セキチクジム内部にあるバトルフィールド。和風の道場を模した内装のこの場所は、ある時はジム所属のトレーナーたちの研鑽の場として、またある時は挑戦者を試す試練の場として、日々激しい戦いが繰り広げられている。
その一方で、セキチクジムにおけるこの場所の位置づけはサブフィールドであり、セキチクジムの主であるキョウさんがこの場所を使うことは意外と少ないらしい。
が、ここ3週間ほどは事情が違っていた。
「スピアー、"どくづき"だっ!」
「スピィッ!」
「受け止めろ、ベトベトン!」
「ベ~トォ~!」
両端のトレーナーサイドから指示を飛ばすのは、俺とキョウさん。フィールドでは、スピアーとベトベトンが熱い火花を散らしてぶつかり合う。このベトベトンは、セキチクシティを目前にして俺を襲ったあの時のベトベトン、つまりはキョウさんの主力の1体だ。
まともに打ち合えば、レベルで劣り総合的な種族値でも劣るスピアーに勝機はまずないのだろう。が、今はとあるテーマに沿ってキョウさんが強い縛りを己に課した上で戦っている状態。そのテーマこそが、俺がもう1カ月近くに渡ってこのセキチクジムに厄介になっている理由の1つでもあったキョウさんへの"どくづき"の伝授。故に、スピアーが倒されることはない。
それと引き換えに、その指導を受けるためにセキチクシティに滞在して約3週間。その修練はサカキさんのそれとはまた違った過酷さがあったが、同時に確かな成果ももたらしつつあった。
「そのまま打ち返せィ!"どくづき"ィッ!」
「ベトォ!」
「打ち負けるな!こっちもそのまま"どくづき"ッ!」
「スピッ!」
互いにノーガードとも思えるような極至近距離での激しい殴り合い。その激しさに反し、打ち合っている技のタイプ相性の関係上、双方共に見た目ほどのダメージはなく、故に相手を打ち倒さんとより一層激しい殴り合いへと発展する。
この1ヶ月余りの期間で、キョウさんのポケモンたちは"どくづき"を実戦で使えるレベルまで仕上げつつあり、単純にレベル差の問題もあるのかもしれないが、その出力はすでにスピアーの繰り出すソレに勝るとも劣らないほど。実際、正面から互いに"どくづき"でぶつかると、スピアーが押し負けることが目に見えて多くなったように思う。サカキさんがニドキングに習得させていた時よりも習得、そして習熟していくペースははるかに早い。どくタイプのエキスパートは伊達ではない。
「…スピアー、"みがわり"!」
「…ピッ!」
ジムリーダーの主力なだけあって、スピアーと言えど真正面からの殴り合いは分が悪い。しかし、その一方で俺もキョウさんの教えを受けた"忍者らしい"戦い方を、その一端ほどではあるが使いこなせるようになりつつあった。
このままでは押し負けるので、それを防ぐため殴り合いの僅かな切れ目を突いて、キョウさんから指導を受けて覚えた技"みがわり"を発動する。ゲームでは最大HPの4分の1を消費して、相手の攻撃を防ぐ文字通りの身代わりを作り出す。本来なら一撃で消し飛ばされる攻撃もダメージを肩代わりしてくれるし、補助技はほぼほぼ無効化してくれる。非常に使い勝手のいい技だ。
一瞬のうちにスピアーから分身が作り出され、ベトベトンの攻撃がその分身を吹き飛ばす。ゲームではまんま人形だった身代わりは、こちらでもやはり人形の姿をしている。その他、基本的な部分はゲームと変わりないようだ。
「見事に躱されてしまったな」
「最高の先生に教えていただきましたからね」
発動から身代わりを展開するまでのスピードはすでにキョウさんからも一定の評価を貰えている。ここまで素早く展開出来るようになるのに時間は掛かったし、ただでさえ種族値的に少なめなスピアーのHPを消費するのは痛い。しかしそれ以上に、打たれ弱いスピアーにとって相手の攻撃を避ける手段は単純な防御よりも大切なこと。これまで大一番でどうしても作り辛かった必殺の間合いにスピアーが飛び込めるチャンスも、これで幾分か作りやすくなることだろう。
