成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第24話:潮風を背に(3)

 

 

 

「テレビの前の皆さん、お待たせ致しました!2日間に渡って熱戦が繰り広げられて来たクチバTCPカップでしたが、今はすでにジュニア・一般両部門の決勝戦、僅か2試合を残すのみとなりました!昼休憩とフィールド整備を挟み、スタジアムのボルテージも徐々に高まりつつある中で、まず先んじてジュニア部門の決勝戦、試合開始の時間が迫っております!

 

試合開始に先立ちまして、並み居る期待の星たちを破り、見事決勝まで勝ち上がって来た2人の若武者をご紹介しましょう!まずAブロックのファイナリスト!確かな実力に確かな実績、その身に纏うは次代を担う王者の風格!攻めよし、守りよし、気合いよしの威風堂々たる横綱相撲!ユンゲラーとカイロスの2体の相棒を引き連れて、この決勝も盤石の試合運びで難無く制してしまうのか!勇往邁進、欲するは優勝と言う名の王冠ただ1つ!クチバシティのダイスケ選手!

 

対するBブロックのファイナリスト!今大会最年少、遠路遥々やって来た小さな挑戦者は、今大会最強のダークホースでもありました!猪突猛進、勇猛果敢!近距離遠距離ミドルレンジ、どこからでも仕掛ける変幻自在の攻撃は、まさしく夢幻の速射砲とでも呼ぶのが相応しいでしょう!苛烈な攻めで、エース・スピアーと共に栄光の頂に名を刻むか!トキワシティのマサヒデ選手!

 

 

 

…さあ、大きな拍手に迎えられて今、両者がバトルフィールドに姿を現しました!」

 

 

 

 

 

 

 

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 スタンド360°から響く大歓声に迎えられて、決勝の舞台に立つ。準決勝も凄かったが、決勝はそれ以上の大音量。思わず足が竦んでしまうが、すぐ気を取り直して、反対側に立つ決勝戦の相手を見る。

 

ここまでの試合を全て確認しているが、使用したポケモンはユンゲラーとカイロスの2体だけ。試合内容もほぼ完勝と言っていい盤石な試合運び。優勝候補と言われたのも納得の強さ。間違いなく今大会最大にして最後の強敵だ。ついでに結構イケメンだ。女性からの声援が大きかったように感じたのは気のせいだろうか。

 

そんな相手を前にして、俺の闘争心もメラメラと燃え上がって…はおらず、どちらかと言えば若干醒めた心持ちでここに立っていた。それもこれも、全ては試合前に起きたある問題に起因する。その出来事は予期せぬトラブルであると同時に、自業自得な俺のミスでもあった。が、何がどうあれ、俺は決勝戦を前にして大きな壁に行く手を遮られることになってしまったのである。

 

 

 

それが起きた…と言うか、告げられたのは、準決勝が終わってからおよそ1時間後のことだった。場所はスタジアムの選手控室。ヤドランとの激戦…激戦?を制し、何とか決勝まで進んだ俺は、スピアーを回復マシンに託し、モニターで試合観戦しながら決戦の時を待っていた。

 

そんな俺の下にやって来たのは、大会に医療スタッフとして参加していたポケモンドクター。彼は俺に声を掛けるなり「君のポケモンの事で少し話がある」と言った。

 

何事かと思って話を聞いたところ、彼から告げられたのはスピアーの決勝戦使用禁止の宣告だった。最後のねんりきで壁に叩き付けられた時の打ち所が悪かったのか、「スピアーが受けたダメージが大きくて、決勝までに完全に回復し切らない。そんな状態で決勝戦を戦わせることは、ポケモンドクターとして認められない」とのこと。

 

スピアー、決勝戦の大一番を前に無念のドクターストップ。ゲームのように機械に預ければ『テンテンテテテン♪』と即回復、というワケにはいかなかったらしい。まあ、5試合中3試合戦って、決勝進出の原動力にはなってくれたんだ。初めての大会にも関わらずよくやってくれたと思う。残念だが、これ以上無理はさせられない。

 

 

 

「ただ今より、クチバシティのダイスケ、トキワシティのマサヒデによる、クチバTCPカップジュニア部門決勝戦を行います!両者、握手を!」

 

「よろしく!」

「よろしくお願いします」

 

 

 

これまでと同じように、フィールドの中央まで進み相手と握手を交わす。決勝戦と言えど、やることに変わりはない。

 

