成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第45話:勝利の風向き

 

 

 

 

 

 

 アンズの果たし状騒動から明けて翌日。1日の間を置いて、決戦の時が来た。

 

昨日一旦棚上げとなった、アンズからの果たし状。その挑戦に応えるべく、俺は再びバトルフィールドでアンズと対峙していた。

 

 

「それでは、ただいまよりアンズvsマサヒデのポケモンバトルを行う!」

 

 

バトルフィールドに、キョウさんのバトル開始を宣言する、重く、力のある声が響いた。周囲には観客としてジムトレーナーや職員、セキチク忍軍の皆さんが陣取る。大勢の観衆の注目を集めてのバトルは、自然と緊張と集中を呼び起こす。と言っても、精々3、40人程なのでそこまで大勢というワケでもない。

 

 

『ヒュオォォー…』

 

 

現在地は、セキチクジム内部の屋内フィールド…ではなく、昨日と同じ屋外の修練場。天候は曇り。日差しの全くない、完全なる曇天だ。昨日ほぼ丸一日降り続いた雨は、夜中の内に止んだ。しかし、一緒に吹き荒れていた風は今日も健在で、吹き抜ける風の音と枝が大きくしなって揺れる音がBGMとなって修練場を包む。

 

 

「改めて取り決めの確認を行うが、使用ポケモンは互いに1体!持ち物はなし!純粋な実力勝負とする!」

 

 

今回のバトルはキョウさんが直接審判を務める形で行われる、1vs1のタイマンバトル。キョウさんは屋内フィールドの方を準備するつもりだったようだが、アンズの方がここでのバトルを希望したらしい。

 

正直言って、フィールドのコンディションは不良だ。雨は止んだとは言え、地面は泥濘(ぬかる)み、水溜りもそこかしこにある。風も強く、吹き続けている。最悪レベルが悪いレベルにワンランク良くなった程度の話で、普段ならあまり外で活動したくない状況。こんなことならキョウさんの案に賛成しとけば良かった。まあ、そこまで考え無しに安請け合いしちゃった俺が悪いんだけどさ。

 

ただ、肝心要のポケモンの方はバッチリ準備してきた。「最高の戦力で以て臨むべし」というお達しがあった以上、俺が用意するのはアイツを置いて他にはいない。後は、アンズの選出次第。

 

 

「お互い悔い無きよう、全身全霊を以て臨むべし!」

 

「「ハイッ!」」

 

「では…勝負始めィッ‼

 

「行ってこい、スピアーッ!」

「ビィィーッ!」

 

 

キョウさんの宣言と同時に、ボールをフィールドに投げ入れる。俺がこのバトルの全てを託したのは、言うまでもなくエースのスピアー。元々キョウさんとのジム戦で出番がなくて不完全燃焼気味だったんだ。動きは良いし、気合も十分だ。

 

 

「行きなさい、モルフォンッ!」

「フォーンッ!」

 

 

対するアンズが繰り出したのはモルフォン。彼女の相方と言っていいポケモンで、選出してくるのは予想の範疇だ。

 

で、モルフォンの技構成は、俺の記憶の限りでは…

 

➤サイケこうせん かぜおこし

 ちょうおんぱ ねむりごな

 

…こんな感じの構成だったはず。対する俺のスピアーはと言うと…

 

➤どくづき ミサイルばり

 みがわり こうそくいどう

 

…以上。技構成を考えるとタイプ相性的に不利なんだが、レベルに関してはこっちが一回り以上高い。基本的なステータスの差を活かしてモルフォンを叩き落すことを基本方針にせざるを得ない感じ。

 

 

『ヒュオォォー…』

 

 

相変わらず強い風が吹き続ける中、戦いの火蓋は切って落とされる。

 

 

「さあ、行くわよマサヒデ!モルフォン、"サイケこうせん"っ!」

「フォーン!」

 

「躱して"ミサイルばり"ッ!」

「スピィッ!」

 

 

