成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第3話:怠け者の思考回路

 

 

 

 

 無事に夜が明けてポケモン世界?3日目の朝。森の中にいるせいで中々感じ取ることは難しいのだが、今日も良い天気だ。これで今いる場所がマンションの自室なら文句無いのだが、残念なことに現実は非常であった。木々の間から覗く太陽の光が恨めしくなる。

 

とりあえず、気掛かりだった左手の腫れと痛みは一晩でほぼ引いた。どうやらビードルの毒はあまり強力なモノではないようだ。或いはどくの状態異常にかからなかったか…ここら辺が実際どうだったかは分からないが、俺はどこぞのポケモン博士ではないので、これ以上自分の身を以て検証はする必要はないだろう。もし仮にやれと言われても即断即決でお断りだ。

 

あの木の実を狙うには…と言うより、今後の行動全てにおいて、どんな状況であれしっかりと対応出来るようにすることが大切だ。昨日のビードルのように、今日も何がしかの野生ポケモンと鉢合わせする可能性は十分に考えられる。そうなった時にどうするか。

 

状況や相手にもよるが、一番確実なのは逃げの一手。が、今の俺には何もせずに逃げるという考えはない。と言うか、現状もう逃げるだけの余裕がない。物資的・体力的・精神的にもかなりキツい。主に空腹で。まだ体は思うように動くが、ここで食料が手に入らなければ、そん時は人生を諦めなければならない。それぐらいの危機感を持っている。今日は不退転の覚悟で食料の確保に動きたいと考える所存。

 

 

 

…で、あるならば、俺が今真っ先にするべき準備は、ポケモンに対抗出来る手段を持つことだ。こういう場合、本来なら自分のポケモンで対処するのがポケモン世界でのスタンダード。ほら、ゲームでも始まりの街で言われるでしょ?「ポケモンも持たずに草むらに入ると危ない」って。

 

ただ、俺の場合すでに草むらどころの話ではないんだけどネ。チュートリアル完了してないのに、始まりの街越えて最初のダンジョンに突っ込んじゃてるじゃないか。

 

当然だが、俺に手持ちポケモンなどいなければ、ゲットするために必要な空のモンスターボールすら手元には無い。ワンチャンスすら与えられていないのなら、昨日のような状況になった場合どうするか。俺が出した答えが…コレだあぁぁーーーーッ!

 

 

 

 

 

 

 

E右手:木の枝(大)

E左手:イシツブテ(notポケモン)

 

 

 

…自分でやっといてなんだけど、どっかその辺に未使用のモンスターボール落ちてないかな?ゲーム的に考えて。

 

それかゲームデータでの手持ちポケモン1匹でいいから下さい。ガブリアスとかサザンドラとか、出来れば汎用性が高そうで強めなヤツを。何が起こるか分からないし、出来ることが多いヤツなら安心だぜ。

 

…欲張り過ぎ?そんぐらいの保険あってもいいでしょ。

 

 

 

…まあ、無いもの強請っても仕方がないので、今日はこれで突撃してみようと思う。それにエンカウントしないって可能性もあるしネ。さあ、津田政秀。美味い木の実を、そして光ある明日を掴みに行こう。栄光を、食料を我が手に!いざ、出陣!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…なーんて、勇ましく始動したまではよかったのだが、目的の木に昨日のビードルの姿はなかった。慎重に様子をうかがったが、木の周りに動く者は確認出来ず、気休めな装備品を使わずに済みそうなことにまず安心した。

 

木へと歩み寄り、幹をよじ登り、その枝に実った甘くジューシーな桃色の果実に手を伸ばそうとして…

 

 

 

「…あ」

「…(じーっ)」

 

 

…ソイツと目が合った。ソイツは黄色一色の身体に三角形とも涙滴型ともとれる真っ黒な瞳が特徴的なヤツで、昨日あの忌々しいビードルが陣取っていた枝の、ほとんど同じ場所の上の枝からぶら下がり、何をするでもなく俺を見つめていた…超至近距離で。そして、やはり俺はソイツに見覚えがあった。

