根絶少女   作:栗山飛鳥

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12月「あれが正真正銘の「怪物」だ」

「それでこの前の『月刊ブイロード』でさ……」

「しっ! 響星(きょうせい)学園が会場入りしたぞ!」

「響星って?」

「知らないのか!? 前回のヴァンガード高校選手権の優勝者、人呼んで“白妙の根絶姫”音無(おとなし)ミオを擁する高校だよ!」

 

 ヴァンガード高校選手権の会場に入るなり、他愛のない話で盛り上がっていた観客や他のファイターが一斉にミオ達を見た。

 喧噪に包まれていた会場が静まり返ったように見えて、そこかしこから浮かんでは消える囁き声のおかげで、むしろ賑やかになったようにも思える。

 

「後ろの2人は誰だ?」

「さあ?」

「知らねー」

天海(あまみ)に勝った“シンデレラ・インセクトガール”天道(てんどう)アリサは?」

「3年生だから引退したって聞いたけど」

 

「くそー! 今日こそは響星に鬼塚(おにづか)オウガありって、知らしめてやるからな!」

 周囲の声に聴き耳を立てていたオウガが、掌に拳を叩きつけて悔しがる。

「その意気です。が、雑音をいちいち気にしていたら身がもちませんよ」

 ミオが無感情にぴしゃりと告げる。

 

「おい! 東口から(セント)ローゼも入場したんだってよ!」

「それは見に行かなきゃ!」

「“黄金のプリンス”3年の小金井(こがねい)フウヤだ!」

「今年が最後のヴァンガード高校選手権だからな! きっと燃えてるぜ!」

「“黙っていれば大和撫子”神薙(かんなぎ)ミコトに、“神薙ミコトの弟”神薙ノリトもいるぞ!」

「最近頭角を現してきた1年生、“穢れし十字架”十村(とむら)ヒカルにも注目だぜ!」

 

 それぞれ別々の入り口から入場した聖ローゼと響星学園は、互いに惹かれ合うようにして、スタジアムの中心で出会った。

「おはよう。合同練習ぶりだね」

「おはようございます。あの時はどうも」

 両校の部長が互いに会釈をする。

「あの……私はさっきから有名なファイターにつけられている二つ名のようなものが気になるんですけど」

「わかる! ていうか、私の二つ名を考えたヤツは誰よ!? 見つけたら、八つ裂きにしてやる!」

「そ、そういうところなんじゃ……」

「あはは。僕なんて、姉さんの付属物扱いですよ……」

「俺もいつかカッコいい二つ名が欲しいぜ!」

「どうでもいいですよ。そんなもの」

「君、自分のだけ強そうだからって……」

 他の部員は珍しくヴァンガードとは関係の無い雑談に花を咲かせていた。聖ローゼにしてみれば、手の内を明かさないための自衛策を兼ねているのだろう。

「今日はお互いに全力を尽くしましょう。“黄金のプリンス”さん」

「やかましいよ」

 ミオが正々堂々と差し出した手を、フウヤがぺしんとはたき落とした。

 

「来たぞ! 天海学園だ!」

「“略奪者”(あおい)アラシだ!」

「“最速の将”清水(しみず)セイジもいるぞ!」

「そして、“薔薇の貴公子” “幻想の詩人(トルバドール)” “バミューダ・プロデューサー”綺羅ヒビキ!!」

「キャーッ! ヒビキ様ーッ!!

「ああ、今日もなんてお美しいの……」

 

 一際大きな歓声が爆発し、会場の熱気が一瞬でピークに達した。

「天海学園……今年は来たようだね」

 異様な雰囲気の中から、達人の気配を鋭敏に感じ取ってフウヤが呟く。

 

「ヒビキさん! 私のコーラルにサインください!」

「あ、私も! パシフィカにサインお願いします!」

「僕のアネシュカにも!」

 

 ミオは目と耳がとてもいい。離れていても、観客席の下段に人が集まり、彼らの手にしたカードが、次々とヒビキに向かって伸ばされていく光景がはっきりと見えた。

 ヒビキは嫌な顔ひとつせず、カードを受け取っては、どこからか取り出した油性ペンでサインを描き、持ち主に返していった。

「君、お名前は? ……いい名前だね。はい、どうぞ」

 彼はひとりひとりから名前を聞き出し、名前を添えるのも忘れなかった。カードを受け取った人は皆、満面の笑みでお礼を述べ、自分の席へと帰っていく。

「バミューダ△のカードを持ってなくて……ダークイレギュラーズのカードでもいいですか?」

「もちろんさ」

「ヒビキさん! 俺にもサインーッ!!」

「おっと。サインは必ずしてあげるから、順番に並んでくれたまえ。皆も警備員さんの指示には従うようにね!」

 即席のサイン会場と化したスタジアムの一角は、喧噪に満ちていたが、彼に関わる誰もが楽しそうだった。

「な、何なの? あれは……」

 ミオほど目がよくなくとも、何が起こっているのかは想像がつくのだろう。普段はつり目気味の目を丸くして、ミコトが呆れと驚きのこもった声をあげた。

「ようよう。聖ローゼに、響星の皆さんもお揃いで」

 他の者もヒビキが生み出した異常な光景に目を奪われていると、別の方向から声がかかった。皆が一斉に振り向くと、そこにはニヤニヤと笑みを浮かべた葵アラシと、堅い顔をした清水セイジがいた。

「天海学園……これはご丁寧に。優勝候補の君達が、わざわざ俺達なんかに挨拶頂けるとは」

 フウヤが聖ローゼを代表して頭を下げた。爽やかな彼にしては慇懃すぎるきらいがあり、アラシに対する敵対心が伝わってくる。

「謙遜すんじゃねーよ。前回大会の優勝者と準優勝者が揃い踏みしてんだ。挑戦者の俺らが挨拶に出向くのが筋ってもんだろ?」

 アラシはくっくっと笑いながら、心にもないことを口にして、それに応えた。

 両者の間でバチバチと見えない火花が弾け飛ぶ。

「本日はよろしくお願いする!」

「はい。よろしくお願いします」

 一方、響星の代表であるミオは無表情を少し緩ませ、セイジは鉄面皮を僅かに崩し、和やかな雰囲気で握手を交わしていた。ふたりはこうして顔を合わせるのは初めてだが、互いに無駄を好まない性格のため、気が合うのかも知れなかった。

「よう、オウガ! 久しぶりじゃねーか」

 不意にフウヤから興味を無くしたように視線をはずし、アラシはオウガの肩に馴れ馴れしく手を回した。身長差があるため、必然、背の高いオウガが屈まされることになる。

「アラシ……」

 オウガは敵意を隠そうともせず、オウガを睨みつけた。

「てめえには、絶対に負けねえからな」

「ククク……その意気だぜ。そんなこと言って、俺以外に負けるんじゃねーぞ。俺もそろそろあの日の決着をつけてえからなあ!」

 初めてアラシとオウガが出会った日、セイジの乱入でその日のファイトは流れてしまった。手札と盤面は誰の目から見てもアラシの圧勝だったが、彼はそれを勝ちとは微塵も考えていないようだった。

『ヴァンガード高校選手権に出場される選手の皆さま。間もなくファイトが始まります。事前に配布された番号に従い、所定のテーブルについてください。繰り返します――』

「お、始まるようだな」

 会場全体に響くアナウンスを聞いて、アラシがようやくオウガを解放した。

「では失礼する!」

 セイジが一礼して去っていき、アラシもそれに続いた。

「……ふう」

 フウヤは気を落ち着かせるように溜息をつくと、残った全員を見渡した。

「皆……今日ばかりは響星の皆も、健闘を祈っている。目標は、打倒天海学園だ!」

「おうっ!!」

 オウガが威勢のよい声をあげて応え、各々も力強く頷いた。

「ごめんよ。時間がきてしまったようだ……」

 一方、離れた場所ではヒビキが観客達に頭を下げていた。

「この続きは表彰式の後で必ずするからね。それまで、ボクの活躍を目に焼き付けていてくれたまえ!」

 少なくとも彼は、自分が敗退する可能性など露ほどにも考えていないようだった。

 

 

「ライド! 《逸材 ライジング・ノヴァ》!!」

 ライドされた《バッドエンド・ドラッガー》もスペリオルコールするぜ!!」

 白髪を逆立てた鬼と、武骨な巨漢がフィールドに腕組みして並び立つ。

「ライジング・ノヴァのスキル発動! 《スパイキング・サイクロン》と《バッドエンド・ドラッガー》のスキルを得るぜ!

 バトルだ!

 バッドエンドでアタック! スキル発動で(クリティカル)+1!

