成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第98話:最後の1人

 

 

 

 

 ロケット団による無人発電所への襲撃・占拠事件を、想定外の横槍はあったものの何とか解決した俺だったが、ケーシィに急かされる格好でナツメさんに任務完了の報告をしようと連絡を取ったところ、あのナツメさんがただならぬ様子で一言「戻ってきて欲しい」と言って来た。もう少し詳細に聞きたかったが、それだけ言ってナツメさんとの連絡は途切れた。

 

あのナツメさんがたった一言だけで通話を切る…何かのっぴきならぬ事態に陥っている可能性が高いだろう。状況が状況だけに、そう考えた俺は即座に帰還を決断した。ケーシィを頼りに、ヤマブキジムの一室へと都合本日3回目となるテレポート。

 

一瞬の浮遊感の後、景色は見覚えのあるヤマブキジムの一室に変わった。

 

 

 

「これは……」

 

 

テレポート先の一室には、数人のジムトレーナーがいた。俺が抜ける前はナツメさんの指揮下で意気軒高だった覚えしかないが…今この場にいる人間は、誰もその時の戦意の高さは感じられない。全員が何かしらの怪我をしているようだった。

 

 

 

「…!マサヒデさん、お帰りなさい!」

 

 

 

俺が戻ったことに気付いた1人が声を掛けて来た。

 

 

 

「戻りました。しかし、この状況は…一体何があったんです?」

 

「ロケット団の連中が、新手を投入して来ました。人数は20人程度ですが、とても凶暴で強力なポケモンを主力とする、精鋭と見られる部隊です」

 

「凶暴で強力なポケモン…」

 

「はい。奴らのポケモンは驚異的な…いえ、もはや異常とも言える高い攻撃力を発揮していました。私たちもジムリーダーの指揮の下で何とか抵抗はしたのですが…ポケモン諸共この様です…」

 

 

 

とりあえず、ロケット団がヤマブキジムへ新手の戦力を送り込んできたのと、その部隊相手に苦戦していることは分かった。かなりマズイ状況というのは間違いなさそう。異常に高い攻撃力と言うのがピンとこないが…つるぎのまいでも事前に積んで来てたりとかするのか?

 

 

 

「相手が使っているポケモンっていうのは、具体的にどう凶暴で強力なんです?」

 

「闘争心が剥き出しと言いますか…端的に言えば狂ってるんですよ。そうとしか言い表しようがない」

 

「狂ってる?」

 

「そうです。攻撃に対して避けようともせず、自分がダメージを負うことを恐れず平然と攻めて来る。ともすれば自分から攻撃に当たりに行っているんじゃないかと思うようなことすらあったのに、全く怯む様子がないんです」

 

「それは…確かに気になりますね」

 

「気になるとか言うレベルじゃないんです。こんなの狂ってるとしか言いようがないんですよ。バタフリーっているじゃないですか。これが野生のギャラドスよりも攻撃的なんですよ」

 

「……はい?バタフリーが、野生のギャラドスより攻撃的…?バタフリーが?」

 

「ええ。こちらの攻撃をものともせず、狂ったように“シャドーボール”を乱射しながら突っ込んで来るんです」

 

 

 

スピアーであればともかく、バタフリーがギャラドスよりも攻撃的?とてもじゃないが、はいそうですかとは言えないような情報だ。

 

 

 

「見た目には混乱している時に近いような感じもありましたけど…私には狂ってるとしか思えませんでした」

 

「…正直、俄かには信じ難いですね」

 

「ですよね。私もこの目で見ていなかったら、絶対に嘘だと思っているでしょう。でも、本当なんです。奴らのポケモンは恐怖心みたいなのが全く感じられないというか、そういう異常かつ狂気的で攻撃的な動きをするんです。普通だったら瀕死になっててもおかしくないような攻撃をくらっても、平然と立ち上がり向かってくる」

 

「凄まじい生命力と言うか、まるでゾンビみたいだ」

 

「ゾンビ…そうですね、言い得て妙かもしれません。ですが、凄まじいのは生命力だけじゃない。技の威力もそうです。もしかしたら技自体の方にも秘密があるのかもしれませんが、そこまでは判断がつきませんでした。何分、お恥ずかしながら知識にない技でしたから…」

 

「知らない技?」

 

「ええ、見た目はただがむしゃらに一直線に突っ込んで来るだけなんです。反動ダメージもあるようでした。でもその技を受けた時だけ、異様に高ダメージを受けることが頻発したんです。まるで急所に当たったような…連中は“ダークラッシュ”と呼んでいましたが…」

 

「ダークラッシュ…!?」

 

 

 

その技名を聞いただけで、今回の敵がいったい何者なのかを理解した。今までの説明も、よく分からなかった事柄の全てがストンと腑に落ちた。連中、ダークポケモンを使ってんのかよ…!

