成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第14話:博士の夢と実力と暴君

  

 

 

 

~オーキドポケモン研究所・裏庭~

 

 

「では、これよりマサヒデ君とナナミのポケモンバトルを始める。使用するポケモンはお互いに1匹じゃ」

 

 

オーキドポケモン研究所の裏手に造られたバトルフィールド。剥き出しの地面に長方形のラインが白線で引かれているだけの、本当に簡素な野外フィールドだ。所々白線が掠れてたり雑草が生えているのを見るに、手入れもそう頻繁にはなされていないと見える。そこで、俺とナナミさんが相対する。

 

周囲には審判のオーキド博士と、疎らながらも話を聞き付けたらしいギャラリーがチラホラ。そのほとんどは白衣を身に付けた研究所の職員の方なのだが、その中に混じってナナミさんの応援をする小さな存在が2つ。

 

 

「姉ちゃんがんばれ!」

「…がんばって」

 

 

うん、流石に服装違うけど、彼らの容貌には確かに見覚えがある。間違いない、原作主人公&ライバルだ。まだ小学校低学年ぐらいな印象を受ける2人が、始まる前から懸命にナナミさんを応援している。元気に声を張り上げている方がライバル、物静かそうなのが主人公。

 

 

「弟さんたちですか?」

「ええ、弟のグリーンと、そのお友達のレッド君」

 

 

名前も判明。ゲームのデフォルトネームそのまま、主人公はレッド、ライバルはグリーンか。この2人がいずれ、カントー地方はおろかポケモン世界全土に名を轟かす最強のポケモントレーナーになるわけだ。おーす未来のチャンピオン!出会えて感動感激…といきたいところだったが、いざ会ってみると会えたことに対する興奮よりも、微笑ましいという感情の方が強いね。まあ、まだチビッ子だし仕方がない。

 

 

 

 さて、バトルの方に意識を戻そうか。『新しく発見されたという技を実際に見てみたい』とのオーキド博士からの注文により、こちらが使用するポケモンはスピアーで確定している。

 

ナナミさんの手持ちが何なのかわからないが、『オーキド博士から良いポケモン貰ってまーす』みたいなことになると、こっちが大丈夫なのか心配になる。スピアーは最終進化系とは言え、種族値的にはかなり見劣りするのが序盤むしタイプポケモンの宿命のようなもの。と言うか、考えてみたら可能性としては十分高いような気がしてきたぞ。リザードンとか出て来たらマジでキツい。もし万が一レアコイルなんか出された日には1秒でお手上げだ。

 

 

「スピアー、頼んだ」

「スピィィッ!」

 

 

が、ポケモンバトルなんて元々はそんなものだし、それを上手くカバーするのがトレーナーの腕の見せ所。そんな仮定に仮定を重ねて後ろ向きになる必要があるはずもない。モンスターボールを宙に放り投げ、スピアーがフィールドへ飛び出していく。昨日はバトルをする機会がなかったからか、かなり張り切っているように見える。やる気十分だな。

 

 

「ピッピ、お願いね」

「ぴっ!」

 

 

対するナナミさんが繰り出したポケモンはピッピ。元々はノーマル単タイプだったが、フェアリータイプの追加と共に、フェアリー単タイプにタイプ変更された。しかしやはりというべきか、こちらの世界では今はまだノーマルタイプに区分されている模様。攻撃技で直接受けたもの以外のダメージをカットしてしまう特性"マジックガード"が強力で、もう一つの特性"メロメロボディ"も状況次第では厄介だ。また、見た目が愛らしいことから女性への人気が高いポケモンでもある。

 

まずレアコイルとかじゃなかったのは一安心だが、確かコイツ、カントー地方では【オツキミ山】にしか生息してない結構珍しいポケモンだった。トレーナーズスクールのポケモンもニドランとかマンキーとか、比較的入手しやすいポケモンが多かったように思うし、それを持っているということは…オーキド博士のサポートがあったんだろうなー…なんて邪推してみたり。

 

だからと言って、バトルにはそんなこと関係ない。鍛え上げられたポケモン、確かなトレーナーの知識、一瞬の判断力・決断力、そして最後に少しの運…それが、ポケモンバトルにおける勝つために必要な要素。サカキさん、もとい、あの鬼畜ジムリーダーから受けた地獄の特訓で、それを嫌と言うほど叩き込まれてきた。言われてあまり嬉しくはないが、伊達や酔狂で『トキワジムリーダーの秘蔵っ子』などと呼ばれているわけじゃない。

