成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

34 / 84
第32話:花散らす突風(1)

 

 

 

 

 虹色の街・タマムシシティ。カントー地方でも1・2を争う人口と発展度合いを誇り、日中は陽光、夜にはネオンの光に照らされ、その賑わいは途絶えることはなく、光も影も抱き込んで決して眠ることのない七色の大都会である。

 

カントーの不夜城との異名で呼ばれることもあるこの大都市の中において、図抜けて活気に満ち溢れる場所がいくつかある。その内の1つが、タマムシジム。連日ジムバッジを求めるトレーナーたちと、迎え撃つ美しく可憐なジムリーダー・ジムトレーナーたち。そして、それを目当てに毎日のように満員御礼になってもなお集まり声援を送る熱心な観衆(ファン)

 

美しく可憐な剣闘士たちによる血沸き肉躍る熱狂の闘技場(コロッセオ)、タマムシジム。今日も華麗なる宴の幕が上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

-----

 

 

 

 はいどうも、皆さんこんにちは。マサヒデです。唐突な話で申し訳無いのだが、俺は今、タマムシジムのバトルフィールドに立っています。今回は一観客ではなく、挑戦者として。目標はモチロン、タマムシジム制覇と、その証であるレインボーバッジ。

 

このタマムシジムに挑戦するに当たり、挑戦者に求められたことはただ1つ。グレンジムのように知識を試されたり、クチバジムのように(トレーナーの)体力を試されるようなことはない。ただ己の知識と経験、信頼する仲間たち…それを頼りに勝ち続けること。ジムトレーナーと何度かバトルを行い、勝ち抜ければジムリーダーに挑戦出来る。拍子抜けしてしまうぐらい非常にシンプルなレギュレーションだ。

 

…まあ、前回があんなのだったからネ。つい身構えてしまうのも仕方ないネ。

 

 

 

で、現在は早くも対ジムトレーナー第5戦目。試合は終盤、形勢は残りポケモン3対1で圧倒的有利な状況。挑戦前に気にしていた観客の声援(ブーイング)も…まあチラホラとはあるがあまり気にならず戦えている…と思う。

 

やはり、くさタイプに有利なポケモンで手持ちを揃えることが出来たことは大きい。主力に据えてここまで順調に勝ち上がってきた。そして、このバトルも見所無く…と言っては相手に失礼だが、それぐらい安定した試合運びが出来ている。

 

 

「ストライク、つばさでうつ!」

「ラアァァァァァイッ‼‼」

 

 

気迫を乗せて奇声を響かせ、高速で迫るストライクの必殺の一撃が、相手のナゾノクサを容赦なく跳ね飛ばす。

 

 

「ナゾノクサ戦闘不能!勝者、チャレンジャー・マサヒデ!」

 

『ワアァァァァァァ‼』

 

 

ナゾノクサ、戦闘不能。俺の勝利。審判のジャッジの直後、観客席から歓声が沸く。ジムリーダーはおろか、ジムトレーナーにもファンの付くジムなだけあって、ブーイングもチラホラ。他の挑戦者と比べれば子供ということもあってか幾分か控えめだが、正直不愉快。子供相手にブーイングかます大人とかちょっと…ああはなりたくないものだ。中身はすでにいい大人だけどな。

 

ともかく、これでジムトレーナー戦5連勝。ここまでは順調に来ている。あと何戦やらないといけないのかは分からないが、すべて勝てばいいだけの話。

 

 

 

「お疲れ様でございます、マサヒデ様」

 

 

 

挑戦者控室に戻ると、待っていたジム職員に声を掛けられた。

 

 

「これでマサヒデ様はジムトレーナー戦5勝となります。規定に基づきまして、ジムリーダー・エリカへの挑戦が認められました。おめでとうございます」

 

 

おっと、言ってる傍からトレーナー戦突無事破出来たか。バッジ2個ならこんなもの…か?少し多い気もする。もっと持ってたらもう2、3戦はあったかも。

 

 

「ありがとうございます」

 