 ライジング・ノヴァでアタック! スキル発動で★+1! バッドエンドもスタンド!」

 両選手は巧みなフットワークで敵を翻弄すると

「トドメだ! バッドエンドでアタック!! スキル発動して★+1!!」

 最後はバッドエンドの巨体が、相手チームの主将(ヴァンガード)を完膚なきまでに圧し潰した。

「っしゃあ! 絶好調! んでもって、公式戦初勝利ぃ!!」

 オウガは思わず席を立ち上がり、拳を突き上げてガッツポーズ。対戦相手は「その強さで……? マジかよ」と言いたげに、それをぽかんと見上げていた。

 響星学園1年、鬼塚オウガ。1回戦突破。

 

 

「《真古代竜 ブレドロメウス》でヴァンガードにアタックです! ツインドライブ!!」

 サキが普段の彼女らしからぬ気迫のこもった声をあげて、細い指をデッキにかける。

「1枚目……トリガー無し。2枚目……(フロント)トリガー! 前列の古代竜すべてのパワー+10000! そして、★も+1です!」

 巨大な電磁ブレードを背負ったディノドラゴンが咆哮をあげ、その興奮が他の竜にも伝播していく。

「続けて、アルバートテイルでアタック! プテラフィードでアタック! アロネロスでアタック!」

 猛竜の群れに、一斉に襲い掛かられた犠牲者は喰らい尽くされ、哀れ、骨も残らないであろう。

「か、勝てたぁ……。あ、ありがとうございましたっ!」

 ファイト中の勢いはどこへやら。サキはほっと溜息をつくと、メガネの位置を直しながらたおやかに微笑むのであった。

 響星学園1年、藤村サキ。1回戦突破。

 

 

「《絆の根絶者 グレイヲン》のスキル発動。ヴァンガードをデリートします」

 ミオは大舞台でも普段通り、淡々としたプレイングで対戦相手を追い詰める。

「ドロップゾーンから《招き入れる根絶者 ファルヲン》をスペリオルコール。さらに、《呼応する根絶者 エルロ》をコールして、ドロップゾーンから《呼応する根絶者 アルバ》もスペリオルコールします」

 幾度となく焼かれても、彼女の根絶者は何度でも蘇る。

「グレイヲンでヴァンガードにアタックします」

 そして、無造作に振るわれたグレイヲンの爪が対戦相手を斬り裂き、その魂を虚無へと散らした。

 響星学園2年、音無ミオ。1回戦突破。

 

 

「《旭光の騎士 グルグウィント》のスキル発動! 山札から5枚見て、ベリーモールとジェフリーをガーディアンサークルにコール! 両者のガード値は共に+5000!」

 フウヤの憑依(ライド)するグルグウィントの前に黄金の騎士が立ちはだかり、身を挺して敵の攻撃を防ぎきる。

「続くアタックは《スカーフェイス・ライオン》でガードする!」

「た、倒せねえ……。これがアクセルクランの守備力かよ」

 フウヤの対戦相手が戦意を喪失したかのように呟いた。

「じゃあ終わらせよう。《青き炎の解放者 パーシヴァル》をコール。そのスキルで《誓いの解放者 アグロヴァル》もスペリオルコール」

 蒼炎を纏った騎士が剣を交差させ、双闘の誓いを立てる。

「パーシヴァルでアタック! 続けて、アグロヴァルでアタック! アタック時、パーシヴァルをソウルに置いて、パワー+10000!」

 青き火柱が聖域に立ち昇り、粛清の完遂を誰もが知った。

「ありがとうございました。いい勝負だった……とは言えないかな」

 フウヤは苦笑しながら手を差し出したが、対戦相手はそれを掴み返す気力も無いようだった。

 聖ローゼ学園3年、小金井フウヤ。1回戦突破。

 

 

「《セイピアント・エンジェル》のスキル発動。山札の上から3枚を見て、好きな順番に入れ替えさせてもらうわ」

 ミコトが山札をめくり未来を占う。フッと一瞬だけ勝利を確信したような笑みを浮かべると、素早くカードを入れ替えて山札の上に戻した。

「《豊熟の女神 オトゴサヒメ》のスキル発動! 手札を3枚捨てて、前列ユニットに+20000! オトゴサヒメに★+1!

 バトルよ! オトゴサヒメでアタック!!」

 豊穣を司る女神の放つ陽光が熱線と化し、神に仇名す不届き者を焼き尽くす。

「ガード! 2枚貫通だ!」

「……私も舐められたものね。ブラフだと思った? 1枚目、★トリガー。2枚目、★トリガー。効果はすべてヴァンガードに」

 熱線が輝きを増し、すべてを呑み込んでいく。跡に残った灰は、いい肥料になるだろう。

「はい、お疲れ様」

 ミコトは最後に対戦相手を見下すように一瞥すると、それきり興味を失って席を離れた。

 聖ローゼ学園2年、神薙ミコト。1回戦突破。

 

 

「不用意ですね。このデッキを相手にリアガードサークルを埋めてしまうとは。

 見るがいい、生まれ変わりし魔女の力を!

 ライド! 《白虹の魔女 ピレスラ》!!」

 対戦相手の速攻を受け、3ターン目でダメージ5に追い詰められたにも関わらず、ノリトは勝利を確信した笑みを浮かべていた。

「コール! 《隕星の魔術師 ヴァーイン》! ヴァーインのスキルで手札を1枚捨て、ソウルのカードを1枚手札に加える。

 コール! 《源泉の魔女 フィクシス》! 山札の上から4枚見て……『魔女』を1枚手札に加える。

《気魂の魔術師 クルート》を2回コールして、ソウルチャージ12。

 さて、これで準備は整った。

 コール! 《蛙の魔女 メリッサ》! 山札から5枚、デッキからスペリオルコールしてもらいましょうか!

 ピレスラのスキル発動! メリッサを手札に戻し、再びメリッサをコール! 同じスキルをもう一度!」

 わけのわからぬまま、対戦相手の盤面が次々と入れ替えられていく。

 しかし、ノリトの目的は攪乱などという生易しいものではなかった。

 最も婉曲に、されどある意味誰よりも直接的に勝利を狙っていた。

「手札から《猫の魔女 クミン》をコール! メリッサを手札に戻し、再びメリッサをコール! メリッサのスキルを発動!

 手札にはまだメリッサが2枚……それらもすべてコールし、スキル発動!

 ……僕はこれでターンエンドだ」

 アタック宣言すらせず、ノリトがターンの終了を宣言する。

 しかし、その時点で誰の目にもノリトの勝利は明らかであった。

「さあ、最後のカードを引くといい」

 ノリトがドローを促す。

 25枚ものスペリオルコールを強制され、残り1枚となった山札からの。

 デッキとは惑星クレイにおける霊体が持つユニットの記憶である。

 それを失った瞬間、霊体は惑星クレイに存在する資格をも失い、消滅するのだ。

 本の1ページ1ページが破れていくようにして、対戦相手の霊体が崩れていく。

「トリガーなどという不確定要素の介在を許さぬ盤石の勝利。それがデッキアウトだ……!」

 永遠の二番手と揶揄された男が、新たな戦術を手にして、今、大舞台に覇を唱える。

 聖ローゼ学園2年、神薙ノリト。1回戦突破。

 

 

「ライド。《特装天機 マルクトメレク》。プロテクトⅠを手札に加えさせて頂きます。さらに、CB(カウンターブラスト)2でダメージを1点回復させて頂きましょう」

 他の卓で次々とファイトが決していく中、その卓は最も決着が遅かった。

「マルクトメレクのもうひとつのスキル……は、まだ使いませんよ。そんなことをしなくても勝てますからねえ」

 十村ヒカルはマルクトメレクとメタトロンへのライドを繰り返し、毎ターンダメージの回復を図っていた。

「代わりに、こちらを使わせていただきましょうか。ダメージゾーンから《団結の守護天使 ザラキエル》にスペリオルライド。さらにプロテクトⅠを手札に……」

(やれやれ。この戦い方は時間がかかるのが難点ですねえ。ですが、これが最も確実なのですから仕方ありません)

 潤沢な守護者を盾に、ヒカルは相手ターンをあっさり防ぎきると、再び、白き装甲を纏った機械天使が降臨し、僅かな傷跡すら埋めてしまう。

「投了はいつでも受け付けておりますよ。お互いに無駄な時間は使いたくないでしょう?」

 ヒカルが至福の笑みを浮かべながら、手詰まりになって半泣きの対戦相手に提案する。

 ……このファイトはまだまだ長引きそうだった。

 聖ローゼ学園1年、十村ヒカル。1回戦突破。

 

 

「《終末の切り札 レヴォン》でアタック!」

 一方、3分足らずという驚異の速度でファイトを終えた対戦卓もあった。

「トリプルドライブ!!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、トリガー無し。

 3枚目、(ヒール)トリガー!

