成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第29話:未来を担う者たち

 

 

~TCP本社ビル・屋内バトルフィールド~

 

 

 

「ラストだ!ヨーギラス、かみつく!」

「ギィッ!」

 

「ベトォ…!」

 

「ベトベター、戦闘不能!勝者・マサヒデ!」

 

 

 

 サカキさんに言われるがままタマムシシティに腰を下ろして早1カ月。ちょっと怪しい(と思っている)社員さんたちを相手に、バトル技術とレベルアップを図り、技術・商品開発部から提供された試作品のテストと称するバトルに付き合い、時折顔を見せるサカキさんに成長具合の確認と称してボッコボコにされる日々。

 

1カ月という長いようで短いクールタイムを経て、今の俺はトキワシティにいた頃とそう大差無い生活を送っていた。

 

変わったことと言えば、手持ちが増えたことで特訓内容のバリエーションが増えた。スピアー1匹だった1カ月前までと比べると、やることも多くて大変だ。特にサカキさんの専門でもあるじめんタイプのサンドパン・ヨーギラスへの特訓は、心なしか他と比べて厳しいように感じる。それと比例して俺の休憩時間が減った。辛いです。

 

提供される試作品のバリエーションが増えて、戦略の幅が広がったことも挙げとかないと。おかげでバトルが少し面倒臭くなった。サカキさんに拾われた際に提供した各種木の実。まさか栽培技術を確立しつつあったとはな…いや、まあゲームでは普通に栽培して増やせたから当然の事なのかもしれないが。

 

そして、技術部の方々から向けられる鋭い視線の存在…ええ、またしてもやらかしてしまいましたよ、ド畜生が。二度とやるものかと思っていたんですけどねぇ…特性と技に関しては注意していたんだが、『開発されてない物があるはずない』と持ち物はほとんどノーマークだった。というか、あんなの気付くかよチクショオォォォォ!

 

…いやぁ、思い込みって怖いネ。これじゃあ怖くて持ち物も迂闊に使えないよ。

 

お陰でバトル中はモチロンのこと、日常生活の中でもどこかにある気がする監視の目を気にして精神を磨り減らす思いをしております。自業自得ではあるが、俺の安息の日々は何処へ行ってしまったのか…

 

 

 

「よし、ヨーギラスいいぞ!」

「…ギィ」

 

 

 

ただ、悪いことばかりじゃない。表があれば裏があり、光あるところには影が出来るように、行動には結果が着いてくるもの。腐っても犯罪者でも、鍛練の相手はジムリーダー。スピアーですら防戦一方なレベルでボッコボコにはされまくったが、おかげで手持ちポケモンたちの全体的なレベルの底上げには成功していた。

 

中でも特に重点的に鍛え(ボコ)られたヨーギラスの成長は目覚ましく、無闇矢鱈と突っ込むことがほとんどなくなり、今ではご覧の通り大人しく言うことを聞いてくれるまでに気性が改善した。バトルに関係のない時でも、馴れ合いはしてくれないが距離は縮まった…と思う。

 

 

 

…まあ、そこに至るまで散々痛め付けられた苦い思い出が数え切れないほどあるんだけどな。悔しいけど、バトルの腕も、ポケモンを育てるという点での腕も、俺はまだサカキさんには遠く及ばないらしい。

 

 

 

「目標勝利数に到達しました。次のポケモンを用意して下さい」

 

「はいっ」

 

 

 

今俺がやっているのは、1体のポケモンで連続して10戦し、クリアしたら次のポケモンでまた連続10戦を繰り返す、耐久バトルとでも言えばいいのだろうか?分かりにくければ、昔のバトルフロンィア(廃人施設)とかを思い出してもらえるといいかもしれない。感覚としてはあれに近い感じだ。

 

『ポケモンを鍛え、同時に持続する集中力を鍛える』という名目で、サカキさんからの指示で週に2日はやらされている。ゲームでバトルフロンティアとかをある程度やり込んだ経験はあるが、実際問題キツい。バトル後の回復がないからフロンティア以上にポケモンもキツいし、俺自身も休憩がほとんどないから体力と集中力はいつもギリギリ。

