デジモンアドベンチャー02AS ~呪いのドラゴン~ 作:疾風のナイト
そのような愛菜の前に及川と名乗る男が現れる。さらに及川は愛菜に対して、バドモンを引き渡すように要求する。
当然のことであるが、及川の要求を拒否する愛菜。一方、及川はファングモンを呼び出すと、攻撃を仕掛けるように命令する。
そんな及川とファングモンに立ち向かうため、セント・アメジストの力を発動させる愛菜。
これまでのゲンナイとの訓練もあり、愛菜はファングモンを撃破することに成功する。
だが、それは最後の戦いの幕開けに過ぎなかったのである。
国土が南北に長い日本列島の西部に位置しており、沿岸部が日本海に面している山陰地方の街中。この街中に1件のビジネスホテルが建っている。
そのようなビジネスホテルの一室。照明のスイッチは入っておらず、机の上に設置されている起動中のノートパソコンが唯一の光源となっている。
不気味なまでに暗いホテルの部屋の中、ノートパソコンと向かい合っている及川の姿であった。この部屋こそが山陰地方における及川の拠点であると言っても過言ではなかった。
「まさか、あの女がここまでだとは……」
そのように呟いている及川の脳裏には今、この前、人気のない道で戦った愛菜の姿があった。
異世界であるデジタルワールドより、セント・アメジストの力を授かった愛菜。確かにセント・アメジストの力は強大であるが、当の愛菜自身、その実力は並の人間に過ぎないものと思われていた。
だが、実際に目の前で戦ってみると、愛菜は何らかの訓練を積んでいるのであろうか、及川の差し向けたファングモンを撃破する実力まで獲得していたのだ。
「厄介なことだ……」
そんな言葉と共に苦々しい表情を浮かべている及川。元々、及川はバドモンのことを狙っているのであるが、愛菜と言う邪魔者が立ち塞がる以上、こちらが迂闊に手出しをすることができないのであった。
「こうなれば……」
すると、前に置かれたノートパソコンの方に視線を送る及川。このノートパソコンは及川の個人のものであり、携帯用にビジネスホテルへと持ち込んだ代物である。
現在、及川のノートパソコンの画面に表示されているもの、それは化石と思われる画像、さらに画像に関する詳細な記載事項であった。
「これで今度こそ、あの女を始末してやる」
そのように不気味な笑みを浮かべてみせている及川。邪魔者である愛菜を始末して、強大な可能性を秘めたバドモンを手中に収める。及川の目的は当初と何ら変わることがない。
自らの邪な陰謀を実現するため、誰にも知られることなく暗躍を続いている及川。それは同時に及川による最後の攻撃が今、狼煙を上げようとしている瞬間でもあった。
山陰地方の山地に隣接している緑豊かな公園。同時にこの場所は愛菜とバドモンの2人がゲンナイと初めて出会った場所でもあった。
今、この公園の一角において、セント・アメジストの力が具現化した装備類を装着している愛菜、ローブを脱ぎ捨てて愛用の長剣を構えているゲンナイの姿があった。また、少し離れた場所から愛菜とゲンナイの様子をバドモンが見守っている。
そのような愛菜とゲンナイの2人であるが、セント・アメジストの力を引き出すため、今日も訓練を実施していた。
緊張した面持ちで鋭利な刃が付属した長い弓を構えている愛菜。一方、いつもと変わらない冷静な表情で長剣を握り締めているゲンナイ。
「始めるぞ!」
「はい!」
ゲンナイからの呼びかけに対して、愛菜がそのように返事をした瞬間、その場から金属同士が激突する音が鳴り響く。今、まさしく愛菜の弓とゲンナイの長剣が激突したのである。
それぞれの武器越しにお互いの姿を見合っている愛菜とゲンナイ。いくら訓練であるといえ、愛菜とゲンナイの眼差しは真剣そのものである。
その後、素早い動作をもってして、一旦、今いる場から愛菜とゲンナイ。さらに愛菜とゲンナイは激しい打ち合いを開始する。
ゲンナイによる指導の下、愛菜が現在、励んでいる訓練であるが、それは剣術の訓練であった。
愛菜の装備している弓であるが、弓本体に刃が付属している状態であるため、弓の一部が刀のようになっていると言っても過言ではなかった。
このため、愛菜の装備は遠距離戦闘に向いた弓矢である一方、近接戦闘に向いた刀であると表現することができた。
