成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第46話:捨てる神あれば拾う神あり

 

 

 

 セキチクジムリーダー・キョウを破り、4個目のジムバッジとなるピンクバッジを手に入れてから約1週間。ついでに果たし状叩き付けてきたアンズも返り討ちにし、長らく世話になったセキチクシティとジムリーダー以下の皆さんに別れを告げた俺は、15番道路を道なりに一路東へと向かっていた。

 

15番道路はセキチクシティから東に延びる道。ここから次の街であるクチバシティ、ないしはシオンタウンまでは、15番道路-14番道路-13番道路-12番道路と続く長い道程が待っている。

 

タマムシ-セキチク間の道路が整備されたことで、以前と比べればだいぶ人の往来は少なくなったとは言うものの、車が行き交う道から少し外れた歩行者用の道には花壇や並木道が整備され、その周辺には一面の芝生と遊具、そしてバトルフィールドが至る所に存在。お日様の下、若いトレーナー同士の白熱した熱戦が、親の見守る中で子供同士による微笑ましさを感じるようなキャットファイトが、年配のトレーナー同士の老練ながらもどこかのんびりとした戦いが繰り広げられている。

 

それだけでなく、バトルフィールド以外にも運動場やスポーツの競技場もある。陸上競技のトラック、サッカーに野球のグラウンド、テニスコート、あそこにあるのは…ゲートボール場か?とにかく、休日と言うこともあってか、老若男女を問わず多くの人々がポケモンバトル、スポーツにポケモンと共に興じ、戯れていた。

 

ポケモンが当たり前に存在するそんな光景を見ていると、ふとした拍子に以前の生活を思い出して「ああ、本当に俺はポケモンの世界で生きているんだな」と改めて実感する。こっちに来てもう3年…色々あったし、これからもこの世界で生きる限り、色々なことが待っているのだろう。

 

 

 

そもそも、ゲーム的にはまだ始まってすらいないっていうね。レッド・グリーン両名の年齢から見ても、原作開始まで長めに見て4、5年ぐらいまだあるだろうか?『光陰矢の如し』なんて言葉もあるけど、それでも5年って長いよな。

 

 

 

 

 

 頃合いを見て途中で一旦足を止め、設置されていたベンチに座り、休憩ついでにお昼ご飯。アンズから「お昼にでも」と渡されたおにぎりを頬張る。かなり塩が効いていて塩っ辛いおにぎりだ。ゲームじゃ将来的に毎日キョウさんに弁当を作って届けていたアンズさんも、今はまだまだ練習中ってことか。

 

まあ、俺は塩気の効いてた方が好きだから問題ない。そして具無しおにぎりは原点にして頂点。美味しかったです。自販機で買ったサイコソーダもキンキンに冷えてやがる。ご飯に炭酸飲料とか、なんて不健康で背徳的な組み合わせなんだ…ありがてぇ…!

 

そんなこんなで体力も回復したら、活気と笑顔に溢れた光景を横目に見つつ、俺もまたのんびりと自転車を押して歩き出す。季節は真夏へと近付きつつあり、歩いているだけでも汗ばむような陽気だ。空を見上げれば、快晴の青空に一筋の飛行機雲。ゆったりとした時間の流れに乗って、フワフワプカプカ、されるがままに流される…そんな気分。

 

ここまでのんびりと旅が出来るのは、ジム巡りに出てから初めてのこと。これまでは自転車強制だったり、用事を押し付けられたり、拉致られたり(だいたいサカキさんのせい)で、急ぎの道中ばかりだったが、今回は特に制約は無い。幸い、ゲームと違ってポケモンセンターは細目に点在しているので、道のりも長いし、ポケモンセンターを梯子しながらのんびりまったり行こうと決めた。

 

そのせいでせっかくの自転車が荷物運搬用のリヤカー同然と化してしまっていたが、まあそんなこともあるさ。

 

 

 

