成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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閑話:底なし沼

 

 

 

 マサヒデがアゲトビレッジでシルバーやポケモンたちとのんびりワチャワチャしていた頃、少し離れた場所にあるビルの一室にて、密かに会合が開かれていた。

 

参加者は我らが首領・サカキ以下、TCP社(ロケット団)側の人間が数名。そして、オーレ地方を拠点とする秘密結社シャドーから、ジャキラ他数名。

 

 

「…まず、先日のトラブルに対応していただいた件についてお礼を。急なことでしたが、助かりました」

「大したことではありません。むしろ、こちらが手配した車両で大変な御迷惑をおかけして申し訳ない。貴重な休暇を奪う形になってしまい、心苦しく思っています」

「いえ、お気になさらず。オーレ地方の環境では、致し方ない部分も大きいでしょう」

 

 

会合はサカキが乗っていた車両のトラブル対応への礼から始まり、比較的和やかな雰囲気の中で進んだ。

 

ロケット団とシャドー…別々の地方を拠点とするこの2つの秘密結社が正式に手を結ぶことになったのは、割と最近になってからのことになる。しかし、実質的な付き合いそのものはかなり以前から存在していた。

 

 

 

 

 

 

 オーレ地方を本拠地とするシャドーは、真の支配者が有する潤沢な資金を武器にダークポケモンを研究・生産し、その圧倒的戦闘能力で以て世界を牛耳ろうと画策する秘密結社である。これはマサヒデの記憶の中に存在するシャドーと何ら変わりはない。

 

ところが、この世界における彼らは、長らくダークポケモンの素体となるポケモンの安定的な確保に頭を悩ませていた。

 

野生のポケモンが生きていくことが難しいオーレ地方において、元々古くからポケモンの入手を輸入等に頼って来たオーレ地方の歴史もあり、『ポケモンは捕まえるものではなく、買うものである』…それがオーレ地方に生きる多くの人々にとっての常識であった。

 

研究・生産のため、膨大な数のポケモンを必要としたシャドーだが、過酷な環境そのものが障壁となり、自前でそれだけの数を揃えることは不可能。スナッチ団と言うポケモン強奪専門の実質的な下部組織を用意こそしたが、それでも得られるポケモンの数は必要量には到底届かない。結果、シャドーも早々に必要量を他地域より輸入する方向へと舵を切り、最初から自前で全て揃えるということを考慮の(らち)外とした。

 

しかし、ポケモンの取引に関しては国際的に厳格な取り決めがあり、実際に運び入れる段階でも当局の厳しい監査が入る。彼らのやっていることは当然違法行為以外の何物でもなく、もしそれが明るみに出れば、その時点で全てが水泡と帰してしまう。規制を掻い潜りながらの輸入だけでは、どうしても小規模な取引に留まってしまい、到底需要を満たすだけの数には届かない。

 

そこで、各地の密猟者などに依頼をするなど、裏ルートも駆使してポケモンを搔き集めるなどもしていたが、それでも中々安定した供給には結びつかず、そもそもがかなり秘密裏に活動している組織であることも手伝って、必要量の確保は極めて困難な状況にあった。偽装工作も行ってはいたが、不用心かつ無暗にポケモンを集めれば、いくら治安が悪いオーレ地方と言えど、当局に怪しまれ目を付けられる可能性は高い。

 

秘密裏に計画を進める関係上、彼らは安定的かつ密かにポケモンを仕入れることが出来る…そんな優れた取引先を探し求めていた。

 

そんな中で、彼らはとある業者と出会う。当初は数ある裏ルートの1つに過ぎなかったが、要求した数・種類のポケモンをほぼ期日通りに用意出来る上、偽装・隠蔽も問題なし。徐々に信用のおける取引先となるのに、然程時間はかからなかった。

 

 

 

 一方のロケット団側。こちらはTCP社という表看板の裏で様々な悪事に手を染めていたが、主な稼ぎは違法なポケモンの密貿易によるもの。そしてこの時期、彼らを悩ませていたのは在庫となるポケモンたちの処分方法だった。

 

基本的にロケット団はその数の暴力で以て、違法か合法か、種類等を問わず各地で短期的に乱獲、強奪等の犯罪行為を働き、そうして手に入れたポケモンを裏ルートで捌くという方法を取っていた。強力であったり希少であるなど、付加価値が高いポケモンであれば、市場に卸した時点であっという間に買い手が見つかるのだが、同時に中々買い手の現れないポケモンと言うのも珍しくなく、積み上がった売れ残りのポケモンたちは相当な数に上った。