 

 

 

…さあ、トキワトレーナーズスクール初等部最強なんて言われてたりもした奴の実力を見せてやる。

 

 

「バトル開始!」

 

 

オーキド博士の合図で、バトルの幕が上がる。それと同時に俺とスピアーも動き出す。

 

 

「スピアー、ダブルニードル!」

「スピィ!」

 

 

スピアーの両方の針から、ピッピ目掛けて攻撃が撃ち出される。タイプ一致の非接触技、むしタイプの技でありながら持っている毒の追加効果、じめんタイプメインのサカキさん相手になると思いの外使い勝手が良く、長らくメインウェポンとして攻撃に牽制にと多用してきた。今回もピッピのレベルや特性がわからないし、まずは様子見に一発だ。それに、メインディッシュは最後まで取っておかないとな。

 

さて、先手は取ったがどう出てくる?お手並み拝見といこう。

 

 

「速い!?ピッピ躱して!」

「ぴ、ぴッ!?」

「ピッピ!」

 

 

攻撃に対するナナミさんの指示は回避。しかし、これを躱しきれず計4発の内2発が直撃。1発も掠った。衝撃でピッピが大きく仰け反り、そのままぐるんと後方一回転。

 

 

「ピッピ、大丈夫!?」

「ぴ、ピッ!」

 

 

フェアリータイプにむしタイプの技は効果今一つ。大したダメージにはならない…はずなのだが、歪んで見えるピッピの表情から察するに、思った以上にダメージが通っているように見える。どくの状態異常になった時ともまた違う感じだし…

 

 

「反撃するよ!」

「ぴっぴ!」

 

 

おっと、脇見している場合じゃなかった。態勢を立て直したナナミさんとピッピが反撃に出るようだ。俺もすぐに指示を出せるよう、その一挙手一投足に集中する。と言うか、その前に動く!このまま主導権を握らせてもらうぞ。

 

 

「スピアー、距離を詰めろ!思い通りにさせるな!」

「スピ!」

「ふふ、とっておきを見せてあげる!ピッピ、"サイコキネシス"」

「うっそぉ!?」

 

 

ナナミさんが反撃として選択した技はサイコキネシス。エスパータイプのポケモンならまず持っていると思った方が良い、安定して高い威力持つエスパータイプのメジャーな攻撃技だ。おそらくノーマルタイプが苦手とするかくとうタイプ対策に覚えさせたんだろう。で、そのついででどくタイプのスピアーも効果抜群を取られる、と。

 

って言うか、ピッピがレベルで覚える技じゃないし技マシン使ってるな!?中等部なのにもう使うこと認められてんのかよ!?いや、別に技マシン自体に年齢制限なんかないんだけども、高威力技の技マシンはかなり値が張るはずだろ。最初の内はせめて威力60ぐらいまでの技で止めておけよ。それもオーキド博士からのプレゼントか!?ずるい(結論)!

 

俺なんてお小遣い無くていつもニコニコ現物支給だったんだぞ!こっちに来てから技マシンなんぞ手に入れたこともない!技マシンに頼る奴など軟弱者の証だ!

 

 

 

だからもっと活動資金欲しいです、サカキさん。俺、この仕事が無事終わったらサカキさんにお小遣い増額を要求するんだ。

 

…うん、サカキさん見てても思うけど、やっぱり金の力って偉大だわ。Money is power。人生お金が全てじゃないけど、お金で解決出来る事が多いのもまた事実なんだよなぁ。

 

 

「ピィー!」

 

 

なんてことをやってる間に、ピッピのサイコキネシスが放たれる。空間が歪み、周囲のじめんが抉れて持ち上がる。それが一緒になってスピアー目掛けて飛んでくる。流石に弱点を突かれるのは痛い。

 

 

「ちっ、スピアー左に回り込んで回避!」

「スッピィッ…!」

 

 

すぐに回避を指示するが突っ込んでいたため躱し切れず、まともに貰ってしまったスピアーが吹き飛ばされる。サイコパワー?的な攻撃にやられたり、一緒に飛んでくる土塊をぶつけられたりしながら、開始位置ぐらいまで押し返されたところでようやく態勢を立て直す。