「ジムリーダー戦についてですが、本日はジムリーダーの予定が埋まっておりまして、明日の午後からとさせていただきます。ご了承下さい」

 

 

ジムリーダーが1日にこなすジム戦の数は、ジムにもよるが、多くても10戦程度。ジムリーダーの都合、使用するポケモンの都合、1試合に掛かる時間などを考慮すると、その辺りが限界だと言われている。

 

そのため、挑戦者の多いジムではギミックの他にジムトレーナー戦が複数回組まれることもよくあり、ジムリーダーへの挑戦者をかなり絞っているそうだ。もちろん、挑戦者の実力を測ることもトレーナー戦が多い大きな理由ではあるだろうけど、対戦数がやたらと多いのはタマムシジムにギミックが無い分余計にそうなっているのかもしれない。

 

純粋なポケモンの力比べ、知恵比べは望むところではあったから何も不満はないけども。

 

 

「明日ですか。了解しました」

 

「では、失礼致します」

 

 

それだけ告げると、職員さんは部屋を出ていった。サカキさん、カツラさん、マチスさんとジムリーダーを見てきたが、リーダーの仕事して、メディアに出て、家業もやって…と、サカキさん並みに忙しそうだ。

 

 

 

一息吐いて時計を確認すると、12時を少し回った辺り。ジムリーダー戦が午後からやるが…いや、もう見るべきは見た。帰って飯食って、明日に向けて軽く調整して、今日は早目に休むとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

~翌日~

 

 

 

はい、と言うワケで三度やって来ましたタマムシジム。俺もポケモンたちも体力全快、準備万端だ。

 

午前の内にジムに入り、事前に準備しておいた昼飯を食べながら、レインボーバッジを目指してジムトレーナー戦に挑む挑戦者たちの戦い振りを眺める。

 

が、やはり状態異常に苦しめられている人が多いように見受けられる。

 

そんな頼れる仲間が為す術無く散っていく様に絶望する挑戦者の皆さんを背景に、一緒にタマムシジム制覇を目指す心強い勇者たちの紹介と行こう。ジムリーダー戦は3vs3の戦いとなることが事前に知らされていたため、色々と考えて今回勝利を託す相棒たちはこの3体に決めた。

 

 

・ロコン ♀ Lv30

持ち物:カゴのみ

特性:もらいび

ワザ:ほのおのうず だましうち

   あやしいひかり ひのこ

 

・ドガース ♂ Lv32

持ち物:カゴのみ

特性:ふゆう

ワザ:ヘドロこうげき じばく

   10まんボルト くろいきり

 

・スピアー ♂ Lv40

持ち物:カゴのみ

特性:むしのしらせ

ワザ:どくづき ダブルニードル

   ミサイルばり こうそくいどう

 

 

…以上。他にもストライクとラッタ、あと一応ナゾノクサを加えた6体が今回ジムに挑むに当たって選抜した戦力になる。

 

ようやくレベル40台に突入したスピアーを軸に、くさタイプを苦にしない面子で固めておいた。粉技を警戒しての遠距離での攻撃手段も完備。さらに、持ち物欄を見てもらえれば分かる通り、仮にくらってしまってもねむり状態を回復させる『カゴのみ』を持たせて状態異常対策はバッチリだ。

 

そもそも、これらの木の実は3年前、俺がポケモン世界(こちら)に放り出された直後にトキワの森の奥地で手に入れた物がその原点にある。それらの木の実はTCP社での採取や効能等の研究・解析を経て、研究結果を世に出せるまでのものが出来上がりつつあった。あと必要なのは、最前線で使ってみた上での結果の蓄積。ということで、丁度よく回してもらえたので状態異常対策として今回から本格的に実戦投入する。今回は背後(サカキさん)を気にすることなく原作を先取りだ。

 

あと、持ち物の重複を禁止するルールはまだなかったりする。状態異常の重ね掛けはゲーム同様出来ない以上、警戒すべきはマヒよりもねむり。余裕のカゴのみガン積みだ。これでもうねむりごなもさいみんじゅつ(なにも)も怖くない!