 

 

 

まあ、そんな弱音を吐いていてもどうにもならないので、アナウンスに従い次の戦いの準備にかかる。が、ヨーギラスの次はどのポケモンだったかを一瞬考え、嫌な現実に突き当たる。

 

ヨーギラスの問題点が改善しつつあることは上記のとおりだが、その一方で、ヨーギラスに代わる問題児が新たに加入したりもしていた。そう、あの日サカキさんに押し付けられた(もらった)ポケモンである。次はその問題児で10戦の予定となっていたのだ。

 

この新たな問題児を如何に制御するか…それが、今の俺の最大の課題にして悩みの種だった。

 

しかし、売り物にならない性格と聞いていたが、予想に反してヨーギラスと違ってちゃんと言うことは聞いてくれた。ただ、問題児であることは事実だった。なんというか…端的に言うと、この上なく喧しい。その一言に尽きる。ただそれだけで、俺を散々に手古摺らせてくれていた。

 

 

 

「…出てこい」

 

「ラアァァァァァァイッ!!」

 

「ぐっ…う、うるせぇ…」

 

 

 

ご覧の通り、登場した端からパワー全開。昼間はまだしも、夜にボールの外に出そうものなら、ご近所の皆様から苦情が殺到すること間違いなしな空飛ぶ騒音公害。それが新加入の『ストライク』というポケモンだった。近くで聞いてる俺も耳が痛くてかなわない。

 

 

・ストライク ♂ Lv30

特性:テクニシャン(?)

ワザ:つばさでうつ れんぞくぎり

   こうそくいどう きりさく

 

 

『ストライク』は初代から登場するむし・ひこう複合タイプ。高いスピードと物理攻撃力が売りのカマキリのような姿のポケモンだ。後の作品で進化系である『ハッサム』が登場し、最近ではメガシンカも獲得するなど、今もバトルの第一線で活躍するポテンシャルを持つ。

 

このストライクもその基本に違わず、高いスピードと火力で社員さんたちのポケモンを苦もなく捩じ伏せて見せるなど、戦闘能力そのものはまあ優秀の一言。確認は出来ないが、恐らく特性が『テクニシャン』であることも大きいと見る。『テクニシャン』は、威力が一定値以下の攻撃技の威力が強化される特性。この特性のおかげで、現状のタイプ一致メインウェポンである"つばさでうつ"と"れんぞくぎり"の火力が少しおかしい。

 

バトル中の指示にも概ね従ってくれており、これだけなら問題児どころか、ヨーギラスとは比ぶべくもない優等生だ。

 

…が、この雄叫びというか、奇声を上げまくる悪癖。これが一向に直らない。ボールから出たらラアァァァァァァイッ!!挨拶代わりにラアァァァァァァイッ!!技を出すときラアァァァァァァイッ!!技を受けたらラアァァァァァァイッ!!相手を倒した時にもラアァァァァァァイッ!!…だ。中でも空を飛んでいるときは特に酷く、その様はさながらレーシングカー。高速で飛び回りながら、この奇声を大音量で乱発し、ドップラー効果で撒き散らす。

 

しかも、バトルが終わるとテンションが上がったそのままの勢いで、騒音をばらまきながらどこかへすっ飛んでいこうとしやがるもんで、どこ行くか分からないから夜と屋外のバトルでは後が怖くて使えん。

 

 

「いけ、ワンリキー!」

「リッキ!」

 

 

お相手が出してきたポケモンは『ワンリキー』。初代のかくとうタイプを代表する(と個人的に思っている)ポケモン『カイリキー』の進化前。進化前にも関わらず、よく鍛えられたカラダをしている。筋肉的な意味で。

 

 

「ではよろしく」

「よろしくお願いします」

 

 

