成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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※本文一部修正(2020/8/30)


第40話:忍の馳走(1)

 

 

 

 

 

「チェックだ!サンドパン、"きりさく"ッ!」

「キュィィィッ!」

 

 

 セキチクシティジムのメインフィールド。他のジムとは一味違い、道場を模したような和風な内装で固められた、全てのセキチクジム挑戦者たちが行き着く最後の決戦の舞台。この舞台で勝利を手にした者だけが、ポケモントレーナーとしてまた一歩、次の段階へ進むことを許される。

 

その舞台で繰り広げられている手に汗握るジムリーダーとの戦いは、残すポケモンは互いにラスト1体。己の全てを掛けたまさしく死闘と呼べるであろう戦いは、終局を迎えようとしていた。

 

"どくどく"や"えんまく"を使った耐久型の戦法に散々手古摺らされたが、ここでついに決定的な隙を見せたマタドガスをサンドパン渾身の一撃が切り裂き、そのまま豪快に弾き飛ばす。

 

 

「ドガァー…ッ!?」

『ズシャアアァァァーーッ!!』

 

 

マタドガスは地面に叩き付けられた後、勢いよく数メートルに渡って地面を転がり、壁にブチ当たってようやく止まる。

 

勝負の切れ目、一瞬の静寂が場を包む。汗が一筋、頬を伝って地に落ちる。

 

 

「マタドガス、戦闘不能!」

 

 

フィールドに倒れ伏したまま微動だにしないマタドガスを確認した審判が、戦闘続行不能であることを宣告する。そして、それは同時にこの戦いの終わりを告げるものでもあった。今自分が持ちうる全てを出し切った戦いは、最高のフィナーレを迎えた。

 

自然にフッ…と肩の力が抜け、張り詰めていた心の糸が弛む。大きく一息吐き、審判の宣言が出るのとほぼ同時に、俺は天を仰いだ。

 

 

「勝者、トキワシティのマサヒデ!」

 

 

これまで積み上げてきたモノは、決して無駄ではなかったことの証明はなされた。俺の勝利を高らかに宣言した審判の声は、ここまでの努力、苦悩、挫折…この勝負のために費やした総てが結実した証でもある。

 

たかが1勝ではある。そして全力でもない。しかし、明確な格上相手にもぎ取った1勝は、何者にも変えがたい大きな価値があった。

 

固唾を飲んで勝負の行方を見守っていた観衆たちから上がる歓声は、見事に勝利を手にした挑戦者へのこれ以上ない賛辞。まさしく天にも昇るような夢心地だ。

 

確かな達成感と満足感に包まれ、歓声の雨を浴びる中で、勝利を声高に宣言するように、俺は力強く天へと両手を突き上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピピピピ!ピピピピ!ピピピピ!…』

「……………」

 

 

喧しく鳴り響く目覚まし時計のアラームが、俺の意識を夢心地の中から現実へと引き戻す。

 

少し混乱気味で霧が掛かった頭の中がクリアになるにつれて、全てが夢だったという事実がジワジワと込み上げて来る。それを完全に理解し切った時のこの虚しさと来たらもう…

 

しかし、どんなに輝かしいものであったとしても夢は所詮夢でしかない。いずれは現実と向き合い、戦わなければならない時が必ず来る。老若男女、富める者貧しき者、幸せの絶頂にある者も絶望の淵に立つ者も、何人たりとも迫りくる『明日』という現実から逃れることは叶わないのだ。

 

セキチクジムリーダーに勝負を挑み、見事勝利を掴み取る夢…それも、今日がセキチクジムバッジであるピンクバッジを掛けてジム戦に臨む日だからだろうか。

 

 

『ピピピピ!ピピp『ガシャッ!』』

 

「………起きますか」

 

 

夢に与えられた僅かばかりの幸福感と、その名残を徐々に打ち消す虚脱感を胸に、今日も新たな、そして運命の1日が始まる。

 

 

 

 

 

 

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~セキチクジム~

 

 

 

「来たな、マサヒデよ」

 