 よって、我が『蒼翼』はすべてスタンドする!!」

 清水セイジの卓である。

 対戦相手はまだG2であるにも関わらず、既に5回のアタックを行い、まださらに4回のアタックが続くという。

「終わらせる。《共鳴の蒼翼 マクシオス》のブースト! 《頑迷の蒼翼 シメオン》でヴァンガードにアタック!」

 アクアロイドの若者が振るう蒼翠に輝く長剣が、正義に仇名す者を一刀両断に斬り捨てた。

「どうも私が天海で最弱だと誤解している輩がいるようなのでな。所詮は小鳥の囀りを気にかけるつもりはないが、誤りは正しておかねばならん」

 雪辱に燃える静かな男が、満ち潮の如く大会を呑み込まんとしていた。

 天海学園2年、清水セイジ。1回戦突破。

 

 

 優勝候補と呼ばれる者達が非凡なプレイングの華を咲かせ、次々と勝ち上がる中、実のところそれらのファイトはほとんど誰の目にも留まっていなかった。

 観客の視線は、とあるファイトに釘付けになっていたからだ。

 

「おいおい、1回戦から何だよこの対戦カードは」

「実質、決勝戦じゃないか!?」

「他の試合なんてどうでもいい! こっち見ろ、こっち!」

「天海の選手同士がぶつかってる! 綺羅ヒビキと、葵アラシの対戦だぞ!」

 

「『七海呪術師 レイスチューター』で、リアガードの『甘美なる愛 リーゼロッテ』にアタックだぁ!」

「……ノーガードだよ」

「5つ目の財宝ゲットォ! 続けて、『七海操舵手 ナイトクロウ』で、リアガードの『From CP セレナ』にアタックだぁ!」

「『パールシスターズ ぺルル』でガード!」

 今大会優勝の最有力候補、天海学園の綺羅ヒビキと葵アラシが早くも激突していた。

 ヒビキはその見目と人当たりの良さもあって人気こそ凄まじいが、公式戦でのファイトは一度しかなく、その実力は未だ未知数と言われており、疑問視する声も少なからずあった。

 一方、アラシは天海学園の次鋒として、ヴァンガード甲子園を全戦全勝で終えたこともあり、その実力は既に万人に認められていた。

 その2名の対戦とあっては、注目されすぎるのも無理はなかった。

 ヒビキの強さは本物か否か。アラシとの対戦は、これ以上無いほどの試金石なのである。

「俺様はしつこいぜぇ! もう一体のナイトクロウでセレナにアタック」

「知っているさ。《赤面紅潮 アイレイン》でガード!」

 そんなギャラリーの無遠慮な視線をよそに、ふたりはショップでフリー対戦でも興じているかように、実に楽しそうなファイトを繰り広げている。

 気迫だけで言えば、他の優勝候補の方が遥かに気合が入っていた。

「《七海暴掠 ナイトスピネル》でセレナにアタック!」

「《鮮やかなる夢幻 アクティアナ》でガード!」

「《七海剣豪 スラッシュシェイド》でセレナにアタック!」

「《煌めきのお姫様 レネ》で完全ガード!」

「……ならばぁっ! ヴァンガードの《七海覇王 ナイトミスト》で、ヴァンガードの《トップアイドル リヴィエール》にアタックッ!」

「《手作りの愛情 エレナ》でガード! セレナでインターセプト! これでアタックは貫通しない!」

「……チッ。

 1枚目、(ドロー)トリガー! 1枚引いて、効果はすべてヴァンガードに。2枚目、引トリガー! もう1枚引いて、効果はすべてヴァンガードに。

 ターンエンドだぜ」

 ダブル引トリガーで8枚に増えた手札を見せびらかすようにしながら、アラシが宣言する。

「フッ。完全ガードでも無い引トリガーで水増しした手札など、所詮は泡沫の幻だよ」

「ハッ! 手札0枚のヤツが言っていいセリフじゃねーぜ」

「ボクには、この1枚があれば十分さ。スタンド&ドロー!

 コール! 《From CP キャロ》!

 キャロのスキルで《トップアイドル リヴィエール》を手札に加える!」

 ここで展開しながらリヴィエールを手札に加えられるカードを引くとは。

 やはり、綺羅ヒビキはヴァンガードに愛されているのか。

 ファイトを見ていた誰もがそう思った次の瞬間。

「そして、手札に加えたリヴィエールをコール!」

 その奇行に会場全体が騒然となった。

 リヴィエールのスキルは、手札にリヴィエールを含めた3枚のカードが無ければ発動すらできないのだ。

「ふふ。こうでもしないとキミには勝てないからね。

 バトルだよ!

《レイニーティア ステッツァ》のブースト! 《トップアイドル リヴィエール》でヴァンガードにアタック!!」

「《突風のジン》で完全ガード!!」

「ツインドライブ!!

 1枚目、★トリガー。効果はすべてリアガードのリヴィエールに。

 2枚目、★トリガー。効果はすべてキャロに……」

 ――ああ……

 会場全体が溜息に包まれた。

 ――トリガーの引きはよかったのに

 ――リヴィエールをコールしなければ

 ――ヒビキ様がプレイングミスをされるだなんて

 そんな諦めに満ちた囁きが聞こえてくる。

 だが、アラシだけは油断なく、汗のにじむ指で手札を握りしめていた。

「……早く続けろよ」

「ああ、そうだね。

 リヴィエールをブーストしたステッツァのスキル発動! このユニットを退却させ……1枚ドロー!」

 ヒビキがカードを引く。その軌跡に、人々は虹を見た。

「リヴィエールのスキル発動!! 手札を2枚捨て、手札にある《トップアイドル リヴィエール》にスペリオルライド(アンコール)!!」

 会場全体が沸き立つような歓声に包まれた。

 絶望から一転、大逆転へ。

 か細い奇跡を紡ぎ合わせて、綺羅ヒビキは希望への架け橋を描き出した。

「勝負だ、アラシ!!

 ヴァンガードのリヴィエールで、ナイトミストにアタック!!」

 アラシはちらりと手札を見た。

 トリガーを引かれると仮定して、すべてのアタックを受けきるのに、あと10000ガードが足りなかった。

 その10000ガードを余計に支払わされた原因は、言うまでもなくリアガードにコールされたリヴィエールである。

 ならば、自分にできることはひとつ。

「ノーガードだっ! 俺様はまだ4ダメージ! ★トリガー、引けるものなら引いてみろっ!!」

 観客の歓声を黙らせるように、アラシは怒声をあげた。

 ヒビキが運命のカードをめくる。

「ドライブチェック……★トリガー!」

 大歓声が天井を震わせ、万雷の拍手が地を揺らした。

「まだだっ! ダメージチェック……1枚目、トリガー無し」

 黒く染まった魔の海域で、飛沫をあげて跳ねたリヴィエールが、鎮魂歌を絶唱する。

 死者を見送る生者の切なる想いを、儚くも哀しい調べに乗せて。

 死霊の憎悪や無念が浄化され、ひとつ、またひとつ、天へと昇っていく。

「2枚目、……トリガー無しだ」

 数多の船を沈めてきた魔の海域から嵐が静まり、グランブルーの旗艦とも言うべき幽霊戦が魔力を失い沈んでいく。

 その舳先に立つナイトミストも、船と運命を共にした。一時の敗北を受け入れ、己の不死なる肉体に再起を誓いながら。

 常夜の海域に朝焼けが差し、不死の海賊に支配されていた海は青さを取り戻した。

「……ボクの勝ちだ」

 ヒビキが勝負を決めた★トリガーを高々と掲げる。

 この時点で優勝が決まったかのような盛り上がりで、会場全体がヒビキの名を称えた。

「はっ! やっぱ敵わねーな、お前には」

「フッ。だが、どちらが勝ってもおかしくない勝負だったよ」

「いや。俺が9割がた勝ってた勝負だったはずなんだがな。

 ま、しょーがねえ。俺様に勝ったんだ。絶対に負けんじゃねーぞ。特にセイジにはな!」

「もちろんさ!」

 アラシが手を高く挙げる。ヒビキは彼の流儀に応え、あまり似合わない荒々しいハイタッチを交わした。

 天海学園2年、綺羅ヒビキ。1回戦突破。

 天海学園2年、葵アラシ。1回戦敗退。

 

 

 後にヴァンガード高校選手権史に残される世紀の一戦はこうして幕を下ろした。

 だが、これはまだ第1回戦である。慌ただしいもので、すぐに第2回戦が始まった。

 そして、第2回戦では優勝候補が潰し合う大荒れの展開となった。

 

 

「これで終わりだ! マクシオスのブースト! シメオンでヴァンガードのブレドロメウスにアタック!」

「ノーガードっ! まだです、まだ、諦めません……治トリガー!!」

 6点ヒール。

 傷だらけになりながらも立ち上がる古代の竜は、大人しそうに見えて不屈の気概を秘めた少女(サキ)に重なって見えた。

「なるほど……」

 珍しいことに、セイジがファイトの手を止めて小さく唸る。

「天道先輩の後輩なだけはある。いや、序盤はグダグダだった彼女より、ずっと堂々としている」

「はい! それでもアリサさんは諦めなかった。だからあの人はあなたに勝った!」

「そうだな。では、私も最後まで油断せずに仕留めさせてもらうとしよう。レヴォンでブレドロメウスにアタック!」

「ガード! 《群竜 タイニィレックス》! 《草食竜 ブルートザウルス》! 2枚貫通です!」

「トリプルドライブ!!!

 ファーストチェック、引トリガー! 1枚引いて、パワーはレヴォンに!

