成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第43話:忍の馳走(4)

 

 

 

 

 

「…スピアーが来るか、とも思っておったが…やはりサナギラスを〆に持って来たか」

 

 

 セキチクジムでの戦いも、いよいよ佳境に突入。満を持して、4体目のサナギラスをフィールドへ。今の俺の手持ちだと、別格のスピアーとサンドパンを除けば最も古参のポケモンになる。3カ月とちょっとしか一緒ではなかったのに、ずいぶんと長い付き合いのような気がしてくる。

 

目に付く者全てを手当り次第威嚇するような凶暴性も、蛹故か進化してからは影を潜め気味。一方で他者の介入を拒むような刺々しさと、敵全てを圧倒し打ち破らんとする荒々しさは、進化前ヨーギラスの頃から相変わらず。ただ、バトルでは以前のように俺の指示を無視するようなことはほとんどなくなったし、その攻撃性がバトルになると良い方向に働くことも多い。

 

…まあ、結構な割合でやり過ぎるのが一番の問題なんだが。戦闘不能な相手に襲い掛かるのはやめろって何度制止すればいいのか。死体蹴りはマナー違反です。ちなみに、最近の被害者筆頭はアンズ&モルフォンさんである。本当に申し訳ない。

 

ただ、今回はキョウさんが相手だし、そのぐらいの姿勢・意気込みで丁度いいかもな。実際にやり過ぎると困るけど、今回は大いに期待させてもらう。セキチクシティに到着したその日…忘れもしない理不尽な仕打ちを受けた日から1カ月ほど。その雪辱、今こそ果たす時だ!

 

 

「相手に不足無し!行くぞ、マタドガス、"えんまく"!」

「ドッガァ~」

 

「させるかッ!サナギラス、"いわなだれ"ッ!」

「ギィッ!」

 

 

マタドガスはやはりというか、初手"えんまく"。サンドパンの時同様、こちらの目を潰して優位に戦いを進める胎だろう。それに対応するべく、サナギラスには"いわなだれ"を指示。サンドパンは技構成の関係で何も出来ず一方的にやられてしまったが、サナギラスは違う。煙幕の範囲全体を無理矢理潰しに掛かる。

 

マタドガスを押し潰し炙り出すべく、大小様々な岩石の激流が煙幕の向こうに降り注ぐ。マタドガスが張った煙幕を脇へ脇へと追いやり、代わりに砂煙が舞い上がる。

 

 

「続けて"すなあらし"ッ!」

「………ギィッ…!」

 

「ぬぅッ…!」

 

 

この状況ではさしものマタドガスもすぐには動けないだろうと、視界が潰れている間に続けて"すなあらし"を指示。程なく何処からか風が吹き始め、砂塵が飛来し、10秒と経たずにでフィールドを覆い尽くす砂嵐と化す。

 

これでサナギラスは特殊耐久が上昇、マタドガスには時間経過でのスリップダメージを贈呈。まさに一石二鳥。

 

そして、これでサンドパンの時とは真逆の状況に持ち込めた。サンドパンの時には俺を縛り苦しめた時間が、今度はキョウさんとマタドガスに牙を剥く。消耗著しくスリップダメージもあるマタドガスでは、勝ちを狙うなら動くしかないはず。

 

仮に動かなかったとすれば、スリップダメージによるタイムアップで終戦、あるいは捕捉された時点で"いわなだれ"に飲み込まれてゲームセットだ。

 

 

「構えろ、サナギラス!」

「ギィッ……」

 

 

砂塵が吹き荒れる中で、マタドガスの襲来を待ち構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし10秒、20秒と経ってもマタドガスの姿は見えない。仕掛けてくる様子もない。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

戦闘音は完全に止み、吹き抜ける砂嵐が奏でる風の音だけがフィールドに響く。これまでの激闘は何だったのか、と言いたくなるぐらいに動きがない。

 

