成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第31話:戦う男の休日

 

 

"働かざる者食うべからず"…食べ物を手に入れることに大きな苦労が伴った大昔において、働こうとしない怠け者に食わせる飯は無いという意味。転じて働かないと食事にはありつけないという遠い先祖達からのありがたい教え。時代が進んでも戒めのために、子供への教育のために、或いは良い歳になっても働かない大人(ニート)への親からの圧迫として、今なおよく使われている、労働することの意義と目的と社会的圧力を今に伝える諺だ。

 

俺も昔、祖父母からよく言われたものだ。『働かざる者食うべからず。子供は勉強することが仕事だから頑張りなさい』…と。一度社会人となった経験を持つ身としては、学生時代の背信的行為の数々と末期の焦燥感を思い出し、身に染みて腹から背中までぶち抜く程に突き刺さる言葉だ。もう一度子供に戻ってみたいと何度思ったことか。

 

…まさか世界を越えて本当に子供時代をやり直すハメになるとは思っても見なかったが。

 

ともかく、そんなこんなで時代は進み、いつしか世の中は豊かになった。様々な面で余裕が生まれ、ゆとりが出来、そこかしこに欲求の捌け口が溢れ、世の中を動かすモノが食べ物から金になった。

 

人々は己の内に滾る欲求・欲望を満たすために、今を生きている…と言っても過言ではないのではないか?その手段として金を得るため、日々汗水垂らして働いているワケだ。それこそ"月月火水木金金"などと称し、休み無しで自己研鑽に努めること、1日24時間の多くを労働に費やすことを良しとするような風潮が生まれるほどに。

 

労働は現在、生きていく上で絶対に必要なことだ。しかし、24時間、ないしはそれに近い時間働くような日々を続ければ、最終的には心を壊し、体を壊し、最悪命を失うこととなる。どんな屈強で優秀な企業戦士と言えど、休息は絶対に必要なのだ。

 

 

 

 

 

 

まあ、詰まる話、何が言いたいのかというと。

 

 

 

 

「リーフの石が1点、炎の石が1点、合計で4,200円になります」

 

「これでお願いします」

 

「…はい、ちょうどお預かりします。ありがとうございました」

 

 

 

 

日夜バトルに明け暮れ、毎度のようにサカキさんにボコられるような日々は、俺の体力的にも精神的にもよろしくないってことさ。流石に来る日も来る日も手もなく捻られてちゃ、サカキさんの無茶振りの数々に耐えてきた俺でも心が荒むってもんだ。

 

いくら何でも、明らかな格下相手に"れいとうビーム"で壁に磔にして身動き封じた所に"つのドリル"ブチ込んで来るとか…ないわー、マジないわー…あの時ばかりは衝動的に鬼!悪魔!サカキ!と叫んでやりたい気分だった。いや、いつもそうか…そしてモチロン出来なかった。すまねぇ、ストライク…俺、もっと強くなるよ。でも、もう少し声量は抑えてくれ。喧しいから。

 

 

 

 かくして心眼零度コンボよりも惨い、正直目を覆いたくなるぐらいのオーバーキルでガッツリストライクごと心も抉られた俺。リアルにorzしそうな勢いで凹んでいた俺に対して、見かねたらしいサカキさんから与えられたのは『少しリフレッシュして来るといい』と言う一言と、貴重な貴重な休日。

 

結構久しぶりに手に入れた気がする完全な休日なワケなんだが、今いるのは虹色の大きな街こと、ヤマブキシティと並んでカントー地方屈指の大都市タマムシシティ。折角の休みを1日中部屋の中でダラダラ過ごすのもどうかとも思い、外出することにした。

 

そこでまず俺が足を運んだ場所が、現在地のタマムシシティの目玉施設の1つ"タマムシデパート"だ。ゲームでもあった大型ショッピング施設で、ゲームにおいては幅広い品揃えで多くのトレーナー諸氏がお世話になったことと思う。

 

