根絶少女   作:栗山飛鳥

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8月「根絶するだけでは許さない」

 ヴァンガード甲子園、決勝大会。

 今年も無事、その舞台に立つ事ができた。

 早乙女マリアは人知れず安堵の溜息をつき、すぐにそれを止めて気を引き締める。

(いけませんわ。わたくし達は常勝軍団。決勝大会進出など通過点。当然の結果でなければなりません。そういう顔をしていなければ)

 地区予選に心残りが無いかと言えば嘘になる。彼女にとって、白河ミユキを倒さずして手に入れた全国大会の切符など、何の価値も感じられなかったが、そんな態度こそ、部員達の前で見せるわけにはいかない。自分はもう一介のファイターでは無く、30人以上の部員を抱える名門・(セント)ローゼ学園カードファイト部を率いる部長なのだから。

 心中で気合いを入れ直して、後ろに並ぶ部員達に手振りでついてくるように示す。

 しばらく進んだ先に見知った顔を見つけ、マリアは優雅に微笑みかけた。

「ごきげんよう。お久しぶりですわね、佐藤さん」

「ああ、早乙女さん。去年のヴァンガード甲子園ぶりだね」

 声をかけられた、好青年然とした若者が歩み寄ってくる。冴えない顔立ちだが、彼こそ去年のヴァンガード甲子園でマリアを破って優勝を決めた天海(あまみ)学園のエースである。今年は部長も任されていると聞いていた。

「今大会も決勝まで来ましたのね。そうでなくては面白くありませんわ。わたくしにも去年の雪辱がありますから」

 口元は扇で隠しながらも、剣呑に輝く瞳は隠そうとしない。そんなマリアに、若者は苦笑しながらかぶりを振った。

「ごめん。今年の僕は引率なんだ」

「引率? では、大会に出るのは2年ですの? 引退されて後輩に席を譲ったのでしょうか?」

「それだったら、まだ格好もついたんだろうけどね。僕は……いや、僕たち3年生は代表の座を奪われたんだよ……1年生にね」

 彼が示す先には、3人の少年がいた。

 朝日による逆光で顔の隠れた、未だ無名で無冠の彼らを一目見るや、あろうことか常勝校のエリートである早乙女マリアは、ひとつの確信を抱いてしまった。

 今年は勝てない、と。

 

 

(クリティカル)3の《不死竜 スカルドラゴン》で、ブロンドエイゼルにアタック!

 パワー100000(オーバー・ザ・クインテットナイン)!!!!』

 深淵の底から振るわれた一閃が、海を断ち割り、波打ち際に立つ黄金の騎士をも斬り裂いた。

 騎士が最期に見たものは、二つに割れた海の底。大剣を下ろした姿勢のまま動かない不死竜と、その奥の玉座でつまらなそうに頬杖をついた魔の海域の王(バスカーク)だった。

『ダメージチェック……トリガー無し。負けました……』

 ミオが持つ、けして大きくはないタブレット端末の画面を、3人の少女が頭で押し合いしながら食い入るように見つめていた。

 そのうちの一人はもちろん持ち主のミオで、彼女を挟むようにしてユキとアリサの頭がある。

 ヴァンガード甲子園の決勝大会はインターネット中継されているため、夏休み中だが部活動の一環として、ミオ達は部室に集まって観戦しているのだ。

「ミオちゃんに勝った人が負けちゃったね。ドライブチェックで引いた★トリガーを、2枚ともスカルドラゴンに振ったのは、どうしてだと思う?」

「完全ガードを持っていない事を見透かされていた感じね。ゴールドパラディンの彼も一流であることを踏まえた上で、あえて厳しい事を言わせてもらうと、格が違うわ」

 ミオの間でアリサとユキが言葉を交わし合う。

「先鋒も、すごく強かったよね。結局、この準決勝まで1度も大将が戦ってないじゃん。聖ローゼなら、勝負になると思ったのに」

 じりじり体を寄せてくるユキを頭で追いやりながらアリサ。

「天海学園は前大会の優勝校。順当と言えば順当なんだけど」

 頭突きをアリサに見舞いながら、ユキが顎に人差し指を当てる。壁にぶつかり跳ね返ってきたアリサの頭をかわしながら、ミオは迷惑そうに顔をしかめた。

「これは番狂わせと言った方がいいのかしら」

『決勝進出! 今年も天海学園が決勝戦への切符を手にしました! なんと、天海学園はチーム全員が1年生! このまま優勝となれば、ヴァンガード甲子園はじまって以来の快挙となります!』

