成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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※若干残酷な描写があります。ご注意ください。




第39話:楽園の暗躍者(2)

 

 

 

 

『ズズゥゥゥゥゥン‼』

 

「…ッ!?」

 

 

 人もポケモンもそのほとんどが寝静まる夜の静寂を突如轟音が切り裂き、何か大きなモノが倒れたのか、衝撃で大地が鈍い音を響かせて揺れる。

 

これで目が覚めた俺は、揺れの大きさから即座に何かただ事ではない事態が起こったことを感じ取り、寝袋とテントを抜け出して外を確認する。

 

 

「おい、何だ今のは!」

「ポケモンか!?」

「どこから聞こえた!」

「確か…あっち!10時の方角だ!」

「結構近かったぞ!?」

「ジムリーダーに報告しろ!指示を仰ぐ!」

「警戒!警戒!何があるか分からんぞ!」

「当直班はすぐ動けるように!お前は寝てる連中を叩き起こしてこい!」

「は、はいっ!」

 

 

同じ事を他の方々も感じたようで、ほとんどが俺と同じように起き出して、僅かな明かりを頼りに何が起きたのかを確かめようとしている。ここ以外に人のいない静かな夜に、彼らの焦り声はとてもよく響く。

 

 

『ジムリーダー、こちら4班っ!応答願いますっ!』

「何事か」

 

 

聞こえてきた声に振り替えれば、いつの間に来たのか、キョウさんがいつもの服装、いつも通りの様子で、トランシーバーを手に立っていた。

 

 

『10時の方角にて轟音発生!現在当直の4班と8班、臨戦態勢にて警戒しております!』

 

「こちらからも確認した。して、轟音の正体は?」

 

『現状では不明です!しかし、若干ですが遠方に砂煙らしきものが確認出来ております!音の大きさからかなり大型のポケモン、もしくは強力な技によるものの可能性が高いかと!』

 

 

トランシーバーの向こうにいるのは、野営地周辺を警戒していた警戒当番の人たちか。早くも動き出しているのが、トランシーバーから漏れる会話で分かる。

 

 

「砂煙か…危険を伴うが、ここはまず正体を確めるべきだな。場合によっては拠点の一時放棄も考えなくてはならん。1班!2班!」

 

「「「はっ!」」」

 

「お主らにはわしと共に音の発生源へと確認に向かってもらう!ポケモンから攻撃を受ける危険性は高い!心して臨むべし!」

 

「「「ははっ!」」」

 

「当直班のうち、4班はそのまま警戒に努めよ!8班は1、2班に先導役として同行してもらう!急ぎ態勢を整えるように!」

 

『はっ!そのように伝えます!』

 

「5班は8班に代わり4班と合流し、警戒行動に入れ!残りは別命あるまで野営地にて待機!周囲の警戒に努めよ!何かあれば、ダンゾウに報告し指示を仰ぐように!」

 

「「「はっ‼」」」

 

「ダンゾウ!この場の取り纏めを任せる!」

 

「お任せ下され、棟梁!」

 

「うむ!では、各々任務に掛かれっ!」

 

『応っっっ‼』

 

 

それを合図に、素早く装備を整え与えられた持ち場へ向かう者、調査班や作業班へとキョウさんの指示を伝えに走る者、この場にいる全員が弾かれたように慌ただしく動き出す。

 

この間にも、地鳴りや木が倒れるような轟と、時折何かのポケモンの遠吠えが断続的に響いている。

 

 

「アンズ!マサヒデ!」

 

「はいっ!」

「了解」

 

「お主らはダンゾウに付いてここで待機だ。ダンゾウ、済まぬが此奴らのことも頼む」

 

「某にお任せあれ、アンズ様とそのご友人に怪我などさせませぬ」

 

 

自ら危険地帯に飛び込むキョウさんが、自身の代わりに俺たちを託したのはダンゾウという、これまた忍び装束に身を包んだ古風な喋り方をする人物。キョウさんがセキチクシティジムリーダーに就任した当初からその配下のジムトレーナーとして活躍しているというベテラントレーナーだ。

 

 