 これまで俺が手にしたジムバッジは4つ。この旅もようやく折り返し地点を過ぎたことになるが、8つのジムの完全制覇、延いてはサカキさんに勝利することを最終目標としている以上、まだまだ止まるわけにはいかない。九分を以て五分と為し…だ。

 

なので当然、次の目的地もポケモンジムが存在する街になる。セキチクシティから最も近い未制覇のポケモンジムがある街はヤマブキシティ。以前に一度足を踏み入れたものの、サカキさんにドナドナされてその日の内にサヨナラバイバイするハメになった、カントー地方でもタマムシシティと双璧を成す大都市だ。

 

セキチクシティからヤマブキシティへと向かうルートは、東回り2つと西回り1つ、合計3つの選択肢がある。西周りのルートはサイクリングロード-タマムシシティを経由するルートで、俺がセキチクシティに来た時のルートを戻る形になる。整備も進んでおり、ヤマブキシティに向かうならこのルートが最速で確実だろう。

 

一方で東回りルートは、最低でも15~12番の道路4つを踏破し、そこから12番道路の途中で西に折れ、11番道路ークチバシティー6番道路と経由してヤマブキシティに至るクチバシティ経由のルートと、12番道路をそのまま北進し、シオンタウンー8番道路と経由してヤマブキシティに至るシオンタウン経由のルートの2通りがある。

 

そして、今回俺が選んだのは東回りのシオンタウンを経由するルート。まだ行ったことがない、通ったことがない街ということもあり、一度は見ておきたいとは思ったからね。長居はしたくないけど。それに、ここしばらくの間ずっとリュックの底で眠っていた"危険物"…ありとあらゆる災厄を詰め込まれたとされるパンドラの箱に匹敵する(と個人的には思っている)これを穏便に処分するために、1度シオンタウンには寄る必要があるとは考えていた。

 

まあ、処分とは言っても本来の持ち主に丸投げするだけの予定だけど。あと、西回りで暴走族に絡まれるのもお断りだ。君子危うきに近寄らず、触らぬ神に祟りなし…ってね。

 

 

 

「じゃあなんでそんな危険物持ち出したんだよ」って突っ込まれると、何も言い返せないんだがネ。我がことながら何で持ち出してしまったのか…コレガワカラナイ。我がことながら全くもって度し難い生物である()

 

あと、セキチクからフェリーでクチバに向かうという手もあったけど、ゲーム的に考えてそれは…ねぇ?

 

 

 

 シオンタウン絡みの事はさておき、ヤマブキシティまではどんなに急いだとしても徒歩と自転車では数日~十数日、下手したら半月は掛かると見ている。2日3日程度なら誤差の範囲だと思えるような長距離の移動、余程の事がない限り、この旅に出てから最も長い旅になることは確定していた。自然いっぱいポケモンいっぱい、ついでにトレーナーもいっぱいな道がずっと続いているのだから。

 

まあ、急ぎの旅ではないのだから、当初の予定通りのんびり行けばいい。何気なしにそう思いながら、俺は東を目指して道なりに歩みを進めていく。

 

とは言え、初夏の日差しの中を延々と歩き続けるのも中々に辛い。となれば、そこでようやく自転車の出番。途中、バトルフィールドなどが整備されたエリアが終わった辺りから自転車に跨がり、後ろに積み上がった荷物を崩さないように注意して漕ぎ始める。すぐ右手には海岸線を望む道は、微かに感じる潮の香りを乗せた風が暑さを和らげてくれる。その風を一身に浴びて、海沿いを軽快に飛ばす。

 

その後も途中何度か休憩を挟みつつ、そのまま風光明媚な海岸線の景色を流すこと数時間。時間にして15時前頃には、本日の目的地…15・14番道路のほぼ境目にあるポケモンセンターに到着。駐輪スペースに自転車を止め、荷物を下ろした。

 