 

こういうポケモンたちは団員へ戦力として支給されることもあるが、表ルートでは流せない以上捌き切れないことも増え、結果不良在庫化。その維持費が表看板のTCP社の財政にそこそこの負担をかけるまでになってしまっており、状況改善のため販路の拡大や新たな販売ルートの開拓に躍起になっていた。

 

そんな中で、種類を問わず大量のポケモンを極秘裏に仕入れたいというバイヤーが出現。ロケット団にとっては渡りに船であり、幾度かの交渉を経て取引はすぐに成立。このバイヤーはその後も定期的にまとまった数のポケモンを買い求めたため、いつしか取引・付き合いは長期的なものになっていた。

 

 

 

 

 言わずもがな、ロケット団とシャドー、2つの秘密結社が出会った経緯である。多くのポケモンを確保したいシャドー側と、在庫を処理したいロケット団側双方の利害関係の偶然の一致が、海を越えて両者を強く結び付けた。今ではシャドーの計画に必要なポケモンの約7割が、ロケット団の手によってオーレ地方へと密輸されるまでになっている。

 

そして、取引が安定してくると次に考えるのは、取引の拡大・条件の改善・コストカット。潤沢に資金があるとは言え、無駄は省き、締めるところは締めた方が良い。シャドーは大量輸入による出費を抑えるべく、ロケット団側に購入代金の減額を申し入れた。

 

無論、表沙汰に出来ない取引である以上、金は最大の信用の証そのものであり、ただ何もせず「値下げしろ」などと言うはずもない。シャドーは代わりに自分たちの持つ技術や研究成果で購入代金を相殺しようと、一部の技術・研究成果の提供・指導による代金の補填を提案した。

 

この提案に、結果としてロケット団は乗った。自分たちでも研究・開発は行っているが、シャドーが有する能力は高く、手を結ぶメリットが多いと判断した結果だ。今回の夏季休暇旅行の裏には、その提携の最終調整という側面もあったりする。と言うよりもそちらの方が主目的で、マサヒデのストライクがハッサムに進化することになったアレもその一環だった。

 

そして、たまたま『シャドーが実演の対象としてハッサムを選択』し、たまたま『マサヒデがストライクを所持』しており、たまたま『予備のメタルコート』があったことで、偶然に偶然が重なった結果として、実演的な意味合いで生贄にされてしまった…と言うのが不正進化の裏側だったりした。

 

 

「…それでは、この通りの条件でよろしいでしょうか?」

 

「それで構いません」

 

「こちらもです」

 

「それでは、お互いに署名をお願い致します」

 

「…では、今後ともよろしくお願いする」

 

「こちらこそ、長く良き関係でありたいものですな」

 

 

これまでに事前の交渉で条件面の調整はほぼ完了しており、最終確認・署名を経て、ここに両者は正式に手を結ぶこととなった。

 

 

「そういえば、昨日のパイラコロシアムはお疲れ様でした。楽しんでいただけましたかな?」

 

「興味深く観戦させていただきました。うちの者たちは負けてしまいましたが、息子の方も楽しんでおりました。お心遣い、感謝申し上げます」

 

「いえ、折角の旅行を台無しにしてしまったので、埋め合わせになったのであれば幸いです。オーレのバトルは如何でしたかな?」

 

「せっかくお誘いいただいたのでうちから何名か出してみましたが、難しいですな。2対2になっただけでああも勝手が違うとは」

 

 

形式的な契約の締結が終われば、話題は昨日のパイラコロシアムに移った。トラブルのため立ち寄った街ではあるが、パイラタウンはシャドーの重要拠点の1つ。わざわざカントー地方から海を越えてやってきた客を「泊まるだけで帰すのも如何なものか?」ということで、自分たちの実力を示しておく良い機会として活用しようと目論んだ。その結果が、パイラコロシアムへのロケット団参戦だった。

 

 

「ははは、まあシングルバトルとはほぼ別物ですからな。それに、ミラーボも身なりはふざけているように思われるかもしれませんが、屈指の実力者です。恥ずかしくないバトルをお見せ出来たとは思います」

 

「確かに最初見た時は驚きはしましたが、仰る通り強かった。うちの腕自慢たちがあそこまで手もなく捻られるとは、良い戦力をお持ちだ」

 

「自分たちの戦場ですので、そう易々と負けられても困るというものです」

 