モンスターボールやきずぐすり等のトレーナー必須アイテムなら、各地のフレンドリィショップでも買える。しかし、タマムシデパートではそれらに加え各種進化の石や優秀な技の技マシン、ポケモン育成のお供、努力値振りの必需品である"タウリン"等のドーピングアイテムまで、多くの有用なアイテムが取り揃えられている。

 

そして、その品揃えは現実(こちら)でも変わらない。それどころか、モンスターボール3種、各種きずぐすりに状態異常回復アイテムは元より、1~50番までのほとんどの技マシンとドーピングアイテム各種。他にもゲームでは無かった木の実やポケモン関連グッズ、雑誌等の書籍類、フードコート…と、ゲームよりもさらに充実したラインナップとなっていた。

 

あと、何かゲーム◯ーイも売ってた。見て、手に取った瞬間、子供の頃の記憶が甦って懐かしさが爆発した。決められた時間をオーバーしても止めなかったせいで親に取り上げられたのも、今となってはいい思い出だ。

 

 

 

 そんな見所盛り沢山なタマムシデパートに、俺が貴重な休日を使ってやって来た理由は、もちろん気分転換を兼ねてショッピングを楽しむために他ならない。何から何まで手を出すことは、それこそお金を十万、モノによっては百万単位で湯水の如く消費することになるので無謀が過ぎる…と言うか、出来ないが。

 

そんな中にあって、俺がなけなしのお小遣いをはたいて購入したのが、"ほのおのいし"と"リーフのいし"。いずれもポケモンを進化させるアイテムで、俺のポケモンの中だとそれぞれロコンとクサイハナ(ナゾノクサ)を進化させるのに必要となる。

 

今はまだ早いかもしれないが、いつかは必ず必要になるアイテムだ。買える時に買っておいて損はない。

 

他にも気になる商品は色々とあった。主に技マシンとか技マシンとか技マシンとか…値段がアレなので買うことは難しいが、見ているだけでも楽しいので問題はない。

 

…使い捨てのくせにゲームよりもバカ高くて1つウン万もするとか…安いヤツは安いヤツで微妙に使い勝手が悪かったり、覚えるポケモンが限定的だったりするし…ともかく、良い買い物も出来たし、良いリフレッシュになったことは確かだった。

 

見て回ったのは全体の半分ぐらいだが、目ぼしいところは概ね見尽くしたと判断し、俺はタマムシデパートを後にした。

 

 

 

 デパートを出た時点で、時刻は正午を少し回ったところ。良い時間なので昼ごはんにしようとしたいところだったが、今日は世間一般も休日ということもあり、デパートは家族連れの大盛況。タマムシデパート内にも飲食店は多数入っているのだが、この調子だとフードコートも大混雑しているであろうことは容易に想像がつく。

 

俺はどちらかと言えば、食事は1人静かにのんびりと食べたい人間だ。そう、何と言うか、飯の時は誰にも邪魔されず自由で、救われてなきゃあダメなんだ。わざわざ周囲を人の群れの喧騒に囲まれた中で飯にする必要も無い。

 

ふと頭をどこかで見たような輸入雑貨商の中年男性の姿が過るが、労力、時間、お金…払うコストに見合わず、乗り気でもないことをするより、その方がずっと良い。そんなワケで、デパート前の噴水広場の屋台で適当に目に付いたファストフードを幾つか買い、適当なベンチに腰を下ろして腹を満たす。

 

こうして昼飯を手早く済ませ、次の目的地へ…と行きたいところだったんだが、生憎とその目的地が無い。と言うのも、タマムシシティの他の目玉施設を思い出してみて欲しい。

 

まず浮かぶのは、ゲームコーナー。コインと引き換えに珍しいポケモンや有用な技マシンなどを手に入れることが出来る。日本ではまず子供は入れない施設だが、ゲームでは主人公が平然と入っていたが、こっちでもゲームと同様に普通に子供も入れるようだ。まあ、金を無駄に浪費するだけに終わりかねないので却下だが。必要の無いギャンブルはしないし、ギャンブル自体出来ればしたくない主義なんで。チキン野郎?その通りだよ!あと、運営会社がTCPなのもマイナスポイント。