その代償に、スピアーのアイデンティティとも言える技、ダブルニードルを失ったが、ミサイルばりがあるからまだ気分的に問題はない。
「ファファファ…だが、その程度で満足されても困る。さあ、修業はまだまだこれからぞ!」
「ええ、モチロンです…!」
それを合図に戦いが再開。両者が再び激突する。実戦形式の修練は、自分とポケモンたちが今どこまで出来るのか、これまでの総合的な進展状況を確認する模擬試験のようなもの。今日の結果は明日の大きな指針となる。お互いそれぞれの目指す場所のため、手を捻じ曲げてはいるが抜くことはない。
繰り返し同じ技を放ち、それを躱し、受け止め、疲弊すればポケモンを換え、修練は1時間近く続いた。
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「…フーッ、うむ。此度はここまでにするとしよう」
「…ハァ…ハァ……はい、ありがとうございました…っ!」
「スピィ…ッ!」
ほぼ1時間ぶっ通しのスパーリング。流石にそこまで続けば、ポケモンもトレーナーも疲労が貯まる。大抵は俺のポケモンたちが先に潰れ、或いは俺の集中力が乱れて、そこで修練を終わる形になる。これが、俺とキョウさんの明確な実力の差。継続は力なり、経験は宝なり…そう言うことなんだろう。流石にトレーナーとしての年季の差は、まだまだ如何ともし難いものがある。
「終わったわね!じゃあマサヒデ、今度はあたいと勝負よ!」
「…疲れたから後にしてくれませんかねぇ?」
修練が終わったのを見計らってすかさずアンズ襲来。と言うか、元からいた。彼女は俺とキョウさんとの修練をほぼ毎日欠かさず見学しているので、修練後には高確率…と言うよりかはほぼ確実に勝負を挑んでくる。
「夜討ち朝駆けは戦いの常套手段!ピンチとチャンスは待ってくれないのよ!」
「うへぇ…」
そして逃げようとしても、大抵の場合『しかし後ろに回り込まれてしまった!』状態になる。汚いな、流石忍者きたない。
んなもんだから、結局は大人しく迎え撃つ方が時間の無駄が少なかったりする。押してダメなら引いてみろ、引いてダメなら諦めろ。何回も失敗してようやく辿り着いた真理である。人生には時として諦めと妥協が必要なのだ。
「今日こそはそのいけ好かない奴らを打ちのめしてやるんだから!さあ、いざ尋常に勝負!」
「ああもう、やればいいんだろやれば!?今日も返り討ちにしてやらぁ!」
キョウさんとの修練後の疲弊した心身に鞭打って、渋々アンズと一戦交える。ここまでが、セキチクシティにおけるここしばらくの俺の日課であった。まあ疲弊しているとは言っても、サンドパン・サナギラス+何か1体(最近はヤドン)のどくタイプを返り討ちに出来る面々で大体何とかなってしまうんだが。
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「仕舞いだっ!ヤドン、"ねんりき"!」
「やぁん」
「ご、ごるば…」
「ゴルバットッ!?」
「そこまで!ゴルバット戦闘不能、勝者マサヒデ!」
はい、一丁あがり…っと。ヤドンのねんりきを受けたゴルバットが沈んで対戦終了。最近はいつも大体こんな感じである。
ただ、サンドパンとサナギラスをぶちのめしたいという強い殺意だけはひしひしと感じている今日この頃。モルフォンにギガドレイン覚えさせたり、ゴルバットで混乱による運ゲーを仕掛けてきたり、結構本気で俺をメタりに来てるので気が抜けなくなりつつある。
ついでに、クサイハナのねむりごなで散々嵌めまくってやった結果、何を思ったか最近ナゾノクサを捕まえ、キョウさんルートでどこからかフシギダネも手に入れて育て出した。ずるいぞキョウさん、俺にも下さい。
加えてモルフォンにもねむりごなを搭載して、順調に一流忍者への道を歩いている…でも、アンタら確かどくタイプのエキスパートだよな?どくタイプ=どく状態のイメージが強いんだが、それでいいのか?