「…キョウさん」

 

 

 布団を抜け、顔を洗い、朝食を食べ、ポケモンたちのウォームアップと軽い調整、最後の確認を行った後、セキチクジムの門を潜る。その先に広がるのはここ1ヶ月ほぼ毎日見てきた風景だが、この日ばかりは流石に空気が違った。

 

約一月のセキチクジムでの生活を経て、今日いよいよジム戦に挑むことが決まった。セキチクシティに来た初日、思い返してみれば大分理不尽な敗北を喫したあの日の雪辱を果たす日がやって来たのだ。

 

時間がまだ早く、そもそも投宿先がセキチクジムの寮ということもあって、ジム戦の受け付けに乗り込んだのは俺以外にはまだ誰もいなかった。しかし、それを見越してか、屋内へと続く入口の前にはすでにキョウさんが静かに佇み待ち構えていた。

 

 

「ええ。ジムバッジ、貰い受けに来ましたよ」

 

「ファファファ…では、ジム戦の前に実力確認も兼ねて、わしの弟子たちと戦ってもら…おうかとも思ったが、お主に今更バッジ4つ相当の実力確認など必要あるまい。早速だが参ろうか。着いてくるといい」

 

 

そう言ってジムの中へと入っていったキョウさん。本来であればジムリーダーに挑む前には、ジムリーダーに挑める最低限の実力があるかどうかを確認するため、挑戦者は漏れ無くジムトレーナーと戦わされる。しかし、これまたほぼ毎日キョウさん相手に繰り広げた指導と特訓のおかげでか、キョウさんから『実力は問題ない』との判断がなされた。

 

結果、ジムトレーナー戦に関しては免除。俺は一足飛びにジムリーダー戦へ臨むことになった。

 

 

 

キョウさんの後に着いていくと、ジムに幾つかあるバトルフィールドの1つに案内される。夢で見た、そしてこれまでにも何度か足を踏み入れたことのあるセキチクジムのメインフィールドだ。

 

1カ月余りセキチクジムで世話になってきたワケだが、実はこうやってメインフィールドに立つのは初めてだったりする。キョウさんとの指導は専らサブフィールドでやってたし、来るにしても観客として観戦席に通されることがほとんどだったからな。

 

 

「待ってたわよ、マサヒデ!」

「頑張るでござるよ!」

 

 

ガラガラの観客席から声を掛けられる。そこにはアンズ以下、セキチク忍軍の皆さんが観客として勢揃いしていた。全員揃って俺よりも先にさっさと朝飯食ってどこに行くのかと思っていたが、今日は修練はお休みして、観戦しつつ応援してくれるらしい。

 

 

「あんたが父上に勝てるなんて思えないけど、まあ応援ぐらいはしてあげるわ!」

「弟弟子の晴れ舞台、応援するしかないでござるよ!」

 

 

アンズはファザコンなのかツンデレなのか、判断に困るような激励をくれた。俺も苦笑いを隠せない。まあ、十中八九ファザコン由来だろ。嬉しいことは嬉しいが、この忍者娘はほんに…

 

そんなファザコン忍者娘に対してこのござる少年…ええ子や、後でジュースを奢ってあげよう。と言うか、俺って彼らから見ると弟弟子って扱いなのね。そして実はござる少年とは同い年だったりする。指導を受けた期間が基準とは言え、同い年から弟扱いされるのは何かなぁ…

 

他の面々も、思い思いに応援の言葉を掛けてくれる。小学生の頃のスポーツクラブでの一コマを見ているようで、少し懐かしい気分になった。ほんのりやる気も出た。

 

 

 

「…準備のほどはよろしいかな、マサヒデ殿」

 

「あ、ええ…いえ、スイマセン。ちょっと待ってもらっても?」

 

 

セキチク忍軍の皆さんと戯れている間に、キョウさん側の準備も整ったらしい。キョウさんがフィールドの逆サイドに、そして審判を務めるダンゾウさんが中央に立っている。

 