デジモンとの戦闘技術を習得するためには、近接戦闘に関する技術を習得することは必須事項である。こうした事情や愛菜の装備の性質を考慮した結果、ゲンナイは愛菜に剣術の訓練を施すことを決めたのである。
現在、愛菜が習得しようとしている剣術の型であるが、シャイ=チョーと呼ばれている型である。シャイ=チョーはデジタルワールドに伝わる剣術の型のうち、最も古い型であると同時に最も基本的な型でもあった。今まで特に訓練を積んでいない愛菜には最適であると言えるだろう。
愛用の長剣を巧みに操っているゲンナイ。一方、完全に慣れていない弓を懸命に操ろうとする愛菜。
「もっと早く!そして、的確に動かすんだ!」
「……分かりました」
ゲンナイからの指導の言葉を受け、そのように返事をした後、自らの動作を修正している愛菜。但し、このことは言葉で言うことは容易いが、実際の行動で修正することは困難が伴うことであった。
そうした状況に置かれてもなお、ゲンナイからの指導のとおり、自らの動作を修正する愛菜。それと同時に愛菜の動きもまた、次第に洗練されたものに変わってくる。
それから、どのぐらいの時間が経過したのだろうか。急に長剣の構えを解くゲンナイ。同じように弓の構えを解く愛菜。
「今日の訓練はこれで終了だ」
そのように告げた後、長剣を鞘の中に収納しているゲンナイ。それと同時に張り詰めていたゲンナイの表情も緩む。
「有り難うございました」
訓練を施してくれたゲンナイに対して、感謝の言葉と共にお辞儀をしている愛菜。それと同時に愛菜の装備は解除されて、服装もいつもの服装に戻る。
「愛菜お姉ちゃん、ゲンナイさん……お疲れ様」
そんな言葉と共に愛菜とゲンナイのいる場所に近寄ってくるバドモン。一方、こちら側に向かってくるバドモンのことを愛菜とゲンナイは温かく迎える。
このようにして、愛菜がセント・アメジストの力を引き出せるようにするため、ゲンナイによる今日の訓練は終わりを告げるのであった。
デジモンとの戦闘を想定した訓練が終了した後の緑豊かな公園。この場所には今、愛菜、バドモン、ゲンナイが休息の一時を過ごしていた。
「どうやら、シャイ=チョーの動きは覚えられたようだな」
休息の時を過ごしている中、今回の訓練の講評をしているゲンナイ。これはゲンナイの見立てであるが、今回の訓練で愛菜はデジタルワールドに伝わる剣術の型のシャイ=チョーを習得したようだ。
ただ、あくまでも愛菜は習得しただけであり、習熟する段階には至っていない。完全に使いこなせるようになるには、それなりの時間を必要とすることであろう。
「有り難うございます。これからも頑張ります」
指導してくれているゲンナイに対して、感謝を述べている一方、これからの努力を誓う愛菜。何故ならば、愛菜自身、まだまだ未熟であることを知っていたからだ。
「ところで話は変わるが、この前、謎の人間とデジモンに襲われたそうだが……」
先日起こった出来事について、愛菜に詳細を聞こうとするゲンナイ。愛菜からゲンナイに及川と名乗る人間に襲われたという連絡があった。
しかも、及川と名乗る男であるが、デジモンのファングモンを使役していたと言う。これは尋常ではないことは明らかであった。
「はい。及川と名乗る男の人はバドモンのことを狙っていました。前にゲンナイさんの言っていたとおりでした」
襲ってきた及川がバドモンを狙っていたことを報告する愛菜。以前、ゲンナイがバドモンは狙われる危険性があることを話していたが、それがまさに現実の出来事になってしまったのだ。
「それに及川って言うあの男……得体が知れないほど不気味だったよ」
夜道で遭遇した及川の印象に対して、そのように評しているバドモン。及川の周囲に漂っている雰囲気であるが、とても人間のものとは考えられず、まるで強大な悪霊あるいは怨念が憑依しているかのようであった。
「ふむ。それは危険だな……」
愛菜とバドモンの2人から話を聞いた後、率直な感想を述べているゲンナイ。この時、ゲンナイは事態が思っていた以上に深刻であることを知る。
特にバドモンについてであるが、過去に罪を犯したデジコアがダークエリアでの浄化を経ず、現実世界でデジモンとして生まれ変わった姿である。
そのようなバドモンが及川のことを不気味と評したのである。相手はゲンナイが思っている以上に危険な存在であるようだ。
すると突然、愛菜、バドモン、ゲンナイのいる場所に一陣の風が吹く。本来、公園に吹きつける風は心地の良いものである。