…まあ、眠りも毒っちゃあ毒だし、忍者的には間違ってない…のか?
かくしてアンズは新たなポケモンたちも戦力としたことで害悪戦法にも本格的に目覚め始めたか、『あやしいひかり→かげぶんしん→どくどく』とか、『ねむりごな→かげぶんしん→やどりぎのたね』とか、現代でも普通に通用しそうな嫌らしいコンボをやりだしたりしている。つか、キョウさんにしろアンズにしろ、かげぶんしん好き過ぎだろ。汚いな、流石忍者きたない。
こんな具合で強化は概ね順調。どくづき伝授もほぼ形となっており、正直後はキョウさん1人でもなんとかなると思う。となると、セキチクシティにおける残る目標はキョウさんに勝ってジムバッジを手に入れるだけ。そのための新戦力(ヤドンと一応コイキング)も捕まえてある。特にヤドンはどくタイプに有利なエスパータイプ、特性も"マイペース"なのも確認済み。これであやしいひかりも怖くない。どくはみがわりでどうとでもなる。それでもダメならあとは気合とレベルを上げて何とかする。
「くっ、今日も負けちゃった…あとちょっとだったのにぃっ!」
ロクな描写もすることなく今日も敗北を積み上げた事を悔しがるアンズ。まあ、草技覚えたり忍者戦法使ったりしても、その程度でそう易々と勝てるほど俺のポケモンたちは弱くはないつもりだ。そもそもレベルがこっちの水準まで達してない。サナギラスは…まあ、タイプ相性的に致命の一撃になるかもしれんが、サンドパン・ヤドンをワンパンは難しかろう。実際、今日もサンドパンを止められず爆走を許し、手持ちを半壊…いや、ほぼ壊滅させられてからヤドンにトドメ刺される…そんな感じの試合展開だった。
「て言うか、なんでそのヤドンあやしいひかりが効かないのよ!?」
「はっはっは、いやーヤドンさんマジ強ぇ()」
これが(知識を)持つ者と持たざる者の歴然とした差よ…!ポケモンごとに固有の能力…『特性』があることは、まだ世に出た形跡はない。
それにしても、ゲームだったらほぼ夢特性の『さいせいりょく』の方が有用だが、マイペースヤドンってのもまだまだ捨てたもんじゃないね。
「ファファファ…何度敗北を喫しようとも、日々努力を怠らぬこと、考えることを止めぬこと、そして諦めぬことだ。なれば、いずれは彼奴にその刃を届かせられるだろうて。精進せよ、アンズ」
「父上…はいっ!」
「マサヒデも済まぬが、出来れば今後も相手してやってくれると有難い」
「構いませんよ。別に苦ではないですし」
若干…いや、結構な鬱陶しさを感じることも多いが、俺にとっても学んだことを実践し、洗練させていくのにちょうど良い機会なのも事実。キョウさんには世話になってるし、否やはない。
「マサヒデ、明日も勝負よ!明日はあたいが勝つんだから!」
「あー、はいはい」
「むっきぃぃぃ!そのやる気のない返事、すっごいむかつくのよっ!明日こそはギャフンと言わせてやるんだから、首を洗って待ってなさい!」
ほぼ毎日、聞き飽きるほどに聴いている暑苦しい捨て台詞。うんざりした心持ちでやる気のない返事を返すと、アンズはすぐに逆上する。これもまあいつものことだ。
と、ここでその様子を見ていたキョウさんから、ヒートアップしたアンズに冷水を浴びせ、同時に俺を混乱させる発言が飛び出した。
「その意気やよし…と言いたいところだが、その勝負はまた後日に預けておくのだな。アンズ、マサヒデ、お主たちには明日から2、3日、泊まり掛けとなるが少々付き合ってもらおう。今日中に仕度をしておけぃ」
「…え?」
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~翌日~
「…うむ、この辺りでよかろう。ここを野営地とする。皆、準備に掛かれぃ!」
『応っ!』
