デジモンアドベンチャー02AS ~呪いのドラゴン~ 作:疾風のナイト
だが、スカルバルキモンの戦力はあまりにも強大であり、愛菜とゲンナイの2人は窮地に追い込まれていく。
そうした最中、愛菜と一緒に生活を過ごしてきたバドモンは力を望む。その過程でバドモンは巻き起こる力に飲み込まれそうになるが、愛菜とゲンナイの存在を思い出すことより、その力を制御することに成功、さらにはウィルスドラモンに進化する。
ウィルスドラモンの参戦により、これまでの形成は一気に逆転する。愛菜、ウィルスドラモン、ゲンナイは持てる力を出すことにより、及川の生み出したスカルバルキモンを倒すことに成功するのであった。
苛烈な戦いの末、ついに邪なる及川が生み出したスカルバルキモンを倒すことに成功した愛菜、ウィルスドラモン、ゲンナイ。
それからすぐに愛菜、ウィルスドラモン、ゲンナイの3人は今回の戦いの黒幕である及川の方に視線を向けている。今回の一連の戦いについて、及川の責任を問うためである。
「ククク……」
スカルバルキモンは倒され、追い込まれた状況にいるにもかかわらず、不気味な笑い声を上げている及川。当然、愛菜、ウィルスドラモン、ゲンナイの3人は及川の態度を不審に思う。
「何がおかしい?」
険しい表情で及川に質問をしているゲンナイ。あまりにも不敵な態度を見て、及川にはまだ、何か手札が残っているに違いないとゲンナイは考えていたのだ。
「これで勝ったと思うな……」
目の前にいる愛菜、ウィルスドラモン、ゲンナイにそう告げた後、右手の指をパチンと鳴らしている及川。その途端、愛菜、ウィルスドラモン、ゲンナイの3人は身構える。
すると突然、倒れ込んでいるスカルバルキモンから熱が発せられる。しかも、その熱は時間が経過するに従って高まっていく。
「これで貴様達も地獄行きだ……」
そんな言葉と共に愛菜、ウィルスドラモン、ゲンナイに向かって、薄ら笑いを浮かべている及川。今の及川の表情は最早、人間のものではなく、邪な悪魔のそれであった。
「地獄行き……それは……」
「どういうことだ?」
目の前の及川を問い詰めようとしている愛菜とウィルスドラモン。及川が何か良からぬことをしていることは愛菜とウィルスドラモンも理解していた。
「いかん!早く脱出するんだ!奴はこのスカルバルキモンを自爆させる気だ」
大声で愛菜とウィルスドラモンに対して、そのように呼びかけているゲンナイ。際限なく高まっていくスカルバルキモンの熱、同時に上昇していく周囲の温度、これらの情報からゲンナイはそう断定していた。
「そうだ。もうすぐスカルバルキモンは爆発する」
ゲンナイに自らの目論見を見破られてもなお、平然とした表情でいる及川。どうやら、及川はスカルバルキモンを道連れにすることにより、愛菜、ウィルスドラモン、ゲンナイのことを始末する気でいるようだ。
だが、こうしている間にも、スカルバルキモンの熱は上昇していき、ついには臨界にまで達することになる。
熱量が臨界にまで達した瞬間、及川の目論見どおり、爆発を起こし始めるスカルバルキモンの身体。
スカルバルキモンの爆発。最初こそ、小規模な爆発であったが、次第にその規模は大きくなっていく。
徐々に勢いを増していくスカルバルキモンの爆発。その勢いは愛菜、ウィルスドラモン、ゲンナイをも呑み込まんばかりである。
「いかん!脱出しなければ!」
すぐさま危険を察知したため、右掌を掲げてみせるゲンナイ。それと同時にゲンナイの右掌からは眩い光が発せられ、ゲンナイ本人は勿論のこと、愛菜とウィルスドラモンのことも包み込む。
やがて、ゲンナイの右掌から発せられた光は消失する。光が消え去った後には愛菜、ウィルスドラモン、ゲンナイの姿はなかった。
一方、スカルバルキモンから起こった爆発であるが、ゲンナイの創造した亜空間全体にまで及ぶ。それと同時に及川の姿も爆発の炎の中に消えてしまう。
現実世界とデジタルワールドの狭間に位置する亜空間を舞台とした及川との戦い。この戦いはこのようにして幕を閉じたのであった。
山陰地方の山地に隣接した公園。戦闘で相当な時間が経過したためか、既に日は沈み切っており、周囲には夜の景色が広がっていた。
そしてまた、この公園には先程の亜空間から脱出してきた愛菜、ウィルスドラモン、ゲンナイの姿があった。
「皆、大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
「こっちも何とか」