握手が終ればそれぞれのフィールドサイドへと戻り、審判の合図とともに、この戦いの全てを託す相棒が入ったボールを構える。

 

ほんの一瞬の間、スタジアムに訪れる静寂。そして…

 

 

 

「試合開始ッ!」

 

 

…握り締めたボールを、思いっきり放り投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、話は再度戻って試合前。決勝をスピアーに託すという当初考えていた目論見が見事にパーになってしまったことで、俺はそれに代わる次の手を考えなくてはならなくなった。

 

対戦相手はユンゲラーとカイロスの2体で勝ち上がって来ている。準決勝(さっき)の相手のように隠し球がある可能性はあるが、情報が無い以上この2体を想定する他ない。

 

そこから考えると、まずドガースは無理。タイプ相性的にユンゲラーに消し飛ばされるのが目に見えている。攻撃技もルール上『じばく』が敗退行為になってしまうため、『ヘドロこうげき』しかないのもマイナスポイントだ。通りは良いんだが、如何せんドガース自体の火力がね…

ユンゲラーに対応出来そうなのは、あくタイプの攻撃技『かみつく』があるラッタだが、有利かと言うと…うーん。さらにカイロスが出て来たら、『じごくぐるま』を持っているのは確認済みなので一本取られてお終いだ。

 

ロコンはカイロスの弱点を突けるが、レベルに不安が残る。というか、全員レベル面では不安だ。ヨーギラスはカイロスだけでなくユンゲラーの弱点も突けるが、カイロスにはラッタ同様投げられてしまう。ヤドランを見た後だと、あの気性も不安要素としか思えない。

 

となれば、残るは当然アイツしかいないワケで。

 

 

 

 

 

 

 

「サンド、頼んだ!」

「キュイッ!」

 

 

 

ボールの中から、サンドが飛び出す。スピアーが戦えないのなら、その穴を埋めるのはサンドしかいない。カイロスは一応弱点を突けるが、種族値で劣っている。ユンゲラーにはタイプ相性で有利不利はないが、やはり種族値で劣り、レベル次第ではワンパンされる可能性もある。

 

それでも、サンドでやれるだけやって負けたなら、それは俺のトレーナーとしての今の実力がその程度だということ。悔いはない。

 

 

 

「いけっ、カイロス!」

「ロッシャーッ!」

 

 

 

相手が選択したのは、2体の内の準決勝で使わなかったカイロス。タイプはむし単タイプで、こうげきのステータスを下げられない『かいりきばさみ』か、相手の特性を無視して攻撃する『かたやぶり』の特性を持っている。使用する技で確認出来ているのは『じごくぐるま』『ちきゅうなげ』『あなをほる』の3つ。かくとうタイプかよと言いたくなるぐらいで、技には虫要素が全くない。

 

見ての通り物理攻撃がメインなので、サンドにとってはユンゲラーを相手にするよりかは戦いやすいと思う。技から見ても完全なインファイター。加えて、向こうにはサンドの情報は無い。あとはレベル差がどうかと言ったところ。こっちは上手く距離を管理しつつ、ころがるをブチ当てることが出来れば勝機が見える。

 

まあ、要はサンドがいつもやってることをいつもどおりすればいいワケだ!

 

 

 

「カイロス、突撃だ!」

「ロッシャ!」

 

「サンド、まるくなる!」

「キュイッ!」

 

 

カイロスがドシドシと音を立てて突っ込んでくる。思いの外速い。こっちは安定の初手まるくなる。防御を上げると同時に、ころがるへと繋ぐための布石を打つ。

 

 

「投げ飛ばせ、じごくぐるま!」

「ッシャー!」

 

「サンド、ころがる!で、そのまま回避だ!」

 

 

やはりカイロスは接近戦をお望みのようだ。まあ、あっちはあっち、こっちはこっちだ。相手の土俵にわざわざ付き合ってやる理由はない。想定よりも素早いが、それでも試合開始直後の相対距離だ。見て避けるだけの余裕は十分にある。

 

あとは、突撃のタイミング。好機を逃さずにモノに出来るか否か、そこに掛かっている。頼むぞ、サンド。

 

 

 

 

 

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「さあ、開幕早々仕掛けたカイロス。しかし、サンドは冷静にこれを躱して距離を取っていく。カイロスは…無理には追わないようです。これは一旦仕切り直しとなりそうです。