ゲームにおいてはポケモンの回復と入れ替え、他プレイヤー(データ)との交換・対戦を行うための設備を備え、最近の作品ではフレンドリィショップの役割も担っているポケモンセンター。だが、この世界では上記の内容に加え、ポケモントレーナー(トレーナーカード所有者)の宿泊施設、災害・事故等の緊急時における避難所、及び救急隊などの臨時拠点、さらには地域の集会所にリア充(こいびと)どもの待ち合わせ場所、果ては裏組織の支部だの異世界への入口だのetc…一部真偽不明と言うか、完全に都市伝説の類の話もあるが、とにかく非常に多岐に渡る役割がポケモンセンターには与えられている。

 

…あったよなぁ、『なぞのばしょ』。シンオウ地方のありとあらゆる場所…悪夢の住まう島に感謝の華が咲き誇る楽園、果ては創造神の御許にまでも通じていたという、数多の勇敢にして無謀な挑戦者を呼び込み、捕らえ、閉じ込め、絶望の淵へと追いやった、シンオウ地方最大級と言っても過言ではない魔境(バグ)。あれ見つけた人スゲーと思うわ。俺は足踏み入れただけで止めといたけど。

 

 

 

それはともかく、ここまでの道中かなりのんびり来たつもりではあったが、それでもかなり早い時間に今日の宿に到着したことで、時間を持て余すことになった俺。夕飯まで部屋で一眠り…とも考えたが、それをすると夜眠れなくなる。かと言ってここは15番道路。近場に丁度良く時間を潰せる施設など、調べた限り存在しない。ゲーム同様だな。

 

そこで消去法で浮かんだのが、ポケモンセンター併設のバトルフィールド。ゲームでは他のプレイヤーと戦うために必要なのは通信設備…初代の頃で言えば通信ケーブルだったワケだが、ポケモンが現実にいれば必要になるのは戦うための広いスペース、バトルフィールドだ。こっちではポケモンセンターにバトルフィールドはほぼ必ず備わっているもので、場所にもよるが、ここでは屋外に2つのバトルフィールドが整備されている。その周囲には観戦スペースもあり、トレーナーたちがバトルを観戦したり、戦術について激論を交わしたり、和やかに談笑したりと、トレーナー同士の交流の場として賑わっている。

 

現状、ここ以上に持て余した時間を消費するために適した場所は無い。荷物を部屋に置いた俺は、そのままバトルフィールドへと足を運んだ。

 

 

 

そして案の定、他のトレーナーからバトルを挑まれた(からまれた)。最初観戦だけでもと思っていたのだが、途中で学校終わりと見られる子供たちに目をつけられてしまったのだ。まあ、子供と言っても今の俺と同じか少し上の奴らだけど。

 

目が合ったらバトルの合図…子供だろうと大人だろうと、誰しもがそのポケモン世界におけるトレーナーの常識、本能、性には逆らえぬのである。

 

 

 

 

 

正直おかしいだろとは思う。口にはしないけど。

 

 

 

 

 

 

 

「クサイハナ、"ギガドレイン"でラスト!」

「ハッナ~!」

 

「コ、コパァ~!?」

「うわぁ!?コ、コダックーー!?」

 

 

 

 

…で、仕方ないので挑んで来た1人を軽く捻ったら、敵討ちとばかりに残りの子たちにも当然の如くバトルを挑まれ、結果4人と連戦することに。

 

ただ、ここ1ヶ月毎日のように戦い続けたアンズ以下、セキチク忍軍の皆さんと比較すると、タイプ相性の理解が覚束ない、技を繰り出すタイミングが遅い、判断に迷い過ぎetc…言っちゃ悪いが、拍子抜けするレベル。

 

アンズとのバトルがやたら多いのと、暴力的なまでのレベル差のせいで手古摺ったことが少ないから印象が薄いけど、アンズ以外の他の面々も結構やれてはいたし、これがジムリーダーに直接指導を受けている者とそうでない者の違いなのか?それとも単にセキチク忍軍の皆さんが、どこぞの薩摩人よろしく生まれながらにしての戦闘民族だっただけ?