1カ月も幾度となく対戦して来たから見知った人ではあるけど、バトルの前の挨拶は基本中の基本。それが済めば戦闘モードだ。タイプ相性的にはストライク有利だが、油断はしない。消耗を抑えるため、スマートに最短距離での撃破を目指す。

 

 

「『つばさでうつ』だ!」

「ラアァァァァァァイッ!!」

 

 

また、長い戦いが始まった。

 

 

 

 

…やっぱりストライクうるせぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ラアァァァァァァイッ!!」

「イワァ…ッ」

「イワーク戦闘不能!勝者マサヒデ!」

「目標勝利数、及び本日の目標勝利数に到達しました。お疲れ様でした」

「…ふぅ」

 

 

ストライクで10戦を勝ち抜き、なんとか今日のノルマ達成。ラストのイワークのように、時折相性の悪い相手とも当たったが、そこはあれ。気合いと根性と才能とレベル差で押しきった。

 

相変わらずどこかへすっ飛んで行こうと、フィールド施設内を飛び回るストライクを何とかボールに戻し、今日も終わった…と張っていた肩肘の力を抜いて大きく一息。

 

 

 

「ご苦労」

「…!?」

 

 

で、それを見計らったように背後から威圧感を孕んだ声が響く。

 

気が抜けたところへの奇襲攻撃に心臓が縮み上がるような感覚に陥りつつ振り返れば、そこにはやはり、あの人がいた。

 

 

「どうだ、ストライクは?」

「サ、サカキさん…」

 

 

我が保護者にしてTCP社長、さらにはストライクを押し付けた張本人、そしてロケット団のボスでもある悪のカリスマ、サカキさんである。後ろに何人か社員の皆さんを引き連れて、一週間ぶりのご登場だ。

 

 

「疲れているだろう、楽にしていいぞ」

 

 

いや、楽にしていいって…サカキさん、あなたここに来るたびに何だかんだ言って「どれ、少し揉んでやろう」とかなんとか言う流れに持っていって容赦なくボコボコにしていくじゃないですかー、やだー。

 

…ああ、なるほど。つまりアレですね?今回もこの後ボコられるんですね?存じております(諦め)

 

 

「見たところ、中々使いこなせるようになっているじゃあないか」

「はい、バトルでは概ね上手く扱えるようになったと手応えはあります…あの奇声を上げる癖だけは、どうにもなりませんが」

「フム、そうか…」

 

 

サカキさんは少し考える素振りを見せる。

 

 

「ならば、一度徹底的に追い詰めてみれば、あるいは多少なりとも大人しくなるかもしれんな」

 

 

はいキター、死刑宣告いただきました。どうもありがとうございます。ですが慎んで遠慮させて…もらえないんだよなぁ。はぁ…

 

 

「今日は時間もある。どれ、少し揉んでやろう…と、いつもなら言いたいところなのだが…」

 

 

…?何だ?

 

 

「毎回私が相手をしていても面白くあるまい。そこで、今日は別の相手を用意した。アポロ」

 

「はっ」

 

 

サカキさんに呼ばれたらしき、遠目にも目立つ水色の髪の社員が進み出てくる。いや、そりゃいつもコテンパンにやられるだけだと嫌にもなりますけどさ…

 

と言うか、ロケット団に水色の髪、そして"アポロ"という名前…この人はもしや。

 

 

「私の代わりに、少しコイツの相手をしてやれ」

 

「はっ」

 

 

…やっぱり、この人アレだ。名前が付いたのはリメイクされてからだったけど、ロケット団幹部で第2世代での実質的なロケット団の指導者だ。服装こそ違うが、その顔立ちには見覚えがあるぞ。くそぅ、中々にイケメンじゃあないか。

 

 

「言っておくが、全力でやれ。中途半端に手など抜くと、あっさり足元を掬われるぞ?」

 

「…はっ、お任せ下さい」

 

「では、私は特等席で観戦させてもらうとしようかな。マサヒデ」

 

「は、はい」

 

「そのストライク、アポロ相手にどこまで扱えるか見せてみろ」

 

「…はい!」

 

 

 

そう言って、フィールドを後にするサカキさん一行。後に残された俺とアポロさん。つまり、今回はサカキさんの代わりにアポロさんにボコボコにされるわけですね?

