デジモンアドベンチャー02AS ~呪いのドラゴン~ 作:疾風のナイト
その頃、愛菜とバドモンはパソコンから出現した宝玉を手に入れる。この宝玉はセント・アメジストと呼ばれる代物であり、その内に強大な力が秘められているとされている代物であった。
現実世界の東京。ここでは1人の男が自身の目的のため、パソコンを通じて刺客を送り込んでいた。
休日の夕方、海岸で景色を眺めている愛菜とバドモン。そこに1体のデジモンが現れる。このデジモンに戦うため、愛菜は力を望む。
次の瞬間、セント・アメジストから光が発せられ、愛菜は戦う力と装備を手に入れる。
そして、戦闘の末、デジモンを倒すことに成功する愛菜。だが、それは愛菜の戦いの幕開けに過ぎなかった。
デジタルワールドのダークエリアの出入口前。この場所には今日もまた、アヌビモンの姿があった。
現実世界の様子を観測している中、これまでの間、色々と起こった出来事を整理しているアヌビモン。
先日、時空の壁で隔てられている現実世界に向かって、聖なる力の込められた結晶を送ったアヌビモン。その後、アヌビモンの力は現実世界の愛菜の所有物に宿ることになった。
ここまでは何の問題はない。問題はアヌビモンの送った力が使用されたことである。 いくら、アヌビモンが力を送った張本人であるとはいえ、力自体は行使されないことが最良なのだ。
同時に力の行使自体も正当性がある。何故ならば、愛菜はバドモンを守るため、アヌビモンの力の行使したのである。
そして、愛菜が力を行使した相手であるが、ブギーモンと言うデジモンであった。紛れもなくデジタルワールドの住民に他ならないだろう。
「何故、デジモンが現実世界に干渉する」
驚きと憤りの感情を抱いているアヌビモン。まさか、デジタルワールドのデジモンが現実世界に出現したばかりではなく、愛菜とバドモンに危害を加えようとしたのだ。
「これは憂慮するべき問題だ」
アヌビモンがそのような言葉を発しているのには理由がある。未だに世界同士が接続されていない現時点において、デジタルワールドが現実世界に干渉することは危険な行為である。
だが、あのブギーモンは何かしらの手で現実世界に出現していた。これはブギーモンが独力で実行したとは思えない。
そう考えれば、現実世界あるいはデジタルワールドにおいて、ブギーモンを背後から操る黒幕がいると考えるのが妥当であろう。
「しかし、どうするかだ……」
この場で考え込んでいるアヌビモン。確かに現実世界の愛菜はアヌビモンが与えた力を行使したが、完全に使いこなしているとは言い難い状態であった。
前回のブギーモンとの戦闘についてであるが、あれはブギーモンが完全に慢心しており、愛菜がそこを突いたからこそ、戦闘に勝利することができたからである。
このため、ブギーモン以上の戦闘能力を保有するデジモン、あるいは慢心をしないデジモンと相対した場合、愛菜が戦闘で勝利する見込みは少なくなるだろう。
何がともあれ、愛菜には与えられた力を使いこなしてもらう必要があるだろう。アヌビモンがそのように考えていた時であった。
「その役目、私に任せてはくれないか?」
突然、そんな言葉と共にアヌビモンの前に何者かが現れる。当然のことであるが、すぐさま声が聞こえてきた方向に視線を向けるアヌビモン。
アヌビモンの視線の先に立っている者。それはローブを着込んでおり、口に髭を蓄えた長身の男であった。年齢は30代後半から40代前半のようにも見えるが、実際の年齢は分からない。
「貴方は……」
ローブを着込んだ男を見た途端、驚きの表情をするアヌビモン。本来であれば、ダークエリアへの侵入者として、即座に排除するべきなのだが、目の前に現れた男は様子が違っていた。
「私の名前はゲンナイ。デジタルワールドの均衡を守る者だ」
ダークエリアで重要な立場にいるアヌビモンに対して、堂々とした口調で名乗ってみせているゲンナイ。そのようなゲンナイからは言い様のない風格が漂っている。
