一週間後のタマムシシティTCP本社ビル内にあるバトルフィールド。そこには今日も今日とて、半ば無心となって戦い続ける俺がいた。
アポロさんとのバトルで善戦空しく敗北を喫してから一週間。ヘルガーにストライクを燃やされ、サカキさんに贅肉を燃やされ、身も心もボロボロにされてもなお立ち上がり、更なるレベルアップに励んでいる。
あの敗戦の要因は大きく分けて2つある。1つは"タイプ相性"。ヘルガーのレベル自体もさることながら、むしタイプで耐久能力があるとはあまり言えないストライクには、"かえんほうしゃ"がゲロ重だった。実際、一撃で瀕死寸前まで持って行かれて後はほぼされるがままだった。
ただ、タイプの相性ばかりは覆しようがない。それ以上に問題なのが、もう1つの敗因と考える"近接攻撃ばかりの技構成"だ。試合後半はほぼ全くと言っていいぐらい、射程距離まで斬り込めなかった。
このウィークポイントを解消する一番簡単な方法を採るなら、ただ"遠距離でも使える攻撃技を覚えさせる"だけでいい。が、そういう技は基本的には特殊攻撃技に分類されることがほとんど。そしてストライクの"とくこう"の種族値は…まあ、実用的な数値ではないことは確か。
そもそも、ストライクがそういう技をあまり覚えないという根本的問題もあるんだけど。"かまいたち・エアスラッシュ"…他にも何かあった気がするが、何だったかな?後は技マシンとか、タマゴ技ばかり。これじゃあどうにもならん。
なので、別の解決法を採ることにした。ズバリ『
…要は、すばやさ鍛えて撃たれる前に斬れってだけの話な。相手が撃つよりも早くこちらの攻撃圏内に飛び込み、強烈な一撃を以て打ち破る。攻撃は最大の防御なり。スピード&パワーは全てを解決するのだ。大正義高速高火力。
とにかく、ストライクも他の面子も、より速く、より強く。それを心の中のスローガンに、俺はこの日も戦いに明け暮れていた。
そこへ現れる来訪者。
「マサヒデ、調子はどうだ」
…タマムシシティに逗留して何回目かとなる、TCP社長兼トキワジムリーダー兼ロケット団ボス・サカキさん来襲である。
そして、それは今日が不定期で定期的にやってくる試練の日であることを告げる合図でもあった。
「…お疲れ様です、サカキさん」
ーーーーー
「それでは、これより社長とマサヒデ君の試合を始めます!」
かくして、例によってまたしても試練が俺の前に降って沸いていた。いつものように現れたサカキさんだったが、あれよあれよという間に話が進み、気付いた時には御覧の状況。ハイ、シッテタシッテタ。
…毎度のこととは言え、どうしてこうなるのか。コレガワカラナイ。
「マサヒデ、悪いが私の都合に付き合ってもらおうか。代わりに少しだけ、全力で相手をしてやる。死ぬ気で掛かってこい」
フィールドの向こう側で、悪役ラスボス感たっぷりに腕組みしているサカキさんに、気取られないように心の中でため息を吐く。
しかも、ちょっと全力で相手してくれるらしい。やったね俺!軽く死ねるよ!…はぁ、腹が痛い。
何故こうなったのかを少し説明する。事の経緯はこうだ。
御存知のとおりトキワジムリーダーであるサカキさんだが、その任命はカントーポケモン協会が行っており、ジムリーダーへの給料もここから支払われている。その財源として、所謂税金が使われているわけだ。そのため、ジムリーダーは一定期間毎にポケモン協会による監査を受けなければならないという規則がある。
調べられる内容は、ジムの運営状況や設備の管理態勢、所属トレーナーの待遇、資産等の個人情報等、かなり多岐に渡る…らしい。詳しくは分からん。
だが、それらの中でも最も重要視されていることが、ジムリーダー本人のトレーナーとしての実力。
ジムリーダーというのはポケモンリーグ挑戦者を選抜する門番としての役割はモチロンのこと、何か警察では手に余る問題が起きた時、真っ先に対応して事態の収拾を図らなくてはいけないという役割も持っている。
普通に考えれば一定以上の実力が求められるのは当然のことだ。
で、その実力確認の監査が一週間後に迫っており、現在はそれに向けて主力の調整をしている段階。その調整ついでとして、一軍メンバーで相手をしてくれるとのこと。わぁい、マサヒデさん嬉しすぎて小便チビっちゃいそうだよぉ()
…まあ、普通に考えれば手も足も出ずに惨敗するであろうことはほぼ確実なので、多少の手加減はしてくれるようだけど。
「使用ポケモンは1vs3の変則ルールです。持ち物、ポケモンの入れ換えはマサヒデ君にのみ認められます」
その手加減というのが、この1vs3の変則ルール。これなら、手も足も出ず無惨に消し飛ばされることはない…ハズ。きっと、たぶん、めいびー。それでも軽くあしらわれる気しかしないのは俺の気のせいだろーか?