「頼んだ。だが、此奴らとて一端のトレーナー。自らの身を守れるぐらいの実力はある。そうであろう?」

 

 

そう言って、俺とアンズを見やるキョウさん。

 

 

「はいっ!」

「…ええ、モチロンです」

 

 

そんな聞き方は反則だと思いますぜ、キョウさん。煽るような聞かれ方すると「出来ません」なんて答えられないじゃないか。周囲の空気に流される。日本人の悪い癖と言うか、社会性と言うか…まあ、仕方ないよネ。

 

 

「ファファファ…この通りだ。必要があれば上手く使え」

 

「…ははっ」

 

 

そうこうしている間に、キョウさんが率いる班の仕度が整う。

 

 

「ジムリーダー!1班準備良しです!」

「同じく2班、準備良し!」

 

「うむ!では皆、参るぞ!」

 

「「「はっ‼」」」

 

「父上!御武運を!」

 

 

アンズの声援を背に、キョウさんは準備が出来た人達を率いて闇の向こうへと融けていった。

 

 

「…では、アンズ様、マサヒデ殿、我らはこのまま野営地周辺を警戒。いざという時には、非戦闘班の盾となれるように動きます。覚悟はよろしいか?」

 

「もちろんよ、ダンゾウ!父上…セキチクシティジムリーダー・キョウの娘として、逃げるなんて選択肢はあたいにはないわ!」

 

 

ダンゾウさんからの問に即答する忍者娘。血気盛んで実に彼女らしい。ただ、時には逃げる覚悟も必要だとは思うよ。

 

 

「…僕も出来ることをやりますよ」

 

 

まあ、俺も戦うんだけどね。1人だけ逃げたとあっては、後で何言われるか分かったもんじゃないし、それに逃げた所で道が分からん。昼間ならともかく、初めて来た場所、それも大自然のど真ん中で、夜に単独行動なんて死亡フラグが盛大に自己主張しているようなもの。逃げて遭難なんていう無様な結果に終わること間違いなし。正直、逃げたところでハイリスクローリターンだ。

 

出来ればそんな状況来てほしくないってことには変わりないけど。

 

 

「…頼もしいですな。良いでしょう。ですが、某の指示には従っていただきますぞ」

 

 

そして、ダンゾウさんは周囲に集まる居残り組へと指示を与えていく。

 

 

「では、3班は9時から10時の方角、6班は11時から12時の方角を重点的に警戒!何か異変があれば即座に某に報告せよ!7班は某が直卒し、このまま拠点内部にて非戦闘班の護衛、緊急時の後詰めに回る!各員、速やかに任務に入るべし!以上、掛かれっ!」

 

「「「はっ!」」」

 

 

集まっていた人たちがダンゾウさんの号令一下、それぞれの持ち場へと散って行く。この場に残ったのは俺、アンズ、ダンゾウさん、その他7名。俺たちはそのまま非戦闘班の護衛に入る。

 

ただ、その護衛対象の皆さんはすでにいつでも動ける準備が整っていたので、警戒が緩んでしまいそうな程度には手持無沙汰だった。聞けば、こういう緊急避難準備はこれまでも時々あったということで、素早く動けるようにある程度のマニュアルが作成済みとのこと。そして、実際に緊急避難までする必要がある事態になることはほとんどなかったとか。

 

まあ、いきなりケンタロス2体が野営地近くで争い出し、流れ弾ならぬ流れはかいこうせんで拠点の一角が機材・物資諸共薙ぎ払われた、なんてこともあったらしいけど。おお、怖い怖い。

 

 

 

それなら今回もキョウさんたちが原因を突き止め、何事もなく事態は終息する…と思い始めた矢先のことだった。警戒に当たっていた班から、緊急事態を伝える連絡が入る。

 

 

『こ、こちら4班!こちら4班っ!サイホーンの群れが警戒ラインを突破し拠点方向に向かっている!警戒されたしっ!』

 

「こちらダンゾウ!4班、数と方向は分かるか!?」

 

『こちら4班!11時の方角より10体前後を確認っ!』

 

 