 

 

「スピアー!?」

「ス、スピ!」

 

 

慌てて確認も兼ねて声を掛けたが…思ったよりも効いてない?流石に弱点突かれてるんだから、もうちょっとダメージ受けててもよさそうなものだが…

 

 

「ピッピ、もう一回サイコキネシス!」

「二度もくらうか!ダブルニードル!」

 

 

追撃の構えを取るピッピと、それをさせまいとするスピアー。

 

 

「スピィー!」

「ピ、ピッ!?」

 

 

機先を制したのはスピアーで、サイコキネシスを撃とうとしていたピッピにダブルニードルが突き刺さる。すでに攻撃の態勢に入っていたため避けられなかったようで、今度はきれいに全弾がヒットする。

 

 

「ピッピ!」

 

 

弾き飛ばされ宙を舞うピッピと、心配そうに声を上げるナナミさん。まだ立ち上がるが、ずいぶんと消耗している感じがする。やはり、効果今一つであるにも関わらずかなりのダメージを受けているようだ。

 

 

 

そこで、俺は一つの可能性に思い至った。と言うか、確信した。これ、たぶんレベルに相当差があるわ。

 

と言うのも、今回のメインである新技"どくづき"をスピアーが覚えるレベルは確か30代ぐらいだったはずだから、スピアーのレベルは最低でもそれぐらいまでは達しているということになる。

 

では、対するナナミさんのピッピはどうか?俺のサンドが今レベル20ぐらい。これが初等部の中ではトップクラスのレベルだったという点を考慮して、そこから予測すると、トレーナーズスクール中等部に所属する子供がスピアーと同等まで育ったポケモンを持っているとは中々考えづらい。ナナミさんのピッピとは違い、俺とサンドはスクールの授業内でしか関わることのなかったという点を考慮に入れても…だ。

 

つまり、俺のスピアーとナナミさんのピッピにはかなりレベルに差がある…と考えられる。数字にして最低でも10程度。そうじゃなきゃ、ダブルニードルとサイコキネシスのダメージの入り方に説明がつかない。

 

 

 

頃合いを見て『どくづき』をお披露目しようと思っていたけど、こうなってくると悠長に構えていたら見せる前にピッピが戦闘不能になってしまいかねない。予定変更、素早く状況を整えよう。

 

 

「スピアー、撃ちまくれ!"ミサイルばり"だ!」

 

 

まず指示を出したのはミサイルばり。2~5回連続で攻撃を行うむしタイプの攻撃技だ。コイツをピッピを中心にばら撒くように乱射させる。目的はピッピの足止め。そしてサイコキネシスを撃たせないこと。

 

 

「ピッピ避けt…いや、迎え撃って!みずでっぽう!」

 

 

横に広がるように迫るミサイルばりに対して避け切れないと判断したか、こちらの思惑通りに足を止め、直撃コースに乗っているミサイルばりを叩き落としにかかるピッピ。と言うか、みずでっぽうまで持ってんのかよ…技マシンウラヤマシイ…

 

 

…無いもの強請りしている暇があったら戦えと、頭の中のサカキさんが悪い笑顔で言ってる気がする。

 

 

「ええい、スピアー!撃ちながらそのまま前に出るんだ!」

 

 

頭の中で笑う鬼畜と邪念を振り払い、即座にミサイルばりを撃ちながらの前進を指示。スピアーが空を舞いながら攻撃を放ち、立体的な機動で彼我の距離を縮めていく。ピッピはミサイルばりを撃ち落とすことに精一杯で、スピアーへの対応が出来ていない。攻撃に押されてジリジリと後退してはいるものの、スピアーが近づく方が早い。

 

 

「ここだスピアー、一気に懐まで突っ込め!」

 

 

そうして向こうがもたついている間に十分距離を詰めたスピアーに、一気に至近距離まで飛び込ませる。サイコキネシスさえ撃たせなければこっちのもの。さあ、満を持してのお披露目だ!