 

 

「コダック、戦闘不能!勝者、マサヒデくん!」

 

 

ま、何はともあれ全員を立て続けにあしらって完勝で終了だ。

 

 

 

ただ、そんなことをすると悪目立ちしちゃうわけで、その後も大人含めて何人かにバトルを挑まれた。が、4連戦すでにしたことを全面に押し出しお断り。他のトレーナーたちのバトルを見物しながら日が暮れるまで過ごした。

 

あれだけ多くのトレーナーたちで賑わっていたポケセンも、夕食も終わるぐらいの時間になれば、人の出入りは少なくなり、落ち着いた時間が流れるようになる。

 

都市部からは離れた立地故の静けさと、空調の効いた快適空間。トレーナーの特権である格安ポケセン飯で夕飯を済ませ、明日の旅の道程を確認してから寝床に潜れば、今朝別れたばかりのセキチクジムの皆さんの顔が浮かんでくる。出会いはちょっとアレだったけど、何だかんだ良い人たちだったよ。最初のアレ以外は。

 

まあ、急ぐ旅じゃないんだ。ゆっくり休んでのんびり行こう。

 

 

 

 

 

…そう言えば、ポケモンリーグの参加受付の締め切りっていつだっけ?ここ3年テレビで見たポケモンリーグセキエイ大会は、11月半ばに開催されてる年末前の大一番って感じだったから、10月中旬…遅くとも11月の頭が期限かな。とすると、チャンピオンロード突破も含めて猶予は3カ月とちょっとぐらいか。

 

…後でちゃんと確認しとこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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~12日後~

 

 

 

『シオンは紫尊い色 尊さの滲む街 ようこそシオンタウンへ』

 

 

 12番道路からゲートを抜けてすぐ、そんな文言で訪問者を歓迎する看板があった。長い期間そこにあって潮風を浴び続けたせいか、錆や劣化が目立つものの、それでも彼は自らが任された職責をしっかりと果たしている。そこに描かれた内容は、15・14・13・12と実に4つの道路を踏破したという努力が結実したことを証明するものであり、俺に確かな達成感を与えてくれると同時に、その佇まいと街が放つ不気味な雰囲気…俺の固定観念なのかもしれないが、幾許かの不安を掻き立てる。

 

はい、というワケで14・13・12番道路と特に面白いこともなかったのでカットカットカットォ!して、セキチクシティを旅立っておよそ2週間。12番道路がほぼ桟橋地帯だったせいで、自転車が使えなかったために思いの外時間も体力も気力も掛かってしまったが、それでも俺は、ようやく次なる街・シオンタウンに足を踏み入れたのでした。まあ、原作のゲームからして長いだけでなんてことない道程ではあったが、本当になんてことのない道程だった。

 

多少厄介だったのが桟橋地帯の12番道路。釣り人たちがポケモンを驚かせないように足音を忍ばせて移動することから『サイレンズブリッジ』という別名でも知られ、ゲームでは固定シンボルでカビゴンがいるのと、『すごいつりざお』が貰えるというポイントのある道なのだが、カビゴンはいないし釣り竿は売ってたけどクソ高いし…おまけに実際に歩いてみると、波をよく被るからか所々滑りやすく感じる道で、海特有の磯臭い香りも鼻を突く。橋の欄干もない箇所があり、こんな所で自転車を乗り回そうものならどこかしらでスリップして転倒、最悪某配管工カートゲームよろしく自転車ごと海水浴…なんて事態になりかねない状況。

 

そして、そもそもの話…

 

 

 

『自動二輪車、及び自転車の運転を禁ずる』

 

 

 

…こーんな規則があったんでどーしよーもなかった。急ぐなら別の道行くか、車使ってタマムシから回れってことらしい。

 

仕方がないので自転車を押して、のんびりと桟橋を歩いて北上。『釣りの名所』と呼ばれるだけあって、道中では釣り人の皆さんが竿を手に静かに糸を垂らしている姿や、釣り上げたポケモンとバトルする姿、人影は無くとも釣り具一式が置いてある…そんな場所が至る所にあった。

 

彼ら見てると俺もちょっと釣りをしてみたい気分になったんだが…竿、持ってたんだけどね…ギャラドスに圧し折られて泣く泣く廃棄処分してから、買い直してなかったんだよね…