いつもの癖で、釣られて「すぐ行きます」と言いかけたが、寸でのところで思い止まる。心は熱く、頭はcoolに…こういう大一番を前にした時こそ落ち着いていかないとな。

 

 

 

ふぅ…落ち着くついでに、もう一度この戦いに向けての考えを整理しよう。

 

今回のキョウさんとのジム戦、レギュレーションは事前に聞かされている。

 

・使用するポケモンは互いに4体。

・ポケモンの交代は挑戦者のみ可。

・ポケモン、持ち物の重複可。

・戦闘中のアイテムの使用禁止。

 

…以上。特に変なルールはなく、これまで戦ってきた他のジムリーダー戦と同じ。気になるところがあるとすれば、ジム戦では初めて4体使用してのバトルとなることぐらいか。長期戦になるかもしれないから、集中力を切らさないよう、適度に息を入れつついきたい。

 

対戦相手であるキョウさんに焦点を移すと、他のジムリーダーが高い攻撃力・突破性能で、正面から勝ちを奪いに行く正攻法なのに対して、キョウさんは状態異常やステータスのデバフを相手に与え、ジワリジワリと挑戦者を追い詰めていく耐久・持久型の戦い方を好む。他のジムリーダーとは戦闘スタイルが異なる点には注意が必要だ。今日まで散々味わってきたことなので、今更言うまでもないことではあるが。

 

元の世界では『受けループ』とも呼ばれていた、耐久型のポケモンを軸に据えたパーティ構築。キョウさんのポケモンたちは、戦術的にはこれに近い感じだと思う。無対策だとそれだけで簡単に詰んでしまうこともままある。それを踏まえ、今回は挑戦の1週間ほど前に休みも貰った上で、しっかりとした対策をさせてもらった。

 

その対策を施した上で選出した対キョウさん戦に挑むメンバーがこちら。

 

 

・ロコン ♀ Lv39

持ち物:キーのみ

特性:もらいび

ワザ:かえんほうしゃ しんぴのまもり

   あやしいひかり ???

 

・ドガース ♂ Lv40

持ち物:オボンのみ

特性:ふゆう

ワザ:ヘドロばくだん だいばくはつ

   10まんボルト くろいきり

 

・サナギラス ♂ Lv42

持ち物:シルクのスカーフ

特性:だっぴ

ワザ:いわなだれ かみつく

   すなあらし ???

 

・サンドパン ♂ Lv43

持ち物:ラムのみ

特性:すながくれ

ワザ:あなをほる どくづき

   つるぎのまい ???

 

 

…以上。ここに来て、ようやく扱いやすい技が一覧に並ぶようになってきた。良いことだ。実に良いことだ。

 

さて、簡単に選出したポケモンの説明を。ロコンは高火力の一致技"かえんほうしゃ"を習得。火力面での不安がなくなった。さらにレベルで覚えてくれた"しんぴのまもり"でキョウさんお得意の"どくどく・あやしいひかり"の状態異常セットを全カット。"あやしいひかり"で逆に向こうのペースを乱すことも出来る。初手"しんぴのまもり"を確実に決めるため、持ち物はキーのみを選択。

 

ドガースは"10まんボルト"をメインに、"くろいきり"でバフ・デバフのリセット役。技も"じばく"→"だいばくはつ"、"ヘドロこうげき"→"ヘドロばくだん"と変更したことで、最終形態にかなり近い技構成になった。耐久性を上げるために持ち物はオボンのみ。追い詰められたら例によっていつものアレ。

 

サナギラスは特性で状態異常をそこまで気にせず戦え、毒技の威力も4分の1にカット出来る。火力もあるので当然の選出。"すなあらし"でサンドパンへ繋ぐ動きもアリ。持ち物はノーマルタイプの技を強化するシルクのスカーフ。ノーマル技持ってないだろって?色々考えがあるのさ。

 

サンドパンは新たに"つるぎのまい"を覚えたことで、砂嵐下で相手の技を避けつつ火力強化が出来るようになった。実はキョウさんとの指導を続ける中で、ひっそりと"どくづき"も習得していたりする。キョウさんマジパネェっす。毒技半減で弱点も突ける、これまた当然の選出。状態異常全般をケアするため、奮発して現状では貴重なラムのみを用意した。

