成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第17話:熱く潔い炎の男(2)

 

 

「ロコン、ヨーギラス、共に戦闘不能!」

 

「戻れ、ヨーギラス」

 

 

 

審判の判定を受けて、倒れ伏すヨーギラスをモンスターボールに戻す。カツラさんも同じようにロコンを戻し、熱気の残るフィールドに一時の静寂が訪れた。

 

激戦だった。近いレベルの相手とは言え、使える技が少なかったトレーナーズスクールの同年代とのバトルでは経験したことのないハイレベルな戦いだったと思う。

 

事実、勝負の命運を分けたのは持ち物…せんせいのつめが、あの場面で決定的な働きをしたことが大きい。あれがなければ間違いなく、戦闘不能になっていたのはヨーギラスだけだったはずだ。

 

まあ、それでもまさかここまでやれるとは正直思わなかったけど。良くて制御不能でせいぜい1体にある程度ダメージ与えて終わりぐらいに考えていたから、途中から指示に従い、ロコンと相討ち、挙げ句砂嵐まで残せるとは…2日前に出会ったばかりであの状態だったことを考えれば、ここまでやれたなら十分だろう。

 

 

 

ともかく、これで残りポケモンはお互いに1体だ。

 

さあ、ヨーギラスがここまで御膳立てして見せたんだ。カツラさんの2体目が何か気になるが、何が相手だろうと後はきっちり決めてこい!

 

 

「いけ、サンド!」

 

「キュイ!」

 

 

俺の2体目は予定通りにサンド。幾分か力を込めてモンスターボールからフィールドに送り出す。相変わらず気合はバッチリだ。

 

 

「君のトレーナーとしての実力…思っていた以上だ、少年!あのヨーギラスと言うポケモン、捕まえてから日が浅いな?それをあそこまで使いこなして見せるとは…本来ならば此奴を使うべきなのだが、もう少し君を試してみたくなった!」

 

 

そう言ってカツラさんは一度取り出したボールをしまい、また別のボールを握った。

 

 

「君はコイツを倒せるかな?ゆけ、ブーバー!」

 

「ブー!」

 

 

モンスターボールから繰り出されたカツラさんの2体目はブーバー。初代から登場するほのお単タイプのポケモンで、第二世代で進化前のブビィ、第四世代で進化先のブーバーンが追加で登場している。時期的にブビィはどうか分からないが、ブーバーンは当然まだ未発見のはず。カントー地方ではグレンタウン(のポケモンやしき)にしか生息していない。そういう観点では、実にグレンタウンのジムリーダーらしいポケモンと言える。

 

そして今の言葉から察するに、あのブーバーは本来もう少し実績が上の相手に使うポケモンなのだと思う。実際、ブーバーが纏っているプレッシャー、雰囲気はロコンよりもずっと大きく感じる。サカキさんに散々痛めつけられて身に着けた感覚だ、間違いない。多分、サンドと互角…いや、それより上。ルーキー相手に無体なことをしないでもらいたいんですが…ダメですか?そうですか。

 

それでも、ここまで来たならやるしかない。やるなら、今しかない。

 

 

 

 

 

砂嵐は、勝利への追い風は、まだ吹いている。

 

 

 

「バトル開始!」

 

「ブーバー、かえんほうしゃ!」

「サンド、まるくなる!」

 

「ブゥバァー!」

「キュイ!」

 

 

審判の合図と同時に、お互いが技の指示を飛ばす。こちらはいつも通りの『まるくなる』。この後への布石だ。対するブーバーは『かえんほうしゃ』。ほのおタイプの特殊攻撃技としては、高威力と安定した命中を兼ね備えた使いやすい技。ゲーム的な感覚から言わせてもらえば、少なくともストーリー序盤から新人相手に使っていい技じゃねえ。

 

砂嵐を切り裂いて炎が伸びる。勢いも力強さも砂嵐に負けてない。さっきのロコンのひのことは段違いだ。当たればダメージは無視出来ないだろうと思う。

 

