成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第28話:ボスのきまぐれ

 

 

 

 皆さんこんにちは。クチバシティの軍隊式スパルタジムを気力と根性(とタイプ相性)で見事攻略したものの、体力切れによる場外でのノックアウトをくらったマサヒデです。無事熱を出して3日ほど寝込んでました。

 

あの後体調の快復を待って、俺は以前クチバ支社で支社長と交わした任務(おつかい)を遂行すべく、ヤマブキシティを目指しクチバシティを出発。

 

流石はカントー地方の中心都市、中心地域なだけあって、道も整備されてるし、バスやタクシーといった公共交通機関もあるしでその行程はトキワ~マサラ間と比べると快適そのものだ。無論、節約のために徒歩での旅路ではあったが、それでもクチバから1日と経たない内に辿り着くことが出来た。

 

ゲームでは街と周囲を繋ぐゲートが始めは封鎖されていたが、こっちではまだそんな事はなく、普通にフリーパスで。トレーナーズスクールの大会でタマムシシティに遠征して以来、約半年ぶりとなる大都市の夜景を堪能しつつ、ポケモンセンターで一泊する。

 

ヤマブキシティの中心部は、高層ビルやらタワーマンションやらが群れをなして聳え、道路は小さな路地一本に至るまでキッチリ整備され、その道の両脇にはポケモン関連商品の店、今時な喫茶店、高級ブランドっぽいブティック等がびっしりと埋め尽くし、行き交う人と車と活気と喧騒で満ちていた。

 

昨日まで滞在していたクチバシティも、カントーの海の玄関口なだけあって結構なものだったが、ここはそのさらに上を行っている。

 

『ヤマブキ金色輝きの色、光輝く大都会』

 

そのキャッチフレーズに偽りなし、だ。

 

 

 

さて、ゲームにおけるヤマブキシティと言えば、ゲーム中盤から後半にかけて、ロケット団との全面対決の舞台となる『シルフカンパニー本社ビル』があることで有名だ。こちらの世界でもモンスターボールをはじめ、ポケモン関連の商品開発・販売で押しも押されぬ世界的大企業の筆頭格。ゲームではロケット団に本社丸ごと乗っ取られてたけど、この頃から企業スパイみたいなのを送り込んでるのかね?まぁ、今の俺には関係無い話。出来れば今後も関わりたくない案件ではある。全部レッド君に任せとけばええんや。

 

他には、この街にもポケモンジムがある。専門とするタイプはエスパーで、ジムリーダーはナツメ。スタイルの良い美人さんで、人気のあるキャラだった。後の作品では女優になってたりもしたな。そしてゲームではガチのマジのエスパーだった。でもプレイヤーには勝てない。仕方がないね。

 

そして、そのヤマブキジムの隣に『格闘道場』というジムっぽい施設がある。ゲームでの時間軸以前の話になるが、格闘道場とヤマブキジムがポケモンリーグ公認を巡って直接対決を行った末、ゲームのヤマブキジム側が勝利し、リーグ公認ジムの座を勝ち取った…という内容がゲームでも言及されていた。

 

で、今はそのゲーム開始時の数年前。つまり、どうも現在進行形でリーグ公認を巡って激しく鍔迫り合いしている真っ只中だったらしい。ポケモン協会が裁定に向けて動いているという話をニュースでやってた。ゲーム通りなら、そして相性的にもエスパーのヤマブキジム側が勝つとは思うが…さて、どうなることやら。

 

他にも俺をここまで散々悩ませてくれた"サイコキネシス"の技マシンをくれるエスパー親父の家とか、"ものまね"の技マシンをくれる物真似娘の家とかがある。今はまだ建設途中だが、後にはリニアの駅も出来る。

 

そんな見所いっぱいの大都会の空気に、興奮冷めやらぬ若干寝不足気味な夜を過ごした俺。この街ではどんなことが待っているのだろうかと、期待に胸を踊らせていた。

 

純粋にこの街を楽しもうと思っていた。そう、この時はまだ。

 

 

 

 

 

 

で、今現在の俺がどこで何をしているのかと言うと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブロロロロ…』

「……………」

 

 

 

 

 

…はい、半ば無理矢理車に乗せられ、遠くなるヤマブキシティのビル群を車内から呆然と眺めていた。ああ、さらばヤマブキシティ…短かったけど、楽しかったよ。

 