 

ソイツの名前はコクーン。さなぎポケモン。むし・どく複合タイプのビードルの進化系。序盤で進化前のビードル共々野生で出現しては、ただひたすら"かたくなる"を連発してくる、やたらめったら硬い経験値ボックスである。

 

同じさなぎポケモンであるトランセルと対峙しての"かたくなる・わるあがき"合戦も、今では遠い日の懐かしい思い出だ。あの頃の俺は、まだ何も知らなかった…(遠い目)

 

 

 

 さて、問題の俺の目の前にいるこのコクーン。その存在に気付いたのが突然かつ至近距離だったので、声すら出せずにサーッと血の気が引き、全身に鳥肌が立ち、背中を冷や汗が流れる錯覚に陥り、固まってしまう。その様は蛹同士の"かたくなる"合戦さながらだ。

 

幸い、向こうも特に動くことはなく、結果一人と一体が至近距離でまじまじと見つめ合う展開に。

 

昨日ここにいたのはビードル。今日はビードルの代わりにコクーン。俺はこの系統に何か縁でもあるのか。と言うか、このコクーンまさか昨日のアイツなんじゃ…

 

 

 

「お前…もしかして昨日のビードルか…?」

 

「…(プランプラン)」

 

 

 

なんとか絞り出した俺の問い掛けに、コクーンは身体を揺らして何か応える。俺の言葉が分かっているのか否か、そしてこの動きが肯定なのか否定なのかは全く分からないが、何となく昨日のビードルのような気はする。直感がそう告げている…たぶん。だが、仮にもしそうだとするなら、俺を撃退した後24時間ほどの間にコイツは進化したということになる。流石は序盤虫。要進化レベル7は伊達じゃないな。

 

…ということは、昨日の俺は図らずも進化に必要な最後の経験値になった可能性があるわけか。だが、人間って経験値になるんだろうか…気になる。

 

でも、人に向かってポケモンが技を放つ構図は、某ドラゴン使いさんを彷彿とさせてしまう。彼のように人に向かって「"はかいこうせん"だ!」なんてのは、いくら悪の組織の一員だからってやり過ぎだと思う。人のを盗ったら泥棒になり、人を撃ったらワ〇ルさんになってしまうわけだ。良い子のみんなはマネしちゃいかんぞ。せめて"りゅうのはどう"ぐらいで勘弁してあげなさい。

 

…え?ダメ?

 

それはともかく、"かたくなる"の印象が強いコクーンだが、これだけ至近距離にいるのに"どくばり"を撃ってこない辺り、蛹になると幼虫時代と違ってあまり動くことがなくなる様子。一戦交えることも覚悟していた俺としてはかなり拍子抜けした結果になったが、それは食料を難なく手に入れることが出来るということでもある。他にポケモンもいないようだし…

 

 

「ひゃっはー!一日ぶりの食べ物だ、貪り尽くせー!いっただっきまーす!」

 

 

…今日は1日ぶりの木の実パーティーだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あ~…食った食った。余は満足である」

 

 

一心不乱に食べ続けること30分あまり。俺は昨日からの空腹を満たし、無事人生を明日へと繋ぐことに成功していた。果実は程良く熟しており、甘みと酸味の絶妙なハーモニーが疲弊した心を癒してくれた。空腹時に食べる食事はやはり格別の満足感がある。これで今日一日を戦うことが出来る。

 

「今日は俺の勝ちだな」と、相も変わらずじっと佇むコクーンに顔を向けてやる。鏡が無いので分からないが、おそらくすっごくイイ笑顔をしていることだろう。別に直接戦って勝ったワケではないし、何に勝ったのかもいざ問われるとはっきりとは答えられないのだが、とてもいい気分だ。

 

ふと、悪魔の考えが頭を過る。今ここでコクーンを滅多打ちにすれば、昨日の雪辱を果たせるのではなかろうか?相手は無抵抗だし、一発ぐらいフルスイングを入れてやっても何も問題は…

 

 

 

 

 