だが、これもサカキさんをギャフンと言わせる機会の1つ。今の俺の全力を以て、いつも以上に気合い入れて逝くぞォ!
…というわけで、若干自棄っぱちになりながら俺がこのバトルに選出したポケモンたちは以下の通り。
・ドガース ♂ Lv29
持ち物:シルクのスカーフ
特性:ふゆう
ワザ:ヘドロこうげき じばく
10まんボルト くろいきり
・ストライク ♂ Lv31
持ち物:きあいのハチマキ
特性:テクニシャン(?)
ワザ:つばさでうつ れんぞくぎり
こうそくいどう きりさく
・サンドパン ♂ Lv32
持ち物:せんせいのツメ
特性:すながくれ
ワザ:マグニチュード ころがる
まるくなる きりさく
まずサカキさんはじめんタイプのジムリーダーだ。ジムリーダーとしての監査である以上、使用するのはじめんタイプのポケモンと思われる。
その点から考えて、ドガースは特性"ふゆう"でじめん技を無効化出来る点と、物理攻撃に対する耐久性が良い点がgood。元々の相性や攻撃面に難はあるが、相手のタイプ一致技を片方封じ、"ヘドロこうげき"で相手をどく状態にしてジワジワ削り、後がなくなれば持ち物で強化した"じばく"で少しでもダメージ与えて退場…という流れが出来れば良いなと考えていたり。なお、ニド夫婦が出て来た場合は即出落ち要員となります。
次に2体目、ストライク。ドガースと同じくじめん技が効かないひこうタイプ。サカキさんから『使いこなしてみせろ』と言われた奴なので、ここは前回の汚名返上と行きたいところ。相変わらず喧しいのはご愛嬌。きあいのハチマキで耐久面に一応保険を掛けておく。役に立つかは知らん。
ラスト3体目に選んだのはサンドパン。じめんタイプが合わせて持っていることが多いいわタイプの技を意識して選出した。せんせいのツメですばやさはカバーする。レベル的にもスピアーに次ぐ俺の主力だし、こんなもんだろ。
ちなみに、真のエース・スピアーさんは先に選んだ2体とタイプ丸被りだったので今回は敢えて外した。俺=スピアーばかりではないことを見せてやるのだ。あといわ技が重くなり過ぎるし。
…じめんタイプ相手にするなら、本当はナゾノクサが使えれば一番良いんだけど、捕まえてから日が浅く、流石にサカキさんの相手をさせるのは荷が重いと判断した。他の面子と比べると、如何せんレベルがね。他の手持ちもヨーギラスとロコンはタイプ相性的に厳しいし、ラッタもいわタイプ複合のポケモンが相手になると辛い。せめて"いかりのまえば"を覚えていればドガース抜いて入れてたけど…現状、選択肢が無い。
まあ、そこまで考えて動員したところで勝てるかはだいぶ怪しいが。いや、ほぼ望み薄と言った方が適切かな。
「両者、準備はよろしいですか?」
「構わん」
「はい」
それでも、サカキさんの一軍を相手にするのは滅多にない貴重なこと。やれるところまでやってやろーじゃないか。
「では、バトル開始!」
「やるぞ、ドガース!」
「ど~がぁ~」
「いけ、サイドン」
「サァイッ!」
先鋒・ドガースが、やる気を削ぐような間延びした鳴き声と共に、フィールドに姿を現す。対するサカキさんのポケモンは、『サイホーン』の進化系『サイドン』。いわ・じめん複合タイプで、いわタイプらしく機敏さはないが、物理方面は攻撃・耐久力ともに優秀。代わりに特殊方面は例によってアレなんで、みずかくさタイプの特殊技で消し飛びかねない。
まあ、どちらも持ってない今の俺には関係無い話なんだけどネ。あと、ニド夫婦ほどじゃないにしろ、コイツも結構色んな技を覚える。有効かどうかはともかくとして。
それと、ゲームだと確かジム戦での切り札枠だった気がする。つまり、このサイドンはサカキさんのエースポケモン…?
