成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第34話:花散らす突風(3)

 

 

 

 タマムシジム・ジムリーダー戦終盤。残すポケモンはともに1体。その最後の1体が、フィールドに顔を揃えた。

 

俺のポケモンは名実共に俺のエースポケモンであるスピアー。対するエリカさんが繰り出したのは、ヤシの木を彷彿とさせる…と言うよりは、ヤシの木そのものがモチーフとなっているポケモン・ナッシー。タマタマの進化系で、くさ・エスパー複合タイプのポケモンだ。クサイハナ等と同様に"リーフのいし"を使って進化し、進化後は技を覚えない。と言うか、近年は変わっているが、この頃の進化の石を使って進化するカントー地方のポケモンは、基本的に進化後に技をほとんど、ないしは全く覚えないのが仕様だった。なおイーブイは除く。

 

第7世代の常夏の島ではドラゴンタイプ貰って事前情報の目玉になるぐらいインパクトのある姿になっていたが…今のカントー(こっち)では関係ない話か。

 

 

「またどくタイプ…それも、スピアー…」

 

 

エリカさんは、スピアーを見て露骨に嫌そうな表情を見せる。まあ、こうも苦手とするタイプのポケモンを並べられると、そんな気にもなるわな。あと、むしタイプのポケモン自体が女性に人気が無い…もっと直接的に言えば、毛嫌いされてるっていうのもあるかもしれない。どこの世界でも、虫が嫌われるのは世の摂理なのかもしれん。黒光りしててカサカサと素早く動くアイツとか…

 

しかし、勝負ごとに手を抜くのは相手への侮辱。どんな相手か分かるなら対策するのは、ポケモンバトルでも当然のこと。そして精神攻撃も基本。悪く思わんで欲しいものだ。

 

 

「…いえ、ジムリーダーたる者、どんな時でも冷静沈着に振る舞うべし、ですね…マサヒデさん」

 

「…?何ですか?」

 

「ここまでの戦い、実にお見事。その歳で私とここまで渡り合える…御見逸れ致しましたわ。バッジをすでに2つお持ちの事実に嘘偽りはありませんでした」

 

「そいつはどうも」

 

「トキワシティジムリーダーが推すだけのことはありますわ。ですが、ポケモンバトルは試合終了まで何があるか分からないモノ。お互いに残すポケモンは1体だけ。私はナッシー、貴方はスピアー…私にとっては決して良い状況ではありませんが、簡単にバッジを差し上げる訳にはまいりません」

 

 

そう言ってこれまでよりも一段と鋭い視線をエリカさんが向けてくる。崩れるかとも思ったんだけど、新人とは言えそこは流石ジムリーダー。すぐに気を持ち直して勝負に集中してきたと言ったところかな。

 

 

「これしきの状況跳ね除けられずして、何がジムリーダーでしょうか!お互いに残すは1体。誇りと伝統あるタマムシジムリーダーとして、全力でお相手致します。さあ、私の最後の1体…倒せるものなら倒してみなさい!」

 

 

その一喝と同時に、観客席からは大歓声が沸き上がる。うん、これはやられる側としては精神衛生上よろしくない。が、負けるつもりは元からない。残り1体、全力で勝ちに行くぞ。

 

それにしても、美人さんは弱ってても強気でも、何をやっても絵になるねぇ。ポケモン世界ってモブトレーナーでもカワイイ娘多かったから、エリカさん程とは言わなくても、行く行くは仲良くなったりしてみたいなぁ~…なんて。

 

 

 

 

 

…当分…いや、すんごい先になりそうな夢物語だな。生来のぼっち故に致し方無し。

 

 

 

自分で言ってて悲しくなるような話は捨て置いて、バトルに話を戻そう。ナッシーの戦闘能力の面に視点を移すと、高いとくこうの能力値が光る。それ以外では若干低めなすばやさが目立つが、他の能力値はそれなりのレベルでまとまった鈍足特殊アタッカーと言ったところ。カントーくさタイプの例に漏れず特性は"ようりょくそ"。晴れ状態なら、あっという間に高速アタッカーに早変わりする。耐久面は可もなく不可もなくと言ったところだが、くさタイプ自体元々の弱点がメジャーなタイプに多目なこともあり、数値程の耐久力は無い印象だ。

 