 

確かにロケット団はシャドーと手を握ってはいた(52話参照)けど、場合によってはヤバいぞ。生み出す技術を買ったのか?それとも輸入しただけ?最悪、大量のダークポケモンを相手にしないといけなくなっちまう。いや、でも20人ぐらいとも言ってるし、数は用意出来てない可能性の方が高いか?

 

どちらにせよ、今ヤマブキジムを攻めている連中はダークポケモンを与えられ、それを扱えるだけの技能を有した精鋭部隊であることは間違いなさそう。異様な高ダメージも『ハイパー状態』だったと考えれば説明はつく。

 

 

 

「何か心当たりが?」

 

「ああ、まあ…それで、今の状況は?ナツメさんはどこに?」

 

「…ジムの西側で、今もその精鋭部隊を相手に戦っているハズです。お願いしますマサヒデさん、リーダーを…」

 

「ええ。後は僕に任せて今はしっかり休んで下さい」

 

「頼みます…」

 

 

 

例え相手が大量のダークポケモン軍団だったとしても、ナツメさんを見捨てるワケにはいかない。おおよその状況確認は終わったところで、前線となっているジムの西側へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジムを飛び出した先で見えたのは、遠巻きにジムを半包囲する黒尽くめの集団と、それに対峙するジムトレーナーたち。状況としては最初セキエイ高原からここに来た時の焼き増しを見ているような感じ。だが、その時と比べて包囲網は小さくなっているように思える。

 

いや、何なら現在進行形でジムトレーナーたちがジリジリと後退させられている。これはマズイな…ここは一発かまして、ロケット団を押し戻したい。バンギラス…いや、ダメだ。疲弊しているジム側のポケモンが砂嵐で倒れてしまいかねない。となると…

 

 

 

「いけ、レアコイル!」

「ビビ!」

「10まんボルトッ!」

「ビビィーッ!」

 

 

 

ジム側の頭上を飛び越えて、押し込もうとしていたロケット団の一角へ向けて電撃が飛ぶ。

 

 

 

「ッ!?」

「後ろから撃って来たぞ!」

「敵の増援か!?」

 

 

 

グイグイとジム側を押し込んでいたロケット団だが、想定外の一撃を受けて狙いどおりに警戒を強めた。結果、攻勢が一瞬だけ止まった。

 

この隙に、俺はナツメさんの元まで滑り込む。

 

 

 

「…ナツメさん、遅くなりました!」

 

「おかえりなさい、待ってたわ…っ」

「フー…!」

 

 

 

ロケット団とヤマブキジムトレーナーたち。双方の攻撃が飛び交う戦場と化しているその中心に、ナツメさんは変わらず立っていた。エースのフーディンも健在だ。

 

しかし、戦況が芳しくないのは見てのとおり。周囲を半ば取り囲まれながらも、件の精鋭部隊らしきロケット団員たちを抑え込んでいるようだが、ナツメさんの周囲を固める人数は、俺が発電所に向かう前に見た時よりも明らかに少なくなっている。傷が目立つ人やポケモンも多い。怪我をして仲間に支えられながら屋内に退いていくジムトレーナーも、ここに来るまでの間に何人か見ている。

 

 

 

「思っていたよりは元気そうで安心しました」

 

「…フフ、私を誰だと思っているのかしら。これぐらい、なんてことないわ」

 

 

 

相変わらず余裕ありげに不敵に笑うナツメさん。だが、苦境を物語るように額には汗が滲んでいて、人形とも評される表情にも焦りと疲れが見て取れる。フーディンも相当なダメージを受けているのかボロボロで、かなり気も立っている様子。

 

俺でも容易に察しが付くぐらいには苦しい状況だが、それでも戦力はあるし、戦意も潰えたワケじゃあない。想像していた最悪よりかはまだマシだ。

 

 

 

「…正直に言えば、アナタの見立てどおりよ。だから来てくれて助かったわ」

 

「でしょうね。まあ、精鋭部隊が相手だろうと、やることは一緒です」

 

 

 

そうしてヤマブキジムの面々に混ざり、俺もロケット団と相対する。さあ、本日第3ラウンドの開幕だ。

 

 

 

「ずいぶんと遅いお出ましですね、元トキワジムリーダー代行」

 

「…!」

 

 

 

意気込んでいた所に、ロケット団側から歩み出て来る者がいた。黒尽くめの標準的なロケット団のコスチュームに身を包んだ、一見普通のロケット団員。だが、その顔とベレー帽から僅かにはみ出る鮮やかなエメラルドグリーンの髪には覚えがあった。会ったことはない、でも記憶の中には存在する。

 

 

 

「上からはあなたとヤマブキジムリーダーを最大限警戒せよとの指示がありましたが、何時まで経っても出て来ないので拍子抜けするところでしたよ。どこで油を売ってたんです?」

 

 

 

原作に登場したロケット団の幹部は4人いるが、その内の3人とは面識がある。俺がまだ会ったことのなかった最後の1人…それがコイツだ。と言うか、俺がここにいることはロケット団側にバレてるのか。まあ最初のヤマブキジムに発電所とかなり暴れたし、バレててもおかしくはないな。それか、副社長から連絡が入った可能性もある。