サイホーンの群れが猛スピードで拠点方面に向かっている…連絡を聞いた全員に緊張が走る。

 

 

「先程の轟音に驚いたのか、それとも何かに縄張りを叩き出されたか…3班、6班、聞こえていたな!?11時の方角より、サイホーンが10体程度こちらに向かっている!全力でお引き取り願え!」

 

『3班了解!』

『6班了解!』

 

「我々も突破に備えて動く!仮に3班6班が抜かれるようなことがあれば、我々が最後の防波堤だ!気を抜くなよ!?」

 

「「「はっ!」」」

 

「出来れば進路を変えてくれれば楽なのだがな…」

 

 

そんな呟きも漏らしながらも、ダンゾウさんはテキパキと各班に指示を出し、対処に向けて動き出す。いつもは騒々しいアンズも、この状況を前にいつになく真剣な様子。

 

俺もサイホーン襲来に備えるべく、一緒になって動く。

 

 

「クサイハナ、出番だぜ」

「ハッナ~」

 

 

サイホーンを相手にするならスピアーよりかは…と、クサイハナをスタンバイさせる。

 

 

「それじゃあ頼んだわ、モルフォン!」

「ふぉーん!」

 

「いでよ、アーボック!」

「シャーッボ!」

 

アンズはそのままモルフォン、ダンゾウさんはアーボックをそれぞれ控えさせている。その他の面々も、次々とポケモンを繰り出し、或いはすでにスタンバイさせていたポケモンたちに指示を出し、戦闘態勢に突入していく。

 

 

『ドドドドド…』

 

 

やがて、身体は大地が微かに揺れ始めたことを感知する。それは徐々に音量を引き上げ、同時に震動もはっきりとしたものになっていく。連絡のあったサイホーンたちは、残念ながらダンゾウさんが望むような進路変更はしてくれなかったらしい。

 

 

「攻撃開始っ!」

 

 

程なくして、対処に向かった班が戦闘に入った。

 

 

「撃てぇっ!」

「拠点に近づけさせるな!追い返せ!」

「無理に当てる必用は無い!進路の前方に攻撃を集中させるんだ!」

 

『ドンッ!』

『ドドォンッ!』

 

 

サイホーンの群れが地面を揺らして暴走する音に混じって、攻撃を指示する怒鳴り声が響く。かなり激しく攻撃を加えているようで、攻撃が地面を抉る炸裂音がひっきりなしに闇夜に木霊する。

 

後ろで万が一に控えている俺たちも、対応に当たっている彼らが上手くやってくれることを願って、誰もが固唾を飲んで結果を待っていた。

 

しかし…

 

 

『こちら3班っ!申し訳ありません!2体ほどそちらに抜けましたっ!』

 

『こちら6班!同じく1体ほど撃ち漏らしました!対応を頼みますっ!』

 

「計3体か…こうなっては我々が最後の砦となる他なし!相手は待ってくれん!すぐにここまで到達しよう!戦闘用意だ!」

 

「「「はっ!」」」

 

 

 

過半数のサイホーンにお引き取り願うことは出来たが、それだけの攻撃を以てしても、サイホーンたちを完全に撃退することは出来ない。

 

 

「アンズ様、マサヒデ殿、申し訳ないが四の五の言っていられる状況ではなくなり申した。その力、貸していただきますぞ」

 

「!」

 

 

トランシーバーから伝えられた内容とダンゾウさんの指示で、俺も含めて全員の緊張感が最高潮に達する。

 

 

 

 

 

…そして、ついにその時は来た。

 

 

『ドドドドドド!』

 

 

投光器に照らされた茂みの中から、ドシドシと大地を踏み鳴らして一直線に突っ込んで来る3つの黒い影。それらは投光器に照らされ、その光沢のあるネズミ色の図体を惜し気もなく晒し出した。

 

サイホーン、とげとげポケモン。タイプはいわ・じめん。以前サカキさんが進化系のサイドン使ってた時にした説明がそのまま当てはまる。図鑑の説明がやたらと頭が悪いことに言及されていた印象がある。

 

 

「アーボック、"へびにらみ"ぞ!」

「シャーーッボック!」

 

