「行くぜサンドパン、全力出し尽くせ!突撃だ!」
「キュィッ!」
アーボック戦での消耗が大きく、毒も貰ってしまったサンドパンに長期戦は厳しい。であるならば、バトル再開の合図と同時に攻勢に出て、マタドガスを出来る限り削ってもらう。
サンドパンは身体を丸め、転がりながら前進する。以前に"ころがる"をまだ覚えていた時に移動に使っていたが、それとあまり変わらない。
「マタドガス、"えんまく"だ」
「ドッガァ~」
対するキョウさんとマタドガス。自らの前方に煙を吐き出し、墨のような澱んだ重厚な黒煙が一帯を覆い尽くす。瞬く間に俺とサンドパンの視界は塞がれ、マタドガスの姿が視認出来なくなる。
「…サンドパン、ストップ!"つるぎのまい"ッ!」
「キュ、キュィッ!」
それを見て俺は方針を変更。攻撃を止め、"つるぎのまい"を積むことで攻撃能力を強化。一撃での大ダメージを狙う。
あわよくば、マタドガスが出て来てくれたら…という誘いの罠としての狙いもあるが…
「………」
しかし、キョウさんとマタドガスに動く気配はない。
「ならもう1回だ、サンドパン!」
「キュッ!」
それを見てさらに"つるぎのまい"を積んでいく。これで攻撃力は4段階積んだことになり、通常時の3倍となる。当たれば一撃ノックダウンも見えてくるダメージになる。が、それでもやはりキョウさんとマタドガスが動く気配は見えない。
案外、向こうから仕掛けてくる気はないのかもしれない。歴戦のジムリーダー、時間は向こうに有利に働くことを分かっているんだろう。その考えを裏付けるように、一向に煙幕が晴れる気配も見えなかった。持続的に煙幕を展開し続けていることの証拠だ。
この体力で、控えと交代してサンドパンをあえて残しておく大きなメリットはなさそう。普通に瀕死からのバトンタッチで良いと思うが、何もしないで撃墜スコアを献上する理由もない。ただ、サンドパンにタイムリミットが存在する以上、こっちから動いて状況を打破する必要がある。
くっそ、こうなってくると遠距離範囲攻撃出来る技が欲しくなってくる。"のしかかり"の技マシンを1つ"いわなだれ"の技マシンにでも変更しておくべきだったか。
「サンドパン、煙幕に突っ込め!」
「キュィッ!」
構成を近接技オンリーにしたことが悔やまれるが、サンドパンの状態として時間を掛けられない以上、煙幕内でマタドガスを見つけ出す。眼前に広がる黒煙に一瞬迷うが、足を止めている余裕はない。
あまりやりたくはないが、それでももうやるしかない。
「待っておったぞ。マタドガス、"かえんほうしゃ"だ!」
「ドッガァ~」
「キュゥ…ッ!?」
一直線に煙幕内に突っ込んでいったサンドパンに、あらぬ方向からの灼熱の光線。横っ面を殴り付ける一撃に、サンドパンがよろめく。
「右だ!行けッ!」
「キュ…ィッ!」
それでも流石はうちのナンバー2。まだサンドパンは倒れない。
そして、重く垂れ込めていた煙幕が、攻撃の余波で掻き消え途切れた一帯。その隙間のような僅かな空間に、浮かぶマタドガスの姿を一瞬ではあるが捉えた。
しかし、間を置かずにその空間は再び煙幕によって閉ざされ、マタドガスも煙の中に消え見えなくなってしまう。が、形振り構ってはいられない。その断片的な記憶を頼りにサンドパンをマタドガスがいた方向へと突っ込ませる。
「見つけ次第"のしかかり"を…!」
相手の姿は見えず、宙を漂う相手を攻撃するのに適切な技も持たない。後から思い返せば、それしかない指示であったとは思うものの、同時に半ば自棄っぱちのような指示でもあった。時間が敵になる意味の大きさを痛感した。
「ファファファ…マタドガス、今一度"かえんほうしゃ"だ」
「ドッガァ~!」
「ギュ…ッ」
が、そんな隙しかないような行動を見逃してくれる相手ではない。"かえんほうしゃ"が再度、今度は正面から煙幕を引き裂いてサンドパンを捉える。
一瞬持ちこたえた…かと思ったのも束の間、サンドパンはその圧に耐え切れず吹き飛ばされ、俺の近くまで叩き返されてしまった。
「キュ~…」
「サンドパン、戦闘不能ッ!」
2度の"かえんほうしゃ"でこんがり焼き鼠にされたサンドパン。そのまま起き上がることは出来ず、戦闘不能の宣告が下された。
どくタイプに有利ではあるはずだったのに、相手と技の選択がどうにも噛み合わず、思ったよりも戦えなかった感じだ。トレーナーとしてまだまだ未熟ってことだな。己の不明を恥じるばかりだ。
せめて"きりさく"を残していればまだ小回りが効いただろうに。あるいは、"つるぎのまい"を積んだ所で止まらず攻撃技を選択していれば、せめて一撃ぐらいは入れられていたかもしれない。
と言うか、キョウさんにはこっちの手持ちの技構成、ほぼほぼバレてるんだよな……あれ?これもしかして、微妙に俺メタられてね?