「だそうよ。とんでもない世代と一緒になったものね。ミオ」

 実況に合いの手を入れるユキは、苦笑しながらも、どこか楽しそうだった。

 

 

「あー、終わったー。結局天海学園の圧勝かー」

 アリサが全身をだらんと机に投げ出しながら、大会の感想を短く述べた。

「結局、大将さんのファイトは見れなかったわねえ」

 ユキが夏だというのに熱々のお茶を淹れて一服し始める。

「何をダラダラしてるんですか、二人とも」

 中継が終わるなり部室でくつろぎ始めた二人の先輩をミオはねめつけた。

 これが呆れという感情かと、つまらなく自覚する。

「いやー、ヴァンガード甲子園が終わるとどうしても、ね」

 のろのろと体を起こしながらアリサが答える。

「9月から何かイベントは無いんですか。私、もっとヴァンガードがしたいんです」

「いいやる気ねぇ。けど、大きな大会は12月まで無いわねぇ」

 一切の音をたてることなく湯呑みを置き、今度はユキが答えた。

「12月にあるんじゃないですか。なら、その時まで練習しましょう……って、ユキさんは3年生ですよね。いつまで部にいるんですか?」

「あら、悲しいわ。ミオは私がいない方がいいと思っているのね」

「そうは言ってないです。ユキさんがいなくなると部員が2人になってしまいますから、残って頂けるならありがたいです」

「数合わせくらいにしか思われてない!?」

 悪戯めいた笑みから一転、ユキはおいおいと泣き出してしまった。

「心配しているんですよ。受験は大丈夫なんですか?」

「ユキはとっくに推薦が決まってるからね。優等生は気楽でいいよね」

「そういうこと。気楽なの。さすがに大きなイベントに参加するのは控えるけれど、部室には寄らせてもらうわ」

 アリサが口を挟むと、ユキはけろりと泣き止んで立ち上がり、着物を見せびらかすようにしてくるくると回った。要するに、学校で着物を着れなくなるのが嫌らしい。

「けどよかったです。ユキさんとの思い出が、あんな形で終わるのは嫌でしたから」

「……地区予選のことなら気にしなくていいのよ。どうせ、最後に笑って終われるのは全国で1校だけなのだから。因果なものよねぇ」

「そんな理屈じゃありません」

「私は後輩の成長が見届けられて満足な大会だったの。あなたがどう思おうと、それだけは絶対に変わりません」

 おどけた調子から一転、強い口調と揺るがぬ意志でユキは真っすぐに後輩を見据えた。

「あなたに心残りがあるのなら、それはあなた自身で晴らせばいいわ。まだ来年があるのだから」

「……はい」

 そう言ってユキに頭を撫でられると、もうミオは何も言えなくなる。

「よーし、話もまとまったところで、ショップに寄っていきますか!」

 パンッと手を打って、アリサが場を仕切り直そうとした。

「一番だらけていた人が何を……」

 もちろんミオはそれに反発する。

 冷たいツッコミを無視して、アリサは話を続けた。

「今日はちょっと遠出して、カードショップ『タワー』に行ってみよーよ!」

「『タワー』? 県内で一番大きなカードショップね」

「……ふむ」

 ユキの情報にミオも食いついた。獲物を見つけた猫のように、つぶらな瞳が怜悧に煌めく。

「とにかく対戦したいのなら『タワー』が一番だよ。ショップ大会でも、軽く50人は集まるってさ」

「スイスドロー形式でも、5、6回は対戦できそうですね。なるほど、魅力的です」

「計算早いねー。ま、ミオちゃんに異論は無いみたいだね。ユキはどう?」

「次期部長にお任せするわ」

「よーし! それじゃ、しゅっぱーつ!!」

「次期部長」の響きに気をよくしたか、いつも以上のテンションでアリサは部員達に号令をかけるのであった。

 