 セカンドチェック、トリガー無し。

 サードチェック、★トリガー! 効果はすべてレヴォンに!」

 レヴォンの携える大剣の一振りが突風を生み出し、地上に嵐を巻き起こす。

「ダメージチェック! 1枚目……治トリガー! ダメージを回復します」

 レヴォンは大剣を斬り返すと、嵐は激しさを増し竜巻となって、再び立ち上がったブレドロメウスを完膚なきまでに斬り刻んだ。

「2枚目……トリガーではありません。ありがとうございました。……ああ、負けちゃいましたあ」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置いた瞬間、張り詰めた表情を崩したサキが、柔和な――されど一抹の悔しさを湛えた笑みを浮かべた。

「治トリガーが重なっているとは。さすがにゾッとしたよ。次にターンを渡したら、さすがの私も耐え切れなかっただろう。いいファイトだった」

 多少はお世辞も含まれているだろうが、セイジはサキのファイトをそう評した。

「あ、あのっ!」

 そのまま足早に去っていきそうなセイジを呼び止めるようにして、サキが上ずった声をあげる。

「握手をお願いできませんか!? その、私、セイジさんのような強いファイターとファイトするのがずっと夢だったんです」

「ああ。もちろん構わない。ただし、ファンサービスではない。お互いファイターとして、健闘を称え合うような握手が、君とはしたいな」

「は、はいっ!」

 差し出された小さな掌を包み込むように、ふたりのファイターが固く握手を交わした。

 天海学園2年、清水セイジ。2回戦突破。

 響星学園1年、藤村サキ。2回戦敗退。

 

 

「ライド! 《特装天機 マルクトメレク》! ダメージを回復させてもらいますよ」

「まいったな。せっかく与えたダメージを、また回復されてしまったよ」

 ヒビキが頭を軽く抱えながら言うが、言葉の調子は悩んでいるというよりは、楽しそうであった。

「すみませんねえ。このような戦い方しかできないもので。

《黒衣の解析 サラフィエル》をコール。サラフィエルのスキル。ダメージ回復し、1ダメージ。トリガーは無し」

 対するヒカルは、自虐するような笑みを浮かべながらファイトを続けている。

「いや、素敵な戦い方だよ。キミの誰にも負けたくないという想いが伝わってくる」

「素敵な戦い方……そんなことを言われたのは初めてですよ。

《スケーリング・エンジェル》をコールして、ダメージゾーンのカードをソウルイン。先ほどソウルからドロップゾーンに落としたザラキエルをダメージゾーンに置きます。

 そして、ザラキエルのスキル発動。ダメージゾーンからスペリオルライド!」

「ここだよ。ダメージゾーンと手札を調整し、毎ターン、マルクトメレクかメタトロンへのライドと、ザラキエルへのスペリオルライドを繰り返せるようにデザインされている。

 これほど美しいデッキを称えずにはいられないよ!」

「……変わった人だ。

 バトルに入ります」

 ヒカルのバトルフェイズで、ヒビキは5点目のダメージを受けた。対するヒカルのダメージは4。

「それだけではありませんよ。あなたの《トップアイドル リヴィエール》は、ヴァンガードに1枚、ソウルに2枚、ダメージに1枚。すべて見えている。もうあなたはリヴィエールにスペリオルライドすることはできない!

 リヴィエールの弱点は長期戦にある!」

 癖のある茶髪をくしゃくしゃにかきながら、ヒカルが勝ち誇った。

「フッ。それはどうかな?」

 それに対してヒビキは、ヒカルのものとはまったく種類の違う、爽やかに勝ち誇った笑みを浮かべた。

「スタンド&ドロー! ボクは《From CP キャロ》をコール!」

「キャロ? もうデッキにリヴィエールは……いや!」

「キャロのソウルブラスト! キミの言う通り、もうデッキにリヴィエールは残されていないので、このスキルは不発となる。

 だけど! 手札から《心震わす声援 マリヤン》のスキル発動! このカードを捨て、1枚引き、ドロップゾーンからカードを1枚ソウルに置いて……そのカードがリヴィエールなら、手札に加える! ボクはキャロがソウルから落としてくれた《トップアイドル リヴィエール》を手札に加えるよ!

 バトルだ!

《トップアイドル リヴィエール》でヴァンガードにアタック!」

「プロテクトで完全ガード!」

「ツインドライブ! 1枚目、トリガー無し。2枚目、★トリガー! 効果はすべてリアガードの《赤面高潮 アイレイン》に!

 そして、リヴィエールのスキル発動! 手札を2枚捨て、リヴィエールにスペリオルライド!

 フォースⅠをアイレインのサークルに置き、手札を1枚捨て、カードを2枚引かせてもらうよ。

 さあ、再びリヴィエールでアタックだ!」

(……くっ。いずれにしろ★トリガーを引かれたら防ぎきれないか)

「……ノーガードです」

「ドライブチェック! ……★トリガー! 効果はすべてリヴィエールに!」 

「ダメージチェック……1枚目、トリガー無し。2枚目、トリガー無し。

 ……僕の負けですね」

「楽しいファイトだったよ。キミとは、またやりたいな」

 白い歯を見せて、ヒビキが美しい形をした手を差し出してくる。

「……やれやれ。対戦相手を限界まで追い詰めるようなデッキを組んだつもりだったのですが。そんなことを言われてしまっては、むしろ屈辱ですよ。

 あなたにはまだまだ敵いそうにありません。ファイターとしても、人としても」

 ヒカルは諦めた心地で、その手をおざなりに握り返した。

(ですが、いつか……あなたを心から悔しがらせてみせますよ)

 心の中で妖しい笑みを浮かべながら。

 天海学園2年、綺羅ヒビキ。2回戦突破。

 聖ローゼ学園1年、十村ヒカル。2回戦敗退。

 

 

「コール! 《源泉の魔女 フィクシス》! SB1でデッキの上から4枚見て……フィクシスを手札に加える。

 ピレスラのスキル発動! フィクシスを手札に戻し、再びフィクシスをコール! ……《白燐の魔術師 レヴォルタ》を手札に。

 そのレヴォルタもコール! 山札の上から3枚見て、《蛙の魔女 メリッサ》を手札に加え、残りをソウルチャージ」

(あ、あんだけコールしているのに、手札がまったく減らねぇ~。さすがノリト先輩だぜ!)

 オウガはノリトの『魔女』デッキのアドバンテージ獲得能力に圧倒されながらも、好奇心旺盛な瞳で、その動きを凝視していた。

「《気魂の魔術師 クルート》をコールして、ソウルチャージ6!

 このターン、僕は6体の『魔女』と『魔術師』をコールしたので、SB7でピレスラのスキル発動!!

 すべての『魔女』と『魔術師』に+10000! ピレスラに★+1!」

 若き魔女が箒を模した杖を掲げると、6つの魔法陣が空に浮かび、他の魔女や魔術師達に(ソウル)から抽出した魔力を分け与える。

「バトルだ!

 フィクシスのブースト、ピレスラでヴァンガードにアタック!!」

「《チアガール マリリン》で完全ガード!」

 魔女の放った巨大な火球をチアガールが蹴り飛ばす。明後日の方向へと吹き飛んだ火球はスパイク側の観客席に着弾し大爆発を起こしたが、犠牲(そんなこと)をいちいち気にするようなギャロウズボールのファンはいない。流れ弾に当たって死ぬヤツがマヌケなのだ。

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、★トリガー! 効果はすべてクルートに!

 フィクシスのブースト、クルートでヴァンガードにアタック!」

「これを受けたら負けちまう! 《チアガール ティアラ》! 《チアガール アダレード》でガード! 《パワーバック・レナルド》でインターセプト!」

「フィクシスのブースト、レヴォルタでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード。ダメージチェック……トリガー無しだぜ」

「僕はこれでターンエンドです」

 大量のソウルを消費する大技を捌かれたにも関わらず、ノリトは余裕の笑みを浮かべながらターンエンドを宣言した。

 それもそのはず、その手札枚数は盤石の10枚で、ダメージも3点しか受けていない。

(さっきのドライブチェックで、ノリト先輩の手札にはクルートが加わった。

 デッキアウトにビビってアドバンテージの獲得を渋ると、再びピレスラの大技が飛んでくる。

 かと言って下手に展開してしまうと、メリッサにデッキを削られる……)

 そして、まったく違う戦型を状況に応じて切り替えるテクニカルなデッキを、涼しい顔で操るノリトのバランス感覚にも驚愕させられる。

 だが、そんな強敵が相手だからこそ、オウガの心は熱く燃え上がる!

(そうだ! こんなすげえ人と熱いファイトがしたくて、俺はヴァンガードを続けてるんだぜ!!)

 己の誇りを賭けた、知性と知性がぶつかり合う、ひりつくような卓上の一騎打ち。チームスポーツを好んでプレイしてきたオウガにとっては、カードゲームのすべてが極上の新体験だった。

「ライド! 《逸材 ライジング・ノヴァ》! フォースⅠ・Ⅱは、もともとフォースⅠのあったリアガードサークルに!

 ライドされた《バッドエンド・ドラッガー》もスペリオルコール! レヴォルタとフィクシスを退却!」

「来るか!?」

「……いや。このターンにノリト先輩を倒しきるのは難しいっすわ。だからせめて……このターンにノリト先輩の手札をすべて削りきるぜ!!」

「何だって? 面白い。やれるものならやってみるといい」

「おう! 《アンブッシュ・デクスター》をコール! バッドエンドをソウルイン! 山札からG3を2体スペリオルコール……!!」

(バッドエンドを使わないか。問題ない。ザイフリートも、ブルスパイクも、サイクロンも想定の範囲内だ……)

「俺が山札からコールするのは、《デッドヒート・ブルスパイク》!

 そして……《ガンワイルド・ウルフ》だ!!」

「なっ!?」

 ノリトの顔面が初めて驚愕の色に染まった。

(よっしゃ! 先輩の予測を越えたぜ! あとはブッちぎる!)