屋外にもかかわらず静かに、それでいて重く響くキョウさんの声。その指示に、この場にいる全員が野営地設営のため自らに与えられた役割を遂行するべく動き出していく。
辺りを見渡せば、そこには青々と繁る木々と枝の僅かな隙間から差し込む木漏れ日、その木々を抜けた向こうに広がる広大な草原と、その中をゆったりと流れる一筋の川。よく目を凝らせば、その風景の中をたくさんのポケモンたちが動き回っている。
そう、悠然と広がる自然がいっぱいのこの場所は『サファリゾーン』。元からあった大自然がそのまま残る野生ポケモンたちの楽園にして、その中でありのままに生きるポケモンたちを間近で見ることの出来る観光施設。セキチクシティが誇る新たな街の象徴にして、地域振興の扇の要である。
ゲームにおいてはここでしか手に入らない珍しいポケモンを捕まえることが出来る施設だったのだが、こちらの世界では…以前説明した通り、大変残念ながら捕獲禁止である。がっでむ。
そして、このサファリゾーンが誇る広大な土地の保守保全をほとんど一手に担っているのが、他でもないセキチクジム、延いてはキョウさんだった。確かゲームでもそんな話あったような気がする。
さて、俺はキョウさんの手引きでこのサファリゾーンを訪れていた。無論、アンズも同行している。ただし、他のセキチク忍軍の面々は連れて来られなかったので、子供は2人だけ。アンズ共々、拒否権など無いとばかりに早朝から連れ出されてのことなのだが、何故ここに俺とアンズを連れて来たのかと言うと、キョウさん曰く「後学のため」とのこと。
これだけではよく分からないと思うので、昨日あの後聞かされた説明をしておこうと思う。
このサファリゾーンという施設、セキチクシティ周辺に元からあった自然をそのまま利用していることは前述の通り。しかし、全くの手付かずで自然のままというワケではない。自然の成り行きに任せるままだと、例えば災害などで環境の急激な変化が起きたり、見学者が危険に晒されたり、気候等の関係で一部のポケモンが大繁殖、或いは急激に 減少したり…そんな大小様々な変化がこれまで、そして現在進行形でも起こっている。過去には縄張り争いに敗れてサファリゾーンを離れたポケモンが、人里に下りて大きな被害を出した…なんてこともあったらしい。
そういう事態が二度と起きないように、そしてこの地の景観・安全性を著しく損なわないように、生息するポケモンの生態系が著しく崩れることがないように留意しつつ、適宜人の手によって適切な管理・維持がなされている。言ってしまえば熊鹿猪とかと似たような扱いである。
そして、それはある程度のデータに基づいて行われており、そのデータを得るためには定期的な継続調査が必要となる。その調査を中心とした諸々の作業…それがキョウさんの言う見回りであり、セキチクシティジムリーダーとして彼が任せられている仕事だった。
また、サファリゾーン自体がまだ拡張の余地があり、計画に基づいて日々調査・整備・拡張が続いている。それを進めるためには、作業員たちを野生のポケモンや自然の脅威から守ることが必要不可欠で、それもまたキョウさんの仕事であった。キョウさんはセキチクシティジムリーダーとして、その指揮・管理・対応の全てを任されていた。陰に日向にサファリゾーンの平和を守るヒーローというワケだ。
ゲーム通りなら、キョウさんは数年の後には四天王の座へと上り詰めることになる。同時にアンズはキョウさんが四天王になった後、その跡を継いでセキチクシティジムリーダーに就任する。だから、その通りだと考えるなら自身の仕事を引き継げるように後学のため連れて来たのは分かる。が、何故俺まで連れてきたのか。