 

次、タマムシマンションの最上階。どこの誰とも知らない子供が、勝手にイーブイを持って行ってもいい場所。生憎と面識の無い他人様の家にズカズカと上がれるような鋼鉄の心と、無断で持って行って罪悪感に苛まれないような厚い面の皮は持ち合わせていない。と言うか、くれるかどうか、イーブイがいるのかすら分からん。よって却下。イーブイ欲しいなー。

 

次、ゲームコーナー地下のロケット団アジト…考えるまでも無く論外。主人公でもないのに、誰が好き好んで悪の秘密結社のアジトに潜入するというのか。そもそも潜入してまでやることがない。というか、仮にやったとしたらサカキさんが恐すぎる。それ以外の人も恐すぎる。やった後も恐すぎる。バレようものなら恐怖を通り越して絶望しかない。人生オワタ待った無し。

 

あとはタマムシ大学だとか、百年以上前から続く名家の屋敷だとか、タマムシスタジアムだとか、ゲームには無かった施設の名前が並ぶ。タマムシ大学は、カントー地方全域から未来を担う頭脳の持ち主たちが集う学校。日本で言うところの東京大学に該当する学校だと思う。まあ、そんなところを観光なんぞ出来るはずもない。名家の屋敷は昔の伝統を今に伝える貴重な文化財だが、俺としてはそれよりも現在のタマムシシティジムリーダー・エリカの生家であると言うことの方が興味を惹かれる。タマムシスタジアムはプロリーグの公式戦が行われることもある、カントー地方でも有数の大規模なスタジアム。まあ、今はタマムシで公式戦はしてないから行く意味大してないけど。

 

…考えてみれば、タマムシジムにしろゲームコーナーにしろ、タマムシシティの南から東の辺りにかけて立地している。デパートは西の端だから、結構距離がある…が、いずれにせよタマムシジムには近いうちに挑むことになる。

 

やることもないし、下見も兼ねて行ってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 行き交う人の波を掻き分け、時に呑まれながら歩き続けること1時間あまり。途中視界の隅に捉えたゲームコーナーを意図的に見ないようにしながら、ようやくタマムシジムまでやって来た。タマムシジムのリーダーは、前出の通りエリカという女性。専門としているのはくさタイプ。ジム自体もくさタイプのジムらしく、周囲には色とりどりの草花が植えられ、非常にカラフルで見た者に華やかな印象を与える外観だ。内装もまた緑溢れる…と言うより、最早草花に侵食されているレベルで緑まみれだ。

 

リーダーによっては微妙に方針が異なっていることもあるが、ジムではただ挑戦するだけでなく、とあるジムを除き観客としてバトルを観戦することも出来る。それなりの額の入場料を払う必要はあるが、ジムリーダーやジムトレーナー、様々な挑戦者の戦い方や技構成など、お金を払ってでも見る価値のある部分は多い…と言われている。ジム側にとっても所属トレーナーたちやリーダー自身の実力を世に知らしめることのほか、ジム自体の収入に繋がる面もあり、積極的に観客を受け入れている。

 

俺はと言うとほぼ原作知識(インチキ)頼り。精々がバトル前に他の挑戦者のバトルを見た程度で、ここまで直に見て対策を練ることはしてこなかった。金が勿体ないし、挑戦者に限り観戦無料だし。

 

タマムシジムは都会のジムなだけあり連日盛況。内部では休日の今日も多数の挑戦者がジムリーダーに挑むべく控えていた。今日は挑戦する予定も無ければ準備もしてないが、時間はある。折角だし観戦もしていこうと思う。

 

 

 