 

「おお、本当に塔みたいですね」

 カードショップ『タワー』に辿りついたミオの第一声がそれだった。

 ビルの中にカードショップが設営されているのは珍しくないが、『タワー』はビル全てがカードショップとなっており、そのうちの2階から3階でヴァンガードが取り扱われている。ちなみに4階から5階は他のカードゲームで、1階は何と全てがファイトスペースとなっていた。ショップ大会が行われるのも1階で、参加者はそこに集められていた。

「本日は参加者が60人を越えたので、トーナメント形式で大会を行わせて頂きます!」

 店員が手でメガホンを作って、参加者達に呼びかける。

(おや、トーナメントでしたか。まあ負けなければいいだけの話です。6回は対戦できますね)

 頭の中で皮算用しながら、ミオは対戦卓についた。

「よろしくお願いします」

 ヴァンガードをはじめて4か月とは思えない不敵な気配を放ちながら、対戦相手に一礼。そのあとは虐殺ショーのはじまりだ。

「グレイヲンでデリート。アタック。アタック。アタック。ギヴンの効果でグレイヲンをスタンド。さらにアタック」

「ダ、ダメージチェック……あ、ありがとうございました」

「はい、ありがとうございました」

 対戦相手が肩を落として去っていく。どうやら初心者だったようだが、よからぬ思い出を植え付けてしまったようだ。

(あの子が根絶者を嫌いにならなければいいのですが)

 見当違いの心配をしながら、ミオはまだ対戦している周囲の卓を思わず見渡してしまう。後に対戦する事になるかもしれないファイターのデッキを覗き見することになるのでマナーとしてはよくないのだが、ミオのような対戦経験の少ない者にとっては、どうしても気になってしまうところである。

(あ、アリサさんと同じメガコロニーです)

 見慣れたカードに、思わず視線が止まる。ちょうどメガコロニーを使っている少年がトリガーチェックを行うところだった。

「ファーストチェック、★トリガー」

(む?)

「セカンドチェック、★トリガー」

(むむ?)

「ダメージチェック、負けました」

 少年の対戦相手が6枚目のダメージを置いてテーブルから離れていく。少年は余裕の表情でカードを片付けようとして……

「待ってください」

 ミオにその手をで押さえつけられた。

「な、なにすんだよ!」

 少年――とは言えミオよりは体格の大きい男子高校生と思しき少年が悲鳴をあげる。

「あなた、袖からトリガーを出しましたよね? 今すぐジャッジにカードの枚数を数えてもらいます」

「は? 俺が不正したって言うのかよ? ……いいから離せよ!」

 少年が振り払うと、ミオは案外素直にその腕を離した。

「ミオちゃん!?」

「どうしたの、ジャッジを呼びましょうか?」

 騒ぎに気付いたアリサとユキが駆け寄ってくる。広すぎる店内が災いして、店員は気付いていないようだ。

「……いえ、私の勘違いです。お騒がせして申し訳ありませんでした」

 ペコリと頭を下げるミオを、気味悪がるような目で見据えながら、少年は逃げるように席を立った。

「ミオちゃん、大丈夫!? 不正を見つけたんでしょ? やっぱりジャッジを……」

「いえ。あの男、私ともみ合っている最中、ギャラリーに……たぶんグルでしょうが、カードを渡していました。もう、デッキを調べても不正の証拠は出てこないでしょう。下手に追い詰めれば、不利になるのは私の方です」

