成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第2話:ゆっくりしていってね!

 

 

 

 

 突然のポケモン襲来。ほんの一瞬の出来事ではあったが、その現実は早くも疲弊気味だった俺の精神に大きな衝撃を与えた。あまりのことに間抜け面でだらしなく口を開けたまま、しばらくの間水面を凝視し続けた。やがて本日数回目の再起動が無事完了したところから、時間が再び動き出す。

 

 

「…え、いやいや、あれってポケモンのアズマオウ…か?どう見ても…だよな」

 

 

アズマオウ。きんぎょポケモン。トサキントの進化系。みず単タイプ。初代から登場していて、ポケモンの世界では地方を問わず淡水っぽい場所なら結構色んな所に生息していて、高レベルの個体になると"たきのぼり"とか"つのドリル"なんかをぶちかましてくる。印象としてはこんな感じのポケモンだったはず。

 

そこまで思い出したところでふと考えが浮かび、周囲の樹上や茂みに目を凝らす。今まではずっと川面とその先に意識を集中させてたから気付かなかったが、そこには「やはり…」と言うべきか「マジかよ…」と言うべきか、至る所にその存在を確認することが出来た。

 

キャタピー・ビードル・ポッポ・オニスズメ・パラス・トランセル・コクーン……意識して見ていると、出るわ出るわ。うむ、見事なまでにポケモンだ。これはもうあれだな、何かの拍子に天文学的かそれよりもさらに低確率のとっても不思議なことが起こって、ポケモン世界に幼児退行して飛ばされた…とでも考えた方が良さそうだ。うむ、頭イカレてんな俺。

 

自分で言っといてアレだが、人に言っても速攻で頭の心配をされそうな内容だ。

 

俺の頭がおかしいのかどうかはさておき、その考えに基づけば、俺が今いるこの森はポケモン世界のどこかということになる。ポケモン世界で森と言うと、トキワ・ウバメ・トウカ・ハクタイetc…何か所か地名が浮かぶが、今見かけたメンツで判断すると、トキワかウバメの森っぽい感じではある。というか、これだけそこかしこにポケモンいるのになぜ気付かなかったし、俺。

 

休日は潰され手ぶらで現在地不明、幼児退行の上でトドメにポケモンときた。夢なら楽しいお話なんだが、困ったことにこれが現実なんだからワラエナイ。

 

 

 

 

 ポケットモンスター…縮めてポケモン。1996年に初代赤・緑が発売されて大きな人気を獲得して以降、続編の制作にアニメ化・TCG化など、日本中の子供たち、引いては幼少期に遊んだ大人たちにも愛され続けている大人気ゲームシリーズである。発売から四半世紀経った今では日本を飛び出し、世界中でも絶大な人気を獲得するに至っている。

 

そして、俺もまたポケモンシリーズのファンの1人。幼少期の俺が一番最初にまともにプレイしたゲームはポケモンで、そこから四半世紀近くをポケモンシリーズと共に歩み、成長してきた。そう言えるほど、俺にとってポケモンシリーズは自身の人生を形作る一要素。だから、実際に本物のポケモンと出会えることはとても喜ばしいことではある。しかし…ポケモンに遭えるにしても、もっとちゃんとした環境で遭いたかった、と願うのは強欲が過ぎるだろうか?

 

それはともかくとして、ここをポケモン世界と仮定するなら、出来る限り早く誰かに助けを求めなくてはならない。何故かって?こんな状態(手ぶら・無一文・幼児退行)で何か危なっかしいポケモンと鉢合わせてみろ。死にかねんわ!ポケモン持たずに草むらに入るのは大人から止められる危険な行為なんだよ!だからチート使って手持ちポケモンもいない状態でこんなところまで来させるのはリアルでは絶対にダメだぞ。

 

 

 

とにかく、一刻も早い第一現地人との接触を、現状の打破を目指し、確固たる意志と危機感を持って俺は再び歩き始めた。そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…誰か…助けてくれよぉ……」

 

 

 

 

 

…無事、脱出できませんでした☆

 

いやいやいや、笑い事じゃないよ!☆なんかつけてる場合じゃないんだよ!命の危険を感じる危機的状況だよ!

 

アズマオウショック以降の出来事を簡潔にまとめると…

 

川に沿って歩く

  ↓

結構な高さの滝の近く(上流側)に出る

  ↓

川沿いを離れて下に降りれる場所を探す

  ↓

MA☆I☆GO

 

 

…以上、本日のDIEジェストでした。いや、森舐めてましたわ、ホントに。歩きっ放しで腹減ってる所にタイミングよく実のなっている木を見つけちゃって、「ちょっと逸れるぐらい問題ないよネ」って軽い気持ちで採りに行ったら、ちょうどお食事中だったピジョンとポッポに散々追い回されて、逃げ回るうちに気付けば来た道を見失い、闇雲に歩き続けてこの様である。おのれあの鳥どもめ…初代では序盤のお供兼"そらをとぶ"要員として世話になったとは言え、この仕打ちは許すまじ。

 

 