 

その飛び出しに真っ先に反応してのはダンゾウさん。流石は忍者の副長か。

 

アーボックもその指示によく反応する。"へびにらみ"は相手をまひ状態にする技。アーボックの威嚇とへびにらみをまともに受けたサイホーンたちの突進が、直後に目に見えて減速する。

 

 

「今だ!総員攻撃開始ッ!」

 

動きが止まったサイホーンに向けて攻撃の檄が飛び、引き絞りに引き絞っていた緊張の糸は、それぞれの攻撃となって撃ち出される。俺もまた、それに合わせて一番近い位置のサイホーンに対して攻撃に出る。乗り遅れるなんていうことはない。

 

 

「クサイハナ、"ギガドレイン"!」

「ハッナ~!」

 

 

指示した技はギガドレイン。物理に強く特殊に滅法弱いのは進化先同様。特殊技、かつ4倍弱点。加えてアンズのモルフォンとダンゾウさんのアーボックも合わせての集中砲火。結果は…見るまでもなかった。

 

 

「クガゥァッ!?」

 

 

サイホーン、無念の一発轟沈。残る2体のサイホーンも他の班員の皆さんから集中砲火を浴び、程なくして夜の大地に擱座。かくして当面の危機は去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----

 

 

 

 

 

 野営地目前まで迫ったサイホーンたちを何とか抑え込み、拠点防衛に成功した居残り組。戦闘不能状態に追い込んだサイホーンがそれぞれモンスターボールに収められ、これで危険は完全に取り除かれた。

 

無事に障害を排除出来たという報告は、非難に備えていた非戦闘班にもすぐ伝わり、さらに防衛線1段目を担っていた2つの班も無事に戻って来たことで、蜂の巣を突いたようだった野営地内も、一先ずは安心と落ち着きを取り戻していた。

 

なお、この時捕まえたサイホーンたちは怪我の治療を施した後、回復を待って後日野生に帰されるとのことだ。

 

後は正体不明の轟音の確認に向かったキョウさんたちが戻ってくればこの一連の騒動も終結。静かな夜が戻ってくるワケなのだが…残念ながら、そう簡単には問屋が卸してくれないらしい。

 

 

「…密猟者ですと?」

 

『うむ』

 

 

野営地内が落ち着きを取り戻して少し経った頃、キョウさんから入った連絡で、野営地の空気が再び変わる。

 

サファリゾーンは前述のとおり野生ポケモンたちの楽園であり、ここでしか見られないポケモンもかなりの種類いる。現在はサファリゾーンとしての整備が進む中で全面的にポケモンの捕獲が禁止されているが、かつてはそういった珍しい(レア)ポケモンを狙うポケモンハンターと呼ばれる存在がかなりいたのだとか。

 

そして、捕獲禁止となった今でも…いや、禁止されたからこそサファリゾーンの希少なポケモンは価値がさらに高騰。裏社会では高額での取引がされており、一攫千金を狙って法を犯す密猟者も後を絶たない…というような話をダンゾウさんから聞いた。

 

それを防ぎ、密猟者からポケモンを守るのもキョウさんの役目ってことだな。

 

そして、どうやらこの騒動の発端でもある轟音は、密猟者に狙われたポケモンが抵抗した際に生じたものだったらしい。

 

 

『大部分は取り逃がしてしまった上に、こちらも思わぬ痛手を貰ってしまったわ』

 

「大丈夫に御座いますか?」

 

『わしは何ともない。が、ジムトレーナーの何人かが手持ちを戦闘不能に追い込まれ、3人ほど軽傷を負わされておる』

 

「むう…それは中々に面倒な者達に御座いますな」

 

『ああ、その過半は連中が怒らせたサイドンを抑える際のものだ。密猟者どもはそこまででもあるまい。が、兎にも角にも手が足りぬ。もう幾許か手が欲しい』

 

「そうですな…では、即応可能な4班と6班。加えて、比較的消耗が少ない7班を送りましょう」

 

『3班か…そちらに2班しか残らぬが』

 

「こちらは落ち着きました故、2班もあれば拠点を守ることぐらいは容易に叶いましょう」

 

『そうか。では、そのように頼む』

 

「ははっ」

 

 

どうやら3班でも人手が足りない状況のようだ。おまけに反撃をもらって何人かが動けないらしい。

 

2人のやり取りで増援の派遣が決定し、増援の面々が順次キョウさんの下へ向かっていく。ところで、増援として7班も指名されているのだが、それはつまり、俺たちの出番…か?