「ライジング・ノヴァのスキル発動! ブルスパイクとウルフのスキルを得るぜ!

 あとは《ガンバースト・ラインバッカー》をコールして、バトルだ!

 まずはフォースサークルのブルスパイクでアタック!」

「《杭の戒め スヴィティ》でガード!」

「ライジング・ノヴァのスキル発動! 1枚ドロー! クルートを退却!

 デクスターのブースト! ウルフでヴァンガードにアタック! ライジング・ノヴァのスキルでフォースを移動!」

「《純白の魔女 ソルティ》で完全ガード!」

「ラインバッカーは後列からアタックできる! さらにスキル発動で、パワー+15000! ライジング・ノヴァでフォースも乗っけるぜ!」

「ソルティで完全ガードっ!」

「《ワンダー・ボーイ》のブースト! ライジング・ノヴァでアタック! アタック時、ライジング・ノヴァのスキル発動!!

 ソウルから3枚のG3をソウルブラスト!! さらに俺のリアガードをすべて山札の下に戻す!! その効果は……」

「そのくらい知ってるさ。僕はこのアタックをガードする場合、5枚以上コールしなければならない。つまり、このアタックを防ぐことで、君の予告通り、僕の手札は0枚になる。

 ……そう思い通りに行くと思うなよ! ノーガードだ!!」

「ならば! ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、★トリガー! 効果は全てライジング・ノヴァだ!!

 いっけええええっ!!」

 ライジング・ノヴァが吠え叫び、フィールドを疾走する。

 手にしたボールが狼の如きオーラを纏い、魔女の眼前へと迫る。

 激突の瞬間、スパイクスタジアムのボルテージは最高潮に達した。

「ダメージチェック…………僕の、負けです」

 3枚のカードをダメージゾーンに置いて、ノリトが目を伏せながら告げた。

「よっしゃあああああっ!! ノリト先輩に勝ったぜっ!!」

 両拳を握りしめて、オウガが喜びを爆発させる。

「まったく、響星(あなたがた)にはいつも驚かされる……」

 顔を上げたノリトの目には涙が滲んでいたが、同時に晴れやかな笑顔も浮かべていた。

「合同練習の時は僕が圧倒していたのにね」

「すんません。いいとこだけ勝たせて頂きました」

「いや、いいんだ。強いファイターに負けるのは構わない。

 君のラストターンは、ムドウさんを彷彿とさせたよ」

 それだけ告げると、ノリトはデッキを片付けてテーブルを離れていった。

(ムドウ師匠……)

 取り残されたオウガが独りごちる。

(アラシが敗退したって聞いた時、実はモチベーションが落ちかけてたんだ。

 けど、すぐに思い直した。この大会は、アンタの無念を晴らすための大会でもあるんだってな。

 そして、ノリト先輩と戦うことで、強い人と戦いたいっていう、俺の目的も思い出せた。

 そう、強敵はアラシだけじゃねえ。

 師匠のため、自分のため、俺はこの大会をいけるとこまで勝ち抜いてやるぜ!)

 響星学園1年、鬼塚オウガ。2回戦突破。

 聖ローゼ学園2年、神薙ノリト。2回戦敗退。

 

 

「グルグウィントのスキル発動! 山札から《ろーんがる》と《曙光の騎士 ゴルボドゥク》をスペリオルコールして、オトゴサヒメにアタック!!」

(くっ……! こんなにも早く、フウヤさんと当たってしまうだなんて……)

 一切の容赦無く、刺すような殺気を全開にして攻め立ててくるフウヤを前にして、ミコトは心の中で己のくじ運を呪っていた。

「《神剣 クサナギ》でガード! 2枚貫通です!」

「ツインドライブ……2枚とも、トリガーは無い。

 続けて、ろーんがるでアタック!」

「《スフィア・メイガス》《神剣 アメノムラクモ》でガード!」

「コルボドゥクでアタック!」

「《サイキック・バード》でガード! 《セイピアント・エンジェル》でインターセプト!」

「……俺はこれでターンエンドだ」

(……凌いだ。凌げはした、けど)

 ミコトの手札は既に0枚。前列のユニットもすべてインターセプトで退却している。

(やっぱり強い。強すぎるよ……)

 フウヤとは部活でもプライベートでもよく対戦するが、その中でも勝てたことはほとんどない。その上、今のフウヤからは、紳士然とした普段の彼とは別人のような気迫が感じられる。

(……そうだよね。3年生のフウヤさんは、この大会に賭けてるんだ。私が勝てるわけない……。勝っちゃいけない……)

「スタンド&ドロー……」

 諦めの境地でカードを引く。

「……つっ!? 《豊熟の女神 オトゴサヒメ》にライド。

 プロテクトを手札に加えて、登場時のスキルで2枚引きます」

 しかし、デッキは彼女の意に反して、逆転の札を与えてくれていた。

 寝る間を惜しんで調整に調整を重ねた彼女のデッキは、どんな窮地においても勝ちの可能性が残るようにデザインされている。

 その本領がまさに今だった。

「《メイデン・オブ・ライブラ》、《セイピアント・エンジェル》をコール。山札の上から3枚見ます……」

(……ノーマルユニットが2枚に、治トリガーが1枚。ここで治トリガーをドライブチェックで引くことができれば、私のダメージは3にまで回復する。それなら、次のターンも耐え切れるかも知れない)

 フウヤの手札は万全に違いないし、グルグウィントのスキルも残されている。ここで無理に攻めても死期を早めるだけだろう。

 ミコトは治トリガーが一番上に来るようにカードを入れ替えて、山札の上に戻した。

「バトルフェ……」

「ちょっといいかな」

 ミコトが宣言を行う直前、これまで必要最低限のやり取りを機械的に行っていたフウヤが静かな、されど厳しい口調で口を開いた。

「君はいつも『聖ローゼ最強のファイターになる』と言っていたね」

「は、はい……」

「それはいったいいつの話なんだい?

 まさか、俺がいなくなってから聖ローゼの頂点に立つとか、そんな小さな志で口にしていたのか?」

「そ、それは……」

 ミコトが小さく俯く。

「そうだと言うのなら、他の部員に悪影響だ。君に部長は任せられない。この大会が終わり次第、カードファイト部を去れ」

「!? そんな、フウヤ先輩、わ、私は……」

「違うと言うのなら、このファイトで証明してみせろ!

 君が俺に勝てる機会は、もう今しかないんだぞ、神薙ミコト!」

「わ、私は、私は、あなたのことを……」

 これまで言えなかった、秘めていた想いが喉の奥まで出かかっていた。

 だが、実際に吐き出されたのは、胸を焼き尽くす激情だった。

 ここまで言われて黙っていられるほど、神薙ミコトは恋に生きる乙女じゃない。

「私はァ!! リアガードの《寛容の女神 オオミヤノメ》のスキル発動ッ!! このユニットを退却させ、カードを3枚ドローッ!!

 空いたサークルに《バトルシスター かっさーた》をコールッ!

 そして、残りの手札をすべて捨ててオトゴサヒメのスキル発動ッ! 前列のユニットにパワー+20000! オトゴサヒメに★+1!

 行きます、フウヤさんッ!!」

「来い、ミコトッ!!」

「かっさーたのブースト! オトゴサヒメでヴァンガードにアタック!!」

「グルグウィントのスキル発動! 山札から5枚見て……《スカーフェイス・ライオン》と《日華の騎士 ジェフリー》をガーディアンサークルにスペリオルコール!!

 合計パワーは57000……1枚貫通だ!!」

「ツインドライブッ!!

 1枚目、トリガー無し!

 2枚目、★トリガーッ!! かっさーたのパワー+10000!

 そして……トリガー効果をすべてヴァンガードにッ!!」

 宣言するミコトの瞳から一筋の涙がこぼれた。

 彼女と深く繋がったオトゴサヒメも頬を涙で濡らしながら、日輪の如き火球を黄金の騎士に叩きつける。

 視界を白く焼き尽くす光に呑み込まれながら、グルグウィントは剣を地面に突き立て、祈るように目を閉じた。

 恐れなど無い。

 何故なら、自分は太陽の騎士。

 これは終わりではなく、還る場所へと還るだけなのだから。

「ダメージチェック。……俺の負けだ。強くなったな、ミコト」

 フウヤがダメージゾーンに6枚目のカードを静かに置いた。

「ごめんなさい……っ! フウヤさん、私、とんでもないことを、してしまった……っ!