…なお、その唯一の例外のとあるジムこそが、我らがサカキさんのトキワジム。基本的に観客は取っていない。そのせいで、他のジムと比較して実態があまり世に知られていない謎のジムと言われることもあったりする…らしい。運営費はポケモン協会は当然として…まあ、会社からも出てるんだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 当日券で辛うじて空いていた一番安い席のチケットを購入。現在行われているバトルはジムトレーナーと挑戦者による2vs2バトル。既に終盤に差し掛かっており、挑戦者側が早々に1体戦闘不能、2体目も"しびれごな"でまひ状態にされて押し込まれつつあり、ジム側が優勢だった。

 

 

 

「マダツボミ、そこよ!"つるのムチ"ッ!」

「マーダァー!」

 

「チュ…ン…」

「オ、オニスズメーッ!」

 

「オニスズメ、戦闘不能!よって勝者、ジムトレーナー・イロハ!」

 

『パチパチパチパチ…』

 

 

 

結局そのままジムトレーナーが勝利。タイプ相性が不利な相手をほぼ完封する形での終幕となった。粉系の技によるくさタイプ特有の搦め手にまんまとやられてしまったような感じだ。

 

 

「イロハちゃーん!」

「サイン下さいっ!」

「うぉぉぉー!」

 

 

観客席からバトルを終えたジムトレーナーに声援が飛び、ジムトレーナーは観客席を見上げて手を振ってそれに応える。ジムリーダーならともかく、それぞれのジムトレーナーにまでファンがいるとは…初めて見る光景だ。

 

それと、やはりこのジムのトレーナーは女性ばかりのようだ。ジムトレーナー募集のポスターが貼ってあるの見たけど、そこにもしっかり『女性限定』って書いてあった。徹底してらっしゃる様子。そしてくさタイプ好きのカントー男子涙目。

 

総じて外見に関しては魅力的と思える女性が多いし、これもタマムシジムが人気の理由なんだろうな。ジムの前で覗き働いてる爺がいたと思うけど、これならその気持ちも分からんでもない。

 

まあ、擁護は出来ないが。

 

 

 

 

 

 その後もジムトレーナー戦が続く。ジムトレーナーが使用しているポケモンは、ナゾノクサ・マダツボミ系統がほとんどで、時々タマタマ系統やフシギダネ系統を使うトレーナーがいた。

 

観戦した限りでは、多少の差異はあれど、いずれも有利な状況を作り出した上で戦うというスタイル。相手の攻めを誘いつつ粉技や"さいみんじゅつ"で状態異常を撒いたり、"やどりぎのタネ"や"すいとる"などのドレイン系の技で体力回復しつつ、草技でガンガン押していく感じ。フルアタ一辺倒のこの世界で、初めてまともに搦め手を交えた戦法を採るトレーナーを見た気がする。

 

フィールドそのものも厄介だ。草が一面に生い茂る地面のフィールドになっており、挑戦者はくさタイプのポケモンが力を発揮しやすい環境下での戦いを強いられることになる。最初から常時グラスフィールドが張られている状況と言えばいいのかな?

 

 

 

ここまで見ていて、ここのジムトレーナーの戦い方は基本的には"受け"の姿勢であることが見てとれる。嵌るとなす術無く勝負が決まってしまうことがほとんどだった。くさタイプのポケモンの種族値的にも技的にも、そういう戦法が合っているのだろう。

 

その一方で、上手くいかないと一転して主導権を握られて劣勢、あるいは押され気味な勝負を強いられてもいる。つまり、タマムシジムに挑む際は状態異常…特にまひ・ねむり状態への対策、フィールド自体への対策。それらを踏まえてあの受けの姿勢をどうやって打ち破るか…この辺りがタマムシジム制覇のポイントになりそうだ。

 

…"ちょうはつ"が欲しいなぁ。あれば粉技もやどりぎもまとめて封じることが出来るのに。

 

 

 

 

 

 さらに何戦かジムトレーナー戦が行われた後、にわかに周囲の観客たちがざわめき出す。見れば来た時にはポツポツと空いていた席が、今は完全に埋まっている。

 

 

「只今より、ジムリーダー戦を執り行います!チャレンジャー・ヨシノ、ジムリーダー・エリカ!両名はフィールドへ!」

 