 

 

「ピッピ、サイコk…」

「遅い!決めろスピアー!」

 

 

ピッピが構えるよりもはるかに早く、スピアーの右の針が澱んだ紫色を纏い、大きく振りかざされる。

 

 

「どくづきッ!」

「スピャァアーッ!!」

 

 

そして、次の瞬間にはその紫色の一撃が無防備なピッピに叩き込まれた。ピッピはそのまま後ろに弾き飛ばされ、2度3度とバウンドして唖然とするナナミさんの手前で停止。そのまま起き上がることはなかった。

 

 

「うむ、そこまで!ピッピ戦闘不能!よって勝者、マサヒデ君!」

 

 

審判であるオーキド博士の宣言と同時に、周囲のギャラリーから歓声が上がる。が、すぐに何人かで話し込んでしまう辺り、どちらかと言えばどくづきを披露したことによる影響が大きかったのかもしれない。対戦相手のナナミさんは心配そうにピッピを抱え上げており、例の2人もナナミさんに駆け寄っている。

 

…ここは、俺も一言声を掛けておいた方が良いのかな?

 

戻って来たスピアーを労いながらそう考え、3人の方へと歩き出した。

 

 

 

こうして、俺のポケモントレーナーとしての最初の戦いはほぼほぼ圧勝と言える形で幕を下ろした。まあ、幸先のいいスタートにはなった…と思いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「無理を言ってすまんかったのうマサヒデ君。いや、見事なもんじゃった」

 

 

 バトルが終わり、ひと段落着いたところで、俺は再びオーキド博士の研究室に通されていた。他にはナナミさん、レッド、グリーンの3人。机の上にはクッキーやらチョコレートやらのお菓子たち。早い話が5人でティータイムを楽しんでいた。

 

 

「サカキ殿の秘蔵っ子と呼ばれるだけのことはある。スピアーもよく育てられておったし、旅に出たばかりのトレーナーとは思えんぐらいじゃ」

「…恐縮です」

「ホントね。悔しいけど、私のピッピがほとんど何もさせてもらえなかった…」

 

 

さっきのバトルについて、オーキド博士からは手放しで称賛の言葉をいただき、軽く会釈してそれに応じる。ナナミさんからは若干恨みがましい視線を向けられ、言葉にも若干棘があった気がするが、それもポケモンバトルの倣いである。相手に失礼だと思うから手加減はせず(どくづきを打つため)に全力で戦った。だから、出来ればそういう目を向けないでいただきたいです。

 

…あ、ピッピがやられて涙目のナナミさんが若干可愛かったです。これは旅の思い出として心のアルバムの中にそっと閉まっておこう。

 

なお、そんなナナミさんを見て「姉ちゃんをいじめるな!」と非難の声を上げていた主人公&ライバル改め、レッド君とグリーン君だったが、今ではすっかりお菓子に夢中となっている。未来のチャンピオンとジムリーダーも、今はまだまだお子様ですなぁ。

 

 

 

「ところで、技の方はあんな感じで良かったでしょうか?」

「うむ、やはりデータとして見るのと実際の技を見るのとでは得られるものにも大きな隔たりがある。映像も撮らせたし、良いモノを見せてもらったわい」

 

 

満足気に笑うオーキド博士。と言うか、さっきのバトル録画してたんかい。映像が残るとなると、何か醜態晒してなかったか心配だ。

 

 

「ところでマサヒデ君。君はこの後どうする予定なのじゃ?」

「サカキさんからもう一件頼まれ事をしていまして、明後日のフェリーでグレンタウンに渡る予定です」

「明後日…ふむ…」

 

 

俺の予定を聞いて、何事かを考え込むオーキド博士。予定と言えば、明日が完全にフリーになってしまったなぁ…元の予定通りとは言え、何やって時間を潰そうか。お菓子と一緒に出された紅茶に口をつけ、美味しそうにお菓子を頬張る3人をながら考える。

 

マサラタウンをブラブラと歩き回ってみようか、それともトレーナー探してストリートバトルでも挑んでやろうか…

 

 

「…よし!」

 

 

そうしている内に考えがまとまったオーキド博士が顔を上げた。

 

 

「マサヒデ君、明日時間があるかの?」

「明日ですか?ええ、特に予定はありませんが…」

「なら、明日の今ぐらいの時間にまたここへ来てくれんか?ワシからも1つ頼み事をさせてもらいたいんじゃ」

「頼み事?」

「うむ。この世界に存在する全てのポケモンを集め、研究し、その生態を完全に解き明かす。それが予てからのワシの夢なんじゃよ。しかし研究に追われる内に、気付けばそれも難しい歳になってしまった」

 

 

サカキさんからも頼み事されてるのに…と思ったが、この流れはもしや…?これはやっぱりあれなのか?あれを貰える流れなのか!?

