成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第23話:潮風を背に(2)

 

 

 

 

「クチバ放送局本日のこの時間は、TCPクチバ支社協賛、クチバTCPカップジュニア部門・一般部門の準決勝・決勝・3位決定戦の模様を、実況は私アナウンサーのハマダ、解説としてクチバシティ出身でマスターズリーグでご活躍されていますトーマさん、ゲストとしてクチバシティジムリーダー・マチスさんをお迎えして、ここクチバ総合運動公園バトルスタジアムからお送りしています。

 

さて、試合開始が迫っていますが、その前に昨日行われました1回戦から4回戦までを振り返っていきたいと思います。トーマさん、まず一般部門では、やはり前評判の高かったトレーナーたちが順当に勝ち上がってきました」

 

「そうですね。勝ち上がった4人全員がここまで安定した試合運びを見せています。その中でも特にヒロミ選手。彼はサイドンを中心に実力のあるポケモンを揃えています。やはりポケモンリーグ予選上位まで進んだ実績は伊達ではありません。1VS1と言えど、引き出しが多いことは大きなポイントです。彼の多彩な戦術を読み切り、その裏を掻けるかどうか…そういう意味では、やはりここまでの試合を全て別のポケモンで勝ち上がってきた、反対ブロックのサトル選手にも注目ですね」

 

「一方のジュニア部門ですが、今年も将来性豊かな期待の逸材が多数出てきましたね」

 

「ええ、クチバ出身者が中心の本大会ですけども、そのクチバ出身の若者が熾烈な争いをきっちり制して今日まで勝ち上がって来ていることは、クチバ人として大変嬉しいです。特にダイスケ選手は、今大会で見せているポケモンたちが全体的によく鍛えられていると思います。特にユンゲラーの攻撃能力はジュニア部門屈指で脅威です」

 

「確かに、ダイスケ選手はここまでいくつかの大会で優勝・入賞経験もある期待の若者です。ユンゲラーとカイロスの2体で、一般部門顔負けの非常に安定した立ち回りを見せて勝ち上がっています。マチスさんは気になる選手はおられますか?」

 

「オー!ミーとしてはクチバシティのキッズも気になりマースが、それ以上にトキワシティのチャレンジャーにアテンションデース!」

 

「マサヒデ選手ですね。今大会参加者最年少ながら、見事ベスト4まで駒を進めて来たダークホース的存在です。ほんの1ヶ月前にトレーナーズスクールを卒業したばかりで、今回が大会初参加だとのことですが…」

 

「すでにグレンタウンのジムをクリアしていマース。さらにトキワシティのジムリーダーからスペシャルなトレーニングを受けていたようデース」

 

「なるほど…トーマさんはこの選手、どう見ますか?」

 

「ここまでの試合運びは、相手に付け入る隙を与えないというぐらいに超攻撃的です。しかし、要所要所であまり見ない技を使ってたりと、我武者羅に攻めているという感じでもないんですよね。立ち居振る舞いはとてもスクールを卒業したての11歳とは思えないぐらい堂々としたもの。トキワシティジムリーダーの手解きを受けていたというのも納得です。そして、あのスピアーがとてもよく鍛えられている。他の選手のポケモンと比べて頭1つ2つは抜けてると見ました。たぶん、ポケモンリーグでも予選ぐらいならすでに通用するレベルにあると思います。トキワシティジムリーダーはトキワコーポレーションの社長でもありますので、TCPからの刺客とも言えそうです」

 

「それほどですか!?ということは、スピアーにどう対処するかがマサヒデ選手との対戦ではカギになりそうですね」

 

「ええ、どちらの部門も例年以上の好勝負が期待出来そうです」

 

「分かりました、全選手の活躍を期待しましょう。では、時間となりました。クチバTCPカップ、まずはジュニア部門、準決勝第1試合をご覧いただきたいと思います。第1試合はクチバ勢同士の対戦と……」

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

繰り広げられる白熱のバトル、観客を熱狂の渦へと誘う熱い実況、スタジアムを包む歓声と熱気…控え室に取り付けられているモニターを前に、俺はこの大一番に向けた調整を行っていた。

 

俺の出番は準決勝第2試合…今、このモニターの向こうで繰り広げられている試合の次の試合だ。すでにスタッフさんから「いつでもいけるように準備を」と言われている。

 