スピアーとの相性は、弱点を突けるけど相手からも弱点を突かれる関係。"ダブルニードル・ミサイルばり"と、遠距離で使う技がブッ刺さっているのは大きい。スピアーのメインウェポンが尽く致命傷になり得る。ナッシーのメインウェポンもスピアーにとって致命の一撃だけど。

 

総合的に考えれば、比較的…いや、かなり俺に有利な状況だとは思う。クサイハナをあそこで相討ちに持ち込めたことも、"ようりょくそ"のことを考えれば結果的に良い判断だった。レベル次第では上からエスパー技撃たれて一撃!なんて可能性も十分あり得たからな。まあ、流石にバッジ2個の相手にスピアーを上から消し飛ばせるようなレベルのポケモンは出さないだろ。たぶん。

 

 

 

 さて、ゲームでのジム戦においては使うことのなかったポケモンなだけに少し面食らってしまったが、大丈夫だ、問題ない。

 

あのナッシーがどんな技構成をしているかは分からないが、今まで見てきたエリカさんやジムトレーナーの戦いぶりから、"さいみんじゅつ"は持っていると考えた方がいいかな。で、持っていると仮定するなら技構成は"さいみんじゅつ・草技・エスパー技"の3つ+何か1つ、たぶん攻撃技と考えるのが自然か。世界的にも攻撃偏重気味だし。

 

ナッシーを相手にする上で警戒すべき技は、"さいみんじゅつ"とエスパータイプの攻撃技。それさえくらわなければタイプ相性上負けはない。レベルを考えれば"ねんりき"辺りだと…

 

 

 

「行きますわよ?ナッシー、"サイコキネシス"ですッ!」

「ナァッシィー!」

 

 

…って、言ってる傍からこれかよ!?流石にそれは貰うワケにはいかない!

 

 

「"こうそくいどう"で回避ッ!」

「スピィッ!」

 

 

"こうそくいどう"ですばやさを上げつつ、根を張る草ごと軽く地面を抉りながら一直線に向かって来る不可視の念波を回避する。この技とは行く先々で縁があると言うか、出会す度に苦しめられてる印象しかない。それもこれも、全部技マシンってやつが悪いんだ。俺にも寄越せ。

 

 

「やり返せ!"ダブルニードル"ッ!」

「スピャァッ!」

 

 

技マシンに対する妬み僻みもそこそこに、"こうそくいどう"で得たスピードに乗って、空中を飛び回りながら反撃の"ダブルニードル"でナッシーを狙わせる。4倍弱点、1発だけでも十分なダメージになるだろう。

 

 

「なら…ナッシー、"タマゴばくだん"ですッ!」

「ナァ…ッシィ!」

 

「タ、"タマゴばくだん"…!?」

 

ナッシーの3つある顔と同じぐらいの大きさの白い楕円形の物体が、緩やかな放物線を描いてこちらへ飛んで来る。

 

使えるポケモンが少なく珍しい技ってのもあるが、思ってもみなかった攻撃だ。確か威力も高めではある。でも、物理技だし命中率も低めだった。そこまでの脅威は…

 

『ドドドォンッ‼』

「…!視界が…」

 

 

…と思っていたが、攻撃は"ダブルニードル"とぶつかって爆発。爆炎と共に多量の草の破片と土煙が巻き上げられる。その土煙でナッシーを含む一帯が完全にこちらからは見えなくなってしまい、スピアーの攻撃の手を一瞬ではあるが止めざるを得なくなった。

 

 

「"にほんばれ"ですッ!」

 

 

そして、エリカさんはその一瞬の隙を逃してはくれない。砂煙の向こうから、少し前にも見た眩い光の珠が天井へと打ち上げられる。

 

 

「っ、"にほんばれ"の真下に"ミサイルばり"ッ!」

「ス、スピィッ!」

 

 

即座にその真下辺りへと攻撃を加えるが、手応えはない。これはしてやられた。

 

 

「スピアー、高度を取れ!どこから来るか分からないぞ!」

「スピッ」

 

 

こういう形で目くらましをやり返されるとは…似た手段をよく使う身としては、遠距離攻撃を主体としているほどこの戦法は効果的なのは身を以て理解している。それに、"タマゴばくだん"にも気を取られた分反応出来なかった。正直搭載してるとは思わなかったってのもある。

 

攻撃が失敗したことでスピアーには警戒するように指示。にほんばれ"によってナッシーのすばやさは格段に上がっているハズ。どこから技が飛んできても不思議じゃない。

 

 