 

 

「そこで、君にある物を託したいと思う。その名も『ポケモン図鑑』。まだ試作の段階じゃが、捕獲したポケモンのデータを自動的に記録していくハイテクなアイテムなのじゃ。他にも手持ちポケモンの状態を確認したり、図鑑を持っている者同士なら図鑑を介してポケモン交換も出来たりするんじゃが、肝心なポケモンのデータがまだまだ不十分での。君には多くのポケモンを捕まえて、この図鑑の完成を手伝ってもらいたい。無論、旅のついでで構わんよ」

 

 

やっぱりポケモン図鑑キター!さらに状態確認や交換まで出来るだと?そんな便利なモノを貰えるというならば受けないワケにはいくまい!

 

 

「…分かりました。僕に出来ることでしたら喜んで力になりましょう」

「おお、そうか、受けてくれるか。ありがとうマサヒデ君。では、少し調整が必要じゃから明日来てくれた時に図鑑を渡そう」

 

 

かくして、俺の明日の予定は半分が埋まった。

 

 

「…おっと、もうこんな時間じゃったか。では、ワシはこれで戻らせてもらうよ。残りのお菓子は全部食べてしまっても構わんからの。マサヒデ君もゆっくりしていきなさい」

 

 

そう言ってオーキド博士が仕事のために退席。子供4人が研究室に残される。研究室占拠しちゃってるけど大丈夫なの?そんなことを思っていると、ナナミさんが話し掛けてきた。

 

 

「それにしても、マサヒデ君のスピアーホント強かった。手も足も出なかった。同級生の子たちにはあそこまで完封されたことなんてなかったのに…」

「ああ、まあ、スピアーはサカキさん…トキワジムリーダーの特訓を集中的に受けた奴だからねぇ。同年代の子のポケモンよりもずっと育ってるって自信はあるよ。それよりもサイコキネシスはずるいと思う」

「勝ったのにずるいなんて言わないでよ。私なりに考えて覚えさせたんだから。それにしても、やっぱりジムリーダーの特訓ってそんなにすごいんだ」

「ああ、凄いよ…スピアー共々何度体力的にも精神的にも叩き潰されたことか…ヤッパアノオッサンキチクダワ…」

「マ、マサヒデ君?お~い…」

「…ハッ」

 

 

おっと、いかんいかん。サカキさんに課せられた鬼畜トレーンングの数々を思い出して、人前にも関わらずついネガティブな思考に沈んでしまっていた。あの人のトレーニング、確かに強くはなるんだけど必要以上にスパルタなんだよなぁ…子供相手なんだから、もうちょっと手心加えてくれても良かったと思うの。

 

しかしナナミさん、さっきまでよりもずいぶんと刺々しさは抜けた様子。やっぱり女の子は笑顔の方が似合うネ。

 

 

「…ねぇ、お兄さん」

「ん?」

 

 

おおっと、ここでまさかのレッド君が会話に参戦だ。シロガネ山のこともあってレッド=無口っていうイメージだったんだけど、まあ現実は普通に喋りますわな。あくまで無口な感じの男の子だ。一方のグリーンの方は、この頃からすでにだいぶおしゃべりというかビッグマウスというか…お調子者と言った感じだ。実に対照的な2人だと思う。

 

 

「…どうやったらさ、強くなれる?お兄さんのスピアーみたいに強いポケモンを育てられる?」

 

 

どうしたら強くなれるか…ねぇ。育成の方向性決めて、性格個体値を厳選して、しっかり努力値振って、あとは対戦数こなすだけ…っていうのは冗談として、難しい質問だ。だって俺もそれを求めて旅を始めたばっかりなわけだし、別に廃人ってワケでもないし。かと言って適当なことを言うのも…う~ん。

 

 

 

「…そうだな、それは俺も知りたいことだなぁ。だからこうやって旅に出ているワケだし。でも、一つ言えることがあるとすれば、それは『ポケモンと苦楽を共にする』ってことかな?」