 今日が、フウヤさんにとって、最後の公認大会だったのに……」

 ミコトが泣きじゃくりながら、フウヤに向かって幾度も頭を下げた。

「……勝者が泣くんじゃない。敗者を惨めにするだけだ」

 その言葉に、ミコトが涙でべとべとになった顔を勢いよく上げる。清々しい、いつも通りの紳士的な笑みを浮かべたフウヤと目が合った。

「それに、小金井フウヤを甘く見てもらっては困るな。たった一度の敗北など、俺の夢にとって障害にもならない。俺は必ずプロになる」

「私も……きっと追いつきます。いつか追いついて、追い越してみせます」

「待ってるよ。今日から俺達はライバルだ。

 ……だがまずは、この大会と、来年の聖ローゼを頼んだよ」

「はいっ!!」

 力強く応えるミコトの肩に手を置くと、フウヤは席を立った。

 去りゆくその背は王者の如く堂々としており、彼の未来を暗示しているようにも思えた。

 

 

「らしくないことをしたな」

 外の空気が吸いたくなって、会場を出たところで、フウヤは不意に背後から声をかけられた。

「……ムドウさん。来ていたんですか?」

「後輩の成長を見に、な」

 観客席から追ってきたのだろう。

 彼の1年先輩にあたる御厨ムドウが、ゆっくりとした足取りでフウヤと横並びになる。

「嫌味ですか? トーナメントで2回戦敗退なんて、高校生になって初めての経験ですよ」

 ムドウの視線を避けるようにして、フウヤが目を逸らす。

「本心だ。お前は立派だったと思うぞ。聖ローゼの理念からは逸脱していたがな。

 敵にミスや動揺があればつけ込むべきで、あんな助言まがいの激励などするべきではなかったはずだ」

「本当に。何であんなことを言ったんでしょうね、俺は……」

 フウヤが片手で自分の頭を抱えた。

 後悔など、していないわけがなかった。ミコトの前ではどうにか取り繕えたが、自分は上っ面ほど大人でもない。

「ただ、彼女はいつも俺に対して遠慮しているところがあって、俺はそれが我慢がならなかった。

 俺はあの子と対等でいたいと、そう思っただけです」

「……もう、さっさとくっつけよ、お前ら」

「? 何か言いました?」

「いや。ともかく今日は呑み明かすか」

「俺達、まだ未成年ですよね!?」

「じゃあ2年後の約束だ。その時にはきっと、この日の苦い思い出も、いい酒の肴になるだろうさ」

「そんな日が……本当に来るんですかね」

 フウヤの瞳から涙が溢れだす。それが止まるまで、ムドウはフウヤの背中を支えるようにして、ぶっきらぼうに手を当てていた。

 

 

 天海学園を除けば優勝の最有力候補であった小金井フウヤの敗退。

 大波乱とも言える結末をもって、第2回戦は全行程を終了した。

 ちなみにもう一方の優勝候補、音無ミオは、特筆するようなファイターと当たることなく、ちゃっかりと第2回戦を突破していた。

「え。私のファイトだけ雑じゃないですか?」

 主人公が虚空に向かって何か言っていたが、誰も聞いてはいなかった。

 そこからの大会は無難な展開が続き、ヒビキ、セイジ、ミオ、ミコトと言った優勝候補が順調に勝ち進む。

 それに紛れて、とあるファイターが頭角を現してきているのに観客達が気付いたのは、ベスト8、準々決勝に進出したファイターが出揃った時であった。

 

「やっぱりベスト8にもなると有名どころばっかりだなー」

「ああ! 大注目の綺羅ヒビキと当たるのは、“現代の死霊術師”鈴木シンゾウ!」

「神薙ミコトと、“紅蓮焔”田中リョーマの対戦にも注目だな!」

「音無ミオは“ダークネス・プリンセス”山田ミカとの対戦かー」

「もうひとりは……鬼塚オウガ? 誰だ?」

「さあ? でも待って! 神薙ノリトに勝ってるみたいだよ」

「てことは強いのか?」

「ビギナーズラックじゃないのか? 何にしろ、ここで終わりだろうな。なんたって……」

「対戦相手は、あの清水セイジなんだから」

 

「君も響星のファイターか」

「うす! 鬼塚オウガっす!」

「フッ。威勢がいいな。清水セイジだ。

 今日は様々なファイターと戦えた。皆、いいファイターだったが、藤村サキとのファイトは特に楽しかった。

 君も私を楽しませてくれることを期待する」

「へっ! ご期待に応えてやりますよ!」

 もともと謙遜するようなタイプでも無いが、ここまで積み重ねてきた勝ちの経験が、彼に確かな自信を植え付けたようだ。

 そんな風になごやかな感じで始まったオウガとセイジの対戦だったが、いざ始まったファイトは苛烈で、セイジのワンサイドゲームとなった。

「レヴォンでヴァンガードにアタック!!」

「《チアガール マリリン》で完全ガード!!」

「トリプルドライブ!!!

 ファーストチェック、★トリガー! 効果はすべてシメオンに。

 セカンドチェック、★トリガー! 効果はすべてファウロスに。

 サードチェック、トリガー無し!

 私はこれにてターンエンド!」

「やっぱ凄ぇ……! クッソ早ぇ……! 桁違いに強ぇ……!」

 手札が0枚になったオウガは、セイジのファイトをそう評した。

(アリサ先輩はこんな人に勝って、サキは一歩も引かずに戦い抜いたのか。やっぱ偉いなあ、みんな……)

「どうした? 私が戦った他のファイターのように、君も諦めるのか?」

「へっ! あいにく、そんなことはアリサ先輩にもミオ先輩にも教えてもらってなくてな」

 折れそうになった心をどうにか立て直す。仲間に顔向けできないファイトはしたくなかった。

「カードが引ける限り、俺は諦めねえ! スタンド&ドロー!!

 ……来てくれたか、相棒!

 ライド! 《逸材 ライジング・ノヴァ》!!」

 フィールドに着地したライジング・ノヴァが、オウガとシンクロし、フィールドを震撼させる雄叫びをあげる。

「ほう。この状況からライジング・ノヴァを引くか」

「それだけじゃねーぜ! ソウルからバッドエンドもスペリオルコール! 同列にいるファウロスとマクシオスは退却だ!

 そして、ライジング・ノヴァのスキル発動! バッドエンドのスキルを得るぜ!」

 オウガのリアガードに、バッドエンド以外のG3はすでにいない。だが、それすらもオウガの諦める理由にはならない。

「バトルだ! 《アクロバット・ベルディ》のブースト! ライジング・ノヴァでヴァンガードのレヴォンにアタック!!

《陽気なリンクス》を山札の下に置き、パワー+5000 ★+1!!」

「《翠玉の盾 パスカリス》で完全ガード!」

「ツインドライブ!!

 1枚目、★トリガー!! 効果はすべてバッドエンドに!

 2枚目、★トリガー!! これも効果はすべてバッドエンドに!!

 いくぜ!! 《ソニック・ブレイカー》のブースト! バッドエンドでヴァンガードにアタック!! ベルディをデッキに戻し、パワー+5000! ★+1だ!!」

「《ケルピーライダー・ペトロス》、《蒼波兵長 ベラギオス》でガード! シメオンでインターセプト」

「くぅーっ! 俺はこれでターンエンドだぜ!」

 ひとしきり悔しがった後、オウガは堂々とターン終了を宣言した。

「私のターン! スタンド&ドロー!!

 ……まだ目は死んでいないようだな」

「ああ! まだ俺は負けてねーからな!」

「よかろう。ならば決定的な敗北を与えるまで! ライド! 《終末の切り札 レヴォン》!!」

 海竜の剣士が油断なく大剣を構える。

 最期の瞬間まで不敵な笑みを絶やさなかった、誇り高き戦士(アスリート)に向けて。

 

 

「よう、オウガ。おつかれー」

 オウガのヴァンガード選手権は終わり、一緒にミオの応援でもしようかとサキの姿を探していたところ、彼の前に立ちはだかり、真っ先に声をかけてきたのは葵アラシだった。

「何の用だよ?」

 負けた悔しさも多少はあって、ドスの効いた低い声音でオウガが尋ねる。

 アラシは気にした様子もなく、苦笑しながらオウガと並んで歩く。

「つれねぇなあ。仲のいい知り合いがいなくて退屈してたんだよ。一緒に観戦しようぜえ」

「別に俺もお前と仲よくなんてねーよ」

「そう言うなって。

 それにしたってベスト8かよ。半年前にはプレイングもおぼつかなかったやつがたいしたもんだ。

 それも勝つたびに目に見えて強くなりやがる。準決勝や決勝で当たっていたら、セイジも危なかったかもなぁ」

 そう言って、アラシは楽しそうに笑った。どうやらオウガの試合はずっと観察されていたようだ。

「ま、何にしろ今回は俺様の負けだな」

「直接対決で勝たない限り、勝ったとは言えねーよ」

「そうか。そうだな……それについては俺様が全面的に悪かった。まさか1回戦で負けちまうたぁな」

 アラシがさすがに力無く「たはは」と笑う。

「だからこれは俺様の詫びだ。受け取ってくれねぇか?」

 そして、雑に折り畳まれた小さな紙片を差し出した。

 オウガはアラシのいつになく真摯な様子に負け、しぶしぶ受け取った紙を開いた。そこには汚い文字で書かれた電話番号と、分かりにくい地図が描かれていた。

「これは?」

「俺様の連絡先と、島にある唯一のカードショップの場所だ」

「!?」

「もし、自分が完璧に仕上がったと感じたなら、ここに連絡してこい。いつだって相手してやる。

 ま、その時には何か賭けてもらうが、今のお前なら賭けるものが何も無いとか、腑抜けたことは言わんだろ」

「……そう、だな」

 オウガの首が自然に縦へと動いた。賭けファイトに諸手を挙げて賛同できるわけではないが、少なくとも今の自分には、賭けるに値するものが心の奥底で輝きを放っているのを感じていた。

「くくく。連絡待ってるぜ。

 ほら、向こうでサキちゃんが手を振ってる。行こうぜ。俺もあの子とひさしぶりに話をしてぇからよ」

「お前みたいな野蛮なやつと、あんまり関わらせたくないんだが……」

「自分を棚に上げて何をほざいてやがる」

 そう言って、アラシがオウガの腕を乱暴に掴んで引っ張った。

 互いに悪態をつきあいながら歩くふたりは、それを遠目で見ていたサキからも、なんだか仲の良い友人同士のように見えた。

 天海学園2年、清水セイジ。準決勝進出。

 響星学園1年、鬼塚オウガ。準々決勝敗退。

 

 

 他の優勝候補も揃って勝利し、準決勝の対戦カードが決定した。

 フウヤに下克上を果たして勢いに乗るミコトはセイジと。

 ここまで抜群の安定感で勝ち抜いてきたミオはヒビキと当たることになった。

 

 

「私はこれでターンエンドよ」

 先行2ターン目のドライブチェックで★トリガーを引いて、3点のダメージを与えたミコトがターンエンドを宣言する。

 悲嘆に濡れていたその瞳も今は、己が勝利することでフウヤの強さも証明すると、固い決意の光を宿していた。

「スタンド&ドロー! ライド! 《頑迷の蒼翼 シメオン》!