 

 

「ダンゾウ!あたいも行くわ!」

 

 

なお、隣の忍者娘はもうすでに行く気満々だった。

 

 

「…ああ、アンズ様とマサヒデ殿は留守を頼みますぞ」

 

 

…なーんてことを考えていたが、まあ普通そうなるわな。流石にまだ年端もいかないお子様に、密猟者集団の相手なんか荷が重いし危険過ぎる。させるわけない。うん、そう考えると毎回毎回悪の組織と全面対決して完勝してる原作主人公たちってやっぱりおかしいわ。

 

 

「むうぅーー、何でよダンゾウ!」

 

「危険過ぎます。相手は密猟者の集団。大部分を捕り逃してしまったとのことですから、この暗闇の中、どこに何人潜んでいるかも分かりませぬ。大人しく従っていただきたく」

 

 

拠点待機を命じたダンゾウさんに食って掛かる忍者娘。いやいや、指示には従え言われとるやん。

 

 

「それに、もう夜も遅い。ここは大人に任せて、明日に備えてゆっくりお休みになって下され」

 

「嫌よ!」

 

「アンズ様!」

 

 

ダンゾウさんになおもアンズは食い下がる。

 

 

「あたいはセキチクシティジムリーダー・キョウの娘、いずれは父上の跡を継いでジムリーダーになるつもりよ!その時、あたいもこういうことに対応しなくちゃいけないわ!これもいい機会よ!」

 

「アンズ様…」

 

「それに、あたいは父上の力になりたいの!お願い、ダンゾウ!」

 

「………」

 

 

アンズの懇願に、しばし黙り込むダンゾウさん。

 

 

「…そうですな。棟梁からも一端のトレーナーとして扱うようにとの命を受けております。良いでしょう、アンズ様とマサヒデ殿にも向かっていただきましょう」

 

「やった!ありがとうダンゾウ!」

 

「え…」

 

 

ダンゾウさんが折れたことで、アンズさんゴネ得で出撃枠をゲット。そして俺氏、さも当然の如く巻き添えをくらうの巻。

 

 

「となれば、棟梁の下までは某が直卒するしかありませぬな。準備が整い次第すぐにでも出ますぞ」

 

「はいっ!あたいはいつでも大丈夫!ほら、マサヒデも行くわよ!」

 

「いや、ちょ、何でだよ!?だああ、分かったから、行くから引っ張んな!自分で歩く!」

 

 

自然な流れでアンズと一まとめに増援として最前線投入が決定。抵抗する間もなくアンズに引っ張られて連行されそうになる。

 

何かもう全て決定済みな空気に行かないと言い出せる状況ではなく、せめて自分で歩くとアンズの腕を振り払うのが精一杯だった。

 

かくして、夜なのに意気揚々なアンズと、拠点に残るメンバーに後事を託したダンゾウさんと共に、俺は先行する面々を追い掛けて一路キョウさんの下へと向かって進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「これは…」

「うっ…ひ、ひどい…」

 

「…思っていたよりも、被害は大きそうですな」

 

 

 闇夜の林野を進み、しばらくするとポツポツと揺らめく光が見え始め、さらに進むといきなり視界が開けた場所に出た。ここが、あの轟音の震源地のようだ。

 

そこで俺が目にしたのは、急拵えの篝火が照らし出す、広範囲に渡って根元から圧し折られた木々と抉れた大地。ただ事ではない何かがあったのは火を見るより明らか。

 

そしてよく見ると、その中にポツポツと木以外にも横たわる影がある。遠くからではよく分からなかったが、近付くにつれてそれが何であるか、否が応でも理解せざるを得なかった。