別に拉致されたとかそういう犯罪に巻き込まれたワケではない…いや、ある意味巻き込まれているのかもしれないが、下手人は俺もよく知っている人なので取り敢えずはご安心を。そしてヤマブキシティへの滞在時間、なんとびっくりの1日未満。どうしてこうなったし。

 

 

 

俺の身に何があったのかを語るには、今から1時間ほど前。クチバ支社で預かった試作品を届け、使用感について報告するために俺がトキワコーポレーションヤマブキ支社を訪れたところまで遡る必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「ようこそ。お待ちしていましたよ、マサヒデさん」

 

「…どこにでもいますね、セドナさん」

 

「ふふ、いるところにしかいませんよ」

 

 

 時間はヤマブキシティに到着した翌日の昼過ぎ。前日の夜に支社側に事前に訪問する旨をポケギアで伝え、昼食を済ませた後に約束の時間通りに俺はヤマブキ支社を訪ねていた。

 

通された部屋で待ち構えていたのは、担当者でもヤマブキの支社長でもなく、クチバ支社で会って以来約2週間ぶりとなるセドナさん。フットワークが軽いというか、ホントどこにでも現れるよな、この人。

 

 

「まずはTCPカップ準優勝とクチバジム攻略、おめでとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

「社長もお喜びでしたよ。私としましても、勧めてみた甲斐があったというものです」

 

 

にこりと笑顔を浮かべて穏やかに話すセドナさん。先入観なしで見れば、品の良い美人さんなのだろうが、俺としては胡散臭いものを見ているような気分だ。サカキさんのお褒めの言葉含めて、とっても胡散臭い。あの人が地方の子供だけの大会で準優勝したぐらいで褒めたりするもんかよ。

 

 

「それで、本来であればこのまま試作品をお預かりして、使用していただいた感想をお聞きしたいところなのですが…」

 

「…?何ですか?」

 

「ええ、少し事情がありまして」

 

 

『コンコン』

 

「…来たようですね。どうぞ」

 

 

 

セドナさんがそう言った直後、事前に示し合わせたかのように部屋のドアをノックする音が響く。何が来るかと身構えてみれば、入ってきたのは偉そう…でもなんでもない、普通のスーツ姿の男性社員さん。

 

 

 

「失礼します、御車の用意が出来ました」

 

「ありがとう。…さあ、行きましょうか」

 

「…はい?行くって、どこへ?」

 

「マサヒデさんの口から直接確認したいそうでして。予定がありますので、こちらから出向いて欲しいとのことです」

 

「いや、だからどこへ行くんですか!?」

 

 

ここまでで既に嫌な予感がビンビンで、大音量で警報を鳴らしまくっている。しかし、ここはトキワコーポレーション・ヤマブキ支社という名の相手の土俵。深入りし過ぎた俺に逃げ場などあるはずもない。

 

セドナさんには察しが悪いわね的な顔をされたが、何となくその先に待つ内容は理解出来た。出来てしまっていた。出来れば聞きたくないその答えを、彼女はヤレヤレという感じで続けたのだった。

 

 

 

 

「社長がお呼びです。タマムシシティの本社まで、一緒に来てもらいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

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「さ、着きましたよ」

 

 

…と言うわけで、ざっくりばっさり要約すると『サカキさんの都合』の一言で片が付いてしまう今回の召集のため、売られゆく可哀そうな仔牛の気分に浸りながら車に揺られること1時間。目的地のタマムシシティ・トキワコーポレーション本社ビルにとうちゃ~く。

 

そしてビルを見上げて一言、でけぇ。流石はあのシルフカンパニーと比肩するほどの大企業。周りのビルよりも一回り大きい。横にも縦にも。

 

セドナさんに着いて、このでっかい本社ビルの中へ。忙しなく動き回る社員さんたちの波を掻き分け、エレベーターに乗ってサカキさんが待つという最上階へ。

 

内心冷や汗ダラッダラ。でもラスボスは待ってはくれない。むしろ時間がないと急かしやがる。ゲームじゃいくらでも待ってくれるのにな。エレベーターからは街の様子を一望出来るのだが、正直それどころではなかった。

 

 

 

 

『コンコンコン』

「社長、セドナです。マサヒデさんをお連れしました」

 

『入れ』

 

 

 

最上階の社長室。装飾が施されたドアの向こうから、約1ヶ月振りとなる威厳と威圧感を纏ったラスボスの声。多少は慣れたつもりだったが、今でもやはり少し気圧されてしまう。

 