 

また、ドガース以外の3体が覚えている4つ目の技。これも特筆すべき点なのだが、今発表することは伏せておこうと思う。ピンポイント気味ではあるけど、対キョウさんにおける秘密兵器的な技でもあるからね。楽しみはその時まで取っておこう。

 

…使うことなく終わるなんてことはない…と思いたい。

 

そしてスピアーさん、エースなのに2試合ぶり3度目となるジムリーダー戦ベンチ外。攻撃技が相手に全くと言っていいほど刺さってないので仕方ない。お留守番頼んます。

 

 

 

 

何はともあれこれにて準備は万端。たぶん、これでいけるはずだ。

 

 

「お待たせしました、いつでもいけます」

 

 

一通りの最終確認が終わり、気持ちも整った。あまり待たせるわけにもいかないので、俺も急ぎ所定の位置に就く。

 

 

「これよりセキチクジムリーダー・キョウと、トキワシティのマサヒデによるジム戦を行う!使用するポケモンは互いに4体。持ち物あり、途中での交代は挑戦者にのみ認められる。挑戦者マサヒデ、準備はよろしいか?」

 

「勿論です。キョウさん相手に準備もせずこの場になんて立てませんよ」

 

 

ダンゾウさんからの確認に、目前に迫った開戦に向けて高まるボルテージを抑えながらそう告げる。

 

キョウさんはサカキさんのような破壊力は無いが、詰め将棋のように的確に先手を打ってこちらの手を潰してくる。俺なんかとは比較するまでもない経験豊富な実力者なのは言うまでもない。この1カ月、指導として何度となく戦ったが、その背中はまだ遠い。ジム戦ということで、今回使用するポケモンたちは指導の時当たった面子よりも格が落ちることは間違いないだろうけど、油断はするまい。慢心、ダメ、ゼッタイ。

 

 

「公な戦い故、真の意味で全力で相手をしてやることは叶わぬ。が、セキチクジムリーダーとして今許される限りの全力を以て、その挑戦を受けて立つ。全力で来い」

 

「はい!」

 

 

 

 

「では…いざ、勝負開始っ!」

 

「ロコン、いけ!」

「コォンッ!」

 

「ゆけぃ、ゴルバット!」

「ゴルバァーッ!」

 

 

ダンゾウさんの合図を皮切りに、お互いにボールをフィールドへと投げ入れた。俺はロコン、対するキョウさんはゴルバットを先発として選択。朝一番の激闘の幕開けだ。

 

 

「ヤドンではないか…ファファファ、では挨拶代わりだ。ゴルバット、"あやしいひかり"!」

「バァーット!」

 

 

先手を取ったのはキョウさんのゴルバット。高い素早さを武器に"あやしいひかり"で主導権を握りに来た。キョウさんとしては予定通りと言ったところだろうか。

 

 

「ロコン、"しんぴのまもり"!」

「コォン!」

 

 

それはこっちとしても想定通り。では、こちらも予定通りに始動するだけだ。"あやしいひかり"がロコンを包み込むよりも先に、白っぽいオーラがロコンの周囲を囲う。ゲームでは5ターン持続し、その間は状態異常に掛からなくなる。当然、"あやしいひかり"も"しんぴのまもり"が効力を発揮する限り無効だ。

 

 

「お返ししますよキョウさん!ロコン、"あやしいひかり"!」

「コォン!」

 

「…!ゴルバット、回避せよ!」

「ゴルバァッ!」

 

 

ロコンは回避する素振りも見せずに正面から"あやしいひかり"を受け止め、何事もなかったように"あやしいひかり"を撃ち返す。対してゴルバットはキョウさん指示の下、自慢のスピードで迫り来る複数の光の玉を振り切りにかかる。

 

しかし、ゴルバットの素早さを以てしても、その全てを振り切るのは難しい。徐々に周囲を囲まれ、狭まり、追い詰められていく。

 