「ここまで好き放題やってくれましたね、マサヒデさん!ですが、私を、ジムリーダーを甘く見てもらっては困ります!さあ、ここからは私の番です!一気に行きますよ、ナッシー、"ソーラービーム"ッ!」

「ナァッシィー!」

 

 

土煙の壁を吹き飛ばし、上空のスピアーに向けて"ソーラービーム"が放たれる。心なしか、さっきのクサイハナのよりもさらに一回り太いような気が…これが、地力(スペック)の差か。

 

 

「避けろッ!」

 

 

しかし、スピアーがいるのは逃げ場に困らない空中。避けるだけなら何の問題ない。

 

 

「"ダブルニードル"ッ!」

「ピィッ!」

 

 

この一撃を無難に躱し、そのまま反撃の"ダブルニードル"を…

 

 

「させません!"サイコキネシス"ッ!」

 

 

…撃つ前に、スピアーが動いた先にはすでに不可視の念波が放たれていた。

 

 

「スピィ…ッ!?」

「スピアーッ!!」

 

 

そのまま直撃を貰ってスピアーが吹っ飛ばされた。"ソーラービーム"は囮…見事に釣られてしまった。それに、クサイハナの時も感じていたが、これただ単に速いだけじゃない。攻撃後の次の動作までとか、全体的に速く…機敏になってる。

 

 

「ス、スピィ!」

 

 

いきなり胆が冷えたが、スピアーへの致命の一撃とはならず。初っ端から手痛いダメージはくらってしまったが、まだまだ十分戦える状態だ。

 

だが、これで早くもナッシーの技構成が判明した。"にほんばれ・タマゴばくだん・ソーラービーム・サイコキネシス"…"さいみんじゅつ"は持っていない。かなり前に出やすくなった。

 

 

「倒れませんか…ならばナッシー、もう一度"タマゴばくだん"です!」

 

 

態勢を立て直している間に、追撃の"タマゴばくだん"が今度はスピアーとナッシーの間に着弾。爆炎と巻き上げられた土煙が再び俺たちの壁となる。

 

 

「2度も同じ手をくらうものかよ!スピアー"こうそくいどう"!」

「スピィ!」

 

 

対してこっちはさらに"こうそくいどう"を積んで増速。素早い対応が出来る態勢を整えつつ、狙いを絞らせないように動く。これでスピアーのすばやさは3倍。3倍だ。某赤い彗星さんもびっくり(個人的感想)のスピードを見せてやるぜ。

 

 

「"サイコキネシス"ッ!」

「ナァッシー」

 

 

"サイコキネシス"が土煙の壁を切り裂いてスピアーに迫る。

 

 

「振り切って"ダブルニードル"!」

「スピィッ」

 

 

こちらはスピードに物を言わせて射線を外して回避。その勢いのまま反撃の"ダブルニードル"。

 

 

「避けるのです、ナッシー!」

 

 

しかし、距離があったためか余裕をもって躱される。

 

 

「もう1回だ!スピアー!」

「ピィッ!」

 

「無駄なことを!"サイコキネシス"で撃ち落とすのです!」

「ナァッシー!」

 

 

続けて押した2度目の"ダブルニードル"は、ナッシーが放った"サイコキネシス"に呑まれ4本の毒針全てが射線を捻じ曲げられてフィールドへと突き刺さった。

 

 

「ちィッ…4本でダメなら、これはどうだ!?スピアー、"ミサイルばり"っ!」

「スピィッ!」

 

 

"ダブルニードル"は効果的ではないと見て『4発でダメならもっと手数を増やすだけ』と"ミサイルばり"にシフト。"ダブルニードル"よりもさらにたくさん、機関銃のように放たれる針の銃撃がナッシーに襲い掛かる。

 

 

「2度も3度も同じ事ですわ!もう一度"サイコキネシス"です!」

「ナァッシー!」

 

 

さっき同様にナッシーはほとんどその場から動くことなく、"サイコキネシス"で攻撃のほとんどが撃ち落とされていく。しかし…

 

 

「ナァ…ッ!?」

「ナッシー!?撃ち漏らしたッ!?」

 

 

撃ち落とし切れなかった何発かがそのままナッシーを襲う。エリカさんは驚きの表情を浮かべ、ナッシーは苦悶の表情でよろめく。

 