流石にあの状態でこの砂嵐の中を耐え続けるのは難しい。絶対にどこかで仕掛けなければ、時間切れは避けられないはずなんだが…

 

 

「…サナギラス、煙幕に向かって"いわなだれ"だ」

「…ギィッ」

 

 

どちらにせよ、煙幕内のどこか、もしくはその向こうに潜んでいるであろうことは明白。ならば軽く炙って様子を見ようと、煙幕内に向かって適当に"いわなだれ"を撃ち込んでみる。岩石の滝がガラガラと音を立て、煙幕の向こうへと流れ落ちる。

 

その時だ。

 

 

「ドガァーッ!」

 

「ギッ…ィッ!?」

「逆から!?サナギラスッ!」

 

 

視界の端、"いわなだれ"の衝撃で横へと追いやられていた煙幕の中からマタドガスが出現。サナギラスに"シャドーボール"を叩き込んできた。音もなく移動して、機を窺っていたのか。

 

 

「ファファファ…勝負に焦りは禁物。追い込まれた時こそ沈着冷静であるべし…よ。マタドガス、もう一度"シャドーボール"!」

「ドガァ~ッ!」

 

 

意識を向けていた範囲の大外から、加えて攻撃直後で視野が狭くなった状態での強襲。完全にとまではいかないが、不意を突かれて後手に回った格好だ。

 

マタドガスは"シャドーボール"を撃ち込みながら、サナギラスにじわりじわりと迫っている。"いわなだれ"で無理矢理押し返そうかと考えたが、一発撃ったばかりで少々のクールタイムが必要。ならば接近戦か?物理メインのサナギラスにとっては望むところ。"かみくだく・のしかかり"と接近戦でも十分戦えるだけの技もある。

 

 

「マタドガス、下がれぃっ!"えんまく"だっ!」

「ドッガ~」

 

 

なんて、反撃方法を巡る僅かな逡巡の間に、マタドガスは再度"えんまく"を展張。煙の海へその姿を沈めてしまった。

 

惚れ惚れするようなヒット&アウェイ。僅かな判断の遅れ・ミスが勝敗を分けることを頭で理解はしているが、中々上手くはいかないもんだな。それに、どちらを選んでいたにしろ、前者はクールタイムとのラグ、後者は接近するよりも先に逃げられ、マタドガスを捕捉するまではいかなかったと思う。

 

 

「ち…サナギラス、大丈夫か?」

「……ギィ」

 

 

幸いダメージは貰ってしまったが、サナギラスはまだまだ健在。判断ミスではあるが、致命的なものではない。心を強く保ち、マタドガスがいつどこから現れてもいいようにフィールドの半分以上を覆う煙幕を注視、僅かな物音も聞き逃すまいと神経を研ぎ澄まし、その場で次の反撃の機会を窺う。

 

再び戦闘音の一切が一時消えたフィールド。聞こえるのは俺自身とサナギラスの息遣い。あとは吹き荒ぶ砂嵐が、どこか寂しげに鳴いている。

 

 

「さぁ…て、どう来る…」

 

 

こうしている間にも、マタドガスの体力は砂嵐でゴリゴリ削れている。ここまでのダメージの積み重ねを考慮すれば、かなり限界が近いはず。キョウさんはどこかで仕掛けるしか勝ち筋はないことに変化はない。

 

それでもキョウさんが相手だとさっきみたいなことが平然とあるのが怖いところ。サンドパンのことを思い出せば、迂闊に接近戦を挑むのもキョウさんの思う壺。不用意な攻撃は厳禁だ。

 

開戦の主導権はキョウさんに握られているが、体力的にはこっちが優位なんだから、被弾を承知で攻撃…それが現時点での最善のはずだ。それか、消極的だが砂嵐のスリップダメージに残りを任せるのも手ではある。

 

どちらにせよ、詰めを誤りさえしなければ勝てるところまでは来ている。

 

 

「…焦るな、焦るなよ、サナギラス」

「………ギィ」

 

 