いや、反省は全てが終わってから。疑惑は所詮疑惑。とりあえず、サンドパンお疲れ様。そして十全に活躍させてやれずすまない。ゆっくり休んでてくれ。
…さて、これで俺の手持ちは残すところ2体。どっちから投入するべきか…安全策を採るならほぼ一択だな。
「行けッ、ドガース!」
「どがぁ~」
というワケで、うちの鉄砲玉…基、紫色のニクいあんちくしょう、ドガースを3番手としてフィールドへ。最大火力の自爆技"だいばくはつ"を活かすことも考えると、3番手が一番コイツを活かすことが出来ると思う。
それと、ラスト1体がドガースよりかはサナギラスである方が強キャラっぽくない?そう、男は誰だっていつだって、ヒーローでありたいものさ。他の人のことは知らないけど、きっとそう。
まあ、相変わらず感情のよく読めないニヤケ顔だが、頼んだぜドガース。
「バトル再開ッ!」
「ドガースか。進化後のマタドガスを相手にどこまでやれるかな?マタドガス、"かえんほうしゃ"よ!」
「やってやりますよ!撃ち返せ、"10まんボルト"ォッ!」
先手を取ったキョウさんのマタドガスが燃え盛る熱線を吐き出せば、こっちのドガースは高圧の電撃で対抗する。
炎と電気、人がまともに食らえば只では済まない威力を持つ2つの属性の光線がぶつかり、拮抗し、そして暴発。帯電した爆風がフィールドを駆ける。
かのスーパーマサラ人は相棒のソレを幾度となくくらってもギャグ時空のようなダメージだけで平然としていたが、もしも貧弱一般人な俺がくらえば、最低でも軽く三途の川を中洲ぐらいまでは渡るハメになるだろう。既に鬼籍に入っていた祖父母が、対岸で俺を手招きしている姿も見えるかも。
タイプ一致でもなければ、特別素の火力が高いワケでもないドガース・マタドガスの攻撃であっても、確信を持ってそう言えるぐらいの威力は十分にある。痛いのは勘弁。
「"えんまく"ッ!」
「"くろいきり"ッ!」
そんな状況でも意識は勝負に集中。隠しを狙ったキョウさんの動きに、即座に"くろいきり"で対抗。煙幕が広がり始めた所に真っ黒な霧が被さり、下へ、下へと沈んでいく。
そして程なく、完全には晴れていないものの、足元に垂れこめているだけで戦闘への影響はほぼ皆無な景色が出来上がった。テレビとか、演劇なんかで見る舞台演出がされたような光景だ。
「時間稼ぎにもならぬか。であれば、押し通すのみ!マタドガス!"かえんほうしゃ"!」
「ドッガァ~!」
「応戦しろ!"10まんボルト"!」
「どっが~」
そこから先は、煙幕がフィールドすれすれを漂う中で、火炎と電撃、時々ヘドロの塊が飛び交い、交差し、弾け、幾度となく爆発を引き起こす。互いに空中を漂いながら、遠距離から前のめりでの殴り合いとなった。
攻撃に次ぐ攻撃の応酬は、
ただ、この光景を目で追うことは中々にキツイ。光の奔流で目がチカチカしてきそうだ。
「ど…がぁ…!」
「ドガァ…ァッ!」
撃ち合いは爆発と直撃、互いに撃っては撃たれの一進一退。しかし、時間の経過とともに、徐々にドガースが押し込まれ出す。
「ドガース、"くろいきり"!」
「どっがぁ~」
押され出した炎と雷の魔法大戦。このままでは押し切られるのはほぼ確実な状況で、わざわざ付き合い続ける理由はない。
一旦手を変え、"くろいきり"で状況の仕切り直しを画策する。
「今の内に前に…!」
「甘い、甘いわ!その程度で見えぬとでも思うたか!マタドガス、"シャドーボール"!」
「ドッガァ!」
霧のカーテンを利用しての仕切り直しと、距離の短縮を考えていたところで、その考えを無意味と切り捨てる、追撃の"シャドーボール"がドガースを襲う。
この一発は辛うじて躱したが、多少の視界阻害効果は見込めるものの、"くろいきり"自体が元々煙幕のように命中率を下げるような効果を持っている技ではないし、気休め程度か。
「ど、がぁ…!」
「…!」
そんな間に、釣瓶打ちで撃ち込まれていた"シャドーボール"の一発に、紙一重で躱し続けていたドガースが遂に捉えられた。
「ど~が~」
まともに直撃をもらって弾き飛ばされたドガース。だが、一応はまだピンピンしているので戦闘継続は十分可能。むしろダメージと引き換えにマタドガスとの距離を稼ぐことが出来た。
僅かながらも時間的な余裕が生まれたドガースが、すかさず持たせていたオボンのみを丸呑みに。お前それ大丈夫なのか?と最初見た時は思ったが、これでもちゃんと効果を得られていることは事前に確認済みである。
