「ヤマブキジムリーダーはすでに虫の息。元トキワジムリーダー代行も、ロケット団の技術と力を以てすれば恐るるに足らず!全員まとめて完膚なきまで叩き潰して差し上げましょう!いけ!」
「「「はっ!!!」」」
「全員、ここが正念場よ。ヤマブキジムトレーナーとして、意地を見せなさい」
「「「はいっ!!」」」
俺の乱入によって一時止まっていたロケット団の攻撃は、少しの時間行われたランスとの交渉?決裂を経て再開。20人程のロケット団員とそのポケモンたちが一斉に動き出す。原作では一切描かれていなかった、シルフカンパニー襲撃事件の裏で行われていたヤマブキジムとロケット団の攻防が幕を開ける。
世界観を考えれば、これだけの事を起こすに当たって各地のジムの動向を気にしない理由はない。実際、封鎖されて入れないようにはなっていたし、ゲームで主人公が快刀乱麻の活躍を見せていた裏では、こんな事態があったのかもしれない。
「ニドキング、粉砕せよ!」
「ハハハッ!暴れ散らかしてやろーぜぇ!いけ、ドードリオ!」
「くけけ!バタフリー、シャドーボールだぁ!」
…にしたって、ここまでではなかったんじゃないか。一斉に突っ込んで来るロケット団のポケモンたちを見て、そう思った。
基本的に通常のポケモンとダークポケモンの判別は困難とされる。ダークポケモンは特徴としてそれ特有の黒いオーラを放っているが、これは通常では視認出来ないものであり、見分けるためにはポケモンコロシアムの相方のように特異な体質を持っているか、専用の機器が必要になる。当然俺はそんな機器は持っていないし、特異体質でもない…はずだ。
なので、今向かって来るポケモンたちがダークポケモンなのかどうか、正確には分からない。分からないが、特有のオーラこそ見えないものの、どいつもこいつも目が血走っていたり、身体が異様にパンプアップしていたり、遠目でも分かるぐらいに血管が浮き出ていたり…とにかく、「何かがおかしい」と視覚的に容易に感じ取れてしまう。
連中がダークポケモンを使っていることが分かっていたとしても、通常の個体でないことは一目瞭然だった。
「押し返すわよ。フーディン、サイコキネシス」
「リーダーに続けぇ!スリーパー、サイコキネシス!」
「私たちも…ナッシー、サイコキネシス!」
そんな改造ダークポケモン部隊に果敢に立ち向かっていくヤマブキジムの面々。俺も迷うことなく、この中に混じって仲間たちと共にこの戦いにその身を投じた。狙いは…先頭のドードリオ!
突っ込んで来るのが確かに速いし、その血走った目と合わせて威圧感というか迫力を感じる攻撃だ。
「レアコイル、10まんボルトォ!」
「ビビーッ!」
「ドドォォーーッ!!」
しかし、狂気に身を任せているからなのかそのラインは直線的で、レアコイルの電撃は難無くドードリオを捉えた。
耐久面の能力は決して高くなかったと記憶している。その正しさを証明するように、攻撃を受けて頭から盛大に倒れ込むドードリオ。勢いに乗っていた分、いくらか滑ってようやく止まった。
いくらダークポケモンだろうと、これは流石に確1…
「ドォ…ドォォーーッ!!」
「倒せないのか…ッ!?」
…と思ったが、ドードリオはフラつきながらも立ち上がる。弱点のレアコイルの電気技を真正面から受けたにもかかわらずこれで止まらないとか、ダークポケモンって化け物かよ…!
「クソ、だったら倒れるまで…ッ、レアコイル、右だッ!」
「ビ…ッ!?」
その間に、別方向から別の敵ポケモンが迫る。
「ニドキング、ダークラッシュ!」
「ギィガァァーーーッ!!」
「ビ…?!!?!」
ニドキングの全身を使っての体当たりを受けて、レアコイルが吹っ飛ばされる。体当たりとは言ったが、勢いは完全に“すてみタックル”レベルだ。
「レアコイル!!」
「ビ…ビビ……!」
幸い戦闘不能とまではいかなかったものの、受けたダメージは目に見えるレベルで大きい。俺の主力レベルのポケモンでも一発でこの有様…これがダークポケモンなのか!?原作の想定では甘すぎるのか…!?
「トドメだ!殺れッ!」
「ガギャアァーーッ!!」
唖然としている暇はない。ニドキングの追撃がレアコイルを襲う。
「来るぞ、トライアt、グ…ッ!」
「ビ…ィッ!?」
「レアコイル…ッ、ドードリオか…!」
ダークラッシュの反動など気にも留めていないように、ニドキングの攻撃の方が先にレアコイルを打ち据える。反撃の指示は、至近距離に着弾した別の攻撃で遮られた。
ニドキングはそのまま倒れたレアコイルを強く踏みつける。
「いいぞ、そのまま潰してしまえ!」
「ガアァァーーッ!!」
「…ッ、戻れッ!」
レアコイルに対して尚も攻撃を加えようとするニドキング。使役者であるロケット団員も静止はせず、それどころか平然と「潰せ」と指示を飛ばす。これはもう完全に殺しにかかっている。
そして、コイツらは本当にやりかねない。俺は慌ててレアコイルをボールに戻した。
「スピアー、ラフレシア、ヘラクロス!」
「スピィッ!」「らふー!」「ヘァッ!」
レアコイルのダメージを心配している余裕はない。今はバンギラス以外の戦える面子を総動員だ。全部終わったらサンドパンと一緒に治療してやるから…!