 

 

 

…1体ぐらいマヒ対策させた方が良かった気もするが、もう後ろは振り返らないぞ。このまま勝利目指して一直線だ。

 

 

 

 

 

弁当も食べ終え、そのまま観戦を続けること1時間弱。

 

 

『お知らせ致します。午後より行いますジムリーダー戦の挑戦者の方は、挑戦者控え室までお越し下さい。繰り返します。午後より…』

 

 

アナウンスで呼び出しがかかり、リュックを背負い直して控え室へと向かう。

 

 

 

「ジムリーダー挑戦者、マサヒデ様ですね?」

 

「はい」

 

「お待ちしておりました。では、規則ですのでトレーナーカードの提示をお願い致します」

 

 

控え室に入ると、待ち構えていた和服姿の職員さんに言われるがままトレーナーカードを提示。どんな時でも本人確認は大事なことだ。

 

 

「…確かに。ではジムリーダー、及びフィールドの準備が整い次第お呼び致しますので、しばしお待ち下さいませ」

 

 

職員さんが退室し、俺が1人部屋に残される。椅子に腰を下ろして備え付けのモニターをみれば、フィールドでは整備員やゴーリキー、常時グラスフィールドなだけあって多くの草ポケモンたちが荒れたフィールドを手早く修復していく様子が映されている。草が剥げて土が剥き出しになっている個所に、あっという間にまた草が生えて元通りの緑の絨毯になっていく。ポケモンの力を見せ付けられる一面だ。

 

手持ち無沙汰になりながらフィールドの様子をモニター越しに眺めて時が過ぎるのを待つ。嵐の前の静けさと言うか、大一番を前にした時特有の静かな、それでいて落ち着かない時間が流れる。

 

 

 

「失礼致します。マサヒデ様、お待たせ致しました。準備が整いましたので、これよりフィールドの方へ御案内致します」

 

「はい」

 

 

やがて短いような長いような張り詰めた時間が終わり、その時は来た。大きく一つ息を吐き、スッと立ち上がる。

 

 

「準備はよろしいですね?…では、こちらへ」

 

 

さあ、行こうか。3つ目のバッジを、勝利をこの手に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『チャレンジャーの入場です!』

 

『オオォォーーー‼‼』

 

 

 挑戦者用の通路を通って、大観衆が周りを埋め尽くす緑のフィールドのど真ん中に立つ。向かっている途中から歓声が徐々に大きくなっていくのは感じていたが、こうやって実際に立ってみるとその圧迫感は凄まじい。しかもコレ、ほとんどはジムリーダー側のサポーターなんだよなぁ…

 

しかも似たような状況だったクチバでの大会は、ほとんどの相手が経歴としては俺と同格程度だったこともあって、思い返してみれば多少心持ちに余裕はあった。が、今回の相手は完全格上のジムリーダー。スタート前からジワジワ体力を削られているような感覚だ。根こそぎ体力持って行くクチバジムよりはマシだが。たぶん。

 

このジムが挑戦初戦の新人とか、ガラスのハート持ちなトレーナーは辛そうだなぁ。斯く言う私も何を隠そうチキンハートでね…あ、それはいい?サーセン。

 

 

 

 

『続きまして、ジムリーダー・エリカの入場です!』

 

『オオオオォォォォォーーー‼‼』

『エーリーカ‼エーリーカ‼エーリーカ‼』

 

 

 

ゲームで見た事ある着物姿の人物がフィールドに姿を現すと、会場はさらにヒートアップ。ジムリーダー・エリカの登場に、割れんばかりのエリカコールが木霊する。

 

俺の前までやって来ると、口元を真一文字にきつく結び、歓声という名の暴力に晒される俺をキッと見据えるような眼差しで見つめてくる。

 

 

「改めまして、ようこそタマムシジムへ。私、ジムリーダーのエリカと申します」

 

「トキワシティのマサヒデです。よろしくお願いします」

 