 

 

「サンド、ころがる!」

 

「キュイッ!」

 

 

 

…当たれば、だけどな。

 

 

「何!?」

「ブー!?」

 

 

おーおー、主従揃って驚いてらっしゃる。何でそんなところから現れるのかって顔してらっしゃいますなぁ。こっちからしたら「どこ狙ってんの?」って煽りたいような的外れっぷりでしたが。

 

ブーバーが放ったかえんほうしゃは、サンドのいる場所をかなり外れて突き抜けた。彼らは砂嵐の中に何を見たのか。幻か、それとも…なるほど、これが特性『すながくれ』の効果か。まともに機能したのは初めてだけど、この間に『かげぶんしん』『つるぎのまい』辺りを積むことが出来れば面白そう。持ち物で『ひかりのこな』なんかを持たせてみても良いかもね。

 

そうしてかえんほうしゃを撃っている方向とは少しずれた位置から、猛スピードで砂嵐を切って転がりながら突撃するサンド。面食らうのも無理はないかな。

 

 

「くっ、避けてかえんほうしゃ!」

 

「ブゥッ!」

 

 

しかし、不意を突かれたあとのリカバリーは早い。カツラさんは即座に回避を指示して対応し、ブーバーも素早く反応した。サンドの直進線上から大きく横に動き、サンドの攻撃は空振りに終わる。

 

しかし、そう来るならこっちにも手はある。

 

 

「サンド!そのまますなかけ!」

 

「キュッ!」

 

「ブッ!?」

 

 

ブーバーの眼前を通り過ぎるその瞬間、ころがるを解除してゼロ距離のすなかけによる目潰しへ移行。かえんほうしゃの溜めの段階だったブーバーの出鼻を挫き、かえんほうしゃも不発に終わらせた。ころがるで距離を詰め、動けないならそのまま攻撃、対応してくるなら意表をついてすなかけ。サンドと出会った直後から使い続けているお決まりの戦法だ。

 

そもそも、特性『ほのおのからだ』を持ってる相手に馬鹿正直に接触技は使いたくない。相手が接触技を使った際、一定の確率でやけど状態にするという特性。それがほのおのからだという特性だ。やけど状態になれば毎ターンのスリップダメージと同時に物理攻撃能力が下がるため、物理攻撃がメインのサンドにとっては大きなデメリットになる。

 

そんなわけで、やけどなおしの準備はしてないけどやけど状態はNo thank you。一撃で持っていける技でもあるならともかく、今の段階なら当然の選択だろうよ。まあ、持っててもルール上使えないんだけどネ。

 

今攻撃するなら…断然こっちだ!

 

 

「サンド、マグニチュード!」

 

「キュゥ…イィィィィッ‼」

 

 

俺の苦い記憶を呼び起こす、じめんタイプの攻撃技『マグニチュード』。色々思うところはあるが、現状では貴重なサンドのタイプ一致の攻撃技だ。ほのおタイプ相手ならさらに効果抜群、使わない手はない。

 

ブーバーが目潰しで怯んでいる隙に少し距離を取り、そこで指示を受けたサンドが行う四股を踏むような動きと共に、地面がグラグラと揺れ始める。直に揺れは大きくなり、バランスを崩したブーバーが転倒して地面をゴロゴロ右へ左へ。これは結構いい威力を引いたかな。やはり天は俺の味方だ。

 

で、揺れが治まる頃にはかなり消耗したブーバーさんの姿が。流石に無防備な状態で一致抜群の技をくらってしまえば、レベルが上だろうとダメージは避けれまい。それでもまだ立ち上がれる辺り、よく鍛えられているとは思う。

 

だが、今が好機なことに変わりはない。畳みかける。

 

 

「サンド、もう一回だ!マグニチュード!」

 

「まずい!させるなブーバー、かえんほうしゃ!」

 

 

焦った様子でブーバーにかえんほうしゃを指示しているが、そっちが撃つよりこっちが早い!

 

 

「キュゥ、イィィィ!」

 

 

決めろ、サンドォォ!