『おおおおおぉぉぉぉ!!!!』

 

「エリカさーん!頑張れー!」

「こっち向いてくださーい!」

「キャー!ステキー!」

「エリカお姉様ー!」

 

 

どうやら、今ここにいる観客の多くはジムリーダー戦がお目当てだったらしい。一際大きな歓声がスタジアムに木霊して、ジムリーダー・エリカがフィールドに姿を見せた。

 

この世界でのエリカは、まだジムリーダーに就任してから日が浅い新米ジムリーダー。あっちではそのお嬢様然とした見た目やおっとりとした言動から人気が高かったが、こっちでも美人でくさタイプのポケモンを自在に操る確かな実力を持ち、さらには上記のとおり本物のお嬢様でもあり、趣味も生け花・書道・弓道・茶道etc…と、完全に古き良きお嬢様のそれ。人気は日本以上に高く、写真集の発売やメディアへの出演も多かったりと、そんじょそこらのアイドルよりも持て囃されている。ファンの間では隠し撮りした写真も多数出回っているとか言う話も…流石に警察が動くようなのは無い…と思いたいけど、とりあえず覗き・盗撮は犯罪です。良い子の皆さんはやってはいけません。ダメ、ゼッタイ。

 

そんな高い人気を裏付けるように、スタジアムにはこれまでのジムトレーナーに対するものをはるかに上回る、エリカに対する黄色い声援がひっきりなしに飛び交っている。男性のみならず、女性の声援も結構あった気がする。

 

俺が挑戦する時にも、ほぼ確実にこの歓声の中で戦うことになるのだろうなぁ。大観衆の中でのバトルはクチバで一応経験はあるが、ほぼアウェーというのは日本でのことも含め経験がない。中々にキツそうだ。

 

 

 

歓声鳴り止まぬ中、エリカと挑戦者が二言三言言葉を交わし、フィールドの両端で向かい合う。声援が止み、勝負直前の一瞬の静寂。そして…

 

 

 

 

 

「バトル開始ッ!」

 

 

 

さて、タマムシジムリーダーの実力や如何に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ウツボット、"ソーラービーム"です!」

「シャーボッ!」

 

 

 時は流れバトルも終盤…と言うより、ほぼ終了寸前。残りポケモン数は挑戦者1に対してエリカ2。そして、その挑戦者のラスト1体も既に崖っぷちまで追い込まれており、状況は完全にエリカ有利。ここからの巻き返しは奇跡でも起きない限りは難しい。大勢は決したと見ていい。

 

新米とは言え、ジムリーダーはジムリーダー。やはりその実力は並大抵のものではなかった。保有ジムバッジは5個ということで挑戦者もかなりの実力者ということだったのだが…

 

補助技絡めてくる相手に戦法が単純な力押しではなぁ…特に、今回挑戦者が使用していたポケモンがピジョン・ガーディ・ポニータ・ベロリンガと、比較的近距離戦が中心になりがちなメンツが多かったことも悪い方に転がった原因の1つだろう。要所要所でねむり・まひの状態異常をもらって撃沈されていた。ただ、タイプ相性はきっちり対策してきている辺りは流石と言ったところ。それを平然と破って見せるエリカはもっと凄いんだけどね。ジムリーダーの面目躍如と言ったところ。

 

 

 

「ああッ!ベロリンガ!」

 

「ベロリンガ戦闘不能!よって勝者、ジムリーダー・エリカ!」

 

『おおおおおぉぉぉぉ!!!!』

 

 

そうこうしている間に、しびれごなで動きを止められたベロリンガが光の奔流に飲み込まれノックアウト。ジムリーダー・エリカの勝利だ。流石にくさタイプ最大級の威力を持つソーラービームをまともに受けては一溜まりもあるまい。

 

審判のジャッジの直後歓声が沸き上がり、「エリカ」コールの嵐が吹く。エリカはそれに手を上げて応える。さらに観客が沸く。

 

