成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第27話:マチス少佐の新兵教育(2)

 

 

 

 

 

 

「ハッハー!ヘイチャレンジャー!ウェルカムトゥクチバジム!マイネームイズマチス!ここ、クチバジムのジムリーダーネ!」

 

 

息も絶え絶えになりながら、何とかクチバブートキャンプを耐え抜いた俺。30分間の休憩を挟み、案内されたバトルフィールドで待ち構えていたのは、如何にも陽気な外国人というイメージそのままなテンションで話しかけてくる、迷彩服に身を包んだガタイのいい外人。

 

 

「待っていたよマサヒデボーイ!ミーもあのバトルは見させてもらったが、TCPカップファイナリストはフロック(まぐれ)ではないようだネ。多くのチャレンジャーがリタイアするミーのファーストミッションを、まさかファーストプレイでクリアしてくるとは思わなかったヨ」

 

 

彼こそが元軍人にしてでんきタイプのエキスパートである、クチバジムリーダーのマチス。そして、俺にこの地獄を味わわせてくれた張本人。大会でゲスト解説してたこともあり、俺のことは覚えているようだ。

 

開口一番の豪快な笑い声が、疲弊しきった体に響く。身長も高く、目の前に立つと俺がかなり見上げる格好になってしまう。肩幅が広い分余計にそう見えるのかもしれないが、正直首がツラい。

 

流石に5時間超にも及ぶ激闘の後とあっては、たかだか30分程度の休憩で疲れが抜けるはずもなく、心身共に戦う前からすでにズタボロな状態だ。…トレーナーである俺だけ。なんでや。

 

 

「ほとんどのニューフェイスはファーストアタックでギブアップ。ここまで来るのは1度リタイアしたチャレンジャーばかり。ホント、ユーはただのキッズではないようデース」

 

 

…ああ、うん、分かるわ、それ。よほど運が良くないと、まず体力切れで後が続かんわな。俺も最後の1時間どうやってたか記憶にないし。バトルの方はスピアーさんが2戦続けて相手を始末してくれたことだけは覚えてる。というか、余程の幸運に恵まれない限り、絶対に子供は救済条件満たす前にリタイア必須だろ。

 

 

「スピアーもベリーストロング。他のパートナーズもよくトレーニングされてマース。あとはボーイ!ユーのフィジカル&メンタルをチェックさせてもらいマース!この後のセカンドミッション、ユーがどんなバトルを見せてくれるか楽しみデース!レッツ、バトルスタンバイ!」

 

 

そう言って、マチスさんは背中を向けてフィールドの奥へと歩いていく。流石にあのミッションはもう二度と受けたくない。絶対に一発でバッジを仕留める。

 

そんな決意を胸に秘め、俺は審判役のジムトレーナーからジム戦のルール説明を受ける。

 

 

「ではバトルを始める前にルールの説明を行います。今回のジム戦ですが、使用するポケモンはジムリーダー・チャレンジャーともに3体。持ち物はあり、試合中のアイテム使用は禁止、ポケモンの交換はチャレンジャーのみ認められます。では、戦闘準備をお願いします」

 

 

…さて、3vs3とのことだが、俺は選出するポケモンをどうするべきか。タイプ相性を考えればサンドパンは考えるまでもなく確定。ヨーギラスも同様にほぼ確定。残る1体をどうするか…ということになる。

 

残りの今の手持ちがスピアー・ロコン・ラッタ・ナゾノクサの4体。エースのスピアーか、コイル系統を重く見てロコンか、スピードのあるラッタか、でんきへの耐性を持ち状態異常をばらまけるナゾノクサか…まあ、スピアーが安定だな。

 

勝ちたいなら一番強いヤツ出しとけば間違いないでしょ。思考停止でスピアーに決定でいいんじゃないかな。それに、グレンジムで『次のジム戦は使ってやるから』って言っちゃったし。約束は守りましょう。

 

重い身体を引き摺るような足取りで、フィールドに立つ。膝に手を付いて上半身を支えつつ眼前に意識を向ければ、そこには自信満々に構えるマチスさんの姿。

 

 

 

「ヘイ、ボーイ!もう準備はオーケー?」

 

「…ええ、いつでもどーぞ」

 

「オーケー!ジャッジ!」

 

「はっ!では、ただいまよりクチバジムリーダー・マチスと、チャレンジャー・トキワシティのマサヒデによるジムバトルを行います!使用するポケモンはジムリーダー・チャレンジャーともに3体です!」

 

「ミーはエレクトリックポケモンで戦争を生き抜いて来たネ!ポケモンバトル、そんなに甘くナーイ!ハンパなパワーでは、ミーの自慢のエレクトリックポケモンには勝てないヨ!そんな状態でどこまでアタック出来るか、ユーのファイティングスピリッツ、見せてもらいまショー!ユーのポケモンビリビリ痺れさせてあげマース!アーユーレディ!?」

 

 

…ああ、こんな挑戦二度とやるものか。必ずこのバトルを勝って、この地獄から脱け出してやる…行くぞォッ!

