成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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短いです。今回の閑話はロケット団の過去と今です。


閑話:汚泥に芽吹いた悪の華

 

 

 

 カントー地方の中心部にあり、『虹色の大都会』の呼び名でも知られる大都市・タマムシシティ。隣接する大都会・ヤマブキシティを社会と経済の中心地と呼ぶのなら、タマムシシティは差詰め文化と娯楽の中心地。通りには大小新旧カテゴリーを問わず様々な企業が店舗を構え、選り取り見取りの広告看板が至る所に掲げられ、往来する人々の賑わいは昼夜を問わず絶えることが無い。そのキャッチフレーズの通り、七色の夢と希望、そして人々の笑顔が溢れ、誰もがイキイキと暮らしている。

 

これだけ聞けば一見何の問題も無いように見えるが、表があれば裏があり、光あるところには必ず陰が出来るもの。太陽に照らされた舞台の裏では、企業同士の激しい生存競争、人口の増加に伴う住居・宅地の不足、ゴミの不法投棄や開発に伴う環境破壊・汚染、そしてそれによる生態系への悪影響など、大都市ならではの問題を随所に抱えていた。どこの世界でも、大体問題は似たようなものであるらしい。

 

それらタマムシシティが現在抱える問題の中でも、特に最近住民たちの頭を悩ませているのが、増加の一途を辿る素行不良の若者やマナーの悪いバイク乗りたちの存在だった。彼らは様々な問題を引き起こし、積もり積もって夜のタマムシシティを危険な街へと変貌させていた。

 

 

 

 日常・仕事での不満、自己顕示欲、社会不適合…理由は様々だが、夜の街と言うのは得てしてそんなストレスを溜め込んだ若者たちの不満・鬱憤を吐き出すのにこれ以上ない世界だったりする。夜の中心街では若者たちが、タガを外して酒を飲んでは呑まれ、大勢で集まっては毎日のようにどこかでバカ騒ぎし、酔っ払った若者同士がいきなりストリートバトル、もしくはリアルファイトに発展したりすることなど日常茶飯事。

 

で、こういった都市の中心部などの建物・人が密集する場所というのは、大体どこもポケモンバトルは禁止されていることがほとんど。結果、毎日少なくない人数が警察の世話になる事態が続いており、夜のタマムシシティの治安悪化に一役買っていた。

 

 

 バイク乗りが住人を困らせている最大の要因は、数年前に完成・開通した16番道路、通称『サイクリングロード』にあった。タマムシシティとは海で隔てられ、それまではヤマブキシティからクチバシティかシオンタウンを経由し、そこからさらに13・14・15番道路という長距離を移動しないと辿り着けなかったセキチクシティ。その両都市を海上に道を通すことで直接繋いだのがこの16番道路だった。

 

自動車専用道・二輪車専用道の2つが造られ、両都市が直接結ばれることで経済、産業、様々な面で両都市の発展が見込めると期待を込めて造られたこの道路は、その期待通りの効果を両都市にもたらした。

 

が、環境が変わればその環境故の新しい問題が発生するのもまた当然の事。いつしか二輪車専用道に屯する、マナーの悪いバイク乗りたちが現れ始めた。彼らは集団で『赤信号 皆で渡れば怖くない』とでも言わんばかりに暴走行為を繰り返し、グループ同士での小競り合いはもちろん、時には大規模な抗争に発展するなど、大きな問題となっていた。おまけにそういった連中が暴走行為に走るのは大抵人々が寝静まる夜間のことで、騒音問題も併せて住人たちを困らせていた。いつしか警察がいくら取り締まっても危険・迷惑な走行をする者が後を絶たないスピード狂たちの天国と化し、結果二輪車専用道の利用者の減少を招き、これまた治安悪化の一因となっていた。

 

 

