根絶少女   作:栗山飛鳥

25 / 94
3年生編
4月「終わりの始まりが、音もなく芽吹く」


「おい、見ろよ! あの人が噂の……」

「ああ……聞いていた話よりもずっと可憐だ」

「無理してでも響星(きょうせい)に入学してよかった……」

 その姿を見るや、1年生は囁き合い。

「ああ、今日もなんてお美しいの……」

「おい! 道を開けろ! あの方の邪魔になるぞ!」

 2年生は畏怖を以て、彼女を称え。

「あの白河ミユキの後継者!」

「ただ歩いているだけで、どうしてここまで目立てるんだ!?」

 3年生の羨望と嫉妬の眼差しを一身に集め。

 まるで誂えたかのような桜の絨毯の上を、花道を渡るが如く優雅に歩む。

 小柄で背も低いが背筋はピンと伸びており、堂々たる威風を感じさせる。

 特徴的な白い髪は、舞い散る花弁と陽光を浴びて今は薄紅色に輝いていた。

 響星学園において、もはや彼女を知らぬ者はいない。

 完璧な美貌。絶対の知性。生命力にも溢れる、知勇兼備、全知全能の才媛。

 その名は――

「「「響星学園3年!! 音無(おとなし)ミオ!!!」」」

 偶然重なった生徒達の声に反応したわけではないだろうが、ミオが1年の頃と比べて伸びてきた髪を鬱陶しそうに払う仕草をしただけで、校内から歓声があがった。

 

 

「お疲れ様です。進級おめでとうございます、サキさん」

「あ、ミオさん。ありがとうございます!」

 少しくたびれた様子のミオが部室に入ると、組み直していたデッキをまとめて、藤村(ふじむら)サキがそれを出迎えた。

 肩口で綺麗に切り揃えられた黒髪と、よく似合っている黒縁のメガネはいつも通りだが、顔立ちは少し大人びてきたようにも思える。

「遅かったですね。何かあったんですか?」

 時計を見ながらサキが問う。今日は始業式とホームルームだけで、10時には全行程が終わったはずだが、今はもう正午を過ぎていた。

「これです」

 ミオが鞄を開き、中に入っているものをぶちまけた。封を開けられた大量の便箋が机の上にばら撒かれ、そのうちの何通かが机に乗り切らなくなり床に落ちる。

「これって……ラブレターですか!?」

 そのうちの一通を拾い上げたサキが、目を輝かせる。

「そうです。計23通の恋文です。過去にも同じような手紙をもらったことはありましたが、下駄箱からこれらが一斉に溢れ出してきた時は、間違って郵便ポストを開けてしまったのではないかと思いました。

 曰く、10時5分に体育館の裏で待っています。10時7分に屋上で待ってるぜ。10時9分に廃校舎の裏に来てください。10時11分に屋上にて愛を囁き合いましょう。10時13分に伝説の樹の下で会いましょう(中略)11時55分に屋上で大切な話があります。

 これらの約束を全て果たして――伝説の樹の下は場所が分からなかったので無視しましたが――ようやく部室に辿りつけました。私に1階と屋上を何往復させるつもりですか」

 言い切って、ミオはふーと長い溜息をついた。

「約束の数、23より多くないですか?」

 話を指折りながら聞いていたサキが首を傾げる。

「恋文に想いを託すようなロマンチックな人が23人いたというだけです。面と向かって『何時何分に何処何処へ来てくれ』と言われたパターンがさらに24です。いっそ、その場で言ってくれないですかね」

「人の目がありますからねえ……」

「そもそも、告白は人の目の無いところでやらなければならない決まりがあるんですか。屋上とか、廃校舎とか。カツアゲされるんじゃないかと思いました」

 去年も人気の無いところで不良に絡まれたことをふと思いだす。

 いや、あれは自分から絡みにいったのだったか。重要なのはかけがえのない後輩と出会えた一点のみなので、細かいことは忘れてしまった。

「よかったのは、1階に降りるたびに、新天地で頑張っているオウガさんを見れたことでしょうか。私が校舎全体を使った踏み台昇降をやらされているのに全く気付いてくれないのは複雑でしたが」

「あ、そうだ! 私、オウガ君と同じクラスになったんですよ」

「それは朗報です。5分に1回は後ろを向け。私はいつも見ているぞ。と伝えておいてください」

「激励と恨み言が混じって軽くホラーになってますよ。

 それより、今日は何でこんな一斉に告白されたんでしょうか。ミオさんが告白されるのは珍しくないですけど……」

 そう。ミオが告白されるのは初めてではない。その様子をサキは何度か目にしたことがあった。そのすべてがにべもなく断られ、玉砕していく瞬間も。

 ミオは丁重にお断りしていたつもりかも知れないが、ありありと伝わってくる無関心さは、傍から見ていたサキですら凍り付きそうになった。それに直接さらされた男子生徒の胸中はいかばかりか。

 基本的には無表情なミオだが、本当に興味が向いた時には目が爛々と輝くのだ。

「年下の私が言うのも変ですけれど、ミオさん、この1年でますます綺麗になった気がします。背も、はじめて会った時は私より低かったのに、今は私と同じくらいまで伸びましたし」