こちらは初手"ミサイルばり"で、向こうは"サイケこうせん"。まずは互いに牽制の一撃と言ったところ。撃ち出された"サイケこうせん"はスピアーが難無く回避。お返しの"ミサイルばり"もモルフォンを捉えるには至らず。

 

"ミサイルばり"では有効打足り得ないので、それは構わない。本命は最大打点である"どくづき"だ。

 

 

「スピアー、突っ込め!"どくづき"だッ!」

「スピィッ!」

 

「モルフォン、"ねむりごな"よっ!」

「フォーッ!」

 

 

そのために、こちらとしては一気に接近戦へと持ち込みたい。が、流石にタイプ相性もあるし、確定一発は取れないはずだ。何回か叩き込めないと勝利は遠い。

 

それはアンズにも分かっていることなので、こういう風にそれを防ぎに来る。

 

 

「退避ッ!」

「ッ…ピィッ!」

 

 

安易に状態異常は貰えないので、素早く後退を指示。これで1度仕切り直し…

 

 

「ここよ、モルフォン!前に出るのよ!」

「フォォーンッ!」

 

 

…って、突っ込んで来るのかよ!?"どくづき"でも大したダメージはないと踏んだか!?だが、接近戦はこっちも望むところ…!

 

 

「ならこっちも突撃だ!スピアー、反転して"どくづき"ッ!"ねむりごな"には警戒ッ!」

「スピ…ッ!」

 

 

モルフォンの突進に対応して、スピアーを転進させ突っ込ませる。両者の距離はあっという間に縮まり、スピアーの射程圏に。

 

 

「今ッ!モルフォン"かげぶんしん"ッ!」

「フォ、フォーーンッ!」

 

「スピ…!」

 

 

が、既のところでモルフォンは"かげぶんしん"を発動。スピアーの一撃を回避し、分身を利用して素早くスピアーを包囲。そのままモルフォンはスピアーの周囲をグルグルと回り始める。

 

 

「展開が速いな…少し前に戦った時より、精度もスピードも上がっているか?」

 

 

モルフォンの群れがスピアーを囲んでいる様子は、まるでかごめかごめでもしているようだ。スピアーは籠の中の鳥ならぬ、虫籠の中の虫と言ったところか。歌詞の通りに真後ろが本体だと楽なんだが…

 

ともかく、これで四方を完全に囲まれてしまったが、ここはどうするかな?一点強行突破?それとも相手の出方を見るか?技構成が微妙に変わっている点も気になる。全くの無策とは思わなかったので、これも予想の範疇ではあるが…残り2枠、何が残ってて何が変わっているのか。

 

 

「マサヒデ!」

 

「なんだ!」

 

 

この状況への対応を思案していると、アンズから声が掛かった。

 

 

「昨日も言ったけど、あたいとあんたの実力差…それはあたいも認めたげる!喜んでいいわよ!」

 

「そりゃど-も!」

 

「でも、あたいは負けっぱなしなんて御免よ!どうしてでもあんたに勝ちたいの!そのためには、ルールが許す限り何だってする!そう決めたの!」

 

 

決意とも覚悟とも取れるアンズの叫び。彼女なりに色々悩み考えることがあったのだろうが、今俺がその叫びで理解したのは、彼女がこれから何か仕掛けてくるつもりであるということだけ。

 

 

「こんな風にねッ!モルフォン、"ねむりごな"ッ!」

「フォーンッ!」

 

 

アンズの指示を合図に、モルフォンの群れが羽を羽ばたかせる。ただし、実際に催眠効果のある粉をバラ撒くのは本物のみ。分身の技はあくまで動きを真似るだけで見掛け倒しだ。

 

ただし、分身の見分けがつかず、どこから撃たれるか分からないので余り関係ないのかもしれん。

 

 

「スピアー"みがわり"ッ!」

 

 

それに対して、こっちは即座に"みがわり"で応戦。この技で創り出された分身は、本体のダメージを一定値を越えるまで肩代わりすることに加え、変化技を無効化するのも特徴だ。代わりに技を使う毎に体力を一定値消費する。しかし、この技がある限り"ねむりごな"はスピアーには通らない…

