成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第13話:始まりはやっぱりここから

 

 

 

 月日は廻り春。雪が降りしきるほどの寒さが去り、新緑の息吹が駆け抜け、花が咲き誇る目覚めの季節。街行く人々も心なしか春の穏やかな陽気に浮かれているように見える。

 

そして同時に、春は別れと出会いの季節であり、旅立ちの季節でもある。この日、ここトキワシティにも新たな道を進むことを決意し、その時を迎えた少年がいた。

 

 

 

「…では、お世話になりましたルートさん。行ってきます!」

 

「うん、身体には気を付けるんだよ。何かあったら連絡してね、出来る限りのことはするからさ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

…はい、俺です。1週間前に何事もなくトレーナーズスクールを無事卒業した俺は、準備期間を経て、以前のサカキさんとの話し合いの通り武者修行の旅の第一歩を踏み出そうとしている。モンスターボール等、トレーナーの必需品セットはサカキさんからの援助で揃えられ、正規のトレーナーカードも手に入れた。これで俺も、今日から晴れて立派なポケモントレーナーの端くれというわけだ。戸籍は偽物だけどな。サカキさん曰く、トレーナーカードが身分証明書の代わりになるそうなので、偽の戸籍はほぼ用済みとのこと。トレーナーカード失くすなり何なりしたらどうなるのかと思ったら、思いっきりイイ笑顔で返された。具体的なことは何も聞けなかったが…大事にしよう、俺の未来のためにも。

 

進路に関しては中等部への進学と言う道が安定択ではあったのだろうが、安穏とした学生生活を捨て、武者修行の旅という無人の荒野を征くが如き決断をした。させられたと言った方が正しい気もするが、それでも最後に選んだのは紛うことなく自分自身の意志。決めた以上、あとは我武者羅に突き進むだけだ。頑張れ、推定年齢11歳の俺。

 

 

 

現時点でとりあえずの目標は、カントー各地のジムバッジを7つ手に入れること。見事達成出来た暁には、必ずやここトキワシティへと舞い戻り、あの鬼畜…もとい、トキワジムリーダーサカキさんと全身全霊を賭け、身命を賭して雌雄を決する所存。悪の首魁に正義の鉄槌を下すという大義の名の下に、今ここから俺の長く険しい旅路が始まるのだ。

 

 

 

…なんて、仰々しく語ってはみたけど要はサカキさんにギャフンと言わせたい。ただそれだけの話。その為にも、これから征く道は絶対に避けては通れぬ道。きっと、そこに至るまでの道のりは俺が考えているよりもずっと険しいものになると思う。俺がサカキさんに拾われたこと然り、今こうして旅に出ようとしていること然り、いつだって現実は想像の上をいくものだ。そもそもこの世界に立っていること自体が想像の範疇をはるかに逸脱した現実だしな。

 

どんな困難が待ち受けているのか、未来の事なんて分からないが、何があっても逃げない、投げ出さない覚悟と強くなるという明確な意志を持って俺は征く。歩いた場所が道となり、結果は後からついてくる。

 

 

 

…それに、俺にはその道を共に歩んでくれる心強い仲間がいる。

 

 

 

「じゃあ、行こうか。スピアー、サンド」

 

「スピ!」

「キュイ!」

 

 

俺の声掛けに、元気よく返事を返してくれる相棒たち。いずれも気心の知れた頼れる仲間だ。

 

 

…ん?何でスクールのポケモンだったサンドがここにいるのかだって?答えは簡単、卒業祝いとして卒業証書と一緒に貰った。以上。

 

 

もうちょっとだけ詳しく説明すると、スクールでは以前より卒業する時に『これからの人生で助けになることを願う』という名目で、授業でのパートナーだったポケモンを卒業生に譲っているそうな。ゲームでのポケモン博士の役割をスクールが担っている、と言えばわかりやすいかもしれない。これは別に俺が例外と言うわけではなく、他の中等部へ進学しなかった奴らも相棒を卒業祝いとして譲られている。