 

 かくして今、太陽は木々の向こうへと姿を隠し、空は月を主とする星の海となっている。灯りに関しては月明りだけが頼りな状況で、天気が良さそうな事だけは不幸中の幸いか。ただ、右も左も分からない状況には変わりがなく、そんな状況での夜間の行動は出来ない。

 

これまた幸いなことに、脱出には失敗したが風は無理でも雨は凌げそうな場所と、近場に湧き水、追い回された原因の木とは別の実をつけた木も見つけることが出来たので、食事と住居に関しては一応問題はない。春先でまだ寒さが残っている時期だったために厚着で寝ていたことも幸いし、夜の冷え込みに関しても寒いことは寒いが、耐えられないほどではない。

 

が、文明を感じられる気配は一切無く、時々聞こえるのは風が木々を揺らす音と、恐らくポケモンらしき生物の鳴声だけ。夜の森というシチュエーションと相まって、恐怖と緊張を助長する。

 

そんな状態で寝ることが出来る図太い神経など持ち合わせていない俺は、仮の宿と定めた大木を背に座り込み、ポケットに手を突っ込み、満点の星空を見上げながら今日1日の出来事を振り返ることで気を逸らしていた。

 

静寂と闇が支配するこの場所でじっとしていると、溢れ出る不安と心細さが余計に協調されて、心が圧し潰されそうになる。突然の拉致と衝撃の展開・ポケモンとの衝撃の出会い・ポケモンに襲われたショック・ポケモン世界の木の実(たぶんモモンのみでした)の味etc…なんか衝撃しか受けてない気がするが、それだけ今日と言う1日が濃密だった証だろう。リアルでポケモンを見れたという喜びは…一応あるにはあるけども、それを楽しめる状況というワケでもなく。こんな1日ならいらない。オウチカエシテ…

 

その後も、明日には人に会えるのか?俺は無事に帰れるのか?親や友人たちは今頃何をしているのか?向こうで俺はどういう扱いになっているのか?…様々な考えが浮かんでは、俺の割とガラス製の心を容赦なく抉っていく。不安の種は尽きることなく、俺が疲れ果てて意識を手放すまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が明ける。日が昇る。身体を起こして周りを見回せば、住み慣れたマンションの自室が…

 

 

「…だと良かったんだけどなぁ…」

 

 

…なんて、当然そんなことがあるはずもなく、顔を見せ始めた太陽が照らし出すのは四方を取り囲む木々の群れ。空を見上げれば甲高い鳴声と共に悠々と空を駆けてゆく鳥…おそらくオニスズメたち。あんな状況でも、疲れれば人間の身体と言うのは睡眠を求めるようで、何時の間にか寝ることが出来ていたらしい。比較的厚着をしているとは言え、時期が時期だけに早朝はまだ肌寒かった。夜の間にヤバいポケモンに襲われなかったことだけはよかったと思うが、とりあえず俺の苦難はまだ終わらないということらしい。

 

本格的に遭難して命を落とすダメな登山者と同じ道を突き進んでいるという指摘はしない方向で行きたいと思う。今自分を信じられなくなくなると、もうどうしていいか分からなくなりかねない。時には空元気も必要なんだ。

 

状況を確認し少し落胆したが、立ち止まったところでどうにもならない。動かねば未来は切り開かれないのだ。そのために必要なのは、まず腹ごしらえ。腹が減っては戦は出来ぬ…だ。そういうわけで、まずは昨日もお世話になった実のなる木へ果実を採取に向かうことに。

 

ところが…

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビー!」

 

「………」

 

 

昨日の木の下で俺はソイツに出会った。というか、目的の木でお食事中だった。初めてのまともなポケモンとのエンカウントだ。不用意に近付いたせいで完全に気付かれてる上にスゲー威嚇されてるんですが、どうしたらいいだろうか。

 

ソイツ…茶色っぽい身体に赤い鼻の毛虫っぽいポケモンの名前はビードル。タイプはむし・どくの複合タイプ。アズマオウ同様、初代から登場するポケモン。進化するのが早いけど総合的な能力…ポケモン廃人の基礎知識である3値の一つ、種族値の合計が低い序盤むしタイプポケモンの先駆け的存在。最終進化であるスピアーは、少し前にメガシンカを貰って相手は選ぶけど凶悪な火力を手に入れた。ちなみに俺は別にポケモン廃人ではないことだけは断っておく。知識として知っているだけである。

 

以上、ビードルに関しての俺の印象でした。ちなみにスピアーは現状で出会いたくないポケモン筆頭格である。

 

とりあえず現状を整理すると、俺は木の実が欲しいが、その木では現在ビードルがお食事中。向こうは俺に気付いており、すでに威嚇&迎撃態勢。可愛らしいが、無防備な状態の自分にはあの毒針を向けられるのは怖い。しかし、食事にありつくには恐怖を乗り越えてアイツをどうにかしなくてはならない。さて、どうしたものか…

 

 

 

 

 

~ケース1:お願いしてみる~

 

 