 

 

「スピィ…ッ!?………Zzz」

「…スピアー!?」

 

 

…はずなんだが、これはどういうことなのか。"みがわり"の発動途中で"ねむりごな"がスピアーを襲い、眠りに落ちてしまう。

 

スピアーが"みがわり"を張るよりも"ねむりごな"が当たる方が早かった、と言うだけの話なんだが…そもそも、元々スピアーとモルフォンの素早さにはレベル分の大きな差があった。それに経験則では、囲まれてはいるが、向こうが動いてからでも十分対応可能な距離も取れていたはず。それなのに、動く間もなく眠らされた…正直驚き以外の感想が出てこない。

 

…"こうそくいどう"なんて、モルフォンは覚えただろうか?それとも…まさか"ちょうのまい"!?アンズが時代を先取りしちゃってたりするのか!?んな馬鹿な!?

 

 

「よっし!モルフォン、そのまま"サイケこうせん"で吹き飛ばしちゃえっ!」

「フォォーンッ!」

 

 

ただ、考えてる時間はそんなにない。"ねむりごな"に続いて、"サイケこうせん"が眠ってしまって動けないスピアーを直撃する。

 

 

「ビィ…ッ…!」

「ちィッ…寝てる場合じゃないぞ!起きろスピアー!」

 

「ス……ピィィーッ!」

 

「よしッ!」

 

 

幸い、最短に近い早さでスピアーは眠りから目覚め、戦線に復帰した。俺の声が届いたか、それとも攻撃で受けたダメージのおかげか?そして、ダメージの方もまだ許容範囲。十分に戦える。

 

 

「もう起きちゃったの…ッ!?」

 

「危ねぇ危ねぇ。こちとらスピアーの上を取られるなんて、思っても見なかったよ…」

 

 

いつもならスピアーが上から殴り続ける展開になっているところを、まさか互角に持ち込まれるとは思わなかった。

 

単純に考えるなら、アンズがモルフォンを鍛えて来たってことになるが…前回戦ってから1週間ほどしか経ってないのに、ここまで劇的に変わるものだろうか?

 

スピアーのダメージから見るに、"ちょうのまい"を使ったという線は薄いとは思うが…

 

 

「とりあえず、スピアー!今度こそ"みがわり"!」

「スピィッ!」

 

 

モルフォンの速さの謎は分からないが、分身のサークルからスピアーが弾き出されたことで、分身による包囲網は一先ず瓦解した。しかし、あの謎が解けるまでは迂闊には踏み込み辛い。まずは確実に"みがわり"を張って行動回数と"ねむりごな"への御守りを確保。ここまでやって、あの"でんこうせっか"並みの"高速ねむりごな"のギミックを解明するための余裕が生まれる。

 

 

「させない!モルフォン、"サイケこうせん"!」

「フォーンッ!」

 

「…遅い!スピアー、"こうそくいどう"で回避しろッ!」

「スピャア!」

 

 

モルフォンはその動きを阻止しに来るが、これはスピアーが持ち前の機動性で回避。"みがわり"も無事発動したようで、スピアーの前方、若干色褪せて透けて見える身代わりのスピアーが、本体と半ばくっつくように存在していた。

 

そして、"サイケこうせん"の攻撃スピードには特に変わったところは無かった。モルフォン自体の素早さにも変化はない。

 

 

「しくじったわね…だったら、モルフォン!もう一度"かげぶんしん"っ!」

「フォーッ!」

 

 

攻撃に失敗したアンズは、"かげぶんしん"を積み増していく方向に動いた。

 

 

「これ以上は看過出来ないな!スピアー、"ミサイルばり"で分身を蹴散らせ!」

「スピィーッ!」

 

 

これ以上積まれるとバトルに明らかな支障が出るので、こっちは潰しに動かざるを得ない。"かげぶんしん"には"みがわり"のような質量はないので、1/4の威力でも問題ない。正確なモルフォンの位置が特定出来ない以上、"ミサイルばり"を乱射して手当たり次第に分身を掻き消していく。

