デジモンアドベンチャー02AS ~呪いのドラゴン~   作:疾風のナイト

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 デジタルワールドのダークエリアより、現実世界の様子を監視しているアヌビモン。そんなアヌビモンの前にゲンナイと名乗る男が現れる。
 ゲンナイはアヌビモンの代わりに現実世界に行くことを申し出る。一方、アヌビモンはゲンナイからの申し出を受けるのであった。

 緑豊かな広場で憩いの時を過ごしている愛菜とバドモン。そんな愛菜とバドモンの前に現れるゲンナイ。
 そして、ゲンナイの口からバドモンの正体、セント・アジメジストが送られてきた経緯を告げられる。
 さらにセント・アメジストを使いこなせるようにするため、ゲンナイは愛菜に訓練を施すのであった。


第5章 ~現れる悪意~

 日本の山陰地方の自治体内に建っている地方銀行。この銀行は地域密着型の金融機関であり、地元での貨幣流通に大きな貢献を果たしている。

 そのような銀行の店舗内に設置された窓口。いくつか存在している窓口のうち愛菜の担当している窓口があった。

「いらっしゃいいませ。ご用件はどのようなことでしょうか?」

 窓口を訪ねてきた利用客に対して、満面の笑みで応対してみせる愛菜。ここから先、利用客との応対が開始される。

 やがて、用件が済んだため、銀行から出ていく利用客。愛菜の応対が良好であったためか、利用客の表情はとても満足そうであった。

「ご利用有り難うございました」

 窓口を後にしている利用客に対して、訪れてきた時と同様、満面の笑みで見送ってみせている愛菜。

「番号札131番のお客様。3番の窓口までどうぞ」

 待ち合い席で待っている利用客を呼んだ上、自身の窓口を案内してみせる愛菜。そこから先程と同様の応対が始まるのであった。

 やがて、午前の業務時間が終了して、昼食の時間が訪れたため、愛菜は休憩室で昼食を食べていた。

 家から持参している自作の弁当を食べている愛菜。そうしていると、同期の女性銀行員が愛菜のいる場所にやってくる。

「一緒にご飯食べよ」

 そのように言った後、愛菜の目の前に座っている同期の銀行員。それから、いつものように2人での昼食が始まる。

「それにしても、最近の愛菜さん、随分と変わったわよね」

 食事をしている最中、そのようなことを発言している同期の銀行員。当然のことであるが、同期の銀行員の言葉に反応する愛菜。

「変わったって、どこかです?」

 そう言っている愛菜は訳が分からないといった様子である。事実、愛菜自身、普段と同じことをしているだけであり、特別に何かをしているという訳ではなかった。

「貴方の立ち振る舞いや言動とか色々よ。あまりにも今までと違うから何か特別な講習でも受けたんじゃないかって評判よ」

 そう言っている同期の銀行員の言葉には、いつも以上に力が込められている。ここ最近、愛菜の変わりようは噂になっていた。

 基本的に聞き上手な一方で筋はきちんと通す接客態度、誰に対しても分け隔てのない堂々とした態度、軽やかかつ優雅さを感じさせる身のこなし方、今までの愛菜には見られなかったものである。この変化は愛菜の所属する部署は勿論のこと、他の部署にも危機届いていた。

「変わったこと……」

 同期の銀行員の言葉を受けて、今一度、思い返している愛菜。これまでと変わったことと言えば、思い当たる節があるが、表立って言えるものではなかった。

「何か思い当たることでもあるの?」

「う~ん……。あるかも知れないけど、ちょっと事情があって」

 話題には出さないものの、素直に答えてみせる愛菜。こういう場合、下手に隠し事をするより、正直に話した方が誤解を生じさせることはないのだ。

「今は詳しいこと話せないけど、いずれ、話せるようになったら話すね」

「うん、分かったわ。その時は楽しみにしてる」

 そのように語る愛菜に対して、微笑んで承諾している同期の銀行員。今はデジタルワールドとデジモンのことを話しても、完全に信じてもらうことは難しいだろう。だからこそ、愛菜は遠回しな表現をしたのである。

 その後、愛菜と同期の銀行員は昼食を食べて、昼休憩の時間を過ごすと、自らの職場に戻っていくのであった。

 