「…体力回復の木の実か。少し骨が折れそうだな」
「ただでやられるワケにもいきませんので。と言うか、キョウさんこそ何ですかその技…」
"シャドーボール"は第2世代から登場の、エンジュシティのジムリーダーに勝ったら貰えるゴーストタイプの特殊攻撃技。威力も高めで覚えるポケモンもまずまず多い。
技マシンを入手出来れば色々使い道が多そうな技ではあるが、どこで手に入れたんだ?ジョウトの技マシンですよね?あのタマムシデパートでも他の地方の技マシンなんて売ってなかったのに…カントーの技マシンは全部売っていたけど。
「ファファファ…この"シャドーボール"は、サファリゾーンの園長から『ジョウト地方を旅した時の土産だ』と貰った技マシンで覚えさせた技だ。威力良し、使い勝手良しの中々に良き技よ。ゴーストタイプの技故、生半可なエスパータイプは軽く返り討ちに出来る」
なるほどなるほど、サファリゾーンの園長か…ゲームでは入れ歯をサファリゾーンの奥地に落としてた人だな。入れ歯のことと言い、ロクなことをしやがらない。第2世代じゃ何時の間にか閉園させてるし。閉園していると知って、子供心にかなりガックリきた覚えがある。
しかし、"ヘドロばくだん・かえんほうしゃ・シャドーボール・えんまく"…攻撃的なマタドガスっすね、キョウさん。生半可なはがね・エスパータイプは返り討ちというキョウさんの強い意思を感じる…ような気がする。
「…さて、どうしたもんかな…?」
サナギラスが等倍を取られる技を持っていることが分かったのは大きいが、今はこの状況をどうするか。霧はすでに霧散しかけてしまっているが、キョウさんも距離が開いたこと、体力も回復したことを警戒してか、手拍子での追撃は控えた模様。何とか一息吐けたってとこだ。
ただ、一息吐けたところで効果的な打開策が浮かばないのも事実。進化系と進化前の戦い、それも同じ戦法でやりあったのでは、多少のレベル差よりも種族値の差の方がデカい。努力値も別にキッチリ振ってるワケでもないし、技構成的にも、1発限りのいつものアレを除いてドガースに現状を上回る火力は望むべくもなし。
それにその最大火力にしても、ここまでの試合運びから見てキョウさんがかなり警戒しているように感じる。まあ、これまでも散々あの手この手で爆発してきたヤツだし、仕方ないか。とは言え、苦しいな。
「…やるしかないか?」
「…どっがぁ~」
俺の手持ちにおけるドガースの最低限の役割は、少しでも相手を削って後続を動きやすくすること。今回はサナギラスだが、ドガースがバトルのトリを務めるということはほぼない。あくまで後続へのつなぎの役目を俺はドガースに与えている。そういう意味では、最後にいつものアレをブチかますのは半ばお約束でもある。それが一番の勝利への近道でもある場合が多いから。
覚悟さえ出来れば、後はただでさえ鈍足気味なドガース。体力があるうちに、成し遂げるべきではある。が、毎回毎回爆発させていて、ドガースに申し訳ないという思いもあることはある。
あと、あまり考えたことはないが、瀕死になるとポケモンはなつき度が下がってしまうという仕様のこともある。ゲームじゃ大して気にするようなことはなかったけど、アニポケにはリザードンとかいうエースにして問題児もいた。こっちじゃどうだろうな?
…よくよく考えてみたら、うちのサナギラスってアニメのリザードンのポジションにかなり近いと言うか、リザードンポジションそのものだよなぁ…気には留めておくか。
「ど~がぁ~」
まあ、
あと、サナギラスが倒すよりも先に、マタドガスに命中率を散々に下げられた上で嵌め倒される、ってのも可能性としてはあり得るか?それを考えると、ドガースはクッションとしてまだ残す価値はある。
うん、交代すると言うのも1つの手だよな。押してダメなら引いてみろ、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応せよ、だ。
…敗北フラグじゃないよ?負けてたまるもんかい。
「すまんドガース、
「どがどっが~」
まあ、それでも俺の場合は結局爆発してもらうんだけどネ。ドガースの大事なお仕事にしてアイデンティティみたいなもんだし、結局それが勝利への安定択でもあると思うし、考えなくてもいいから。脳筋思考万歳。爆発はパワーだ、弱いはずがない。ボンバァァァァッ!