 

 

 

「…アイムレディ!」

 

「バトル開始ッ!」

 

 

 

 

 

「…ヨーギラス、いけ…!」

「レッツゴー!ビリリダマ!」

 

 

審判の合図とほぼ同時に、お互いのポケモンがフィールドに降り立った。

 

俺のポケモンはヨーギラス。じめんタイプを持つためでんき技は無効だ。対するマチスさんのポケモンはビリリダマ。いわタイプのヨーギラスには有効な技は確か…ジャイロボールぐらいしか無かったはず。

 

 

「ヨーギラス、いわなだれ!」

「ギィッ!」

 

 

であるならば、ここは押して押して押しまくるのみ!小細工など無用だ!

 

 

「じめんタイプなのは知ってるヨ!ビリリダマ、『スピードスター』ネ!」

「ビリリィッ!」

 

 

ヨーギラスがモーションに入るよりも早く、ビリリダマの周囲に無数の星が浮かび上がり、ヨーギラスへと襲いかかる。

 

そして『スピードスター』は必中の特殊攻撃技。『すなかけ』や『かげぶんしん』といった命中率・回避率を変化させる技の影響を無視することが出来る。

 

だが、そのタイプはノーマル。いわタイプのヨーギラスには、余程のレベル差でも無い限り致命打とはなり得ない。

 

 

「無視していわなだれだ!」

「ヨーギィ!」

 

 

必中技を無理に避けるのは時間と体力の無駄。しかも効果はいまひとつ。ならば被弾する前提で攻めるが上策。

 

スピードスターが次々とヨーギラスに当たり、クラッカーのように弾けて消える。しかし、ヨーギラスは意に介することなくいわなだれを放つ。

 

 

「ビリリダマ!ユーのスピード、見せつけてやるデース!」

「ビリィ!」

 

 

そこそこ広い範囲を襲ういわなだれだが、ビリリダマは素早い動きでその射程範囲から逃れる。

 

しかし、ジムリーダーのポケモンということもあってか速いな。流石はビリリダマ。マルマインへと繋がるその驚異的なスピードは、実際に対峙すると実に厄介。このままじゃ、捉えるだけでも骨が折れそうだ。

 

 

 

…だ か ら !

 

 

「ヨーギラス、『こわいかお』!」

「…!ギィッ…!」

 

「ビッ!?」

「オー、シット!」

 

 

そのスピード、奪わせてもらおうか!ヨーギラスに睨まれたビリリダマのスピードが目に見えてガクッと落ちる。

 

『こわいかお』はすばやさのステータスを大きく下げる技。如何にスピードに定評のあるビリリダマと言えど、これならヨーギラスでも容易に捉えられる。いわなだれを覚えさせた時に『いやなおと』とどちらを残すか迷ったけど、良い方に転んでくれそうで良かった良かった。

 

 

 

…実はヨーギラスが勝手にいやなおとの方を忘れやがっただけなのは、この際水に流すとしよう。なお、こわいかおをしてる時のヨーギラスは、完全にガラの悪い兄ちゃんがガン飛ばしてる時のそれである。

 

 

 

「今度こそ決めてやれ!いわなだれ!」

「ヨーギィ!」

 

「なら、パワーでノックアウトするまでヨ!ビリリダマ、いわなだれに向かって10まんボルト!」

「ビリリィ!」

 

 

素早さを失ったビリリダマで、マチスさんは足を止めての殴り合いを選択したようだ。いわなだれを電撃の奔流が迎え撃ち、雪崩落ちる岩石が次々と砕かれていく。

 

ヨーギラスには効果無しだが、技の迎撃には有効なのか…また1つ、勉強になった。

 

 

「続けて『リフレクター』ネ!」

「ビリ!」

 

 

おー、中々にキレイな光の盾だなぁ…って、リフレクターだと!?