…とりあえず、ドガースが登場即出落ちをかまさなくて済むように頑張ろう。
「ドガース"ヘドロこうげき"!」
「ど~…がぁ~」
サカキさんの機先を制して、紫色の粘性の物体がサイドンに向かって飛ぶ。ダメージは期待出来ないが、どく状態に出来れば役目は果たしたことに出来る。
「サイドン、"れいとうビーム"」
「サァイッ!」
が、そう易々とくらってはくれないのも分かりきったこと。サイドンかられいとうビームが放たれ、ヘドロこうげきが凍らされて地に落ちる。
「"くろいきり"!」
「どがぁ~」
「む」
やはり重量級相手に正面衝突は難しいと判断し、"くろいきり"を指示。即座にドガースからどす黒い霧と言うか、煙が四方に噴出され、こちら側のフィールド半分を覆っていく。
本来はバトル中のステータス変化を打ち消す技だが、これだけ濃い霧なら煙幕としても使えるのは確認済みだ。
…こっちからも相手側が見え辛くなってしまうのが難点だ。ドガースからは見えてるっぽいけど。
「霧に紛れてヘドロこうげき!」
「ど~がぁ~」
霧の中からヘドロを撒き散らしていく引きこもりスタイルで、チマチマとサイドンにダメージを与えていく。霧のせいで向こうの様子がイマイチ分からないけど、サイドンならレベル差があってもそこまで機敏には動けまい。
つーわけで、大人しくどく状態になれやオラァ!
「小賢しいな…サイドン、中心直線上に"いわなだれ"だ」
「サァイッ!」
「ドガース!」
ドガースに注意を促す意味で声を上げてから間髪入れず、大きな岩石群が霧を割るように降り注ぎ、フィールドを揺らす。
俺の方に一列一直線で迫って来る大岩の雨に、思わず後退しそうになる。一発当たれば即死確定の恐怖を前にしては、こうなるか足がすくむかのどっちかだろう。或いは俺がチキンハートなだけか。
技が止んだ後には、俺側のフィールドを真っ二つに分断するように岩の道が作られ、その衝撃で霧は吹き飛ばされ、サイドンもドガースもしっかりと視認出来る状況になっていた。
「見つけたぞ。サイドン、"つのドリル"だ」
「サァイッ!」
「うげ…」
そのサカキさんの指示と同時に、サイドンの頭に生えているドリル状の角が『キュイィィィン』と音を立てて激しく回転し始める。
"つのドリル"はノーマルタイプの物理技。効果の方は至極シンプルで、当たった相手を問答無用の一撃で戦闘不能に追い込む技だ。
問題点としては、シンプルながらも強力な効果故に命中率がとても低く、自分よりもレベルが高い相手には全く効果が無い。が、逆に相手よりもレベルが高いと高い分だけ命中率が良くなるという仕様となっている。
ドスドスとフィールドを揺らしながら、ドリルと化した角を前面に押し出してサイドンが突っ込んで来る…って、思ってたよりもだいぶん速いなオイ。
何とかアレを止めなくてはならない。ならないのだが、サイドンを止められそうな有効な技はドガースには無い。逃げようにもいわなだれで創られた岩の道が横への移動を阻害する。そして片やジムリーダーの一軍ポケモン、片やルーキーの4、5番手ポケモン…うん、分かりやすい無理ゲー。
考えている間にもサイドンはドガースに迫る。猶予はない。ああ、もう…致し方無し!こういう時はもうこの手に限る。
「すまないドガース…"じばく"だ」
「どがぁ~」
親の顔より見た展開、最終手段にして出落ち手段の"じばく"。ニタァ…とより一層笑顔になりながら、爆発の態勢に入るドガース。徐々に体が光り始め、エネルギー的なモノが高まっていく。
「サイドン、そのまま打ち抜け」
サカキさんは躊躇することなく攻撃続行を指示。サイドンもスピードを落とすことなく突っ込んで来る。頼む、間に合ってくれ…!