対戦相手はアヤコと言う、ヤドン・シェルダー・パウワウと、一番当たりたくなかったこれでもかと言うぐらいにみずタイプが主力のトレーナー。ここまでの試合も確認しているが、やはりと言うか水技でゴリ押ししまくって勝ち上がっている。

 

こうなってきてしまうと、こちらとしては昨日の4回戦に引き続きスピアーを選択せざるを得ない。一晩明けてるから疲労の問題はないと思うが、どうだろうか。

 

 

 

 

 

…しかし、まさかテレビで放送されるような大会だったとは思わなんだ。しかも生中継ですってよ、奥さん。クチバシティのみの中継とのことではあるが、実況のアナウンサーにプロトレーナーの解説、ゲスト解説にジムリーダー…普通に凄くない?スタンドも結構埋まってるし、1万人ぐらいいるんじゃない?たかが1地方の都市大会でこれなら、ポケモンリーグの大会なんて現地は凄いんだろうな。テレビでは見てたから、オーキド博士とか凄いビッグネームが解説者してたのは知ってる。

 

流石にこんな大勢の衆目に晒されながら何かをするという経験は、日本にいた頃ですらない。緊張はする。ただ、それと同じかそれ以上にワクワクもしている。そもそも、今後ポケモンリーグに出ることになれば、これ以上の環境下で試合を行うことになる。これぐらいでビビってるようじゃ、先には進めない。

 

 

 

…まあ、その前にサカキさんを何とかして突破しないといけないという鬼門が待っているワケなんだが。

 

 

 

 

 

『ストライク戦闘不能!勝者、クチバシティのダイスケ!』

 

 

 

…!第1試合が終わった。勝ったのは例の優勝候補さん。ユンゲラーでタイプ相性の悪いストライク相手に打ち勝ったのか…俺はみずタイプ相手に四苦八苦してるというのに、大したもんだ。よく鍛えられているこれ以上ない証拠だな。例えストライクが覚えるむしタイプの技が、『れんぞくぎり』しかないということを差し引いても。『シザークロス』さんの登場は何時になることやら。

 

まあ、他人がどうこうよりもまずは自分だな。

 

 

 

「ジュニア部門準決勝第2試合、マサヒデさん、フィールドへどうぞ!」

 

 

 

…さあ、出番だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「さあ、続きましてジュニア部門準決勝第2試合です。入場ゲートから、トレーナーが入場して…今、姿を現しました!ご紹介しましょう。まずAサイドより、今大会最年少の参加者にしてベスト4進出者!攻めて攻めて攻めまくる!考える暇など与えるものか!超攻撃的ゲーム運びで、ここまでの4試合で掛かった時間は僅か7分足らず!エース・スピアーを擁し、台風の如き勢いそのままに優勝まで駆け上がるのか!?トキワの登り竜、トキワシティのマサヒデ選手!

 

対するはBサイドより、みずタイプのポケモンたちと織り成す美しくも激しいカーニバル!いずれはハナダシティジムリーダーさえ越えて見せると豪語する、確かな実力に裏打ちされた世代有数のみずタイプマイスター!ここまで勝ち進んで来た実力に偽りなし!その華麗なる技捌き、この舞台でも存分に魅せてくれることでしょう!人呼んで海辺の踊り子、クチバシティのアヤコ選手!

 

主審に促され、両者フィールドの中央へ。しっかりと握手を交わして…さあ、それぞれのフィールドサイドへ!両者の手にモンスターボールが握られて、バトルの態勢が整いました!」

 

 

 

『始めッ!!』

 

「さあ、モンスターボールがフィールドに投じられました!試合開始です!注目の両トレーナーの選択は…マサヒデ選手はトーマさんの予想通りスピアー!そしてアヤコ選手は…おおっと、今大会初登場!ヤドランだあーッ!」

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

「本当は決勝まで取っておきたかったんだけど、頼んだわ、ヤドラン!」

「………あぁん?」

 

 

 

…ヤドンがいたのは把握していたが、まさかの進化系ヤドランかよ…それは予想外デース。まあ、初見相手に見えてない手持ちを予想しろってのも無理難題か。

 

みず・エスパーの複合タイプ、鈍足ながらも高い物理耐久と特殊火力を持ち、回復技まで備える厄介な奴。物理一本で紙耐久のスピアーとの相性は、弱点こそ突けるが控え目に見ても悪い。俺の手持ちだと今一番相手にし辛い、したくないタイプのポケモンだ。そしてヤドランに進化しているということは、レベルも最低でもスピアーと同程度はあるということになる。最悪、ワンパンKOなんて可能性も…これ、勝てるかね?