 デジタルワールドのダークエリアの出入口前。今、この場所にアヌビモンとゲンナイの姿があった。

 アヌビモンとゲンナイがこの場所にいる理由であるが、現実世界から戻ってきたゲンナイの報告を聞くためであった。

「そうか。バドモンが戻ってくるのには時間がかかるか……」

 ゲンナイからの報告を聞いた後、そのような言葉を漏らしているアヌビモン。バドモンがまだデジタルワールドに戻る決心ができていないことは残念であるが、真実を知った上でこちら側の目が届くようになったことは喜ばしいことであった。

「私の送ったセント・アメジストはどのような状態になっている」

「セント・アメジストの所有者は正しい心の持ち主だが、残念なことに力を完全に使いこなせていない。今、私が訓練を施しているところだ」

 強大な力を宿したセント・アメジスト、アヌビモンからの問い合わせに対して、そのように答えているゲンナイ。

 愛菜自身の人格は申し分ない。ただ、これまで訓練等をしていないため、セント・アメジストを使いこなせていない状態であった。

 このため、ゲンナイが指導役となり、セント・アメジストの力を使いこなせるよう、愛菜に様々な訓練を施しているのが現状であった。

「戦う姿勢、身のこなし方等の訓練は完了している。今後は本格的な戦闘訓練を施していく予定だ」

 セント・アメジストの所有者の愛菜に対する訓練の進捗状況について、詳細な内容をアヌビモンに伝えているゲンナイ。

 ゲンナイが実施した訓練により、愛菜は戦いにおける基本的な姿勢、身のこなしを習得することに成功した。言い換えれば、土台が固まったといっても過言ではない。

 だが、それは本格な戦闘訓練を施すための始まりでしかない。今後は様々な技能を愛菜には習得してもらう必要があるだろう。

「そうか。ゲンナイ殿の尽力に感謝する」

 ゲンナイからの説明を聞いた後、改めて感謝の言葉を述べているアヌビモン。ゲンナイのおかげでアヌビモンはダークエリアの管理に専念することができるからであった。

 その後、アヌビモンはダークエリアの管理の仕事に戻り、ゲンナイは自らの拠点に戻っていくのであった。

 

 山陰地方の一角に立地しているスーパー。このスーパーについてであるが、品揃えは勿論のこと、値段も安いために地元客による利用が多いのが特徴である。

 そうした中、年若い1人の女性の姿がスーパーから出てくる。それは買い物を終えた愛菜であった。

 職場から帰宅した後、スーパーに買い出しに出た愛菜。普段であれば、仕事帰りに買い物をするのであるが、今日は買い物の量が多いため、一旦、帰宅してから買い出しに出たのだ。

 すると、愛菜のバッグの中から身を乗り出しているバドモン。普段は留守番をしていることが多いのであるが、気分転換のため、バドモンも買い物に参加していた。

「お疲れ様。愛菜お姉ちゃん」

「バドモン、有り難う」

 労いの言葉をかけてくるバドモンにお礼を言う愛菜。こうしてバドモンが傍にいるだけでも、随分と気分が変わってくることを愛菜は感じていた。

 早速、家に帰ろうとしている愛菜とバドモン。今、歩いている道は人気が少ないため、愛菜とバドモンは横並びの状態で歩いていた。

 しばらくの間、何気ないお喋りに花を咲かせている愛菜とバドモン。そのような時であった。

 急に何者かが愛菜とバドモンの前に立ち塞がっている。当然のことであるが、即座に愛菜とバドモンの2人は前を向いている。

 愛菜とバドモンの視線の先に建っている者の正体、それは大柄な1人の男であった。目の前に現れた大型な男であるが、黒い髪を長く伸ばしており、肌は病的にまで白く、まるで何かに憑依されているかのようであった。

「私は及川。早速だが、君のデジモンをそちらに渡してもらおうか」

 自らを及川と名乗った大柄の男。そんな及川は出会ったばかりの愛菜に対して、バドモンをこちらに引き渡すように要求している。

「……お断りします。貴方にバドモンは渡しません」

 及川の無茶苦茶な要求に対して、毅然とした態度で拒否する愛菜。この時、愛菜は及川と名乗る男から邪な気配を感知していた。

「嫌だね。誰がお前と一緒に行くもんか!」

 そんな言葉と共に及川のことを激しく拒絶しているバドモン。そんなバドモンであるが、及川に対する嫌悪と怒りの感情を抱いていた。

「そうか。ならば、仕方がない」

 静かにそう言った後、指を使って口笛を鳴らしている及川。まるで何かの合図をしているかのようだ。

 すると突然、及川の傍に狼のような生物が現れる。但し、本物の狼よりも何倍も大型であり、同時に邪な気配を発しているため、狼そのものではなく、狼のような姿をしたデジモンであることは言うまでもなかった。

