成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第5話:流される男の脳内日誌

 

 

 

~ポケモン世界4日目~

 

 

激闘を繰り広げた一日が終わり、夜が明ける。この日の朝も、これまで通りうっすらと残る肌寒さから始まった。天気もいつもの晴れ模様。雨の気配は感じられない。大変結構なことだ。こういう状況だからこそ余計にな。

 

この日がいつも通りでなかった点を挙げるとすれば、それは野宿した場所だろう。そう、ここ三日間ずっと世話になった仮拠点を離れ、昨日俺が堂々と「ここをキャンプ地とする!」と宣言したのは、激闘の痕跡が僅かに残る実のなる木…の近くの木の下だった。

 

何故場所を移したのかと言えば、何と言うか…まあ要するに情が湧いたんだよ、コクーンに。痛い目には遭わされたけど、それでも昨日一緒に戦い勝利を掴んだ戦友であることに変わりはない。それに、激闘を制したとは言えお互いに満身創痍…は言い過ぎかもしれんが、かなりのダメージを受けたのは確かだ。俺も左肩に『たいあたり』を受けてしまってな。

 

そう考えたら、そんな状態のアイツを置いてどこかへ行くのは見捨てるのと同じ。戦友を見捨てるような薄情なヤツにはなりたくない…などと思い始めたワケでして。そういうことで、とりあえずはアイツの傷が癒えるまで。あわよくば進化して新たな一歩を踏み出せるようになるまでは一緒に過ごそうと思い至った次第です、ハイ。

 

 

…え?脱出目指さなくていいのかだって?うん、それは一番気にしてる。でも、俺の良心が魂レベルで「そうしろ」と言ってる気がするから仕方ない、仕方がないことなんだ。決して筋肉痛がひどいとか、一人が寂しいなんてくだらない理由ではないのだ。ないったらない。それにたかだか脱出ぐらい何とかなるでしょ。

 

 

 

なお、三日掛けても脱出の糸口すら掴めないどころか、余計に迷子になる男がいる模様。誰だ、そんな無様な野郎は。

 

 

…ハイ、出来るだけ早く脱出出来るよう頑張りますデス、ハイ。主に俺の命のために。

 

 

 

ともかく、どんな状況でもどんな未来が待っていても、俺が朝一番にやることは決まっている。湧き水で顔を洗い喉を潤し、木の実で腹ごしらえをすることだ。人間、飲んで食わねばやっていけない。自然の摂理、生物の基本である。

 

…実はそろそろあの木の実は食べ飽きてたりするので、そろそろ誰かに助けて欲しかったり。素材そのままの味よりも、人の手が入った料理を食べたい。味覚的にも栄養的にも切実に。

 

 

 

さて、それが終わってから俺がどんな行動をとったかだ。今日こそは脱出を…と最初は考えていたのだが、上述のとおりこの計画は作成から半日ともたず没。新しい計画を考えざるを得なくなった。分かりやすくするために、今俺がするべきこと、目標を列挙してみた。

 

・迷子脱却

・森からの脱出

・コクーンの回復or進化を見届ける

・食料の確保

・帰宅

 

…こんなものだ。とは言ったものの、帰宅は現状望み薄。コクーンについては時間の経過を待つしかない。だから今は今後に備えて周囲の探索や食料確保ぐらいしかやれることがない。

 

仕方がないので痛みで引き攣る身体を無理矢理動かし、周辺の探索に向かった。途中、ポケモンも結構な頻度で見かけはしたが、幸い危なっかしいヤツに遭遇したり、戦闘になるようなこともなかった。昼頃までに二時間、午後から三時間ぐらいテキトーにほっつき歩き、初めて見るけど見たことのあるきのみを何種類か採取出来た。あとは食えるのかどうかわからないキノコがいくつか。採ったはいいけど、我ながらこんなもんどうすんのっていう。

 

 

コクーンの様子に変化はなく、一日中じっとして昨日の傷を癒しているように思えた。というか、何故か探索から帰ってきたときには無傷の状態に戻っていた。何故なのか不思議だったが、近くに抜け殻のようなものが落ちていたことで、コクーンの特性が『だっぴ』だったことを思い出し納得した。

 