 手品師にでもなればいいのにと、ミオは付け足すように吐き捨てた。

「では、泣き寝入りするの?」

 試すようなユキの問いに、ミオは「まさか」と首を横に振った。

「幸い、私の次の対戦相手は彼のようです。正々堂々、完膚無きまでに叩き潰してあげましょう」

「よしっ、あたしもあいつを見張ってるよ」

 意気込むアリサに、ミオはまたしても「いいえ」と首を振った。

「アリサさんもユキさんも自分の試合に集中してください。早く終わったとしても、彼の好きなようにさせてください」

「でも、それじゃ……」

「私、許せないんですよ。ヴァンガードを汚す行為もそうですが、よりにもよってメガコロニーで不正をしていることに。メガコロニーは悪の組織かも知れませんが、私の知っているメガコロニーは、あんな小細工で粋がる小悪党ではありません」

「ミ、ミオちゃーん!」

 感極まったアリサに泣いて抱きつかれながら、ミオは自分の中で沸々と起こる未知の感情に戸惑いを覚えていた。

(ああ、これが怒りですか。あまりいい気分ではありませんが……今日ばかりはこの感覚に酔わせてもらいましょうか)

 

 

 トーナメント2回戦――

「お前が次の対戦相手かよ」

 不正をしていた少年が、嫌悪感を露わにミオを睨み付けていた。対面に腰を下ろしたミオはどこ吹く風で、自分のデッキをシャッフルしている。

「どうも。お手柔らかにお願いします。ああ、不正はきちんとしてくださいね。ハンデが無いと物足りないですから」

 ミオの挑発に、少年の額に分かりやすく青筋が立った。しかし、何も言い返せず無言になって、彼も自らのデッキを切りはじめた。

「よろしくお願いします」

「…………」

 形だけは礼儀よく頭を下げるミオ。少年は無視。

「スタンドアップ」

「ヴァンガード!」

 こうして、互いにドス黒い思惑を抱いた試合は始まった。

「《絆の根絶者 グレイヲン》にライドします。フォースⅠはアルバのいる右前列に」

 お互いにダメージは2点。先攻のミオがG3へとライドする。

「ヴァンガードの《ナスティ・スモッグ》をデリート。ドロヲンでブーストしたグレイヲンでアタックします」

「……完全ガード」

 序盤からデリートを仕掛けるミオに、少年も守護者(センチネル)で対抗する。

「ドライブチェック。1枚目、トリガー無し。2枚目、引トリガー。1枚引いて、+10000は左前列のギヲへ」

 続くリアガードの攻撃は全てヒットし、相手のダメージは4点。

「俺のターン。《マシニング・スターグビートル》にライド。プロテクトⅡを左前列に。ソウルから2体をレスト状態でコール。手札から《強毒怪人 ヘルデマイズ》をコールして、レストしている《ナスティ・スモッグ》をスタンド。

 ヴァンガードでアタックだ!」

「……ノーガード」

 ミオが宣言した瞬間、男が顔を歪ませた。あまりにも醜く、笑みを浮かべたのだと気付くのに数秒かかってしまった。

「ドライブチェック。1枚目、★トリガー! 2枚目、★トリガー!」

(そうでないと面白くありません)

 ミオは3枚のカードをダメージゾーンに置いていく。たった一撃でダメージは5点になり、追い詰められた形になる。

 もっとも、そんなものは数字の話で、地区予選でゴールドパラディン使いの少年から受けた5点目の方がよっぽど重かったが。

 残る2体のアタックは、トリガーを引けたのもあり、最低限の手札でガードする。

「私のターン、スタンド&ドロー」

「《ナスティ・スモッグ》と《強毒怪人 ヘルデマイズ》の効果で、左右後列のリアガードはスタンドできないぜ」

(知ってます)

 自分が毎日何回メガコロと戦っているか知っているのかと、心の中で毒づく。

「《波動する根絶者 グレイドール》にライドします。フォースは左前列へ。プロテクトサークルの《ナスティ・スモッグ》を裏でバインド(バニッシュデリート)。ヴァンガードをデリート」

