「うわ…」
「ざまあみろ、と言ってやりたい気もありますが…」
「悪人どもながら、これは流石に…」
救出した発電所スタッフを連れ、発電所近郊まで戻って来た。発電所周辺の状況は、俺が離れる前から変化なし。倒れ伏したロケット団員とそのポケモンたちで、死屍累々と言って差し支えない。
この惨状を見て「何もしない」という選択を取るのは、いくらロケット団と言えど良心の呵責に苛まれるレベル。つい先ほどまで丸1日監禁されるなど酷い目に合わせられていたスタッフたちでさえ、口々に困惑や憐れみの感想を零している。
そんな状況だが、それでも彼らにはこの惨状に目をつむって、早急に発電所の機能を復旧させてもらわなければならない。
「…思っていた以上の状況で呆気に取られてしまいましたが、気を取り直していきましょう。私たちはこのまま発電所の中に向かいます」
「もしかしたら内部にロケット団の生き残りがいる可能性がありますので、警戒は怠らないようにお願いします。外は俺が見ておきますので、何かあれば合図を」
「ええ、お任せ下さい」
無人発電所は発電のために野生ポケモンの力も利用している関係上、内部の点検・整備をするためにも、スタッフには一定程度の実力が求められる。つまり、発電所スタッフの皆さんは本来それなりに実力があるトレーナーでもあるのだ。
ロケット団の襲撃時は不意打ちだったのと、数の暴力で押し切られてロクに抵抗出来なかったらしい。
「よし、ここからは我々の仕事だ!1分でも、1秒でも早く、カントー全土に電気を取り戻す!行くぞ!」
「「「おおっ!」」」
勇んで発電所の現状確認に向かう職員の皆さん。俺はその頼もしい背中を見送った。
「さて…」
これで発電所のことについては、ロケット団の残党が残ってたりしない限りはスタッフの皆さんに任せておけば問題ない。ならば…
「…おい」
「……ぅ…ぅぅ……」
一旦やることがなくなった俺は、近くの地面に転がっているロケット団員を1人、適当に叩き起こす。
「…ぉ…お前……は……」
「何があった?」
意識を取り戻した団員に対して、この場でいったい何があったのかを尋ねる。団員は焦点が定まっておらず、目があらぬ方向へとキョロキョロせわしなく動いている。
「ぅ……分か…ら、ない……いきなり…かみな、り、が……」
素直に答えてくれるか分からなかったが、呂律が上手く回っておらず途切れ途切れながらも、団員は何があったかを話してくれた。
いきなりの雷…ね。つまり、この小さな無数のクレーターは、雷が落ちた跡。普通の野生ポケモンに、ここまでのことが出来るだろうか?
その後、もう数人のロケット団員からも話を聞き出せたが、その内容は皆一様に「突然の雷にやられた」という趣旨のものだった。となると、相手はやはり…
そうしている間に、発電所内部に向かったスタッフが1人戻って来た。チェックが終わったようだ。
「お疲れ様です。発電所の中はどうでした?復旧の目途は?」
「…一言で言えば、最悪ですね」
「…そこまで酷いんですか?」
「ええ…奴ら、重要な設備だけピンポイントで壊してます。今手元にある機材だけでは、完全な復旧は不可能です。内通者でもいたのかと疑いたくなるぐらいの手際の良さですよ、ホント」
「………」
話を聞くに、相当悪い状況なのであろうことはよく分かった。すぐの復旧は難しそうなことも。
そして、内通者の疑い…まあ、いてもおかしくはない。が、どっちかと言えば、年1回の発電所メンテナンスで色々と把握されてた可能性の方が高いと思う。実際、俺が監視施設の内部構造を知っていたのもそれに関わっていたからだし。
「となると、復旧には時間がかかりそうですね…この後はどうされるので?」
「幸い、緊急時用の予備電源は今の手持ちでも何とかなりそうですので、まずはそれを直して本社に連絡を…と考えています。1時間もあれば、何とかなるかと」
「分かりました。じゃあ、私はここにいる連中を…」
『ピカッ』
「ッ…」
今後の動きについてスタッフさんと話をしていたところで、眩い光が夜空を奔った。
『ゴロゴロゴロゴロ…』
光はほんの一瞬のこと。闇を背景に佇む無人発電所をくっきりと浮かび上がらせ、少しの間を置いて遠くに雷鳴が響く。雷だ。
「雷ですね…」
「あんなに晴れてたのに…?」
ここにテレポートして来た時は、夜空には月も星も見えていたはずだが…そう思って空を見上げる。変わらず夜空には星々が瞬き、満月が優しく世界を照らしていた。雷が起きそうな天気とは到底思えないが…
「…ん?」
不思議に思いつつ、異常がないか夜空を見続けていると、西の方の空にそれはあった。月明りに照らされて浮かんでいる、明らかに重くどす黒い雨雲が一塊。
満点の夜空にはおよそ似つかわしくないそれは、絶えず内部から稲妻の光を漏らし、そよ風と川のせせらぎを掻き消す雷鳴を轟かせていた。
『ゴロゴロゴロ…!』
そして、光ってから雷鳴が聞こえるまでの時間と大きさから、その雨雲は急速に発電所の方へと近付きつつあるように見えた。
これはマズイ。そう思って内部に向かったスタッフの皆さんへ合図を送ろうとしたが…
『バリバリバリバリバリーーーッ!!!』
「うわあぁぁーっ!?」
「ぐぅぅぅ…ッ!?」
それよりも早く、特大の雷が夜の帳を切り裂き、空を震わせ、大地を揺らした。強烈な雷光は視界を奪い、音の大きさは隣で叫んだスタッフの声を掻き消す程。
目の前に突如生じた光の奔流と轟音と衝撃に、俺は目を開けていられず両腕で顔を覆った。
あまりの威力に直感的に死を覚悟したが…幸い直撃はしなかったらしい。が、それでも少し痺れているような気がするぐらいに大きな雷だった…いや、ホント死ぬかと思った。鼓膜も無いなったかと…
恐る恐る目を開けると、眼前には一際大きなクレーター。当然、さっきまではなかった出来立てほやほやだ。
これだけの威力、並大抵のポケモンの仕業ではない。そして、ここは無人発電所…該当するポケモンなんぞ、1体しか思い浮かばねえ…!