 

 

 

「まあ、今さらあなたが加わったところで、ヤマブキジムを制圧し、この作戦を成功させることに変わりはありません」

 

「気を付けなさい、マサヒデ。あの男が、今私達を囲んでいるロケット団部隊のリーダーよ」

 

「…でしょうね」

 

「ああ、挨拶が遅くなりました。私はロケット団D部隊隊長の【ランス】と申します。そして、私たちの邪魔をする愚か者を排除し、この計画を必ず成功させるために編成されたロケット団が誇る最精鋭部隊…それが私たちD部隊。これからあなたたちを絶望の淵に突き落とす者の名です」

 

 

 

ロケット団4幹部の最後の1人、ランス。名前とキャラデザを与えられて登場したHGSSでは、ヒワダタウンのヤドンの井戸でヤドンの尻尾を切り落として高額で売り捌いていた。丁寧な口調ではあるが『ロケット団で最も冷酷な男』とも呼ばれており、そのルックスも相まって女性団員からの人気が高い幹部なんだとか。

 

まさかこんなところで、こんな形で相まみえることになるとは…いや、原作的なことを考えるならこれが正常っちゃ正常ではあるか。そしてD部隊…安直ではあるが、素直に受け取るなら(ダーク)ポケモンを運用する部隊と言うことなんだろう。

 

原作ではロケット団がヤマブキジムを含む幾つかの建物を封鎖して、街中を団員がうろついている様子が確認出来る程度で、シルフカンパニー襲撃以外の面はさほど詳しくは描かれていなかった。俺が今こうしてここにいる経過とかを考えるに、原作にはなかった出来事が起きる可能性も考えてはいたが…なるほど、こう来るのか。

 

 

 

「ですが、私たちとしても不必要に手荒な真似はしたくありません。警察は私たちの手ですでに潰しましたし、この街もほぼ全域が我々の制圧下にあります。周辺の街や発電所にも別同部隊が送り込まれていますから、応援も来ることはありません」

 

「セキエイ高原に無人発電所だけじゃないのか…!」

 

 

 

セキエイ高原への襲撃と無人発電所の占拠に加え、他の街でも…ダークポケモンのことと言い、シルフカンパニーを、マスターボールを手に入れるためにここまでやるのか。やっぱとんでもねぇ組織だよ、ロケット団。

 

 

 

「無人発電所?何故そのことを…ああ、なるほど。向こうに送った部隊からの連絡が途絶えたとは聞いていましたが、あなたが犯人でしたか」

 

「違うんだよなぁ…」

 

 

 

とんだ誤認、風評被害である。俺が向こうに行った時には、御宅のお仲間たちはすでに壊滅してたぞ。悪いのはサンダーであって俺じゃねぇ。俺がやったことなんて、管理棟に残ってた数人をブッ飛ばして最後の仕上げをしたぐらい。何ならそのサンダー倒して捕まえて、そっちの団員たちの仇を討ったとも言える。感謝して欲しいぐらいだわ。

 

…トドメを刺した、と言う意味ならまあ、間違いではないが。

 

 

 

「やはり、あなたは計画の大きな障害だ。ですが、ヤマブキジムリーダーはすでに虫の息ですよ?そんな状態で私たちに勝てるとでも?大人しく我々に従ってくれるのなら、これ以上私たちがあなた方を痛めつける必要も街を荒らす理由もなくなります。如何でしょう?」

 

「…ナツメさん、大丈夫ですか?」

 

「…大丈夫、膝を折るつもりはないわ。だって、私たちの勝利の未来は約束されているんだもの」

 

「…フ、なら安心ですね」

 

 

 

かなり追い込まれた状況ではあるが、ナツメさんにロケット団に屈するという選択肢はなさそうだ。ナツメさんが戦う以上、相手が精鋭部隊であろうと俺に白旗を掲げる理由はない。

 

それに、原作でも最終的にロケット団は目的を果たせずに終わっている。原作どおりならレッドがサカキさんを破って撤退に追い込んでくれるハズだ。だから、頼むぜレッド君…!

 

 

 

「そういうワケなんで、そちらの提案はお断りだ。大人しく従ってやるつもりなんぞ微塵も無い!」

 

「ならば、この場で全員まとめてキッチリ排除させていただく!元トキワジムリーダー代行とて、ロケット団の技術と力を以てすれば恐るるに足らず…!完膚なきまで叩き潰して差し上げましょう!」

 

 

 

人生ままならんものだと常々思ってはいるが、当初はロケット団との戦いに迷いもあったが、セキエイ高原、1日空けてヤマブキジム、無人発電所と転戦する中で完全に消え去った。ここまで来て途中下車なんて、ダサいことはなしだ。

 

『勝利の未来は約束されている』…未来予知が出来るナツメさんがそう言うんだ。なら、今はその未来を、俺の知る原作の流れを信じて戦い抜くだけ。やってやる…!

 

 

 

 

 

 

 





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