 

サンドが手持ちに加わってくれたことで、スピアーが苦手ないわ・ほのお・どくタイプ辺りをカバー出来るのは戦力的に大きい。はがねタイプにも有利だが、カントー地方にはがねタイプってコイル・レアコイルしかいなかったはずだから、オマケみたいなものだ。

 

 

 

財布は持った、野宿用の道具も持った…例のブツもしっかりある。準備は万全だ。少し脱線したけど、気を取り直して出発しよう。

 

 

 

「では、いざ出陣!」

 

 

 

こうして春の日差しと管理人・ルートさんに見送られ、俺はトキワシティを旅立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

…1ばんどうろへ向かって。

 

 

 

はい、何でニビシティ方面へ向かう2ばんどうろじゃないの?って思ったそこのアナタ。これまた答えは至極簡単。サカキさんの命令です。

 

と、言うわけで回想入りまーす。

 

 

 

 

 

 

 

 

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~2日前・旧社屋応接室~

 

 

 

「…え、グレンタウン…ですか?」

 

「そうだ。オマエにはまずグレンタウンへ向かってもらい、グレンジムに挑んでもらう」

 

 

 

旅立ちのXデイを目前に控えていたこの日、俺はサカキさんに例によっていつもの場所へ呼び出しをくらう。卒業を祝う言葉もそこそこに、告げられたのは行き先の指定だった。

 

指定された地はグレンタウン。ここトキワシティから南下し、マサラタウンから海を渡った先にある火山島・グレン島にある都市だ。ゲーム的には島内にはカントー地方のポケモンジムの一つであるグレンジムや、そのグレンジムに挑むために、事前にクリアしなくてはならないダンジョン【ポケモンやしき】、化石の復元を行ってくれるマシンがある【ポケモン研究所】などの施設がある。

 

本来なら終盤に訪れることになる場所で、この町のジムリーダー・カツラが7つ目のジムバッジを賭けて戦う相手になることがほとんどだと思う。そこを、いきなり初挑戦の相手に?

 

 

 

「でも、ここから一番近いジムはニビシティですよ?」

 

「そうだ。だが、こちらとしても使えるものは使いたい懐事情でな。セドナ、アレを」

 

「はい」

 

 

 

そうして机の上に置かれたのは2通の封筒。履歴書なんかの書類を入れるような大きさのものだ。

 

 

 

「これを、ジム挑戦のついでにグレンタウンにある『ポケモン研究所』まで届けてもらう」

 

「ポケモン研究所…」

 

「多くの研究者たちが、ポケモンに関する様々な研究を日夜行っている施設だ。その中には、我が社が出資…支援を行っている研究も多数行われている。コイツはそれに関係する内容の書類だ」

 

「…そんな大事なモノを、僕なんかに託して大丈夫なんですか?ちゃんとした身分の方が行かれた方が…」

 

「生憎、猫の手も借りたいぐらい我が社の業績は好調でな。人手が足りんのだよ。それに、内容自体は別に取るに足らないものだ。そこまで機密性のあるものではない」

 

「……」

 

 

 

すんごい嘘くせぇ。機密性云々はともかく、トキワコーポレーションって結構な大企業だった気がするんですけど、本当にそんなに人手足りないのか?あと、その研究って色々と大丈夫なヤツですか?…怖いから聞けないけど。

 

 

 

「まあ、だからと言って勝手に開けられても困るがな」

 

「そんな非常識なことしませんよ」

 

「フッ…そうだな。それに、オマエにはもう一つ頼まなくてはならん事もある」

 

 

 

その言葉に合わせて、秘書さんがもう一つ封筒を取り出し机に置く。これまたサイズは同じだが、分厚さが段違いに厚い封筒だ。持ってみると、やはり見た目相応にかなりずっしりとした重さを感じる。

 

 

 

「これは?」

 

「こちらはマサラタウンの【オーキドポケモン研究所】宛てのモノだ。これも道中で届けてもらいたい」

 