「事情はこちらも知っている。現実世界に現れたデジモンのことについてだが、この件は私が引き受けよう」
自己紹介を済ませた後、単刀直入に本題を切り出しているゲンナイ。アヌビモンが頭を悩ませている案件について、自らが引き受けようという申し出であった。
「それは有り難いことであるが……」
ゲンナイからの申し出に対して、言い淀んでいるアヌビモン。確かにゲンナイからの申し出はこちらとしても助かるものである。その一方でゲンナイに対して、負担を強いることに負い目を感じていた。
「お前さんが気にすることはない。それよりも、ダークエリアの管理に専念してくれ」
すると、あれこれと考えているアヌビモンに対して、まるで諭すように言っているゲンナイ。アヌビモンの担当するダークエリアであるが、デジタルワールドにとっても重要なエリアである。
だからこそ、余計なことは考えることなく、アヌビモンにはダークエリアの管理に専念して欲しい。それがデジタルワールドの均衡を維持する者として、ゲンナイの心からの願いであったのだ。
「分かりました。この件はよろしくお願いします」
ゲンナイの意図を汲んだ後、改めて現実世界の件について、依頼をしているアヌビモン。同時にアヌビモンはダークエリアの管理に専念することを心に誓うのであった。
このようにして、ダークエリアで起こった案件はアヌビモンからゲンナイに移ることになった。それと同時に物語の歯車はさらなる動きを見せるのであった。
山陰地方の山地に隣接している公園。自然の景観と生態系を保全のために設立された園地であり、各所に休憩所や遊歩道が整備されているのが特徴である。
この公園の広場に愛菜とバドモンの姿があった。愛菜とバドモンの2人がここを訪れた理由であるが、それはバドモンの希望によるものであった。
バドモンは幼年期の植物型デジモンであるため、森林等の緑豊かな環境に身を置くことにより、自身の成長が促進されるのである。
「バドモン、どう?調子は!」
「うん、絶好調だよ」
一緒にいる愛菜からの質問に対して、満面の笑みで答えているバドモン。緑豊かな自然に包まれ、バドモン自身は勿論、愛菜も心地の良さを感じていた。
さらに幸いにも周囲には誰もいないため、愛菜とバドモンの2人は人目を気にすることなく、自由なコミュニケーションを行うことができた。
しばしの間、緑溢れる景観、穏やかな大気の流れ、木々の揺れる音を楽しんでいる愛菜とバドモンの2人。
すると突然、大気の流れが急に変わる。そうした時、何者かが愛菜とバドモンのいる場所に近づいてくるような気がした。
「君達がそうか……」
急に投げ掛けられた声。声質からして声の主は成人男性であろうか。反射的に声のした方向に視線を向ける愛菜とバドモン。
すると、愛菜とバドモンの視線の先には、1人の成人の男性が立っていた。その男性は白いローブを着込んでおり、口元に髭を蓄えているのが印象的である。
そして、男性の年齢についてであるが、30代後半から40代前半に見えるものの、それ以上の風格を漂わせていた。
「あの、どちら様ですか?」
「私はゲンナイと言う者だ」
素朴な愛菜からの質問に対して、紳士的な口調で答えるゲンナイ。自らをゲンナイと名乗った男性の立ち振る舞いであるが、まるで騎士のように礼節を重んじた振る舞いであった。
「私は松上愛菜と言います。ゲンナイさんは私達に何か御用ですか?」
「ああ。君とそこにいるデジモン……バドモンに用事があって来た」
緊張した面持ちの愛菜の問いにごく自然に答えるゲンナイ。この時、ゲンナイから発せられた言葉に対して、愛菜とバドモンの2人は驚きを隠せずにいた。
目の前にいるゲンナイと名乗った男であるが、明らかにデジタルワールドのことを知っている。それは先程の発言でデジモンと言うキーワードが出たことからも明らかだ。
このとから導き出されること、それはゲンナイ自身、デジタルワールドの関係者、あるいは少なくとも何らかの関わり合いを持つ者であるということだ。
「お聞きしますが、その用事とは……?」