「スピアーはこうそくいどう、ヘラクロスはつるぎのまいだ!」
「スピャア!」「ヘラッ!」
「ラフレシアはねむりごな!奴らの動きを少しでも止めてくれ!」
「らっふー!」
ダークポケモンと対峙する上で気になるのは、ダークラッシュの仕様がコロシアム仕様なのか、それともXD仕様なのかという点。コロシアムではタイプのない、即ち全てのポケモンに等倍でダメージを与えて来る技だったが、XDでは確かダークポケモンではないポケモン相手だと問答無用で効果抜群の判定になる仕様だったハズ。
レアコイルをたった2発でノックアウトしたんだから、後者な気はしなくもないが…何にせよ、ダークポケモンに正面から対抗出来るように優位な態勢を作りたい。スピアーとヘラクロスには積み技で戦闘力アップを図る。そして残るラフレシアはその隙を作るべく、大挙して迫るダークポケモンの軍団の足止めだ。
こっちに向かってきているポケモンたちに対して、カーテンのように広くねむりごなをバラ撒いていく。これで止まる奴が多ければスピアーとヘラクロスも安全に積むことが出来るし、何よりナツメさんたちも多少は楽になるハズ。
…が、その目論見は一歩目から躓いてしまう。
「ドドオォーーーッ!!」
「ギィガアァーーーッ!!」
「フリィィーーーッ!!」
「効いてない…!?流石にそいつは聞いてねぇぞ…ッ!」
迫り来るダークポケモン軍団からの脱落者はまさかのゼロ。常軌を逸した興奮状態のポケモンたちは止まらなかった。
あれだけの数がいて全部躱された…?これまで様々な場面で幾度となく有効打として機能して来たこっちの常套手段、いくら何でも1体も眠らないのはちょっと異常だ。運が悪いだけとは思えない。
もしや、単なるダークポケモンじゃないのか?それとも、原作にはなかった、それか俺の知らないダークポケモンの仕様みたいなのがある…?
運が悪かったで片付けたくないが…
「みんな、躱せぇッ!」
現実ってやつは待ってはくれない。ねむりごなのカーテンを突破したダークポケモンたちが眼前まで迫る。血走った眼、狂気の形相、一部のポケモンは涎を垂れ流しながら突っ込んで来る。
そしてねむりごな前提で動いていたがために、瞬時の対応が出来ない。何とか避けてくれという願いを乗せて、俺は声を張り上げた。
「フリィィーーーーッ!」
「ピィ…!」
願いが通じたか、スピアーは瞬発力を見せて間一髪これを躱した。しかし、残る2体はそうもいかない。
「ギィギャアァァーーッ!!」
「ヘラァ…ッ…!!」
まずヘラクロスは初動が遅れ、この突進を真正面から受けることになった。それでも攻撃が上がっている分か、突っ込んで来たニドキングをかなり押し込まれながらも組み止め、押し返すことが出来た。
「ドオォォォーーーッ!!」
「ら……ッ」
そして、ラフレシアはそれすらも出来ず一瞬でドードリオに弾き飛ばされた。ダンプカーに轢き潰されたように、ラフレシアは呆気なく戦闘不能に。
「ら……」
「すまない、ラフレシア…!」
瞬く間に2体が戦闘不能になり、ヘラクロスもダメージを負い、スピアーも本調子とは言い難い。周りのヤマブキジムの面々も押され気味でほぼ防戦一方の厳しい状況。それでも、退くわけにはいかない。
しかし、ダークポケモンというのはこれほどまでに強いものなのか?この異常な戦闘力の高さは何だ?本当にただのダークポケモンなのか?