「よろしくお願い致します。貴方のここまでの戦い、拝見させていただきました。ずいぶんとくさタイプポケモンのこと、そして私達のことを研究しておられるようですね。まだ子供だと言うのに、私、感心致しました」

 

「いえ、それほどでも…」

 

「ですが、私はこれまでの方とは違います。タマムシジムの看板に、先代の顔に泥を塗るようなことが無いよう、不肖このエリカ、全力でお相手して差し上げます!さあ、始めましょう!」

 

 

それだけ言うと、踵を返してさっさとフィールドの端へとエリカさんは去って行く。んー…やっぱり、俺の中のエリカ像とは結構乖離がある。言動も若干キツイが何と言うか…余裕がない?

 

 

 

「それではこれより、ジムリーダー・エリカと挑戦者・マサヒデによるジムリーダー戦を執り行います。使用するポケモンはお互いに3体。持ち物・ポケモンの入れ替えは挑戦者にのみ認められます」

 

 

…まあ、どうであろうとやることはいつだって1つだ。戦って、勝利する。観客がどうのとか、エリカさんがどうのとか、気にしたって仕様がないからな!俺のチキンハートが真っ赤に燃えるぜ!

 

 

 

 

 

 

 

「両者、準備はよろしいですね?…では、バトル開始ですッ!」

 

「行きなさい、ウツドン!」

「どぉ~ん!」

 

「頼んだぞ、ロコン!」

「クゥオーン!」

 

 

合図とともに、お互いのポケモンがフィールドに飛び出していく。エリカさんの先発はウツドン。くさ・どく複合タイプで、マダツボミの進化系。この間観戦に来た時に使っていたウツボットの進化前の姿でもある。

 

対する俺の先発はロコン。ジムリーダー戦は初参戦で、技も正直火力不足は否めないが、タイプ相性とカントーのくさポケモンにはない機動性で勝負だ。

 

 

「"ひのこ"だ!」

「クォン!」

 

 

先手必勝、"ひのこ"がウツドンに迫る。

 

 

「躱して"ようかいえき"!」

「どぉん!」

 

 

ウツドンは跳ねるように横っ飛びでこれを躱し、そのままロコンに向けて、黄土色の液体を吐き出した。

 

 

「回避!」

 

 

ロコンも素早く反応し、後ろに跳んで直撃を避ける。

 

 

「"ひのこ"!」

「"ようかいえき"です!」

 

 

"ひのこ"と"ようかいえき"を撃っては避け、避けては撃ちの小競り合い。互いに命中弾はなく、攻撃が着弾した何ヵ所の草が剥げたり焦げたりしているだけ。思いの外ウツドンの跳躍力、反応が良い。

 

もう少し距離を詰めないと直撃は期待出来そうにないが、その場合同時に"ねむりごな"の射程圏に飛び込むことにもなる。カゴのみを盾に、無理矢理前に出るのも1つの選択肢。ゲームでは何度も使っていたが、現実になるとイマイチ使い所が掴めない。3体のポケモンが1回ずつ使えるこのカード、どこで切るか、どのように切るか…トレーナーとしての腕の見せ所かもな。

 

まァ、まだまだ勝負は序の口。そこはもう少し慎重に状況を見極めながら行きたいところだネ。

 

 

 

…なら、ここはこうだ。

 

 

「ロコン、"あやしいひかり"!」

「コォーン!」

 

「ウツドン、まともに見てはいけませんッ!逃げなさいッ!」

「どぉん!」

 

 

フヨフヨと揺れる光の玉が3つ4つと、不規則な軌道を描いてゆっくりとウツドンに向かっていく。ウツドンは全身を使った持ち前の跳躍力で跳ねて跳ねて跳ねまくり、何とかこの光の玉から逃れようとする。

 

しかし、そんな懸命なウツドンの抵抗も空しく、光の玉は逃げ惑うウツドンを囲うようにぐるぐると回りながら、徐々にその範囲を狭めていく。こうなればもう避けれまい。

 

 

「避けきれない…ならば、ウツドン、ロコンに"ようかいえき"です!」

「ど、どぉん!」

 