「君と一緒にいるバドモンをデジタルワールドに連れて帰る」
目の前にいる愛菜から聞かれたため、用事の内容を単刀直入に話しているゲンナイ。確かにゲンナイの言っていることは正当なものであるが、何か特別な事情があるように思えて仕方がなかった。
「もし、よろしければ、その理由をお聞かせ願いますか?」
「そうだよ。教えてよ」
口を揃えてゲンナイに対して、説明を要求する愛菜とバドモン。一方、意を決したようにゲンナイは静かに言葉を紡ぎ始める。
「このバドモンは過去を清算しなければならないからだ」
淡々と紡ぎ出されているゲンナイの言葉。その言葉に言葉を失ってしまう愛菜とバドモンであるが、ゲンナイの詳細な説明はさらに続く。
ゲンナイからの説明によれば、元々、バドモンは誕生する以前、前世の時にデジタルワールドで罪を犯していた。
本来であれば、バドモンの前世の魂はダークエリアと言う場所において、アヌビモンの手で罪を裁かれた後、新しいデジモンに転生するという手順を踏む予定であった。
だが、何らかの事故により、ダークエリアに転送されている途中、誤って現実世界に転移してしまったのだ。これがバドモンの過去から現在に至るまでの経過である。
「だからこそ、バドモンはデジタルワールドに戻る必要がある。分かってくれないか?」
そんな言葉と共に再度、バドモンの身柄の引き渡しを要求するゲンナイ。そのようなゲンナイの表情であるが、真剣そのものであった。
「バドモンはどうするの?」
バドモンと顔を見合わせた後、そのように語りかけている愛菜。事情が分かった以上、遅かれ早かれ、バドモンはデジタルワールドに戻る必要がある。ただ、バドモンの意思を無視することもできなかった。
「うん、戻らなきゃいけないことは分かってる。でも、怖いんだ。ダークエリアに行くことが……だから、もう少しだけ、待ってくれないかな?」
これまで色々と世話をしてくれた愛菜に対して、自身の心の内を正直に吐露しているバドモン。デジタルワールドに戻らなければならないことは理解しているが、まだダークエリアで罪を清算する決心が固まっていなかったのだ。
「ゲンナイさん、バドモンはこう言っています。もう少し、待っていただけないでしょうか?」
猶予を貰えないかをゲンナイに相談している愛菜。勿論、愛菜自身、言っていることが我儘であることは承知している。ただ、バドモンの想いも尊重してあげたかったのだ。
「……確かに待てないこともないが……」
愛菜からの懇願を聞いた後、静かに言葉を紡いでいるゲンナイ。当然のことであるが、ゲンナイの言葉に愛菜は引っかかりを覚える。
「問題でもあるんですか?」
「ああ。ところで君達は最近、デジモンに襲われただろう」
「は、はい」
ゲンナイからの指摘を素直に肯定している愛菜。何故ならば、つい先日、愛菜とバドモンはブギーモンと名乗るデジモンに襲われたからだ。
「やはり……今、バドモンはダークエリアで浄化されていないため、前世の邪なものが残っている状態にある。恐らく、君達を襲ったデジモンもバドモンを狙っていたはずだ」
「はい、そのとおりです。だから、私が戦いました」
ゲンナイの指摘を認めている愛菜。事実、ブギーモンはバドモンに狙いを定めており、そのために愛菜が戦うことになったのである。
「今後も前と同じようにバドモンが狙われる可能性がある。その度に君がバドモンを守らなければならない。だからこそ、君に戦う力……セント・アメジストが託されたのだ」
ゲンナイがそのように言った時、素早くセント・アメジストが埋め込まれたスマートフォンを取り出す愛菜。その様子を見守っているゲンナイ。
「セント・アメジストは君の所有するデバイスと一体化したか……。だが……」
「どうしたんですか?」
言葉を一旦中断したゲンナイに対して、率直な疑問を投げかけている愛菜。やがて、ゲンナイは中断していた話を再開する。
「セント・アメジストはアヌビモンが君に託した重要な力だ。だが、残念なことに君はその力を使いこなせていない」