 及川の傍に現れた狼のような姿をしたデジモンの正体。このデジモンの名前はファングモン、成熟期の魔獣型デジモンである。

「やれ、ファングモン」

 呼び寄せたファングモンに対して、攻撃の命令を出している及川。その姿はまるで訓練された猟犬に指示を出す熟練の猟師のようであった。

「ここは私が引き受けるからバドモンは買い物の荷物を守って」

 一方、すぐ傍にいるバドモンにそのような指示を出した後、セント・アメジストが埋め込まれたスマートフォンを取り出す愛菜。それと同時にセント・アメジストより、眩い紫色の光が発せられる。

 セント・アメジストの光に包まれている中、ボディコンを思わせる紫色の衣装に身を包み、同時に身体の各部には防具、頭部には耳当てのようなヘッドギアが装着される愛菜。さらにウェーブのかかった長い髪は途中でリボンによって結ばれる。

 セント・アメジストの力を発動させた愛菜。その手には鋭い刃が付属した弓を携え、及川のファングモンに戦いを挑むのであった。

 

 人気のない静寂な夜の道を舞台として、幕を開けることになった愛菜とファングモンによる対決。

「ファングモン、攻撃しろ」

 ファングモンに攻撃命令を出している及川。以前、愛菜とバドモンに刺客として、ブギーモンを差し向けたこともあったが、当のブギーモン自身が慢心していたため、勝てる戦いに負けてしまったことがある。

 だが、今回は違う。及川が従えているファングモン。戦闘能力は申し分ない上、何よりも及川の命令にも従順である。

 一方、対戦相手の愛菜であるが、確かに強い力を保有しているが、その力を十分に引き出せていない。このため、戦えば勝てるという勝算が及川にはあった。

 及川から攻撃を命じられた後、鋭い爪による攻撃を愛菜に仕掛けるファングモン。今の攻撃をもってして、愛菜に傷を負わせることができると及川は考えていた。

「えいっ!」

 一方、ファングモンの爪による攻撃に対して、鋭利な刃が付属した弓で受け止めている愛菜。同時に愛菜とファングモンの力は拮抗しており、両者はお互いにその場から後退することになる。

「何だと?」

 目の前で起こった事態に驚きを隠せない及川。元々の予定であれば、今の攻撃で愛菜を仕留められていたはずであった。

「もう1度、攻撃しろ」

 ファングモンに再度の攻撃を仕掛けるように命令する及川。今度は口を大きく開けたかと思えば、そこから伸びている無数の牙で愛菜を攻撃しようとする。

 そのようなファングモンの攻撃に対応するため、今度は大きく跳び上がって後退している愛菜。ここまでは愛菜が以前に見せた動きと同じである。

 だが、今回はこれまでと異なり、弓には光の弦が張られているばかりか、さらに光の矢を番えている愛菜の姿があった。

 そして、身体が宙に浮いた状態のまま、地上にいるファングモンに狙いを定め、さらには光の矢を発射してみせる愛菜。

「!?」

 瞬間的に愛菜による攻撃を察知したため、攻撃を中止して回避行動に切り替えるファングモン。このため、直撃は免れたものの、ファングモン自身、傷を負うことになってしまった。

「馬鹿な……」

 愛菜の動きを目の当たりにして、驚きを隠せないでいる及川。ブギーモンとの戦闘における動きとはまるで別人であったからだ。

 この時、及川はまだ知らなかった。愛菜はゲンナイによる訓練を積んでおり、姿勢や 身のこなしが初めて戦った時よりも格段に向上していたのだ。それと同時にまだまだ学ぶべきことは多いものの、愛菜自身の戦闘技術もまた、以前よりも向上しているのであった。