そう思って雷が落ちてきた雷雲に目をやれば、記憶の中で見たことのあるシルエットが、ゆっくりとこちらに向かって舞い降りて来るのを捉えた。
「ギュラララーースッ!!!」
そのまま俺の視線の先に舞い降りてきたそのポケモンは、甲高い咆哮と共に、全身から四方八方に向かって電撃を放つ。その威力は、直接浴びずとも見ただけで分かる。当たったらお終い…そんな嬉しくない未来を強く想像させる程に強烈だ。
この全身黄色と黒の刺々しいフォルムの、圧倒的な威圧感を放つ鳥ポケモン。当然俺は知っている。そして何故このタイミングで来たのかと、世の不条理を嘆いた。
「サンダー…ッ!」
「で、伝説のポケモン…ッ!?」
初代における準伝説ポケモンにして、カントー三鳥が1体。原作でもこの無人発電所を住処としてはいたが、こっちではそんな話は聞いたことがなく、何度か発電所を訪れた際にも姿を見ることすらなかった。
そのサンダーが、今、最悪のタイミングで原作通りに出現した…良い予感はさっぱり当たらないのに、悪い予感は良く当たる。眼前に舞い降りたこの不条理に、俺は苦虫を嚙み潰すしかない。
よりにもよって、今この状況で出張ってくんじゃねえよこの野郎。
「ギュラララーースッ!!!」
「ヒィィィーーッ!?」
俺の心の中での悪態を察したか、サンダーは誰が見ても分かるような敵意バリバリの様子。何なら俺を嘲笑っているようにすら感じられる。
とは言え、俺とサンダーは初遭遇。それでこれとなると、ロケット団の連中に何かちょっかいでもかけられたか?
…状況的に普通にありそう。ロケット団が壊滅して、代わりに伝説のポケモンが相手とはな。
そして発電所スタッフさんは、サンダーの咆哮にビビリ散らかして情けない悲鳴を上げる。サンダーの放つ威圧感に完全に呑まれていた。
「スタッフさん、ここは俺が受け持ちます!今すぐ避難を!」
「わっ、分かりました…っ!他の職員にも伝えて来ますっ!」
「お願いしますッ!」
まずは、発電所のスタッフさんに避難を促す。残りのスタッフさんにも発電所から出ないよう伝えてもらわなければならない。
クレーターに躓きながら発電所へと向かうスタッフさんの姿を横目に、俺はサンダーと相対する。
と言うか、この世界に来てから初の伝説のポケモンとのエンカウントか。こんなシチュエーションじゃなけりゃ、もっと感動的だったかもしれないのに…
「ギュラララーースッ!!!」
「…ッ!サンドパン!バンギラス!」
「キュイッ!」「ギラアッ!」
何にせよ、当初の目標である発電所復旧のためにも、サンダーを何とかしなければならない。発電所の設備や施設そのもの、中にいる職員の皆さんにも被害が出かねない。伝説のポケモンとて障害であることに変わりはない。
意を決した俺が送り出したのは、サンドパンとバンギラスの2体。サンドパンとバンギラスの咆哮に合わせて、俄かに砂混じりの風が吹き始める。
伝説のポケモンなだけあってレベルも相応に高そうだが、サンドパンは最大火力の電気技が無効、バンギラスは砂嵐込みで数値以上の特殊耐久が期待出来る。この2体でならサンダーと言えど抑え込めるはずだ。1on1じゃなきゃいけないルールもないからな。
「ギュラララァッ!!!」
『バリバリバリィッ!!』
「ヤル気満々だなチクショウッ!」
先手を取ったのはサンダー。こっちが歯向かう意思を見せたと見るや、即座に仕掛けてきた。上空を覆う雷雲から、雷が降り注ぎサンドパンとバンギラスを襲う。余波で俺もビリビリ来た。
しかし、2体は全く動じない。そのままサンダーの攻撃を難なく耐えきった。
「お返しだ!サンドパン、バンギラス、“いわなだれ”!」
「キュイィィッ!」「ギラアァァッ!」
「ギュララァッ!?」
雷の雨を貰ったのなら、こっちの返礼品は岩石の雨。2体がかりの“いわなだれ”をサンダーにプレゼントだ。
わざわざ俺の目の前まで降りて来てくれていたおかげで、サンダーには逃げ場がない。それでも何とかして上へ逃げようとするサンダーを、落ちて来る岩が打ち据える。
ただ、そこは伝説のポケモン。それだけで撃墜までは至らず、サンダーはダメージを受けつつもこちらの攻撃を切り抜けた。
「ギュラララァッ!!!」
『バリバリバリィッ!!』
2体からの“いわなだれ”を切り抜けたサンダーは、再びこちらに向けて雷を落としてくる。狙いは…俺かよッ!?