脱出を手引きしたゲンナイからの呼びかけに対して、そう返事をしている愛菜とウィルスドラモン。この場にいる全員、戦闘による消耗は見られるが、怪我等は特に見られなかった。
「とりあえず、これで終わったな」
及川が差し向けたスカルバルキモンの撃破、爆炎に包まれた亜空間からの脱出、一連の出来事を終えて、そう呟いているゲンナイ。
「それであの空間はどうなったんですか?」
「あの爆発のおかげで亜空間は今、壊滅的な損傷を受けている。当分の間は使えないだろう」
愛菜からの質問に対して、残念そうに答えるゲンナイ。ゲンナイの創造した亜空間はスカルバルキモンの爆発に耐え切ったものの、その代償に甚大な損傷を受ける結果になってしまった。完全に復興するまでには時間を要することになるだろう。
「及川の奴はどうなったんだ?」
「分からない。ただ、あの男があれで死んだとはとても思えない。恐らく、生き延びていることだろう」
今回の戦いの首謀者である及川の生死について、気になっているウィルスドラモン。一方、ゲンナイは険しい表情でそう予想している。
デジタルワールドのデジモンを従えるどころか、さらに自らの手でデジモンを生み出すこともできる及川。そんな及川があの爆発で死んだとはとても考えられない。間違いなく生きていることだろう。そうでなければ、そもそも、スカルバルキモンを爆破したりしないはずだ。
余談であるが、ゲンナイの予想どおり、及川は亜空間での爆発から生き延びていた。 この後、及川はデジタルワールドの救世主こと、選ばれし子供達とそのデジモン達の前に立ち塞がることになるが、それはまた別の物語である。
こうして、陰謀を企んでいた及川との戦いは終わった。夜の公園に佇んでいる愛菜、ウィルスドラモン、ゲンナイ。
夜の闇と静寂が公園の周囲を包んでいる最中、ウィルドラモンの方に視線を向けているゲンナイ。
ウィルスドラモンをデジタルワールドに連れて帰ること、それがゲンナイの本来の任務である。そうした中、ウィルスドラモンがゆっくりと口を開く。
「愛菜お姉ちゃん。覚悟が決まった。僕はデジタルワールドに帰る」
ウィルスドラモンの口から告げられる衝撃的な一言。確かに衝撃的ではあるが、この場にいる全員は特に驚かなかった。何故ならば、来るべき時が来たからである。
「僕はこんな身体になっちゃった。愛菜お姉ちゃんと一緒に生活することは無理だ。だから、デジタルワールドに戻って、アヌビモン様の裁定を受けてくる」
寂しそうな表情で語っているウィルスドラモン。ウィルスドラモンの体格は人間の何倍以上もあり、現実世界で生活するには困難が伴うことは目に見えていた。
「それに僕に残っている時間は少ない」
「っ!?それはどういうこと?」
ウィルスドラモンの意味深長な発言について、驚きの表情と共に質問をしている愛菜。残された時間とは一体どういうことを意味しているのか。
「うん。僕の身体には大量の毒を含んでいる。その毒は僕の身体も蝕んでいるんだ。だから、デジモンとして生きている時間も限られているんだ」
ウィルスドラモンの口から語られる事実。あまりにも強過ぎる毒はウィルスドラモンの身体も蝕んでいたのである。
「そんなっ!何か、方法はないの!」
「もういいんだ。僕は愛菜お姉ちゃんと出会えて幸せだよ」
動揺を隠せないでいる愛菜に対して、悟った表情をしているウィルスドラモン。まるで今後、自身に訪れる滅びの運命を受け入れているかのようだ。
「諦めるにはまだ早い」
すると、愛菜とウィルスドラモンの会話に介入してくるゲンナイ。それと同時にゲンナイは懐の中からある物を取り出してみせる。
切迫した状況でゲンナイが取り出した物の正体、それは黄金色の光を発している桃であった。古来より、桃には不思議な力が宿っていると伝えられている。
「これは?」
「黄金桃だ。この桃を食べれば、デジモンの寿命が延びる効果がある。短命のデジモンでも普通のデジモンと同じ寿命が得られる」
愛菜からの質問について、手短に答えているゲンナイ。デジモンの寿命を延ばす黄金桃、この桃は効果が絶大である反面、デジタルワールドでも入手困難な希少品であった。
「さあ、これを食べるんだ」
「……分かった」
そのような会話をした後、ゲンナイから差し出された黄金桃を食べるウィルスドラモン。口に含んだ黄金桃をゆっくりと咀嚼して、ウィルスドラモンは一気に飲み込む。
この時、ウィルスドラモンは身体が活力に満ちていくのを感じた。さらに活力が満ちていくどころか、生命力に満ち溢れていく感覚を覚える。
「ゲンナイさん、有り難う」