サナギラスに逸る気持ちを抑えるように言い聞かせる。それは同時に、勝ちを焦っているのかもしれない自分自身に言い聞かせ、落ち着くためでもあった。

 

気性の荒いサナギラスも、肝心の相手が見えないのでは怒りの矛先を向けようがない。素直に従ってくれている。これなら大丈夫だ。

 

 

「マタドガス!」

 

「…!サナギラスッ‼」

「ギィッ‼」

 

 

一時の静寂が破られるまで、そこまで時間は掛からなかった。

 

 

「"シャドーボール"!」

「ドォガァ~!」

 

 

煙の中からユラリと音もなくマタドガスが現れ、再び"シャドーボール"がサナギラスに向けて放たれる。しかし、今度はさっきよりも広範囲に警戒を向けていたため、マタドガスが姿を覗かせた瞬間を逃すことなく捕捉出来た。

 

 

「サナギラス、攻撃は無視しろッ!"いわなだれ"だッ!」

 

 

待ちに待った反撃のチャンス。この機会を逃す手はない。"シャドーボール"が迫っているのを認識しつつも、被弾覚悟で攻撃に出る。

 

 

「ギッ……ギィッ!」

 

 

先手を取ったマタドガスの攻撃は、きっちりサナギラスを捉える。直撃を受けてサナギラスが仰け反る…が、それ以上のダメージはなかった。

 

 

「マタドガス、下がれぃっ!"えんまく"だっ!」

「ドッガ~」

 

 

それを見たキョウさん、再び煙幕を重ねてマタドガスを後退させに掛かる。直後、マタドガスが煙の中に溶けて消えていく。このバトルで何回目かの光景。

 

しかし、煙幕に隠れたとは言え、マタドガスの素早さではそう離れられるはずはない。あの周囲にまだ留まっている。

 

 

「逃がすなサナギラスッ!全力で圧し潰せッ!」

「ギィッ…!」

 

 

そうと分かっていれば、ここは攻める場面。あと1発、あと1発当りさえすれば、勝利はもう目の前に、手を伸ばせば掴める位置にあるんだ。

 

行け、サナギラス!

 

 

「ギィィィーーーッ!」

 

 

激昂したサナギラスの全力の"いわなだれ"が広範囲に降り注ぎ、マタドガスが隠れるくすんだ灰色の海が岩石群と轟音と砂煙に塗り潰され、そして吹き飛ばされていく。

 

 

「……どうだ…やったか?」

 

「………」

 

 

攻撃が止み、砂嵐が吹き抜ける音と岩石流の余韻が空間を支配する。フィールド上では積み上げられた瓦礫の山と立ち込める砂煙、そして再度脇に追いやられた煙幕が、煙幕と同じかそれ以上ち視界を著しく阻害していた。

 

やったのか、そうではないのか、この状況では確認はおろか、判断も出来ない。

 

仮に倒し切れなかったとしたら、宙を音もなく浮遊するマタドガスが接近してきても、気付くのは難しい。絶好の反撃チャンスだ。どこまで役に立つかは分からずとも、五感を周囲の観察に集中しながら、固唾を飲んで状況の推移を見つめる。

 

チラッと砂煙の切れ目から捉えたキョウさんも、一言も発することなく、泰然とフィールドを睨み付けていた。

 

 

 

 

 

 

…やがて、少しずつ砂煙と煙幕が引き、フィールドの状況がどうなっているのかが露になる。

 

最初に姿を見せたのは、広範囲に渡って広がる瓦礫の山脈。砂嵐に吹かれ、自重に潰され、ガラガラと音を立てて崩落を起こしている。

 

時間の経過と共に加速度的に崩落は進み、10秒ちょっとで山脈は崩壊。崩れた瓦礫はフィールド上広範囲に散らばり、一帯を大岩がゴロゴロ転がる荒れた高山地帯のように変貌させた。

 

 

 

「ド~…ガァ~……」

 

 