だが、先程、吹きつけてきた風であるが、あらゆるもの凍えさせるように冷たく、まるで災いを運んでくるかのようであった。
すぐに愛菜、バドモン、ゲンナイは反射的に立ち上ったかと思えば、不気味な風が吹いてきた方向に視線を向ける。
愛菜、バドモン、ゲンナイが視線の先に立っている者、それは黒いコートを着込んだ1人の長身の男であった。
「あの人は……」
「間違いない」
目の前に現れた長身の男を見た途端、険しい表情でそう言っている愛菜とバドモンの2人。
忘れるはずもない。目の前にいる長身の男こそ、先日、愛菜とバドモンを襲った張本人であり、同時に先程まで話題になっていた及川本人であった。
「先日ぶりだな」
不気味な笑みと共にそう言っている及川。そのような及川からは何かを企んでいる様子を読みとることができた。
「貴様が及川か……」
目の前に現れた長身の男を見た瞬間、この男が愛菜とバドモンの言っていた及川であることを理解するゲンナイ。
確かに愛菜とバドモンが言っていたとおり、及川は尋常ではない邪気を発しており、まるで邪なる暗黒デジモンと近しいものを感じていた。
「成程、この男がいたからか……」
目の前にいるゲンナイの姿を見るなり、何かが納得いった表情をしている及川。それは愛菜の急激な成長のことであった。
本来、特殊な力を先天的に保有している訳でもなければ、特殊な訓練も受けた経験のなく、一介の女性に過ぎなかったはずの愛菜。
そんな愛菜が何故、デジモンと戦うだけの能力を獲得するまでに至ったのか。及川にとっては今まで原因が分からなかったが、ゲンナイが関与していたとなれば、全てのことに説明がつくからである。
ただ、今の及川にしてみれば、そのようなことは些細なことである。何故ならば、この場にいる全員は自らの手で始末するからである。
「これでお前達を始末してやろう」
重々しい口調で告げた後、コートのポケットの中より、ある物を取り出してみせる及川。そのような及川が取りだした物の正体、それは無数の生物の骨であった。
否、骨と言うにはあまりにも年月が経過しており、化石と表現した方が正しいであろう。しかも、この化石についてであるが、単一の生物のものではなく、複数の種類の生物のものであった。
そして、急に取り出した無数の化石をばら撒いてみせる及川。あまりにも不可解な及川の行動を目の前にして、呆気にとられている愛菜、バドモン、ゲンナイであるが、それだけでは終わらない。
さらにズボンのポケットの中より、ある物を取り出してみせる及川。それは今となっては旧式化している携帯電話であった。
地面にばら撒かれた化石に向かって、携帯電話の画面を掲げている及川。それと同時に及川の所有している携帯電話からは光が発せられる。
及川の携帯電話から発せられた光、それはこれまでの光とは異なり、漆黒に染め抜かれた不気味な光であった。正確に言えば、光に似た別の何かであった。
「これは暗黒の力……」
及川の携帯電話から発せられた漆黒の光を見た途端、驚きの表情と共に評しているゲンナイ。
初めて出会った時、ゲンナイは及川から暗黒デジモンに近しいものを感じていたが、たった今、発せられた漆黒の光は紛れもなく暗黒の力そのものであった。
「暗黒の力を浴びた化石よ……この地球に眠る力を取り込み、私の前に本当の姿を現すのだ」
まるで呪詛のような及川の言葉。そのような及川の言葉に感応するようにして、暗黒の力を大量に浴びた化石に異変が起こる。
極小の塵となることで地面と一体化する化石。それと同時に化石だった極小の塵であるが、この地上に宿るエネルギーや情報を吸収していく。
膨大なエネルギーと情報を吸収した結果、塵だったものは再度集結することにより、ついには1つの形を成していくのであった。
塵だったものが1つの形となって現れたもの、それは巨大な哺乳類の形をした化石の怪物と呼ぶべき存在であった。そう、目の前にデジモンが誕生したのだ。
邪な及川の手によって誕生した醜悪なデジモン。このデジモンの名前はスカルバルキモン、完全体のアンデッド型デジモンである。
「まさか、人間が自らの手でデジモンを生み出すとは……」
この場に姿を現したバルキモンを見た途端、愕然とした表情をしているゲンナイ。同時にゲンナイはバルキモンから強烈な邪気を感知していた。
「やれ!バルキモン、奴等を始末しろ!」