「そうでしょうそうでしょう。目指すは身長170センチ。クールビューティー・音無ミオです」

「それは難しいのではないかと。ていうか、私の身長も女子の平均以下ですよ」

「む。残念です」

 ミオが僅かに肩を落とした。

「冗談は置いといて、サキさんの質問に答えましょうか。このラブレターの8割は1年生のものなんです。つまり――」

「つまり、ミオさん目当てに入学してきた男の子が一斉にミオさんを奪い合ったというわけですか」

 残りの2割はそれに危機感を覚えた、彼女に気のある2、3年生か。

「女の子もいましたが」

「さいですか。

 その、それで……ミオさんは、どれか一つにでもOKしたのでしょうか?」

「いいえ」

「ですよねえ」

「私が恋人にするのはギヲのような人と決めています」

「理想が歪んでる!」

 サキがテーブルに掌を叩きつけてツッコんだ。

 一通りの雑談を終えた後、いつもならここでファイトが始まるのだが、ミオは「さて」と言いながら席を立った。

「今からファイトという気分でもありませんし、お腹もすいたので、ひとまずファミレスへ行きましょうか。これからのことで大事な話もありますので」

「? はい、行きましょう」

 律儀にラブレターを鞄にしまい直してからミオが部室を出ていこうとする。なんだろうと首を傾げながら、サキもそれに続いた。

 

 

「それだけしか食べなくて、よく動けますね」

「それだけ食べて、よく動けますね」

 お互いのトレイ――ハンバーガーが1個乗っているだけのサキと、ハンバーガーが10個乗っているミオ――を見比べ、互いに感想を述べあうと、向かい合って席につく。

「さて、大事な話と言うのは他でもありません」

 サキがハンバーガーを一口かじる間に、ミオはハンバーガー5つを平らげ、話を始める。

 この店にはスタンド使いでもいるのかと、サキは真剣に周囲を見渡した。

「何をよそ見しているんですか?」

「いえ、失礼しました。続けてください」

「はい。単刀直入に言います。我がカードファイト部は存続の危機に瀕しています」

 サキがポロリとハンバーガーを取り落とす。ミオは空中のそれを目にも止まらぬ速さで受け止めると、一口で頬張った。

「もぐもぐ。何をしているんですか、もったいない」

「すみません。けど、食べる必要は無かったですよね」

「失礼しました。つい本能で」

 お詫びとばかりに、ミオが自分のハンバーガーをひとつ代わりに差し出した。小食のサキにとって得をしたかは微妙なところだが、彼女としては食事どころではなかった。

「存続の危機とはどういうことですか?」

「サキさんは知らないのも無理はありませんが、我が校では部員が3人いなければ部活としては認められません」

「ああ、そういうことですか」

 1年前、やたら歓迎ムードで迎えられたのをサキは思い出す。

「本来なら新入生が集まっている今日に勧誘をしなければならなかったのですが……」

 ミオは暗い目で隣の席に置いてある鞄を見た。捨てるに捨てられない大量のラブレターが詰まった鞄を。

「すみません。私が動くべきでした」

 俯いて謝罪するサキにミオは首を振った。

「いえ。それを言うなら指示を出さなかった私の責任です。ですが、積極性に欠けるメンバーが残ってしまったのは事実かも知れませんね」

 ユキのカリスマ性や、アリサのリーダーシップ。オウガの行動力にどれほど助けられていたか。改めて感謝の念を覚えると同時に、少し羨ましくも思えた。

「この出遅れは明日の放課後に挽回しましょう。私は卒業まで部に残るつもりなので、1人でも入部してくれる人が見つかれば目標は達成です」

「え、推薦が決まっているんですか?」

 この先輩ならありえない話では無いと思いながらサキは尋ねたが、ミオはゆっくりと首を振った。

「進学はしません。私は高校卒業と同時にヴァンガードのプロリーグを目指します」

 サキは目を丸くしてミオを見つめた。それを否定ととったわけではないだろうが、ミオはより真剣な声音で繰り返した。

「私はヴァンガードのプロリーグを目指します。だって、私にはそれしかありませんから」

 名門の響星学園を過去最高の成績で卒業しようとしている、望めば何にでもなれそうな彼女が言うと嫌味にしか聞こえないが、サキには妙に合点がいった。

 思い出すのは天海学園の3人だ。他とは一線を画す強さを誇る彼らは皆、サキのような常人には理解し難い行動原理で動いていた。

 結局のところ、競技の世界でプロになれるのは。まして結果まで残せるのは、どこか狂気に侵されたような人間でしかありえないのかも知れない。

「……応援、してます」

 近くて遠すぎる先輩に、サキはそれだけ絞り出すのが精いっぱいだった。

 

 

 ――翌日。

「よいしょ」

 放課後の部室で、ミオはカバンから紙の束を取り出した。

「とりあえず、ポスターは描いてきました。我ながらよくできたと思いますが、いかがでしょう?」

 サキが束から1枚抜き取って確認する。A3サイズの用紙にはグレイドールのカードを手にしたグレイヲンが、あろうことか笑顔(?)で「僕と一緒にヴァンガードをしよう!」と呼びかけている。

 隅っこで小さなメガレックスが火を吐いているのは、「たちかぜも描いてくれてありがとうございます」と喜ぶべきか、「たちかぜ忘れてましたよね?」と責めるべきか微妙なところだ。

 あと、メガレックス火は吐かない。

「……かわいいと思いますよ」

 悩んだ末に、サキはあたりさわりの無い感想を口にした。

「かっこよく描いたつもりなのですが」

 ミオがすねたように、半眼になってサキを見据える。

(わかるかーっ!!)