 

 

「チッ…させるな!ヨーギラス、かみつくッ!」

「ギィッ!」

 

 

指示に従い、身体を震わせて盾にも見えるような光の膜を作り出しているビリリダマに向かって、ヨーギラスが突っ込む。

 

『リフレクター』は、一定時間物理攻撃で受けるダメージを半減させる技。そして、今回俺が選出したヨーギラス・サンドパン・スピアーという面子は揃いも揃って物理攻撃がメイン…と言うか、実際問題物理一本なのでこれをやられると非常にマズい。何としても阻止したい。

 

が、その願いも一歩届かず、ヨーギラスがビリリダマを捉えるよりも先に、ビリリダマがリフレクターを完成させる。

 

そして、二歩三歩遅れてヨーギラスがかみつくを叩き込もうとした瞬間、マチスさんは次の手に打って出た。

 

 

「ビリリダマ、ミッションコンプリートネ!じばく!」

「ビリリィ…ッ!」

 

 

…じばく!?ここでか!?

 

 

「くッ…ヨーギラス!下がれッ!」

「ヨッ!?」

 

 

慌ててヨーギラスを後退させようとするも、突っ込み過ぎている。これは…もう下がれない。直接叩きに行った方が早いと思って出した指示が裏目に出たか…くそ。

 

 

「ボンバアァァァァッ‼」

『ドガァァァン‼‼』

 

 

直後、ビリリダマが眩い光と轟音を放って爆発を起こし、身体を持って行かれそうになるほどの爆風と衝撃が、砂埃を巻き上げてフィールドを駆け抜ける。

 

 

「ぐっ…ヨーギラス!」

「ヨ…ギィッ…!」

 

 

ただ、至近距離でくらったとは言ってもじばくもまたノーマルタイプの技。無視出来ないダメージではあるが、ヨーギラスを倒しきるまでには至らない。

 

 

「ビリリダマ戦闘不能!」

 

 

直後、審判からビリリダマ戦闘不能のジャッジが下る。とりあえず先行する形にはなったが、リフレクターを張って自主退場…やられたな。後続が有利に動ける状況を作り、場が整えばさっさと自主退場。あっちでもよくあった戦術・状況だが、前述のとおり俺としては非常によろしくない状況でもある。さて、ビリリダマの後を受けて何が来るか…

 

 

 

「フフフ…ヘイボーイ!ユーにコイツが倒せるかナ?レッツゴー!ライチュウ!」

「ラァイ!」

 

 

マチスさんの2体目は、ポケモンを代表する看板キャラクター・ピカチュウの進化系、ライチュウ。ゲームではマチスさんのエースポケモンだったが…2体目だけど、こっちでもエース…なのか?

 

まあ、エースかどうかはともかく、この状況でライチュウの相手はキツい。ポケモンは進化前と進化後では種族値が違う。故に、ポケモンのステータスはレベルが同じでも基本的に進化後の方が高くなる。でんき技こそ効果無しだが、相手はジムリーダー。じめんタイプへの対策が無いなんてことは考えづらい。何らかの打点はあると考えた方が自然。疲弊したヨーギラスでは、たぶん受け切れないだろう。

 

こちらから弱点も突けない以上、リフレクターが張られたこの状況では、ヨーギラスでの突破は厳しいと言わざるを得ない。なら、どうする?このタイミングで俺も入れ替えるか?

 

 

 

 

…いや、ないな。勝利を目指すならここは続投だ。

 

 

「ライチュウ!ユーのスピード&パワー、見せてやるネ!『でんこうせっか』!」

「ラァイ!」

 

 

ライチュウが一気に加速し、トップスピードでヨーギラスに迫る。

 

 

「ヨーギラス、すなあらし!」

「…ギィッ!」

 

 

迫るライチュウに対して、ヨーギラスはすなあらし。突破は無理でも、後ろが動きやすい状況は作れる。攻撃至上主義のヨーギラスには悪いが、ここは後に繋ぐ動きをしてもらおう。

 

ヨーギラスがライチュウに跳ね飛ばされた直後、室内のフィールドに砂嵐が吹き始める。よし、このままこわいかおも決めて後続に繋ごう。あわよくばリフレクターが切れるまでの時間稼ぎも出来れば…

 

 

「ハッハー!ミーのライチュウはじめんタイプぐらいではノンストップ!追撃の『アイアンテール』ネ!」

「ラァイ!」

 