 

結果はご存じの通り、ロケット団側が送り込んだトレーナーは、シャドーからの刺客でパイラタウン支配の責任者でもあるミラーボの前に敗れ去っており、その奇抜な立ち居振る舞いは観戦した多くの者の記憶に強烈に焼き付いている。

 

 

「それに、良い戦力という意味ではそちらもかなりのものでしょう。敗れたとは言え、準優勝の少年もMr.サカキが指導するトレーナーだとか。研究所でのハッサムの状態から、年の割にかなり出来るとは見ましたが、まさかミラーボを相手に善戦するほどとは思っておりませんでしたので、聞いた時はいささか驚きました」

 

 

そして、そのミラーボ相手に最も食い下がったマサヒデが話の俎上に上がるのも、当然と言えば当然であった。

 

 

「経営者としてもプレイヤーとしても、そして指導者としても一流。実力者が多いと言われるカントー地方でジムリーダーを務めるだけのことはある…と言ったところでしょうか」

 

「そう言っていただけるとは、恐縮ですな」

 

「部下への指導方法など、コツがあれば是非教えていただきたいものです」

 

「あなた方に私が教えられることなどほとんどないでしょう。むしろ、部下の統率という点においては私の方が教えを請いたいぐらいですな」

 

 

自身の子飼いとも言えるトレーナーたちが、シャドーでも有数の実力者に称賛される。悪い気はしなかったが、社交辞令であることを加味すればあまり素直には喜べない。ミラーボの前に揃って敗北を喫しているという事実もある。それも善戦とは言うものの、実際はほぼ掌の上で転がされ続けたような完敗だらけ。

 

互いに互いをヨイショし合う御世辞の応酬の中、サカキ本人の心中は中々に複雑であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 会談が終わり、アゲトビレッジへと戻る途中の車内。サカキはシャドー側から土産代わりにと提供を受けた、シャドーの研究成果の一端を記した資料に目を通していた。

 

 

『ポケモンは、その種類毎に特殊な体質を有しており、その体質に応じて日常生活、時にはバトルに際し様々な効果を発揮させている。公的研究機関は、これを【特性】と仮称しており、我々もこれに倣うものとする…』

 

 

内容はポケモンの生態に関する研究報告であり、まだ一般に向けては公表されていないとある公的研究機関の研究を引用する形で、シャドー独自の研究の成果が示されていた。

 

 

『これまでの調査結果から、特性を持たないポケモンは存在しないと考えられ、ポケモンの種族毎に1つ、もしくは2つの特性を持つ。2つの特性が存在する種族は、個体毎にそのどちらかを有していることが分かっている。特性の持つ効果は実に様々で、現在判明しているだけでも…1.特定の技の威力を底上げするもの、2.攻撃してきた相手に対し、何らかの効果(主に状態異常)を与えるもの、3.特定の効果や状態異常、特定のタイプの技を無効化するもの、4.特定の天候下において様々な効果を発揮するもの…等がある。個々の特性の詳細は後に譲るが、現在判明している特性の数は、全ての特性の一部でしかない可能性が高く、今後の研究の進展が待たれるところである…』

 

 

「…なるほど、マサヒデがやっていたのはこういうことか」

 

 

その論文を読み進める中で、サカキは決勝戦においてマサヒデとミラーボが何をやっていたのかを遅ればせながら理解した。一般には天候を操ることで、雨・晴れだと特定のタイプの技の威力が増減すること、砂嵐では特定のタイプ以外が少しずつダメージを受けることが分かっている。決勝戦は自らの火力を上げ、相手の火力を下げることを狙っている…漠然とそう考えていた。

 

が、それだと決勝はともかく、それまでのところでマサヒデがキュウコンと同時に繰り出していたラフレシア。これが問題だった。

 

一見、キュウコンの弱点を補う選出のようには見える。しかし、この戦法は下手すれば天候を相手に利用され、成す術なく倒される危険も孕んでいるような選択だ。マサヒデという少年は時に想定の埒外から奇策を打ってくることはあるが、基本的には博打的な一手よりも安定択を選択する傾向にあるとサカキは判断している。果たして頭からそのような戦法を選ぶものだろうかと、疑問であった。

 

しかし、実際のところはキュウコンが天候を変え、驚異的な素早さのラフレシアが素早くキュウコンの脅威を排除、もしくは眠らせ、キュウコンの大火力の炎技で焼き払う…この流れで、決勝までの試合運びは実に安定的であった。まさしく、この論文に書かれている通りであり、それこそサカキ自身が思い描くマサヒデという少年像にピタリと合致した。