 なるほど。今の君からは決死の覚悟を感じる。再び君にターンを渡せば、その時点で私の負けだろう」

「だから何?」

 冷静に状況を見据えるセイジに、ミコトは冷たい口調で尋ねた。

「このターンで君を倒す。悪く思うな」

「っ!? そんなことできるわけ――」

「コール! 《信念の蒼翼 バジリア》! スキル発動! デッキから3枚見て、《共鳴の蒼翼 マクシオス》2枚を手札に!

 その2枚を後列にコール! さらに《大義の蒼翼 ファウロス》2枚を前列にコール!」

 ミコトの反論は聞かず、セイジの『蒼翼』が展開されていく。

「バトルフェイズに進行する!

 ファウロスでヴァンガードの《メイデン・オブ・ライブラ》にアタック! ファウロスはスタンドする!」

「ノーガード……ダメージチェック、トリガー無し」

 3枚目のカードがミコトのダメージゾーンに置かれる。

「もう一体のファウロスでもアタック&スタンド!」

「《セイピアント・エンジェル》でインターセプト!」

「マクシオスのブースト! ファウロスでヴァンガードにアタック!」

「ノーガード! ダメージチェック、トリガー無し」

 震える指が4枚目のカードをダメージゾーンに置く。

「マクシオスのブースト! ファウロスでヴァンガードにアタック!」

「ガード! 《サイキック・バード》! 《神凪 クロイカヅチ》でインターセプト!」

「バジリアのブースト! シメオンでヴァンガードにアタック!」

「ガード! 《オラクルガーディアン ニケ》! 《セイピアント・エンジェル》! これでアタックは通らない!」

(悔しいけど、こいつの言う通りだわ。次のターンで勝てる手札は揃ってた。

 ……だからこそ、手札のガード値が低い! もし、ここであのトリガーを引かれたら……)

「ドライブチェック! 治トリガー! シメオンにパワー+10000し、我が『蒼翼』はすべてスタンドする!」

「つっ!?」

「再びシメオンでヴァンガードにアタック!」

「……ノーガード」

(ここでダメージトリガーを引ければまだ……)

「ドライブチェック! ★トリガー! パワーはファウロスに! ★はヴァンガードのシメオンに!」

「あ……」

「さあ、君のダメージチェックだ」

 緊張の糸が切れ、呆けてしまったミコトに、セイジがデッキからカードをめくるように促す。

「わ、わかってるわよ!

 1枚目! ★トリガー。パワーはヴァンガードに。

 に、2枚目……★、トリガー。負け、ました……」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置きながら、ミコトが敗北を認める。

 天海の選手が勝った時には、いつも一際大きな歓声が巻き起こるものだが、この時ばかりはセイジの迫力に圧倒されたのか、それとも何が起こったのかすら理解が追いつかないのか、誰もが言葉を発することができずにいた。

 ファイト時間にして、僅か1分18秒。

 この記録はヴァンガード高校選手権において、誰にも破られることなく、遥か先まで残り続けることだろう。

 天海学園2年、清水セイジ。決勝進出。

 聖ローゼ学園2年、神薙ミコト。準決勝敗退。

 

 

(ミコトさん……)

 ファイトの決着を感じたミオが、横目で隣席を見やる。

 口元を押さえて嗚咽を堪えているミコトの姿がそこにあった。

「フッ。よそ見をしている暇があるのかな?」

 対戦相手のヒビキが声をかける。

「失礼しました」

 素直に謝罪して、ミオがヒビキに向き直る。

「いいさ。友達のファイトは気になるよね。ましてセイジは対戦相手が強いほど容赦がないからね。

 けどここからは、ボクのファイトで君を夢中にさせてあげるよ!」

 そう言い放ち、ヒビキは手札にある1枚のカードに手をかけ、詠うように言葉を紡ぐ。

「終わり無き伝説よ。永劫不滅の歌声を以て、大海原から世界を繋げ!

 ライド! 《トップアイドル リヴィエール》!!」

 エースユニットの登場に、ミオが身構えた。ここからが正念場だと、マリアとの度重なる検証を経て全身で理解できている。

「イマジナリー・ギフトはフォースⅠをヴァンガードに。

 さらに、リヴィエールが登場したので《赤面紅潮 アイレイン》のパワー+10000! 《新米アイドル ピエーナ》のパワー+5000!

 リヴィエールのスキル発動! 手札を1枚捨てて、カードを2枚引くよ。

 リアガードに《心震わす声援 マリヤン》、《要の品格 エヴィ》』、《マーメイドアイドル リヴィエール》をコール!」

 今、ヒビキ指揮(プロデュース)の下、侵略者迫る大海原に人魚の歌姫達が集った。

「バトルだ!

 リヴィエールのブースト! マリヤンでヴァンガードのアルバにアタックするよ!」

「★トリガーでガードします」

「エヴィのブースト! リヴィエールでヴァンガードにアタック!」

「《真空に咲く花 コスモリース》で完全ガードです」

「ツインドライブ!!

 1枚目、★トリガー! 効果は全てリアガードのアイレインに!

 2枚目、トリガー無し。

 バトル終了時! 手札から2枚捨てて、手札のリヴィエールにスペリオルライド(アンコール)

 フォースはアイレインに!

 リヴィエールが登場したことで、各スキルも発動!

 まず、アイレインに+10000、ピエーナに+5000!

 エヴィをソウルインして1枚引き、カウンターチャージ!

 そして、リヴィエールのスキルで手札を1枚捨てて、2枚ドローだ!

 待たせたね……再び、リヴィエールでヴァンガードにアタック!」

「ノーガードです」

「ドライブチェック! ……トリガーは無し」

「ダメージチェック。こちらもトリガー無しです」

「ピエーナのブースト、アイレインでヴァンガードにアタックだ!」

「完全ガードです」

 ――おおっ!

 ★の乗ったアタックを上手く凌いだミオのファインプレーに観客席が湧きたった。

 現在、ミオのダメージは3。ヒビキのダメージは2。

 

 

「……おかしい」

 聖ローゼの部員達と集まって試合を見ていたフウヤが考え込むようにして低く唸った。

「いかがしました?」

 隣にいたヒカルが他の部員を代表して尋ねる。

「《スーパーアイドル リヴィエール》はどうした? あれが出ていれば、防ぐのはもっと困難になっていたはずだ……」

「それは、いくら綺羅ヒビキとは言え、引けないことだってあるでしょう。ほら、ダメージゾーンにも1枚落ちていますし」

「……俺は今日、負けてからずっと綺羅ヒビキのファイトを見ていた。そのうちG2リヴィエールを2枚以上出した試合を一度も見ていないんだ。

 それだけじゃない。G1やG2のリヴィエールにスキルでライドした試合もほとんど無い。

 あれは本当にリヴィエール軸なのか?