 

でも、サカキさん相手にするよりかは気が楽…あ、でも観戦するって言ってたね。じゃあダメだわ。

 

 

「…さて、ボスから話は聞いています。今回、君の相手を努めるアポロと言います。よろしく」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「では準備が整い次第、早速始めましょう」

 

 

フィールドの反対側へ向かうアポロさんを尻目に、こちらはストライクを急ぎ回復マシンに預ける。そう時間が掛かることもなく、回復完了を伝える音が鳴る。

 

所定の位置に戻る頃には、すでにバトルの準備は整っていた。

 

 

「来ましたね。では始めましょう」

 

「はい」

 

「TCP幹部である私が、君のようなお子様の相手をさせられるのは不本意な部分もありますが、ボスからの指示です。先達として容赦なく、全力で、叩き潰させてもらいます!」

 

「それでは、これよりアポロさん対マサヒデ君の試合を行います。使用するポケモンは1体です。両者、準備はよろしいですか?」

 

「いつでもどうぞ」

 

「こちらも大丈夫です」

 

「では、バトル開始!」

 

「いけ、ストライク!」

「ラアァァァァァァイッ!!」

 

 

審判の合図を皮切りに、お互いにボールを投げる。こちらはサカキさんからの指示でストライク。

 

 

「いきなさい、ヘルガー!」

「グルルゥ!」

 

 

対するアポロさんが出してきたのはヘルガー。まあ、この人と言えばヘルガーだよな。

 

ヘルガーはデルビルの進化系で、ほのおとあくの複合タイプ。第2世代で登場したポケモン。アポロさんとのバトルで初めて見たという人も多いはず。

 

あと、進化前のデルビルが手に入るのは殿堂入りしたあとのタマムシシティ近郊ということで、凄いガッカリした記憶がある。デルビルといい、ニューラやヤミカラスといい、なんでジョウトで出ないんだろうね。

 

 

 

…マグマッグ?マグマッグさんは孵化要員だからセーフ。当時は特性なんてなかっただろ、いい加減にしろ!というツッコミは無しの方向で。

 

 

「焼き払ってしまいなさい!かえんほうしゃ!」

「ガウゥ!」

 

「おっと、"こうそくいどう"で躱せ!」

「ラアァァァァァァイッ!!」

 

 

先手を取られるが、素早さを大きく上昇させる『こうそくいどう』を使って回避する。弱点を突かれる点は気になるところだが、ストライクの動きは悪くない。連戦で受けたダメージや疲労は心配しなくてもよさそうだ。

 

 

「そのまま回り込んで"つばさでうつ"!」

「ラアァァァァァァイッ!!」

 

 

『つばさでうつ』は何の変哲もないひこうタイプの物理攻撃技。"こうそくいどう"を積むことで、元から高い素早さをさらに強化し、相手を翻弄しつつスピードに任せガンガン切り込んでいく。撃たれる前に撃て、やられる前にやれ。それが、このストライクの基本スタイルだ。

 

まあ、要するにやることそのものはスピアーとなんら変わらない。

 

 

「引き付けてかえんほうしゃです!」

「ガウッ!」

 

 

跳ね上がったスピードでヘルガーに突っ込んでいくストライク。ヘルガーは再度かえんほうしゃで迎撃の態勢をとるが、ストライクの素早さは完全にヘルガーを上回っている。

 

 

「ガゥッ!?」

 

 

かえんほうしゃが放たれるよりも早く、ストライクの翅が鋭い打撃音を残してヘルガーを打つ。かえんほうしゃは不発。上手い具合にストライクの動きに振り回されてくれた。

 

 

「よし!一回距離を取って仕切り直しだ!」

「ラアァァァァァァイッ!!」

 

「逃がしません!かえんほうしゃです!」

「グァウッ!」

 

 