しかしト-マさん、マチスさん。マサヒデ選手はこの決勝でエースのスピアーではなく、ここまで見せていなかったサンドを投入してきました。これは、サンドがマサヒデ選手の秘密兵器ということなのでしょうか?」

 

「…ノー、それは違うと思いマース。あのサンド、確かにグッドではありマスが、スピアー程ストロングではナッシングデース」

 

「マチスさんの言う通りですね。スピアー程鍛えられているという感じはしません。ユンゲラーとの対面を嫌ったか、元からこういうつもりだったか…或いは、スピアーに何かアクシデントがあったのかもしれません」

 

「どういう思惑なのか気になるところですが、試合の方に戻りましょう。カイロス、一旦仕切り直しとなりましたが、やはり距離を詰めてこそ輝くか。果敢に攻めます。対するサンドは防戦一方。まるくなる、攻撃を避ける、距離を取るの繰り返し。さながらカイロスとサンドの鬼ごっこを見ているようです」

 

「単純な地力ではカイロスの方が上です。サンドが捕まったら、一気に勝負が動きますよ」

 

「だからこそサンドは捕まりたくないわけですね。さあ、カイロスが捉えるか、サンドが翻弄するか、緊迫の主導権の奪い合いが続いて…ああーっと!サンドが捕まっ…いや、逃れた!逃れた!間一髪のところでカイロスの拘束から逃れました!」

 

「マサヒデ選手にとってはヒヤリとした瞬間でしたが、丸くなっていたのが幸いしましたね。カイロスがかなり掴み辛そうです」

 

「運良く難を逃れたサンド、この隙に再びころがるで距離を取り、カイロスの出方を窺います。再度仕切り直s…いや、サンドが仕掛け返したぞ!?」

 

 

 

 

 

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「お返しだ、やれ!サンド!」

「キュッ!」

 

 

 ピンチの後にはチャンスあり。禍福は糾える縄の如し。一瞬捕まったかとヒヤッとしたけど、すっぽ抜けたかで捕まらずに済んだ。カイロスは攻撃を失敗した勢いで少し態勢を崩した。今度はこっちの番だ。

 

軽く助走距離を取って勢いをつけ、サンドがカイロスに転がりながら突進する。

 

 

「む…迎え撃つ!カイロス、『ちきゅうなげ』だ!」

「ロッシャ!」

 

 

カイロスは迎撃態勢。『ちきゅうなげ』は相手に自分のレベルと同じ数値のダメージを与えるかくとうタイプの固定ダメージ技。ゲームではレベル分のダメージだったけど、この世界ではどうだろう?

 

向こうが捕まえて投げるつもりなら、こちらは…いつも通りに目潰しと行こう。

 

 

「サンド、そのまますなかけ!」

「キュッ!」

 

「ロシャッ!?」

 

 

至近距離から砂を浴びせられたカイロスが、目を抑えて後退る。ころがるをぶつかる直前で解除してのすなかけ。この戦法も結構使い潰したような気がするけど、初見相手にはやっぱり有効だな。

 

 

「サンド、次こそぶつけてやれ!ころがる!」

「キュイッ!」

 

「カイロス、『あなをほる』だ!潜って躱せ!」

「ロッシ!」

 

 

カイロスが頭の鋏を器用に使って穴を掘り、地中に逃げてころがるを回避される。『あなをほる』はその名の通り、最初のターンで穴を掘って地中に身を隠し、2ターン目に敵を攻撃するじめんタイプの攻撃技。地中に身を隠している間は、相手が出した技は基本的に失敗する。

 

…でも、何事にも例外と言うものは存在する。

 

 

「無駄!サンド、マグニチュード!」

「キュッイィィ!」

 

 

マグニチュードは、相手があなをほるで地中にいる場合でも命中する。ダメージ2倍のオマケつきだ。むしタイプにじめんタイプの技は効果今一つだけど、この状況なら打たない理由はない。

 

サンドが小さな身体で四股を踏むような動作とともに、グラグラと地面が揺れ始める。徐々に揺れが大きくなり、地面にも幾筋かの亀裂が走る。スタンドからもどよめきが聞こえる。これは、けっこう大きい威力を引いたかな?