 

…いやいや、何勝負の前から後退気味なこと考えてんだ。ヤドランはもし仮に相手が出すと事前に分かっていたとしても、今の俺の手持ちではスピアーで相手する他ないポケモン。出し負けたんじゃない、ベストな選択をしたんだ。大丈夫大丈夫、何とかなるって。あの有名な某炎の妖精のように、もっとポジティブにいかないと。

 

幸い持ち物禁止なので、『ゴツゴツメット』も無ければ『たべのこし』も無い。そもそもまだ開発されてない。同じ理由でメガシンカもない。『トリックルーム』も『なまける』も第3世代からだったからまだ見つかってないと思う。素早さは完全にこちらが上。少なくとも先手は取れる、主導権は握れる。

 

となれば、あとは実況アナウンサーの言ってた通り、攻めて攻めて攻めまくるしかなさそうだ。サイコキネシスがなんぼのもんじゃい!撃たれる前に撃て、殺られる前に殺れ!ミサイルばりとダブルニードルで、鉛玉の雨ならぬ毒針の雨をプレゼントだ!

 

 

「いくぞスピアー、ダブルニードル!」

「スピッ!」

 

 

幕は上がった。あとはスピアーがヤドランを削り倒すか、ヤドランがスピアーを吹き飛ばすか…勝負といこう!

 

 

「させるものですか!ヤドラン、『ねんりき』!」

 

 

お相手の選択は迎撃。まあ、鈍足なヤドランで機動戦は難しいだろうしな。無難、安定した選択だ。

 

そう思ったんだが…

 

 

「…………」

「…ッ、ヤドランッ!動いてッ!」

 

 

…おい、あのヤドラン何故反応しない!?もうバトル始まってるぞ!?攻撃が迫ってるんだぞ!?

 

 

「ヤドッ!?」

 

『おおっと、ヤドラン動けない!クリーンヒットだぁぁっ!』

 

 

そう思っている間に、ダブルニードルが全弾ヤドランに突き刺さる。実況の声が響き、僅かに歓声が巻き起こる。

 

さっき、確かにあっちのトレーナーは指示出してた…よな?

 

 

「スピアー、そのまま狙いを絞らせるな!ダブルニードル!」

「スピャ!」

 

 

僅かな違和感を覚えつつも、続けてダブルニードルを指示。何が起こっているのかよく分からないけど、真剣勝負の最中だ。手を止めるわけにはいかねぇ。止めたが最後、こっちが返す刀で狩られかねん。

 

 

「つ、次よ!次こそ、ヤドランッ‼ねんr「やぁんッ‼」…って、ヤドラン!?」

 

 

今度はお相手が指示するよりも先に、ヤドランが迎撃に動いた。技は…みずでっぽう!?指示と違うぞ!?

 

みずでっぽうによってダブルニードルが相殺される。たかがみずでっぽうとも思ったが、ヤドランぐらいのレベルになると威力もけっこうなものになるようだ…当然か。

 

しかし、あのヤドラン指示に反応しないわ指示待たずに動くわ勝手に技出すわ、いったいどうなって…トレーナーに従ってない?もしかして、交換したポケモンか?

 

ゲームでは他のトレーナーから貰ったポケモンは、経験値取得量が多い代わりに、一定のレベルを越える度に特定のジムバッジが無いと言うことを聞かなくなるという仕様があったが…うん、それにしても酷い。うちにもヨーギラスっていう大概似たようなのがいるけど、それよりも酷い。アイツは少なくともバトルだけはまじめだから。バトルだけは。

 

 

 

…ともかく、だからと言っても俺がすることは変わらん。全力でヤドランを狩る。そして勝つ。それだけだ。

 

 

「スピアー、ダブルニードル連射ぁ!」

「スピッ!」

 

 

スピアーには続けてダブルニードルを指示。スピアーも指示に応えてすぐに発射態勢に入る。

 

 

「…やぁん!」

 

 

それを見たヤドランが一声鳴いて、スピアーを睨み付ける。

 

 

「…ス、スピィ!?」

 

「…?どうしたスピアー!?」

 

 

するとどうしたことか、スピアーがダブルニードルを撃たない。さっきまで何の問題もなく攻撃出来ていたのに…もしやPP切れか!?んなワケあるか!まだバトルが始まって1分程度、使い切るほど出してもいないんだぞ!?