 

全て、酷く傷付いたポケモンたちだった。動くこともままならないのか、人が近づいても目線をこちらに向けるぐらいはするが、逃げる素振りはおろか横たえた身体を起こす素振りも見られない。

 

 

「ダンゾウ」

 

「おお、棟梁。御無事で何よりに御座います」

 

 

あまりの惨状に絶句しているところに、キョウさんがやって来る。特に変わった所は見られないが、それでも何となく疲労困憊の色が見えたのは、きっと気のせいではないはず。

 

 

「…ち、父上」

 

「…アンズ、それにマサヒデも来たか」

 

「キョウさん、この惨状は…」

 

「うむ…原因となったのは、このポケモンであった」

 

 

そう言って、キョウさんは1つのモンスターボールを見せてくれた。

 

 

「この中に入っているポケモンは"ガルーラ"。カントー地方では、ここにしか生息しておらぬ希少なポケモンよ。子供を密猟者に奪われ、怒り狂って暴れておった」

 

 

ガルーラ、ノーマル単タイプ。初代から登場するポケモンで、サファリゾーンに出現する『出ない捕まらない』レアポケモンの一角。第6世代にてメガシンカを獲得し、強力な特性『おやこあい』と総合的に安定して高い種族値、ノーマルタイプらしい広い技範囲と欠点の少なさを武器に、環境の最上位に君臨したほどのポケモンだ。

 

子供を常にお腹の袋の中に入れて育てているのが特徴で、そこから『おやこポケモン』と呼ばれているが…そうか、密猟者に子供を…

 

 

「子を奪われた親の怒りは実に凄まじいものよ。抑え込むことにずいぶんと手こずったわ」

 

「そ、それで父上。ガルーラの子供は…?」

 

「残念だが、密猟者に奪われたままだ」

 

「そんな…」

 

 

アンズの問いに、キョウさんは瞑目し、首を横に振る。ガルーラへの対処に戦力を取られ、逃げた密猟者の追跡・確保やガルーラの子供の奪還までは手が回らなかったようだ。

 

 

「密猟者どもの追跡は他の者たちに任せてある故、案ずるな。それよりも、我らは我らの今やるべきことをやるぞ。一先ずは、ガルーラが暴れ回った余波で傷付いたポケモンたちの保護と手当てだ。アンズ、マサヒデ、行くぞ」

 

 

そう言って背を向けたキョウさんに、この惨状に心ここにあらずという様子だったアンズが、ハッとしたように動き出す。俺も慌てて着いていく。

 

とは言え、今ここに残されているのは、ダメージが大きすぎて身動きが取れないポケモンばかり。ゲームのように『キズぐすりを使えば体力満タン』で済む話でもなく、対応には専門的な知識・経験が必要。特殊な技能などあっちにいた頃を含めても持ち合わせていない俺に、出来ることは多くなかった。

 

キョウさん以下、セキチクジムの面々がその処置に懸命に動き回り、アンズもキョウさんに付いて傷付いたポケモンたちの処置を手伝っている。医療的な知識もあるとか、やっぱ忍者スゲーわ。

 

そんな中で俺に与えられたのは、僅かに取り押さえた密猟者たちの監視。すでに拘束してあるとはいえ、子供にそんな危険な奴らの監視をさせるなんて…とも思ったが、他にやることもなく、ダンゾウさんに付いて捕らえた密猟者たちの下へ向かう。

 

 

 

 

 僅かに捕らえられた密猟者たちは、一纏めにして拘束されていた。俺たちの他にも、数名のジムトレーナーの皆さんが監視に就き、変な行動をしないように見張っている。

 

密猟者たちは皆一様に黒尽くめの服装に身を包んでおり、まともな灯りがほとんどない夜の帳の中では、闇に紛れてしまい見つけるのが難しそうな印象を受ける。その一方で、黒尽くめの服の胸から腹の部分にかけて、大きく赤で塗られた『R』の文字が、いくつも存在感を放っていた。

 

…これはどう考えてもあれですね。

 

 

「この人たちが…」

 