「ビードル、俺が用があるのはその木の実なんだ。お前の飯は葉っぱだろ?邪魔はしないから採らせてくれよ、な?」

 

「ビー!ビー!」

 

 

すごい警戒されてて全然聞き入れてくれそうにない。と言うか、言葉が通じてるか分からん。

 

 

結果:失敗

 

 

 

 

 

~ケース2:下手に出てお願いしてみる~

 

 

「いや、ホントお願いしますよビードル様。この哀れな男に木の実を恵んでは下さいませんか?」

 

「ビー!ビー!」

 

 

下手に出ても効果なし。まあ、人間相手じゃないし当然か。そしてやっぱり言葉が通じてるか分からん。

 

 

結果:失敗

 

 

 

 

 

~ケース3:食べ終わるのを待つ~

 

 

『ムシャムシャ』

『モキュモキュ』

 

「ビー!」

 

「いや、食い終わったんならどっか行ってくれよ」

 

 

野郎、食事が終わっても居座りやがった。しかもなんか馬鹿にされてるような気がする。

 

 

結果:失敗

 

 

うむむ、今日は腹ごしらえしてからまた助けを求めて歩き続けるという重大な任務が待っているんだ。いつまでも悠長に待っている時間はない。こうなってしまったのなら是非もなし。最終手段だ。ビードルぐらい今の俺でも何とかなる!…と信じたい。

 

 

 

 

 

~ケース4:強行突破~

 

 

「ええい、これじゃあ埒が明かねぇ!お前のことなんか知ったことか!こっちにも予定ってもんがあるんだ!木の実食わせろ!」

 

「ビー‼」

 

「あ、野郎何か撃ってきやg『プスッ!』った…って痛ってぇ‼」

 

 

このままでは無為に時間を失うだけだと思い、最短距離で一直線に木の実の奪取を目指してみたが、すぐに左手の甲に衝撃と痛みが走り、よろめきながら後退する。アイツが何か飛ばしたのは見えたが…今のはもしかしなくても"どくばり"か!?

 

そう思い至った次の瞬間には、追撃の一発が飛んできくる。慌てて回避し、刺された左手を庇いながらヤツに向き直る。

 

"どくばり"はポケモンの技で、威力は低いが結構な確率で相手を『どく』の状態にする効果がある。確率は…確か3割。

 

まずいぞ。状況があまりよろしくない。狙いが正確だし、ある程度連射も出来る様子。これ以上近づくのは骨が折れそうだし、そもそも毒針を喰らった以上、すぐに手当てをしなければ最悪俺の命が危ない。何か悔しいが、命は惜しい。ここは素直に古の素晴らしい知恵に則るとしよう。

 

三十六計逃げるに如かず、命を大事に、だ。

 

 

「覚えてろよビードルゥ!!」

 

「ビー♪ビー♪ビ、ビー♪」

 

 

ある日森の中で熊さんに出会った時のお手本のように、後ろ向きのままビードルから目を逸らさずジリジリと後退。"どくばり"の(たぶん)射程圏外まで下がったところで、物語の世界によくいそうなチンピラの如く捨て台詞を吐いて逃走した。咄嗟に出てきた言葉が何故かそれだった。物凄く勝ち誇ったように樹上で跳ねるビードルの姿に、得も言われぬ悔しさが募る。実に屈辱的だ。

 

腫れてジンジンと痛みが出て来た手を気にしつつ、ポケットから貴重な俺の所持品の一つ、ハンカチを取り出し左腕をきつく縛る。『今に見てろ』と雪辱の誓いも一緒に乗せて。その状態で、傷口を洗い流す為に湧き水を目指して駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、あれから割と必死こいて対応したおかげか、幸い命がどうこうとまではならなかった。或いはビードルの毒性自体が人間をどうこう出来るほどのものではなかったのかもしれない。しかし、大丈夫というワケでもなく、左手の腫れと痛みは中々引かず、ようやく治まってきた頃には時刻はすでに夕方。腹は減ったがまた木の実を採りに行く気にはなれず、かと言って助けを求めて歩き出す気力も時間もすでになく、この瞬間二日連続での野宿が決定した。

 

仕方なく水だけで腹を満たすと、昨日と同じ場所で野宿の態勢に入り、相変わらず満天の星空に浮かぶ三日月に『明日こそどんなことがあっても木の実を腹いっぱい食べる』と決意を誓う。さらにこの状況が好転するように、あわよくば家に帰れるように願い、祈りを捧げながら、俺のポケモン世界2日目は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 その日、俺は夢の中で声を聞いた。その声の主が誰で、どういう状況での発言だったのか、翌朝目覚めた時にはぼんやりとしか思い出せなくなっていた。しかし、それはビ-ドル、延いては世界に敗北寸前だった俺への慰めとも、はたまたその醜態に対する嘲笑とも取れたその言葉だけは、はっきりと覚えていた。

 

 

 

 

『ゆっくりしていってね!』

 

 

 

 

喧しいわ‼

 

 

 

 

 

 

ケース4結果:完全敗北

 

 

 

 

 

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