 

 

 

『カタカタカタカタ…』

 

「………」

 

「……キュイ?」

 

 

…え?終わり?もしかして、ここでカスダメ引いた?うっそだろおい!?

 

技の威力が使う度に変動する…高威力で相手を吹き飛ばすこともあれば、今のように弱点を突いても碌にダメージを与えられないような低威力を引く場合もある。マグニチュードのロマン性の象徴であり、問題点だ。これだから運ゲーは…早く高威力で安定している『じしん』が欲しいところだが、贅沢は言ってられない。

 

更に間の悪いことに、この間にとうとう砂嵐が止んでしまう。視界、オールクリア。たぶん、向こうからもサンドの姿がハッキリと見えていることだろう。だからサンドさんや、そんなテヘペロみたいな反応してる場合じゃねーのよ。

 

 

「ブゥゥヴァァァ!」

 

「まっず…サンド、ころがるで回避!」

 

 

技を放ったばかりで棒立ち状態のサンドなぞ、向こうからしたらいい的だ。即座に回避を指示。

 

 

「キュィッ…!」

 

 

流石に態勢に無理があったか、完全に躱すまでには至らず、僅かながらもかえんほうしゃが掠ってしまう。それでも、あそこから直撃を回避しただけでも上出来だ。案外、すなかけが良い仕事したのかもしれない。

 

それにしても、移動にも攻撃にも防御にも使えるころがるの万能っぷりよ。ゲームじゃ旅の序盤で使う技ぐらいの認識だったけど、ここまで便利だと中々手放せませんな。

 

 

「ブーバー、手を休めるな!かえんほうしゃを撃ちながら距離を詰めろ!」

 

「ブゥヴァ!」

 

 

しかし、これで完全に攻守が逆転してしまった。確か、ブーバーって結構速いんだよな。ころがるで逃げ続けるサンドに向かって、要所要所でかえんほうしゃを撃ちながら猛然とダッシュで迫るブーバー。サンドはジグザグに軌道を変えながら、すなかけの効果も効いて上手く避けてはいるが、これは避けていると言うより進路を制限させられているような…嫌な感じだ。

 

 

「撃て、撃ちまくれ!かえんほうしゃだ!」

 

「ブゥバァー!」

 

 

幾度となく炎に進路を塞がれ、逃げ道を潰され、サンドとブーバーの距離が徐々に縮まる。次第にフィールドの壁際へと追いやられる。これは…接近戦も已む無しか。

 

 

…なら、タイミングを計って…

 

 

 

 

 

…今だ!

 

 

「突っ込めサンドォ!」

 

 

やけど状態への懸念はあるが、壁際に追い詰められて何の対応も出来ないような至近距離からかえんほうしゃをくらうより、距離の余裕があるうちにブーバーと正面からガチンコインファイトした方がまだ分がある。隙を見てマグニチュードが撃てればまだ勝機は十分だ。そうでなくとも、ころがるは元から効果抜群だし、転がり続けたことで威力もスピードも乗っている。レベル差があろうと、今ならこのまま正面からでもブチ抜ける!

 

そして、今にもブーバーに命中しようとしたその時。

 

 

 

「それを待っていた!ブーバー、『じごくぐるま』だ!」

 

「ブゥ…ヴァァアァッ!」

 

「キュッ!?」

 

 

サンドの攻撃はブーバーにがっちり受け止められ、ころがるの勢いそのままにブーバー諸共大回転。その後、ブン投げられて宙を舞い、後ろのフィールドに叩きつけられた。

 

『じごくぐるま』か…ゲームだとあまり見なくなった技ではあるけど、確か反動ダメージがあるかくとうタイプの攻撃技だったはず。あのブーバー、接近戦もお手の物か!