ゲームでは挑戦しに来た主人公を前に居眠りするなど、余裕がある、おっとり、天然…もっとこう、ふわふわした感じのイメージなんだが、こう見ると自分の中でのエリカのイメージとはだいぶかけ離れている。バトルになるとスイッチが切り替わるというか、真面目モードになるというか、ON・OFFの切り換えがしっかりしている人なのかもしれない。まあ、バトル中に居眠りするようなヤツなんて普通に考えればおらんわな。

 

 

 

さて、とりあえずの目的は達した。明日からはまたレベルアップと同時に、タマムシジムの対策も考えていかないとな。とりあえず、サンドパンとヨーギラスはお留守番決定だ。

 

思えば、なんだかんだで一月半近くタマムシシティに根を張っていた。旅ってなんだっけ?

 

都会なだけあってタマムシシティ(ここ)は色々と便利だけど、流石にちょっと長居し過ぎた。サカキさん越えという当面の俺の目標もまだ道半ば。いい加減、次の旅に向かわないとな。そのためにも、まずはタマムシジム制覇だ。

 

割かし単純な性格してるもんで、目の前に明確な目標があるとやる気が出てくる。そう、俺が目指すはサカキさんの首級ただ1つ!サカキさんを倒して、俺は自由を手に入れる!さあ、気合い入れ直して、もう一度スタートを切るんだ!頑張って行こう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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~同時刻~

 

 

「…まったく。何故、私が子供のお守りなど…ハァ…」

 

 

 

 マサヒデがタマムシジムでの観戦を経てやる気を少し取り戻したのと同時刻。彼の座る席の少し後方に、スタジアムの壁に寄りかかりながら溜息を吐く男の姿があった。バレないように普段着ているスーツを脱ぎ、ラフな格好で腕を組んで佇む青髪の男…その名はアポロ。新進気鋭のTCP社期待の若手幹部にして、ロケット団幹部。入団して早い時期からその才能をサカキに認められ、確かな実績と共に出世街道を駆け上がったエリート中のエリートだ。

 

ポケモンリーグに全くとは言わないがさして興味がなく、ましてや新しい和服美人のジムリーダーにも大して興味を抱かない。そんな彼がここにいる理由はただ一つ。敬愛するボス・サカキの指示があったからに他ならない。

 

曰く「マサヒデを見張れ」。サカキが才能を高く評価して旅に送り出していると言っても、所詮はまだ11歳の少年。何かトラブル等に巻き込まれれば、対処は難しいことの方が多いだろう。

 

それに、この街はロケット団が本拠点を構える場所でもある。流石に色々とカモフラージュされたり秘匿されたりはしているが、至る所に関連施設があり、見られるとまずい場所も相当数ある。それ以上に彼が危惧していることが、この街で活動する団員の中には天下の往来で平然と犯罪行為をすることも厭わない…むしろ、嬉々として手を出しかねない気の荒い連中も多いということ。統括する立場にあるアポロとしては頭の痛い話だが、そう言ったコントロールし切れない者たちが、何かの拍子に不測の事態を引き起こす可能性が無いとは言えなかった。

 

なので、見られたくない場所に近づかないように見張り、トラブルになってしまった時には団員との間に入る…端的に言えば護衛任務。それがサカキが彼、アポロに与えたミッションだった。

 

 

 

その指示自体はアポロも分からないではない。子供が犯罪のターゲットとなってしまうことは決して珍しいことではなく、この大都市のどこにそういう者がいてもおかしくはない。人間必ずしも善良な者ばかりでないことは、自分たちの存在そのものが証明している。

 

が、普通に考えれば少なくとも幹部がするようなことではない。ましてや貴重な休暇を潰されてまでしなくてはならないものだとは、彼には到底思えなかった。いくら、サカキがマサヒデを興味深く見ているとは言え…だ。

 