「キュイィィッ!」
「サンドパン、サンキューな!」
しかし、この攻撃はサンドパンが間に入ってくれたことで、大事には至らなかった。ホント、助かった。
それにしても、トレーナーを直接狙うとはとんでもねぇヤツだな!野生ポケモンに何言ってんだっていう話ではあるが、コッチがルール無用なら相手もルール無用…当然の話か。
ここまで生命の危険を感じる戦いは、シロガネ山でのバンギラス戦とか、ハナダシティの暴走ケンタロス以来だ…!
「バンギラス、撃てッ!」
「ギラァアァッ!」
「ギュララァーースッ!」
一連の攻防に関わっていない、完全フリーのバンギラスの“いわなだれ”が、再度サンダーを襲う。しかし、これは即座に上空へ逃げられ空振りに終わる。
そして、サンダーは攻撃を潜り抜けた勢いで高度を取ると、そのまま逆落としに突っ込んで来た。
「ギュララァッ!!!」
「“ドリルくちばし”か!サンドパン、来るぞ!」
「キュイィィッ!」
今度の狙いはサンドパン。“かみなり”を無効化されたことで脅威と見たか?
翼を折りたたみ身体を高速で回転させ、稲妻の砲弾と化したサンダーがサンドパンを襲う。特性の“すながくれ”が効いてるハズなんだが…これは直撃コースだ。良い目してるわ、鳥だけに。
「ギュララァッ!!!」
「キュ…ッ、キュィーーッ!」
伝説のポケモンを弾き飛ばすか!サンドパンは両腕の爪をクロスさせることでガードに成功。短時間の鍔迫り合いでサンダーを弾き、最小ダメージで凌いだ。
「逃がすな、バンギラス!」
「ギラァッ!」
「ギュラララァッ!」
弾かれたサンダーが飛び抜けて行った先を狙って、再びバンギラスが“いわなだれ”を流し込む。しかし、サンダーは突き抜けた勢いを殺すことなく再加速。岩石の雨をスピードで振り切って躱されてしまった。
そのまま、サンダーは一気に空高く飛び上がって行った。サンドパンとバンギラスの技構成じゃ、あの高さまで逃げられると手が出せなくなってしまう。あそこまで届く攻撃がないんだよな。
サンダーのいる位置まで攻撃を届かせることの出来るポケモンとなると…他のポケモンたちの力も必要か。
「ギュラァッ!!!」
「これは…“あまごい”か…!」
いよいよ総力戦か、とか思っていたら、サンダーが一声大きく戦慄いた。程なくしてバンギラスが起こした砂嵐が止み、空を覆う雷雲から雨粒が降り始める。そんなの覚えてるのか。
天候を雨に書き変えられたことで“かみなり”が必中技になり、砂嵐によってバンギラスとサンドパンが得ていた恩恵もなくなった。
だが、それでもサンダーにサンドパンやバンギラスを一撃で葬ることが出来るだけの有効打は無い。じっくりといけば撃ち勝てる。
…俺が狙われた場合?………ま、まあ、何とかなるっしょ……たぶん。
「ギュゥゥラァッ!!!」
『ドッパァァァンッ!!』
「キュイィィーッ!?」
「………は?」
サンドパンが……倒された…!?
やっぱり無人発電所と言えばサンダーだよなぁ!というワケで、ロケット団との決戦前に本作品初の準伝戦と洒落込みましょう!早速サンドパンがブッ飛ばされちゃったけど、まあ、何とかなるなる(たぶん)
※お知らせ※
中途半端なところではありますが、今月は(Z-A以外の理由で)作者のリアルが多忙になることが確定したので、しばらく執筆に十分な時間が取れない可能性が高いです。次の投稿は11月か12月になるかと思われます。ご了承ください。
…元々気分次第で投稿が不規則だった奴が何言ってんだって話ではある。