 

 

「続けてメガトンパンチ!」

 

「ブヴァッ!」

 

「サンドッ!?」

 

 

じごくぐるまから、流れるようにメガトンパンチが繰り出され、立ち直ろうとするサンドにブーバーの拳がクリーンヒット。再びサンドが宙を舞う。

 

まるくなるで物理防御が強化されているとは言え、このままでは…

 

 

「ここだ!ブーバー、かえんほうしゃぁ!」

 

「ヴァァァ!!」

 

 

そして間髪いれず、吹っ飛ばされたサンドにさらに追撃のかえんほうしゃが迫る。避け…いや、これは間に合わない!

 

だったら…こうするのがベターか!?

 

 

「サンド、まるくなる!」

 

 

サンドに指示を出した直後、かえんほうしゃがサンドを直撃。着弾点を中心に激しい爆炎が上がり、辺りが砂煙に包まれる。位置の関係で、俺の方からは砂煙を突き抜けてサンドが吹き飛ばされるのが見えた。

 

特殊技であるかえんほうしゃに対して、物理防御を上げるまるくなるは意味がないように思われるかもしれない。無論、そんなことは百も承知。俺の狙いは、この後…

 

 

「サンド、マグニチュード!」

 

「…!ブーバー、砂煙に撃ち込め!かえんほうしゃ!」

 

 

まだ砂煙も晴れない内から攻撃の指示。向こうから見るといい具合に砂煙が煙幕のような役割を果たしていて、サンドを狙って攻撃するのは難しいはずだ。

 

対するこちらは、点ではなく面での攻撃。それはつまり、ターゲットを補足する必要がないということ。砂煙のおかげでこちらからもブーバーが視認出来ないが、問題ない。無差別の範囲攻撃故に扱いづらい面があったマグニチュードだが、この時ばかりはそれが利点になった。そして、ここでまるくなるが活きてくる。球状になってれば吹っ飛ばされた時に距離を稼げるし、その後の素早い行動にも繋がると踏んだ。

 

結果はその想定通りに吹っ飛ばされ、転がって距離を取ることが出来た。砂煙で視界も奪われている。このチャンスを逃せば、たぶん次はない。

 

あとは、サンドが動けるかどうかにすべてが掛かっている。頼む、サンド!動いてくれ!決めてくれ!

 

 

 

 

 

「キュゥ…イイィィィィッ‼」

 

『…カタカカタガタガタガタガタグラグラグラ‼‼』

 

「ブゥッ!?」

 

「ぬおぉぉ!?」

 

 

ガタガタと音を立てて建物が軋む。フィールドに置かれている椅子等の備品が次々と倒れ、人も、ポケモンも立っていることすらままならないほどの大きな揺れが、フィールドを襲った。カツラさんも、審判も、そして俺も、地面に膝や手をついて揺れが過ぎ去ることを待つしか出来ない。

 

砂煙が晴れてもまだ揺れは治まらず、フィールドではブーバーが最初のマグニチュードを受けた時よりもより大きく、より激しく右へ左へ転がされている様子が辛うじて確認出来た。

 

 

 

 

 

そして揺れが完全に治まる頃、静寂が支配するフィールドにいたのは、床に這いつくばるトレーナー勢と倒れ伏すブーバー。そして、ハチマキが巻かれた尻尾をブンブンと振り回し、煤だらけになりながらも『ふんすっ!』とでも言わんばかりに仁王立ちするサンドだった。

 

慌てて状況を確認した審判の判定が、静寂を破った。

 

 

 

「ブ、ブーバー戦闘不能!よって勝者、チャレンジャー・トキワシティのマサヒデ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

-----

 

 

 

 

 

 

 

「うおーす!見事だ少年、よくぞワシのブーバーに打ち勝った!君の知識、そして実力、確かに見せてもらった!」

 

 

戦いが終わり、未だに興奮冷めやらぬ空気が包むフィールドの中で、俺はカツラさんと向かい合っていた。フィールド外では、職員さんたちが最後のマグニチュードで被害が出てないかの確認に走り回っていた。お手数お掛けします。

 