「クォンッ!?」

「ロコン!大丈夫かッ!」

 

 

無理を悟ったか、ここでエリカさんはウツドンに攻撃を指示。即座にウツドンから"ようかいえき"が吐き出され、ロコンを襲う。

 

ロコンは"あやしいひかり"の操作に意識を取られていたこともあり、直撃をうけてしまう形に。それでも"ようかいえき"自体は大して威力の高い技ではない。一発ぐらいどうってことはない。

 

ロコンが攻撃を受けた間に、光はウツドンを中心に1つの大きな塊となり、そして霧散。後に残されたのは、フラフラと不安定に揺れながら立つウツドンの姿。1被弾と引き換えに、上手く決まってくれた。

 

 

「ロコン、お返ししてやれ!"ほのおのうず"ッ!」

「コォーンッ!」

 

 

こんらんは時間経過で回復するが、回復までどれくらい掛かるかは分からない。この隙を逃さず状況を有利に持っていく。

 

素早く"ほのおのうず"で反撃に出る。

 

 

「下がりなさいウツドン、落ち着くのです!」

「どぉ~~~ん」

 

「…!マジか…」

 

 

指示が届いているのか覚束無い様子ではあったが、ウツドンはこれを指示通り下がって回避。一手前にウツドンがいた場所に、"ほのおのうず"が小さな火柱を立てる。

 

まあ、混乱状態は運ゲー要素満載だし、こういうこともあるわな。それよりも、今は止まっちゃダメだ。

 

 

「止まるな!"ほのおのうず"ッ!」

「コォンッ!」

 

 

追撃の"ほのおのうず"が再度ウツドンに向けて放たれる。

 

 

「しつこいですねっ…ウツドン、"ようかいえき"ですッ!」

 

 

エリカさんは"ようかいえき"を指示。回避の次は撃ち落とすつもりか!?

 

 

『ボォンッ‼』

 

 

そしてウツドンはその通りにしっかりと動き、"ほのおのうず"は"ようかいえき"によって、ウツドンに届く前に軽い爆発と共に相殺された。

 

混乱してるのに連続で動かれるか…ツイてない。でも!

 

 

「ロコン構うな!ガンガン行け!連続で"ほのおのうず"だッ!」

「コンッ!」

 

「ど、どぉんっ!?」

「ウツドンッ!」

 

 

しつこいと言われようが、半ば意地の"ほのおのうず"3連発。ウツドンはもう一度避けようとしたが、三度目の正直と言うべきか、流石に3回目の幸運はなかったようで反応出来ずに敢え無く御用。当たった炎がウツドンの周囲に飛び散り、そのまま渦を巻き、ウツドンをその内部に閉じ込めてしまう。これでこの炎の檻が消えるまでの間、ウツドンは思い通りには動けず、ジワジワとスリップダメージも受け続けることになる。

 

いいぞ、このままさらに畳み掛けていこう!

 

 

「ロコン、"ひのこ"!」

「コォンッ!」

 

 

籠の中の鳥と化し、思うように動けないウツドンを"ひのこ"の乱れ撃ちが襲う。

 

 

「どぉっ…」

 

 

炎の檻の中で、弱点の炎技を受けて苦しそうな様子のウツドン。どうやら様子を見るに、混乱状態は回復したようだ。こっちとしてはラストチャンスをモノに出来た形か。

 

 

「これでは動けませんね…ウツドン、下がってください!」

「ど、どぉん!」

 

 

ただ、"ほのおのうず"にしろ"ひのこ"にしろ、いくら弱点を突いているとは言っても"ようかいえき"同様に威力は決して高い技ではない。ロコン自体にも、現状同格以上の相手をワンパン出来るだけの力は無い。

 

 

「逃がすか!"あやしいひかり"!」

「コォン!」

 

 