黄金桃を授けてくれたゲンナイに対して、感謝の言葉を述べているウィルスドラモン。これならば、普通のデジモンと同じように生きていくことができそうだ。
「お礼には及ばないさ」
お礼を言うウィルスドラモンに向かって、そう言ってみせているゲンナイ。デジモンの生命を救うことができたのだ。当のゲンナイはそれで満足であった。
夜の闇と静寂に包まれた公園において、愛菜は今、ウィルスドラモンとゲンナイと向かい合っている。
今からデジタルワールドに戻るウィルスドラモンとゲンナイ。愛菜はそのような2人を見送ろうとしているのだ。
「愛菜お姉ちゃん、今まで有り難う」
「ウィルスドラモン……デジタルワールドでも元気でね」
今まで世話になったことを感謝しているウィルスドラモン。一方、デジタルワールドでのことを気にかけている愛菜。そのような愛菜とウィルスドラモンであるが、2人はまるで親子あるいは姉弟のようでもあった。
「ゲンナイさんには色々と迷惑をかけました」
「いや、私達に協力してくれたこと、心から感謝している」
愛菜からの謝罪の言葉に対して、感謝の言葉で返しているゲンナイ。デジタルワールドで起こった出来事について、最後まで積極的に協力してくれた愛菜。ゲンナイにしてみれば、本当に心強い協力者であった。
すると、ウィルスドラモンとゲンナイから優しい光が発せられたかと思えば、それぞれの身体をすっぽりと包み込んでいく。ついにデジタルワールドに戻る時が来たのだ。
「また、会えるよね?」
「うん、僕は必ず愛菜お姉ちゃんの所に戻ってくる。それまで待っていて」
愛菜から問いに満面の笑みで答えてみせているウィルスドラモン。たとえ、どんなに時間がかかろうとも、どんなことがあっても、ウィルスドラモンは帰ってくることを誓う。
「今は現実世界の人間とデジタルワールドのデジモンが一緒にいることは難しいことだろう。だが、人間とデジモンが一緒にいられる時は必ず訪れる。そして、その時はそう遠くないことかも知れない」
「……っ!?有り難うございます!」
ゲンナイから語られる人間とデジモンの共存の可能性。この可能性を聞いた後、ゲンナイにお礼を言っている愛菜。それと同時に愛菜の心の中で希望の芽が芽生えるのであった。
「さよなら。ウィルスドラモン、ゲンナイさん」
「さようなら。愛菜お姉ちゃん」
「達者でな」
目の前のウィルスドラモンとゲンナイに向かって、別れの挨拶を告げている愛菜。同じくウィルスドラモンとゲンナイもまた、愛菜に別れの言葉を告げる。
すると次の瞬間、優しい光に包まれているウィルスドラモンとゲンナイの身体が発光する。そう、今まさにウィルスドラモン、ゲンナイの2人はデジタルワールドに転移しようとしているのだ。
発光が終わった後、そこにウィルスドラモンとゲンナイの姿はなかった。現実世界からデジタルワールドに戻ったのだ。
「有り難う……ウィルスドラモン、ゲンナイさん」
たった1人、公園に残された愛菜は感謝の言葉を呟いている。ウィルスドラモン、ゲンナイがいたからこそ、今まで充実した日々を過ごすことができたのだ。
デジタルワールドから出現したデジタマを発端として、開始された愛菜とデジモンとの生活。その生活はここで一旦、終わりを告げるのであった
余談であるが、後日、山陰の地元新聞において、不思議な生物が出現したという記事が掲載された。この不思議な生物こそがデジモンであるとはまだ誰も知らなかった。
デジタルワールドの一件が終わり、日常の生活に戻ることになった愛菜。そんな愛菜は銀行員としての業務を遂行している一方、これまでの戦いや訓練で習得した技術の訓練を続けていた。
その理由であるが、愛菜の手元にはセント・アメジストが残されていたからだ。これは愛菜とデジタルワールドの絆が続いていることに他ならない。
何時か遠くない将来において、デジタルワールドと関わる時が訪れる。そう信じている愛菜はデジタルワールドから授けられた力を引き出せるよう、自らを高める訓練を続けているのであった。
あれから、どれほどの時間が経過したのだろうか。
山陰地方の日本海付近の地域に存在する砂丘。この砂丘は山陰地方の地形条件等で誕生した場所であり、休日等では観光客で賑わっている場所でもあった。
そんな砂丘の一角において、松上愛菜の姿があった。愛菜がここにいる理由、それは愛菜の所有するセント・アメジストの導きによるものであった。
今朝、いつものように起床をして、朝の身支度を整えていた愛菜。そうした最中、愛菜のスマートフォンに埋め込まれたセント・アメジストが発光を始めたのだ。