 

事実、マサヒデのラフレシアも、ミラーボの使っていたルンパッパというポケモンも、それぞれ晴れ・雨の天候下では異様な素早さを発揮している。天候の上書きは、この特性の活性化を企図したものであった可能性は高い。

 

つまり、ミラーボは別としても、マサヒデは天候操作によってポケモンが発揮する能力があることを、これ以前に独自に知り得ていた…と言うことになる。

 

 

「…まったく、奴には顔を合わせる度に驚かされてばかりだな」

 

 

その可能性に行き着いたサカキは、そう独り言ちた。

 

 

 

 思い返せば、サカキにはかの少年について不可思議な点ばかりが思い浮かぶ。そもそも、その出会いからして異常ではあった。サカキが統括するトキワシティ近郊に広がるトキワの森は、木々が鬱蒼と茂り、道はグネグネ折れ曲がり、方角を見失って迷う者が後を絶たないカントー地方有数の難所の1つ。ポケモンの生息数も多く、ポケモンを持たない者の立ち入りは厳禁…それがトキワシティでの常識だった。

 

そこをマサヒデは、手懐けていたとは言え捕まえてもいないスピアー1体を連れて森の中から現れ、偶然定期の巡回に当たっていたサカキに発見され保護された。

 

何故ポケモンも持たず森に入ったのか、そもそもどこから森に入ったのかは不明。それどころか、出身地や生年月日もイマイチ要領を得ない。分かったことと言えば、ポケモンについて異常なまでの知識を持っているということ。そして、その事実は何よりも大きかった。

 

最初は数種類の木の実を使い分け、スピアーに簡易な治療を施していた事から始まり、通わせたトレーナーズスクールでのテストは満点が当然。ポケモンについての基礎的な知識は完璧。トレーナーとして鍛え始めれば、1つ1つの技に関する知識はもちろん、様々な状況における技の取捨選択も非常にスムーズ。その知識量は子供はおろかそこらの大人よりもはるかに多い。後々になって研究者でさえも知り得ない知識を平然と活用していたことが分かったパターンもあった。

 

何度か直々に手合わせして実力の確認をした時にも、一見好機を逃しているとしか思えない悠長な手や、理解に苦しむような手を打って来ることが稀にだがあった。しかし、それは結果として何らかの意味、意義がある一手である場合がほとんど。

 

どこで知ったか聞けば「以前勉強した」とは答えるが、どこで習ったかは本だのテレビだの大雑把なことしか答えず詳細は不明。そして、習ったことを当然のように使うことは、確かな経験と知識への自信がなければ中々出来るものではない。マサヒデの中では、その知識が正しいという確信…と言うよりも、「それが常識であり当然」という姿勢のようにも見える。サカキがこれまで見て来た子供とは、明らかに異質な存在だった。

 

 

「この資料は大いに検証する価値がある。予定通りに後で研究部門の方に回しておくように」

 

「はっ、かしこまりました」

 

 

それにしても、ポケモンとは何と奥深く、謎に満ちた存在なのだろうか。全世界において研究は進み、毎年のように新たな発見がなされている。だと言うのに、一体どれほどの謎がまだ隠れているのか、その全てが解き明かされる日は来るのか、皆目見当がつかない。そしてあの少年もまた、ポケモンと同じくらい謎に満ちた存在なのかもしれない。

 

親元に送り届けることが出来ない(実際無理)と判断したサカキがマサヒデを保護し、その膝元で英才教育を施し始めて3年ほど。春先に一人旅に送り出してから半年ほどが経つ。その途中途中で顔を見せる度、その力量は11歳の子供としては信じ難い恐るべきスピードでメキメキと上達している。

 

やはり出所不明の知識…それが、あの驚異的な成長力の源泉なのだろう。そうサカキは確信している。

 

 

「さながら、知識の底無し沼だ。下には一体何が眠っているのやら」

 

「…?ボス、どうかなされましたか?」

 

「…いや、何でもない。独り言だ」

 

 

サカキは静かに瞑目した。

 

 

 




 オーレ地方夏休み編の舞台裏兼、現時点でのサカキのマサヒデ評の回。取り敢えず、これにて夏休みINオーレ地方編は終了。次回からカントー地方ジム攻略の旅に戻ることになります。


…あ、でもセキチクシティ辺りの話を書き直したかったり。

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