正直な話、後学のためなら「アンズだけでよかないですかね?」とか思ったけど、俺は空気が読める大人()なので、そこは何も言わずに同行することに。何だかんだでサファリゾーンに行ったことなかった…つか、行く気にならなかったし。捕獲禁止の衝撃は大き過ぎたのさ…
話を今に戻す。キョウさんの号令一下、瞬く間に構築されていく野営地。見回りに参加するのは、セキチクジムのトレーナーを始め、観測のデータを取る大学等の研究員や、その先導と実地確認などを行うレンジャー。危険箇所の補強や見学ルートの整備などを行う作業員などなど多種多様。
で、前日にその巡回にキョウさんの鶴の一声で今回特例として参加を許された、もとい無理矢理参加させられた俺とアンズだが、一応は戦力としても計算してもらえている。
まあ、主力はキョウさんとジムトレーナーの皆さんであり、俺たちは後学のために連れて来られただけで、いくら実力をある程度買ってもらっているとは言えあくまでオマケだ。
「よーし!いいぞ、引っ張れ!」
「そのテントはあっちだ!食料品はこっちに持ってきてくれ!」
「機材の組み立て、完了しました!」
「周囲に大型のポケモンの痕跡なし!」
「念の為、ここにもゴールドスプレーを撒いておこう!」
設営を進める作業員、機材を組み立てる研究者、周囲の安全確認と環境整備を進めるレンジャーの皆さんの声が響く。野生のポケモンたちを刺激しないためか、音量は幾分抑えめである。これだけの人数がまとまって活動しているので、気配だけで野生のポケモンは逃げ出しそうな気もするが。
「…我々も行くとしよう。皆、支度は出来たか?」
やがて設営が一段落すると、職種ごとに分かれてそれぞれの仕事に取り掛かる。研究者は調査及び機材の組み立て、作業員は見学ルートの敷設と保守点検。レンジャーと俺たちセキチクジム組は、さらにいくつかの班に分かれて行動を開始する。
分けられた班の役割は、それぞれフィールドワークに向かう調査組の護衛班、ルート整備に向かう作業組の護衛班、観測班とは別にポケモンの様子を確認して回る哨戒班、それらの周辺を離れて危険がないか監視する警戒班。俺とアンズが与えられた役割は、他のジムトレーナーと同様にサファリゾーンを巡回し、主に野生ポケモンによる危険を排除すること。組み込まれているのは、キョウさんが自ら率いる哨戒班の1つ。必要に応じて戦闘や他の班の支援・補助を行う差し詰め遊撃部隊と言ったところ。
行動を開始してしばらく進むと、見学用の道として整備が進むルートを外れる。
「常々言っておるが、何かあった時『対応出来ませんでした』は通じぬ。それが自然を相手にするということよ。出来る限り手は差し伸べるが、必ずしも出来るとは言えぬ。故に、この場に立つ以上、他の弟子たち同様、お主らも一端のトレーナーとして扱う。しかと心得て臨むべし」
『はいっ!』
「…まあ、今のお主たちならば、余程のことでもなければ遅れをとるようなことはあるまい。肩肘張らず、平常心を心掛けることだ」
キョウさん曰く、自然を相手にしていると不測の事態に遭遇することは珍しくないとのこと。そんな状況下で慌てて冷静さを失うと、迂闊な判断に結び付き、悪い結果をもたらすことになる。それはポケモンバトルでも同じこと。一手のミス、甘い判断が勝敗を分けてしまうなんてことはざらにある。
「咄嗟の如何なる事態にも、冷静で果敢かつ果断な対応が出来てこそ一流」
以前からキョウさんがよく口にしていた、キョウさんなりの忍者として、トレーナーとしての美学、信念に基づく言葉だ。
以前にチラッと聞かされたが、キョウさんと初めて戦った時の不意討ちも、一流のトレーナーなら不測の事態にも即座に対応出来るのが望ましいという、不測の事態に陥った時の俺の反応を見たいがためのことだったらしい。その点、サカキさんで徹底的に鍛えられた俺に死角はなかった。肝心要のポケモン自体の能力がまだ足りていなかっただけ。