ただ、ダメージが残ってないとも限らない。蛹だから食べるのかどうか分からなかったけど、昨日の技のこともあるので、物は試しとダメージ回復効果のあるオレンのみらしき青い木の実をあげてみた。が、全く口にすることはなかった。というか、口が無かった。ゲームではバリバリ食ってたはずなんだが、やはりリアルでは色々と仕様が違うらしい。或いはダメージはすでに回復していて食べる必要がなかったか。昨日の『どくばり』にしても、危険な状態だったから、俺が指示したから撃ってくれたのかもしれない。たぶん、『かたくなる』以外の技は本来よほどのことが無い限りは使わないのだと思う。

 

とりあえず、昨日のダメージが原因で命を落とすようなことはなかったので一安心だ。願わくば、このまま無事に進化まで行って欲しいと思う。

 

 

 

ポケモン世界4日目は、何事もなく平穏無事に暮れていった。ホント、こっちに来てから初めて平和に一日が終わった気がする。平和っていいネ。

 

 

 

~4日目の成果~

 

青い木の実(オレンのみ)

赤い木の実(クラボのみ)

桃色の木の実(モモンのみ)

緑色の木の実(チーゴのみ)

ちいさなキノコ(食用?)

 

※()内はあくまで推測である。似てるってだけで本当に合ってるかは不明。

 

 

 

 

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~ポケモン世界5日目~

 

 

 今日も天気は晴れ。昨日よりかは若干雲が多いようには感じたが、やはり雨の気配はなかった。行動するのに何も問題はない。

 

本日の予定だが、近場の地理・状況は昨日の探索で概ね把握出来たので、今日はもう少し遠くまで足を延ばしてみることにした。脱出に繋がるカギを見つけられたらと思い、朝の支度が終わり次第意気揚々と出掛けて行った結果、初日に俺が目印にしていたと思われる川の滝の下側まで出る道を見つけることが出来た。この上なく大きな成果だ。初日の目論見通り、この川を下っていけばいずれ森を抜けられるはず。脱出ルートの確保に成功し、まずは一歩前進だ。

 

 

探索を終えて戻ると、コクーンがポッポと食うか食われるかの戦いをしていた。すぐにコクーンに加勢してポッポを追い払いにかかる。一昨日進化系のピジョンと一戦やり合ったんだ、今更ポッポぐらい恐れるものか。

 

ポッポは向かってくる俺の姿を視認すると驚いたのか、ピジョンと同じく上空へ飛んで木から離れたが、向かってくることはなく、そのままどこかへ飛び去って行った。コクーンはやはり「かたくなる」の効果でカチンカチンだったが、早期の段階で対応出来たからかダメージはなさそうだった。或いは、進化後のポケモンと進化前ポケモンの力の差なのかもしれない。もしかして、かたくなるだけで守りきることが出来た?

 

 

その後は湧き水で服の洗濯を行い、乾燥するのを待ちながら、再度の襲撃を警戒して木の周辺で過ごして一日が終わった。

 

それと、食事の時に昨日採ってきた木の実たちを食べ比べてみたが…うん、食べるのなら桃色の木の実(モモンのみ)が一番だわ。次点で皮が固いけど青い木の実(オレンのみ)。他のは辛い・苦い・渋い・酸っぱいネで正直食べられたもんじゃなかった。

 

 

 

 

~5日目の成果~

 

☑森からの脱出(ルート確保)

ポッポ撃退

 

 

 

 

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~ポケモン世界6日目~

 

 

 この日は六日目にして初めて天気が荒れた。空からは雨粒が際限無く零れ落ち、葉を、大地を叩いて音を立てる。冷たい風が吹き、空気が冷え込み、霧で視界は塞がれる。一日を通して肌寒さを感じる日となった。

 

流石にこの天気であちらこちらと動く気にはとてもじゃないがなれず、結果一日中コクーンの様子を観察しながら過ごすことに。

 

葉の間を縫うようにして降ってくる雨粒も、吹き付ける冷たい風も、コクーンにとっては意味のないものであるようだ。ただじっとその時が来るのを待っているだけなのだから、当然と言えば当然だが。

 

一方の俺と言えば、すぐ近くの雨に当たらない僅かなスペースに、体を丸めて縮こまっていた。ただでさえ風で体を冷やしてるのに、この現状で雨に打たれて風邪をひきでもしたら、バッドエンドが目に見える。

 

 

降りしきる雨の中、まんじりともせず霧で霞む森の先をじっと見つめ続ける一人と一匹。他の木にも雨を避けて、キャタピーやビードルといったポケモンたちが雨宿りしている姿が時折見られる。