「……」
ゲンナイの指摘に何も言えないでいる愛菜。事実、ゲンナイの言っているとおり、愛菜には思い当たる節があった。さらにゲンナイは言葉を続ける。
「この前の戦闘だが、君がこうして無事でいるのも、恐らくは敵が油断していたからじゃないだろうか?」
「はい。そうです」
ゲンナイの推測を真正面から肯定してみせる愛菜。この前のブギーモンとの戦闘であるが、戦闘に勝利できたのは相手が油断していたからであり、実力自体は相手の方が上回っていた。
また、この前の戦闘において、愛菜はセント・アメジストの力に振り回されるような感覚を覚えていた。
だからこそ、完全に慢心しているブギーモンの油断を突いて、愛菜は早急に勝負を決めたのである。もしも、長期戦等に持ち込まれていれば、結果はどうなっていたか、愛菜自身にも分からなかった。
全てを見透かされたような感覚を覚えている愛菜。一方、ゲンナイは愛菜の様子をじっくりと眺めた後、会話を再開することにする。
「これから先、バドモンを守っていくためには、君がセント・アメジストの力を使いこなせなければならない」
「そのためにはどうすれば……」
「これから、私がセント・アメジストの力を使いこなせるように訓練を施していこう」
ゲンナイから発せられた言葉。それは愛菜にとっては衝撃的なものであった。だが、同時に拒否することはできないものでもあった。
すると突然、右手を掲げるゲンナイ。それと同時にゲンナイを中心として、その周囲が結界のようなものに包まれる。
「今、この周囲数メートルまで結界を展開した。これで周囲には何も見えなければ、何も聞こえなくなる。さあ、セント・アメジストの力を使った訓練を開始しよう」
先程、周囲への対策を施したことを愛菜に説明した後、セント・アメジストの力を使うように促しているゲンナイ。そのようなゲンナイの喋り方であるが、急いでいるようにも見えた。
そしてまた、ゲンナイの右手にはいつの間にか、鋭い光を宿した長剣が握られている。その後、ゲンナイはゆっくりと動作で長剣を構えている。
戦闘態勢を万全にしているゲンナイを目の前にして、これからの訓練のため、自らの意識を集中させている愛菜。それと同時にセント・アメジストから紫色の光が発せられる
セント・アメジストの光に包まれる中、愛菜はボディコンを思わせる紫色の衣装に身を包み、同時に身体の各部には防具、頭部には耳当てのようなヘッドギアが装着される。その上でウェーブのかかった長い髪はリボンで1つに纏められる。
さらに愛菜の左手についてであるが、一部のパーツが鋭い刃となった攻防一体の弓が装備されることになる。
こうして、戦闘準備が完了したゲンナイと愛菜。これからの戦いを想定して、ゲンナイの指導による愛菜の訓練が始まろうとしていた。
アヌビモンから与えられたセント・アメジストを使いこなすため、訓練を開始した愛菜とゲンナイの2人。そのような両者の様子を黙って見守っているバドモン。
戦闘を想定した訓練が開始された途端、すぐに後退することにより、ゲンナイとの距離を置くことにする愛菜。
長剣を構えているゲンナイの様子であるが、先程までとは様子が明らかに異なっている。このため、迂闊に接近して戦いを挑むより、弓で攻撃した方が得策であると愛菜は判断したのだ。
意識を集中させる愛菜。それと同時に衣装の宝玉が一瞬だけ発光したかと思えば、弓には弦が張られることになり、右手には光の矢が出現することになる。
握り締めた弓に光の矢を番えた後、目の前にいるゲンナイに狙いを定める愛菜。その後、光の弦を限界まで絞り込み、愛菜は光の矢を発射してみせる。
弓から発射された愛菜の光の矢。ブギーモンを倒した攻撃であり、このままゲンナイに決まるものと思われていた。
「ふんっ!」
次の瞬間、長剣で愛菜の光の矢を捌いてみせるゲンナイ。それと同時に愛菜の光の矢は粉々に砕け散ってしまう。
「そんなっ……」