 

釣り人たちの姿にセキチクシティでの苦い思い出を呼び起こされながらも、俺はひたすら北を目指して歩く。桟橋の上ということもあってロクな日除けも無く、真夏の灼ける様な日差しが心身をジリジリと蝕む。止まることなく流れる汗で、タオルが手放せない。流石にこんな状況で歩き続けたら、いずれ熱中症で倒れてしまうだろう。

 

こんなことなら帽子を用意しとくんだった、とその時今更ながらに後悔し、歴代の主人公たちが一様に帽子を被っていたのには、ちゃんと理由があったんだなぁ…と1人納得したのだった。つか、普通に考えてみたらこれって常識…

 

 

 

 

 

 そんなこんなでその後も暑さに色々とやられ、こまめな休憩を挟みつつもひたすらに歩き続け、日が沈むよりも前に何とかシオンタウンに滑り込めたのが現在。太陽はオレンジ色に空を染めながらも、すでに西の山の向こうへと姿を隠し始めていた。

 

原作でのシオンタウンと言えば、暗い、怖い、もしくは不気味という印象が出て来る人が多いのではないだろうか。実際、季節だからか、それとも吹く風が潮風だからか、はたまたここがシオンタウンだからか、頬を撫でる風がどことなく生温さを感じさせ、夕暮れの状況と相まっておどろおどろしげな空気を醸成している。

 

そんな不気味な街・シオンタウンを象徴する施設と言えば、第一に出てくるのはやはり『ポケモンタワー』だろう。ポケモンタワーは死んだポケモンの魂を祀る場所…つまりは墓地。内部は所狭しと墓石が設置され、3階以降の階層では怪しげな霧が充満し、不気味さに拍車をかけている。内部で出現する野生ポケモンも、基本的にはゴーストタイプのポケモン・ゴースがほとんどで、たまにカラカラが出て来るだけ。待ち構えているトレーナーは祈祷師ばかりで、その全てが何かに憑りつかれてイカれた言動をしている。窮め付けが『ゆうれい』ことガラガラ…当時多くの子供たちにトラウマを植え付けたことは間違いない。シオンタウンにポケモンジムがないことで、余計にポケモンタワーの印象が強くなっている面もあるのかもしれない。

 

第2世代になるとポケモンタワーはラジオ塔に生まれ変わり、BGMや街の雰囲気も温かみを感じさせるものに変化したが、初代の印象が強過ぎてなぁ…喜ばしくも、何となく物足りなさも感じる変化だった。

 

 

 

…で、話は変わるが映画・ドラマ・ゲーム・リアル限らず、俺はホラー系のものが大の苦手だ。テレビでその手の番組が流れていた時は速攻でチャンネルを変え、家族が見ている時は脱兎の如く別の部屋へ避難するのが当たり前な程度には苦手だ。

 

そんな俺にとって、ホラー色の強いこのシオンタウンという街は、あまり長居をしたい街ではない。それどころか、出来ることならすぐにでも立ち去って次の街へ向かってしまいたい。もう空気からして不気味な雰囲気を漂わせ、今にも「出そう」にしか感じない。8番道路で野宿確定になってしまうが、それで全然構わないレベルで長居したくない。

 

しかし、この街には俺がどうしても行かなければならない場所があった。正確には、その場所に行って会わなくてはならない人がいた。その人に会うためだけに、俺はセキチクシティから3週間あまりを掛けてまでこの街にやって来たのだ。

 

なお、個人的にポケモンシリーズで一番怖かったと思うのは、断トツのぶっちぎりで第4世代に登場した『もりのようかん』である。雰囲気と言いイベントと言いBGMと言い、あれ以上のモノはないと思う。正直、俺的に絶対に行きたくない場所ナンバーワンだ。

 

…とくこうの努力値稼ぐのに一番良い場所なんで、ゲームでは散々行ったけども。BGMの音量を0にしてた人は俺だけじゃないはず。あと、決して『もりのヨウカン』ではない。あれは(たぶん)甘くて美味しくて状態異常を回復させるアイテムだ。