 浮浪者とは所謂ホームレスのことで、現在タマムシシティでは様々な事情から職にあぶれ、住処を追われた者たちが、路地裏や橋の下、公園の一角など、風雨を凌げる、或いは凌げるようにした場所に陣取って、各地に小さなスラム街のような場所を形成していた。生きる為に盗みを働く者も多く、また素性の良からぬ者の出入りもあると噂されていた。警察でも見回り・取り締まりに力を入れているものの、追い出した傍から別の浮浪者が潜り込んでしまう完全なイタチごっこ状態。これもまた局所的な治安悪化の要因となっていた

 

 

 

 これらの要因によって、タマムシシティの治安は緩やかだが右肩下がりに悪化しており、結果タマムシシティのイメージダウンにも結び付いてしまっていた。そして、その中には人として越えてはいけない一線を越えて道を踏み外し、重犯罪に手を染めてしまう者も一定数存在していたのである。

 

このように、表の世界の裏側では夢も希望もないような問題も抱え込んでいるタマムシシティだが、その闇のさらに奥に潜み、暗躍する組織がある。その組織の名はロケット団。頭文字を取ってR団とも表記されることもあるこの組織は、世間一般には『黒尽くめの衣装で、貴重なポケモンの密猟・密売を行うガラの悪い犯罪者集団』としてその存在を知られていた。

 

しかし、その実態はそんな生易しいものではなく、世間の闇と行き交う人の波に紛れ、ポケモンに関する法を無視した研究や産業スパイ等、世界を股に掛けて違法行為を働く犯罪組織。裏社会に広く強固に根を張るまでに巨大化・強靭化している秘密結社である。

 

…そしてタマムシシティに本拠地を持ち、裏でTCP社と深い繋がりを持っているという事実を、そしてそのさらに深淵において1人の男の飽くなき野望が蠢いている事実を知る者は、関係者を除けば誰一人として存在しなかった。

 

なお、マサヒデは除く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『…以上が今月の収支になります。警察の妨害が低調だったこともあって、活動は表裏ともに総じて順調。大口の取引も4件成立し、先月よりも65%、昨年の同じ月よりも92%の増益となりました』

 

「…大変結構」

 

 

 時間は少し遡り、マサヒデがタマムシジム攻略のためひーこら言いながらトレーニングを積んでいた頃。TCPタマムシ本社ビルの一室にて、サカキはモニター越しにロケット団の活動に関する報告を受けていた。室内にはサカキの他には秘書や幹部等10名余りがサカキを囲んでいる。

 

 

「では、次に開発部門。そうだな…まず試作モンスターボールの進行状況を聞こう。アテナ、報告せよ」

 

『はっ。報告させていただきますわ。現在の状況ですが…』

 

 

モニターの向こうは、TCP社が運営するタマムシゲームコーナーの地下。建設時に極秘裏に造られたロケット団アジトだ。報告を行うのはロケット団の各部門の担当者や幹部。運営状況が順調なことに満足したサカキは、次の報告を促した。

 

 

 

サカキが立ち上げ、商品開発、品質向上、サービスの充実、事業拡大…同業他社との凌ぎを削る激しい戦いに勝利し続けることによって現在の地位にまで上り詰めたTCP社。全ては彼と彼を支える上層部の面々が一代でここまでの規模に育て上げた。彼らが如何に優秀であったかは論ずる間でもないことだが、そんな彼らも人である以上、忘れ難い屈辱的な失敗も幾つか経験しており、その中の1つにロケット団誕生の原点があった。

 

話はTCP社設立初期の頃にまで遡る。サカキ以下、社員たちの懸命な働きの甲斐あって収支が安定し、仕事がようやく軌道に乗ってきたといった頃、彼らと鎬を削っていたある同業他社から妨害工作を受けたのだ。ただ自分たちが成長して上を目指すことばかりを考えていた若き日のサカキや企業幹部たちはその工作に気付くのが遅れ、気付いた頃には時すでに遅し。結果、その妨害工作によって大きな損失を被るハメになってしまった。初動が遅れたことで物的証拠の確保にも失敗し、当時は泣き寝入りする他なかった。