「うっ…!?ヨーギラス、かm…!」

「ギ!?」

「くっ…」

 

 

…なんて、世の中都合のいいことばかりじゃない。でんこうせっかで得たスピードをそのままにライチュウが繰り出した技は、ヨーギラスには効果抜群なはがねタイプの攻撃技『アイアンテール』。

 

鋼鉄の輝きを放ち出した特徴的な尻尾を大きく振り回し、最上段から叩き付けるようにヨーギラスを強打。避ける間もなくヨーギラスは弾き飛ばされ、壁に叩き付けられた。

 

 

「ヨーギラス戦闘不能!」

 

 

壁際に崩れ落ちたまま立ち上がれないことを確認して、審判からヨーギラス戦闘不能のジャッジが下る。慌てて攻撃の指示を出そうとはしたが、完全に手遅れ。持たせていた『せんせいのつめ』も不発ではどうしようもなかった。

 

それでも最低限の仕事はしてくれた。兎にも角にもお疲れ、ヨーギラス。

 

それにしても、アイアンテールね。こっちに来たばかりの頃は影も形も無かったはがねタイプの存在も、すでに明らかになってそれなりの時間が経つ。第二世代で出て来た技だし、時間の経過がゲームのとおりなら持っていても不思議ではない。

 

 

 

ゲームでは持ってなかったけどな。

 

…ま、アイアンテールぐらいなら問題ない。2番手は予定通りお前に任せるぞ。

 

 

 

「いけ、サンドパン」

「キュイィィ!」

 

「オゥ!そのサンドパン、ファイナルの時のサンドネ!まさか進化させてくるとは思わなかったヨ!」

 

 

サンド改め、サンドパンがフィールドへと飛び出していく。進化したことで大幅なパワーアップを遂げたサンドパン。物理攻撃・防御能力が高く、ライチュウ相手ならアイアンテールがあろうと優位。さらに、サンドから特性の変化もないから、ヨーギラスが残してくれた砂嵐が活きる。リフレクターが残っていることを考えても、五分以上の状況ではある。

 

ああ、勝ちが見えた気がしてテンション上がってきたぜ。さあライチュウさん、リフレクターの上から打ち抜いてやんよ!行くぜ、サンドパン!

 

 

「マグニチュード!」

「キュイッ!」

 

 

即座にマグニチュードを指示。威力は運次第だが、タイプ一致の弱点技だ。リフレクターの上からでもダメージは無視出来まい。

 

 

「ノー!でんこうせっかでストップさせるネ!」

「ラァイ!」

 

マチスさんとライチュウもすぐに反応。でんこうせっかで一直線に突っ込んで来る。

 

でんこうせっかはゲームでは先制技。こっちの世界でも高い瞬発力ものを言わせた先制攻撃に近い技であることに変わりはない。何もなければ、サンドパンがマグニチュードを撃つよりもでんこうせっかがヒットする方が先だろう。

 

 

「…ラッ!?ラァイ!?」

「ワッツ!?ホワァイ!?」

 

 

が、ライチュウのスピード任せの突進は、見当外れの場所を通り過ぎただけに終わる。攻撃を空振ったライチュウが「何が起きた!?」とでも言いたげに辺りを見回している。早速すながくれが一仕事してくれた。盛大に空振って行ったけど、すながくれの状態って相手からはどう見えてるんだろうな。

 

 

「サンドパン、やれッ!」

「キュゥ…イィィィッ!!」

 

 

ポケモンバトルは1つのミスが命取りとなってしまうことが少なくない。上級者との戦いともなればなおのこと、ワンミスが致命的なアドバンテージとなり得る。

 

俺自身が上級者かと言われると全くもってあり得ないと思うが、上級者だろうが初心者だろうが、ゲームだろうがリアルだろうが、バトルにおけるミスの重さは変わらない。あらぬ方向へとすっ飛んで行ったライチュウと、驚きを隠せていないマチスさんを尻目に、勝利を手繰り寄せる一撃…マグニチュードがフィールドを揺らす。

 

揺れの規模は…うん、まずまずだ。サンドパンに進化して、心なしか揺れ…即ち威力が大きくなることが増えたような気がする。視線の先では、立っていられなくなったライチュウが床に倒され右へ左へゴーロゴロ。

 

少しして揺れが治まるが、リフレクターで守られていてもこのダメージは大きいはず。

 

 

「サンドパンッ!」

「キュイ!」

 