 

 

 

…なぞのばしょ?あれはノーカンで。

 

 

 

さて、そういうワケで、早速その目的地…ではなく、時間も時間なのでまずポケモンセンターにチェックイン。ポケモンたちを預けて、今日はそのままポケセンで一夜を明かす。また明日だ。

 

そしてこの日の夜、俺はシオンタウンの洗礼を受けるように、身の毛もよだつような出来事に遭遇…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…は、しなかった。ま、普通はそうだよな。それとも、気休めに買っておいたお守りが効いたかな…?

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

 

 

 対人関係を築くに当たって、第一印象はとても大切だ。良好な関係を築けるかどうかは、第一印象…掴みに掛かっていると言っても過言ではない…と、個人的には思っている。今俺は、その初対面に向けた事柄で大いに悩んでいた。

 

目標であるポケモンジムがあるのは西隣りのヤマブキシティなんだが、経由地としてクチバシティではなくこの街を選んだのは、前述の通り会っておきたい人物がいたから。

 

その人物とは、シオンタウンにあるもう1つの施設、虐待を受けるなどして人に捨てられたポケモンを保護し、その世話を行っている『ポケモンハウス』を運営する老人で、かつては出身地のグレンタウンで研究者としてポケモンの研究に没頭していた人物。その名を『フジ老人』、或いは『フジ博士』。

 

…そして、俺のリュックの底で眠っている日記の主にして、初代最強の伝説ポケモン、凶悪な『いでんしポケモン』こと『ミュウツー』をこの世に生み出し、解き放った元凶だ。解き放ったと言うよりは、逃げられた、が正解か。

 

俺は今日、この日記帳という名のパンドラの箱を、本来の持ち主であるかの御仁に返却する(おしつける)ために、わざわざ怖い思いをしてまでシオンタウンを訪れ、このポケモンハウスの前まで足を運んだのだ。

 

 

 

…が、しかし。ここでその悩みが俺の足を止めさせる。個人的に開口一番で日記の事を話すワケにもいかないだろうと思っているので、出来れば自然な流れの中でスッ…と切り出したいのだが、そこに持って行くまで…フジ老人を訪ねるのに適当な表向きの理由がないのだ。

 

まさか面識もない状態でズカズカと踏み込んでいくなど、常識的に考えてとてもじゃないが出来た話ではないし、ゲームよろしく何かイベントでも起きてくれないかとか思っても、そう都合よく起こるはずもなし。

 

かと言って、ズバッと切り込んだところで適当にあしらわれて終わりそうな気も無きにしも非ず…でも、ゲームでのフジ老人の人柄からして、それはなさそう…か?

 

いや、しかし…

 

 

 

 

 

「にゃー、にゃー」

 

「…ん?」

 

 

しばらくの間あーでもないこーでもないと悩んで、ポケモンハウスの周りをウロウロ不審者ムーブをかましていると、近くで聞こえてきた猫のような鳴声。

 

釣られて声のした方を見れば、1体のポケモンが足下に。

 

 

「ニャースか」

 

 

その正体はニャース。ばけねこポケモンでノーマル単タイプ。テレビや雑誌の中ではよく見るポケモンだが、実際に本物を見るのは初めてだ。

 

 

「お前、どこから来たんだ?」

「にゃ、にゃー」

 

 

俺の足元まで近寄って来るなり、頻りにニャーニャーと鳴くニャース。抱え上げても逃げる様子は見せない。これだけでも、このニャースが人慣れしてるっていうのは分かる。

 

アニメではロケット団の3人組…いや、2人と1匹の組み合わせで、人語を解し、操ることの出来る特殊なポケモンとして有名。かく言う俺もそのイメージが強過ぎて、こうやって普通に猫やってるニャースに違和感があったりする。なんかこう…すまねぇな、ニャース。

 