 

そんな苦い経験から、サカキは違法な手段を用いて自分たちを蹴落とそうとする相手へのカウンターパートが必要不可欠だと考え、自社防衛や裏工作を専門に行う部門を密かに立ち上げた。それこそがロケット団の前身となるTCPセキュリティ部門。その歴史を辿れば、ロケット団は経営を進める中で必要に迫られて誕生した、TCP社の暗部とでも言うべき存在だった。

 

 

 

 かくして設立されたセキュリティ部門は、以降自社防衛のため表沙汰に出来ないようなことも含め、数えられないほどの案件を対応・処理し、他企業からの刺客たちと日夜鎬を削り続けた。会社が大きくなればなるほど攻撃も多種多様になり、仕事内容は幅広い分野に跨るようになり、対応するために人員も増員した。

 

そして実績を積めば積み上げるほど裏社会の事情や流儀に精通し、そちら側の人脈も増え、それを駆使して反撃に出ることも頻繁に行われるようになり、気付けばそういった裏社会の人脈を内部に取り込み、セキュリティ部門そのものがいつしか裏社会の住人、裏社会の最大勢力と化してしまっていた。『朱に交われば赤くなる』とはよく言ったものである。或いは『ミイラ取りがミイラになる』か。

 

ただ、このことはTCP社、そしてサカキにとって悪いことではなく、むしろ積極的に邪道に染め上げる方向に動いていた。サカキが『世界征服』という大それた野望を抱き、公式に自分たちを『ロケット団』と称するようになったのもこの頃の話だ。

 

その後、経理上の問題と資金的な問題、機密保持の観点から、サカキはロケット団をTCP社から切り離し、裏のルートで独自に資金を稼ぐ方針を取った。こうしてロケット団はほぼ現在の形になり、表向きは密漁・密売組織。しかし実態はTCP社の完全な首輪・紐付きの実働部隊として、陰に日向に活動していた。

 

そして、アポロやアテナのようにロケット団上層部のメンバーの大半は、TCP社においても何らかの立場・肩書きを与えられていた。

 

 

『…以上の通り、進行状況は芳しくないとしか言えません。特にモンスターボール内部の技術的な部分が現状ほぼ手探りの状況です。やはり関連する技術をシルフカンパニーに粗方抑えられているので、色々と難しい部分が多いですね。外郭に関しては先日入手出来たデータを基に開発を進めておりますわ』

 

「ふぅ…む、そうか…」

 

 

開発部門の主任を務めているアテナからの報告に、サカキは納得はしつつも少し残念そうな表情を見せる。

 

彼が開発部門に研究を進めさせているのは、どんなポケモンでも必ず捕獲し、使役することが出来るボール。ゲームで言うところの『マスターボール』だ。このボールが完成すれば、簡単にポケモンを捕獲し、言うことを聞かせることが可能となる。それが例え、どんなにレベルが高いポケモンや、伝説と呼ばれているようなポケモンであっても。

 

開発部門から理論上は十分可能との回答があったため研究・開発を始めさせはしたものの、特にモンスターボールの内部…要求された通りの性能を持たせるための特殊な構造と、それに合わせたシステム面の構築がネックとなり、開発は難航していた。

 

 

「入手したデータはどうだ?モノになりそうか?」

 

『はい。これがデータ通りの性能を発揮するのなら、外郭部分に関しては遅くとも半年以内には結果を出せるかと』

 

「良いだろう、今後も開発部門の努力を期待する」

 

『はっ、鋭意努力致しますわ。それにしても、まさかその大事なデータを子供に運ばせるとは驚きましたわ』

 

 