「…くらく?ともに?」

「楽しいことは一緒に楽しみ、苦しいことは一緒に乗り越える。簡単に言えば、どんな時でもポケモンと一緒にいるってことだ。一緒にいる時間が長ければ、それだけ多くのことを経験したってことになる。長ければいいってものでもないけど、経験はポケモンにもトレーナーにも大きな力になる。これは間違いないよ」

 

 

本当、あの地獄の日々を経験したおかげで、今じゃちょっとやそっとの事では尻込みするようなことはなくなりましたよ、ええ。経験し、乗り越えることはホント成長に繋がる大事なことだよ。だからアリガトウサカキサン、イツカオレイマイリニイキマスネ…ククク…

 

 

 

…おっと、また他人の面前で負の暗黒面に沈むところだった。危ない危ない。

 

 

「確かにお兄さん強かったもんな!でも、オーキドの爺ちゃんからポケモン図鑑貰えるなんてずるいぜ」

 

 

レッド君に続いてグリーン君も会話に入ってきた。安心しなさいグリーン君、君も将来的にはちゃんと貰えるはずだから。で、個人的にはオーキド博士って見込みのある色んな人にポケモン図鑑渡してるって印象があるんだけど、違うのかな?

 

 

「僕だけじゃなくて、他にも渡されてる人いるんじゃないの?」

「少なくとも、私はお爺ちゃんが誰かに渡しているところは見たことないわよ?」

「同じーく!」

 

 

…ワーオ、もしかして俺がポケモン図鑑所持者第一号だったりしちゃうんですか?責任重大だったりしますか?それなら、後に続く人たちのためにも頑張らないといけないな。目指せ、図鑑登録800匹!…はどう考えても無理だから、せめて100匹ぐらいは埋めたいところ。

 

そう言えば、俺ってまだまともにポケモンゲットしたことなかったな。サンドは貰い者だし、スピアーは何か着いて来ただけだし…明日辺り、チャレンジしてみるのもいいかもしれない。

 

 

 

その後、4人でお菓子を食べ尽くして雑談してから解散となり、俺は宿を取るためにポケモンセンターへ向かった。ゲームとは違ってここにもセンターがあるのはホント助かる。バトルでダメージを受けたスピアーを預けて回復させたところで今日は日没、活動終了となった。今日はオーキド博士に会えて、主人公&ライバルに会えて、ナナミさんとの勝負に勝てて、ポケモン図鑑まで貰えることになって…と、良い1日だった。明日も良い日であるようにと願いつつ、夢の世界へ旅立った。

 

 

 

 

 

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~翌日・オーキドポケモン研究所~

 

 

 日付を跨いで約束の時間、違えることなく俺はオーキドポケモン研究所にいた。午前中は軽く街中を散策した後、ポケモンゲットだぜ!をしてみるべく郊外の野原へと足を運んでみたのだが、見事に空振りで終わった。だって全くポケモン出てこないんだからどうしようもない。同じくポケモンを探しに来ていたらしい同い年ぐらいの少年にバトルを挑まれたので、腹いせにサンドでコテンパンにしてスッキリしたけど。

 

…とりあえず、八つ当たりしてしまってゴメンよ、名も知らぬ少年とコラッタ。

 

 

 

「やあ、待たせてしまったなマサヒデ君」

「いえ、大丈夫です。予定もありませんから」

 

 

博士の研究室に通されソファに腰かけてのんびり待つこと3分程度。白衣姿のオーキド博士が部屋に入って…いや、帰ってきた。その右手には、赤い長方形の物体が携えられている。

 

 

「これが、昨日言っておったポケモン図鑑じゃ」

「おぉ…!」

「図鑑を開くと、下の方に認証装置がある。そこにポケモンが入ったモンスターボールを乗せると、自動的にデータを認証・解析・登録してくれる。その状態でモンスターボールの中のポケモンのレベルや性別、覚えておる技などのステータスも確認も出来る優れものだ。それに、ボールの転送機能もついておるから、持ちきれなくなったポケモンは、それを使って送ってくれればこちらで預かろう」

 

 

ポケモン図鑑をオーキド博士から受け取り、操作・機能の説明を受ける。試しにスピアーの入ったモンスターボールを図鑑の認証装置の上に置いてみる。

 

 

『解析、認証ヲ開始シマス……解析中……認証中……解析・認証ガ終了シマシタ。

図鑑ナンバー015 スピアー どくばちポケモン 集団で現れることもあり 猛スピードで飛び回り 両手とお尻の毒針で相手を刺しまくる』

 