確かにナッシーのパワー、火力は侮れないモノがある。が、本当に強いと言うか、地力の差があれば"ミサイルばり"を全部叩き落した上で、そのままスピアーまで圧し潰せるハズ。俺は今まで、サカキさん他トキワジムトレーナーの皆様方、自分よりも実績も経験も上の相手ばかりを相手にスピアーと一緒に戦い続けてきた。何度となく手酷く負けたが、その負けの中でもゲームにはなかった色々な発見や学びがあった。コテンパンのボッコボコにやられ続けたその経験があるからこそ、俺は身をもってそれを知っている。

 

 

「良いぞ!そのまま"ミサイルばり"で押せっ!」

「スピィッ!」

 

 

やはりスピアーとナッシーの間にはレベル差があると見ていい。よって状況はこちらが優勢。スピアーには攻撃を続けるよう指示。"サイコキネシス"に注意しつつ、今の距離を維持して攻撃を続行させる。

 

 

「避けて"サイコキネシス"っ!」

「ナァッシィ!」

 

 

エリカさんは回避からの反撃を選択。ナッシーもその指示に応え、重量感のある体躯を揺らし、"ミサイルばり"の連射を機敏に横っ跳びで躱してすぐに強烈な念波を放つ。スピアーはスピードに物を言わせて回避する。

 

ポケモンバトルに限らず、勝負事ってのは如何に自分のやりたいことが出来る、あるいは長所を相手に押し付けるか。それか相手の弱点・欠点を攻め、相手の戦法を封じ込められるかが勝敗に直結する重要な要素。あと運。運も実力の内って言うしね。ただしフロンティアクオリティ、テメェはダメだ。絶対に許さない。3連爪発動+2連ひるみとかふざけるのも大概にしろ下さい。お願いします何でも(ry

 

 

 

…こほん。まあ、結局やることは単純明快。『やられる前にやれ』。それがスピアーのスタイルにして信条。この手に限る。と言うか、この手しか知らないし出来ない(ステータス的に考えて)。

 

どうであれ最終的にスピアーがやることは変わらない。避けて削って真っ直ぐ行ってブチ貫くのみ。五分の態勢には持ち込めた。あとはもうやるしかない。すでに十分身体は温まっただろう?

 

 

「行くぞスピアー!"ミサイルばり"!」

 

「ナッシー"サイコキネシス"!」

 

 

一瞬の小休止を挟み、お互いが次の攻撃を指示したのはほぼ同時。高速で射出された針と念波が再び激突する。

 

 

「さっきのお返しだ!スピアー、"ダブルニードル"ッ!」

「ピィッ!」

 

 

が、それは本命のための撒き餌。激突の結果を見ることも気にすることもなく、次の行動をスピアーへと指示。スピアーは素早く少しだけ動き、別の位置から再び攻撃を放つ。

 

 

「ナァ…ッ!?」

「ナッシー!?このスピアー、強い…っ!」

 

 

2射目の"ダブルニードル"がナッシーを直撃。"ミサイルばり"の対応に気を取られたナッシーは、別角度からの第二射に反応が遅れたか。むしタイプが4倍弱点なナッシーにとっては無視出来ない一撃となったはず。それを証明するように、ナッシーがバランスを崩して仰け反る。

 

 

「良いぞスピアー!翻弄しろ!続けて"ダブルニードル"だ!」

「スピャッ!」

 

「くぅッ…!ナッシー、躱して!」

「ナァ…ッシィ!」

 

 

2回の"こうそくいどう"で積み上げられたスピードで撃っては動き、動いては撃つ。立て続けに撃ち込まれる毒針の銃撃に、エリカさんとナッシーは完全に防戦一方だ。その動きは蝶のように舞い、蜂のように刺すという言葉がよく似合う。まあ、蜂だから当たり前か。

 

ここまでは良い感じだ。あとはタイミングを見て…

 

 

「"ダブルニードル"!」

 

「くぅ…っ、"サイコキネシス"ッ!」

 

 

…ここだ!

 

 

「スピアー、突撃しろッ!」

「スッピャッ!」

 

 

"ダブルニードル"への対応に掛かり切りになった瞬間を見計らって、スピアーにナッシー目掛けて一直線に突っ込ませる。

 

 

「!?いけません…っ!ナッシーッ‼」

「ナァッ!?」

 

 

エリカさんはすぐに気付いたが、ナッシーはすでに"ダブルニードル"迎撃の態勢を取った直後。加えてスピアーは"こうそくいどう"の2積みですばやさ3倍。晴れの状況下と言えど、急な対応は出来まい!行け、スピアー!