突然の発光の後、セント・アメジストの光はある場所を指し示す。それが愛菜が今いる砂丘だったのである。
「(きっとデジタルワールドが関係しているに違いない)」
この時、セント・アメジストの光がデジタルワールドと関係していることを確信する愛菜。だからこそ、愛菜はこの砂丘を訪れたのである。
「(今日まで本当に色々なことがあったわね)」
砂丘で佇んでいる中、今までに起こった出来事を思い出している愛菜。ウィルスドラモンのデジタルワールドの帰還を見届けた後、現在に至るまで実に色々な出来事が起こったからだ。
その最たる例が現実世界に大量のデジモン達が出現したことである。この時、愛菜の周辺はおろか、現実世界全体が騒然となったものである。
何故ならば、現在に至るまでの間、デジモンに関する目撃情報は多数存在していたものの、確たる証拠と呼べるものがなかったため、単なる都市伝説の領域として扱わざるを得なかったからだ。
だが、ここにきて、実体を伴ったデジモンが現実世界に出現したのである。しかも、この世界に出現してきたデジモン達が元々、生息している場所がデジタルワールドと呼ばれる世界であることも公に報道されることになったのだ。
これまでの間、無視あるいは黙殺されてきたデジモン達の出現、現実世界全体が騒がしくなるのも無理からぬことであった。
但し、本来であれば、長期間に渡って現実世界が混乱しても不思議ではない事態であるが、驚くべきことに混乱は早期に終結した。
デジモンのことを知る人間達が混乱を防ぐため、事態の鎮静化に奔走したのである。特にデジタルワールドにおいて、選ばれし子供達と呼ばれている子供達の尽力は大きい。
その後、世界各国は先進諸国を戦闘にして、デジモン達を受け入れる環境の整備を急ピッチで進めたのである。デジモンの受け入れ態勢の構築であるが、世界各国がそれぞれの利害を抜きに協力した案件であった。
この世界的な協力の結果、現実世界の各国においては、まだ不十分な面はあるものの、デジモン達を受け入れる態勢を整えることに成功したのである。
やがて、今までに起こった出来事の回想を終える愛菜。そうした時、愛菜の所有するセント・アメジストに異変が起こる。
再び、発光を開始する愛菜のセント・アメジスト。それと同時に砂丘の地面から光の柱が伸びる。この瞬間、愛菜は自らの姿勢を正すことにする。
突然、愛菜の目の前に出現した光の柱であるが、時間の経過と共に消失していく。その一方、消えていく光の柱の中から何者かが姿を現す。
消失した光の柱の中から姿を現した者の正体。それは毒々しい体色、鋭利な牙が特徴的な1体のドラゴンであった。
目の前に現れたドラゴンのことを愛菜は知っていた。この時を愛菜自身、どれほど待ちわびただろうか。
このドラゴンこそ、愛菜が初めて出会ったデジモンであり、貴重な時間を一緒に過ごしてきたウィルスドラモンであった。
ついに別れの際に交わした約束どおり、再会することになった愛菜とウィルスドラモン。しばしの間、お互いのことを見ている両者。やがて、沈黙を破るようにして、ウィルスドラモンが口を開く。
「ただいま。愛菜お姉ちゃん」
「お帰りなさい。ウィルスドラモン」
恥ずかしそうにそう告げるウィルスドラモンに対して、優しい微笑みと共に受け入れてみせる愛菜。今という時をどれほど待ち望んだことだろうか。
「これから、よろしくね」
「うん。勿論さ」
穏やかな表情を崩さずに呼びかけている愛菜に対して、満面の笑みで返事をしてみせているウィルスドラモン。
現実世界とデジタルワールドの壁を越えて、今一度、出会うことができた愛菜とウィルスドラモン。
そしてまた、これは世界の壁を越えた絆を結んだ愛菜とウィルスドラモン、そんな2人の新しい物語が幕を開けたことを意味しているのであった。
了
皆様。閲覧お疲れ様でした。
今回の話をもってこの作品は完結です。
元々、この小説は私の中で生み出された新規アイディア等を組み合わせて誕生した小説でした。そうした意味では実験的な意味合いも多分に含まれていました。
ちなみに亜空間に取り残された及川はちゃんと生き残っており、「デジモンアドベンチャー02」の最終回で重要な活躍をしてくれます。
最後になりますが、色々と好き放題に小説を創作させていただきました。
もし、私の小説を読んで楽しんでいただければ、創作した者としてはこれ以上にない喜びです。
皆様、本当に有り難うございました!!