早速、誕生したバルキモンに対して、邪魔者を排除するように命令する及川。この時、自らの手でデジモンを誕生させた影響からか、及川の意識は高揚しているようにも見えた。
及川の命令を受けた後、愛菜、バドモン、ゲンナイの方に視線を向けるバルキモン。それと同時にバドモン自身の殺意も際限なく高まっていく。
「いかん!」
そう言った途端、現状に対応するため、その場で右掌を掲げてみせるゲンナイ。それと同時にゲンナイの掲げた右掌より、眩い光が発せられたかと思えば、その周囲一帯を包み込んでいった。
ゲンナイの右掌から発せられた光が消失した後、その場に広がっているもの、それは辺り一面が漆黒の上に白い光の格子模様で彩られた部屋のような空間であった。
まるで幾何学的とも呼べる空間。この空間内に愛菜、バドモン、ゲンナイの3人の他、さらには及川とバルキモンの姿があった。
「これは……?」
これまでとは全く異なる空間を前にして、呟くように言っているバドモン。ここは一体どこなのだろうか。
「まさか、ゲンナイさんが……」
バドモンの疑問を引き継ぐ形でゲンナイに質問している愛菜。先程、ゲンナイの掌から発せられた光、目の前に広がる不思議な空間、この両者には何か因果関係があるに違いない。愛菜はそのように考えていたのだ。
「君の言うとおりだ。ここは私が創造した亜空間だ」
愛菜からの疑問の言葉を素直に肯定してみせるゲンナイ。さらにゲンナイはこの亜空間についての説明をしてみせる。
ゲンナイからの説明によれば、この亜空間はデジタルワールドの力を借りて創造したものであり、現実世界とは一時的に切り離されている状態に置かれていると言う。
但し、本当の空間とは異なり、高さ・広さ・深さは限度があり、同時に亜空間そのものが一定の損傷を受けた場合、崩壊してしまうという危険性も抱えていた。
「ここであれば、あのスカルバルキモンとも戦える」
ここで亜空間を創造した理由を語ってみせるゲンナイ。あのスカルバルキモンと言うデジモンであるが、現実世界においては勿論のこと、デジタルワールドにおいても危険である。
下手にスカルバルキモンと戦えば、現実世界あるいはデジタルワールドに被害が及ぶことは目に見えていることである。
だが、この亜空間であれば、スカルバルキモンと戦っても、その被害を最小限に留めることが可能になるだろう。これこそ、ゲンナイが亜空間を創造した最大の理由である。
「ふん、逆に好都合だ……スカルバルキモン!」
ゲンナイからの話を聞いた後、不敵な笑みを浮かべている及川。その表情は自らの勝利を確信しているかのようだ。
「!!!!」
一方、及川からの言葉を受けて、不気味な咆哮を上げているスカルバルキモン。今のスカルバルキモンであるが、目の前の標的を始末することだけしか考えていなかった。
「皆、これが最後の戦いになるだろう……気を引き締めるんだ」
傍にいる愛菜とバドモンにそう呼びかけているゲンナイ。恐らく、この戦いこそがバドモンを巡る及川との最後の戦いになるだろう。確たる証拠はないものの、ゲンナイはそう予感していた。
「はい!」
「うん!」
ゲンナイからの必死な呼びかけに対して、覚悟に満ちた表情で返事をしている愛菜とバドモン。ゲンナイと同様、愛菜とバドモンもまた、この戦いが最後の戦いになるだろうと感じていたのであった。
デジタルワールドに出現したバドモン。このバドモンを守ろうとしている愛菜とゲンナイ。逆に自らの手中に収めようと画策している及川。決して相容れることのない両者の最後の戦いが今、始まろうとしているのであった。
つづく
補足
名前:スカルバルキモン
種族:アンデッド型デジモン
属性:データ
進化レベル:完全体
必殺技:グレイブホーン
哺乳類の化石を彷彿とさせる姿をした完全体のアンデッド型デジモン。哺乳類の化石データの他、様々な生物の化石データが使用されている。感情や思考等を持っておらず、データに残ったプログラムに従って行動している。必殺技は巨大な脚で敵を踏み潰して地中に埋め込んでしまう「グレイブホーン」
皆様。閲覧有り難うございます。
今回からいよいよ終盤に入ります。
ちなみに今回の話で愛菜の習得した剣の型についてですが、「スターウォーズ」におけるライトセーバーの型を導入しています。
やはり、剣の型等を導入すると、話の幅が広がるのを感じます。
これから一気に最終回まで突っ走ることになりますが、最後までどうぞよろしくお願いします。