そしてこの声を聞くと、俺の身体は反射的に戦闘態勢に入る。もう会うたびに精神と寿命をガリガリ削ってるような感じ。この感覚だけは、出会って3年経っても一向に治らない。

 

 

 

「失礼します」

 

「セドナ、ご苦労だった。そしてマサヒデ、1ヶ月ぶりだな」

 

「はい、お久しぶりです」

 

 

そこには椅子にどっかりと座ってふんぞり返っている、1カ月前と変わらないサカキさんの姿。傍らにはセドナさんとは別の秘書さんの姿もある。サカキさんとはずいぶんと長いこと会ってないような気もするが、最後に会ってから1カ月しか経っていないのでは変わりなくて当然の事か。

 

 

「久しぶりと言うほどでもないような気もするが…オマエはこの一月でだいぶ変わったようだな。大会準優勝とグレンジム・クチバジムの制覇、話は聞いている。よくやった…と言っておこうか」

 

「…ありがとうございます」

 

 

この1カ月の頑張りについて、一応お褒めの言葉を貰うことが出来た。褒めてるのか貶してるのか、判断に困るような口調と表情だったけど。言外に「もっとやれるだろ?」と煽られてるような気がしてくるのは自意識過剰か?

 

 

「それと、荷物の配達に試作品のテストもご苦労だった。グレンでは研究所の手伝いもしたそうだな。先方から感謝すると連絡があった」

 

「研究所の?…ああ、ポケモン屋敷の件ですか。僕としても色々収穫がありましたので、手伝って良かったです」

 

「そうか。では、早速だが試作品について、実際に使ってみた感想を聞こうか。私も時間が限られているのでな…おい、開発担当を」

 

「はい、すでに呼び出して待機させております」

 

「そうか、では入らせろ」

 

「かしこまりました…どうぞ」

 

「ハッ、失礼します」

 

 

 

そう言って入ってきたのは、開発担当の研究員の白衣を身にまとった赤い髪の女性。この人、どこかで見覚えが…

 

 

「…あなたがマサヒデくんね?サカキ様から話は聞いているわ。あたくしはアテナ。トキワコーポレーション技術・製品開発部長よ。よろしくね」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 

 

…思い出した。この人あれや、第2・4世代で出てたロケット団の幹部や。何なの?俺、今から堅気じゃない道(そっち)に引きずり込まれるの?突然のことに、思わず頬やら背中やらを冷や汗が伝う。

 

そんな状態の中で、さらに数名の部下らしき研究員然とした面々が入室。まずはその研究員たちが報告を行い、その後引き攣りそうになる顔を何とか抑え込み、預かっていた試作品のアイテムについてこの1カ月使ってみた俺の感想と報告を行う。

 

 

「トキワシティで受け取った持ち物は、全て効果は確かに確認しました。特に"きあいのハチマキ・せんせいのつめ"は発動率が低く不安定でしたが、持たせるポケモン次第で『ここぞ』という局面で盤面をひっくり返せるだけのポテンシャルがあると思います。実際、グレンジムリーダー戦では、勝利に繋がる大きな一手になりました」

 

「なるほど…やはりあたくしたちの見立ては間違いではなかったようですね。ええ、悪くない結果ですわ」

 

「それと"シルクのスカーフ"についてですが、確かに威力の強化は確認出来たのですが、微々たるものですね。僕の手持ちポケモンの覚えているノーマル技だとそれを体感出来る局面が少なかったのもありますが、もう少し使ってみないと何とも言えません。それと、最後に"きあいのハチガネ"についてですけど…これ、効果あるんですか?防御が上がるとのことでしたけど、正直…」

 

「…そう、分かりました。ともあれ、有意義な意見です。部内に持ち帰って参考にさせていただくわ。それと、実物の方を検査させてもらいますので、一度預からせてちょうだいな」

 

「分かりました」

 

 

 

持ち物として持たせていたポケモンたちをボールから出し、それぞれ試作品を預かっていく。スピアー、サンドパン、ヨーギラス…と出したところで、この人が反応した。

 

 

「…ほぉ。それがヨーギラスか」

 

 

じめんタイプのエキスパート、サカキさんである。鋭い目つきで観察するサカキさんに気付いたヨーギラスが、思いっきりメンチを切り返す。おいバカ、やめろ。

 

 

「話には聞いていたが、中々威勢がいいじゃないか」

 

 

ええ、そりゃあもうやんちゃ盛りですよ。仲間にしてからというもの、何度コイツに手古摺らされたことか…

 