 

 

「ブチ貫け!"どくづき"ィッ‼」

「スッピャァーッ‼」

 

 

高速の寄せからの渾身の一撃にして、スピアーの必殺技"どくづき"。それは、一瞬だけ無防備な隙を晒したナッシーのどてっ腹に、狙い通りに叩き込まれた。

 

 

「ナァ…ッ!」

『ドシィンッ‼』

 

「ナ、ナッシーッ!」

 

 

ナッシーが身体をくの字に折り曲げて突き飛ばされ、地響きを立ててフィールドに転がされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁっ…しぃ……」

 

「…ナ、ナッシー戦闘不能ッ!よって勝者、チャレンジャー・マサヒデ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----

 

 

 

 

 ジムリーダー戦が終わっても、小さいながらも歓声やどよめきのような声が絶えず上がっているタマムシジムのメインフィールド。観客席は未だバトルの熱気と興奮冷めやらぬと言った様子。

 

そんな勝負が終わってもなお盛り上がっている観客席を背景に、俺とエリカさんはフィールドの中央で向かい合っていた。

 

 

「…こちらが私に勝利した証、"レインボーバッジ"ですわ。どうぞ、お受け取り下さい」

 

「ありがとうございます」

 

 

エリカさんから3個目のジムバッジ、"レインボーバッジ"を受け取る。

 

試合内容を振り返れば、まあ何だかんだ一体一殺と言った感じの試合だった。ロコン・ドガース・スピアー、全員がしっかり働いてくれた結果だな。その一方で、タイプ相性で有利を取りながらここまでシーソーゲームになってしまったのは、俺の采配・見通しの甘さだな。あと、技も威力の高いのに更新していきたいところだ。

 

何はともあれ、今日の戦いに臨んだ最大の目標を無事手に入れることは出来た。観客席からはバッジを受け取ったのと同時に、再び歓声や拍手が沸き起こる。

 

 

「そして、これもどうぞ」

 

「…技マシンですね」

 

 

さらに、ジムリーダー戦後のご褒美である技マシンも受け取る。

 

 

「この技マシンに記録されている技は"ギガドレイン"と言います。少し前に見つかったばかりで、バトルの中で使った"メガドレイン"を上回る、相手に与えたダメージに応じて自分の体力を回復するくさタイプの攻撃技です。私に勝利出来る実力をお持ちのマサヒデさんなら、問題なく使いこなせると思いますわ」

 

 

おっと、"ギガドレイン"の方だったか。コイツはラッキー。ゲーム(初代)通りに"メガドレイン"の方だとナゾノクサもすでに習得済みだし、使い道がハッキリ言って無かったから。

 

 

「ありがとうございます」

 

「状態異常への対策や、"にほんばれ"を使った戦法に慌てることなく対処して見せた冷静さ…見事な試合運びだったと思いますわ。私、まだジムリーダーになって日の浅い若輩者ですが、あの戦法には自信あったのですよ?」

 

 

いや、ホント驚きましたよ。まさかここで"にほんばれ"+"ようりょくそ"を軸にした戦法を見るとはね。

 

俺も"すなあらし"を使った簡単な砂パを組むことはよくあるけど、他人が天候操作を上手く使っているのは初めて見た。世界は少しずつ進んでいるってことかな。

 

 

「…いえ、たまたま上手く嵌まっただけです。あれには驚かされました」

 

「ふふ、まさかトレーナーズスクールを出て間もない少年にしてやられるとは…実力と言うのは見た目に因らないモノだと、貴方とのバトルを通じて思い知らされてしまいました」

 

「あー…まあ、サカキさんに鍛えられてますんで」

 

 

うん、この一ヶ月ほどみっちりしごかれましたよ。一時的だが、旅に出て一ヶ月ほどで一ヶ月前の生活に戻ることになるとは思わなんだ。やっと解放されたと思ってたのに…まあ、手持ちのレベル底上げにもなったから悪くはなかったけどさ。

 

 

「トキワジムリーダーの…なるほど。トキワジムリーダーと言えば、ジムリーダーの中でも屈指の実力者との呼び声も高い方。道理でお強いワケです」

 

「いえ、僕なんてまだまだですよ」

 

「殊勝な心掛け、心構えですわね」

 

 