 

 

おおっと、ここでまさかのオーキド博士!ポケモン世界の権威なんて呼ばれたりもするポケモン研究の第一人者。時々テレビ番組で解説してたりしたから見たことはあるけど、やはりポケモン世界に来たなら一度は会ってみたい人物の一人だ。合法的に会う理由を貰えるのはありがたい。

 

それに、上手くいけばポケモン図鑑とか、御三家のポケモンも貰えるかも…なんてね。

 

 

 

…あ、ダメ元だけど一応聞いてみよう。

 

 

 

 

 

「あの、断るっていう選択肢は…」

 

「オマエの冗談は面白くないな。オーキド研究所宛ての内容は貴様の後始末。尻拭いしてやってるのだ、少しぐらいは手伝ってくれてもいいと思うがな…まあ、断わると言うのなら仕方がない、私も少し考えさせてもらおう」

 

「ア、ハイ、スイマセン。シッカリ確実ニ届ケマスデス」

 

「マサラからグレンまでの船はこちらで確保しておく。乗り遅れたら…渡した分から自分で何とかしろ」

 

「サー、イエッサー!」

 

 

 

 

絶対ロクな事考えてないだろこの人。そんでもって、実際にやりかねないから恐ろしい。流石悪の組織のボスは色々と格が違うぜ。こういう時は素直に頭を下げておくのが安全だ。

 

 

 

 

 

 

…いつもお手数をお掛けしてます。

 

 

 

 

 

~回想終了~

 

 

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…と言うわけで、俺の最初の目的地はマサラタウン経由でのグレンタウンと相成りました。まさかのゲームとは逆回りコースである。ジムリーダー・カツラはゲームでは終盤の相手だったが、いきなりゲーム通りにウインディとか繰り出されたら溜まったもんじゃない。ジム初挑戦だし、手加減してくれるとは思いたいが…まあ、何事も案ずるより産むがやすしなんて言ったりもするし、何とかなるさ。きっと。

 

 

始まる前から一悶着ありはしたが、かくして俺はポケモントレーナーとしての第一歩を踏み出した。まず目指すはマサラタウン、オーキドポケモン研究所。実際に会うオーキド博士はどういう人物なのか、マサラタウンの実際の風景はどんななのか…ワクワクが止まらないね。

 

あ、それにもしかしたら原作主人公にも出会えるかも。レッドなのかサトシなのか、グリーンなのかシゲルなのか、それとも女主人公でブルーなんてパターンがあったりするのか…会えるかどうかはわからないけど、こちらも楽しみだ。

 

マサラタウンへは1ばんどうろをまっすぐに南下すればいいので、迷うようなことはないはず。ただ、ゲームではあっという間だが、やはり徒歩だと1日ほどは掛かる程度の距離があるようだ。渡されたグレンタウン行きの船のチケットに記された期日は4日後。予定では今日は道中で一泊、翌日の午前中の内には到着出来るはず。オーキドポケモン研究所への訪問と船着き場への移動とかを考えるとのんびりというわけにはいかないが、時間的な猶予は十分あるスケジュールだ。しっかり進んでいこう。

 

 

 

 

 

周囲は田園風景が広がる田舎道。どこか懐かしさを匂わせる風に吹かれながら、ひたすら1ばんどうろを南へ進む。車の往来はほとんどなく、行く手には果てしなく広がる青空とどこまでも続く道がある。たったそれだけのことが、旅立ちの期待と希望を大きくしてくれる。

 

周りを見渡せば畑で農作業に精を出す人や、放牧されたケンタロスの群れ。少数だが空き地でポケモンバトルに興じる人もいる。穏やかな時間が流れる長閑な風景だ。天気も良いし、スピアーとサンドも出してやって一緒に道を進む。ゲームのように「目が合ったから」などとほざいていきなり突っかかってくる野良トレーナーもいない。

 