 

その瓦礫の山の中から、崩落と共に姿を現し、瓦礫と一緒になって転がり落ちてきた紫色の物体。呻き声を上げるその物体は、紛れもなくキョウさんのマタドガス。最早宙に浮く体力すらなく、そんな状態で戦闘が続けられるはずもない。

 

 

「…マタドガス、戦闘不能ッ!よって勝者、トキワシティのマサヒデッ!」

 

 

フィールドに響く試合終了のジャッジ、耳に付く自分の乱れた呼吸、張り詰めた肩の力がフッ…と抜ける感覚…身体全ての電源が一斉に落ちてしまったかのような、そんな錯覚の中で、俺は静かに勝利を噛み締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「ファファファ…うむ、見事。実に見事な戦いであった、マサヒデ」

 

「…ありがとうございます」

 

 

 キョウさんが歩み寄って来る。序盤こそこちらのペースだったが、アーボック以降の目まぐるしく変わる戦況の判断、優位に試合を運ぶ相手への対応、苦しくても迫られる決断…その濃厚濃密な内容に、バトル中は何ともなかったが、身体と精神の疲弊は相当なもの。まだ朝早めの時間なのに、諸々の疲れが一気に押し寄せ、すでに1日の終わりのような疲労感だ。ズシンと肩と足腰に錘でも付いているのよう。半日ぐらいは戦っていたような気がしてくるが、記録の上では30分弱の時間でしかない。

 

同時に、キョウさんを相手にジム戦で勝てたことは、例え全力の相手でなかったとしても嬉しいこと。指導を受ける中で幾度も戦ったが、サカキさん同様まともに勝利を奪えた試しがなかったので、達成感も一入だ。ロコンも、サンドパンも、ドガースも、サナギラスも、本当によくやってくれた。

 

 

「分かってはおったが、良く育てられておる。やはりバッジ4個相当のポケモンでは、相手取るのも中々に厳しいものがあったわ」

 

「はは…ラスト1体まで追い込んでおいて、それはないと思うんですが…」

 

「我が秘伝の技"どくどく"を完全に封じておいて、どの口が言うか。まあ、覚えておったのはゴルバットとベトベターだけだが」

 

 

散々苦しめられたのに、平然とそんな事を言い放つキョウさんに思わずツッコミを入れると、それに対してキョウさんは苦笑するようにそう答えた。

 

 

「どちらにせよ、苦しい戦いであったことに変わりはない。ゴルバット・ベトベターは何も成せずに潰された。アーボックも…まあ、そこまで差はあるまい。まともにやりあえたのはマタドガスぐらいのものよ。それに、誰が何と言おうと、どんな勝ち方であろうと、勝ちは勝ちであるし、負けは負けである。最後に立っていた者が勝者よ。故に…お主にはこれを手にする権利がある。受け取れぃ」

 

「うわっ…と…」

 

 

そう言って、キョウさんは小さな物体を俺に投げて寄越した。突然のことに驚き、足が縺れて転びそうになるのを何とか堪えてその何かをキャッチする。

 

強く握った手を開いて見てみれば、寄越された物はきっちり俺の掌に収まっていた。それは全体的に桃色でハートのような形をした金属質の物体。それが、セキチクジムリーダーに勝利した者にのみ与えられる、セキチクジムを制覇したことを証明する何よりの証である"『ピンクバッジ』と理解するまでには、1秒と掛からなかった。

 

 

「セキチクジムリーダーとして、お主はそのバッジを持つに十分な実力と経験、そして知見を有すると判断する。よって、我がセキチクジムを制した証、ピンクバッジをマサヒデ…お主に授ける。遠慮せず受け取るといい」

 

「はい!」

 

「…そして、これも渡しておこう」

 

 

続けて、1つの技マシンも手渡しされる。

 

 

「『技マシン06』…中身は"どくどく"。我が家系に代々伝わる秘伝の技よ。このどくタイプの極意とも呼べる技、お主ならば自家薬籠中の物の如く扱えるはずだ」

 