 

 

「ロ、ロッシャアッ!?」

 

 

揺れに驚いたか、カイロスが地中から飛び出し…あ、コケた。

 

 

「チャンス!いけ、ころがる!」

「キュイッ!」

 

 

揺れもまだ治まらぬ中、サンドが突進を再開する。

 

 

「チッ…なめるな!カイロスッ!」

「ロ、ロッシャァ!」

 

 

しかし、相手も大したもの。この揺れの中で素早く態勢を立て直し、サンドを迎え撃とうとする。

 

 

「ぶちかませッ!」

「キュ…イィィィッ!」

 

「ロッ…!」

 

 

それでも、ズッコケた状態からでは流石に上手くいかなかったようで、サンドを捉え切れずにころがるがクリーンヒット。十分に助走距離が取れなかったため威力の方はお察しだが、まずは先手を取ることが出来た。技を4つ全て見せてしまったけど、出し惜しみなど傍から頭にない。全力でいく。

 

 

「よし、そのまま追撃だ!」

「キュッ!」

 

 

カイロスを跳ね飛ばした時の勢いをさらに加速させて、再びサンドが迫る。

 

 

「キュイィィッ!」

「ロッシャ!?」

 

 

立て続けにクリーンヒット。すなかけが効いているのか、カイロスはどうにもサンドを捉え切れていない。ここまでは良い感じだ。

 

 

「いいぞサンド!続けてころがるだ!押せ、押せ!」

「キュッ!」

 

「カイロス!ちきゅうなげだ!何としても止めろッ!」

「ロ…ッシャッ!」

 

 

しつこく投げようと身構えるカイロスを、嘲笑うようにまた跳ね飛ばす。

 

ころがるは連続で当てる毎に威力が大きくなっていく。カイロスには効果抜群だし、態勢を立て直す前にこの調子で畳み掛けてしまえば、何もさせることなく完封出来る。

 

大きく弧を描きながら進路をカイロスへと向き直し、再び猛スピードで突進する。みるみる内に距離が縮まる。

 

 

 

「…!今だカイロス、あなをほるッ!!」

「ロッシャ!」

 

 

しかし、ブチ当たる寸前であなをほるで躱されてしまった。助走距離がつき過ぎて、余裕を与えてしまったか?ともかく、潜ったならここはもう一度マグニチュードを打ってまた仕切り直し…

 

 

「逃がすな、カイロスッ!」

「ロッシャアーッ!!」

 

「キュッ!?」

「しまっ…サンド!!」

 

 

マグニチュードのために止まることを見越されたように、カイロスが地中から飛び出してそのままダッシュ。距離を詰められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

『そのままちきゅうなげだ!投げ飛ばせ、カイロス!』

『ロッシャー!』

 

 

「さあ、遂にカイロスがサンドを捕まえたぞ!そのままカイロス大きくジャンプ!そして、サンドを地面に投げ落とすぅッ!ちきゅうなげが決まったぁーッ!」

 

「スピードが乗ると、その分止まるのにも距離が必要です。そこまでキッチリ見切ったダイスケ選手の好判断でした」

 

「トーマさんが事前に仰ったとおり、サンドが捕まって一気に勝負が動くのか!投げ落としたサンドにカイロスが追撃!今度は鋏で捕まえて…?投げ飛ばしたぞ!?これはじごくぐるまだ!投げられたサンド、1回2回と大きくバウンド!これは大ダメージだーッ!」

 

「いえ、やはり地力ではカイロスが上のようですが、サンドはまるくなるでよく守っています。まだ十分にやれるでしょう」

 

「勝負はまだまだこれからと言うことでしょうか!?」

 

「はい。ですが、このままだとジリ貧なのは事実。ここで立て直せないようだと、サンドは苦しいですよ!」

 

「序盤カイロスを翻弄したサンドでしたが、ここで攻守逆転!あっという間に苦しくなりました!投げられたサンド、まだ立ち上がりますが、そこへ再びカイロスが迫る!マサヒデ選手とサンドはここからどう立て直すのか!?それともダイスケ選手とカイロスが、勢いそのままに押し切ってしまうのか!?クチバTCPカップジュニア部門決勝戦、白熱した試合展開となっております!」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「カイロス、じごくぐるまァッ!」

「ッシャー!」

 

「くっ…サンド、すなかけ!」

「キュ…キュイ…!」

 

 

サンドが何とかすなかけを放つが、カイロスは意に介さず。あっさりと捕まったサンドが三度宙を舞う。

 

…冗談じゃないぞ。

 

 

「ギュッ…」

 

 