思えばこちらに来てからというもの、常にサカキさんの目を気にしながら生きてきた。3年の月日を過ごすうちに少しはその感覚に慣れはしたが、それでも精神的に窮屈な生活を送っていたのは事実。その鎖から解き放たれた今の俺は、まさしく自由を謳歌する鳥。こんなに心が軽いのはいつ以来だろうか。少なくとも、こちらに来る以前の話であることだけは間違いない。自由とはこんなにも素晴らしいものであるということを、俺は今心の底から感じていた。

 

 

 

…結構な割合で自業自得な部分はあるが、それはそれだ。

 

 

 

 

 

そうして歩き続けること1日。何事もなく日が暮れ始め、その頃には目的のポケモンセンターに辿り着く。この世界でのポケモンセンターはポケモンの回復施設であると同時に、トレーナーや長距離トラックの運転手などのセーフハウスとしての役割も持っており、カントー各地、ゲームでは無かったような場所にもポケモンセンターがある。ここ、1ばんどうろにあるポケモンセンターもそんな数あるポケモンセンターの一つで、トレーナーカードを提示すれば回復・宿泊のサービスは無料で受けることが出来る。有料だが食堂も併設されているから、食事の心配もない。

 

 

 

一晩を過ごすため、中に入ってチェックイン。特にバトルなどは行っていないが、明日に備えて手持ちのポケモンたちを回復に出し、荷物を部屋に置いてから俺は1人で食堂に向かう。マサラ-トキワ間の利用客はあまり多くないらしく、決して大きなポケモンセンターではないが、前出のサービスはしっかり備えている。

 

食堂で頼んだのは日本人の心の料理・カレーライス。旅先で1人食べる食事はいつもとは違ってまた格別の味がする。美味くて値段もお手頃、言うことなしだ。

 

 

 

それが終わればロビーでテレビを見ながら回復が終わるのを待ち、ポケモンを受け取ってから部屋に戻る。一人旅の宿命か、部屋に籠ればやることがない。ここの部屋にはベッド・ライト・机にトイレ…泊まるための最低限の設備しかなく、テレビはもちろん、雑誌等の本も売店で買わなければない。パソコンもロビーに例のポケモン預かりシステム用に何台か設置されている以外ない。ゲームなんて代物も当然あるはずもない。

 

結果、部屋に戻って早々に大人しく寝ることになった。寝るには少し早いかと思ったが、1日歩き通しで思いの外疲れていたのか、夢の世界へと旅立つのにそう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

 

 

早めの就寝のせいか、日が昇るかどうかといったかなり早い時間に目が覚めた俺。時間が時間で食堂が開いてなかったため、手持ちで簡単な朝食を摂るとそのままポケモンセンターを出発。再びマサラタウンへと進路をとった。

 

春先の早朝はまだ肌寒いが、同時にそのひんやりとした空気がまだどこか覚醒しきってない体には心地良い。元より人通りが多くない道だか、早朝はさらに少ないとあって人通りも30分に1人2人とすれ違う程度。車も数分に1台通り過ぎるぐらいだ。そして、脇目を振れば人通りとは対照的にそこかしこに活動し始めたポケモンたちの姿がある。

 

 

 

 

そんな道をのんびり歩き続けること数時間。

 

 

 

「見えた、マサラタウンだ」

 

 

 

 

お昼前には最初の目的地、マサラタウンを視界に収めた。見える範囲に大きな建物はほとんどなく、畑があちこちに広がり、遠くには海も見える。家と家の間隔もトキワシティより間が空いている。のんびりとした空気が流れる海沿いの田舎町…といった感じだ。街中から少し外れた辺りの広大な平地にポツンと見える大きな建物が一際目を引いているが、あれがオーキドポケモン研究所だろうか。

 

 

 

到着後はここまで歩き通しだったし、昼も近いしでまずは休憩も兼ねて食事を…といくのが普通なんだろうが、飯よりも先に仕事だ。何て言ったってあのオーキド博士が待っているんだ。ゲームでもアニメでも超有名人なあのオーキド博士だ。この童心に帰ったようなワクワク、好奇心は抑えられない。

 

さあ、行こう。オーキド博士が待っている。

 

 

 

 

 

 

…特にアポ取ってるわけじゃないけど、大丈夫…だよな?