そして…
「ど~…がぁ~!」
『ドオォォォォォン‼‼』
寸でのところでじばくのチャージが間に合い、サイドンを巻き込んで大きな爆発を引き起こした。轟音が響き渡り、熱風がフィールドを吹き抜ける。
爆風が止んだ頃にフィールドに残っていたのは、地に落ちたドガースと、それを見下ろすように立つサイドン。まあ、分かっていたことではあるが、あまりダメージはなさそうだ。何もせずやられるよりかは遥かにマシだが。
「ドガース戦闘不能!」
戦闘不能のジャッジが下ったところで、ドガースを戻す。結局ほとんど出落ち同然になってしまった。いつかこういうことをする時が来るとは思っていたが…とにかくスマン、ドガース。
…さて、まだ勝負の途中だ。切り替えていこう。2番手は…悩ましいけど、こっちだ。
「いけ、サンドパン!」
「キュイィ!」
次鋒に選んだのはサンドパン。サイドンを相手するなら、ストライクよりも物理耐久力があるサンドパンの方が良い。れいとうビームで弱点突かれるのは要警戒だが、それはタイプ一致のいわ技がブッ刺さってるストライクでも同じこと。それに、サンドパンなら"マグニチュード"でサイドンの弱点突けるしな。
理想はサンドパンでサイドンを倒せれば最高…だが、流石に難しいだろう。粘れるだけ粘って、削れるだけ削って、ストライクにバトンを繋げればってところか。
「ふむ、そう来るか…サイドン、れいとうビーム」
「サイッ!」
開始早々、早速飛んで来るれいとうビーム。流石サカキさん、容赦ねぇッス。
だからこちらは、サイドンの忘れ物を使わせてもらうとしよう。
「サンドパン、残ってる岩に隠れるんだ!」
「キュイッ!」
俺サイドのフィールド上に残るいわなだれによる岩の道。それを形成する岩1つ1つがそれなりの大きさであり、その中の手頃な岩の陰にサンドパンは素早く身を潜める。
「やれ」
「サァイ!」
そんなことは関係ないと言わんばかりに、サイドンはれいとうビームを放つ。鋭い冷気を放つ光線が岩をいくつも砕くが、それがサンドパンまで達することはなかった。
「休まず撃ち込め」
「サァイッ!」
こちらを逃がすまいとれいとうビームが連続して放たれるが、岩陰から岩陰へと飛び回るサンドパンを、致命打となり得る青白い光が線捉えることは遂になかった。狙い通り、しっかりと盾として機能したようだ。
「届かぬか。ならばサイドン、フルパワーだ。"じしん"で瓦礫ごと押し潰してしまえ」
「サァイドォンッ!」
それを見たサカキさん、更なる力技でぶっ壊しに来た。
"じしん"は威力・命中ともに高いレベルで安定していて、優秀な攻撃範囲を持ち、ポケモンも幅広い層が覚えるため、ポケモンとしてもトレーナーとしても使い勝手抜群のじめんタイプの大技だ。持っているだろうとは思っていたので、来るべくして来たといったところ。
とにかく、すぐにその場を離れないと岩に押し潰され…いや、この場合むしろこうか!?