 

「…フ、面白い。やんちゃなヤツは嫌いじゃない…マサヒデ」

 

「は、はい?」

 

「部屋を用意させる。しばらく泊っていけ」

 

「え?」

 

 

何が琴線に触れたのか、サカキさんがヨーギラスに凄い興味を示している。まあ、カントーじゃまず見ない珍しいポケモンだからかな?オーキド博士から預かったことは報告してあったけど、実際に見るのは初めてなのかもしれない。それにじめんタイプだし。

 

 

「少しそのヨーギラスに興味が湧いた。予定の空いてるときに私が見てやろう」

 

「え…え!?い、いや、それは…」

 

「なんだ?不満か?」

 

「いえ!了解であります!よろしくお願いします!」

 

「よろしい」

 

 

サカキさんが、ヨーギラスを鍛えてくれるそうです。やったね俺、やんちゃ坊主が大人しくなるよ!

 

…それはいいとして、サカキさん。それはアレですよね?「おーいヨーギラスー、野球しようぜー!お前ボールな!」的なスパルタ式のヤツですよね?んでもって俺も強制参加っていう話ですよね?「おーいマサヒデー、野球しようぜー!お前グラブな!」ですね?存じております。

 

ついこの間クチバジムで死ぬ思いしたばっかりなのに…

 

 

「それと、コイツを受け取れ」

 

「うわっと」

 

 

俺が心の中で絶望感に打ちひしがれているところへ、サカキさんが無造作に投げて寄越したのは1個のモンスターボール。中には…何かポケモンが入っているようだ。

 

 

「サカキさん、これは?」

 

「ジムを2つ制覇した祝いだ。本当はゲームコーナーの景品として仕入れた奴なのだが、景品とするには少々手に余る性格で売り物にならん。代わりにオマエにくれてやる。ものにして見せろ」

 

「は、はい」

 

 

どうも、この1カ月の頑張りに対するご褒美らしい。何やら問題児の匂いがプンプンするが、戦力強化には違いない。有難く貰っておこう。

 

…それと、ポケモンの売買って大丈夫なんすかね?

 

 

「…時間だな。では、セドナ、アテナ、後は任せる」

 

「はい」

「はっ!」

 

 

そう言って、サカキさんはもう1人の秘書さんを連れて社長室を去って行った。アテナさん以下の開発部組の皆さんも退出し、それに続いて俺とセドナさんも退出。その後、本社ビル内を案内してもらってから、宛がわれた部屋へと向かった。

 

流石は大企業の本社ビル。社員食堂や売店は勿論の事、風呂にトレーニングジムに託児所。果てはバーに雀荘まで完備していた。ポケモンを遊ばせる屋内広場に、ポケモンバトル用のフィールドも設備のしっかりしたやつが3つもある。

 

俺が宛がわれた部屋は来賓用の客室…ではなく、本社ビルから少し離れた所にある社員寮の空いていた一室。テレビ・冷蔵庫・洗濯機にパソコンが備え付き。子供部屋と考えれば十分すぎるほどの設備と広さを持っていた。

 

 

 

この後は特にやることもないとのことで、セドナさんからも「自由に過ごされていいですよ」と言われたので、まずは気になっていたサカキさんから押し付けられた(もらった)モンスターボールの中身を確認…する前に、すでに日も大きく傾いていい時間になっていたので、社員食堂の片隅で少し早めの夕食をいただいた。

 

その後、軽い運動も兼ねて屋内のバトルフィールドにてお待ちかねのモンスターボール御開帳。問題児とは言うが、たぶんヨーギラスよりは酷くないだろ?

 

そんな軽い気持ちで見えてる地雷を思いっきり踏み抜きにいった結果、案の定散々な目に遭うハメになるのだが、その話はまた次の機会にしよう。

 

 

 

…まあ、実際ヨーギラスよりはマシだった…のだろうか、アレは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「………」

 

「社長、どうかなされましたか?」

 

 

 時間は戻って社長室での話の少し後。自身の城であるトキワジムへと戻る移動中の車内にて、サカキは考え込んでいた。気付いた秘書が、どうかしたのかと問いかける。

 

 

「僕の手持ちポケモンの覚えているノーマル技だとそれを体感出来る局面が少なかった、か…」

 

「…?それは先程の?」

 

「そうだ」

 

 