追撃はせずに一撃離脱。持ち直したヘルガーが放ったかえんほうしゃは余裕を持って回避し、フィールドの外壁沿いを旋回しつつ再度突入の機会を窺う。ヘルガーも微妙に動きながら再度攻撃の機会を探っているが、グルグルと旋回を続けるストライクに中々狙いを付けられない様子。

 

しばしの間、お互いに動くに動けない状況が続く。

 

 

「ヘルガー!距離を詰めてかえんほうしゃです!」

「ガウッ!」

 

 

膠着した状況を打破すべく、まずアポロさんとヘルガーが動く。高速で飛び回るストライクの進路を先読みして、一気にストライクとの距離が縮まる。こうそくいどうのヘルガーの素早さも決して遅くはない。近距離からのかえんほうしゃで、一気に片を付けるつもりだ。

 

なら…こっちはそれよりも先に鼻っ柱を叩いてやるのみ!

 

 

「ストライク、突っ込んでつばさでうつ!」

「…!ラアァァァァァァイッ!!」

 

 

突撃の指示にストライクも素早く反応。進路を急激に変更し、あっという間に向かって来るヘルガーの目前に。このまま撃たせる前に…

 

 

「"スモッグ"です!」

「うっ…!?」

 

 

ストライクの前に、炎の代わりにヘルガーが吐き出した紫色の毒々しい煙幕が急速広がる。ストライクは視界を奪われながらも、止まることも出来ずその真っ只中に突っ込む。

 

スモッグはどくタイプの攻撃技。威力は決して高くはなかったが、そこそこの確率でどく状態にする技だったと記憶している。ダメージは気にするほどではないと思うが、状態異常だけは気掛かりだ。

 

そんな心配も何のそのなストライク。全く怯むこともスピードを落とすこともせず、煙幕を切り裂いてその向こうへ飛び出した。

 

そこにはヘルガーが…いない!?

 

 

「"かみつく"です!」

「ガウッガウゥッ!」

 

「ラァッ!?」

「左!?」

 

 

ストライクの側面、未だにスモッグで覆われた位置。視界が無くなった僅か一瞬の間に、ヘルガーはそこへ潜り込んだらしい。俺がいつもサンドパンでやっていたような手を、自分でくらうハメになるとは…

 

不意を打たれほぼノーガード状態のストライクに、横から鋭い牙が突き立てられる。

 

 

「くっ…"きりさく"で振り払えッ!」

 

 

噛み付いて離さないヘルガーを、ストライクは"きりさく"で引き剥がしに掛かる。

 

 

「ラアァイッ!!」

「ギャウッ…!」

 

 

鎌の鋭い一撃がヘルガーのどてっ腹に叩き込まれ、これにはヘルガーも堪らずストライクを離してしまう。

 

 

「逃がしません!"かえんほうしゃ"!」

「グルァァッ!」

 

 

しかし、相手もすぐに態勢を建て直し、追撃のかえんほうしゃ。これを何とか紙一重で避けて、距離を取って一旦仕切り直し…とはならない。

 

 

「休む時間など与えません、ヘルガー!」

「グァウ!」

 

「くっそ…」

 

 

すぐさま再び猛然と突っ込んで来るヘルガー。そして放たれる"かえんほうしゃ"から逃げる。"こうそくいどう"を積んでいるおかげで、回避するためのスピードは十分にある。しかし、遠距離で使える対抗手段がなく息吐く暇もない。

 

このままでは少しずつ削られてジリ貧になるのが目に見えており、どこかで反撃に出る必要があった。しかし、"こうそくいどう"による加速で疑似的な先制技のようなことは出来るが、相手が使うのはタイプ一致の抜群技。一撃まともに貰ってしまえば試合終了だ。

 

射程もある。今は焦らず、回避に専念すべきか…

 

 

「チッ…そのスピード、思いの外厄介ですね…ですが、これならどうです!ヘルガー"ヘドロばくだん"!」

「ガウッ!」

 

 