「サンドパン!その場で"まるくなる"だ!」
「…キュイ!」
咄嗟に下手に動くよりかは防御を上げた方がいいと判断して、岩の影に隠れたまま体を丸めて防御姿勢を取らせる。
『…ガタガタガタガタガタガタ!!』
直後、フィールドが揺れる…いや、もう衝撃波をまともにくらったとでも言った方がいい。突き飛ばされるような激しい揺れがフィールドを襲った。それこそ、この施設そのものが倒壊するんじゃないかと錯覚するほどの。
そんな激震になんとか耐えている中で、サイドンによって創り出された岩の道は、またサイドン自身の手によって脆くも崩れ落ちた。フィールドの俺サイドが一瞬の内に、文字通り瓦礫の山となった岩が散乱する荒れ果てた大地と化す。
巻き上げられた砂埃が重く立ち込め、瓦礫に埋もれてしまっただろうサンドパンが無事なのかも分からない。一瞬の判断が勝負の妙案を分けることはよくあるが、あの判断は誤りだったと、すぐさま直感的に感じてしまうぐらい絶望的になる光景だ。
「サンドパンッ!」
中々見つけられないサンドパンの姿を必死に探していると、砂埃の向こうからサイドンが近付いて来るのが嫌でも目につく。悠然と、それでいて堂々としたその一歩一歩から、歴戦の王者の風格が滲み出ている。
今までも回数は少ないが、サカキさんの1軍メンバー相手にバトルをする機会は何度かあった。が、明確に手加減と言うか、遊ばれていたことが今なら理解出来る。やっぱり強ぇわ、この人。
…ま、だからこそ勝ちたいんだけどな!
「サンドパン!やれッ!」
負け続けるのは趣味じゃないし、やられっ放しは癪に障る。今はまだ届かないかもしれないが、何もせずに終わるのだけは御免被る。
瓦礫が1つサイドンに向けて弾き飛ばされ、サンドパンが再びフィールド上に躍り出る。瓦礫の隙間から様子を窺ってる姿が見えた時は安心したぜ。
「フッ…サイドン、つのドリルだ。突っ込め」
「サァイッ!」
サンドパンが飛ばした岩を腕の一振りで難無く退け、サイドンが猛然とダッシュで突っ込んで来る。
「瓦礫弾き飛ばして邪魔してやれ!」
「キュイッ!」
サンドパンは手近な瓦礫を片っ端からサイドンに弾き飛ばしていく。使えるものは使っていかないとな。疑似的に"ロックブラスト"を撃ってるような感じだ。まあ、それも全て弾かれてほとんど有効打にはなっていないんだけども。嫌がらせが良いとこだ。
そんな疑似ロックブラストを物ともせずに、いよいよ射程圏内に捉えられるかというところまでサイドンが迫った。
「サンドパン、瓦礫を盾に使って回避!」
「キュイ!」
流石にここまで来られると、こちらも動かざるを得ない。
「瓦礫ごと打ち砕け、サイドン」
「ドォンッ!」
残っている瓦礫を遮蔽物にサイドンから逃げ回るサンドパンと、サカキさんの言葉どおりにつのドリルで瓦礫ごと粉砕していくサイドン。隙を見て瓦礫を飛ばして反撃していくが、ドリルで木っ端微塵にされているところを見ると、当たりたくない、当たれない技だというのが嫌でも分かる。
そんな逃走劇を繰り広げるうちに、フィールドに散らばる瓦礫も徐々に掃除されていく。このままきれいさっぱり遮蔽物が無くなればどうなるか…れいとうビームが避け続けられる未来が見えねぇ。サンドパンって素のすばやさが高いわけじゃないしな。
と言うか、ここまでまともに反撃出来てないのはよろしくない。せめて一太刀は浴びせてやりたい。
つまり、逃げちゃダメだってことだ。逃げ回ってるだけじゃ勝利は掴めないからな!
「瓦礫飛ばしてから"ころがる"!」
「キュイッ!」
瓦礫を弾き飛ばして、それに着いていくようサンドパンが突撃を開始する。
「叩き落とせ。その後いわなだれだ」
「サァイッ!」
対するサイドンはこれまでと同様に瓦礫を叩き落とし、返す刀でサンドパンを攻撃にかかる。
距離があるからか、サカキさんが選択した技はつのドリルではなくいわなだれ。さっきは一直線になるように降り注いだ岩が、今度は横に広がり進路を塞ぐようにサンドパンを襲う。
今止まってしまったら、結局ジリ貧に追い込まれて負けるしかない。ここは勝負所だ。
「止まるな!突っ切れ!」
俺の声に応えるように、サンドパンがスピードを上げていわなだれのど真ん中に果敢にも突っ込んだ。
効果今一つとは言え、当たれば無視出来ないダメージを受けるであろう土砂降りの巨大岩石群の中を、スピードを保ったまま器用に潜り抜けていく。
ヒヤリの連続と言っていいぐらいの至近弾ならぬ至近岩の雨。かすったとか、破片が当たったとかはあるはずだ。それでも、まともな直撃は1発も無かった。
そして、そのままサンドパンに有効打を得ること無く、いわなだれは止んだ。砂煙のすぐ向こうには、いわなだれを撃ち終わったばかりでかなり隙の多いサイドンの姿。
ここを逃しては、勝てるばずもない!