…いや、これじゃ俺の仲間たちを悪者にしているようにしか聞こえないな。うん、全部ひっくるめて俺の実力不足だ。
キョウさんの指示で、全員がポケモンを出して警戒しながら、ポケモンたちによって踏み均されたらしき獣道を、時には生い茂る草木のど真ん中へと分け入っていく。
俺も周りに倣って、スピアーを出して周囲を警戒する。上空には同行するレンジャーの1人が出したピジョンが常に監視の目を光らせており、何か異変があればすぐに知らせてくれるらしいが、いつどこからポケモンが現れるかは分からない。周囲に目を光らせ、耳を研ぎ澄ましながら道なき道を進む。
途中、開けた小高い丘や崖の上、平原を見渡せる茂みなど、要所要所で小休止も兼ねてポケモンたちに異常が見られないかを注視する。が、残念ながら俺にはどういった行動などが異常に当たるのかがサッパリであった。
まあ、この哨戒中にキョウさんたちが何も言わなかったし、異常はなかったということでいい…んだと思う。
その後も変わったことはなく、険しい大自然の中を歩いてはポケモンたちの観察を繰り返す。特に何事もなかったが、いつ現れるやも分からない野生のポケモンのために常時気を張っていたせいか、思った以上に疲れた。季節が初夏に差し掛かっていることもあり、汗だくでクタクタになりながらも無事に野営地へと帰還。午前中の仕事が終了する。
昼休憩を挟んで、午後からは別の班と役割を交代。ポケモンが野営地に近付かないよう、野営地周辺の警戒に当たる。が、ここでも野生ポケモンによる襲撃などは起きず、ただ時間だけが過ぎていった。
こうして、この日は日没とともに俺とアンズの子供組はお役御免。星空の下で大人たちの中に混じって夕食を摂る。ずいぶんと久しぶりになる野外での夕食は、疲れた体にとって最高の御馳走だった。
「隙ありぃっ!」
「…あっ!?」
…俺は大人だからな。ソーセージの1本盗られたぐらいで怒ったりは…怒ったりは……うん、キレそう()。
しかし足に疲労が来ていた俺は特に対抗策を採ることもなく、夕食を終えた後は仮設のシャワールームでサッと汗を流し、テントの中で寝袋に潜る。
僅かにテントの中を吹き抜ける夜風は、日中よりも幾分か涼しく感じる。これなら心地良く明日を迎えることが出来そうだ。1日歩き回った疲労と久しぶりの野宿に僅かな高揚感を覚えながら、俺は眠りに就いた。
『ズ……ズズゥ…ン…』
『バキィッ…!』
『メリィ…メリメリメリメリ!』
『ズズゥゥゥゥゥンッ‼』
「…っ!?」
鈍い爆発音と、何か巨大なモノが裂け倒れる嫌な音、そして地響きが眠りを妨げるまで。
改めまして大変お待たせいたしました。前回の投稿から約3カ月、ほったらかしにしてしまい申し訳ありません。色々ありましたが、また頑張って投稿ペースを戻していきたいと思います。生存報告という名の言い訳を活動報告に上げていますので、作者に何があったか気になるという奇特な方がおられましたらそちらを参照してください。
さて、物語の方は主人公のせいで着実に強化が進むキョウ&アンズ親子、そしてキョウの手引きでサファリゾーンに進入しました。平穏に終わることのない主人公補正、眠りを妨げた異音と地響きの正体や如何に?ってところでしょうか。
話は変わりますが、ソードシールドのエキスパンションパス・ヨロイ島が配信開始になりましたね。多くのポケモンが無事再登場を果たすことになりましたが、皆さんのお気に入りのポケモンはどうだったでしょうか?作者的にはヤドラン・サンドの復活で満足であります。特にガラルヤドランは中々面白い特性を持っての登場…最初見たのはクララ戦でしたが、これはこれでイイと思います。
カンムリ雪原の方も今から楽しみです。それまで頑張って更新スルゾー。