 

そして、"かげぶんしん"の展開速度も以前と比べればやはり幾分か速い気はするが、それでも目を見張るほどかと言われると…

 

 

「ここよ!モルフォン、一気に相手の懐まで飛び込んで!」

「フォォーンッ!」

 

「…はやッ!?スピアー!?」

「ビィ…ッ!」

 

 

様子を窺っていたモルフォンが一気に攻めに転じた…のだが、突っ込んで行くスピードが思った以上に…いや、異常なレベルで速い。

 

 

「スピアー、"こうそくいどう"!モルフォンを振り切れッ!」

「ビィィー!」

 

「遅い!モルフォン、"サイケこうせん"ッ!」

「フォーンッ!」

 

「ビィ…ッ!」

「くっそ…!」

 

 

"こうそくいどう"で無理矢理引き離そうとしものの一手出遅れ、"サイケこうせん"の直撃を許してしまった。この一撃は身代わりがダメージを受け持ってくれたことで、スピアーへのダメージはない。が、肩代わりした身代わりそのものは霧散してしまった。

 

 

「いいわよモルフォン!"ねむりごな"ッ!」

「フォーンッ!」

 

 

身代わりが消えて盾が無くなったところに、"ねむりごな"の追撃。

 

 

「"こうそくいどう"で振り切れッ!」

「スピィッ!」

 

「…よしッ!」

 

 

普通にやって駄目なら…と思って"こうそくいどう"での回避を指示。今回はモルフォンに攻撃後の隙もあって、紙一重ではあったが避けることが出来た。

 

それでも、回避のタイミングが紙一重と言うのは異常だ。どうやってあれだけのスピードを得ているのか。他の技は以前と大差無いのに、何故"ねむりごな"だけあんなスピードでスピアーまで届けられるのか。特性も…確か"りんぷん"に"いろめがね"で、命中率に関係する特性ではなかった。

 

まさかアンズのモルフォンだけ、"ねむりごな"が必中技の特別仕様だったりしないだろうな?

 

 

 

異常と言えば、さっきのモルフォンの突進も異常だった。あっという間に懐まで潜り込まれる、とんでもない速さ。まるで、風に乗って滑空でもするかのような…

 

 

 

 

『ヒュオォォー…』

 

 

「…!そうか、風かッ!」

 

「…気付かれちゃったか。そう、これがあたいの作戦よ!名付けて"忍法・追い風の術"!…ってね!」

 

 

追い風の術…図らずもの一致、か。一瞬「まさか"おいかぜ"の存在に気付いたのか!?」と考えたりしたが、たぶん天が与えた偶然だ。

 

この技が登場したのは世代的にはまだまだ先だが、実際ポケモンには"おいかぜ"と言う技がある。ポケモンの技としての"おいかぜ"は、数ターンの間味方の素早さを大きく上げる効果の変化技。今の天候は強風が吹き続けている状況…方向さえ合わせれば、まさに追い風を使った状態だ。

 

それに、思い返せば最初とさっきのモルフォンの突進の動きも、風上から風下へ向かっての移動だった。これまでの異常なモルフォンの速さもある程度は説明が付くし、"ねむりごな"は粉技なだけに風の影響を強く受けそうなイメージは湧く。本来は相手に向かって振り掛けるところで、風の力を利用した…そう考えれば、"ねむりごな"だけが必中技みたいなものと化していたのも(うなず)ける。

 

とすると、"かげぶんしん"でスピアーを包囲するようなあの動きは、居場所を特定させなくしつつ風上のポジションを奪取し、風を利用して有利に立ち回ると同時に、その狙いを俺に気付かせないための動きか?…してやられてんな、俺。

 

ただ、向こうの忍術とやらのタネは割れた。そうと分かれば、目には目を、歯には歯を、風には風を…この風は、決してアンズ1人の味方じゃないってことを分からせてやるぜ。どちらにせよ、反省は勝負が終ってから。さあ、反撃開始だ!