そんな技も持っているのか…!?ヘドロばくだんはどくタイプの特殊攻撃技。高い火力とそこそこの確率でどく状態にする効果を持つ。威力も申し分ない優秀な技だ。

 

"かえんほうしゃ"に代わって、今度は紫色のヘドロの塊が連続で降り注ぎ、フィールドに落ちては弾けてヘドロと衝撃を撒き散らす。あれに当たったら、ただでは済まないだろうな。

 

だが、これは同時に好機ではないだろうか?タイプ相性の関係上、かえんほうしゃはストライクに致命の一撃になるが、ヘドロばくだんならまだ何とか耐えられる。それに、このままジリ貧になるよりは…

 

 

 

 

…行きますか!

 

 

 

「ストライク!反転して突っ込め!"つばさでうつ"だ!」

「ラアァイッ!!」

 

 

意を決して、ストライクに反転攻勢を指示。逃げ回っていたスピードそのままに、ヘルガーへ一直線に切り込んでいく。

 

 

「来ましたか!ならばかえn…いえ、"かみつく"です!」

「グァウ!」

 

 

ストライクの突進に対応して、向こうも近接技である"かみつく"を選択。"かえんほうしゃ"では間に合わないと踏んだか、インファイトに付き合ってくれるようだ。

 

急速に縮まる両者の距離。近距離戦はストライクの方に分がある。あとは、さっきの"スモッグ"のような手をくらわないように、相手の動きに注意。ヘルガーに付け入る隙を与えない速攻で、一気に戦局をこちらに引き寄せたいところ。

 

 

「ストライク、行けぇッ!」

 

 

自身が一振りの刃となるが如く突き進むストライク。それを迎え撃つヘルガー。喰らうが先か、打ち抜くが先か…!ヘルガーが動いた!?

 

 

「ストライクっ!」

「ッ!」

 

「"だましうち"っ!」

「グァウッ!」

 

 

両者がぶつかる寸前、ヘルガーの身体が沈み込み、ストライクが打ち抜こうとした位置よりもさらに低い位置から突っ込んで来た。

 

寸でのところで気付けたことで、何とかストライクの受け身が間に合う。危うくまたモロにくらうところだった。

 

 

「そのままかえんほうしゃ!」

「ガルゥッ!」

 

 

至近距離からのかえんほうしゃ。距離が近すぎて逃げられない…なら、前に出るしかない!

 

 

「離されるな!食らい付け!れんぞくぎり!」

「ラアァイッ!!」

 

「チッ…ヘルガー!"かみつく"で引き離すのですッ!」

「ガウッ!」

 

 

噛み付きと斬撃の応酬が繰り広げられ、ストライクとヘルガーが交錯する。

 

望んだ展開ではなかったが、何とかインファイトに持ち込めた。俺としてはこのまま仕留めてしまいたい。そのためには、この間合いを維持すること、かえんほうしゃを撃たせないことが重要だ。

 

逃がしたくないストライクと、距離を取りたいヘルガー。それぞれの思い描く道筋に向かって、戦いはさらに激しさを増していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----

 

 

 

 

 

「おお!すっげー!」

 

 

 マサヒデとアポロの激戦が続くフィールドの外、戦いの様子を一望出来る絶好のポジションに設けられた貴賓席。関係者しかおらずガラガラの観客席において、今この場所には2人の戦いを見守る人々の姿があった。

 

その最前部でこの激戦を見ていたのは、まだ小学生にもなるかならないかぐらいの幼い1人の少年。2体のポケモンが激しくぶつかり合う度に歓声を上げ、転落防止用の柵の隙間から身体を捻じ込むように、興奮気味に戦いを見つめている。

 

 

「どうだ、シルバー。生で見るポケモンバトルは」

 

 

その背後から歩み寄って少年…シルバーに声を掛けるのは、その父親。

 

 

「うん、こんなバトル初めて見た!ポケモンバトルってすっげーんだね!」

 

 

ただ素直に、屈託のない笑顔でシルバー少年は笑う。何も、この少年は今まで生で見る機会が無かったわけではない。が、こんな至近距離で、かつ多忙な父親とこうして共にポケモンバトルを観戦することは初めての事。