いとも簡単に攻撃を防がれて、驚きを隠せないでいる愛菜。そうした最中、今までの様子を見ていたゲンナイが口を開く。
「弓の構え方、狙い、弦の絞り方……いずれもまだまだのようだ」
先程の愛菜の動作を見て、そう評価しているゲンナイ。少なからずショックを受ける愛菜であるが、ゲンナイの言葉はまだまだ続いている。
「それに戦闘への姿勢、身のこなし方……戦闘技術は勿論のこと、精神面での訓練も必要だな」
訓練開始から現在に至るまでの一連の動きを見て、愛菜のことをそのように評価しているゲンナイ。そのようなゲンナイの姿であるが、まさに厳しい戦いを積み重ねてきた歴戦の戦士そのものであった。
「今度はこちらから行くぞ……」
そのように言った後、剣を構えた状態のまま、愛菜との距離を詰めるゲンナイ。当然、愛菜はゲンナイの進撃を阻止しようとするが、とても間に合いそうになかった。
「はぁっ!」
「うっ!」
長剣による斬撃を浴びせようとするゲンナイ。一方、弓の刃でゲンナイの斬撃を受け止める愛菜。
金属同士が激しく衝突することで生じる音。それと同時に愛菜とゲンナイの2人はその場で切り結ぶ状態となる。
「足元がしっかり安定させろ。単に手に力を入れるだけではなく、身体全体に力を循環させるんだ。相対している敵をしっかり見るんだ」
「うっ……は、はい」
次々とゲンナイの口から発せられる助言。この助言を実行に移そうとしている愛菜。 ただ、単純に言葉で言うことは簡単であるが、実際の行動に移すことは難しいことであった。
助言どおりに自身の動きを矯正した後、目の前のゲンナイを振り払い、距離を置いて態勢を立て直している愛菜。
弓を構え直した後、再び、光の矢を生成しようとしている愛菜。再度の遠距離の攻撃を見舞おうとする愛菜であるが、目の前のゲンナイはそれを許さなかった。
気がつけば、弓による攻撃をしようとする愛菜の目の前には、剣を握り締めているゲンナイの姿があった。
「武器が弓だからといって、遠距離からの攻撃だけに頼るな」
そのように言った後、目の前にいる愛菜に対して、無防備な状態を晒しているゲンナイ。この行動は明らかに愛菜からの攻撃を待っている行動であった。
「えいっ!」
今度は鋭い刃と一体化した弓による攻撃を仕掛ける愛菜。攻防一体の弓であれば、剣のような使い方ができると考えた結果である。
「太刀筋が大雑把……それに動きも精彩さに欠けている」
そのような感想を述べた後、愛菜の攻撃を受け止めるゲンナイ。そのようなゲンナイの動きであるが、愛菜の動きを完全に見切っているかのようであった。
その後、何度かの打ち合いをする愛菜とゲンナイ。愛菜の弓とゲンナイの長剣が激突する度、周囲には金属同士の激突音が鳴り響く。
必死に打ち込みをしている愛菜。一方、愛菜の太刀筋を完全に見切った上、長剣で見事に捌いてみせるゲンナイ。
鋭利な斬撃を浴びせるゲンナイ。一方、ゲンナイの攻撃に反応するのがやっとなのか、必死に弓で防御している愛菜。
どれぐらいの時間が経過したのだろうか。今回の訓練で何度目かの対峙をしている愛菜とゲンナイ。
すると突然、愛菜の衣装に埋め込まれた宝玉が発光したかと思えば、元の姿に戻ってしまう愛菜。装備が解除されてしまったのだ。
そのような愛菜であるが、呼吸が荒くなっており、疲労で身体が震えている。これ以上、訓練を継続することは困難のように見えた。
愛菜の様子を目の当たりにして、手にしていた長剣を収めるゲンナイ。それと同時に今まで周囲に展開していた結界も解除する。
「今日はこの辺までにしておこう」
激しい模擬戦闘で疲弊している愛菜に向かって、今日の訓練が終了したことを告げるゲンナイ。
「あの……ゲンナイさん、どうでしたか……?」
恐る恐るゲンナイに今日の訓練についての質問をする愛菜。今日の訓練がゲンナイの目にどのように映ったのか、愛菜は気になって仕方がなかったのである。
「正直に言えば、セント・アメジストの力を全く使いこなせていない……これではデジモンとの戦いに勝つことはできない」