 

 

「よし、巻き返しと行こうかスピアー!」

「スピィッ!」

「そのまま"こうそくいどう"でモルフォンを引き離せッ!風上を取るんだ!」

「ビィィーー!」

 

「させるもんか!モルフォン、撃ち落としてっ!」

「フォ、フォーンッ!」

 

 

迎撃が飛んで来るも、"こうそくいどう"で得た超スピードで以て、スピアーが一気にモルフォンの斜め左後方上空…風上を難無く占拠する。

 

 

「まずはお掃除だ!スピアー、撃ちまくれ!"ミサイルばり"!」

「スピャアッ!」

 

 

場所取りに成功すれば、次は近場のお掃除。反撃の"サイケこうせん"を躱しながら、攻撃の障害になる分身を片っ端から消し飛ばしに掛かる。

 

2度の"かげぶんしん"で、フィールドの一角を埋めれる程に創り出されていたモルフォンの分身が、次々と針の雨に打たれて消え去っていく。

 

 

「突撃ッ!」

「スッピィィーッ!」

 

 

そして分身が全て消滅し、本体が丸裸になったところで突撃。でも、これは囮だ。

 

 

「モルフォン"ねむりごな"ッ!」

「フォーン!」

 

「掛かった!上に逃げて"みがわり"だ!」

「スピャ…ッ!」

 

 

攻撃すると見せかけて、途中で軌道を変えてモルフォンの上空へと離れた所で"みがわり"を展開。"みがわり"を使うための猶予が欲しかったんだ。

 

体力的には"みがわり"を使えるのはこれが最後だろうが…なに、1度展開出来れば十分だ。

 

 

「そんじゃ、今度こそ!スピアー"どくづき"ッ!」

「スピィッ!」

 

「避け…られない…っ!モルフォン"サイケこうせん"でスピアーを止めてっ!」

「フォーン…ッ!」

 

 

"こうそくいどう"に天然の追い風でスピード増し増しの突撃。モルフォンでさえあれだけの速さだったんだ。それがレベルで上回るスピアーとなれば、そう簡単に避けられるものではない。下手に避けようとして隙を晒すよりかは…という判断なんだろう。

 

ただ、それが正しかったのかどうかは、残念ながら判断出来ない。

 

 

「スッピィャアーッ!」

 

 

必死に繰り出した"サイケこうせん"は、辛うじてスピアーを捉えたものの、それは"みがわり"を掻き消しただけ。その間にスピアー渾身の一撃は、遂にモルフォンへと届いた。

 

 

「フォ…ォ…ッ」

 

 

風に乗ってのすり抜けざま、上段から振り下ろすように突き出された"どくづき"が、モルフォンを地面に叩き落す。

 

手応えあり。だが、まだ足りない。

 

 

「もう一発だ!」

 

 

勢いそのままに駆け抜けたスピアーが、Uターンして再びモルフォンに向かう。

 

 

「モルフォン"ねむりごな"ッ!」

「フォ、フォ…ン…ッ!」

 

 

アンズの指示に応えようと、よろめきながらも空へと舞い上がるモルフォン。しかし、出来たのはそこまで。

 

 

「スピィィーッ!」

 

「フォ……ォ…」

 

 

向かい風も何のその。モルフォンが決死の行動で"ねむりごな"をバラ撒こうとするよりも先に、追撃の"どくづき"が突き刺さった。

 

再び地に墜ちたモルフォン。

 

そして、そのまま浮かび上がることは出来なかった。

 

 

 

 

 

「そこまでッ!モルフォン戦闘不能!よって勝者、マサヒデッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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~5日後~

 

 

 

「…それでは、キョウさん。そしてジムの皆さん。長らくお世話になりました」

 

「うむ」

 

 

 アンズとの最終決戦から6日。名残を惜しみつつも準備を整え始め、勝利の余韻も落ち着いた今日、ついにセキチクシティを旅立つ日がやって来た。

 

だいぶ余裕を持って動いたので、休養は十分。俺もポケモンたちも、体調はバッチリだ。前日にはお別れ会兼壮行会までやってもらい、感謝しかない。

 

 