 サキは脳内で頭を抱えた。

 この先輩、扱いが難しすぎる。

「前回がかわいい系だったので、趣向を変えてみました」

「同じシュール系にしかなっていないと思いますけど」

「サキさんも言うようになりましたね。

 では、このポスターを学校中に貼る者と、正門前で配る者に分けようと思います。どちらがいいですか?」

「正門前で配るのは……その、声を出さなければダメですよね?」

「もちろんです」

「えと……言いにくいんですが、私やミオさんの声では、周囲の声に負けてしまいそうで」

「ふむ。一理ありま……」

 ミオが何かを答えようとしたが。

「アメフト部新入部員募集してまーっす!! そこのガタイのいいお兄さん! 興味ねーっすか!?」

 外から聞こえてきたオウガの声に、彼女の声はあっさりかき消された。

「3階分の距離があって、すでに負けてますからね。正門前で直接対決しても勝ち目は無いでしょう」

 冷静に状況を分析しながら、ミオは窓から正門前で声を張り上げるオウガを「この裏切り者め」と言いたげに見降ろしていた。

 声だけではなく、器まで小さい。

「そういえば。あれほど私に言い寄ってきた連中はどうしたのでしょうか? 私目当てに1人2人くらい入部してきてもよさそうなものですが」

 ミオが名案とばかりにポンと掌に拳を打ち合わせて言った。

「ヴァンガード目当てじゃない人に入部されても困りますけど。振られた人が、振った人が所属している部活に入部するのも気まずいですし、ストーカー一歩手前ですよ」

 少し呆れてサキが答える。

「そういうものですか。

 私目当ての入部も望めないのであれば、とりあえず2人で手分けして校内にポスターを貼るところから始めましょうか。時間が経ったら、正門前の状況も変化しているかもしれません。オウガさんとの勝負から逃げるようで癪ですが……」

 ミオがブツブツと状況を整理し始めた時だった。

 ガララッと音をたてて部室の扉が勢いよく開き、そこからミオが入ってきた。

「あれ……ミオ、さん?」

 さっきまで話していたミオから視線を外し、部屋に入ってきたミオを見て……サキはメガネがずり落ちるほどに首を傾けた。

 部屋に入ってきた人物は確かにミオだった。ただし、その上背は現在のミオよりも低く、言うならば2年前のミオに近い。だが、リボンで二つ括り(ツインテール)にした白い髪は、髪をヘアゴムでまとめる事はたまにあれど「邪魔だから」という理由で装飾品の類は使わないミオらしくなかったし、何より、花が咲き誇るかのような満面の笑みはミオではありえなかった。

「あなたは一体……」

 部長としての責任感か、単純な興味か。もしくは恐怖も含んでか。ミオが闖入者の少女を誰何しようとした。

「会いたかった、お姉ちゃん!!」

 だが、それよりも早く少女がミオに抱きついてきて、言葉は遮られた。

「お、お姉ちゃん……?」

 いや、別の言葉が先にでてきてしまったという方が正解か。

 成り行きを見守っていたサキのメガネが、理解の範疇を越えたとばかりにパリンと割れた。

「うん。そうだよ、お姉ちゃん」

 細い腰に腕を回したまま上目使いになってじっと見つめてくる少女に、ミオは悪い気こそしなかったが、焦りの方が勝った。

(まさかお父さんに隠し子が? それともお母さん? 音無家は平凡だけど幸せな家庭と思っていたのに、ここにきて家庭崩壊の危機でしょうか)

「あはは、そうじゃないよ」

 いつもに増して無表情になったミオを察したのか、ミオに似た少女は、腰に回していた腕を首に巻き替え、耳元で囁いた。

「アタシのお姉ちゃんは、あなたの中にいるもう一人のあなただよ」

「!?」

 反射的にミオは少女を抱きしめた。その姿を覆い隠すように。もしくは逃がさないように。

「サキさん」

「ひゃっ、ひゃい!?」

 努めて冷静にサキに呼びかけ、呼ばれた少女は我に返ったように新しいメガネをかけ直して答えた。

「この子のことは後で紹介します。今はポスターを貼ってきていただけませんか?」

「は、はいっ!」

 ただならぬ空気は感じていたのかも知れない。気になることも多いだろうに、サキは持てる限りのポスターを抱えて、逃げるように部室を後にした。

 サキの気配が遠くなったのを感じて、ミオがゆっくりと少女を引き離す。そして、改めて問うた。

「あなたは、誰ですか?」

「アタシは時任(ときとう)レイ」

 少女が胸に手を当て自己紹介をする。

「けどこれは今のお父さんとお母さんからもらった名前。その正体は……」

 レイと名乗った少女は、ゆっくりと右手の甲をかざす。そこには輪っかを重ねて花を形作ったようなリンクジョーカーの紋章が浮かんでいた。

「惑星クレイの侵略者、根絶者のディフライダーだよ」

「ディフ、ライダー……?」

 聞いたことも無い単語をそのまま問い返す。

「うん。知らなかったかな? まず、地球では空想の世界と思われてる『惑星クレイ』って実在するの。ディフライドって言うのは、惑星クレイの住人が生み出した技術で、魂を地球の住人に憑依させちゃうの。そうして地球の文化を学ぶのが本来の目的だったらしいんだけど……」