 

渡された技マシンはゲームと同様に"どくどく"だった。この技マシンを使うことでほとんどのポケモンが習得可能とかいう、何気に反則気味な技。この"どくどく"に"まもる・みがわり・じこさいせい"etc…と言った技を組み合わせるのが、昔からの耐久型ポケモン御用達の戦法になる。

 

現状の俺の手持ちで上手く使えそうなのは、ドガース・ヤドン・クサイハナ…あと、一応サンドパンもかな?覚えさせる気にはならないけど。出来ればラッキーとかブラッキーとか、その辺りを仲間に出来ればその時に、が理想かな。

 

 

「タマムシデパート等でも売り出してはいる故、必要であればそちらで買うのも手だろう。流石に売り切れているようなことはあるまい。残念ではあるが、それもまた忍の道よ」

 

 

あー…記憶を辿ってみれば、確かに売っていたような…"のしかかり"のこととキョウさん相手にすることしか考えてなくて当然スルーしたけど、結構山積みだった気はするなぁ。

 

使える技ではあるんだけど、端から見てると地味な戦いになるし、時間掛かるし、人気…ないんだろうなぁ。と言うか、秘伝の技なのに売ってるんスね。商魂逞しいとでも言えばいいのか?

 

 

「父上!父上ーッ!」

 

「む…アンズか」

 

 

そこへ大人しく観戦していたアンズさん登場。後ろにはセキチク忍軍の皆さんもお揃いだ。試合終了後、すぐにフィールドに降りて来たのだろう。

 

 

「ふむ…ここだと整備の妨げになる。場所を変えるとしよう。マサヒデ、行くぞ」

 

「はい」

 

 

つい先ほどまで激戦を繰り広げていたフィールドでは、次の試合に向けた整備がすでに始まり出していた。ジムの職員やジムトレーナーの人達と、多くのポケモン達が荒れたフィールドを均し、瓦礫の山を撤去する動きに掛かっている。その邪魔になってはいけない。

 

騒がしい観客達とも合流し、俺はキョウさんに連れられてフィールドを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……では、わしはこれでジムに戻る。今日も一日、よく励むように」

 

『ハイッ‼‼』

 

「うむ…全て終わり次第、今日はマサヒデの祝いをするとしよう。良ければ皆来ると良い。では、また後程会おう」

 

 

 その後、ジムを出てすぐの広場にてセキチク忍軍の皆さんと合流。まだジムリーダーとしての業務があるキョウさんは幾らか言葉を交わした後に早々に仕事へと戻って行った。一方の俺は、セキチク忍軍の皆さんに囲まれ、あれこれと手荒い祝福を受けることになった。

 

 

「やったでござるな、マサヒデどの!」

「まさか本当にジムリーダーに勝つなんて!」

「さすがはアンズさんに勝てるだけのことはありますね!」

「今日はみんなでお祝いですよ!」

 

「痛っ!?おい、やめ、やめろお前らぁ!」

 

 

…こんな具合に。ござる少年以下、多くのメンバーから勝利の祝福と同時に四方八方からバシバシ叩かれまくり、揉みくちゃにされた。見事な体育会系のノリそのものである。

 

 

 

「うー………」

 

 

そして一通り祝福という名の下に軽く痛めつけられたところで、騒ぐでもその輪に加わるでもなく、ただ1人少し離れた場所にいるアンズの存在に気が付いた。あからさまに「あたい、不機嫌です」と言わんばかりに、ムスッとした表情でこっちを睨み付けている。さっきまではキョウさんに引っ付いて騒いでいた気がするんだが…

 

 

「…で、お宅らのボスはなして急に機嫌悪くなったの?」

 

「ジムリーダーが負けて不貞腐れてるだけでござる」

 

「ああ、そう…」

 

 