「サンドパン、左だ!」
対応しようとするサイドンの左側を、サンドパンが転がりながら抜けていく。サイドンが驚いたような顔で後ろを振り返る。
いわタイプのころがるじゃ、サイドンに大したダメージは出せない。本当の狙いはこっちだ!
「"マグニチュード"ッ!」
「キュイィッ!!」
『…ガタガタガタガタ』
直後、再びフィールドが揺れ始める。耐えに耐えて、ようやく作り出した攻撃のチャンス。弱点突いたタイプ一致攻撃の全力、叩き込んでやる!
いけ、サンドパン!
『ガタガタガタ………』
「………」←俺
「………」←サカキさん
「………」←サイドン
「…キュイ?」←犯人
…引き負けたあぁぁぁぁぁ!?おいおいおいサンドパンさんや、今の完全に形勢逆転・一転攻勢を掛ける場面だっただろ!?アニメだったら処刑用BGM掛かってる所だぞ!?それをなんでよりによってこう、盛り上がる所でカスダメ引くんだよ!?テヘペロしてれば許されるとでも思ってんのかあぁぁぁぁッ!?
…ああもう、ホント全部台無しだよ。
「…れいとうビーム、だ」
「…サァイ」
「ギュッ!?」
「…あ」
思いもよらないところで今後の展望を砕かれ呆然としてしまった俺を他所に、サカキさんはれいとうビームを指示。遮蔽物があるのは俺サイドだけ。避けることも隠れることも出来ず、サンドパンはまともに直撃を受けて吹き飛ばされた。
「サンドパン、戦闘不能!」
戦闘不能のジャッジが無情にも響く。が、マグニチュードの顛末ですでにボッキリと鼻っ柱を圧し折られていた俺には、もう折られる心は残っていない。
…ハァ。いや、そもそもマグニチュードって技自体ランダム性の強い技ではあるけど。いくら何でもこの状況でこれは…堪えるなぁ、ハァ…そしてやっぱり運ゲーってクソだわ。
ともかく、お疲れサンドパン。労いつつボールに戻す。つい色々と心の中で叫んでしまったけど、許しとくれ。
さって、サンドパンでほとんどダメージ与えられなかった時点で勝負あったようなものだけど、まだバトルは終わっていない。ちゃんとやらないとまたサカキさんに扱かれる。
「いってこい、ストライク」
「ラアァァァァァイッ!…ラァイ?」
空元気を振り絞って、最後の1体・ストライクをフィールドへ。いつもなら喧しいと文句の1つでも言いたくなるその奇声が、今日はより一層耳障りに感じる。そして文句を言う気力もない。ストライクも今の俺の状態に違和感を感じたのか、奇声を上げた後にこちらの様子を窺うように振り返る。
「"こうそくいどう"」
「ラアァァァァァイッ!」
とりあえずは現状初手安定のこうそくいどう。いわなだれ、れいとうビーム、そしてつのドリル…どれをくらってもワンパンKOだろう。勝ち筋があるとすれば、自身のスピードを活かしての機動戦しかない。
この間、サイドンに動きはない。慢心…ないな、強者故の余裕ってやつだ。
ストライクが高速で周囲を飛び回っている内に、徐々に俺の精神も落ち着いてきた。サンドパンではやらかしてしまったが、今度こそその余裕、崩してやる。
「突っ込め!"れんぞくぎり"だ!」
「ラアァァァァァイッ!」
その一声と共に、待ってましたと奇声を上げて一直線に斬り込んでいくストライク。こうそくいどうで跳ね上がったスピードを活かし、狙うはヒット&アウェイ。まともにやり合えば力負けする。足を止めたが最後だ。
「ラアァァァァァイッ!」
「サァイッ!」
ストライクを押さえ込もうとするサイドンの脇を、駆け抜け様にまず一太刀。
"れんぞくぎり"は、連続で使い続けることで技の威力が高くなっていく。これを繰り返せば、その内サイドンと言えど無視出来ないダメージになる。
狙いを付けられないよう、不規則にジグザグな動きで翻弄しながら距離を取り、また斬り込んでいく。サイドンはそのスピードに着いていけていない。