…いや、流石にいくらなんでもそれはないわ。別にやられたとは言っても命とられたわけでもないし、動けない相手にそこまでやるのはやり過ぎ。それに、コクーンって結構大きいんだよな。幼児退行のせいもあるが、身長の半分ぐらいの高さがある。これぐらいの大きさの相手に攻撃するとなると、ペットに虐待加えるような感じがして何か嫌だ。あと、反撃されないとも限らないしな。主に進化後。

 

それに、もし潰れて死ぬようなことがあったら…折角の良い気分が台無しだ。

 

余裕が無くて頭が少しおかしくなってしまったかな…それに、調子に乗って少し食べ過ぎてもしまったらしい。腹休めと頭を冷やすことも兼ねて、一旦仮の宿に戻って休憩するとしよう。準備が整い次第、脱出を目指して再始動だ。

 

 

「…まあ、お前が無事に進化出来ることを祈ってるよ。元気でな」

 

「……」

 

 

おそらく数日~数週間後には、コイツも立派なスピアーへと進化していることだろう。コイツが昨日のヤツだとするなら色々思うところはあるが、これもまた一期一会。今日限りの関係だ。一つ良い勉強をさせてもらったと思うことにしよう。向こうはこっちの胸の内などどこ吹く風なんだろうけどな。

 

俺もこの現状をなんとかしないとな。ま、お互いに頑張ろうじゃないか。そうしてひたすらにじっとこちらを見つめ続けるコクーンに別れを告げ、俺は来た道を戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…ふあぁ…ぁ……ん……あり?寝ちまってたか?」

 

 

 朝食後、一昨日から厄介になっている仮拠点にて休憩をとっていた俺だが、どうも睡魔に負けてしまっていたらしい。実質的な二度寝だな。こんな状況で朝っぱらから呑気なことだと我ながら思うが、こればかりはどうにもな…危機意識が薄いダメ人間の見本だと言われても仕様がない。改善する気は…まあ、一応はある。

 

…気持ちはあっても実際にするかどうかは別問題だが。

 

 

「…ちーっとばかし寝過ぎたか」

 

 

太陽の高さから見るに、結構な時間寝てしまっていたらしい。位置から推測するに、恐らくは正午を回るかどうかと言ったところか。正確な時間が分からないのもやり辛いものがあるな。

 

体を起こして欠伸と共に一つ大きな伸びをして体をほぐす。食欲・性欲・睡眠欲は生き物の本能とは言うが、無抵抗に身を任せすぎるのも問題か。

 

もっとも、今考えなければならないのは過ぎた事より今後の事だ。寝過ぎたせいで、当初の予定通り動くべきか否か判断する必要が出てきた。半日という予定の半分の時間で脱出を目指すのか、無理せずこの場所に留まる安全策を採るべきか…

 

 

「…とりあえずは飯だな」

 

 

…やはり本能には勝てなかったよ。と言うか、自分今日食べて寝るしかしてない気が…い、いや、今日はまだ本調子じゃないだけだし。左手が疼いてるし。そう、

 

 

 

明 日 か ら 本 気 出 す 。

 

 

 

 

 

…ホント、自分ってダメ人間だよな。自分で自分のことが嫌になる瞬間だ。

 

心の中では自分の内面に自らダメ出しをするものの、身体は本能に忠実な僕。明日は明日、今日は今日。明日のことは明日考えればいい。そう心も納得させて、俺は心に白旗を高々と掲げて歩き出した。

 

何度でも言うが、こういう辺りホントダメ人間だと思う。だが、楽でいいのもまた事実。だからついつい逃げてしまうのも仕方のないことなのです。

 

 

 

 

ただし、人生時には重要な決断を下さなくてはならない時が必ずある。どちらかを捨て、どちらかを選ぶ、苦渋の選択を迫られることも必ずある。そういう時に、こういう楽な方向に逃げる選択をする者には、後で困難な場面が待ち受けているというのが世の常なワケで、俺もその例に漏れないことを、そしてこのポケモン世界の自然の摂理と脅威を実体験するハメになる。

 

 

 

 

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