「くっ、予想外だ……」

 愛菜の戦闘力が上昇していることを知り、焦りと苛立ちを募らせている及川。そうした時であった。

「グルルルルルルルッ!!」

 愛菜によって傷を負わされたことによって、激しい怒りの感情を露わにしているファングモン。当然のことであるが、ファングモンは目の前にいる愛菜に対して、強烈な殺意を向けている。

「待て、早まるな」

 怒り心頭のファングモンを制止しようとする及川。だが、当のファングモンは及川の制止を無視した挙句、視線の先にいる愛菜に向けて、勢いよく突撃を仕掛けている。

 目にも留らぬ速さで突撃を仕掛けてくるファングモン。一方、当の愛菜は落ち着いた表情でファングモンを見据えている。

 一気に距離を詰めてくるファングモンを見据えたまま、冷静に迎え撃とうとしている愛菜。この時、愛菜の衣服の各所に埋め込まれた宝玉が発光する。

 すると次の瞬間、愛菜の装備している弓の刃の部分に眩い光が宿る。その後、距離を詰めてくるファングモンを可能なだけ、こちらに引き寄せようとしている愛菜。

「やあっ!!」

 ファングモンが目前まで接近した瞬間、その場で弓を大きく振ってみせる愛菜。それと同時に弓に宿った光であるが、鋭利な光の刃として発射されることになる。

「!?」

 全速力で突撃した状態のままであるため、まともな回避行動をすることもできず、愛菜の必殺の斬撃を浴びることになるファングモン。

 無防備の状態のままで愛菜の攻撃を受けたことにより、深手を負ってしまうファングモン。しかも、ファングモンの負った傷は予想以上に重いため、すぐに心身の限界を向けてしまう。

「ギャアアアアアアンッ!!」

 痛々しい断末魔を上げた後、身体を粒子化させてしまい、消滅してしまうファングモン。これが及川の呼び寄せたファングモンの最期であった。

 凶暴なファングモンの消滅を見届けた後、今度は及川の方に視線を向けている愛菜。いつでも攻撃が仕掛けられるよう、愛菜は現在の構えを維持している。

「どうします……?まだ続けますか……?」

「くっ!」

 愛菜からの勧告を受けた後、苦々しい表情を浮かべて、その場から立ち去ってしまう及川。今の状態では愛菜には勝てないと判断したためであった。

 こうして、及川が立ち去ったことにより、愛菜とバドモンは何とか、この場を切り抜けることに成功するのであった。

 

 及川がいなくなった後、その場に残されている愛菜とバドモン。やがて、愛菜は装備を解除することにより、格好も戦闘装束から普段の服装に戻る。

「やったね。愛菜お姉ちゃん」

 傍にいるバドモンはそんな言葉と共に満面の笑みを浮かべている。何がともあれ及川の攻撃を退けることができなのだ。

「でも、油断はできないわ。恐らく、また私達を襲ってくることでしょう」

 そのように言っている愛菜の表情はとても険しいものである。これで終わった訳ではない。むしろ始まりなのだ。直感的にではあるが、愛菜はそのように考えていた。

 

 まだ幼年期のデジモンであるバドモンを守るため、ゲンナイから課された訓練を続けている愛菜。

 そうした最中、バドモンのことを狙って、現れた及川と名乗る謎の男。愛菜の戦いはこれから先、大詰めを迎えようとしているのであった。

 

                                    つづく

 

補足

 

名前:ファングモン

種族:魔獣型デジモン

属性:データ

進化レベル:成熟期

必殺技:スナイプスティール

狼のような姿をした成熟期の魔獣型デジモン。童話等に登場する悪しき狼のデータがデジモンと化したとも言われており、狙った獲物を逃がさないという執念深さを持っている。そのため、獣型デジモンの中でも異端と言われている。必殺技は相手から武器やアイテムを強奪する「スナイプテール」




皆様。閲覧有り難うございます。
今回のお話では、「デジモンアドベンチャー02」の本編に登場した及川さんが登場しました。
勿論、及川さんが今回の作品の黒幕(正確には違いますが)でもあります。
このため、本編とやや違う部分が生じたりしますが、2次創作の作品として、作品の幅を広げられればと考えています。

この作品のタイトルの「デジモンアドベンチャー02AS」ですが、Another StoryとAdvance Storyの二重の意味を含んでいます。
これにより、「デジモンアドベンチャー02」という作品の可能性を追求していきたいと考えています。

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