ですけどねカツラさん。新人相手にかえんほうしゃ搭載したブーバー使うのは反則だと思うんですよ。ゲーム的に考えて。レベル幾つあるんだよっていうね。少なくとも、20レベル代で覚える技じゃなかっただろ。サカキさんから扱かれてた時ほどの圧力は感じなかったから、たぶんサンドとそんなに差はないとは思うんだけど…

 

 

「君の実力を認め、ポケモンリーグの規定に従ってここにクリムゾンバッジを授与する!」

 

「ありがとうございます…ところで、あのブーバー新人相手に使う実力のポケモンじゃないと感じたんですが…」

 

「如何にも、本来ならばもう少し実績を積んでいるトレーナーを相手にするためのポケモンだ。所持しているバッジにして3個~4個ぐらいだな」

 

 

と言うことは、ゲーム的に考えればレベルは20後半ぐらいか?…これ、砂嵐が無かったら勝てなかったんじゃなかろうか。一歩間違えれば、こっちが一方的にボロ負けして終わってた。ホント、よくやったと思うわ。俺もサンドも。そしてヨーギラスも。

 

 

「まあ、仮に君が負けていたとしてもバッジは渡すつもりではあったよ。1戦目で君のトレーナーとしての実力は、新人のレベルは十分に超えていることは見せてもらったからな。トレーナーになって1週間足らずであそこまで堂々と、それでいて素早く指示出来る新人など見たことがない」

 

 

だとしても、新人であることには間違いないんだからそんなことせずに普通に戦って欲しかったっす。理不尽だ。

 

 

「むしろ君が新人を名乗ることの方が問題のような気もするのだが…まあ、だからちと試させてもらったのだよ。まあ、流石にバッジを1つも持っていない新人相手にはするべきことではないのは確かだな」

 

 

じゃあなんでやったし…なるほど、このハゲ確信犯か。もしやジムリーダーという連中は、揃いも揃って鬼畜な人種なのだろうか?

 

 

「とは言っても、まさかブーバーをこうもあっさりと倒されてしまうとはな。流石はトキワジムリーダーが目を掛けているだけのことはある」

 

「…勘弁して下さいよ。そんな大したもんじゃないです」

 

 

 

 

…まあ、仮にそうだとしても、サカキさんと比べれば数倍、数十倍もマシな現実があるんだろーなー。やはり、俺は3年間も修羅の道を歩かされたことは間違いない。色々と散々な目には遭ったが、おかげで少なくともトレーナーとしては鍛えられたのだから感謝するべきなのだろーか…とりあえず、サカキさんは鬼畜と言っておけば間違いはあるまい。

 

それにしても、ここでも出てくるサカキさんのネームバリューよ。やっぱりあの人トレーナーとしても超一流なんだなと再認識した。実業家で資産家でトレーナーとしても超一流とか、世間の女性の皆様からしてみれば垂涎ものの超優良物件だよな。反社会的非合法組織を統率する悪の首領だけど。

 

そんな怪物を、上を目指す以上俺はいずれ倒さなくてはいけないワケで。今届くなんて全く思ってないが、あの領域に到達するまでの道のりはまだまだ長く険しいな。

 

 

「それと、これも受け取ってくれ。見事な戦いを見せてくれたことに対するワシからの御褒美だ」

 

 

そう言ってカツラさんが差し出してきたのは、ポチ袋とキューブ状の機械。これは…技マシンだ!

 

 

「技マシンの中身は『かえんほうしゃ』。ほのおタイプの強力な攻撃技だ。君なら上手く使いこなせると踏んだ。1回切りの使い捨てだが、是非今後の戦いの中で活かしてやってくれ。それと、こっちは報奨金…と言うことにしておこう。私的な理由で少し無理をさせてしまったからな、せめてもの詫びだ。今後の旅の足しにでもしてくれ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

かえんほうしゃの技マシンかぁ…初めて手に入れた技マシンがかえんほうしゃというのは、とゲーム的に考えればあり得ない展開だな。今の手持ちに覚えられる奴はいないけど、凄い有難い。今後覚えられる奴を捕まえることが出来れば、その時また考えよう。