今回の訓練の出来栄えについて、率直な感想を述べているゲンナイ。一方、予想していたとはいえ、愛菜の表情は暗いものになる。
「ただ、君は今まで何の訓練も受けていなかったのだ。この結果は仕方のないことだ」
そうした最中、言葉を付け加えているゲンナイ。元々、愛菜は特別な訓練を受けたこともなければ、デジタルワールドでの旅の経験もしたことがない人間である。
こうした事情を考慮すれば、セント・アメジストを与えられたとはいえ、戦闘で活かすことができないのも仕方のないことであった。
「申し訳ありません。私にせいで……」
「気にすることはない。ただ、訓練はこれからも継続するつもりだ」
「はい」
訓練は続くゲンナイからの宣言に対して、毅然とした表情で返事をしてみせる愛菜。そのような愛菜の表情であるが、これまでに見せたことない覚悟が宿っていた。
「何かあれば、私の方から連絡しよう。それでは今日はこれで失礼する」
それだけ言った後、煙のように消えてしまうゲンナイ。恐らくは元の世界であるデジタルワールドに戻ったのであろう。
ゲンナイが立ち去った今、この場には愛菜とバドモンの2人が残されていた。そうした最中、バドモンが急に口を開く。
「ゴメンなさい。僕の我儘のせいで……」
すぐ傍にいる愛菜に向かって、そのような言葉と共に謝罪しているバドモン。自身の我儘が愛菜に負担を強いているとバドモンは感じたのだ。
「ううん、気にすることはないわ。でも、デジタルワールドに戻る覚悟は決めてね」
一方、デジタルワールドに戻ることに触れる一方、バドモンに優しく微笑んでいる愛菜。愛菜にしてみれば、この程度のことなど、どうってことなかったのだ。
「……はい」
神妙な表情で答えているバドモン。いずれにしても、デジタルワールドに戻ることは確定事項であったからだ。
「それよりも、家に帰りましょう」
「うん」
愛菜からの呼びかけに元気よく返事をしているバドモン。日は既に沈みかけており、間もなく夜の時間を迎えようとしていた。
上空が漆黒に染まっている夜の時間帯、日本の山陰地方に設置された空港の出入口。今、この場所ではこの空港に着陸した飛行機の乗客が自らの目的地に向かっていた。
観光目的でこの地を訪れた者、あるいは実家の帰省目的で訪れた者、さらには仕事の出張で訪れた者、飛行機の乗客が訪れる理由は人それぞれであった。
そうした最中、他の乗客に紛れて、1人の男が空港の中から出てくる。この男は黒い上着を羽織っており、病的までに白い肌と長髪が印象的な男であった。
「ここがそうか……」
夜の闇で彩られた周囲の景色を眺めている中、そのように呟いている不気味な男。まるで何かを企んでいるかのようだ。
そして、男は人知れずに夜の闇の中へと消えてゆく。それはまるで幻のように現実感が伴っていなかった。
全ての事情を知ることになった愛菜とバドモン、アヌビモンの協力者として現実世界に現れたゲンナイ、ついに山陰の地に足を踏み入れた謎の男。
ついに役者は揃ったと言えるだろう。物語は最終段階に向けて、次なるステージに移行するのであった。
つづく
今回の話は特訓の話でした。
同時にバドモンの正体が明かされたお話でもありました。
戦う力を手に入れた愛菜ですが、元々、何かの武術に長けていた訳でもなければ、何かの修業を積んできたという訳でもありません。
このため、今の愛菜はセント・アメジストの力を全く引き出せていない状態です。
だからこそ、これから戦う以上、何かしらの訓練は必要でした。
さて、ゲンナイですが、「デジモンアドベンチャー」に登場したゲンナイその人です。
「デジモンアドベンチャー」のゲンナイは老人ですが、「デジモンアドベンチャー02」のゲンナイは青年の姿をしていました。
ですので、この話では中間的な年齢に設定してみました。
外見等のモチーフはスターウォーズのオビ=ワン・ケノービを参考にしています。
そして、物語の役者も揃ったことですので、次回からは物語は終局に向けて、進んでいく予定にしています。