 

おお…なるほど、これがポケモン図鑑。ちゃちな玩具なんかじゃない、本物のポケモン図鑑だ。素晴らしい。こうして実際に手に入れたとなると感動するね。で、俺が頑張ってポケモンゲットだぜ!するだけ中身が充実していくってワケだ。

 

よし、お次はスピアーのステータス確認といこう。オーキド博士の説明に従って操作していく。

 

 

 

《 スピアー Lv37 ♂ 》

《技1:???? 》

《技2:ミサイルばり   》

《技3:ダブルニードル  》

《技4:きあいだめ    》

《持ち物:なし 》

《Lv13の時 トキワシティ》

《で 出会った。     》

 

 

 

なるほどなるほど…スピアーさん、もうそんなに育ってたんかい。普通にゲーム中盤ぐらいのレベルじゃねーか。そりゃピッピのサイコキネシス平然と耐えて返り討ちに出来ますわ。それどころか、あのどくづきが余裕のオーバーキルだった可能性すらあるぞこれ。

 

しかし、出会ったのがレベル13の時?トキワシティ?これはどうなって……ああ、そういうことか。これ、スピアーをモンスターボールに入れた時の状況だ。モンスターボールに入れた時点での情報を記録してるのか。

 

それと、性格だの特性だのはまだ判明してないから記録されない、どくづきもまだデータに無いから謎の技扱いってワケか。更に攻撃とか素早さとかの能力値もわからない…と。

 

 

 

…う~ん。何と言うか、微妙に思っていたよりも不便だな。まだ試作段階って言ってたし、まさしく開発途上と言った感じだ。今後の改良・発展に期待したいところ。

 

まあ、一々専用の設備を使わなきゃ出来なかったことがこれ1台で出来るようになるのだから、全体としては便利なのは間違いない。

 

 

 

「マサヒデ君、君には一匹でも多くのポケモンを捕まえてもらいたい。捕まえた分だけ、このポケモン図鑑も完成に近付いてゆく。これを完成させることは、ポケモンの歴史に残る偉大な仕事じゃ」

「…!はい、力を尽くします」

「うむ、頼んだぞ」

 

 

ああ、うん。いいねこれ。まさしくゲームの主人公になったような気分だ。頑張ろうっていう気になれる。今日この後にでも早速ポケモンゲットだぜ!に再挑戦も悪くねぇ。

 

 

「…そして、マサヒデ君。君のトレーナーとしての腕前を見込んで、コイツも託したい」

 

 

そう言ってオーキド博士が白衣の下から取り出したのは…モンスターボール?

 

 

「博士、それは?」

「野生ポケモンの保護をしておる団体から預けられたポケモンなんじゃが、ちとワケありでな…まあ、出してみた方が話は早いじゃろう」

 

 

疑問を覚えながら、モンスターボールをポイッと放る。出て来たのは、くすんだ緑色の身体とてっぺんに一本の角を持つ可愛らしいポケモン。

 

 

「ヨー…!?」

 

 

そのポケモンの名はヨーギラス。いわはだポケモン。タイプはいわ・じめん。最終進化系は、所謂『600族』と呼ばれる高い合計種族値を持つポケモンの一体であるバンギラス。第二世代が初登場で、ジョウト地方のシロガネ山にしか生息していない。

 

…いや、まさかのヨーギラス。カントー地方だから第一世代のポケモンだけしか見ることはないだろうと高を括っていたんだが、まあお隣の地方のポケモンだし、こっちで見ることがあってもおかしくはない…か?

 

 

「ヨーギィッ!!」

「は?うわっ!?」

 

 

と思ってたら、コイツいきなり突っ込んできた!?咄嗟に躱せたけど、危ないなおい!