この世界だとピッピやプリン、ピカチュウ同様、普通に可愛げのあるポケモンなので、ペットとしてゲットするトレーナーも多いのだとかなんとか。このニャースもしゃがんで目線を合わせても逃げようとせず、抱え上げようとしても特に抵抗もなく素直にされるがまま。人慣れしてる様子から見て、誰かしらのポケモンなんだろうなとは思うが…

 

 

「…あ、ニャース!まったく、急に走り出したと思ったら…」

 

「にゃ~♪」

 

 

そう思っていたところに、タイミングよく女性が登場。ニャースは俺の腕をスルリと抜け出し、軽やかな身のこなしで女性の胸元へとサイドチェンジ。

 

ああ、ツヤモフが…おのれ、裏切ったなニャース!

 

 

「ごめんなさいね、この子が迷惑掛けたみたいで」

 

「いえ、お気になさらず。そのニャースって、お姉さんのポケモンですか?」

 

「いいえ、私はそこのポケモン保護施設でお世話のお手伝いしてるだけで、この子は私のポケモンじゃないの。そう言う君は…もしかして、トレーナーなのかな?」

 

「あ、はい。一応」

 

「そう…自分のポケモンは、ちゃんと面倒見てあげてね?この子みたいな可哀想なポケモンを増やさないためにも」

 

「もしかして…このニャースって捨てられた奴…?」

 

「ええ…理由は分からないけど、トレーナーに捨てられたみたいでね。1匹でいるところを保護されて、私たちのところに運び込まれたのよ」

 

 

そう言って、ニャースの頭を撫でるお姉さん。そうか、こいつポケモンハウスで保護されてる奴だったのか。

 

 

「へぇ…捨てられたっていう割に、人懐っこい奴ですね」

 

「この子はイジメられたりはしてなかったみたいだから、私たちに懐いてくれるのも早かったの。けど、警戒心が強くて中々心を開いてくれない子もたくさんいるわ」

 

 

捨てられた動物って、基本的に人を怖がったり嫌ったりする傾向が強いというのは分かる。情報源は元の世界で見た捨て犬捨て猫のテレビ番組。

 

 

「なるほど…僕の手持ちにも、ちょっと距離感を図るのが難しいヤツがいるんですよね…ほんのちょっとでもいいから、このニャースの人懐っこさを分けてもらいたいですよ」

 

 

サナギラスくん、君の事だぞ。

 

 

「んー…そうね、ここで会ったのも何かの縁。もし時間があるなら、ポケモンハウスの代表…フジさんって言うんだけど、お話聞いて行かない?ポケモンとの付き合い方で悩んでいるなら、何かアドバイスが聞けると思うわ」

 

 

…お?これはもしかして、俺の方に風が向いてきた?フジ老人と会う絶好の口実、GETだぜ?乗るしかない、このビッグウェーブに!

 

 

「是非!」

 

 

そうして、俺は無事自然な形でポケモンハウスへと足を踏み入れることに成功したのだった。

 

フジ老人…ゲームでは優しく穏やかで、その一方ではロケット団相手にも臆することなく身一つで立ちはだかるような強固な信念と言うか、強い自責の念を持っている人物という印象なのだが、さて、実物は如何に?

 

 

 

 

 

 

 

 

…後々になって考えてみたらこのシーン、怪しげな勧誘に引っ掛かる若者の構図に見えなくもない…?

 

 

 

 




間に合ったのでクリスマスに投稿だー!というワケで皆さん、メリークルシミマス!()
今回はヤマブキシティへと戻るための道中をカカットして、シオンタウンに到着。この街も色々と思い出のある方は多いのではないでしょーか。作者の思い出はと言うと、初プレイ時にマスターボールがどんなボールなのか全く理解しておらず、ハイパーボールが切れたからとここのゴースにぶん投げたことです。今でも覚えてます(笑)

とりあえず、年内はこれが最後の投稿になるかと思います。ですのでこの場を借りて、この話を楽しんでいただいている皆さんに感謝を。1年間ありがとうございました。また来年もよろしくお願いします。メリークリスマス、そしてよいお年を。

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