「サイドン、自分を起点にいわなだれだ」
「サァイドォンッ!」
何度かストライクに斬られたところで、流石にスピード勝負は分が悪いと見たか、無理矢理面で押し潰しに来た。そして、それがストライクには死ぬほど辛い。当たれば確定一発なのは分かり切っているため攻撃の手を止めざるを得ず、それすなわちスピードを殺すということでもある。
で、そういう隙を見逃してくれるほど、サカキさんは甘くない。
「お返しだ、マサヒデ。サイドン、岩を撃ち出せ」
「サァイッ!」
減速・反転したストライク目掛け、いわなだれにより生み出された岩塊の1つが撃ち出される。さっきサンドパンがやったことを、そっくりそのまま返されるハメになった。
その後も逃げ回るストライクを矢継ぎ早に岩塊が襲う。先ほどと展開は全く同じで、違うのはれいとうビームが疑似ロックブラストに変わったぐらい。そして、サンドパンの時にあった遮蔽物も、すでにそのほとんどは砕け散っていて役に立ちそうにない。というか、スピードが重要なストライクにはミスマッチだ。そして、そのスピードも飛来する岩塊によって出し切れていない。
「サイドン、フルパワーだ」
「サァイドォンッ!」
「ラァイ!?」
「しまっ…」
逃げ回るうちにフィールドの端に追い込まれたストライク。壁際に沿って逃げるストライクの行く手に、岩塊が突き刺さる。
これで完全に行き足が止まってしまった。
「れいとうビーム!」
「サァイッ!」
「ラァッ…」
「ストライクッ!」
そこを見透かしたように、れいとうビームが直撃。ストライクは壁に叩きつけられる。砂埃と白い冷気が辺りに散る。
そして、砂埃と白い冷気が晴れた後には、氷で壁に磔となったストライクの姿が。
「ラ…!ラァァイッ!?」
様子を見るにまだ戦えるようだが、氷のせいで体が動かせない様子。なるほど、これが『こおり』の状態異常か…詰んだわ、これ。流石にこうなってしまったらもう手の打ちようがない。
「サイドンを相手に、ここまでよくやった…と褒めておこうか。監査前に良い予行演習になった」
サカキさん的にも勝負あったって感じだなー。振り返ってみると、今回も今までどおりほとんど一方的にやられてただけだ。まともにダメージも与えられてないし。効果今一つなじばく、カスダメ引いたマグニチュード、元々の威力が低いれんぞくぎりが数回…うん、こんなんじゃそりゃ勝てませんわ。
何はともあれ、お疲れストライク。
「次戦う時は、もっと楽しませてくれることを期待する。サイドン、つのドリルでトドメだ」
「サァイッ‼」
「…え?」
え、いや、ここでつのドリルッスか?身動き取れない相手にいくら何でもそれはオーバーキルが過ぎる…
「ラアァァァァァァァァァッ!?」
「ス、ストライクゥーーッ‼」
というわけで、主人公がサカキ様に遊ばれるお話でした。この主人公のライバルはレッドさん?それともグリーン?とんでもない、サカキ様です。明確にライバルっていう存在を決めていなかったけど、もうそれでいい気がする今日この頃。ここのサカキ様はバトルに関しては血も涙もないお方です。
さて、前回の投稿から1カ月、剣盾一通りプレイしましたが、やっぱりポケモンの新作は幾つになってもワクワクします。もう一生治らないんだろうなぁ、これ。色々感想はありますが、詳しくは後で活動報告の方にでも書いときましょうかね。次回はジム戦…まで行けるかなぁ?
それと、多くの感想ありがとうございます。返信の方がだいぶ滞っていますが、全部拝見させていただいております。今後、少しづつ返信の方もやっていきたいと思います。それと、更新はこれが今年最後になるかもしれません。もしかしたらもう1話いけるかもしれませんが、先に言っておきましょう。皆様、どうぞ良いお年を。