殊勝でも何でもなく、ただただ現実なんだよなぁ。俺の実力は未だサカキさんには遠く及ばない。俺が目指すのはサカキさんからの完全な独立。ロケット団関係には関わりたくないからね。だから関わりを出来る限り絶って、この世界で食っていける術を身に付けなきゃならん。その為にはサカキさんと互角、あわよくば越えるぐらいの実力は絶対に必要。

 

そう、ここはまだ通過点でしかないんだ。

 

 

「トキワジムリーダーはトレーナーとしてだけでなく、指導者としても素晴らしい人物のようですね。願わくば、私もそのようにありたいものです」

 

 

サカキさんのように…か。う~ん…

 

 

「…個人的にはお薦めしませんけどね」

 

「あら?」

 

「良い指導者なのは否定しませんけど、サカキさんってスパルタと言いますか、割と徹底した実践主義なんですよね。習うより慣れろ、みたいな」

 

 

サカキさんのようなエリカさんは想像出来ないな。と言うか、それはもうエリカさんではないのでは?

 

それに経営者であるが故かもしれないが、サカキさんは努力の過程よりもある程度の結果を重視する。バッジ3個ぐらいで躓いていたら、あとで何言われるか分かったもんじゃない。そういう人ですよ、あの人は。まあ、そのおかげで俺とスピアーはここまで強くなれたってのもあるけど。毎日毎日コテンパンのフルボッコもいいとこだったが。

 

 

「エリカさんにはエリカさんに合ったスタイル、やり方があるはずです。ジムリーダーは強さはモチロン必要なんでしょうけど、それが全てって訳でもないはずです。のんびりと探って行かれたらいいと思いますよ?自分が言えた立場ではありませんけど」

 

 

急がば回れ。道は遠く険しく、故に焦るべからず。一歩一歩、地に足を着けて進んでいくのが常道にして何よりの近道。これ、俺自身も胆に銘じておくべきことだな。

 

…ああ、なるほど。ジムリーダーに就任したばかりで案外焦ってたのかもな、エリカさん。雰囲気が鋭敏だったのも言動が強気だったのも、そこら辺に理由があるのかもしれん。

 

 

「………そうですね、仰る通りですわ。敗れはしましたが、今日貴方と戦えたことは望外の幸運だったのかもしれませんね」

 

「そんな大袈裟な…」

 

「ふふ、どうでしょうね?ですが、貴方ならこの先に待ち受ける困難も、難無く乗り越えられる…そんな気がします。マサヒデさんの今後のご活躍、期待させていただきますわ」

 

「…はい、ありがとうございました」

 

 

もう一度エリカさんと握手を交わし、歓声に送られて俺はフィールドを、そしてタマムシジムを後にした。

 

これで勝ち取ったジムバッジは3つ。次に挑戦するジムはどこにするか…ヤマブキ?それともセキチク?はたまたハナダ?

 

 

 

 

 

…ま、まずはゆっくり休んで、それから考えるとしますか。とりあえず、みんなお疲れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----

 

 

~同日夜~

 

 

「………」

 

 

 ネオンに照らされ、日が沈んでもなお輝き続けるタマムシシティ。夜通し途切れることのない喧騒から遠く離れた郊外に、闇の中で静かに佇む建物があった。古風で立派な趣を携え、隅々まで手入れの行き届いた広大な敷地を有するそれは、最早邸宅と呼ぶのが相応しい。

 

その邸宅の中、室内の明かりに照らされ、暗闇にうっすらと浮かび上がる庭がよく見える一室に、無心となってただひたすらに花を生ける人物の姿があった。脇目もふらず一心不乱に情熱的に、それでいて闇夜に溶け込むかのように静かに、心の赴くままに作品を作り上げていく。

 

彼女の名はエリカ。新進気鋭のタマムシシティジムリーダーであり、歴史と伝統ある名家の令嬢であり、そしてこの屋敷の主であった。ジムリーダーとしての1日の仕事を終えた彼女は、思うところあって自宅であるここに帰って休息・夕食もそこそこに、作品制作に向かっていた。

 

 

 

「………ふぅ。ええ、こんなものでしょう」

 

 

やがて一つの作品を完成させたところで、ようやく彼女の集中が解かれ、1つ大きく息を吐く。

 

 

「…あら、もうこんな時間でしたか…」

 

 

時間を確認すれば、すでに時計の針は一周を目前とするところまで回っている。こんな時間まで作品作りに打ち込んでいたことに驚く彼女であったが、同時に今までにないぐらいの充足感も味わっていた。

 

 

「…やはり、彼のおかげなのでしょうね」

 