 

笑顔のシルバー少年を見て、その父親…サカキもまた笑う。会社社長として、ジムリーダーとして…そしてロケット団ボスとして、昼夜を問わず活動が多忙を極める中、このように息子と過ごせる時間は貴重なもの。普段の彼からすると幾分か穏やかな笑顔を浮かべ、共にバトルを観戦する。

 

 

「引き剥がせ、ヘルガー!」

「逃がすかぁっ!ストライクッ!」

 

 

そんなサカキの眼下で激戦を繰り広げる2人のトレーナーもまた、彼が見出だした人材。片やトレーナーとしての実力はモチロンのこと、仕事でも大きな案件を任せられるまでに成長しつつある若手幹部の筆頭格 ・アポロ。片や経験豊富な中堅レベルのトレーナーを手もなく捻るなど、豊かな将来性を見せ付ける天才少年・マサヒデ。

 

彼らの成長もまた、サカキにとって喜ばしいものだったことに違いはない。年齢的に一回り差がある彼らだったが、周囲に競える相手がなくなりつつあるアポロと、成長著しいマサヒデ。何かしら切欠になればと試しに戦わせてみたが、案外正解だったのかもしれない…と、サカキは内心でほくそ笑んでいた。

 

そして、そのバトルに目を輝かせている自身の息子にも、行く行くは彼らのように…そんな未来を思い描きながら、2人の愛弟子による死闘の結末を見守る。

 

 

「今です!"かえんほうしゃ"」

「グルァァッ!!」

 

「ラァッ!?」

「しまっ…ストライクッ!」

 

 

一瞬の隙を突いた至近距離からヘルガーの"かえんほうしゃ"がストライクにヒット。少年やサカキの後ろに控える職員たちから歓声が上がる。致命的な一撃だった。

 

その後、畳み掛けるヘルガーの猛攻に屈したストライクが倒れ、バトル終了。2人の戦いは、アポロに軍配が上がった。

 

 

「おおー!アポロさんが勝った!やっぱりアポロさんスゲー!」

 

「そうだな」

 

「でも、あっちのちっさい人も凄かった!」

 

「…そうか」

 

 

2人の戦いにシルバー少年は大満足のようで、興奮冷めやらぬ様子でサカキに話しかけている。

 

その様子に、仕事の合間を縫って連れてきて正解だったとサカキは思う。2人の現時点での実力も把握出来、アポロにもっと大きな案件を任せられる目処がつき、マサヒデはストライクを使いこなしていることが確認出来た。有意義な時間を過ごせたと、サカキ的にも満足なバトルだった。

 

 

しかし、元々育成の度合いやタイプ相性等、公平な条件のバトルではなかったとは言え、マサヒデの最後の無抵抗ぶりは、師としてはいただけない。

 

マサヒデには追加の試練を与えることを決め、サカキは少年や取り巻きたちと観客席を後にした。ただ、その表情(かお)は、とても穏やかであった。

 

 

 

 

…若干一名にとっては、それもまた恐怖の象徴でしかなかったのだが、それはいつものこと。

 

後日、ボロボロになりながらサカキに絞られる1人の少年の姿があったそうな。

 

 




第29話、新加入のポケモンはストライクでした。ゲームコーナーの景品にもなってましたから、予想してた方もいらしたのではないでしょうか?感想でも正解の方いらっしゃいましたし。

そして前話のアテナさんに続いて初登場のアポロさん。彼は言うまでもなく悪のサイドですが、マサヒデ君は一体何の未来を担ってるんでしょうかねぇ?悪?それとも正義?はたまた…?

そして最後にチョロッと出て来たサカキ様の息子・シルバー。まだ幼い彼の未来や如何に?

あと、いよいよポケモン新作発売ですね。皆さんは予約等されましたか?作者は初めて両方セブンイレブンで買ってみました。とても楽しみです。のめり込むあまりしばらく更新出来ない可能性が…

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