ならば、小技も搦めてならば手数で押し切るだけ。混乱から回復したならまた混乱させてやればいい。ロコンにもう一度"あやしいひかり"を指示。著しく動きを制限された相手に命中させるのは難しいことではない。ダメージを受けながらも無理矢理炎の檻からの脱出を図ろうとするウツドンに、再び光の玉が迫る。

 

しかし、エリカさんの指示が早かったこともあって脱出の方が一歩早い。流石にもう躱せる状況ではないと思うが、その前にウツドンに一手打たれてしまう。

 

 

「"メガドレイン"です!」

「どぉん…ッ!」

 

 

新緑のエネルギー的な塊が、ロコンに向けて撃ち出される。

 

 

「クォンッ…!」

 

 

直撃を受けてロコンが仰け反り、砕けるように周囲に散った緑色のエネルギー片が引き戻されるようにウツドンの方へ。"あやしいひかり"がウツドンを包み込むのとほぼ同時に、ウツドンへと吸い込まれていった。

 

 

「ロコン、大丈夫か!?」

「コォンッ!」

 

 

ロコンは元気に返事を返してくれる。効果今一つなので、大したダメージにはなっていない。回復されてしまいはしたが、回復量もそんなにはないはず。"あやしいひかり"も通った。攻撃続行だ。

 

 

「"ほのおのうず"!」

「クウォーンッ!」

 

 

またしても混乱してしまったウツドンに、しつこくしつこく"ほのおのうず"を撃ち込んでいく。

 

 

「このままでは…ウツドン、"ようかいえき"です!」

「どぉ~~ん…どぉっ!?」

 

「ウツドンっ!?」

 

 

流石にこの状況で回避は難しいと見たか、端から撃ち落としに掛かったエリカさん。しかし、ウツドンはバランスを崩して横倒しに。

 

 

「どぉ…んっ…!」

 

 

ほぼ無防備なウツドンに、またしても"ほのおのうず"が命中。再度、炎の監獄に捕らえられる。

 

この"ほのおのうず"に"あやしいひかり"を組み合わせる戦法、今回のように一発の火力が軽く、素早さで上を取っていると強烈なロックが掛かる。実際にやってみるとカツラさんが如何に新人相手にえげつない戦法を採っていたかというのを思い知らされる。

 

でも、勝負の世界では勝者こそが正しく、勝利こそが至上命題。歴史だってそう。勝者が歴史を創るのだ。勝つためには打てる手は出来る限り打つし、勝てる確率の高い方法を選ぶのは当然の事。敵を知り己を知らば百戦危うからず…だ。

 

 

「押せ、押しまくれ!"ひのこ"連打ッ!」

「コォン!」

 

「くっ…ウツドン、撃ち返して!"ようかいえき"です!」

「どぉん…ッ!」

 

 

渦巻く炎の壁によるスリップダメージと行動制限に苦しむウツドンを、ロコンが放つ火の粉の機関銃が容赦なく打ち据えていく。

 

それでも良く鍛えられているのがジムリーダーのポケモン。劣勢の中にあっても、隙を見ては"ようかいえき"で反撃してくる。その反撃をロコンは機敏に躱し、また"ひのこ"を叩き込む。

 

こちらの攻撃とタイミングを合わせられての被弾が何度かあったものの、ここまでの展開は思い描いた通り。

 

そして…

 

 

 

 

 

「どぉ…ん…」

「ウツドン!?」

 

「ウ、ウツドン戦闘不能ッ!」

 

 

 

…火炙りでウツドン撃破。まずは1体突破だ。順調順調、この調子でガンガン行こうか。

 

 

 

 




エリカ戦、スタートです。ジムのギミックは思いつかなかったのでトレーナー戦は無慈悲なカットで。流石に花の迷路とかは何か…こう、違う気がするんですよねぇ。個人的に。
なお、ドガースの10まんボルトは技マシン使用してます。どのタイミングで覚えさせるか迷って前々話で暫定的に設定してたんですが、あれこれ考えて書き進めてる間に修正し忘れました。もう覚えさせたまま行きます。

次回はエリカ戦後半。主人公の前に、因縁のあの技が再び立ちはだかる。…予定。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。