 ブーストができなくとも、ギフトでパワーラインを確保する。

「ヰギーと、ギヴンをコール。ドロヲンでブーストしたグレイドールでアタックします」

 少年は再び守護者でそれを防ぐ。

「ツインドライブ。

 1枚目、(ヒール)トリガー。ダメージ回復し、効果は右前列のギヴンに。2枚目はトリガー無しです。

 ヰギーでヴァンガードにアタック」

「《シェルタービートル》と《ファントム・ブラック》でガード!」

「ギヴンでヴァンガードにアタック」

「ノーガード。5ダメージ。トリガーは無い」

 その瞬間、ギヴンの効果が発動する。莫大な代償を支払うことでグレイドールを覚醒(スタンド)させる、禁断の契約。

「コストはギヴンを除いたリアガード4体と、手札を2枚。スタンドしたグレイドールでアタックします」

「完全ガード! ギヴンを使ったのは早計だったな」

 既に3枚目の守護者を見せつけながら、少年が嗤う。

「計算のうちです。あなたの攻撃なんて、もう怖くありませんから」

 ミオは一切動じず、ターンエンドを宣言する。

「ちっ。俺のターン、ドロー…………!?」

 カードを引いた少年が、何かに気付いた様子で硬直する。

「どうしました? あなたのヴァンガードはデリートされたままですよ。早くG3にライドしないと」

 少年の歯噛みする音がこちらまで聞こえてくるのを感じながら、ミオはなおも言葉を続ける。

「できませんよね。調子に乗ってトリガーばかり引きすぎましたね。言ったでしょう? あなたの攻撃など怖くないと」

「……ライドスキップ。ユニットをコールし、ホーネットでブースト。ヴァンガードでアタック!」

「はい、治トリガーで20000ガードです」

「トリガーチェック! 1枚目、★トリガー! 効果は全てリアガードのスコルピオに! 2枚目、★トリガー! 効果はリアガードのヘルデマイズに! ホーネットのブーストを受けたスコルピオでアタック!」

「これも治トリガーでガードします」

「《ファントム・ブラック》のブースト! スキル発動! 手札を1枚捨てて、パワー+6000! お前はG1以上をコールできない! パワー36000のヘルデマイズでアタック!!」

「完全ガードです」

「……!!」

 愕然とする少年。力無く手を差し出したのをターンエンド宣言とみなして、ミオがカードを引く。

「《絆の根絶者 グレイヲン》にライド。フォースはヴァンガードに。グレイヲンのスキルでヴァンガードをデリート。3枚の手札を全てコール。ガタリヲでブーストしたギヲでアタックします」

「★トリガー2枚でガード……」

「ヴァンガードのグレイヲンでアタックです」

「完全ガード……!」

「ドライブチェック。2枚ともトリガーはありません。ガノヱクでブーストしたギヴンでアタック」

「完全ガ……」

「完全ガードですか? おかしいですね。守護者はもう4枚見えていますよ」

 固まった少年は自覚した。全ては彼女の掌の上。自分は怒らせてはいけない相手を怒らせたのだと。

「その様子だと、完全ガードも好きに手札に加えることができるのでしょうね。ですが、あなたがどれだけ器用にカードを操ろうと、守護者は4枚までのルールは覆せない。あなたが5枚目の守護者を出した時点で、あなたの負けです」