「チッ…ライチュウ、ワンモア!アイアンテールダ!」

「ラァイ!」

 

 

転ばされていたライチュウが立ち上がり、サンドパン目掛けて突き進んで来る。それなりのダメージは入っているはずなんだが、そのスピード、パフォーマンスに陰りは見られない。

 

ジムリーダー故の実力か、はたまたリフレクターの恩恵か。まあ、どちらだろうと今俺がやることはただ一つ。

 

 

「マグニチュード!」

 

「させるカッ!」

 

 

サンドの頃からそんなに変わりのない、四股を踏むような体勢でマグニチュードを放とうとするサンドパン。対して逆風の砂嵐の中をものともせず向かってくるライチュウ。

 

恐らくだが、このマグニチュードが決まるかどうかがこの試合の大きなターニングポイントになる。向こうの3体目が何かにもよるが、勝敗の天秤が大きく傾くのは確実だ。

 

 

 

さて、ここで1つ。ライチュウが使っているアイアンテールという技は、はがねタイプの物理技としては最高クラスの高い威力を持つ。しかしゲームにおいて、こと対人戦においては、この技を使用する人は少なかった。何故か?

 

覚えるポケモンが多くない、条件次第でより高い威力になる技がある、そもそも特殊型etc…その低採用率には色々と要因があるのだが、それらの要因の多くには、根源にアイアンテールという技の最大の問題点が存在する。

 

 

 

まあ、要するに何が言いたいのかと言うと。

 

 

 

 

『ブォン!』

「ラッ!?」

 

 

…このとおり外れるワケだ。このアイアンテールという技は。

 

"命中率の低さ"…それが、ゲームにおけるアイアンテール最大の問題点。確率にして4、5回に1度外すことがあるというのは、『かみなり・ふぶき』等と言った各タイプの大技と同程度。ポケモンの技としてはかなり低い命中率になる。そこに特性『すながくれ』による回避率アップ分がさらに引かれ、無事尻尾を振り回すだけな扇風機の出来上がり。

 

ゲームでは多少威力は下がるが安定重視で『アイアンヘッド』、素早さが低いほど高威力になる『ジャイロボール』といった技が採用される場合が多く、何らかの事情が無い限り日の目を見ることが少ない技でもあった。採用率はともかく、命中難についてはどうやらゲームとそこまで隔たりが無いようだ。まあ、横凪ならまだしも上段からの振り下ろしではなあ…さもありなん。

 

 

「キュイイイィィッ!」

 

 

ライチュウの攻撃が立て続けに不発に終わった直後、サンドパンの追撃態勢が整う。揺れは徐々に大きくなり、すでに足腰も体力も消耗しきっている俺も立っていられない程の、1度目よりもさらに大きな揺れとなってフィールド全体を襲う。

 

顔を上げればライチュウが…うわぁ…弾んでる。まるでトランポリンの上で跳ねているかのように…と言うのは言い過ぎだが、ポーンポーンとフィールドに弄ばれている。痛そう。

 

 

「キュイ!」

「ラ…ラィ…」

 

 

揺れが治まる頃、フィールドにいたのは無傷のサンドパンとすでに虫の息なライチュウ。これだけの威力のマグニチュードを2回もくらって倒れないとは…ううむ、やはりリフレクターの効果は無視出来ない。

 

 

「クッ…ライチュウ、スタンダップ!まだバトルは終わってないネ!」

「ライ…」

 

 

ライチュウはマチスさんの叱咤激励に応え、なおも立ち上がろうとする。しかし。

 

 

「ラィィ…」

『ドサッ…』

 

「ラ、ライチュウ戦闘不能!」

 

 

ダメージの蓄積か、それとも砂嵐によるスリップダメージがトドメを刺したか…どちらにせよ、ライチュウの身体はすでに限界を迎えていたようだ。フィールドに倒れこんだライチュウに、審判から戦闘不能のジャッジが下った。

 

これでマチスさんの残りポケモンは1体。これで勝利に王手が掛かった。2体目がライチュウだったけど、3体目は何が来るのだろうか?ラストをエースと考えるのなら、エレブーでも来るのかね?それともサンダース?どうなるにせよ、ライチュウを無傷で突破出来たのは大きい。サンドパン&ヨーギラス、グッジョブだ。

 

そして、砂嵐もまだ吹いている。これをこのまま勝利への追い風にして、何が来ようとクチバジム制覇してやるんだ。

 

ライチュウを戻したマチスさんが、最後のポケモンが入ったボールを構える。さあ、来い…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----

 

 

 

 

「コイル、戦闘不能!よって勝者、チャレンジャー・マサヒデ!」

 

 

…はい、3体目は普通にコイルでした。まあ、バッジ1個のトレーナー相手ならそんなもんだよな。警戒してちょっと損した気分。

 

バトル自体はマグニチュード連打でライチュウよりもあっさりと決着。有効打が無かったのか、『ちょうおんぱ』での混乱を狙ってきたコイル。が、ちょうおんぱはアイアンテールよりもさらに命中率の低い技。砂嵐は変わらず吹き続けている。あとは分かるな?