 レイが笑顔のまま顔を伏せた。

「アタシ達の場合は、少し違っててね。ヴァンガードで語られているような戦いも実際にあるんだけど、アタシ達は救世主(メサイア)との戦いで負けちゃった根絶者なの」

「負けた? この私が? あんなカカシに?」

 ミオが不快感を露わに顔をしかめた。

「そう。骨も残らないほど焼き尽くされて。けど、魂だけは焼け残った個体が僅かにいたの。それがアタシであり、お姉ちゃん。宇宙を彷徨った末、地球に辿りつき、生まれたばかりの赤子に憑りついた。こうしてディフライドに限りなく近い形で生まれたのが、今のアタシ達だよ。

 ここまで突拍子の無い話をしちゃったけど、信じてくれるかな?」

 相変わらず笑みは浮かべたまま、レイはミオを真摯に見据えながら尋ねた。

「……私は自分の身に、他の子とは違う不可解な現象が起きていることは薄々と自覚していました。あなたの話を総合すれば、腑に落ちることは多々あります。ですので、鵜呑みにするつもりはありませんが、現状は信じざるを得ないと言ったところでしょうか」

「よかったあ! ありがと、お姉ちゃん!」

 ぴょんと飛び跳ねるようにして、再びレイはミオに抱きついた。自分より小さな少女をおずおずと抱き返しながら、ミオが口を開く。

「……いくつか質問があるのですが」

「どうぞ。アタシに答えられることなら、何だって」

 またまたぴょんと離れたレイが、偉そうに椅子に腰かけて、ミオに似て平坦な胸を張る。

「私の中にいる根絶者はどなたでしょうか? ヱファメス? ズヰージェ? それともファルヲンのようなグレード1でしょうか?」

「一番気になったのがそこ!?」

 恋する乙女のように目を煌めかせて尋ねるミオに、レイは呆れながらツッコんだ。

「それにお姉ちゃん、理想が高いよ。アタシ達は根絶者の中でも雑兵の中の雑兵。幾億にのぼる群れの中での最下層。カード化なんてするわけないじゃん」

「ええ……?」

「ルチさんだって、アタシ達からしてみれば大先輩だよ。むしろ様付けで呼ばなきゃ。ほら、言ってみて」

「ル、ルチ、様……」

 根絶者におけるマスコットキャラクター的な扱いに思っていたルチを敬称で呼ぶ屈辱に耐えながら、ミオは次の質問を口にした。

「あなたは何を契機に自分がディフライダーであることを知ったのですか? ディフライダーやディフライドと言った固有名詞まで、自分で考えたわけでは無いのでしょう?」

「そういう質問を先にしなよ!

 えっと、アタシも中学生くらいの時に、自分は他と違うなって思いはじめたの。その時、自分もディフライダーだって言う人が現れて、アタシの正体を教えてくれたの」

「それは胡散臭い話ですね。単なる不審者ではないのですか?」

「あはは、そうだよね。けど、さっきのお姉ちゃんと同じで、自分の状況と当てはめて納得せざるを得なかった感じかな。思い出そうとすれば、惑星クレイでの記憶も少し思い出せるようになったし。生まれたと思ったら戦いに次ぐ戦いで、最後は救世主に蒸発させられて終わりだから、あんまりいい記憶じゃないんだけどね」

「ちっ。あのカカシが全ての元凶じゃないですか。いつか私達の手で滅ぼしてあげましょうか」

「いや、アタシも思うところはあるけれど、救世主がいなくなったら惑星クレイも地球も滅びるからね」

 冷や汗をかきながら、レイが救世主をフォローする。

「まあいいでしょう。次の質問です。

 私達に血の繋がりは無いようなのですが、どうしてこんなにも容姿が似ているのでしょうか」

「うーん。よく分からないけど、やっぱり似た境遇で育つと、似た顔になってくるのかも。

 あとはあれかな。真っ白な髪ってだけで珍しいから、それで似て見えちゃうのかも」

「そう言えば、どうして私達の髪は白いのでしょう。両親の髪の色は黒なのですが」

「アタシの両親もだよ。それについては、強制的な憑依のショックで髪が白くなったんじゃないかって推測してる。まあ、いきなり乗っ取られたらそうもなるよねー」

「業の深い存在ですね、私達は」

「うん。他に質問はないかな?」

「では、これが最後の質問です。

 あなたはどこで私を知ったのですか? 正確には、私がディフライダーであったことをどこで?」

「お姉ちゃん、テレビに出てたよね?」

「そうなんですか?」

「出てたよ! ヴァンガード甲子園の決勝大会は全国ネットで生中継だよ!