 

頭に浮かんだ有り得ない可能性に、自分で即座に否定のツッコミを入れる。PP…パワーポイントとは、1つの技を何回使うことが出来るかということを表したモノで、ゲームでは技毎に設定されていた。強力な技ほど少ない仕様になっていた。PPが0になると、ポケモンセンター等で回復するまでその技は使用出来なくなる。要はガス欠だ。

 

で、この世界でもPPはやはり存在する。明確な数値として分かっているわけではないが、技を使いすぎるとやがて技が出せなくなるということは分かっている。

 

ゲームと違って面白いのは、例えば同じほのおタイプで威力が高めの技『オーバーヒート』と『だいもんじ』。両方の技を覚えていて、オーバーヒートを使い切ってしまった場合、だいもんじも威力が下がってしまう。このように同系統の技を複数覚えていて、どれかの技を使い過ぎると残りの技にも影響を与え、出せなくなったり、威力が低下したりすることがあるという。まあ現実的に考えて、『オーバーヒート』を撃ち尽くした後に大技撃てるか?っていう話だよな。同系統の技を覚えさせる時は注意が必要だな。

 

 

 

話が逸れたが、肝心なダブルニードルはと言うとそんなすぐにPPが切れるような技じゃない。だから何か他に原因があるはずなんだ。何か、何か……!

 

 

「『かなしばり』かッ!?」

 

 

『かなしばり』は、相手が直前に出した技をしばらくの間使用出来なくする技。ヤドランは確か覚えたはず。これなら突然ダブルニードルが撃てなくなった説明がつく。

 

 

「そんならスピアー、ミサイルばりだ!」

「スピッ!」

 

 

ミサイルばりに指示を切り替えたところ、何の問題もなく攻撃が放たれる。ヤドランは…

 

 

「ヤドラン!ねn…」

「やぁん!」

 

 

…指示を出そうとしたトレーナーを無視。『お前の言うことなど聞く必要はない』とばかりに、再び勝手にみずでっぽうを繰り出した。

 

ヤドランが吐き出す水流に、ミサイルばりが勢いを削がれ、弾かれ、パラパラと地面に落ちては消えていく。

 

 

「ヤドォッ…!」

 

 

それでも全てを止めきれたワケではなく、みずでっぽうの射線から外れていた針がヤドランを襲う。ミサイルばりもさっきのダブルニードルも効果は抜群。合わせてそれなりのダメージは与えた…はず。

 

 

 

「撃ちまくれスピアー!」

 

「こ、今度こそ…!ヤドラン、ねんりきよ!」

 

 

相性的に主導権を渡せない、渡したくない俺とスピアーに対して、何とかこの状況を打破したい相手。お互いあれこれと考えることは多々あれど、ただ一つ勝利を目指す意思だけは変わらない。しかし…

 

 

「やぁん!」

「ヤドラン違う!お願い!言うこと聞いてよぉ!」

 

 

…相手の勝利への意思は、いくら願えどヤドランには届かない。攻撃態勢に入っているスピアーを迎え撃つヤドランが繰り出したのは、またしてもねんりきではなくみずでっぽう。苛立ちや怒りを通り越して、最早悲痛と表現した方がいいような相手の声が響く中、技と技がぶつかり合う。

 

連射とは言え点の攻撃であるミサイルばりと、切れ目ない線の攻撃であるみずでっぽうの正面衝突。みずでっぽうが射線に呑まれたミサイルばりを弾きながらスピアーに迫り、射線から外れたミサイルばりはそのままヤドランに向かう。

 

 

「躱してミサイルばり!」

「スピッ!」

 

 

持ち前の機動力でみずでっぽうを躱し、追加の攻撃を撃ち込んでいく。

 

 

「やぁん…ッ!」

 

 

対するヤドランはミサイルばりを正面から受けながらも、豆鉄砲でも撃ってんのか?とでも言わんばかりに、平然とスピアーにみずでっぽうを放つ。またスピアーが躱して攻撃し、ヤドランが迎撃する。このサイクルが2度3度と繰り返される。