…うん、何となく察しはついてた。こっちに飛ばされる前も含め、中々見ることのない…いや、俺史上でも屈指のファザコンな彼女の事。バトルの前から公然とキョウさん応援してたし、更に言うならこれまでポケモンバトルで彼女をコテンパンにしたことは、もう両手では数えきれないほど。恨みがましい目を向けられることも日常茶飯事。

 

まあ、こうなるのも仕方ないと言うか、納得は出来る。その敵意を向けられる側としては理不尽以外の何者でもないが。

 

 

「あんなでも本当は一緒に喜びたいと思っているのでござる。本当、アンズどのは素直じゃないでござる」

 

「そこッ!うるさいッ!」

 

「おぉっと、これはウカツ。触らぬ神に祟りなし、でござる」

 

 

ござる少年の暴露を素早く黙らせに掛かるアンズ嬢。その恫喝にビビった?ござる少年が、素早く他の仲間の背後に隠れる。

 

 

「ううぅぅーーッ……まあ、いいわ。それよりマサヒデ」

 

「…何でしょーか、アンズさん」

 

 

ござる少年は引っ込んだ。が、それで彼女の不機嫌が治るはずもなく、その矛先はくるっと回って俺の喉元に向けられた。

 

こちらに近付いてくるアンズからは正直嫌な予感しかしないが、かと言って逃げる気にもなれず。そもそも、純粋な身体能力は向こうが上だしこっちは疲れてるしで逃げられないってのもあるが、その視線と言葉を正面から迎え撃つべく待ち構える。

 

 

「本気じゃないとは言え父上に勝つなんて、流石はあたいの宿敵ね。褒めてあげるわ」

 

「…そりゃどーも。お褒めに与り恐悦至極でございますよ」

 

「…ま、みんなの言う通り、今日はお祝いするんだって。父上からも母上に準備するように伝えておけって言われたし。みんな、行くわよ」

 

「はーい」

「お祝いの御馳走なんだろな~♪」

 

 

…何ロクでもないことを言われるかと身構えていたんだが、さらっと宿敵(ライバル)宣言を貰いはしたものの、それ以上特に何か言われることは無く、アンズは踵を返して歩き出した。他の面々もそれに着いて一斉に歩き出す。

 

いつもならここから突っかかって来るのが彼女なんだが…読みが外れた。待ち惚けをくらった気分だ。

 

 

「何と言うか、アンズどのらしくないでござる。ま、何にせよ楽しみにござるな、マサヒデどの」

 

「…そうだな」

 

 

アンズらしくない。ござる少年のその言葉に、同意とどこか煮え切らない感覚を覚えながら、かと言って激闘を乗り越えたばかりの自分にはそれを指摘する気になれず、俺もまたその後に続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、ジムの広間で催された祝勝会は、セキチクの海で採れた海鮮尽くしの鍋パーティーだった。めちゃくちゃ美味かった。

 

 

 

 

 




お待たせしました。グダった気しかしませんが、キョウ戦これにて無事終了です。祝勝会の鍋の具材…何だったんでしょうねぇ?この作品では深くは考えない方向で行きます。
そして、エキスパンションパス第二弾・冠の雪原も配信開始されましたね。皆さん進捗は如何でしょうか。配信開始から半月経ちますし、流石にほぼストーリーはクリアしているでしょうか。私も一応ストーリーは終えたのですが、ダイマックスアドベンチャーを途中で切り上げ、何を思ったか色違い孵化に手を出し始めてしまいました。何故か急にやりたくなったので仕方がない。
本当は配信前に投稿まで漕ぎ着けたかったんですが、配信日の数日前から体調崩してそれどころじゃなかったっていう…いやぁ、風邪とカンムリ雪原は強敵でしたね()

言い訳はさておき、次回はどうするか迷いましたが、一応セキチクシティ編の仕上げを予定しております。秋も通り過ぎてだいぶ冬を感じる時期になってきました。コロナも未だ沈静化する兆しはありませんし、皆さんも体調には十分お気を付けください。

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