 アタシもファイターの端くれとして、もちろんチェックしてた。そこでヒビキ様とファイトするお姉ちゃんを見て、すぐにピンときた」

「ヒビキ、様?」

 聞き捨てならない敬称が聞こえた気もするが、レイは気にせず話を続ける。

「根絶者使ってるし、ディフライダーがディフライダーを見るとなんとなく分かるんだ。共鳴するって感覚が近いかな」

 レイが再び手の甲をかざし、リンクジョーカーの紋章を浮かび上がらせる。ミオも右手の甲に違和感を覚え、見ると、同じような紋章が浮かんでいた。

「お姉ちゃんに会いに行かなくちゃと思って。住所までは分からないから、お姉ちゃんの高校を目指すしかなくて、それはもう勉強したよ。何でこんな難関校にいるの?」

「む? 私の記憶能力や身体能力が同年代と比較して異常に高かったりするのも、そのディフライドとやらのおかげと納得していたのですが」

「え? そんな特殊能力、アタシにはないけど? 運動も勉強も中の下レベルだよ」

「まじですか」

「まじだよ」

 どうやらミオがやたらハイスペックなのは素だったようだ。

「では、私が感情の機微に乏しいのも、ディフライドの影響かと思っていましたが、どうやらそれも違うようですね。……少なくとも、あなたは笑えています」

「あはは。それならアタシも本質的にはお姉ちゃん同じだよ。ただ人に紛れるため、笑顔を取り繕って、クラスメイトの口調を真似て、人に化けてるだけ。

 正直に言って、人の感情ほど理解に苦しむものはないかな」

 そう言うレイの瞳はガラス玉越しに虚空を覗いているかのように何も映してはいなかった。こういうのを「目が笑っていない」とでも言うのだろうか。ミオだからこそ気付かなかっただけで、ユキやアリサなら彼女の本質など一目で看破してしまったかもしれない。

「あっ! けど、お姉ちゃんと会えて嬉しいのは本当だからね!」

 レイが慌てて補足するが、部屋の空気が気まずい沈黙に落ちる。

「……これが最後の質問です」

「さっきのは!?」

「やり直しです。レイさん。あなたはこれからどうするつもりですか?」

「もちろん、お姉ちゃんと同じ部活に! カードファイト部に入りたい! お姉ちゃんが迷惑じゃなければ、だけど」

「迷惑ではありません。むしろ助かります。ですが、カードファイト部には入部試験ファイトという伝統が去年からできたのです」

「去年にできたばかりなのに伝統!?」

「レイさん。私とファイトしましょう」

 ミオが鞄からデッキケースを取り出した。

「うん! アタシ、お姉ちゃんとファイトしてみたかった!」

 レイもすぐさま自分の鞄からケースを取り出して答える。

「私もです。不思議なものですね。生まれた頃から、この日が来るのをずっと待ち望んでいたような気がしています」

 きっと、ミオの中にいた根絶者がずっと呼び求めていたのだろう。数奇な運命に引き裂かれたきょうだいの姿を。

 

 

「スタンドアップ ヴァンガード」「スタンドアップ ヴァンガード!」

 お馴染みの掛け声と共に、ミオとレイがテーブルの上に置かれた1枚のカード(ファーストヴァンガード)を同時にめくる。

「《発芽する根絶者 ルチ》」

「《プライモディアル・ドラコキッド》!」

「……ギアクロニクル? 根絶者ではないのですか?」

「えへへ。だって同じクランじゃ、お姉ちゃんと一緒にヴァンガード甲子園に出場できないでしょ?」

 目を丸くして驚くミオに、レイが悪戯っぽく微笑んだ。

「けど、アタシのギアクロニクルは根絶者の代わりなんかじゃないからね。24ものクランの中から選んだ、アタシの相棒なんだから!」

「……いいでしょう。あなたのデッキとの絆、見せていただきましょう」

「うん! いくよ、お姉ちゃん!

 ライド! 《メーザーギア・ドラゴン》! アタシはこれでターンエンドだよ」

「スタンド&ドロー。

 ライド。《発酵する根絶者 ガヰアン》

 コール。《速攻する根絶者 ガタリヲ》

 バトル。ガヰアンでヴァンガードにアタックします」

 このアタックはヒットし、互いにトリガー無し。

 続くガタリヲのアタックはガードされ、ミオはターンエンドを宣言する。

「スタンド&ドロー!

 ライド! 《スモークギア・ドラゴン》!

 コール! 《スチームブレス・ドラゴン》!

 スチームブレスのスキル発動! 山札の上から5枚見て……G3の《リノベイトウイング・ドラゴン》を手札に加えて、手札の《時空竜 イディアライズ・ドラゴン》をドロップするよ。