 

そして、それ以上に有難い金一封。サカキさんからのお小遣い頼りで余裕がない現状では、自分で好きに使えるお金というのは実に貴重。これまた有難くちょうだいする。

 

それにしても、お金を稼ぐと言う感覚も久しぶりだ。学生時代のアルバイトを思い出すね。

 

 

「キュイキュイ!」

 

「ん?ああ、サンドか」

 

 

話をしている後ろでは、サンドがキュイキュイと騒いでいる。見てみればボロボロではあるが、勝ったことが嬉しいのか実にイイ笑顔をしている。やっぱり、負けるよりも勝つ方が楽しいし嬉しいもんな。

 

 

「よくやってくれたな、お疲れさん」

 

「キュイ~」

 

 

労いも兼ねて頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を閉じる。ああ、可愛いなぁ。

 

それと、ポケセンで回復させてからになるけど、ヨーギラスも労ってやらないとな。運も味方したとはいえ、あの状況からよく相打ちに持ち込んだと思う。今回のバトルを通じて、少しでも言うこと聞いてくれるようになればいいなぁ。

 

まあ、サンドもヨーギラスも、ホントよくやってくれた。

 

 

「失礼します!リーダー、次の挑戦者が決まりました!」

 

「む、そうか。わかった、すぐに準備しよう」

 

 

そうこうしている間に俺の次の挑戦者が決まったらしく、職員さんが駆け寄ってきてカツラさんに耳打ちしている。

 

 

「そういうわけで、少年。すまんがワシは次のバトルに向けて準備をしなくてはならん。これで失礼するよ」

 

「いえ、ありがとうございました!」

 

「うむ、帰りは受付まで職員が案内するので着いていってくれ。それと、勝ったとは言え君はまだ一流のトレーナー…ポケモンマスターへの第一歩を踏み出したに過ぎん。一筋縄ではいかない長く険しい道のりではあるが、熱い思いを忘れず、一歩ずつ進んでいってほしい。君の旅が実り多いものであることを願っている。では、さらばだ」

 

 

そう言って、カツラさんはフィールドの向こうへと去っていった。

 

 

「では、受付まで案内しますので着いてきて下さい」

 

 

案内役の職員さんに言われるがまま、俺は受付まで元来た道を歩いていく。階段を上がり、他の挑戦者が戦っている二次試験のフィールド入り口を通過し、長い廊下を歩き、ジムの玄関へ。

 

案内役の職員さんから「おめでとう」と言葉をもらい、お礼の言葉を返して入り口をくぐった。

 

ずいぶんと長い時間戦っていたように感じるが、太陽はまだまだ高い。時間はあるが、まずはサンドとヨーギラスをポケセンで回復させてやろう。それから、今回の賞金でアイテムも補充したいな。フレンドリィショップに行かないと。あと、持ち物のことで報告もしないとな。細やかだけど祝勝会もしよう。

 

 

 

この後やることに思いを馳せながら、達成感に満ち溢れた足取りで俺はグレンジムを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

…そしてその日の夜。仲間たちと細やかな祝勝会を楽しんでいた俺は、ポケモン研究所から件の研究者が帰還したとの連絡を受けたのだった。

 

 




 
グレンジム戦、決着です。サンドさん、レベル10近く上の相手を煤だらけになりながらコロコロする。こうして主人公は無事1個目のジムバッジを手に入れました。

新人相手にレベル30程度のポケモンをぶつける…この世界のジムリーダーは揃って鬼畜なのか?それともサカキ様の名が成せる苦行の道か?どうなる、主人公のジム巡り。

そして、もうちょっとだけ続くグレンタウン編。次回、なんやかんやであの屋敷に突入します。


最後にヨーギラスの紹介を。

ヨーギラス

・レベル:18
・性別:♂
・特性:こんじょう
・ワザ:かみつく
    にらみつける
    すなあらし
    いやなおと

いじっぱりな性格。
LV17の時、マサラタウンで出会った。
暴れることが好き。

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