サカキが考えていたのはつい先ほど、自信の立会いの下タマムシ本社ビルで行われた試作品についての報告での一幕。1カ月ほど前に自身が保護し、トレーナーとして送り出した少年が行った、自社が開発した商品を実際に使用してみた感想に、引っ掛かるものがあった。

 

 

「"シルクのスカーフ"だったか。威力増加の効果が一部の技にしか効かない可能性があるという報告は開発部から受けた記憶があるが…」

 

「ええと…はい、そうですね。そのような報告がつい先日開発部より上がっております」

 

「つい先日…か。ならば、あ奴はどこでそのことを知った?」

 

「…そう言えば、そうですね」

 

「それに、あ奴はノーマルタイプの技にしか効果が無いと断言した。何故だ?」

 

「それは…」

 

 

サカキがマサヒデに預けた試作品・シルクのスカーフ。試作品であるが故に、まだ効果のほどが不明確だったり問題点があるのは当然の事。仕方のない話なのだが、この試作品が抱える問題点に『技によって威力の強化がなされないことがある』というものがあった。

 

この問題点が報告されたこと自体がつい最近の話で、今も原因究明と改善を目標とした試行錯誤が続いている。当然、彼に渡した時にはそんなことなど分かっていなかった。だと言うのに、彼は何の情報もなしにそこまで辿り着いた。しかも、さらに踏み込んで効果があるのは『ノーマルタイプの技』と言い切っていた。これが気にならないはずがない。

 

ノーマルタイプの技にしか効果を発揮しないという答えが正しいかどうかはともかく、僅か1カ月程という極短期間で、どういう経緯でその結論に行き着いくことが出来たのか。

 

 

「これは少し、問い詰めてやる必要があるな」

 

「確認をとらせますか?」

 

「そうさせろ」

 

「はっ」

 

 

素早くポケギアを取り出し、目的の部署に連絡を入れる秘書の姿を横目に、サカキは車窓の外へと視線を移す。流れてゆく風景と木々の向こうに、遠くなるタマムシシティのビル群が見えていた。

 

3年前にあの少年を保護してからと言うもの、面白い方向に世界が回り始めた…そうサカキは感じていた。マサヒデから情報提供を受けて確保させた各種木の実は、試行錯誤を経てその効果の確認と栽培技術の確立の目途が立ちつつある。彼が見つけたいくつかの技も、サカキの実績として学会を通して認知された。

 

そして、マサヒデ自身もサカキが(厳密には違うのだが)目を離していた間にサンドを進化させ、手持ちを増やし、ジムを2つ攻略し、会社が主催していた地方大会で準優勝するなど、メキメキと力をつけつつある。

 

が、約3年間サカキ自身が手を掛けていた少年だ。発展途上とは言え、その才能と実力はよく知っており、まだサカキにとっては予想の範疇だった。

 

もっと強く、もっと高みへ。オマエの限界はこんなものではないだろう?

 

 

 

「フ、なかなか楽しませてくれるじゃないか」

 

「…サカキ様?」

 

「なんでもない、気にするな」

 

 

男子3日会わざれば刮目して見よ。次のステップへの第一歩として、まずはこの1カ月でどれだけ実力を伸ばしたか、見せてもらおうじゃないか。

 

そんな思惑を乗せて車は進む。サカキが思考の海に沈んでいる間に、タマムシのビル群を望む車窓の風景は、いつの間にか木々に阻まれ見えなくなっていた。

 

 

 

 




クチバの次はヤマブキと思ったかい?それともシオン?ニビ?残念、すっ飛ばしてタマムシでした。じめんタイプジムリーダーの血が騒いだか、我らがサカキ様がヨーギラスを矯正ついでに鍛えてくれるようです。なお、主人公はとばっちりで巻き添えをくらう模様。ついでにチョロッとアテナさんも添えてロケット団要素を醸してみるスタイル。

それと同時にこっそりさっくりとやらかしを積み上げていくこの主人公。この後セドナさん経由でやんわりと問い詰められて、やらかしたことを悟ったようである。

それにしても、前回の閑話の男性トレーナーについてのコメント。こちらで誰とは書きませんが、皆さん流石は歴戦のトレーナーでいらっしゃいますな。例のポケモンに関しては『あっちじゃないと捕まえられないだろう』との判断で、本作ではまだ未加入となっております。ご了承下さい。

次回は主人公強化月間です。原作キャラを何人か出せたら良いな~…などと思っている次第。そしてサカキ様からもらった贈り物(ポケモン)も次回のお楽しみということでひとつ。

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