もうちょっと言うなら、交代したところでその分サナギラスに掛かる負担がリスクだ。ダメージはそこまで気にならないとは思うが、特性があるとはいえ、もしも状態異常になったら…それが火傷だったりした日には目も当てられん。そんなリスク背負うぐらいなら、最初からサナギラスを完全な状態で投入出来て、確定1~2発圏内まで無理矢理でも削る方が早いし安全だ。
「ま、そのためにもまずは前に出ないとな!ドガース、突っ込め!」
「どっが~」
それを成し遂げるためには攻撃を掻い潜って近付く必要がある。その距離、目測で20m…ぐらい。たぶん。
こうして指示を受けたドガースが、キョウさんのマタドガスへと向かって動き出す。
「それはさせん!マタドガス、接近させるなッ!」
キョウさんも気付いて、マタドガスは"かえんほうしゃ・シャドーボール"を乱射。接近させまいと弾幕を形成。
「構うなッ!突貫ッ!」
「どっがぁ~」
しかし、やると覚悟を決めた俺とドガースには、どんな弾幕であろうと最早関係ない。躱し、すり抜け、多少の被弾は物ともせず進んでいく。
そして、彼我の距離を半分程度縮めたところで、ドガースは光を放ち始め、今度こそ本当に爆発に向けての溜めに入る。それをさせまいとさらに激しくなるマタドガスの攻撃。それを物ともせずドガースは見る見るうちにその輝きを増していき、あっという間に爆発も秒読みの段階に。
爆発が先か、撃ち抜かれるのが先か…後はドガースを信じ、天に任せるのみ。歯を食いしばり、目を瞑り、その後に来るであろう轟音と爆風に備えた。
「どッがぁ~」
『カッ!』
「ぬぅ…!」
『ドッゴォォォーーン‼‼』
そして、至近距離とまでは言えないが、それでもかなり彼我の距離を縮めたところで、溜まったエネルギーは大火力の暴風となって放出された。目を瞑っていても分かる眩い閃光の後、猛烈な爆風を巻き起こしてドガースが爆ぜる。これまでの"じばく"から"だいばくはつ"へと変わったことで高火力になったせいか、撒き散らす爆音もド派手だ。これにはさしものマタドガスと言えど、大ダメージは必至。あわよくば瀕死まで…
「ど~…が~…」
「ドガァ…!」
白煙が抜けた後に残ったのは、溜め込んだエネルギー全てを爆発させ、煤だらけになって地に落ちているドガース。対するマタドガスは、苦痛に顔を歪め全身傷だらけになりながら、それでも宙に浮いていた。
「ドガース、戦闘不能ッ!」
「お疲れさん。戻れ、ドガース」
戦闘不能のジャッジが下ったことを確認し、ドガースを戻す。瀕死までは追い込めなかったが、あの様子から見てかなりのダメージを与えることが出来たはず。
何はともあれ良い仕事だったぜ、ドガース。
さあ、これで残すは互いに1体。勝利まであと一歩。ゲームならジム戦でラスト1体の時のBGMが掛かってる展開だな。確か第5世代での演出だったか。あれは初代からプレイしてきた古参プレイヤーとしては、熱く燃え上がると同時に懐かしさと感動を覚える、とても良いものだった。
ただしピンチ時のアラート、貴様は許さん。絶対にだ(本日2回目)。
「仕上げは頼んだ、サナギラスッ!」
「……ギィッ…!」
満を持して4体目、サナギラスをフィールドに送り出す。ここまで対策が途中から裏目に出てズルズルと苦戦してしまい、押されているように感じてしまうけど、こっちの優位は変わらん。
さあ、決着着けるとしましょう、キョウさん!
キョウ戦のパート3でした。前回の後書きでクライマックスと言ったな?あれは嘘だ()
…いや、そのつもりで書いてたんですけど、何故か余裕で10000字越えちゃって、試合後のことまで書こうとしたらそれでもまだ書き足りなかったので、急遽さらに分割することに…とりあえず、戦闘はもう当分書きたくないです、ハイ…己の文才の無さを思い知らされるばかりです。
そんな作者の愚痴と言い訳はさておき、エキスパンションパスの第2弾・冠の雪原、10月23日配信が決まりましたね。過去作のポケモンの解禁、新しいポケモン、新たなマップ…こればかりは幾つになってもワクワクが止まりません。楽しみです。
配信までにはキョウ戦を片付けてしまいたいので、もうひと頑張りします。配信開始後?………まあ、察して()