「マサヒデ、繰り返しになるが、才能に胡座をかき、精進を怠るべからず。それと、くれぐれも身体を労るように。ジムを巡るのにはポケモンの実力のみならず、トレーナー自身が壮健でなくては成せることも成し遂げられぬ。無理はせず、時には休むことも責務ぞ」

 

「はい!」

 

 

普段なら既に皆さんそれぞれの業務、或いはトレーニングに励んでいる時間だが、キョウさんからセキチク忍軍の皆さんまで、俺の見送りのために集まってくれている。有難いことだ。

 

台風一過…と言うには少し日が経ちすぎている気もするが、天気は快晴。風もなく、日差しのきつい、夏らしい陽気が戻っていた。暑さ以外は絶好の旅日和だ。

 

 

「あとは…アンズ!」

 

「はい、父上!…マサヒデ、これ」

 

 

そう言って、アンズが差し出して来たのは、手持ちサイズの風呂敷包み。

 

 

「これは?」

 

「お弁当。あたいと皆で作ったんだ…って言っても、おにぎりだけなんだけど。お昼にでも食べなよ」

 

「おー、ありがとう」

 

 

中身はアンズ以下セキチク忍軍皆さんお手製のおにぎりとのこと。有難く頂戴します。

 

 

「それと、もう一つ!」

 

「ん?」

 

「あたいはもっともっと強くなって、父上の跡を継いで立派な忍者に、そしてジムリーダーになる!そして、次こそはあんたに勝つ!」

 

 

おおっと、これはリベンジ宣言かな?いいでしょういいでしょう、こちとら『アンズをギャラドスで6タテ計画』が始動中なんだ。機会があればいつでも受けて立とうジャマイカ。

 

 

「やれるもんなら」

 

「言ったわね!だったら、それまで首を洗って待ってなさい!」

 

「待てと言われて待つ奴はいないんだよなぁ」

 

「だったら無理矢理捕まえるだけよ!あたいがブッ飛ばすまで、変なところで負けないでよ」

 

「ワザと負けるつもりはないし、努力はしよう。確約は出来んけどな」

 

「…そ、ならいいわ。…頑張って」

 

「あいよ」

 

 

そう言って再戦の約束と激励の言葉を投げ渡し、アンズは下がっていった。ここのところのアンズさんは、売り言葉に買い言葉で軽く火花散らしてたと思ったら、急にしおらしくなったりするから困る。微妙にペースが狂うんだよねぇ。

 

 

 

 その後、他のセキチク忍軍の皆さんやお世話になったジムトレーナーの皆さん、キョウさんの奥さんから激励の言葉を貰った。

 

 

「じゃあ、これが正しいのか分からないですけど…まあ、行ってきます」

 

「うむ。もしも行き詰まるようなことがあれば、いつでも戻って来るといい」

「その時はあたいがボコボコにしてあげる!」

「マサヒデどの、ファイトでござるよ!」

 

「皆…ありがとうございました!」

 

 

こうして、俺はセキチクジムの皆さんの見送りと声援を背に、1カ月以上に及んだセキチクシティでの生活に別れを告げた。

 

次の目標となるジムがあるのは、カントー最大の都市・ヤマブキシティ。一度訪れながらもほとんど何もすることなくスルーするハメになった、光り輝く大都会だ。待ち受けるのはエスパータイプのエキスパート、『エスパー少女』ことナツメ。エスパータイプというのは現状だと中々対策し辛い難敵だが…俺はサカキさんに勝つまで止まるつもりはない。

 

セキチクシティでのこれまでを思い出して後ろ髪を引かれる思いを感じつつも、俺は目標のため、今再び歩き出したのであった。

 

 

 

 

 

 




アンズとの決闘を制して、これにてセキチクシティ編終了!久々に予定通り更新出来たことに感動しています(オイ)
この話書いていて、常時追い風状態のマップとか、登場と同時に追い風を展開する新特性…ありそうと思った。でも、特性だと流石に強すぎるか…

…さて、次の街となると、あのポケモンの設定を一度練らないと…

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