 

現状向こうの攻撃は躱せているが、こちらの攻撃もみずでっぽうで相殺されて、有効打になっていない。ミサイルばりにしろダブルニードルにしろ、効果抜群とは言っても1発の威力は小さい。一気にダメージを稼ごうとすると、それはもう接近してのどくづきか、ミサイルばりを全弾叩き込むしかない。

 

ここまで判明しているヤドランの技は、みずでっぽうとかなしばり。相手の指示からねんりきも持っているので、これで3つ。いずれも距離を取って戦う技。残り1つが分からないけど、持久戦になれば向こうの土俵。

 

 

 

…勝負、掛けてみますか!

 

 

 

「…スピアー、いくぞ!ミサイルばり!」

「スピィッ!」

 

 

 

スピアーが再びミサイルばりの構えを取る。

 

 

「ヤドr「やぁん!」ン、n…」

 

 

ヤドランはやはり相手の指示を待たずにみずでっぽうで迎撃するつもりのようだ。なら、あとはタイミングを合わせて…今!

 

 

「撃ち方止め!突っ込めスピアーッ!」

「スピィー!」

 

 

ヤドランがみずでっぽうをまさに発射する直前、スピアーにミサイルばりを中断させて突撃させる。みずでっぽうを吐き出そうとしているヤドランが、驚いたような表情…なのか?で、スピアーを見ている。

 

直後にヤドランは意外と素早くスピアーに対応しようとするが、その態勢からじゃ止めることは出来ないだろ?みずでっぽうも、そしてスピアーもな!

 

 

「スピアー、どくづきィッ!」

「スッピィッ!」

 

「ヤッ…ドォ…ッ」

「ヤ、ヤドラン…!」

 

 

どくづきがモロに入ったヤドランが大きく仰け反り、これまではビクともしなかったその態勢が崩れる。

 

よし、これは取った!あとはこのまま攻撃あるのみ!

 

 

「押し切る!どくづき連打ァッ!!」

「スピィッ!」

 

 

続けざまにどくづきが1発入るが、まだヤドランは倒れない。硬い。それでも、次の1発は流石に耐えられまい!

 

 

「スピアーッ!」

 

 

ここまでくれば言葉にする必要もない。さらに追撃を与えるべく、スピアーが動く。

 

そして、ヤドランにトドメの一撃が…

 

 

「ヤドラン『ずつき』!!動いてよッッ!!」

「…ッ!やぁんッ!!」

 

「スピッ!?」

「ッ!?スピアー!」

 

「ヤ、ヤドラン…!」

 

 

この土壇場でヤドランが指示に従った!?そして、近接技を持っていたか…どくづきが入るあと一歩の所で、スピアーがずつきを受けよろめく。

 

1度退くか?いや、このまま押し切るべき…

 

 

「そのままねんりきッ!」

「やぁん!」

 

「え?あ、まず…スピアー!!」

「スピィ…!?」

 

 

悪い夢でも見てるようだ。ここに来て、立て続けにヤドランからのねんりきがクリーンヒット。至近距離で攻撃被弾直後、避けられるはずもなくスピアーが大きく吹き飛ばされ、スタジアムの壁に叩きつけられる。

 

 

「ス…ピ…」

 

 

辛うじて立ち上がるが、見るからに満身創痍。分かってはいたけど、一撃でこれか…

 

 

「や、やった!ヤドラン!そのままねんりきッ!」

 

「立て、立ってくれスピアー‼」

 

 

形勢逆転。相手からの死の宣告が、どよめきと歓声の渦巻く中で響き渡る。スピアーはヨロヨロと体を支えて宙に浮かぶのが精一杯な様子。ヤドランはすでに追撃の態勢に入っている。これは…とてもじゃないが、避けられそうにない。

 

相手が制御出来てなかったからと、甘く見てしまったな…もっと慎重に詰めていくべきだった。しかし、今となっては後悔先に立たず…万事休す、か。くっそぉ…すまない、スピアー。

 

敗北という現実と悔しさと自身の甘さを噛み締めながら、俺は顔を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ざわざわ…』

 

 

 

……?おかしいな、攻撃が来ない?審判のジャッジもまだ聞こえないぞ?何だ?何が起こっている?