 

そう呟いて、今日ジムリーダーとして相見えた少年を思い出す。今の立場に彼女が就任したのはほんの1年ほど前のこと。ジムリーダーとして日々多種多様なトレーナーの挑戦を受け、その中にはトレーナーズスクールを出たばかりという新米トレーナーや、それに近い年齢の幼いトレーナーの挑戦を受けることも何度かあった。

 

しかし、今日出会った少年…マサヒデは、サカキがかつて異質な存在として捉えたように、彼女の目にも際立った特異な存在として映った。トレーナーズスクール…それも初等部を出て間もないにも関わらず、2つのジムバッジを保持し、彼女の、延いてはタマムシジムのトレーナー全般が得意とする状態異常から試合を組み立てる戦術をほぼ完封。まだほとんど見せた事のない新たな戦術にも動揺することなくしれっと対応して見せた挙句、最後には真正面から打ち破られた。

 

彼女にとってマサヒデぐらいの年齢のトレーナーと言うのは、タマムシシティやその近郊に住む者が最初のジム戦として挑んでくるケースばかりで、ほとんど育てていない…それこそ捕まえて間もないようなポケモンで相手をして、それでようやく勝ち負けの勝負になる…そんな相手だった。

 

ところが、マサヒデは中等部はおろか高等部の学生すらも上回り、トップレベルに挑めるようなトレーナーとしての高い実力・優れた才能を遺憾なく発揮し、全力のベストメンバーではないとはいえ、彼女が育てたポケモンたちを相手に勝利して見せた。彼女にとって、それは衝撃以外の何物でもなかった。

 

そして、試合後の僅かなやり取りの中で、彼女はマサヒデの強さの理由に自分なりの答えを見つけた。『彼は自分の思うがままに生きている。心に、そして自分自身に余裕を持っている。だから彼は強いのだ』…と。ただトキワジムリーダーの手解きを受けたからだけではなく、そういう子供離れした精神的な強さが彼のトレーナーとしての才能を支える根幹にある。そう感じた。

 

 

 

対して自分はどうだろうかと、彼女は思う。ジムリーダーに就任してからの自分を見つめ返せば、義務に追われ重責に縛られ、余裕を失い、あるべき姿や進むべき道…『エリカ』という自分自身を見失っていたのではないか。彼女がマサヒデに最後に掛けた『望外の幸運』という言葉は、そのことに気付いたからこそ、気付かせてくれたことに対して彼女の本心から溢れたものだった。

 

改めて今宵自身の心の赴くままに生けた花を見やれば、ここ数年でもっとも輝いて見えると自画自賛出来る会心の出来栄えだ。彼女は長年の心の重石が取れたような気がした。

 

 

『ボーン、ボーン、ボーン』

「…そろそろ休まなくては、明日に響きますわね」

 

 

やがて、年代を感じる大きな時計が日付が変わったことを告げる。早く休まないと、明日以降の業務に支障が出てしまいかねない。とても晴れやかな心持ちのまま、彼女は寝支度を整えて眠りに就いた。なりたい自分、こうでありたい輝かしい未来を夢に見て。その中に、彼のような素晴らしい才能と実力を持ったトレーナーを自らの手で見出し、育て上げることがあったのは、彼女だけの秘密であった。

 

 

 

 

 

…後年、熱心に子供たちの指導に励む1人のジムリーダーの尽力により、タマムシシティはその人口も相まって世界的に優秀なトレーナーや科学者等を多数輩出。カントー地方の人材の宝庫と呼ばれるまでになり、更なる発展を遂げるのであるが、それはまだまだ先の話である。

 

 

 




そして、子供たちの教育・指導に熱心に励むエリカさんには、一部の界隈からショタコン疑惑がかけられるのであったとかなんとか。ショタコンエリカさん…あると思います()
と言うワケで、エリカ戦決着です。そして主人公がエリカさんからはこう見えた…と言うお話。実際のところはどうなんでしょうね?開に悩んで1カ月ぶりの投稿となりました。楽しみにしておられた方、おられましたらお待たせして申し訳ありませんでした。2週間に1話のペースは守りたい。そしてもっとサクサク進めたい。でも主人公の歩みも一歩一歩書いていきたい。そんな板挟みになりつつある今日この頃。次回は新しい街へ行くか、閑話挟むか、セーブポイントか…まあ、のんびり書き進めていきますのでよろしくお願いします。
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