 

 

「ギィッ!ギィー…ッ!!」

「ぐ…っ!サンド、ソイツをしばらく抑えといてくれ!」

「キュイッ!」

「ギィッ!?ヨ、ヨー!」

 

 

さらに追撃の構えのヨーギラスに対して、サンドを呼び出して抑え込ませる。こうして見てる分には可愛らしいポケモンがじゃれ合ってるようにしか見えんのだが…しかし、いきなり何だコイツは。

 

 

「あー…やはりこうなってしまうか」

「博士、何なんですコイツは?」

「こやつはヨーギラスというポケモンじゃ。ナナシマ…カントーから海を渡って南の方にある島で、怪我をして倒れていたところを保護されたんじゃが、如何せんこの通りの気性でな。暴れるせいで向こうの施設ではまともに治療することも出来ず、ここに預けられたのじゃよ」

「それでも、出していきなり攻撃されるとは思いませんでしたよ」

「先に説明しておくべきじゃったな。すまなかった」

 

 

ホント、先に説明が欲しかったです。しかしこのヨーギラス、シロガネ山じゃなくてナナシマの個体か。たしか【しっぽう渓谷】だったかな?まあ、確かにこの暴れっぷりじゃ何か処置をするのはおろか、普段の世話すらも難しそうだ。

 

そうしている内に、レベルの差か鍛え方の差か、サンドがヨーギラスを完全に抑え込んだ。よーし、よくやったサンド。ヨーギラスはジタバタ暴れているが、サンドが上に乗っかって「ふんすっ!」って感じでドヤ顔してる。可愛い。よし、今日の夕飯は気持ち豪勢にしよう。

 

 

「…で、治療は何とか出来たんじゃが、相変わらずのご覧の有り様じゃ。ワシも研究があるので付きっ切りというワケにもいかず、持て余しておってな。腕の立つトレーナーならば、この状態も改善するのではないかと思ったのじゃよ」

「だから僕に押し付ける…と?」

「いや、そういうワケではないんじゃが…まあ、無理を言っとるのは承知しておる。が、このヨーギラスというポケモンはナナシマでもかなり個体数が少ない珍しいポケモンのようでの、身元がしっかりしとらんトレーナーにおいそれと預けるわけにもいかんのだ」

 

 

俺、この世の大半の人より身元がはっきりしてない人間なんですが…というボヤキは抜きにして、さてどうしたものか。

 

単純に戦力として見るなら、最終進化系のバンギラスはとても魅力だ。強くてカッコいい、実力も見た目も男のロマンをくすぐるような素晴らしいポケモン。あくタイプ故にスピアーが消し炭にされかねないエスパータイプを踏み潰せ、特性"すなおこし"も強力。サンドとの相性も完璧な点もgoodだ。

 

しかし、そこに至るまでの道のりは長い。まず進化するレベルが55。これはレベルで進化するポケモンとしては、全体で見てもサザンドラ・ウルガモスに次いで3位タイの遅さだ。さらにバンギラスになるまではサンドとのタイプ被りもある。そして極めつけにこの気性…俺にどうにか出来るんだろうか。

 

 

「マサヒデ君、こちらからもサポートはするから頼まれてはくれぬか。無論、手に負えないようならここに送り返してくれればいい」

 

 

…まあ、これも経験と思えばいいか。この先、色んなポケモンとも出会うだろうし、扱い辛いポケモンも一杯いるはずだ。その経験を今積ませてもらえる機会を貰えたと考えれば悪くない。

 

 

「…わかりました。ヨーギラス、頂戴します」

「…そうか、すまんのう。これがこの研究所の番号じゃ、何かあったら遠慮なく伝えてくれ。では、図鑑の件もよろしく頼むぞ」

「はい。サンド、御苦労!」

「キュイ!」

「ギィー…」

 

 

オーキド博士から連絡先の書かれたメモを受け取り、相変わらずドヤ顔のサンドと完全に戦意喪失したヨーギラスをボールに戻す。その後、オーキド博士の見送りを受けて研究所を後にした。帰り際に餞別として、空のモンスターボールやきずぐすり等を貰った。

 

図鑑の受領とヨーギラスのことだけであまり時間がかからなかったので、太陽の位置はまだまだ高い。色々とやれることはあるのだろうが、日が暮れるまで何をして過ごそうか。ナナミさんたちは今日は普通にスクールに通っているという話だったし…やはり、ここはスピアーとサンドも交えてヨーギラスとスキンシップ取ってみるか。

 

大きな課題を抱えながらも軽い足取りで道を行く、2日目のマサラタウンの午後であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…スキンシップはどうなったかって?敢え無く失敗したので、サンドに取り押さえてもらってからスピアーと囲んでみんなでお話し()して終わりましたが何か?傍から見れば完全に虐待の構図だったような気がするけど、気にしない。

 

 

 

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