 

 

 

 

 

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~オーキドポケモン研究所~

 

 

 

『ピンポーン』

 

「ごめん下さい!」

 

 

 

地図を頼りに…するまでもなく、俺はオーキドポケモン研究所に到着。やはりあの大きな建物が目的の場所で間違いなかったので、非常にすんなり辿り着くことが出来た。インターホンを押して対応を待つ。

 

それにしても、普通これぐらいの研究施設ってどこかしらの組織が運営してるようなものだと漠然と思っていたんだが、これだけの規模と敷地を有しながら完全な個人の研究所だと言うんだから驚きだ。流石は天下のオーキド博士、規模が違うぜ。

 

 

 

そうして待つこと十数秒。中からバタバタと足音が聞こえ、ドアが開く。

 

 

 

「はーい、どちら様ですか?」

 

 

 

中から現れたのは、明らかに同年代ぐらいの少女。いや、博士か助手等の研究員の人が出てくるもんだとばかり思ってたから、正直面食らった。

 

 

 

「あ、こんにちは。私、トキワシティジムリーダー・サカキからの使いで、オーキド博士に届け物をするように言われて来たのですが…」

 

「あ、おじいちゃんですね、少し待っててください」

 

 

 

おじいちゃーん!お客さーん!と少女がドアを閉めて中へ戻っていく。この調子だと案外オーキド博士本人にいきなり会えるかもしれない。

 

 

 

…それはそうと、今の少女。オーキド博士を『おじいちゃん』って呼んでたよな?この研究所内に出入り出来るという点も鑑みれば、あの子はオーキド博士の孫ってことになる。ゲームではオーキド博士には孫が2人いた。1人は原作主人公のライバル。で、もう1人は確か…

 

 

 

 

 

「いやぁ、待たせたの。トキワジムリーダーからの使いじゃな?」

 

「…っ、は、はい!」

 

「待っておったぞ。中へ入りなさい、話はワシの研究室で聞こう」

 

 

 

そんなことを考えてるうちに、ポケモン研究の権威・オーキド博士ご本人の登場だ。少し考え事をしていたせいか、思わず声が上ずってしまった。

 

案内されるがままに中へ通される。中には至る所に研究に使う機械や器具が並んでおり、数人の白衣の研究者たちが何かしらの作業に集中している。元より文系だった俺には何が何やらさっぱりだが、ここがオーキドポケモン研究所であるという一点だけで、何らかのすごい研究をしているというのは分かる。

 

 

 

そんなこんなで通されたのは、オーキド博士の研究室。壁際には大きな本棚が並び、所狭しと様々な本や研究資料らしきファイルが詰め込まれている。流石に足元まで書類が散乱…なんて状態ではなかったが、机の上にもパソコンと飲み物が入ったマグカップが置かれている以外、本や書類が散乱・山積み状態だ。

 

そんな研究室の応接用の席に案内される。

 

 

 

「…では、改めて。遠路はるばるマサラタウンへようこそ。ワシがここオーキドポケモン研究所所長のオーキドじゃ。皆からは『ポケモン博士』と呼ばれたりもしておる」

 

「トキワシティから参りました、マサヒデです。お会いできて光栄です」

 

「はっはっは、そんなかしこまらんでもよいのじゃぞ。しかし、まさかサカキ殿から旅に出たばかりの若者を使いに出したと連絡を受けたときは驚いた。将来有望なトレーナーじゃと聞いておるぞ」

 

「いえ、そんなことは…」

 

 

 

いや、そんなこと言われても無理っす。オーキド博士のような超有名人前にして緊張しないとか、小心者の俺には無理っす。サカキさんとはまた別の理由で超緊張してるっす。あとサカキさん、それは俺を評価しているのか?それともハードル上げて楽しんでるのか?あの人の場合、本当に判断に困ることが多くて嫌になる。嫌になったところでどうしようもないが。