 さらに《テキパキ・ワーカー》をコール! ドロップゾーンのイディアライズをデッキに戻してSB2、1枚ドロー!」

「ふむ……」

 言うだけあって、そのプレイングに迷いは見られない。ミオは素直に感心した。

「バトルだよ! スチームブレスで、ヴァンガードにアタック!」

(クリティカル)トリガーでガードします」

「《テキパキ・ワーカー》のブースト! 《スモークギア・ドラゴン》でヴァンガードにアタック!」

「ノーガードです」

「ドライブチェック! ……引トリガー! カードを1枚引くよ」

「ダメージチェック。トリガーはありません」

「ターンエンドだよ」

「私のターンですね。スタンド&ドロー。

 ライド。《迅速な根絶者 ギアリ》

 コール。《慢心する根絶者 ギヲ》、《悪運の根絶者 ドロヲン》

 バトルです。ドロヲンのブースト。ギアリでヴァンガードにアタックします」

「《スチームメイデン ウルル》でガード!」

 ミオの憑依した根絶者が虚無を纏った腕を振るう。

 その眼前にいつの間にか現れた黒髪の少女が、自分の上背より巨大な砂時計をひっくり返す。たったそれだけで根絶者の攻撃は巻き戻され、「なかったこと」になった。

 まさしく、時間を操るギアクロニクルのみが成せる妙技である。

「いい判断です。

 ドライブチェック……引トリガー。1枚引いて、パワーはギヲに。

 続けて、ガタリヲでヴァンガードにアタックします」

「そっか。アタシのリアガードが2枚以下だから、ガタリヲのパワーが+4000されるんだ。

《コロコロ・ワーカー》でガード!」

「ギヲでヴァンガードにアタックします」

「ノーガード……トリガーじゃないね」

「……なるほど。私はこれでターンエンドです」

 自分から根絶者と名乗るだけあって、根絶者の造詣も深いようである。

 ここまでお互いにダメージは2点。

 ミオがふと手札から顔を上げると、レイとぱっちり目が合った。

「ふふふ。楽しいね、お姉ちゃん」

「ええ。そうですね」

 レイは満面の笑みで。ミオは微笑して言葉を交わし合う。

「こうしてお姉ちゃんとファイトできる日を、半年前からずっと楽しみにしてた。

 ううん。ひょっとしたら、お姉ちゃんのことを知る前から、この日を待ち侘びてたのかも知れない。

 時空を越えて出会えた、アタシのお姉ちゃんに見せてあげる! これがアタシのパートナー!

 ライド!! 《時空竜騎 ロストレジェンド》!!」

 レイの呼びかけに応え、黄銅色の鎧を纏った竜人が姿を現す。

 特徴的なのは、その手に携えた複雑な機構の機械剣で、剥き出しの歯車が時を刻むように一定の間隔で回転を続けている。

「イマジナリーギフト! フォースⅠを右前列のリアガードサークルに!

 行くよ、ロストレジェンド! スキル発動! 手札から《スチームスカラー イルカブ》をG3扱いとして捨てて……時空超越(ストライドジェネレーション)!!」

 竜人が機械剣を高々と掲げると、時を早送りにするかのように歯車の回転が速くなっていき、真っ白い閃光が世界を包み込んだ。

「《時空竜 タイムリーパー・ドラゴン》!!」

 光の中から現れたのは、未知なる輝きを放つ純白の金属と、古めかしい真鍮で構成された機械竜人。2丁の拳銃を隙無く構え、吐息するように口元から蒸気を吐き出す。

「ロストレジェンドのスキル発動! CB2でカードを1枚ドロー!

 コール! 《リノベイトウイング・ドラゴン》! 《時空獣 アイソレイト・ライオン》!

 リノベイトのスキル発動! このユニットとアイソレイト・ライオンをバインド! デッキの上から3枚見て……うん、いい引き!

《スチームガンナー ザイード》、《スチームメイデン リッブル》をスペリオルコール! ロストレジェンドをバインド!

 おまけに《思い出を守るギアパピィ》もコール!

 ふふん。どう? お姉ちゃん」

 流れるようにユニットを展開してみせたレイが、自慢げに鼻で息をする。

「バトルだよ!

 ギアパピィのブースト、ザイードでヴァンガードにアタック! アタック時、ザイードのスキルでソウルチャージ!」

「《噛み砕く根絶者 バルヲル》でガードします」

「バトル終了時、ギアパピィのスキル発動! この子をバインドして1枚ドロー!

 スチームブレスのブースト! リッブルでヴァンガードにアタック!」

「フォースⅠがあるので、合計パワーは36000。30000要求ですね。

 ノーガードです。ダメージチェック……トリガーはありません」

「《テキパキ・ワーカー》のブースト! タイムリーパーでヴァンガードにアタック!

 アタック時、タイムリーパーのスキル発動! リッブルを時翔(タイムリープ)!!」

 機械竜が銃を味方へと向けると、何の躊躇いも無くその引き金を引いた。弾丸を受けたギアクロニクルの少女は、魔法陣に包まれ、その姿を変えていく。より強く、成長を遂げた未来の姿へと!

「スペリオルコール! 《スモークギア・ドラゴン》!」

「未来の姿と言うか、まったく別の種族に変貌してませんか?」

「細かいことは気にしない! さあ、タイムリーパーのアタックはどうする? 受ける? 守る?」

「受けましょう。ノーガードです」

「ツインドライブ!!

 1枚目、★トリガー! ★はタイムリーパーに、パワーは変わり果てた姿のスモークギア(リッブル)に!

 2枚目、(ドロー)トリガー! カードを1枚引いて、パワーはスモークギアに!」

 機械竜が巨大な金属の翼を広げ、空を翔ける。根絶者の眼前に急接近したかと思いきや、今度は時を翔け、その背後へ一瞬で回り込むと、無防備な背中に無数の弾丸を叩き込んだ。

 その弾丸の一発一発が、射抜いた対象の時間を奪う特別性だ。穴だらけになった根絶者は、そのダメージというだけでは説明がつかないほど、風化して崩れそうになっていた。

「ダメージチェック。

 1枚目、引トリガー。1枚引いて、パワーはギアリに。

 2枚目、(ヒール)トリガー。ダメージを回復。パワーはギアリに」

「ああ、よかったあ」

 トリガーを2枚引き当て、体勢を立て直したミオに、レイは安堵の吐息をついた。

「もう勝負が決まっちゃうんじゃないかってドキドキしたよ。お姉ちゃんとは、もう少しファイトを続けたいからね」

「ええ。ですが、勝てるチャンスをフイにしましたね」

「口の減らないお姉ちゃんだなあ。アタシの有利には変わりないんだからね!