 俺達もミオちゃんもマリアさんも、とんでもない思い違いをしていたんじゃないのか!?」

 

 

「《絆の根絶者 グレイヲン》のスキル発動。ヴァンガードをデリートします。

 ドロップゾーンから2体のファルヲンをスペリオルコール」

 グレイヲンの爪がリヴィエールを貫き、ヒビキの魂を抉りだす。饗宴を彩るように、淀んだ海底からは2匹の根絶者が現れた。

「《噛み砕く根絶者 バルヲル》をコール。ソウルブラストして、あなたのターンエンド時にデリート解除できない呪いを。

 そして《呼応する根絶者 エルロ》をコールすることで、ドロップゾーンから《呼応する根絶者 アルバ》もスペリオルコール。

 バトルです。グレイヲンでヴァンガードにアタック」

「ノーガードだよ」

「ツインドライブ。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、★トリガー。★はグレイヲンに。パワーはエルロに」

「ダメージチェック……」

 ヒビキがダメージゾーンに置いた2枚のカードを見て、ある者は息を呑み、ある者は小さく悲鳴をあげた。

 ダメージゾーンに置かれたカードは、2枚ともが《トップアイドル リヴィエール》だった。

 それは即ち、ヒビキが次のターン、リヴィエールにライドできなくなったことを示していた。それどころか、デリートを解除できるかも怪しい。

「グレイヲンのアタックがヒットしたので、アイレインを裏でバインド(バニッシュデリート)します。

 続けて、アルバでヴァンガードにアタック」

 大きく優勢に傾いた状況にも関わらず、ミオは相変わらず淡々とヒビキを追い詰めていく。

「ノーガードだよ。

 ダメージチェック、★トリガー。効果はすべてヴァンガードに」

 絶体絶命の状況に追い込まれたヒビキも、変わらず楽しそうな笑みを浮かべてファイトを続けていた。

「フォースサークルのエルロでヴァンガードにアタックします」

「《ドッキンシューター ペレーア》、《あなたに届け パーシュ》でガード!」

「私はこれでターンエンドです」

「ふ、ふふ、ふふふ。やはりキミとのファイトは楽しいな。ボクがここまで追い詰められてしまうとは……」

「そうですね。私もあなたとの対戦が楽しいことは否定しません」

「それはよかった。ならば、もっと君を楽しませてあげるよ!

 今こそ見せよう! ボクのヴァンガードの原点となったカードを!!」

 ヒビキが手札に隠していた真の切り札に手をかけ、詠う。

「深き闇に眠りし静かなる才能よ。深海より音を震わせ、響け!

 ライド! 《ベルベットボイス・レインディア》!!」

「……え?」

 滅多なことでは動じないミオが、ありえない光景を前にしたかのように目を丸くした。

 

 

「綺羅ヒビキのデッキはリヴィエール軸なんかじゃない。G3のリヴィエール以外はすべて1枚しか入れていない、レジェンドアイドルデッキだ……!!」

 血を吐くような心地でフウヤが叫んだ。

 

 

「バトルだ!」

 手札を全て使ってユニットを展開したヒビキが宣言する。

「リヴィエールのブースト、マリヤンでヴァンガードのグレイヲンにアタック!」

「引トリガーでガード。アルバとエルロでインターセプト」

「ピエーナのブースト、《トップアイドル アクア》でヴァンガードにアタック!」

「治トリガーでガードします」

「さあ、奏でよう! 《マーメイドアイドル セドナ》のブースト! 《ベルベットボイス・レインディア》でヴァンガードにアタック!」

「ノーガードです」

「ツインドライブ!!

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、★トリガー! ★はレインディア! パワーはアクアに!」

 海面から突き立った、尖塔のような岩場に腰かけていた銀髪のマーメイドがゆっくりと口を開く。

 その瞬間、レインディアから発せられた透き通った声がグレイヲンの心臓(ハート)を貫いた。

 モデル顔負けの美貌こそ備えているが、常に物憂げな表情を崩さない彼女は、歌って踊れるアイドルのイメージとは大きく異なる。

 それでも彼女をアイドルたらしめている最大の武器は、海溝からでも地上に届くと称される圧倒的な歌唱力である。

「レインディアのスキル発動! 手札を2枚捨て、デッキの上から10枚公開する!

《大切なフレーズ レイナ》

《高邁なる白銀 クティーレ》

《From CP キャロ》

《パールシスターズ ぺルル》

《恋への憧れ リーナ》」

 ヒビキが愛おしそうに、ユニットの名前をひとつひとつ読み上げていく。

「《手作りの愛情 エレナ》

《タイドコンダクター イーコス》

《煌きのお姫様 レネ》

《学園の綺羅星 オリヴィア》

《鮮やかなる夢幻 アクティアナ》

 ふふ。みんな綺麗だね。

 さて、キミがリヴィエールをすべてダメージゾーンに置いてくれたおかげだ。公開されたノーマルユニットは、すべて別名! ボクは公開されたユニットの中から1枚選んでスペリオルライドできる!

 ここは貴女に賭けよう……」

 レインディアの歌声に誘われて、新たなる伝説のアイドルが彼女の背後でコーラスを唄いあげる。

 その名も――

「水面に煌めく綺羅星よ。銀河へと続く階段を駆け昇り、闇夜を照らす一等星となれ!

 ライド! 《学園の綺羅星 オリヴィア》!!」

 銀糸が織りなすようなレインディアの美しい旋律が、黄金の如く燦然と輝くオリヴィアの声と響き合う。

 祈りの歌声が波に乗って、どこまでも果てしなく広がっていき――

 世界は平和になった。

 

 

「ダメージチェック……負けました。完敗ですね」

 オリヴィアのアタックこそ完全ガードで防いだものの、オリヴィアのスキルでスタンドしたリアガードの追撃は耐えきれず、ミオは6枚目のカードをダメージゾーンに置いた。

「そんなことはない。いいファイトだった。再びキミと戦えた運命に感謝を」

 ヒビキは肩膝を立ててミオの前に跪くと、彼女の手を取り、その細い指に口づけをした。

「いや、何してるんですか?」

「キミのファイトに敬意を表したのさ」

「蹴られたいんですか?」

 ミオが低い声音で脅すと、ヒビキは慌てて飛び退きながらもポーズをキメた。

「ふふふ。照れ屋さんなんだね」

「どうもお互いの認識に致命的な隔たりがあるようですね」

「困ったね。どうしたらキミに喜んでもらえるのかな」

「なら今すぐにでも再戦してください。

 ……いえ、ダメですね。今、ファイトしても勝率は低いでしょう。まずは戦術からデッキまで洗い直さなければ。地力もあなたにまだまだ届いている気がしません」

 ミオは顎に手を当て、冷静に現状を分析した。

「なら、約束だ。来年のヴァンガード甲子園で、また会おう。必ずそこでボクはキミと再戦する」

「来年の8月、ですか。それが妥当かも知れませんね。わかりました、約束ですよ」

「ああ、約束だ」

 そう言って、ヒビキは細長い綺麗な形をした小指を差し出した。

「これなら受けてくれるかな?」

「……しかたありませんね」

 ミオは小さく溜息をついて、ちいさな小指をそれに絡めるとぎゅっと軽く力を込めた。

「フッ。これで僕達だけの契りが結ばれたわけだね」

「いちいち不快な表現を使わないで頂けますか?」

 乱暴に小指を切り離すと、ミオはデッキをまとめて立ちあがる。

「また会いましょう、ヒビキさん」

「次の逢瀬を楽しみにしているよ、ミオちゃん」

 ミオはまた一瞬だけ眉をひそめたが、それ以上は何も言わずにヒビキに背を向けて去っていった。

 天海学園2年、綺羅ヒビキ。決勝進出。

 響星学園2年、音無ミオ。準決勝敗退。

 

 

「《学園の綺羅星 オリヴィア》でヴァンガードにアタックだ!」

「クッ! ノーガード!」

 決勝戦は綺羅ヒビキと清水セイジのファイトとなり、セイジの烈風の如き猛攻をヒビキは耐え抜き、ミオ戦で披露したものと同じ、レインディアとオリヴィアの連携で逆転勝利を果たした。

 かくして、今年のヴァンガード高校選手権は大方の予想通り、綺羅ヒビキの優勝で幕を閉じた。

 

 

「ヴァンガード高校選手権はこれでおしまいです」

 表彰式も終わり、2名しかいない響星の部員を集めて、ミオが部長として大会を締めくくろうとする。少し離れてマナブ教師も腕組みしながら部員達を見守っていたが。

「みなさん、楽しめましたか?」

「おうっ!!」

「はいっ!!」

 ふたりの即答を聞いて、ミオは満足そうにこくんと首を縦に振った。

「それならば問題ありません。帰りましょう」

 余韻などという感傷とは無縁なミオは、さっさとスタジアムの外へと歩を進める。

 その時、ぽつりと冷たい感覚がミオの頬に当たった。

「おや?」

 ミオが軽く両手を掲げる。

「雪ですね」

 漆黒の空に白い氷の粒が散る。

 ミオに当たった最初の雪が溶け、その頬を水滴となって零れていった。




圧倒的青春戦乱絵巻。
それが高校生達にとっての大会です。
青春の華が咲いては儚く散っていくひとつの戦場をご堪能頂ければ幸いです。

ヒビキがレジェンドアイドル使いというのは初登場時点からあった構想ですが、それよりもさらに初期、ヴァンガードがスタンダードに移行する前から、バミューダ使いの最強キャラという構想はありました。
その時はレインディアかオリヴィアがエースユニットかなと漠然と考えていたものですが(髪色や名前にその名残が)、まさかどっちもレジェンドアイドルに関わってくるとは。
そんな経緯とタイミングのよさもあって、根絶少女では初となる、発売前ユニットの先行登場と相成りました。

初期案にあった、ミオ戦でユニットを除去されてからのラウラ。セイジ戦で大幅リードされてからのイリーナ。
の方が構成としては綺麗だったと思うので、そこはギリギリまで悩みました。
最新カードを取るか、ファイト構成を取るか。
贅沢な悩みです。

そんなヒビキの使用カードが収録される「Twinkle Melody」の「えくすとら」は、発売日前後に公開できると思います。
ヴァンガード候補が多すぎて、文章量がえらいことになりそうですが、お楽しみにして頂ければと思います。
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