「フフフ…無様ですねぇ、ジムリーダー」
「ッ…」
極短時間、ほんの一当たりした程度でこちらはそこかしこで崩されてしまった。戦闘不能になったポケモンと、戦闘の余波で傷付いたと見られるジムトレーナーたち。
そして、ロケット団側はそこで一度攻撃の手を止めた。戦場の喧騒が一瞬だけ静まる。
「今からでも遅くはありません、大人しく私たちの命令に従った方がよいのではありませんか?さもなくば、ヤマブキ市民の皆さんがより苦しむことにもなりかねませんよ?」
「…脅しのつもりかしら?」
「脅しではありませんよ。これは私たちからの“慈悲”です。何があろうと、我々はプラン通りに任務を遂行するだけ。その過程で多少の犠牲が出るのは仕方ありません。あなた方が抵抗を続けるのであれば、我々は目標達成のためあらゆる手段を厭わない。しかし、止めて我々に従ってくれるのであればその限りではない。それだけのことなのですよ」
「…お断りね。市民に手は出させないし、まだ終わってない。ヤマブキジムリーダーとして、アナタたちに膝を屈するなんてあり得ないわ」
「…ふん」
こちらの苦境を見て、自らの優位を確信するように嘲笑うランス。厭味ったらしく降伏勧告を投げ付けてきたが、ナツメさんは当然のように切り捨てる。
「あなたはどうです、元代行?」
「…!」
すると、今度は俺に誘いの矛先を向けてきた。
「今抵抗を止めて我々に従うならよし。そうでないのなら、あなたやあなたの大切なポケモンが、取り返しのつかぬ事になるかもしれませんよ?作戦のためとは言え、必要以上の苦痛を与えるのは私としても本意ではありませんので」
「…この場のリーダーはナツメさんだ。そのナツメさんが『戦う』と言っている以上、俺が退く理由はないな」
当然、ナツメさん同様にその誘いは拒絶する。この状況でロケット団に従うなんざあり得ない。そんな情けないことは出来ない。
「…やれやれ、ジムリーダーもあなたも強情ですね。それに、物分かりも良くない。この状況でまだ我々に楯突こうと言うのですから、愚かにも程かある」
「ハッ!ポケモンを道具のように扱い、無闇に痛めつけ、挙句戦闘マシンに改造するような奴らに『愚か』なんて言われたかないな…ッ!それに、そのポケモンたちはお前らの技術じゃなく、他所様の力で得たものの間違いじゃないのか!?」
「…ほう、まるで全てを知っているかのような口振りですね…!あなたがどこまでのことを知っているのかは知りませんが、このポケモン…“強化ダークポケモン”は間違いなく、我がロケット団が持てる技術の粋を集めて造り上げた決戦兵器!ロケット団の力の象徴なのですよッ!」
「…!」
強化ダークポケモンだって…!?やはりただのダークポケモンではないのか…!通常のダークポケモンにどんな改造を施したのかは定かでないが、あの様子を見るに絶対ロクなもんじゃないことだけは分かる。
「無駄な労力は使いたくないのですが、我々に従わないと言うのであればこれ以上の問答は無用。ロケット団が誇る技術力、強化ダークポケモンの恐ろしさ、絶望と共にその身で存分に思い知るといい!」
「「「オオォオォォォーーーッ!!!」」」
暗闇に沈む大都会の空に野獣たちの咆哮が轟き、ロケット団の攻勢が再開された。
啖呵は切った、退路も断った。相手が何だろうと絶対に勝つ。俺がやるべきことは、そのために今持てる全てを全力でぶつけるのみ。
「…バンギラス!」
「ギラァ!」
砂嵐は気になるけど、この状況ではうちの最高戦力の一角を遊ばせておく余裕はない。やむを得ずな面は強いが、奴らに勝つためにバンギラス投入を決める。
「スピアー!ヘラクロス!お前たちも頼むぞ…いけ!」
「スピィ!」「ヘラァ…!」「ラァッ!」
「フーディン、サイコキネシス。バリヤードはリフレクターよ」
「ディイン!」「ばりばりー!」
地鳴りを響かせながら猛然と突っ込んで来る強化ダークポケモンを、スピアーとヘラクロスとバンギラス、ナツメさんのポケモンたちが一歩も引かずに迎え撃つ態勢。その動きに触発されるように、ヤマブキジムの面々も続々と抗う姿勢を見せて果敢に立ち向かっていく。
「ドオォォーーーッ!!」
「ギラアァァッ!」
「ガアァーーーッ!!」
「ヘッラアァァーーッ!!」
「リィイィーーーッ!!」
「スピィィーーッ!」
バンギラスがドードリオと、ヘラクロスがニドキングとそれぞれ正面から激突、スピアーはバタフリー相手に序盤虫ポケモン同士の空中戦。ナツメさんたちの方にも助力したいが、全員が目の前の相手を抑え込むので精一杯だ。
というか、バンギラスが抑えられるのはまだ分かる。ドードリオには決定打が無いはずだから。攻撃2段階上昇したヘラクロスと拮抗しているニドキングって何だよ!?これが強化ダークポケモンの実力なのか!?
…ふぅぅー、落ち着け。焦っちゃダメだ。こういう時こそ冷静になるんだ。確実に1体ずつ倒して…
「…さて、元代行。最初から疑ってはいましたが、やはりあなたは知らなくてもいい事を少々知り過ぎているようだ」
「…ッ、マサヒデ!」
「ナツメさん、何ですか!?」
「上!避けなさい!」
「え?あっ…!?」
「あなたの存在は、我々にとって色々と面倒です…ですので、我らがロケット団のためにもこの場で消えていただきたい!」
ナツメさんの悲痛な叫びに、ワケも分らぬまま顔を上げた俺の視界に入ったのは、暗闇の中で月を背に接近してくる1体のポケモンらしき影。眼前の戦闘に集中するあまり全く気付けていなかった。
「ゴルバット、やれ!」
「ルバァッ!」
一瞬の間にゴルバットは距離を詰め、ハッキリと認識する頃にはすでに目と鼻の先。大口を開き、鋭い牙が月光を受けて煌めいた。
強化ダークポケモン…一体ナニの遺伝子を使ったんだろうナー()