 スモークギアでヴァンガードにアタック! パワー+5000! ソウルブラストして1枚ドロー!」

「ギヲでインターセプト。エルロでガードし、さらにクイックシールドも使用します」

「アタシはこれでターンエンド。ターン終了時、タイムリーパーはロストレジェンドに戻るよ。フォースは左前列のサークルに」

「私のターンですね。スタンド&ドロー。

 ライド。《絆の根絶者 グレイヲン》」

 死に体の根絶者が生まれ変わるようにして巨大な根絶者へと変貌を遂げていく。

 全身に虚無を纏った怪物が、時すらも根絶せんと彼方へ轟く雄叫びをあげた。

 ミオがちらりとダメージゾーンに目を向けた。自分のダメージ3に対し、レイのダメージはまだ2だ。

「イマジナリーギフトはフォースⅡを選択。ヴァンガードサークルに置きます」

「お。ダメージ差を詰めにきたね」

「《略奪する根絶者 ガノヱク》、《呼応する根絶者 アルバ》をコール。CB1してドロップゾーンから《呼応する根絶者 エルロ》をスペリオルコール。

 グレイヲンのスキル発動。CB2してヴァンガードをデリートします」

 グレイヲンが巨大な腕を一振りすると、騎士竜を時の彼方よりも遥かに遠い場所へと消し飛ばす。

「バトルフェイズに入ります。

 ドロヲンのブースト。グレイヲンでヴァンガードにアタックします」

「それだけは通さないよ! 《スチームガード カシュテリア》で完全ガード!」

 無防備な霊体となったレイの前に、ゴーグルを額にかけたエンジニアの少女が颯爽と立ちはだかる。彼女は精巧だが小ぶりな機械盾を掲げると、人ひとりなど簡単に握り潰せるグレイヲンの掌を容易く弾き返した。今は失われた太古の技術すら接収できるギアクロニクルの兵装に、見た目通りのものなどひとつたりとて無い。

「ツインドライブ。

 1枚目、トリガー無し。

 2枚目、引トリガー。1枚引いて、パワーはエルロに。

 ガタリヲのブースト。アルバでヴァンガードにアタックします」

「それも通さない! 《スチームボンバー ジグル》でガード! ザイードとスモークギアでインターセプト!」

「ガノヱクのブースト。エルロでヴァンガードにアタックします」

「それはノーガードだよ」

 レイがダメージゾーンに3枚目のカードを置く。トリガーは無し。

「ガノヱクを手札に戻して、私はこれでターンエンドです」

「アタシのターン! スタンド&ドロー!

 まずはロストレジェンドにライド!」

 恭しく跪いた真鍮の騎士竜に、再びレイが憑依する。

「スチームブレスをコール! スキル発動! 山札の上から5枚見て……ロストレジェンドを手札に。《ラッキーポット・ドラコキッド》を捨てるよ。

 そして、リッブルが捨てられた時、このユニットをスペリオルコール! タイムリーパーをデッキに戻して1枚ドロー!

 《睨みつけるギアベアー》をコールして……行くよ、お姉ちゃん!」

 先ほど手札に加えたロストレジェンドを、器用に指の上で回転させてから、ドロップゾーンに置く。

「ストライドジェネレーション!! 《時空竜 ミステリーフレア・ドラゴン》!!」

 ロストレジェンドが再び剣を掲げ、眩い閃光に包まれる。その中から現れたのは、二門の巨大な砲を両腕に携えた機械竜。

「バインドゾーンのグレード合計は14! 19には足りなかったけど、じゅーぶん!

 ミステリーフレアのドライブ+1! ★+1! アタシのユニット6体のパワー+10000!

 バトルだよ!

《テキパキ・ワーカー》のブースト! ミステリーフレアでヴァンガードにアタック!!」

 機械巨竜が重々しく砲を構えると、古風な外観には似つかわしくない、翠緑に輝く二条の光線が迸った。

「アルバとエルロでインターセプト。ガノヱク、★トリガー、治トリガーでガード。2枚貫通です」

 グレイヲンを守らんと集まってきた有象無象を、超熱の輝きが焼き払う。

「トリプルドライブ!!!

 1枚目、はトリガー無し!

 2枚目、★トリガー! 効果はすべてリッブルに!

 3枚目、★トリガー! この効果もリッブルに!