 

…うん、すながくれ無双のマグニチュード無双で完封して、結局サンドパンは無傷のままゲームセットと相成りましたとさ。

 

 

 

「…フゥゥッ!グゥレイトッ!コングラチュレーションマサヒデボーイ!ミーの想定を上回る、素晴らしいバトルだったヨ!」

 

 

一息吐いているところに、マチスさんが歩み寄って来る。相も変わらずよく通る声だ。

 

 

「少しイジワルしてしまいマーシタが、それでも負けるとはネ!」

 

「…イジワル?何のことです?」

 

「あのライチュウダ。ホントはラストに持ってくるつもりデシタガ、ファイナリストの実力をチェックしたくてネ。まさかパーフェクトに抑え込まれるとは思ってもみなかったヨ」

 

 

ああ、あのライチュウか。やっぱりエースだったんだな。リフレクター挟んでじばくで死に出しとか、『普通に実戦的だな』とは思ってたんだよな。ヨーギラスにサンドパンと、重点的にでんき対策してたから何とかなりましたよ、ええ。

 

 

「ハッハー!まあ、負けは負けダ!ユーの実力を認めてオレンジバッジ、プレゼントしマース!」

 

 

マチスさんから2個目のバッジとなる、オレンジバッジを受け取る。

 

 

「さらに、コイツもプレゼント!これでユーも立派なエレクトリックポケモンソルジャーネ!」

 

 

続けて技マシンも渡される。これは…アレですね?

 

 

「中身は技マシン24『10まんボルト』!でんきタイプのポケモンに覚えさせて、相手をビリビリにしてやるデース!」

 

 

おおおおお!念願のでんき技キター!10まんボルトキター!これでもうみずタイプも怖くない!

 

 

 

 

 

…なお、覚えられるポケモン()。現状だとドガースしかいないんだよなぁ…まあ、のんびり考えましょうか。

 

 

 

「ユーならきっと、もっとハイレベルな場所までランクアップできマース!グッドラックマサヒデボーイ!」

 

「…ありがとうございました!」

 

 

かくして、マチスさんからの激励の言葉を受け取って、俺のクチバジム挑戦は終わりを告げた。

 

クチバジムの入り口を潜って外に出て、数時間ぶりとなる日差しを浴びる。水平線のすぐ上まで傾いた太陽を見ると、制覇したという確かな実感が沸く。

 

ゴミ箱を漁ったり、ゴミ箱を漁ったり、ゴミ箱を漁ったり、ゴミ箱を漁ったり…色々と大変だったが、その苦労も何とか結実させることが出来た。

 

振り替えれば、西日を浴びて聳え立つクチバジム。その姿を見て、俺は思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『二度とこのジムには挑まない』

 

 

…と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてポケセンに帰還後、倒れ込むように眠りについた翌日、俺はこのジムでの疲労が祟って見事に熱を出し、3日ほど寝込むハメになったのだった。そして、今回も出番の無かったスピアーさん、ゴメンよ。次のジム戦こそは必ず出番作ってやるから。

 

 

 




お待たせしました。クチバジム後編、vsマチスでした。何か読み返すと、マチスさんが似非中国人みたいな感じになった上、性格も原作よりもかなりマイルドに…それもこれも作者の文才が無いのが悪いんや。

展開にも悩みましたが、ヨーギラス・サンドパンで完封させる形になりました。なお、ジム戦後トレーナーは倒された模様。

そしてようやく次の街へ迎えそうです。次回から舞台は新しい街へ移ります。その前に閑話を1つ挟むかもしれませんが。

最後に、クチバジム戦に関しまして御提案を下さいましたカド=フックベルグさん、ありがとうございました。また、その他感想いただきました皆様もありがとうございます。いつも励みにさせていただいています。今後も楽しんでいただけましたら幸いです。
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