 それでも、少年は悪あがきするように、デッキへと手を伸ばす。

「……ノーガード……ダメージチェック……ヒールトリガー……!!」

「おや、ヒールも仕込んでいましたか? それとも、あなたのデッキが情けをかけてくれましたか。いずれにせよ、これで終わりです」

 ギヴンが手札、リアガード、自身すらも(ゼロ)にして、再びグレイヲンが蘇る。

「あなたの存在は真剣にヴァンガードをしている人達に対する侮辱です。あなたのような人を私は許さない。私はあなたを根絶します。グレイヲンでアタック」

「《シェルタービートル》でガード……」

「トリガー1枚で貫通ですね。では……ドライブチェック」

 少年が息を呑んだ。ミオは確信していた。

「★トリガー。効果は全てグレイヲンに」

 グレイヲンが拳を固く握りしめ、少年目掛けて鉄槌を振り下ろす。

 惑星そのものをも砕かんとする一撃が、汚れた魂を粉々に消し飛ばした。

「ダメージ……チェック……俺の負け、です……」

「あなたにヴァンガードファイターを名乗る資格はありません。理解できたなら、この場から消え去りなさい」

 頭一つ分くらいは違う小柄な少女に圧倒され、少年は何も言い返せず自分のデッキをひっつかむと店を出ていく。幾人かのギャラリーも、彼を追うようにして出ていった。

「ふう」

「ミオちゃーん!!」

 一息ついたところで。アリサが飛び込むようにして抱きついてきた。

「もう、心配したんだよ! 心配しすぎて、ファイトにも集中できなくて負けちゃったんだから!」

「それは責任転嫁な気もしますが、ご迷惑をおかけしました。けれど、心外ですね。私があのような輩に負けるとでも」

「思ってなかったけど、だからこそ心配になるじゃない! 万が一負けちゃったら、ミオちゃん立ち直れなくなるんじゃないかって」

「まあ、万が一にでも負けていたなら、食べては胃の中のものを吐き出す生活が1か月は続いたでしょうけど」

「うわ、本当に勝ってよかった。さあ、次はユキとだよ。頑張ってね」

「結局ユキさんとですか。あまり遠出した意味はありませんでしたね」

「ミオちゃんもユキも強いから、どうしても勝ち残っちゃうよねー。ま、今度は楽しんできてね!」

「はい」

 気を引き締め直して、ミオはユキの待つ対戦卓へと向かうのであった。

 

 

「30点ね」

 ファーストヴァンガードを置き、手札を引いたところで、ユキが藪から棒に点数を言い放った。

「む? 私はテストの点数で90点以下を取ったことはありませんが。ああ、ユキさんの英語の点数はそのくらいでしたね。それが何か?」

「今日のあなたの成績です。はじめて30点を取った感想は?」

「……私としては上手くやったつもりだったのですが」

「不正を犯した対戦相手に憤るのは分かります。けれど、傍から見ているとあなたが対戦相手を煽っているようにしか見えませんでした。それも重度のマナー違反です。違反に違反で報復してどうするの」

「む……」

 完全にぐうの音もでなかった。先の少年と同じ敗北感を、今まさに味わっている。

「正々堂々というのは、なにも試合の内容ばかりを指すものではありません。あなたの態度も正しくなければね」

「ごめんなさい……」

 ミオが深く深く頭を垂れた。落ち込んでいるのもあって額がテーブルにめりこみそうな勢いだ。

「その謝罪をすべき相手は別にいますが、この場にいないのでよしとしましょう。さて、説教はこれでおしまい。面白くないファイトは忘れて、ここからは楽しみましょう」

「……はい」

 ミオの表情に少しずつ生気が戻っていく。それを見て、厳しい顔をしていたユキもようやく微笑んだ。

「はじめましょう……スタンドアップ!」

「ヴァンガードっ」




栗山飛鳥です。

今回は『根絶少女・プロトタイプ』と言うべきお話です。
というのも、『根絶少女』の初期案は「根絶者にディフライドされた少女が、不正を行うファイターをデリート・エンドしていくダークヒーローモノ」という感じでした。
これだと対戦者のほとんどが悪人ばかりになってしまい、長く続けられそうになかったので、さらなる紆余曲折を経て、今の形に落ち着いたのですが。
その初期案を再構築して、今の『根絶少女』に落とし込んだのが、今回のお話というわけです。

今月は、10日に発売する『幻馬再臨』の『えくすとら』がありますが、発売から一週間空く17日前後に公開する予定です。
『えくすとら』初のむらくも回ですので、自分でもどれほどテンションが上がってしまうのか予想できませんが。

ともあれ、新たなヒャッキヴォーグを使えるのが、今から楽しみでたまりません!
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