しかし、マサヒデのポケモンバトルの腕前はサカキが目に掛けるだけのモノであるのは間違いのない事実。アポロもその点は認めている。自身のエース・ヘルガーを相手に、手に入れて間もないポケモン…それも、相性の悪いストライクであそこまで食い下がられるのは正直予想外だった。ストライク自体の実力も高かったが、その実力を上手く引き出していた。彼のような子供を世間一般では『天才』と呼ぶのだろう…と、あの時何とはなしに彼は思っていた。

 

或いは、サカキは将来の幹部候補としてこの少年を育てる気なのかもしれない。もしくは、精鋭の戦闘員か。或いは、サカキの派閥のジムリーダーとしてポケモン協会に送り込むという可能性もある。どう転ぶにせよ、この少年が得難い才能を持った存在であることと、サカキがこの少年を貴重な手駒と考えていることは、これまでのことからアポロにも十分理解出来ていた。

 

 

「(…負けてはいられませんね)」

 

 

しかし、理解出来ても納得出来るかは別の問題。常に冷静沈着かつ丁寧な物腰である一方、冷酷無情な男としてもTCP社・ロケット団内部で有名なアポロ。だが、その実は感情を極力表に出さないだけで激情家でもあった。つい先日の激闘を思い出し、優越感、嫉妬、敵意、或いは焦り…様々な感情が胸の内を駆け回る。

 

サカキが大きな期待を掛けていることは知っている。才能があることも分かった。今日1日の様子を見て、マサヒデが如何にバトルに、延いてはジム挑戦に情熱を、才能を、努力を傾けているかも理解した。しかしだからと言って、自身もまたサカキに目に掛けてもらっていた身として、易々と越えてやられるのも癪に障る。

 

視線の先には、ターゲットであるマサヒデの姿。たかが子供に何を熱くなっているのかと、気を抜きそうになる己に喝を入れ、対抗心を燃やしてアポロは再び歩き出す。途中、ゲームコーナー周辺を通ったものの、特に懸念していたようなトラブルもなく無事宿舎に到着。マサヒデが建物の中に入って行ったのを確認して、サカキの秘書に任務終了を報告した。

 

 

 

報告を終え、手の掛からない子供であったことだけは良かったと思い返すアポロ。時計を見れば、時刻は夕方目前。「どこにも行けないな」と、休日が無くなってしまったことに嘆息しつつ、それならばとアポロが足を向けたのは、TCP本社の内部にあるバトルフィールド。先日、マサヒデと激闘を繰り広げたあのフィールドだ。

 

適当に社員を捉まえ、バトルの相手をさせる。勝利すれば、また別の社員に次の相手をさせる。それにも勝てば、また別の社員と。己の心の行くままに戦い続け、区切りをつけた頃にはすでに周囲はネオンの輝く夜の街へと姿を変えていた。

 

 

 

こうして貴重な休日を費やすことになったアポロだが、その中で失いつつあった自身のトレーナーとしての闘争心、向上心と言った燃え滾る感情が、この日を境に勢いを取り戻そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

なお、代休を後日貰えた模様。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、数日後…

 

 

 

「これより、ジムトレーナー戦を行います!チャレンジャー・マサヒデ、前へ!」

 

 

満を持して、マサヒデはタマムシジムへと殴り込みをかけた。

 

 

 

 




TCPは素敵な上司に恵まれた、社員に優しいホワイトでアットホームな職場です。なお、裏は真っ黒な模様。上司の言うことは絶対。社長であるならなおのこと。これもまた社会人、企業戦士の悲哀である。頑張れアポロ、負けるなアポロ、その内きっと良いことあるよ。
今回はタマムシデパートでお買い物&敵情視察、そしてアポロさん。人物像をちょっと掘り下げてみました。結果、何か超強化フラグが立ってしまったような気がするが、きっと気のせいだよネ()。ラムダとかランスとも絡ませてみたいところですが、登場はいつになることやら。

そして次回はいよいよタマムシジムへ主人公が挑みます。くさタイプの要塞をどう攻略するのか…なお、スピアーさんが満面の笑みで待機しています。

そして遅くなりましたが、皆さん明けましておめでとうございます。今年もマイペースに無理のない範囲で頑張っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

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