 

こういう天気だと、自然と気分も滅入ってしまう。一日目以来、これまでは考える余裕がなかった不安がどっと溢れだし、心が押し潰されそうになる。

 

そんな時にコクーンを見ると思うんだ。

 

『コイツは自由に動くことすら出来ないのに、こんなにも一人で頑張ってるじゃないか。動けることの何と素晴らしいことか。これぐらいで諦めてどうするんだよ。やれば出来るんだから、もっと、熱くなれよおおぉぉぉ!!!』

 

…と。おかげで幾分か安心することが出来る。ゲームではアッサリと狩られることが多いコクーンだが、今は実に心強い仲間(?)だ。大丈夫、俺は一人じゃないんだ。まだ慌てるような時間じゃない。

 

 

…あと、熱くするなら出来れば気温の方を熱くしてほしい。

 

 

 

 

 

結局、この雨は一日中降り続き、何もすることなく六日目は終わった。

 

 

 

~6日目の成果~

 

なし

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

~ポケモン世界7日目~

 

 

新しい朝が来た。希望の朝…とはとても言えない天気の中、この日もまた一日が始まる。こっちに来て早七日…言い換えれば一週間。それだけの日数が過ぎたというのに、俺の立場は未だに迷子だ。

 

まあ、コクーンの進化を見届けるつもりなのでそれは仕方ない。が…

 

 

「ザー…」

 

 

流石にこの天気は辛い。二日続けての雨模様だ。雨に濡れると服が肌に張り付いて嫌な感じだし、脱いだら寒いし。使える布がハンカチ一枚では、どうにもなぁ。

 

今日も行動不能ということで、コクーンの観察を行う。とは言え、今日もコイツはじっとしているだけ。雨音とともに、変わり映えのない時間がゆったりと流れていく。雨のおかげで外敵もあまり活動していないのか、いたって平和である。

 

それでも、3日目からここまでコイツを見てきたが、当初と比べて体が大きくなっているような印象を受ける。案外進化の日は近いのかもしれない。

 

…その時がくれば、コイツともお別れだな。思えば出会ってから未だ一週間すら経っていないが、コイツとは濃密な時間を共有した付き合いだったと思う。そう考えると感慨深くもあり寂しくもある、何とも言えない感情に心が埋め尽くされる。

 

 

 

そこまで考えたところで、ふと思い至る。俺はこの森を脱出した後、何をしたいのか…と。無論、最上の結果は俺の家に帰れることに変わりはない。でも、それが出来なかったら?ここが完全にポケモン世界であるとするなら、帰れないとするなら、もしここから脱出して助かった後、独りぼっちになった俺は何をすればいい?

 

ゲームのようにチャンピオン、ポケモンマスターを目指す?それともトップコーディネイター?はたまた知識を活かしてブリーダー?或いはポケモン博士?ポケスロンとかマンタインサーフとか、何らかの競技のアスリートもありか?

 

…やばい、夢とワクワクが止まらない。今の俺は幼児退行もあって小学生ぐらいの年齢だし、ここからの選択次第で何にでもなれる可能性がある。ポケモンにハマったことのある人なら、誰しもが描いたことのある子供の頃の夢を叶えるこれ以上ないチャンスを、俺は今この手に握っている。アレ?そう考えると俺ってスッゴいラッキーボーイだったり…?

 

 

…家族や友人たちには申し訳ないけど、もうしばらくこっちにいてもいい…かな?

 

 

 

この世界に大きな希望を見出してしまった俺は、ポケモンマスター(またの名をポケモン廃人)として、トップコーディネイターとして、ブリーダーとしてetc…ビッグドリームを掴み取った姿を、様々なシチュエーションで思い描いてはにやける作業に没頭した。傍から見ると完全に気持ち悪い不審者…でもないか、子供だし。

 

これまでとは一転した光ある未来に思いを馳せ、雨ですらも消火不能な期待と興奮に身を焦がしたまま更けてゆくポケモン世界七日目の夜であった。

 

 

 

 

 

 

…あ、仕事一週間も無断欠勤してるけど大丈夫…じゃ、ないよなぁ…

 

 

 

 

 

~7日目の成果~

 

無限の可能性()

 

 

 

 




 

現実社会<ポケモン世界

さあ、彼は果たして思い描くような未来を手に入れることが出来るのか。全ては今後の展開次第(なお)

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