 

 

 

「で、サカキ殿からから届け物を預かっておると聞いたが」

 

「あ、こちらです」

 

 

 

リュックの中から預かった分厚い封筒を取り出す。大きさが違うので間違えようはないんだけども、念の為グレンの研究所宛てのモノと間違えてないか、宛先も確認した上で机の上へ。

 

 

 

「うむ、確かに」

 

 

 

受け取ったオーキド博士は、その場で開封して中身の書類に目を通していく。俺はそんな様子を眺めながら、時折窓の外を見たり本棚を見回したり、挙動不審になりながら終わるのを待つ。内容は俺の尻拭い…要するに、新しく見つけた(ことになっている)技についてというのがわかっている分、余計に落ち着かない。

 

 

 

「やはり新しい技に関するデータじゃな。サカキ殿がくれるデータは良いモノが多くて助かっとるよ」

 

 

 

やがて一通り目を通し終わったオーキド博士が顔を上げる。そりゃ知識先取りしてる俺が関与して(させれらて)いるんだから、質の良いものになるのも当然と言える。大半が俺の自爆であることは秘密だ。

 

 

 

『コンコン』

 

「おじいちゃん、お茶とお菓子持って来たよ」

 

 

 

そこへ、先ほど訪問時に対応してくれた少女がお盆を持って現れる。

 

 

 

「おお、すまんのうナナミ。そうじゃ、紹介しよう。マサヒデ君、こちらはワシの孫娘のナナミ。今はトレーナーズスクールの中等部に通っとる」

 

「ナナミよ、よろしくね」

 

「で、こちらはマサヒデ君。トキワシティジムリーダー・サカキ殿の秘蔵っ子じゃよ」

 

「別にそんなことは…ああ、マサヒデです。どうぞよろしく」

 

 

 

オーキド博士の紹介で、握手する俺とナナミさん。というか、この娘やっぱりナナミさんだったか。ゲームではタウンマップくれたり毛繕いしてくれたりと、色々とお世話になるライバルのお姉さん。まあ、この世界ではどうも同年代っぽいけども。

 

あと、そのサカキさんの秘蔵っ子と言う扱いは止めて欲しい。なんかこう…むず痒い。

 

 

 

「ところでマサヒデ君、昼食はまだかの?」

 

「ええ、まだですが…」

 

「それなら、ここまで歩いてきたのじゃ。疲れてもおるじゃろう。昼食も兼ねて少しゆっくりしていくと良い。何か用意させよう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ナナミの分も用意するから、少し2人で話しでもして待っておるといい」

 

「はーい!」

 

 

 

そうしてオーキド博士が部屋を出ていき、残される俺とナナミさん。何気にこうして女の子と2人きりというシチュエーションはずいぶんと久しぶりな気がする。話でもしてろとは言うものの、初対面の娘相手にいきなり何を話せと…とりあえず、お茶に手をつけて考えてみる。

 

 

 

「ねえねえ、あなたってトキワシティ出身なのよね?」

 

「ん?んー…まあ、一応はそうなる…のかなぁ?」

 

「え、何で疑問形なの?」

 

 

 

なんてことを思っていたら、向こうからズバッと切り込んできた。純粋な子供って相手がどんな立場の人間だろうと平然と話が出来るからすごいと思うわ。サカキさんに群がるトレーナーズスクールの連中とか思い返すと本当に。

 

 

 

「そもそも、僕は実際の出身地はトキワじゃないからね」

 

「そうなんだ…引っ越してきたってこと?」

 

「んー…まあ半分正解ってところかな。僕自身も説明しづらいところがあるから何とも言えないんだけど…」

 

「何それ、気になるわ」

 

「元々はずっと…そう、ずっと西の方の生まれなんだ。それで色々あって1人でトキワに来て、サカキさん…トキワシティジムリーダーのお世話になってたんだ」

 