初手のまるくなるが有効に機能しているのか、これだけ投げられてもまだサンドは立ち上がる。ホント、見上げた根性だ。

 

その頑張りに、トレーナーとして何とか報いてやりたい。報いてやりたいが…

 

 

「カイロス、もう一度じごくぐるまだッ!」

 

「くそ、サンド!マグニチュードで近付けさせるな!」

 

 

報いてやりたいが、打つ手がない。この状況、どうすればいい?マグニチュードでは効果今一つ。余程大きな威力を引かないとたぶんカイロスは止まらない。近距離戦になっているせいでころがるにはスピードも威力も出ない。まるくなるは打つ余裕がなく、ことここに至っては用なし。いっそのこと、すなかけ連打で運ゲーを期待でもするか?

 

マグニチュードで再びフィールドが揺れ始めるが、その揺れをものともせずカイロスが迫る。やはり効果今一つではダメか…

 

 

「もう一度すなかけ!」

「キュ、キュイ…ッ」

 

 

止まらないカイロスを見て、すなかけへと切り替えるも向こうは目が潰されないように顔を守りながら、お構いなしに突っ込んでくる。このまま押し切るつもりなんだろう。

 

 

「ロッシャアァァ!」

 

「キュ…キュィ…ッ!」

「サンド…ッ」

 

 

再びサンドが捕まり、頭の鋏でギリギリと締め上げられ、すぐに投げられる。

 

 

「トドメといこう!取っておきだ!カイロス、『はかいこうせん』!」

 

 

『はかいこうせん』…自爆系の技を除いたノーマルタイプ最大の威力を誇り、某チャンピオンが人に向けてブッ放すことで有名な特殊攻撃技。てか、物理型のカイロスにそんな技持たせてんのかよ。

 

レベルで覚える技じゃなかったはずだから技マシンだな?技マシンなんだな?俺はこんなにも技のレパートリーに悩まされているというのに、豪勢に技マシンなんぞ使いよって…ああ、妬ましい!

 

そうしている間にも、カイロスの口元に何かエネルギー的なパワーが集まり、球体を形作っていく。あれは…マズい…ッ!

 

 

「サンド、ころがる!避けろ、避けてくれ…ッ!」

 

 

何度も投げ飛ばされ、それでも立ち上がるサンド。その頑張りを、打つ手なくただ声を張り上げて見守ることしか出来ない自分。いつもと何も変わりはないことなのだが、今日ばかりはそんな自分がもどかしくて仕方がない。

 

やがて、その時は訪れる。

 

 

 

「ロ…ッシャアァァァッ!!」

 

 

滞留していたエネルギー的なモノが一気に解放され、一筋の太い光の奔流と化してサンドを襲う。

 

様子を確認する間もなく、大爆発と迸る閃光、スタジアムに轟く爆音、吹き荒れる砂煙…スタンドがシンと静まり返る中、巻き上げられた砂煙が爆風と共に頬を掠め、吹き抜ける。そして…

 

 

 

「キュィ~…」

 

 

 

…視界を遮っていた砂煙が晴れた後には、立ち上がる気力も体力も尽き果ててしまったサンドが横たわっていた。

 

 

 

「サンド戦闘不能!よって勝者、クチバシティのダイスケ!」

 

『ワアアァァァァ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

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「決着、決着です!カイロス怒涛の追い込みで、粘るサンドをノックアウト!第10回クチバTCPカップジュニア部門優勝の栄冠を手にしたのは、地元クチバシティのホープ・ダイスケ選手!今、手を上げてスタンドからの声援に応えています!

序盤の主導権を握っていたのはマサヒデ選手とサンド!しかししかしダイスケ選手とカイロス!見事にその攻撃を打ち破って攻守逆転、それ以降は何もさせない猛攻で優勝を手繰り寄せました!トーマさん、仰られたとおりサンドが捕まってから試合が大きく動きましたが、如何だったでしょうか!」

 

「まず、ダイスケ選手ですが、序盤はサンドに良いようにしてやられる苦しい出だしとなりました。すなかけで視界を潰され、攻守に支障をきたしていました。そのサンドの流れを、あのあなをほるからの一連の流れで見事に断ち切り、後はしぶとく持ち堪えるサンドにチャンスを与えず、逃さずに押し切りましたね。カイロスの有り余る破壊力と勝利への執念もさることながら、あのワンチャンスを生み出し、モノにした咄嗟の判断力、見事でした」

