、「ふわあ」と大きなあくびが自然と漏れた。

(……いえ。もう寝ましょうか。今日は脳を酷使しすぎてしまったようです。サキさんも、オウガさんも、もう楽には勝たせてくれなくなりましたから)

 ミオはひとまずの調整を終えたデッキを机に置くと、ふらふらとベッドに転がり込む。

「おやすみなさい。また明日」

 軽く体を起こしてデッキに声をかけ、遊び疲れたお人形のようにぱたんと倒れると、ミオは静かに目を閉じた。

 彼女の一日はこうして終わる。

 明日もまたいつも通りの。そして、充実した新しい日常が始まるのだ。




今回は音無ミオの華麗なる日常回をお送りさせて頂きました。
ちなみに休日は、朝からカードショップに行って、一日中ファイトしているようです。
幸せか。

次回は「蒼騎天嵐」のえくすとらとなりますが、発売延期された10月15日あたりの更新を予定しております。
こちらも楽しみにして頂ければ幸いです。

【デッキログ】
藤村サキ:3TGG
鬼塚オウガ:GDVC
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