「そう、密猟者ですぞ。この服装、ロケット団の者と見て間違いありますまい」

 

 

…はい、ですよね。初代ポケモンにおける悪の組織、カントー地方に蔓延る世界征服を目論む秘密結社、ロケット団の皆さんのようです。カントーに飛ばされて3年ぐらいになるけど、そのほとんどを首領であるサカキさんの下で過ごしてたけど、実物のロケット団員を見たのはこれが初めてだわ。こんな状況だけど、ちょっとだけ感動したような、しないような。

 

 

「金儲けのためならポケモンたちを道具のように扱い、平然と各地で悪事を働く。外道な手法にも簡単に手を染める、とんでもない連中にござる。考えたくはなかったが、やはりサファリゾーンにまで手を伸ばしていましたな…」

 

 

カントー地方でここにしかいない、そして数が少ないポケモンは他と比べても多い。ロケット団が狙うのも納得は出来る。むしろ目を付けて当然か。

 

 

「とりあえず、某たちはこのままこの者らの監視を行います。何か良からぬことをしでかすとも限りませぬ故、マサヒデ殿は某から離れないようにお願い致しますぞ」

 

「はい」

 

 

その後は緊張感を持って密猟者改め、ロケット団員たちの監視に当たる。彼らはすでに拘束されていることもあってか、逃走を図るようなことはなかった。

 

時間の経過とともに追撃に向かっていた班から新たな捕縛者が送られて来ることもあったが、同時に対応が済んだ他班が監視に加わってくれたりもしたので、特に何事もなく時間だけが過ぎていく。そのまま全てが一段落して、一足先に拠点に戻された俺とアンズがそれぞれの寝床に潜り込んだのが日が昇り始めてからのこと。

 

目が覚めた頃には、すでに捕らえられたロケット団員は全て警察に引き渡され、残る逃走したロケット団員の捜索と確保、被害状況の確認、さらにはポケモンセンターから応援も呼んで、負傷した野生ポケモンたちの本格的な手当てが急ぎ行われていた。

 

そしてこんな状況で俺とアンズの子供組にはこれ以上の出る幕はなく、この日の午後には先にサファリゾーンを離れることになった。

 

後日、全てが終わって帰ってきたキョウさんから聞いた話では、あれ以降もいくらかの潜んでいたロケット団員が検挙されたものの、残念ながら連れ去られたガルーラの子供は行方不明のまま。取り戻すことは出来なかったという。また、ガルーラの暴走によって負傷したポケモンの何体かが命を落としたという。

 

この世界がゲームではなく、現実であると言うことを、また一つ思い知らされた気分だった。

 

 

 

かくして、サファリゾーンで過ごした2日間は、ロケット団の悪行を初めてこの目で見て、初めて肌と心で感じた俺の心に、拭い難い跡を付けて終わった。楽しい遠足とかキャンプとか、割と軽い気持ちで参加していたはずなのに、何故こうなるのか。

 

あと、俺、今後サカキさんをまともに見れないような気がしてきたんだけど、どうしようか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ところで、俺が以前サカキさんから貰ったストライクって、もしかしてサファリゾーンで密猟した個体だったりなんてことは…流石にないよな?完全に否定出来ないのがスッゲー怖いんですけど。

 

…いや、止そう。俺の勝手な想像で周囲を混乱させるのは得策じゃない。あと、この年で警察のお世話になんぞなりたくない。うん、俺は何も知らない。何も知らなかったんだ。そう言うことにしておこう。知らぬが仏、触らぬ神に祟りなし、だ。

 

 

 

 




第39話、サファリゾーン後編、何とか1カ月以内に更新出来ました。と言うワケで、主人公、ロケット団と初めて(まともに)邂逅する。そして被害に遭うガルーラ他、サファリゾーンのポケモンたち。ゲームコーナーで引き換えることが出来る景品的に、絶対こういうことやってると思うんですよね。ガラガラ殺したりもしてますし。今回の経験で、主人公の心境に何か変化があるのかどうかは、今はまだ分かりません。

次回ですが、いよいよセキチクジム戦かな?どんな感じにするかは…うん、これから考えよう。

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