「そうなんだ…留学みたいな感じかしら?」

 

「あー…言われてみればそれが一番近いかも」

 

 

 

切っ掛けさえ掴めればあとはどうとでもなるもので、どうして旅に出たのか、トレーナーズスクールでの生活、将来の夢etc…オーキド博士が戻ってくるまでの間だったが、話は弾んで色々と聞くことが出来た。ナナミさんは現在トレーナーズスクール中等部の2年生。つまり俺の1つ上。成績の方も優秀で、バトルよりも育成の方に興味があるらしい。まだ迷ってはいるようだが、中等部を卒業したら高等部へは進まず旅に出ることを考えているとのこと。

 

ゲームではポケモンコンテストで優勝したという記述があったと記憶していたので、ホウエン地方やシンオウ地方などにはポケモンコンテストっていうものがあるらしいよーって教えてみたらすっごい食い付かれた。この頃からすでにその下地は出来ていたってことだろうか。

 

 

 

…あれ、でもこれって俺がコンテスト道に引きずり込んじゃったってことになるの?

 

 

 

「待たせたの。昼ご飯にするとしようか、ナナミ、マサヒデ君」

 

 

 

そうこうしているうちにオーキド博士がカートに3人分の食事を乗せて帰還。そのまま3人で昼ご飯を御馳走になった。研究員たちの賄飯ということだったが、普通に美味しかった。

 

 

 

…で、昼ご飯を食べ終わり一息ついたころ、徐にオーキド博士が切り出した。

 

 

 

「マサヒデ君、このあと時間はあるかの?」

 

「え?ああ、はい。大丈夫です」

 

「サカキ殿からの情報じゃとキミのポケモンも新しく見つかった技を使えるそうじゃな。良ければ実際に見せてはくれんか」

 

 

どうも、俺のやらかしの歴史を実際に見たいという。もう過ぎた事だし、直に世間に発表されることでもあるから別に構わないんだけどネ。

 

 

「いいですけど、どこでされますか?」

 

「ここの裏手には簡単なバトルフィールドがある。そこでお願いさせてもらおうかの」

 

「わかりました」

 

 

 

ここで、唐突にナナミさんが口を挟んだ。

 

 

 

「あ、じゃあさ、ついでに私とバトルしましょうよ」

 

「え?」

 

「おお、それは良い案じゃ。そちらの方がより実践的な使い方を見れるしの」

 

「それに、私自身あなたと戦ってみたいわ。トキワトレーナーズスクール首席の実力、見てみたいもの」

 

「…ということじゃが、どうかの?」

 

「…まあ、構いません。受けて立ちましょう」

 

 

 

…と、言うわけで、いきなり原作主人公のライバルの姉・ナナミさんとバトルすることになってしまった。と言うか、これが旅に出てから最初の対人戦になるのか。

 

ナナミさんがどの程度の実力なのかわからないけど、今後を占うには丁度いい一戦だ。幸先良い滑り出しにしたいから、頑張るとしましょうか!

 

 

 

 

 




 
作者の仕事は平日も祝日も関係ないので、GWだろうが改元しようが平常運転です()。と言うわけで、令和最初の投稿は旅立ち~マサラタウン編。サカキ様のお使いも兼ねてカントー逆回りの旅が始まりました。そしてサカキ様に続いてオーキド博士とナナミさんが原作キャラから登場。マサラ編が思ったより長くなったので2回に分けることに。


そういうことで、次回はマサラタウン後編、VSナナミさんです。勝負の行方は?そしてオーキド博士からのプレゼントも。次回へと続く。



最後に今回正式に加入したサンドの紹介。



~手持ちポケモン~

サンド(NEW)

・レベル:19
・おや:マサヒデ
・性別:♂
・特性:すながくれ
・ワザ:マグニチュード
    まるくなる
    ころがる
    すなかけ

ようきな性格。
レベル10のとき、トキワシティで出会った。
打たれ強い。

 

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