そう言って、モニターの向こうのアテナが苦笑したような顔を見せる。彼女の言う子供…言うまでもなく、我が主人公(マサヒデ)のことである。彼がクチバシティにてクチバ支社長から託され、テストした上でタマムシシティまで持って来た試作品…その内部には、別地方の企業から抜き取った新素材に関するデータが記録された媒体が隠されていた。

 

早い話、運び屋として犯罪行為の片棒を担がされてしまった訳だが、そんな事をマサヒデは知る由もないし、今後も知ることはない。露見しなければ犯罪は犯罪ではないのだ。

 

 

「フ、気付かれていたとは思わんが、いくら警察と言えど子供はノーマークだろうと思ってな。色々面白い発見もあった。さて、では次の報告に行くと…」

 

『…その前に失礼します、ボス。その試作モンスターボール絡みで一件、諜報部門から報告がございます』

 

「…む、なんだ」

 

 

次の報告へと移ろうとしたところでそれを遮ったのは、他企業への産業スパイや裏社会絡みの仕事を担当する諜報部門を統括する若き最高幹部の1人、アポロ。

 

 

『シルフカンパニーに潜入させている工作員からの情報です。奴ら、どうも我々の目指すモノと同様のコンセプトを持つボールの開発を始めたようです』

 

「…なんだと?それは確かな情報か?」

 

『はっ、セキュリティが強固な為まだ確認中の段階ではありますが、複数のルートから同様の報告が上がっておりますので、諜報部門では確度は高いと見ています』

 

「…我々の計画が向こうに漏れた可能性は?」

 

『…その可能性はかなり薄いと思いますが、一応調査は行わせております』

 

 

TCP社の目下最大のライバルとも言えるカントー最大の大企業・シルフカンパニー。そこが同じコンセプトのボールを作り始めた…それはサカキに、延いてはTCP社上層部にとっても驚きの報告だった。

 

 

「…うむ。どちらにしろそのまま情報収集は続けろ。もし状況に変化があれば逐一報告せよ」

 

『はっ。お任せください』

 

「結構。あとは潜り込ませる人員も増員しておけ。場合によっては直接動いてもらう必要もあるやもしれん」

 

『了解。直ちに人選を行います』

 

 

どういう考えあっての事かは分からないが、事実であればノーマークという訳にはいかない。元より最大のライバルでもある大企業の動向は、つぶさに調べておいて損はない。諜報部門には人数の増員と調査・注視を続けるよう指示を出す。

 

それに、もし上手く潜り込んだ工作員が情報、あわよくば技術まで掠め取るようなことが出来れば、自分たちの計画も完成が大きく近づくかもしれない。そうなれば、完成したボールで伝説のポケモンを手駒とするのも良いし、どこかの金持ちに高額で売り付けるのもいい。上手く使えば世界に大きな影響を与え、表と裏の双方から自身が牛耳るという世界征服の大望にまた一歩、近づくことが出来るだろう。

 

サカキはこれを脅威と捉えると同時に、好機とも捉えた。

 

 

「話が逸れてしまったな。次の報告を聞こうか」

 

『はっ。では続きまして、人工のポケモンを作り出す技術に関する研究について…』

 

 

TCP社とロケット団。2つの組織と3つの顔を上手く使い分けながら世を翔る悪の風雲児・サカキ。世界の表と裏の双方から世界を操るという彼の飽くなき野望はまだまだ途半ばである。

 

 




この話におけるロケット団の経歴とか、現在の活動状況とか、原作への布石とか、タマムシシティの闇とか、主人公の旅する世界の裏でどうなってるか、背景を描こうと思って思うがまま書き進めていたら何か一週間ででけた。そしてロケット団は元々サカキの会社の一部門という設定に。
そして、知らぬ間に犯罪行為の片棒を担がされていたことをサラッと流されるうちの主人公。さあ、彼の行く末はどうなるか。作者にもまだ分からないぞ()

なお、次はセーブポイントです。ゆっくりここまでの冒険をセーブしていってね。
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