 スチームブレスのブースト! リッブルでヴァンガードにアタック! フォース1つ、トリガー2つで、合計パワーは66000!」

「《真空に咲く花 コスモリース》で完全ガードです」

「……むー。決めきれると思ったのにー。お姉ちゃんが守護者を使ったので、ギアベアーのスキルでドロヲンを退却させるよ。

 スチームブレスのブースト、ギアベアーでヴァンガードにアタック」

 大きな瞳をさらに見開いて驚いたかと思ったら、拗ねたようにむくれてファイトを続ける。

 このレイという少女。ミオと容姿こそ瓜二つだが、表情はコロコロと変化し、常に無表情のミオとは対照的ですらある。

「ノーガードです」

 そのミオは、いつもの如く淡々とファイトを進め、4枚目のカード――引トリガーをダメージゾーンに置く。

「私のターンですね。スタンド&ドロー。

《波動する根絶者 グレイドール》にライドします」

 有機的かつグロテスクな外観のグレイヲンが、鋼鉄の鎧を纏うように無機質な姿へと変化していく。

 それは挨拶代わりとばかりに鋭くとがった指を向けると、そこから波動を放ちロストレジェンドを跡形も無く消し飛ばした。

「《欺く根絶者 ギヴン》をフォースⅡサークルの上にコールします」

「ギヴン!? ……けど、お姉ちゃんの手札は1枚。ギヴンを含めてもリアガードは2枚。グレイドールをスタンドはできないね」

「本当にそうでしょうか? あなたがギアクロニクルに通じているのはよく理解できました。しかし、根絶者のお勉強が少しおろそかになっているのではないですか?」

「え……? ……あっ!」

「コール。《層累の根絶者 ジャルヱル》」

 レイが何かに気付いた声をあげると同時、ミオがそのユニットをコールする。それは数ある根絶者の中でも最新のカード。

 根絶者にしては珍しくカエルのような四肢を持つ、異形の怪物が飛び跳ねながら現れた。

「バトルフェイズです。

 ジャルヱルのブースト。グレイドールでヴァンガードにアタックします」

「カシュテリアで完全ガードだよ!」

「ツインドライブ。

 1枚目、★トリガー。効果はすべてギヴンに

 2枚目はトリガーではありません。

 続けて、ファルヲンのブースト。ギヴンでヴァンガードにアタックします」

「ウルルとスチームブレスでガード!」

「アタック終了時、ギヴンのスキルが発動します。手札とリアガードから合計6枚のカードをドロップゾーンに置くことでグレイドールをスタンドさせることができますが、おっしゃる通り、私の手札とリアガードは合計しても5枚しかありません。

 ですが、この愛らしいジャルヱルはコストとする時、3体分として扱える愛らしいスキルがあります」

「さすがに愛しすぎだと思うよ!?」

「私の根絶者への愛に限界はありません。

 ジャルヱル、ファルヲン、ギヴン、手札のアルバをドロップゾーンに置き、グレイドールはドライブ-1でスタンドします。

 グレイドールでヴァンガードにアタック」

「《リクレイムキー・ドラコキッド》でガード!」

「1枚貫通ですね。では、ドライブチェック……」

 運命を分かつ1枚のカードをふたりの少女が息を呑んで注視する。その様子に限って言えば、ふたりともそっくりだった。

「……治トリガー。ダメージ回復し、パワーはグレイドールへ」

 宙に浮かび、大地を睥睨するグレイドールの全身から黒い波動が放たれる。

《あ、あ……きゃあああああっ!!》

 それに呑み込まれたレイの全身が少しずつ崩れていき、その魂を虚空へと還した。

 

 

 6枚目のカードがレイのダメージゾーンに置かれた。

「私の勝ちですね」

 薄氷の勝利に、小さく安堵の吐息を漏らしながらミオが言う。

「うん! 悔しいけど、すっごく楽しかった! ね、お姉ちゃん! もう1回やろ!」

「はい。ですがその前に……」

「あ、そう言えば、これって入部試験だっけ?

 あれ? 負けちゃったから、もしかしてアタシ、入部できない……?」

 レイの顔が今にも泣きだしそうに歪んでいく。

「いえいえ。合格。合格です」

 ミオが慌てて言った。

「え……?」

「入部試験はファイトの実力を測るものではありません。あなたがファイトを楽しんでいるかを知りたかったのです。

 それに、客観的に見て不審者であるあなたを、部を預かる身としては、おいそれと受け入れるわけにはいきませんでした」

「不審者って。ひどいなあ」

 レイが口を尖らせる。

「ですから、ファイトをして見極めたかったのです。ファイトの中では誰も嘘はつけませんから。

 そして、あなたのファイトから偽りは何一つとして感じられませんでした。あなたは一人前のファイターであることを、私に示してくれたのです。

 だから合格です。カードファイト部への入部を認めましょう」

「やったあ! これで毎日一緒にファイトができるね、お姉ちゃん!」

 椅子から跳び上がって喜び、レイはテーブルを越えてミオに抱きついた。

「その、お姉ちゃんと言うのは……」

「あ、ごめん。もしかして嫌だった?」

 ミオからパッと離れ、困ったような顔をする。

「いえ。ですが他の人にはディフライダーなどという荒唐無稽な説明はできません。そうなると、姉と呼ばれる必然が……」

 ここまで言って、ミオは言葉を止めた。レイの瞳がみるみるうちに潤んできたのだ。

「……お姉ちゃんがいいですか?」

「うんっ!!」

 レイは力いっぱい頷いた。

「仕方ありませんね。私達は従姉妹どうしという設定で通しましょうか。

 私も、その、悪い気はしませんし……」

 急に顔が熱を帯びてきたのを感じ、ミオはそれを隠すように顔を背けた。そんな姉の気持ちなど露知らず、妹は再び抱きついてくるのであった。

「ありがとう! お姉ちゃん、だーい好きっ!!」

 一見すればほのぼのとした平和な光景。

 しかし、誰にも見えないところで運命の歯車は静かに動き出していた。

 

 そう、これは――

 

 1人の少女が世界を消去する物語である。




根絶少女ラストシーズン。
3年生編の第一幕をお届けすることができました。
今回は異色のギアクロニクル使い、根絶者のディフライダーでもある時任レイがカードファイト部に加わるお話でした。
彼女はえくすとらでもレギュラーとして活躍してもらう予定なので、残り1年どうぞよろしくお願い致します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。