 

「…止む無しか。なればゴルバット、"ヘドロばくだん"!」

「ゴルバァーット!」

 

 

ここでキョウさんは指示を逃げから攻撃に転じさせる。ゴルバットから高威力の毒技"ヘドロばくだん"が放たれる。

 

 

「コォン…ッ!」

 

 

"あやしいひかり"の操作に集中しているロコンはこれを避けられない。球状のヘドロの塊がロコンを襲い、炸裂する。受けたダメージは無視出来るほど小さくはない。

 

ダメージこそもらってしまったが、引き換えに"あやしいひかり"はゴルバットをきっちり捕捉。こんらん状態にすることに成功した。あとは、ここから如何に追い込んで有利な盤面を作り出せるか。腕の見せどころさ。

 

ゴルバットが動くかどうかは半々…でも、好機に違いはない。積極的に前に出るが上策。

 

 

「ロコン、距離詰めて"かえんほうしゃ"!」

「コォッ!」

 

 

混乱しているせいか、飛行も若干覚束無い様子のゴルバット。最大火力を避けられない距離からブチ込むべく、ロコンが突進する。

 

 

「ゴルバット、"かげぶんしん"!」

「ごる、ゴルバ~ッ!」

 

 

ロコンの突進に対し、キョウさんは一旦受けに回ることを選択。ゴルバットも混乱状態からもキッチリと指示に応え、"かげぶんしん"を決めてきた。格が落ちてもやはりジムリーダーのポケモンか。あの状態でこの展開速度、展開数、見事と言う他ない。

 

が、それでも!

 

 

「バレバレですよ!撃ち抜け、ロコンッ!」

「コォーンッ!」

 

 

多数分身が展開されたが、混乱しているせいか1体だけ妙な動きを見せる分身があった。迷うことなくその分身に向けて、ロコンは"かえんほうしゃ"を放つ。

 

分身何体かを巻き添えに、燃え盛る炎の光線に呑まれるゴルバット。

 

 

「ごるばぁ~」

 

 

やがて炎が霧散した後から、ゴルバットが再び姿を現す。一見何ともなさそうに見えるが、40近いレベルのロコンの"かえんほうしゃ"をまともに受けてノーダメージなんてことは…まあないだろう。それなりのダメージは与えられたはず。フラフラしながらも飛んでいる様子から見るに、混乱状態もまだ解けていないようだ。

 

混乱している時間は有限。多少運に左右されるところはあるが、あまり長くは期待出来ない。今のところの主導権はこちらにある。畳みかけろ、押すべし!

 

 

「続けて"かえんほうしゃ"!」

 

「"かげぶんしん"!」

 

 

俺は"かえんほうしゃ"連打を選択。対するキョウさんも再び"かげぶんしん"の指示。忍者らしい、キョウさんらしい選択だとは思うが、それはちと悠長過ぎやしませんか?

 

 

「ごるバッ!?」

 

 

ここで"あやしいひかり"が効果を発揮。ゴルバットが空中で突然バランスを崩し、安定性を失いそのまま地面に激突する。

 

 

「コォッ!」

『ゴォォッ!』

 

「ゴ、ゴル…!!」

 

 

その決定的な隙、逃す理由はない。再度"かえんほうしゃ"がゴルバットを襲う。一直線に伸びる灼熱の光線はゴルバットに態勢を立て直す暇を与えることなく、一瞬の内にその全てを呑み込んだ。

 

 

「ご~る~…」

 

 

そして、目も眩む劫火の灯りが消え去った後に残されたのは、その一撃を真正面からまともに食らい、地に堕ちたゴルバットだけだった。

 

 

「ゴルバット、戦闘不能!」

 

 

ダンゾウさんから戦闘不能のジャッジが下り、まずはゴルバット撃破。ミス無しで貰った攻撃も1発だけ。上々の滑り出しを切れた。

 

 

「"しんぴのまもり"…あまり見ない技だが、確か状態異常を無効化する効果を持っている技であったな」

 