 

いつまで経っても攻撃が飛んで来る気配がなく、スタンドのざわめきが大きくなるばかり。意を決して顔を上げると…

 

 

 

 

 

「や…どぉ~…」

 

 

 

…ヤドランが、地に伏していた。

 

 

 

 

 

「ヤドラン戦闘不能!よって勝者、トキワシティのマサヒデ!」

 

 

 

 

 

 

 

-----

 

 

 

 

「初戦から白熱した試合が繰り広げられていますクチバTCPカップ。ジュニア部門準決勝第2試合、見事制したのはトキワシティのマサヒデ選手でした。それでは、先程の試合を解説のトーマさん、マチスさんと共に振り返っていきたいと思います。

 

さて、この試合にマサヒデ選手はスピアー、アヤコ選手は今大会初めての登場となるヤドランを選択しました。先手を取ったのはマサヒデ選手のスピアー。ダブルニードルがヤドランを襲い、ヤドラン動けずクリーンヒット。そこからはマサヒデ選手のペースで試合が進みました」

 

「スピアーはむし・どくタイプ、ヤドランはみず・エスパータイプ。お互いの技がお互いに弱点を突ける状況でした。後手に回ることを嫌ってのことだったのだと思いますが、攻め続けましたね。試合全体を通して、マサヒデ選手とスピアーが主導権を握っていました」

 

「トーマさんが言っていたとおり息も吐かせぬ攻撃の応酬でした。一方のアヤコ選手のヤドランですが、そのスピアーの攻撃をよく防いでいました」

 

「そうですね、スピアーの攻撃を上手く捌いて、ダメージを最小限に止めていたように思います。そして耐えて耐えてあの一撃…流れが変わりましたね」

 

「スタンドもベリーエキサイティングだったネー!」

 

「ですが、その直後にエンジンが切れたように倒れて試合終了。トーマさん、これは何が起こったのでしょう?」

 

「おそらくどくの状態異常によるものですね。ダブルニードルを受けた際にもらってしまったのでしょう。これが決め手です。マサヒデ選手が序盤で稼いだリードを守って、寸でのところで逃げ切る形になりました」

 

「主導権を握られ続けたことが響いた感じですか?」

 

「それもありますが、それ以上にトレーナーの指示を聞いていませんでした。これが致命的です。たぶん、捕まえてから日が浅いか、誰かから貰ったかのどちらかだろうとは思うのですが、これがなければ試合展開はまた違ったものになっていたはずですから、残念です。ここはアヤコ選手の今後の成長に期待したいと思います」

 

「分かりました。クチバTCPカップジュニア部門準決勝第2試合、勝ち上がったのはトキワシティのマサヒデ選手でした。これでジュニア部門決勝戦はダイスケ選手VSマサヒデ選手という組合せになりました。この後はCMを挟んで、一般部門準決勝第1試合となります。ここまではクチバTCPカップジュニア部門準決勝第2試合の模様を、トーマさん、マチスさんと一緒にお伝えしました」

 

 

 

 




前回の後書きで次は後編と言ったな?あれは嘘だ…すまねぇ、例によってまた分割なんだ。今度は中編だってさ、ハッハッハー……バトルの描写になるとやっぱり字数食いますなぁ。試しで試合中継風の実況(と言うか解説)入れてみた分余計に。

そして、今回のバトルはまだ駆け出しに毛が生えたようなレベルのトレーナーが、いきなり高レベルなポケモンを持つとどうなるか…ということに対するこの作品の世界での例の1つです。アニメでもこんなの居たしいいよね!ほら、どっかのほのお・ひこうタイプの()
最後に言うこと聞いたのは、ヤドラン自身も同じ判断を下した結果、たまたまトレーナーの指示と重なった…ということにしておいて下さい。そしてチョロっと出て来たマチス少佐の口調ががが…こんなんでいいんですかねぇ?そして何喋らせていいのか分からん…

~次回予告~
動きが読めないヤドランとの激戦を制した主人公。だが、決勝戦を前に大きな問題が襲う。試練を乗り越え優勝の栄冠を手にするべく、彼が勝利を託した最後の選択は如何に?次回こそ決着、クチバTCPカップ決勝戦。強敵を相手に、見事優勝の栄誉と賞金を手にすることは出来るのか?次回へ続く。

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