 

「では、惜しくも敗れ準優勝となりましたマサヒデ選手は如何でしょう?」

 

「序盤の動きはとてもスムーズです。流れるように技を繰り出し、カイロスを翻弄していました。サンドが使っていたころがるやマグニチュードと言った技はまだ見つかって日が浅いのですが、非常に上手く使いこなしていたように感じます。サンドとの呼吸もピタリと合っていたように思いますし、まだ11歳のトレーナーになりたてということも考えると、素質を感じずにはいられないですね。それだけに、形勢逆転以降ほぼ無抵抗に等しかったことは残念です。接近されてからの対応が有効に機能しなかった不運もありましたが、そこは彼とサンドの今後の課題…と言った所でしょう」

 

「マサヒデ選手と言えば、エースのスピアーを決勝戦では使いませんでした」

 

「マサヒデ選手がどういう考えだったのかは分かりませんが、個人的に決勝戦でのスピアーは見てみたかったですね」

 

「マチスさんは今の勝負、如何だったでしょう?」

 

「ベリーグッド!ナイスファイトデース!キッズとは思えナーイレベルだったネー!彼らがチャレンジに来るのが楽しみデース!」

 

「ありがとうございました。クチバ総合運動公園バトルスタジアムからお送りしています第10回クチバTCPカップ、ジュニア部門決勝戦はクチバシティのダイスケ選手が、激戦の末にトキワシティのマサヒデ選手を下し優勝という結果になりました。この後は一般部門決勝戦の模様をお送りします。では、ここで一旦ニュースをお伝えします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…はい、お預かりしたポケモンは元気になりましたよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 決勝戦から時は過ぎ、一般部門の決勝、そして表彰式が終わって少し経った頃のスタジアム内の一室。地元の新聞の記者さんとかテレビとかからインタビュー受けてちょっとビビったりしながら、サンド、そして回復に時間が掛かって預けっぱなしになっていたスピアーの回復が終わるのを待っていた。やがて回復が終わったとの連絡を受け、ポケモン用の医療機器が持ち込まれポケモンセンターのようになっている救護ルームにてサンドとスピアーを受け取る。

 

御覧の通り、俺の初挑戦は準優勝という結果に終わった。この結果を力不足の結果と見るか、エースを欠いた状況で健闘したと見るか…いや、明らかに力不足だよな。サンドも、俺も。カイロスに捕まった後、サンドにもう1つ近距離戦で使える攻撃技があれば状況は変わっていたかもしれないし、あの状況からでも挽回出来るやり方があったかもしれない。

 

サンドで負ければ仕方がないとは言ったものの、いざ負けると後悔が後から後から湧き出してくる。サンドにもう1つ攻撃技があれば、もう少しレベルを上げられていたら、俺が相手の狙いに気付けていれば…勝負と歴史に『もし』は禁物なのは分かってるんだけど、どうしてもね…こればかりは人間と言う生物の、或いは俺と言う存在の性だな。どうしようもない。

 

でも、今回の大会に参加してみて分かった。俺はまだ強くなれる。仲間たちももっと強くなれる。もっと鍛えて、経験積んで、次大会に参加する時は、良い気分に浸れるようにしたいね。そしていつの日かサカキさんをこの手で仕留めるんだ。

 

そうと決まれば、まずは今日の反省。そんでもって、明日からまた特訓だ。差し当たっては、クチバジムの突破が次の目標だな。よっし、頑張るぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…その日の夜、ポケモンセンターの食堂にて夕食食べてる最中にテレビで俺のインタビューが平然と流れてて少し恥ずかしかった。

 

 

 

 




と言うワケで、クチバTCPカップ終了。主人公は残念ながら準優勝という結果でした。まあ、主人公はまだまだ駆け出し、上には上がいるというだけの話です。知識だけはたぶん博士たちが舌を巻くぐらい持ってるんですけど、如何せん戦力がね…

そして試しに試合の途中に実況という名の第三者視点を挟み込んでみた結果…実況のところだけ凄い書きやすかったけど、コロコロ視点が変わるってのは読む側としては如何なモノでしょうか?ご意見いただけると助かりますです、ハイ。

次回はクチバジム戦か、その前に特訓系の話でも挟むか…でも、バッジ1個でのジム戦と考えると、正直サンドとヨーギラスでマチス少佐完封出来そうな気がしないでも…ゲフンゲフン。

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