「ええ、その通りです。一定の時間、あらゆる状態異常をカットします」

 

「以前、学会の出した論文に載っていたと思うが…実際に使う者は初めて見た。まさかそのような技を隠し持っておったとはな」

 

「対キョウさん用に覚えさせておいた秘密兵器ですから」

 

 

う~ん…この日のため、キョウさんはおろかアンズにさえ見せてこなかった技なんだが、やはり攻撃偏重気味な世界なだけに、補助技になると知名度が乏しかったり、使い手が限られている傾向は変わらんか。そもそも見つかっていないなんてこともまだまだあるのかもしれない。

 

まあ、この技は向こうでも対戦で使用することなんてまずない技ではあったが。そんな技でも、知識自体はしっかり持っている辺りは流石ジムリーダー。

 

 

「状態異常の無効化…わしにとっては相性最悪と言って良い技だな。実に厄介極まりない」

 

 

…でしょうねぇ。この技の自力習得が、俺がこの戦いにロコンを選出した大きな要因の1つでもある。ステータス変化で相手を翻弄し、毒・混乱状態の重ね掛けでジワジワ消耗させるスタイルのキョウさんにとって、この技は選択の自由を縛る重い枷となるはずだ。

 

 

「お主がどこから技の知識を得て来たのか…気になるところではあるが、今為すべきは勝利への道筋を如何に付けるかに尽きる。一手封じられたこの状況を打開する術…ファファファ、ジムリーダーとして、腕の見せ所よな」

 

 

そう言ってキョウさんは考える様子を見せる。次のポケモンをどうするか、そしてこの先どう試合を展開していくかを考えているのだろうか。俺は集中を切らすことなく、次の一手に備える。

 

というか、今のってもしかして俺やらかしちゃった感じだったりする?んなこたぁない…と思いたい。

 

因みに、こっちの世界でポケモン交代の際は、公式戦では長くても30秒、短ければ10秒程で次のポケモンをフィールドに出すようルールが定められていたりする。長考すると考え込んでいる間の状況の変化が著しく、過去に勝敗に直接的な影響を与えたこともままあったため、長考自体を禁止する方向になったらしい。そう言うワケで、長考はあまり誉められたものではないというのがこの世界におけるトレーナー大半の認識となっている。

 

 

「ここは貴様こそ相応しい!行けぃ、ベトベター!」

「べぇたぁ~」

 

 

一瞬の間にキョウさんの思考はまとまり、その回答となる2番手のポケモン・ベトベターがフィールドに繰り出される。

 

ベトベターは分類をヘドロポケモン。どく単タイプ。キョウさんとの指導の中でよく戦ったベトベトンはコイツの進化系になる。以前立ち入ったグレンタウンのポケモン屋敷にも生息していたが、俺は出会わなかったな。能力傾向は鈍足アタッカーと言った感じの種族値だったと記憶している。

 

さて、時間制限はあるが状態異常が無効化されるこの状況で出て来たベトベター。純粋にアタッカーの可能性はあるが…キョウさんだし、どちらかと言えば積んで来そうな感じがする。いや、確実に積んでくる。

 

財布と当面の生活費の犠牲は無駄にはならなくて済みそうだ。

 

 

 

「さあマサヒデ、勝負はまだまだここからぞ。どくポケモンの奥深さ、とくと馳走してしんぜよう。心行くまで味わって行けぃ!」

 

「…ええ、望むところですよ!毒を食らわば皿まで…です!」

 

 

 

 




何とかギリギリ2週間以内に更新出来たましたよひゃっふー。と言うワケでセキチクジムリーダー戦開戦です。まあ、使うポケモンは所持バッジ相当で格落ち&キョウさんの主力とは頻繁に模擬戦やってきたって設定なので、サクサク行く予定です。現状で考え得る出来る限りメタらせもしましたので()

当初はキョウさんじゃなくてアンズさんに相手してもらうことも考えてたのですが、『ジムリーダーとしてそれはどうだろうか?』と思い直しましたので、キョウさんに普通に戦ってもらいます。次で終わらせられればいいな。

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